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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B44C
審判 全部無効 2項進歩性  B44C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B44C
管理番号 1324271
審判番号 無効2015-800092  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2017-02-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第4465408号発明「物品の表面装飾構造及びその加工方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件における主な手続の経緯を整理して示す。

平成20年 5月 1日 原出願(実用新案登録第3143605号)
平成21年 7月28日 本件出願
平成22年 2月26日 設定登録(特許第4465408号)
平成27年 3月30日付け 本件審判請求書提出
平成27年 4月20日付け 手続補正指令(方式)
平成27年 4月23日付け 手続補正書提出
平成27年 7月10日付け 審判事件答弁書提出
平成27年 8月 4日付け 審理事項通知
平成27年 8月31日付け 口頭審理陳述要領書(両当事者)提出
平成27年 9月16日付け 審理事項通知(2)
平成27年10月 8日付け 口頭審理陳述要領書(2)(両当事者)提出
平成27年10月16日付け 口頭審理陳述要領書(3)(被請求人)提出
平成27年10月17日付け 上申書(請求人)提出
平成27年10月27日 口頭審理、補正許否の決定


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものであるところ、各請求項の記載は、以下のとおりである。

【請求項1】
透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2)が形成されている一方、
この金属被膜層(2)の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部(21)が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部(21)において前記基材(1)の表面が露出して、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)が形成されており、
基材(1)および金属被膜層(2)がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層(3)によって被覆されて、前記金属光沢による装飾模様(P)の表面が保護されていることを特徴とする物品の表面装飾構造。
【請求項2】
金属被膜層(2)が、電気メッキ、または、化学メッキ、置換メッキなどの無電解メッキ、または、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの真空メッキ、または、溶融メッキの何れかによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載した物品の表面装飾構造。
【請求項3】
金属被膜層(2)の金属材料が、アルミニウム、チタン、モリブデン、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、金、銀、銅、鉄などの金属、黄銅(Cu-Fe)、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、青銅(Cu-Sn)などの合金、酸化珪素、酸化チタン、ITO(酸化インジウムスズ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、窒化チタン、炭化チタンのうちの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載した物品の表面装飾構造。
【請求項4】
クリアコーティング層(3)の合成樹脂材料が、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリオレフィン系、フッ素系、エポキシ系、酢酸ビニル系、クロロプレン系などの有機樹脂、無機系ポリマーを配合した有機樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などの無色透明樹脂であることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載した物品の表面装飾構造。
【請求項5】
少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層(2)を透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面に層着し、
この金属被膜層(2)の少なくとも一部に設けた剥離部(21)をレーザー光照射により剥離して前記基材(1)の表面を表裏面で対称形状に露出させることにより、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)を表出させ、
基材(1)および金属被膜層(2)をそれぞれ表出させた状態で、これらの表面に透光性を有する合成樹脂材料を被覆してクリアコーティング層(3)を形成し、このクリアコーティング層(3)で前記金属光沢による装飾模様(P)の表面を保護するようにしたことを特徴とする物品の表面装飾加工方法。
【請求項6】
電気メッキ、または、化学メッキ、置換メッキなどの無電解メッキ、または、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの真空メッキ、または、溶融メッキの何れかによって金属被膜層(2)を形成する請求項5に記載した物品の表面装飾加工方法。
【請求項7】
金属被膜層(2)を構成する金属材料が、アルミニウム、チタン、モリブデン、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、金、銀、銅、鉄などの金属、黄銅(Cu-Fe)、ステンレス鋼(Fe-Ni-Cr)、青銅(Cu-Sn)などの合金、酸化珪素、酸化チタン、ITO(酸化インジウムスズ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、窒化チタン、炭化チタンのうちの何れかであることを特徴とする請求項5または6に記載した物品の表面装飾加工方法。
【請求項8】
クリアコーティング層(3)を構成する合成樹脂材料が、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、ポリオレフィン系、フッ素系、エポキシ系、酢酸ビニル系、クロロプレン系などの有機樹脂、無機系ポリマーを配合した有機樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などの無色透明樹脂であることを特徴とする請求項5?7の何れか1項に記載の物品の表面装飾加工方法。


第3 請求人の主張の概要
1.主張の概要
平成27年4月23日付け手続補正書により補正された本件審判請求書(以下、「審判請求書」という。)によれば、請求人は、以下の無効理由1、2、3、4-1、4-2を主張している。(なお、以下において、行数にて両当事者提出の書面や書証の記載箇所を示すときは、空白行は行数に含めない。)

(1)無効理由1:本件特許は、特許請求の範囲の記載が、以下の(ア)?(エ)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、無効とすべきものである。
(ア)本件請求項1及び請求項5に記載されている「少なくとも金属光沢を有する金属材料」に、本件請求項3及び請求項7に記載されている「酸化チタン」等のように「金属光沢」を有しないものが含まれているため、本件請求項1?8に係る発明は、明確であるとはいえない。(審判請求書6頁21行?7頁8行)
(イ)本件請求項3及び請求項7に記載されている「ダイヤモンドライクカーボン」は、学術用語であるとは認められないため(特許法施行規則第24条 様式第29 備考7参照)、本件請求項1?8に係る発明は、明確であるとはいえない。なお、「ダイヤモンドライクカーボン」は、炭化水素化合物ではないかと思われるが、もしそうなら、「金属材料」に該当しない。(審判請求書7頁9?19行)
(ウ)本件請求項1及び請求項5に記載されている「少なくとも金属光沢を有する金属材料」に、本件請求項3及び請求項7に記載されている「酸化珪素」等のように「金属材料」に該当しないものが含まれているため、本件請求項1?8に係る発明は、明確であるとはいえない。(審判請求書7頁20行?8頁7行)
(エ)本件請求項2、3、4、6、7及び8に、「などの」が記載されているが、当該「などの」という表現に、どのような成分が含まれるのかが不明であるから、請求項2、3、4、6、7及び8に係る発明、並びにこれらの請求項に係る発明を包含する請求項1及び8に係る発明は、明確であるとはいえない。(審判請求書8頁8?16行)

