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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1324260
審判番号 不服2016-4756  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-01 
確定日 2017-02-14 
事件の表示 特願2011-265402「導電パターン形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日出願公開、特開2012-138349、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月5日(優先権主張、平成22年12月6日)の出願であって、平成27年12月22日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成28年1月5日)、これに対して平成28年4月1日に審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成28年4月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
(1)請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】
基板上への導電パターン形成方法であって、
(i)金属、合金、及び金属化合物の1種又は2種以上からなる、一次粒子の平均粒子径が1?150nmの金属微粒子(P)が、
アミド基を有する有機溶媒(S1)10?80体積%、
常圧における沸点が100℃を超え、かつ分子中に2以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールからなる有機溶媒(S2)5?60体積%、
脂肪族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂肪族第三アミン、脂肪族不飽和アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、及びアルカノールアミンの中から選択される1種又は2種以上のアミン系有機溶媒(S3)0.1?30体積%、
並びに、常圧における沸点が60?120℃であり、かつ有機溶媒(S2)の沸点(沸点は常圧における沸点をいう。以下同じ)よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%を含む混合有機溶媒(S)、
に分散されている導電性インクからなる液滴を、
60℃以上でかつ有機溶媒(S2)の沸点(T1℃)以下に加熱された基板の表面に吐出してパターンを形成する工程(工程1)と、
(ii)前記工程1で液滴によるパターンが形成された基板を、非酸化性ガス雰囲気中で工程1の基板加熱温度より高い温度で加熱して金属微粒子(P)を焼結する工程(工程2)
を含むことを特徴とする、導電パターン形成方法。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2)請求項5について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項5を、
「【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の導電パターン形成方法であって、混合有機溶媒(S)中の有機溶媒(S2)が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2,3-ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、トレオース、エリトルロース、エリトロース、リブロース、キシルロース、の中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、導電パターン形成方法。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる。

(3)請求項6について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項6を、
「【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の導電パターン形成方法であって、混合有機溶媒(S)中の有機溶媒(S3)が、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、t-プロピルアミン、t-ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、モノ-n-オクチルアミン、モノ-2-エチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリ-2-エチルヘキシルアミン、トリイソブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリイソオクチルアミン、トリイソノニルアミン、トリフェニルアミン、ジメチルココナットアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、メタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ブタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-n-ブチルエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、及び2-(2-アミノエトキシ)エタノールの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、導電パターン形成方法。」
とする補正(以下、「補正事項3」という。)を含んでいる。

(4)請求項9について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項9を、
「【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の導電パターン形成方法であって、
有機溶媒(S)が、前記アミド基を有する有機溶媒(S1)10?80体積%、多価アルコールからなる有機溶媒(S2)5?60体積%、アミン系有機溶媒(S3)0.1?30体積%、及び、有機溶媒(S2)の沸点よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%、に更にアルカリ性水溶液(S5)0.1?15体積%、
を含むことを特徴とする、導電パターン形成方法。」
とする補正(以下、「補正事項4」という。)を含んでいる。

2.補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「有機物」(4箇所)、及び、「沸点または昇華点」(6箇所)について、主に出願当初明細書の請求項1とその関連記載等に基づいて、それぞれ、「有機溶媒」、及び、「沸点」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 引用例の記載事項・引用発明について
原査定の拒絶の理由で引用された、特開2009-105040号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(ア) 段落【0021】
「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態に係る導電材の形成方法について説明する。
本発明の導電材の形成方法は、一次粒子の平均粒径が1?150nmの銅微粒子(P)を、
(i)アミド系化合物を含む有機溶媒(A)5?90体積%と、常圧における沸点が20?100℃である低沸点の有機溶媒(B)5?45体積%と、常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)5?90体積%とを含む分散媒(S1)、
(ii)アミド系化合物を含む有機溶媒(A)5?95体積%と、常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)5?95体積%とを含む分散媒(S2)、
(iii)常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)を含む分散媒(S3)、
(iv)アミド系化合物を含む有機溶媒(A)24?64体積%と、常圧における沸点が20?100℃である低沸点の有機溶媒(B)5?39体積%と、常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)30?70体積%と、アミン系化合物を含む有機溶媒(E)1?40体積%とを含む分散媒(S4)、
(v)アミド系化合物を含む有機溶媒(A)30?94体積%と、常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)30?94体積%,アミン系化合物を含む有機溶媒(E)1?40 体積%と、を含む分散媒(S5)及び、
(vi)常圧における沸点が100℃を超え、且つアルコール及び/又は多価アルコールからなる有機溶媒(C)60?99体積%と、アミン系化合物を含む有機溶媒(E)1?40 体積%と、含む分散媒(S6)
から選択される分散媒(S)に分散させて銅微粒子分散液を調整する工程と、
前記銅微粒子分散液を、吐出、塗布及び転写のいずれかの方法によって被塗布体上に付与して、所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を形成する工程と、
前記所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を焼成して焼結導電層を形成する工程と
を有する。」

(イ) 段落【0027】-【0033】
「【0027】
-有機溶媒(B)-
有機溶媒(B)は、常圧における沸点が20?100℃である低沸点の有機溶媒である。常圧における沸点が20℃未満であると、有機溶媒(B)を含む微粒子分散液を常温で保存した際、容易に有機溶媒(B)の成分が揮発し、分散液中の溶媒組成が変化してしまうおそれがある。また常圧における沸点が100℃以下の場合に、該溶媒添加による溶媒分子間の相互引力を低下させ、微粒子の分散性を更に向上させる効果が有効に発揮されることが期待できる。
【0028】
また、有機溶媒(B)は、分散媒中で溶媒分子間の相互作用を低下させ、分散粒子の溶媒に対する親和性を向上する作用を有していると考えられる。有機溶媒(B)の中でも特にエーテル系化合物が、その溶媒分子間の相互作用を低減する効果が大きいことから好ましい。
【0029】
また、有機溶媒(B)を使用すると、超音波等の照射により微粒子分散液を調製する際に撹拌時間を著しく短縮する、例えば1/2程度に短縮することが可能である。また、分散媒中に有機溶媒(B)が存在していると、一端微粒子が凝集状態になってもより容易に再分散させることが可能である。
【0030】
有機溶媒(B)としては、一般式R1-O-R2(R1、R2は、それぞれ独立にアルキル基で、炭素原子数は1?4である。)で表されるエーテル系化合物(B1)、一般式R3-OH(R3は、アルキル基で、炭素原子数は1?4である。)で表されるアルコール(B2)、一般式R4-C(=O)-R5(R4、R5は、それぞれ独立にアルキル基で、炭素原子数は1?2である。)で表されるケトン系化合物(B3)が例示できる。
以下に上記有機溶媒(B)を例示するが、化合物名の後のカッコ内の数字は常圧における沸点を示す。
【0031】
前記エーテル系化合物(B1)としては、ジエチルエーテル(35℃)、メチルプロピルエーテル(31℃)、ジプロピルエーテル(89℃)、ジイソプロピルエーテル(68℃)、メチル-t-ブチルエーテル(55.3℃)、t-アミルメチルエーテル(85℃)、ジビニルエーテル(28.5℃)、エチルビニルエーテル(36℃)、アリルエーテル(94℃)等が例示出来る。
【0032】
前記アルコール(B2)としては、メタノール(64.7℃)、エタノール(78.0℃)、1-プロパノール(97.15℃)、2-プロパノール(82.4℃)、2-ブタノール(100℃)、2-メチル2-プロパノール(83℃)等が例示できる。
【0033】
前記ケトン系化合物(B3)としては、アセトン(56.5℃)、メチルエチルケトン(79.5℃)、ジエチルケトン(100℃)等が例示できる。」

(ウ) 段落【0045】
「【0045】
-分散媒(S4)-
分散媒(S4)は、上記有機溶媒(A)24?64体積%と、上記有機溶媒(B)5?39体積%と、上記有機溶媒(C)30?70体積%及び上記有機溶媒(E)1?40体積%とを含む混合有機溶媒である。」