(2)無効理由2:本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記(ア)?(イ)の点で不備であり、本件請求項1?8に係る発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することが認識し得るものであるとも、その記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、無効とすべきものである。
(ア)本件請求項3及び請求項7に記載されている「酸化珪素」などは、甲第2号証に記載されているとおりフッ化水素以外の酸に溶解しないものであるにも関わらず、どのようにして当該「酸化珪素」を金属材料として用い、電気メッキ等の手法によって金属被膜層(2)を形成させるか、発明の詳細な説明には記載されていない。(審判請求書8頁17行?9頁9行)
(イ)「金属材料」の概念に包含されるウランなどの放射性金属、水と接触するだけで爆発的に反応が進行する金属ナトリウムなどの人体に悪影響を及ぼすおそれがある金属、水等との反応性が著しく高い金属を本件請求項1及び請求項5の「金属材料」として用いる場合、どのようにして電気メッキ等の手法によって金属被膜層(2)を形成させるかに関して、本件発明の詳細な説明には具体的に記載されていない。(審判請求書9頁10?22行)

(3)無効理由3:本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、以下の点で、特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていないものであり、無効とすべきものである。
本件発明の詳細な説明には、請求項2及び6に記載された「電気メッキ・・・」の手段のいずれについても、どのようにして実施することができるのかが明らかにされていないのみならず、発明の根幹をなす実施例の一例すらも記載されていない。また、金属被覆層(2)を形成させるための具体条件(例えば、「電気メッキ」を例にとれば、電解液の種類及びその濃度、電解時の温度、電解時の電流密度等の条件)が記載されていないため、当該条件が何ら記載されていない下で前記金属被覆膜(2)を形成することは、当業者といえども過度の試行錯誤を要する。したがって、本件の発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。(審判請求書9頁23行?10頁19行)

(4)無効理由4-1:本件請求項1?8に係る発明は、甲第3号証に記載の発明に甲第4号証に記載の発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、無効とすべきものである。
(ア)甲第3号証には、本件請求項1に係る発明における
「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2)が形成されている一方、この金属被膜層(2)の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部(21)が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部(21)において前記基材(1)の表面が露出して、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)が形成されており」、
及び同請求項5における
「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層(2)を透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面に層着し、この金属被膜層(2)の少なくとも一部に設けた剥離部(21)をレーザー光照射により剥離して前記基材(1)の表面を表裏面で対称形状に露出させることにより、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)を表出させ」が記載されている。(審判請求書11頁2?25行)
(イ)甲第4号証の段落[0008]には、基材に「パターニングされた薄膜金属層3とこの薄膜金属層3の外側に形成された透明または半透明の有色保護層とを備えて構成されている」ことが記載されており、甲第3号証に記載の高分子フィルム基材(1)の表面保護を目的として、甲第4号証に記載のように透明または半透明の保護層を形成する程度のことは、容易になし得ることであるから、本件請求項1及び5に係る発明は、甲第3号証及び4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書12頁10行?13頁9行)
(ウ)甲第3号証の段落[0026]には、金属層をスパッタリング法等によって形成することが記載されているから、本件請求項2及び6に係る発明も、甲第3号証及び4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書13頁10?13行)
(エ)甲第3号証の段落[0024]には、金属層を構成する金属素材として、金、銀等の金属が記載されているから、本件請求項3及び7に係る発明も、甲第3号証及び4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書13頁14?17行)
(オ)甲第4号証の段落[0015]には、保護層4が、アクリル系等の樹脂で形成されることが記載されているから、本件請求項4及び8に係る発明も、甲第3号証及び4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書13頁18?21行)

(5)無効理由4-2:本件請求項1?8に係る発明は、甲第5号証に記載の発明に甲第3、4号証に記載の発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、無効とすべきものである。
(ア)甲第5号証には、
「片面に透明導電膜(4)又は金属薄膜(13)を、もう一方の片面に金属薄膜(5)を備え、かつ、レーザ光(10)を透過しうるような基板(3)の何れか一方の片面側から焦点を基板(3)の内部に合わせながら所望のパターン(2)形状に従ってレーザ光(10)を照射することにより、上記両膜(4,5)の被照射部(2a,2b)を同時に除去して所定のパターン(2)を上記基板(3)の表裏面に形成するようにしたことを特徴とする被覆基板の両面へのパターン同時形成法」(請求項1)及び
「レーザ光が基板を透過することにより、レーザ光に照射された両膜の被照射部が溶融、蒸発して基板素地が露出せしめられることになる。従って、所定のパターン形状に従ってレーザ光あるいは基板を走査もしくは移動せしめれば、基板の表裏面に同時にかつ同一の所定のパターンが形成されることになる」(2頁右下欄下から6行?3頁左上欄7行)
旨が記載されている。
また、甲第3号証には、基材として「全光線透過率が80%以上である高分子フイルム基材」(請求項1)を用いることが記載されている。
してみれば、本件請求項1に係る発明における
「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2)が形成されている一方、この金属被膜層(2)の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部(21)が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部(21)において前記基材(1)の表面が露出して、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)が形成されており」
及び、同請求項5における
「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層(2)を透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面に層着し、この金属被膜層(2)の少なくとも一部に設けた剥離部(21)をレーザー光照射により剥離して前記基材(1)の表面を表裏面で対称形状に露出させることにより、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)を表出させ」
は、甲第5号証及び甲第3号証発明に基づいて構成される。(審判請求書14頁10行?15頁18行)
(イ)甲第4号証の段落[0008]には、基材に「パターニングされた薄膜金属層3とこの薄膜金属層3の外側に形成された透明または半透明の有色保護層とを備えて構成されている」ことが記載されており、パターンの表面保護を目的として、甲第4号証に記載のように、透明または半透明の保護層を形成する程度のことは、容易になし得ることであるから、本件請求項1及び5に係る発明は、甲第3?5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書16頁10行?17頁2行)
(ウ)甲第5号証の3頁右上欄9?15行には、金属薄膜をスパッタリング法等によって形成することが記載されているから、本件請求項2及び6に係る発明も、甲第3?5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書17頁3?6行)
(エ)甲第5号証の3頁右上欄9?15行には、金属薄膜をCr等によって形成させることが記載されているから、本件請求項3及び7に係る発明も、甲第3?5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書17頁7?10行)
(オ)甲第4号証の段落[0015]には、保護層がアクリル系等の樹脂で形成されることが記載されているから、本件請求項4及び8に係る発明も、甲第3?5号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(審判請求書17頁11行?14行)