(エ) 段落【0058】-【0059】
「【0058】
分散媒(S1)?(S6)は、有機溶媒(C)を含むことで、加熱分解時に還元性物質を発生し、銅微粒子の酸化被膜を還元することができるので、焼成工程において、還元性ガス雰囲気を必要としないという効果を奏する。そして、有機溶媒(C)を含む銅微粒子分散液を、被塗布体に塗布、焼成した際には、有機溶媒(C)の有する高い分散能及び還元促進能により、焼結体の均一性及び導電性を向上させることができる。
また、有機溶媒(A)と有機溶媒(B)とを含有する混合有機溶媒は、撹拌により優れた分散性を有するが、一般に有機溶媒において時間の経過により微粒子同士が接合する傾向にある。有機溶媒(C)を分散媒中に存在させると、このような接合をより効果的に抑制して、銅微粒子の分散性の向上及び、分散液の長期安定性化を図ることが可能になる。
【0059】
本発明で使用する分散媒(S1)及び(S2)においては、実用的には、有機溶媒(C)濃度を20?90体積%程度とするのがより好ましい。分散媒(S4)、(S5)においては、有機溶媒(A)及び有機溶媒(E)が共存し、かつ、得られる焼成膜の緻密性および導電性をより向上する作用を発揮するには、有機溶媒(C)を30?60体積%以上配合することが必要である。また、分散媒(S6)においては、有機溶媒(E)との共存により、実用的には、有機溶媒(C)濃度を70?90体積%程度とするのがより好ましい。」

(オ) 段落【0078】-【0079】
「【0078】
(焼成工程)
次に、銅微粒子分散液の液膜を乾燥及び焼成して銅微粒子の焼結配線層を形成する。
このとき、銅微粒子は、表面に高分子分散剤(D)が存在しないか、又は、ごく少量の高分子分散剤(D)で被覆された状態であるので、従来の高分子化合物層で厚く被覆された銅微粒子のように銅微粒子同士の焼結が阻害されることがなく、190?300℃程度の低温焼成が可能となる。
【0079】
具体的には、乾燥条件は、使用する溶媒にもよるが例えば100?200℃で15?30分程度であり、焼成条件は、塗布厚みにもよるが例えば190?250℃で20?40分間程度、好ましくは190?220℃で20?40分間程度である。
乾燥及び焼成は、水素ガス等の還元ガスを使用することなく、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。」

(カ) 段落【0089】
「【0089】
(基板)
次に、本発明の導電材の形成方法により形成された導電材を、配線として有する基板について説明する。
本発明の基板としては、一方の面に半導体素子が搭載され他方の面に実装基板が接合されるインターポーザ、プリント配線板、電子部品を内蔵する部品内蔵基板及び電子部品と他の電子部品とが実装されてモジュールを形成するモジュール基板等が挙げられる。」

(キ) 段落【0150】(【表2】)
段落【0150】の【表2】には、「実施例番号1-14」として、「分散媒(S4)」の「溶媒混合比」が、「N-メチルアセトアミド28体積%、ジエチルエーテル10体積%、エチレングリコール60体積%、トリエチルアミン2体積%」、であるものを用いることが記載されていると認められる。

これらの記載から、引用例には、特に上記(キ)の「実施例1-14」に関連して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「一次粒子の平均粒径が1?150nmの銅微粒子(P)を、
アミド系化合物を含む有機溶媒(A)としての、N-メチルアセトアミド28体積%と、
常圧における沸点が35℃である低沸点の有機溶媒(B)としての、ジエチルエーテル10体積%と、
常圧における沸点が100℃を超え、且つ多価アルコールからなる有機溶媒(C)としての、エチレングリコール60体積%と、
アミン系化合物を含む有機溶媒(E)としての、トリエチルアミン2体積%とを含む分散媒(S4)に分散させて銅微粒子分散液を調整する工程と、
前記銅微粒子分散液を、吐出によって被塗布体上に付与して、所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を形成する工程と、
前記所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を焼成して焼結導電層を形成する工程と
を有する、導電材の形成方法であって、
焼成は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができ、
形成された導電材を、配線として有する基板が生成される、
導電材の形成方法。」

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。

(ア) 引用発明の「形成された導電材を、配線として有する基板が生成される」、「導電材の形成方法」は、補正発明1の「基板上への導電パターン形成方法」に相当する。

(イ) 引用発明の「一次粒子の平均粒径が1?150nmの銅微粒子(P)」は、補正発明1の「金属、合金、及び金属化合物の1種又は2種以上からなる、一次粒子の平均粒子径が1?150nmの金属微粒子(P)」に相当する。

(ウ) 引用発明の「アミド系化合物を含む有機溶媒(A)としての、N-メチルアセトアミド28体積%」は、補正発明1の「アミド基を有する有機溶媒(S1)10?80体積%」に相当する。