なお、請求人は、平成27年8月31日付けの口頭審理陳述要領書において、本件特許が
(1)本件請求項1?4の記載は経時的変化を構成要件とするプロダクト・バイ・プロセス・クレームのため不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定により、本件特許は無効とすべきであること(3頁1?6行)
(2)本件特許明細書段落【0013】記載の「任意のデザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができる」旨の効果は技術的効果ではなく、本件発明は「未完成発明」に該当するから、特許法の規定により保護を受けるべきではなかったこと(25頁5行?27頁10行)
を主張しているが、上記口頭審理陳述要領書による請求の理由の補正は、請求理由の要旨を変更するものであるから、平成27年10月27日付けの補正許否の決定において、許可されなかった。(調書【審判長】1)

2.証拠
請求人は、「特許第4465408号発明の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1?13号証を提出している。

甲第1号証 :化学大辞典編集委員会編「化学大辞典3」、共立出版
株式会社、昭和56年10月15日縮刷版第26刷
発行、表紙、920頁及び奥付
甲第3号証 :特開2008-73736号公報
甲第4号証 :特開2002-362099号公報
甲第5号証 :特開平1-251689号公報
甲第6号証 :玉虫文一ら編「岩波 理化学辞典第3版」、第1刷、
株式会社岩波書店、1971年5月20日発行、
表紙、389?390頁、974?975頁及び奥付
甲第7号証 :小学館『大辞泉』編集部編「大辞泉第1版」、第1刷、
株式会社小学館、1995年12月1日発行、表紙、
2012頁及び奥付
甲第8号証 :特願2007-175071号に係る
平成23年4月15日付け拒絶理由通知書
甲第9号証 :平成11年特許願第345173号に係る
平成21年12月21日付け拒絶理由通知書
甲第10号証 :特願2002-112890号に係る
平成18年7月31日付け拒絶理由通知書
甲第11号証 :特願2000-265646号に係る
平成19年5月28日付け拒絶理由通知書
甲第12号証 :特願2002-375742号に係る
平成20年2月1日付け拒絶理由通知書
甲第13号証 :特願2002-42756号に係る
平成20年2月29日付け拒絶理由通知書

甲第1号証、甲第3?13号証の成立につき、当事者間に争いはない。
なお、甲第1?5号証は審判請求書にて、甲第6?13号証は口頭審理陳述要領書(請求人)にて提出されたが、甲第2号証は撤回された。(口頭審理陳述要領書(2)(請求人)15頁))


第4 被請求人の主張の概要
1.主張の概要
(1)無効理由1
(ア)酸化チタン膜は光の反射率が高く、その反射色調が美しいシルバー調であり、酸化チタンの薄膜が構造色を示すこと、膜厚を制御することにより多彩な色彩を発揮すること、純然たるチタン自体、現実にはその表面が酸化膜で被覆されていることは、いずれも周知であるから、特許請求の範囲の記載は不明確ではない。(審判事件答弁書2頁12行?3頁6行)
(イ)「ダイヤモンドライクカーボン」及び「DLC」は乙第3?5号証に記載されているとおり周知の用語であるから、かかる用語を使用しても問題はない。(審判事件答弁書3頁7?17行)
また、そもそも、本件特許発明は、「装飾品」を対象とする発明であり、一般人が日常的に目にする物品の表面装飾に関するものであるため、ここでいう「金属材料」についても、一般人の目からみて「金属」のように見えるかどうかを問題にするのが妥当というべきである。(審判事件答弁書3頁18行?4頁20行)
(ウ)本件特許発明における「金属材料」は、狭義の金属に限られないものであるから、「酸化珪素」を「金属材料」に含めても支障はない。(審判事件答弁書4頁21行?5頁8行)
(エ)本件の場合、「などの」に続く「無電解メッキ」「真空メッキ」「金属」および「合金」の記載によって、例えば「・・・置換メッキなどの無電解メッキ」との記載のように明確化されているから、不明確ではない。(審判事件答弁書5頁9行?6頁3行)

(2)無効理由2
(ア)酸化珪素膜を形成する方法は、例えば乙第8、9号証の記載にもあるように周知であるから、単に実施例がないということのみをもって発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。(審判事件答弁書6頁9行?22行)
(イ)請求人の挙げる例である「ウラン」や「金属ナトリウム」はいずれも極めて特異なものばかりであり、そのような材料を物品の装飾に用いることは考え難いものであるから、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。(審判事件答弁書6頁23行?7頁10行)

(3)無効理由3
本件請求項2及び6に記載された金属被膜層を形成する各手段はいずれも周知技術であるから、実施可能である。(審判事件答弁書7頁15行?8頁12行)

(4)無効理由4-1
甲第3号証に記載の発明は「バイオセンサ用電極の製造方法」に関するものであり、物品の表面装飾に関するものではない。したがって、甲第3号証に記載の発明に対して甲第4号証に記載の「釣竿又はゴルフシャフト」に関する発明を組み合わせることの動機付けがないから、請求項1?8に係る発明は進歩性を有する。(審判事件答弁書8頁13行?10頁7行)

(5)無効理由4-2
甲第3号証及び甲第5号証のそれぞれに記載の発明を組み合わせて構成される発明を「主引用例」とするものであるから、進歩性の判断手法として不適格である。
甲第3号証の「バイオセンサ用電極の製造方法」の発明の「高分子フィルム基材」を甲第5号証のプリント配線基板等における「被覆基板の両面へのパターン同時形成法」に適用すべき理由もないし、さらに、上記甲第5号証に記載の発明を甲第4号証に記載の「釣竿又はゴルフシャフト」に関する発明と組み合わせる動機付けもないから、請求項1?8に係る発明は進歩性を有する。(審判事件答弁書10頁8行?12頁19行)

2.証拠
被請求人は、本審決の結論と同旨の審決を求め、証拠方法として以下の乙第1?31号証を提出している。

乙第1号証 :特許第4465408号公報
乙第2号証 :特開平7-2522号公報
乙第3号証 :特許第3372493号公報
乙第4号証 :特許第2953673号公報
乙第5号証 :特開平8-161726号公報
乙第7号証 :特許第3907575号公報
乙第8号証 :特許第3913902号公報
乙第9号証 :特開平8-164595号公報
乙第10号証 :特開平6-270597号公報
乙第11号証 :特開2000-218999号公報
乙第12号証 :特開2002-331800号公報
乙第13号証 :特開平6-286396号公報
乙第14号証 :特開2003-94556号公報
乙第15号証 :特開2005-124584号公報
乙第16号証 :特開2007-2050号公報
乙第17号証 :新村出編「広辞苑第六版」、株式会社岩波書店、
2008年1月11日第6版第1刷発行、表紙、
1624?1625頁及び奥付
乙第18号証の1:坂井義和ら、「珪素酸化物をコーティングした
Inconel617の不純ヘリウム雰囲気中での腐食挙動」、
「鐵と鋼」第71年(1985年)第10号、
1375?1381頁
乙第18号証の2:CiNii(国立情報学研究所(NII)学術情報ナビゲータ)
における乙第18号証の1の検索結果画面
乙第19号証 :講談社出版研究所編「5 世界科学大事典(Encyclo
pedia of Science and Technology)」、株式会社
講談社、昭和52年3月20日第1刷発行、表紙、
53?58頁及び奥付
乙第20号証 :金属材料技術研究所編「図解 金属材料技術用語辞典
第2版」(日刊工業新聞社、2000年1月30日
第1刷発行、表紙、158頁及び奥付)の写し
乙第21号証 :川口寅之輔・加藤哲男編著「金属材料・加工プロセス
辞典」(丸善株式会社、平成13年3月15日発行、
表紙、655頁及び奥付)の写し
乙第22号証 :講談社出版研究所編「4 世界科学大事典(Encyclo
pedia of Science and Technology)」、株式会社
講談社、昭和52年3月20日第1刷発行、表紙、
336?337頁及び奥付
乙第23号証 :講談社出版研究所編「15世界科学大事典(Encyclo
pedia of Science and Technology)」、株式会社
講談社、昭和52年3月20日第1刷発行、表紙、
34頁及び奥付
乙第24号証 :講談社出版研究所編「17世界科学大事典(Encyclo
pedia of Science and Technology)」、株式会社
講談社、昭和52年3月20日第1刷発行、表紙、
183頁及び奥付
乙第25号証 :草野英二著、「はじめての薄膜作製技術」、株式会社
工業調査会、2006年3月20日初版第1刷発行、
表紙、132?135頁、180?181頁及び奥付
乙第26号証 :金原粲監修、白木靖寛/吉田貞史著、「薄膜工学」、
丸善株式会社、平成15年3月15日発行、表紙、
4?5頁及び奥付
乙第27号証 :和佐清孝・早川茂著「スパッタ技術」、共立出版
株式会社、1988年6月1日初版1刷発行、表紙、
73?74頁、93?94頁及び奥付
乙第28号証 :大西俊次編「新素材・材料集成 PartII」、株式会社
技術資料センター、1988年10月20日初版発行
、表紙、RS-3?9、RS-13?14及び奥付
乙第29号証の1:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2005年4-5月、
VoL.152、1頁)の写し
乙第29号証の2:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2005年5-6月、
VoL.153、3頁)の写し
乙第29号証の3:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2005年11-12月、
VoL.160、3頁)の写し
乙第29号証の4:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2006年5-6月、
VoL.167、7頁)の写し
乙第29号証の5:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2006年7月、
VoL.168、5頁)の写し
乙第29号証の6:シチズン時計株式会社のカタログ「NEW
PRODUCTS」(2007年2月、
VoL.181、1頁)の写し
乙第30号証 :特開2006-321232号公報
乙第31号証 :特開2005-154902号公報

乙第1?5号証、乙第7?31号証の成立につき、当事者間に争いはない。
なお、乙第1?9号証は審判事件答弁書にて、乙第10?17号証は口頭審理陳述要領書(1)にて、乙第18?24号証は口頭審理陳述要領書(2)にて、乙第25?31号証は口頭審理陳述要領書(3)にて提出されたが、乙第6号証は撤回され、参考資料とされた。(調書の被請求人2)