(エ) 引用発明の「常圧における沸点が100℃を超え、且つ多価アルコールからなる有機溶媒(C)としての、エチレングリコール60体積%」は、補正発明1の「常圧における沸点が100℃を超え、かつ分子中に2以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールからなる有機溶媒(S2)5?60体積%」に相当する。

(オ) 引用発明の「アミン系化合物を含む有機溶媒(E)としての、トリエチルアミン2体積%」は、補正発明1の「脂肪族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂肪族第三アミン、脂肪族不飽和アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、及びアルカノールアミンの中から選択される1種又は2種以上のアミン系有機溶媒(S3)0.1?30体積%」に相当する。

(カ) 引用発明の「常圧における沸点が35℃である低沸点の有機溶媒(B)としての、ジエチルエーテル10体積%」は、補正発明1の「常圧における沸点が60?120℃であり、かつ有機溶媒(S2)の沸点(沸点は常圧における沸点をいう。以下同じ)よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%」と、「常圧における沸点が、有機溶媒(S2)の沸点(沸点は常圧における沸点をいう。以下同じ)よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%」である点で共通するといえる。

(キ) 引用発明の「分散媒(S4)」は、補正発明1の「混合有機溶媒(S)」に相当する。

(ク) 引用発明の「銅微粒子(P)を」、「分散媒(S4)に分散させて銅微粒子分散液を調整」した、「前記銅微粒子分散液を、吐出」したものは、補正発明1の「金属微粒子(P)が」、「混合有機溶媒(S)、に分散されている導電性インクからなる液滴」に相当する。

(ケ) 引用発明の「前記銅微粒子分散液を、吐出によって被塗布体上に付与して、所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を形成する工程」は、補正発明1の「60℃以上でかつ有機溶媒(S2)の沸点(T1℃)以下に加熱された基板の表面に吐出してパターンを形成する工程(工程1)」と、「基板の表面に吐出してパターンを形成する工程(工程1)」である点で共通するといえる。


(コ) 引用発明の「前記所定パターンを有する銅微粒子分散液の液膜を焼成して焼結導電層を形成する工程」であって、「焼成は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができ」る工程は、補正発明1の「(ii)前記工程1で液滴によるパターンが形成された基板を、非酸化性ガス雰囲気中で工程1の基板加熱温度より高い温度で加熱して金属微粒子(P)を焼結する工程(工程2)」と、「(ii)前記工程1で液滴によるパターンが形成された基板を、非酸化性ガス雰囲気中で、加熱して金属微粒子(P)を焼結する工程(工程2)」である点で共通するといえる。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「基板上への導電パターン形成方法であって、
(i)金属、合金、及び金属化合物の1種又は2種以上からなる、一次粒子の平均粒子径が1?150nmの金属微粒子(P)が、
アミド基を有する有機溶媒(S1)10?80体積%、
常圧における沸点が100℃を超え、かつ分子中に2以上のヒドロキシル基を有する多価アルコールからなる有機溶媒(S2)5?60体積%、
脂肪族第一アミン、脂肪族第二アミン、脂肪族第三アミン、脂肪族不飽和アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、及びアルカノールアミンの中から選択される1種又は2種以上のアミン系有機溶媒(S3)0.1?30体積%、
並びに、常圧における沸点が、有機溶媒(S2)の沸点(沸点は常圧における沸点をいう。以下同じ)よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%を含む混合有機溶媒(S)、
に分散されている導電性インクからなる液滴を、
基板の表面に吐出してパターンを形成する工程(工程1)と、
(ii)前記工程1で液滴によるパターンが形成された基板を、非酸化性ガス雰囲気中で、加熱して金属微粒子(P)を焼結する工程(工程2)
を含むことを特徴とする、導電パターン形成方法。」である点。

[相違点1]
「有機溶媒(S4)」に関して、補正発明1では、「常圧における沸点が60?120℃であり、かつ有機溶媒(S2)の沸点(沸点は常圧における沸点をいう。以下同じ)よりも低い有機溶媒(S4)1?60体積%」であるのに対して、引用発明では、「常圧における沸点が35℃である低沸点の有機溶媒(B)としての、ジエチルエーテル10体積%」であって、「常圧における沸点が60?120℃であ」るものを用いていない点。