第5 甲各号証の記載事項
1 甲第3号証
(1)甲第3号証には、バイオセンサ用電極の製造方法に関して、図面とともに、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材で構成された両面金属化フィルムの金属層を除去するレーザー加工方法であって、高分子フィルム基材を透過するレーザーとしてQスイッチパルスレーザーを用いて、両面の金属層を同時に除去するレーザー加工方法。」
(イ)「【0002】
また、本発明は、上記レーザー加工方法により、両面金属化フィルムの金属層を除去するバイオセンサ用電極の製造方法に関するものである。」
(ウ)「【0011】
絶縁性基材の異なる面上に複数組の酵素電極を形成したバイオセンサは、通常、カバー/スペーサー/電極/絶縁性基材/電極/スペーサー/カバーの順で構成されている(特許文献4等)。本発明は、特に、このバイオセンサ等の電極を得るためのレーザー加工方法を提供せんとするものである。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明におけるレーザー加工方法は、全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材で構成された両面金属化フィルムの金属層を除去するレーザー加工方法であって、該高分子フィルム基材を透過するレーザーとしてQスイッチパルスレーザーを用いて、両面の金属層を同時に除去するものである。」
(エ)「【0014】
本発明によれば、一度のレーザースキャンにより、金属層を両面同時かつ完全に除去することができるので、グルコースセンサに代表されるようなバイオセンサ等において、両面に電極を備えた形式のバイオセンサに用いる電極を形成するための、優れたレーザー加工方法を提供することができる。」
(オ)「【0018】
本発明における、レーザー加工後の金属化フィルムの断面図を図2に示した。レーザー加工部(4)は、レーザーが照射された部分であり、両面の金属層が除去され、高分子フィルム基材(1)が露出することとなる。」
(カ)「【0024】
かかる金属層を構成する金属素材としては、酸化されにくく、かつ導電性があれば、いずれの金属でも用いることができるが、特に、化学的な安定性が良好であることから、金、白金、パラジウム、銀、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属は、化学反応による変化を電気的に捉えるための電極用途、例えば、バイオセンサ用の酵素電極等に好適に使用できるので好ましい。また、かかる金属層を構成する金属素材は、一種であっても二種以上併用しても良い。さらに、複数の金属層が積層されたものであっても良く、合金であっても良い。加えて、金属層を構成する素材は、金属化フィルムの両面で異なっていても良く、金属層の数が両面で異なっても良い。」
(キ)「【0026】
本発明における金属化フィルムの両面に金属層を積層する方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。中でも、金属層の厚さの均一性、密着性等の観点から、スパッタリング法が特に好ましい。」
(ク)【図2】に、本発明におけるレーザー加工後の金属化フィルム断面の一例を示す概略図が示されており、レーザーが照射された結果、表裏面で対称形状に高分子フィルム基材(1)のレーザー加工部が露出することが看てとれる。

(2)以上を踏まえると、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されていると認められる。
「全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材の表裏に位置する表面において、貴金属等の金属素材をスパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等により積層した金属層が形成されている一方、
この金属層の少なくとも一部にはQスイッチパルスレーザーを用いて、両面の金属層を同時に除去したレーザー加工部が表裏面で対称形状に設けられており、このレーザー加工部において前記高分子フィルム基材の表面が露出して、レーザー加工部が形成されているバイオセンサ用電極。」
また、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲第3号証方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「貴金属等の金属素材をスパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等により積層した金属層を全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材の表裏に位置する表面に層着し、
この両面の金属層をQスイッチパルスレーザーを用いて同時に除去して、前記基材の表面を表裏面で対称形状に露出させたレーザー加工部を形成する
バイオセンサ用電極の加工方法。」

2 甲第4号証
(1)甲第4号証には、多色化方法に関して、以下の記載がある。
(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】下地層の色調を活かし、さらに光輝性外観を呈示させることが可能であると同時に軽量である装飾層を有する釣竿又はゴルフシャフトに関する。」
(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、第1の従来技術では、ロゴや模様のために凹凸が生じてしまい、直接手で扱うこれらの物品においては凸部分の摩耗が問題となるため好ましくない。また、第2の従来技術では軽量かつ光輝性外観を得ることが可能であるが、一定の均一な外観であり、商品名、メーカー表示等のマーク、物品の性能等を表す文字や装飾を含めた模様を付加しようとすると、さらに第1の従来技術のように工程を加える必要があり作業が繁雑になると共に費用の増大を伴った。
【0005】そこで本発明の目的は、下地有色塗装層とその外側の金属層の形状を様々に変化させることで下地塗装層の外観を生かした光輝性外観を呈示させることが可能であると同時に、質感(立体感)の有る模様を浮き立たせることが可能な部材を容易に、かつ、安価に提供するものである。しかもその表面は凹凸の無いフラットな状態をしており取扱に非常に好ましい外観、形状を得るものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を鑑みて本発明は、基材本体上に形成されかつ有色の樹脂装飾層と、その装飾層の外側に形成された薄い金属層を組み合わせることにより、文字や模様など様々な形状、色調を表現するものである。金属層はマスキング樹脂やマスクテープを使用し好みの形状とすることができる。しかも金属層は薄膜なため凹凸の無いフラットな表面を維持できる。さらに金属層または樹脂装飾層の上に形成された透明または有色半透明の保護層を設けることで、品質の向上を図ると共に最下層の塗装との相乗効果による深みのある多彩な色調を得ることができる。」
(ウ)「【0008】図1は本発明の一実施の形態に係る断面図である。基材1上に有色塗装層2が形成され、所定形状にパターニングされた薄膜金属層3とこの薄膜金属層3の外側に形成された透明または半透明の有色保護層とを備えて構成されている。」
(エ)「【0015】保護層4は、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の透明または半透明の樹脂で形成することができる。この保護層4は下地を保護すると共に、わずかに着色させることで下層の金属層3や有色樹脂装飾層1との相乗効果で微妙な色合いを呈する。これによりさらにオリジナリティーあふれた物品とすることができる。」

(2)以上を踏まえると、甲第4号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「釣竿又はゴルフシャフトにおいて、有色塗装層を形成された基材上に、所定形状にパターニングされた薄膜金属層と、その外側にアクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の透明または半透明の樹脂からなる有色保護層とを設けること」

3 甲第5号証
(1)甲第5号証には、被覆基板の両面へのパターン同時形成法に関して、図面とともに、以下の記載がある。
(ア)「2.特許請求の範囲
1.片面に透明導電膜(4)又は金属薄膜(13)を、もう一方の片面に金属薄膜(5)を備え、かつ、レーザ光(10)を透過しうるような基板(3)の何れか一方の片面側から所望のパターン(2)形状に従ってレーザ光(10)を照射することにより、上記両膜(4,5)の被照射部(2a,2b)を同時に除去して所定のパターン(2)を上記基板(3)の表裏面に形成するようにしたことを特徴とする被覆基板の両面へのパターン同時形成法。」(1頁左下4?13行)
(イ)「【産業上の利用分野】
本発明は、薄膜が被覆された基板の両面にパターンを形成するパターン同時形成法に関し、詳しくは、導電性薄膜を備えた鏡の両面にパターンを同時に形成するパターン同時形成方法に関する。」(1頁左下15?19行)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
以上の説明でも明らかなように、フォトエッチング法には、改善すべき上記問題点がある。
本発明は、基板の両面に形成された薄膜に同時にかつフォトマスクやフォトレジストを用いることなくパターンを描くことができるようにすることにより、工程を短縮するとともに、熟練を要せずに精度の高いかつ品質の安定したパターンを基板の両面に形成することのできるパターン同時形成法を提供することを目的としている。」(2頁左下9?18行)
(エ)「【課題を解決するための手段、及び作用・効果】
(構 成)
上記目的を達成するために、本発明を以下の如く構成した。
すなわち、本発明によるパターン同時形成法は、片面に透明な導電膜又は金属薄膜を、もう一方の片面に金属薄膜を備えた、かつ、レーザ光を透過しうるような基板の何れか一方の片面側から所望のパターン形状に従ってレーザ光を照射することにより、上記両膜の被照射部を同時に除去して所定のパターンを基板の表裏面に形成するようにしたものである。
尚、パターン形成後に、上記導電膜を保護する目的で、該導電膜上全面に透明な絶縁膜を形成するのが好ましい。
(作 用)
上記構成によれば、レーザ光が基板を透過することにより、レーザ光に照射された両膜の被照射部が溶融、蒸発して基板素地が露出せしめられることになる。従って、所定のパターン形状に従ってレーザ光あるいは基板を走査もしくは移動せしめれば、基板の表裏面に同時にかつ同一の所定のパターンが形成されることになる。又、レーザ光は集光レンズの小さい焦点に収束させることができ、微細な溝幅のパターンを形成することが可能である。さらに、レーザ光の焦点位置、照射方向、レーザ出力等を調整することにより、表裏面に形成された各パターンの溝幅を夫々調整することも可能である。」(2頁左下19行?3頁左上7行)
(オ)「【実施例】
次ぎに、第1?4図に従って、本発明の一実施例を具体的に説明する。
第1,2図は、基板たる透明ガラス板3の両面に形成された薄膜、詳しくは、金属薄膜(Cr等)5と透明導電膜(ITO膜)4、にパターン2を形成してなる鏡1を示している。尚、第2図は第1図のII-II線断面図である。上記両膜4,5は蒸着法やスパッタリング法により透明ガラス板3の両面に形成することができる。又、透明ガラス3は平面、曲面の何れかの形状であってもよい。
このような鏡は、鏡面の曇り度合を電気的に検知することが可能であり、その用途として自動車のアウターミラー等に利用できる。
ところで、この鏡1は次のようにして形成される。すなわち、透明ガラス3の何れか一方の片面に導電膜4を、又何れか他方の片面に金属薄膜5を、第5図に示した従来技術と同様の蒸着法やスパッタリング法により、形成する。上記透明導電膜4と金属膜5の各膜厚は夫々300Å?3000Å程度である。又、何れの膜を初めに形成してもよい。」(3頁右上6行?左下7行)
(カ)「図示の如く、照射されたレーザ光10は、透明ガラス板3を透過する。レーザ光10を照射することにより透明導電膜4とこれと対面する金属薄膜5の各透過部は同時に除去され、パターン溝2a,2bが形成される。従って、形成しようとするパターン形状に従ってレーザ光10を走査すれば、第1図に描かれているようなパターン2が鏡1の表裏面に同一かつ同時に形成される。」(3頁左下16行?右下4行)

(2)上記記載によれば、甲第5号証には、以下の発明(以下、「甲第5号証発明」という。)が記載されていると認められる。
「レーザ光を透過しうるような基板の表裏に位置する表面において、片面に透明導電膜又は金属薄膜を、もう一方の片面にCr等の金属薄膜が被覆されている一方、
この両膜の少なくとも一部には、レーザ光を照射することにより上記両膜の被照射部を同時に除去して形成された所定のパターンが上記基板の表裏面で対称形状に設けられており、
パターン形成後に、該導電膜上全面に透明な絶縁膜が形成され前記導電膜の表面が保護されている被覆基板。」
また、甲第5号証には、以下の発明(以下、「甲第5号証方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「片面に透明導電膜又は金属薄膜を、もう一方の片面にCr等の金属薄膜をレーザ光を透過しうるような基板の表裏に位置する表面に被覆し、
レーザ光を照射することにより上記両膜の被照射部を同時に除去して、前記上記基板の表裏面で対称形状に露出させた所定のパターンを形成し、
パターン形成後に該導電膜上全面に透明な絶縁膜を形成し、前記導電膜の表面が保護されている被覆基板の加工方法。」

第6 当審の判断
1 無効理由1について
無効理由1は、要するに、請求項1、5の「少なくとも金属光沢を有する金属材料」に、純金属とされない「酸化チタン」「ダイヤモンドライクカーボン」「酸化珪素」を含ませている点、請求項2?4、6?8の「などの」の記載が明確でないから、本件特許は明確性要件に適合しない、というものである。さらに、請求人は口頭審理にて、「金属材料」として扱われる材料が何であるかを「金属光沢」が発現するメカニズムを引き合いにして論じてもいる。
そこで、まず最初に「金属材料」に関する検討を行い、次に「などの」の記載について検討を行う。