[相違点2]
「工程1」に関して、補正発明1では、「60℃以上でかつ有機溶媒(S2)の沸点(T1℃)以下に加熱された基板の表面に吐出してパターンを形成する工程(工程1)」であるのに対して、引用発明では、基板を加熱していない点。

[相違点3]
「工程2」に関して、補正発明1では、「前記工程1で液滴によるパターンが形成された基板を、非酸化性ガス雰囲気中で工程1の基板加熱温度より高い温度で加熱して金属微粒子(P)を焼結する工程(工程2)」であるのに対して、引用発明では、「工程1の基板加熱温度より高い温度で」焼結するものではない点。

ウ 判断
上記[相違点1]について検討する。
引用発明に関して、パターン形成時に、基板を加熱することの記載や示唆はない。
引用文献2(特開2009-140883号公報)には、段落【0094】に、「また、テーブル46の裏面には、ラバーヒータ(図示せず)が配設されている。テーブル46上に載置されたセラミックスグリーンシート7は、その上面全体がラバーヒータにて所定の温度に加熱されるようになっている。セラミックスグリーンシート7に着弾したインク10は、その表面側から水系分散媒の少なくとも一部が蒸発する。このとき、セラミックスグリーンシート7は加熱されているので、水系分散媒の蒸発が促進される。そして、セラミックスグリーンシート7に着弾したインク10は、乾燥とともにその表面の外縁から増粘し、つまり、中央部に比べて外周部における固形分(粒子)濃度が速く飽和濃度に達することから表面の外縁から増粘していく。外縁の増粘したインク10は、セラミックスグリーンシート7の面方向に沿う自身の濡れ広がりを停止するため、着弾径しいては線幅の制御が容易になる。この加熱温度は、前述した乾燥条件と同様となっている。」と記載され、段落【0120】に「[5]配線基板の作製および評価 …次に、上記セラミックスグリーンシートを60℃に昇温保持した。…そして、このラインが形成されたセラミックスグリーンシートを乾燥炉に入れ、60℃で30分間加熱して乾燥した。」と記載されるから、着弾したインクの濡れ広がりを防ぐために、インクが着弾するセラミックスグリーンシートを、60℃に加熱することが、記載されていると認定できる。
しかし、引用文献2には、基板を加熱する場合に、低沸点の有機溶媒を、所定の温度範囲の沸点の有機溶媒に置き換えるべきことまでは記載がない。よって、たとえ、引用文献2に記載される、基板に着弾したインクの濡れ広がりを防ぐために、基板を60℃以上に加熱する技術、及び、沸点が60?120℃の有機溶媒が、それぞれ周知技術であるとしても、引用発明において、基板を加熱する上記周知技術を適用する際、さらに、引用発明の「分散媒(S4)」を構成する4種の有機溶媒の特定の組合せにおける、「常圧における沸点が35℃である低沸点の有機溶媒(B)としての、ジエチルエーテル10体積%」を、「常圧における沸点が60?120℃であ」るものに置き換えること、すなわち、上記[相違点1]に係る構成を採用する動機や起因を見出すことはできない。
ほかに、引用発明において、上記[相違点1]に係る補正発明1の構成を採用することが、当業者が容易に想到しえたことというべき理由は見当たらない。
以上を踏まえると、引用発明において上記[相違点1]に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ) まとめ
したがって、補正発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
ほかに、補正発明1を特許出願の際独立して特許を受けることができないものというべき理由を発見しない。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


(2)補正事項2-4について
補正事項2-4について、本件補正後の前記請求項5、6、9に記載された発明(以下、「補正発明5、補正発明6、補正発明9」という。)は、補正後の請求項1と同様の「有機物」及び「沸点または昇華点」に関する限定、及び、「常温固体」である物質名を削除する限定をさらに付加するものであって、請求項1に係る補正事項1と同様の特許請求の範囲の限定的な減縮を目的とする補正を含むものであるから、請求項1と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
よって、補正事項2-4についても、補正事項1と同様に、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。


3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、補正発明1は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、補正発明1を直接又は間接的に引用する請求項2-10に係る発明は、補正発明1に係る発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2011-265402(P2011-265402)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
発明の名称 導電パターン形成方法  
代理人 白坂 一  

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