(1)本件明細書の記載
本件明細書の【発明の詳細な説明】の欄には「金属材料」に関して以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、物品装飾の改良、更に詳しくは、加工が容易であって、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができ、要に臨んで、立体的な装飾模様を形成することも可能な物品の表面装飾構造及びその加工方法に関するものである。」
「【0005】
しかしながら、このような表面装飾にあっては、単に物品基材全体に一様な金属光沢が付与されただけのものであったため、物品基材自体の形状は変化しないで単に表面の質感が変更されるに過ぎない。」
「【0007】
本発明は、従来の物品装飾に上記のような不満があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、加工が容易であって、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができ、要に臨んで、立体的な装飾模様を形成することも可能な物品の表面装飾構造及びその加工方法を提供することにある。」
「【0009】
即ち、本発明は、透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1)の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2)を形成する一方、
この金属被膜層(2)の少なくとも一部にはレーザー光を照射することにより剥離部(21)を設け、この剥離部(21)において前記基材(1)の表面が表裏面で対称形状に露出して、当該基材(1)の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により装飾模様(P)を形成し、
基材(1)および金属被膜層(2)がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層(3)によって被覆して、前記金属光沢による装飾模様(P)の表面を保護するという技術的手段を採用したことによって、物品の表面装飾構造を完成させた。」
「【0013】
本発明にあっては、透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料を層着した金属被膜層を形成する一方、この金属被膜層の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部を設け、この剥離部において前記基材の表面を表裏面で対称形状に露出して、当該基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様を形成して、基材および金属被膜層がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層によって被覆して、前記金属光沢による装飾模様の表面を保護したことによって、簡単な加工工程で、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができる。」
「【0024】
なお、前記金属被膜層(2)の金属材料としては、アルミニウム、チタン、モリブデン、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、金、銀、銅、鉄などの金属、黄銅(Cu-Fe)、ステンレス(Fe-Ni-Cr)、青銅(Cu-Sn)などの合金、酸化珪素、酸化チタン、ITO(酸化インジウムスズ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、窒化チタン、炭化チタンなどを採用することができ、反射率が高い銀やアルミニウムを用いるのが好ましい。」
「【0032】
こうして形成された本実施形態の装飾構造は、基材(1)の表面の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を簡単に形成することができる(図3参照)。」
すなわち、段落【0001】【0005】【0007】より、表面装飾にあっては、単に物品基材全体に一様な金属光沢が付与されただけのものであったため、物品基材自体の形状は変化しないで単に表面の質感が変更されるに過ぎないものであったところ、本発明は、加工が容易であって、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができ、要に臨んで、立体的な装飾模様を形成することも可能な物品の表面装飾構造及びその加工方法を提供することを目的とするものであることが理解できる。また、段落【0009】【0013】【0024】【0032】より、本発明によれば、簡単な加工工程で、基材(1)の表面の外観と残存した金属被膜層(2)の金属光沢との相異により、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができること、及び、金属被膜層(2)の金属材料としては、金属、合金、酸化珪素、酸化チタン、ITO(酸化インジウムスズ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などを採用することができ、反射率が高い銀やアルミニウムを用いるのが好ましいことが理解できる。

(2)特許発明が属する分野の技術常識について
乙第2号証には、装飾用材料等に用いられる酸化チタン膜について、
「酸化チタン膜は光の反射率が高く、その反射色調が美しいシルバー調である」(段落【0002】)
ことが記載されている。
また、本件特許発明のように皮膜で装飾を作るという技術分野においては、以下の文献に示されるとおり、金属光沢を有する被膜を得るためにDLC等の炭素材料を用いたとすることは周知の事実である。
(ア)登録実用新案第3134340号公報
装飾品に関連して、金属光沢を有する材料に対し「金属材料」と呼び、かつ、当該材料の候補としてDLCの使用が記載されている。(段落【0006】?【0009】)
(イ)特開2000-160340号公報
金属光沢を有する材料として、ダイヤモンド構造を含む新規な炭素材料が記載されている。(段落【0010】)
(ウ)特開2004-279382号公報
時計の指針の装飾に関連して、金属光沢を有する装飾被膜として、DLC被膜を形成することが記載されている。(段落【0031】)
そうすると以上の文献から、装飾材料の分野においては、酸化チタン及びDLCが装飾に用いられ金属光沢を呈するとされていること、及び、DLCを含めた材料に対して金属光沢を呈する材料を「金属材料」と呼ぶことは、技術常識であると認められる。

(3)本件特許発明の「金属材料」の解釈
本件明細書の上記記載から、「物品の表面装飾構造」に係る本件特許発明は装飾に用いる材料について、あくまで層着した状況以降で外観で金属光沢が発現していることを必要とするものであって、金属固有の他の性質を利用したものとはされていない。つまり、材料が純金属であるか否かを問うものではなく、「物品の表面装飾構造」として出来上がった状態で金属光沢を呈するものであれば発明の目的を達成しうるものと言える。また乙第2号証や、上記(2)(ア)(イ)(ウ)で挙げた文献から認定できる技術常識を勘案すると、本件特許発明の「金属材料」は、装飾分野での材料の扱いとさしたる違いが認められず、被装飾物の表面上に層着させた際に外観において金属光沢を呈する材料であると解するのが妥当である。そして、以下に詳述するように、本件特許請求の範囲の請求項3に挙げられた材料の幾つかに対しても、金属光沢を呈する可能性がない材料は見当たらないのであるから、当該請求項3に列挙された材料はいずれも「金属材料」であるといえる。

(4)無効理由(1)(ア)?(ウ)について
(無効理由(1)(ア)について)
上記(1)?(3)で述べたように、本件特許発明の「金属材料」の位置付けは、段落【0032】に示されるように、基材表面と被膜層との間に外観上の相異を生じさせ得る材料であること及び基材に層着して形成された被膜層が金属光沢を有するものであることを条件とする対象物を念頭においており、学術上あるいは分類上、金属とされる物質であることを必要としていない。そうすると、本件特許発明においては、その材料自体が必ずしも金属光沢を有しなくても、層着し皮膜層とした際に金属光沢を呈するものであれば、「金属材料」と解するとすることには一定の合理性が認められる。
一方、無効理由(1)(ア)は、「少なくとも金属光沢を有する金属材料」に「酸化チタン」等のように「金属光沢」を有しないものが含まれているため、本件請求項1?8に係る発明は、明確であるとはいえない(審判請求書第7頁第6?8行)というものであるが、酸化チタン自体が白色を呈する場合があるにせよ、表面を滑らかにするなり、顔料のように粒状のものである場合は粒径を変えるなどして正反射率を高めると、例えば乙第2号証の段落【0002】に示されるように「シルバー調」(銀色)と認識されることになる。
そうすると、酸化チタンを材料として金属光沢を有する被膜を得られる事実があることは明らかであるから、上記(3)に示したように、酸化チタンを「金属材料」として扱うことに何ら矛盾はないといえる。
したがって、上記記載に矛盾はなく、本件請求項1?8に係る発明は、明確である。
(無効理由(1)(イ)について)
請求人は、「ダイヤモンドライクカーボン」は学術用語であるとは認められないため(特許法施行規則第24条 様式第29 備考7参照)、本件請求項1?8に係る発明は明確であるとはいえない(審判請求書第7頁第14?16行)と主張するが、上記備考7を参照すべきとされる条文は第36条第6項第4号であって、無効理由とされない事由である。そもそも請求人が挙げた無効理由1は同条同項第2号であることを鑑みると、違反を形成する要件に該当しないことは明らかである。
仮に、請求人の主張が当該用語が対象を定め得ない用語であるとの趣旨であると善解した場合であっても、「ダイヤモンドライクカーボン」及び「DLC」は周知の用語(例えば乙第3?5号証)であり、かつ当該表現により対象を誤認する格別の事情もないから、単に学術用語でないとの理由のみをもって、請求項1?8に係る発明が明確でないということはできない。
(無効理由(1)(ウ)について)
上記(3)で示したように、本件特許発明に特定された「金属材料」は、その材料自体が必ずしも金属光沢を有しなくても、層着し皮膜層とした際に金属光沢を呈するものであれば、純金属に限らず「金属材料」と解釈すべきである。
一方、無効理由(1)(ウ)は、「少なくとも金属光沢を有する金属材料」に「酸化珪素」等のように「金属材料」に該当しないものが含まれているため、本件請求項1?8に係る発明は、明確であるとはいえない(審判請求書第8頁第5?7行)というものであるが、乙第18号証の1(1376頁右欄29行?1377頁左欄6行)には、酸化珪素皮膜について、以下のとおり記載されている。
「酸素濃度25vol%以下の作動ガスでスパッタした場合、生成される皮膜は金属光沢を持ったSiO_(X)(X<2)となる。酸素濃度25vol%以上では、酸素濃度によらず、透明な二酸化珪素(SiO_(2))皮膜が生成される。珪素の化学結合状態は、SiO_(X)(0<X<2)皮膜中では純珪素(Si)中のそれと、二酸化珪素(SiO_(2))中のそれとが混在していることが、SiK線のスペクトルから推察される。」
このように、酸化珪素は、皮膜として形成した際には金属光沢を有する材料であると扱われているから、本件発明にいう「金属材料」である。
したがって、上記記載に矛盾はなく、本件請求項1?8に係る発明は、明確である。
(「金属材料」は純金属に限られる旨の請求人の主張について)
請求人は、口頭審理(調書請求人2)において、請求項1に記載の「金属材料」について、金属光沢は自由電子による作用であるから、本件特許発明の「金属材料」は、「金属光沢を有する」以上、純金属に限られるとも主張しているが、上記主張は、金属光沢を呈するメカニズムが自由電子の作用によるものとした原理を挙げたものであり、これとは別異のメカニズム、例えば構造色により光沢を呈するタマムシやチョウのさなぎも金属光沢を呈することが知られていることを考えると、純金属に限らず、非金属であっても金属光沢を呈する関係にあるといえる。したがって、金属光沢の発現は純金属に限られずに存在する関係にあるから、請求人の主張は論理を欠くものであり、採用することはできない。

(5)無効理由(1)(エ)について
無効理由(1)(エ)は、「などの」という表現に、どのような成分が含まれるのかが不明であるから、請求項2、3、4、6、7及び8に係る発明、並びにこれらの請求項に係る発明を包含する請求項1及び5に係る発明は、明確であるとはいえない(審判請求書第8頁第10?13行)というものである。しかし、本件の場合、「などの」とした表現は、その直後の名詞を限定的に修飾する用法で用いられており、その結果、請求項2、6の「無電解メッキ」「真空メッキ」、請求項3、7の「金属」「合金」、請求項4、8の「有機樹脂」「無色透明樹脂」といった用語の意味を、一層、容易に理解し得るものといえるから、この表記の存在によって直ちに、請求項2、3、4、6、7及び8に係る発明、並びにこれらの請求項に係る発明を包含する請求項1及び5に係る発明が明確でないとまではいえない。


2 無効理由2について
無効理由2は、要するに、酸化珪素、ウランなどによる金属被膜層の形成が発明の詳細な説明には記載されていないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定された要件(サポート要件)に適合しない、というものである。

そもそも、当該主張を要旨とするには、酸化珪素の膜形成が本件出願時点で当業者に困難とされる事情が必要とされるところであるが、酸化珪素膜を形成する方法は周知である(例えば乙第8号証の段落【0022】?【0024】、乙第9号証の段落【0005】【0025】【0029】等参照)。しかも、上記1で述べたとおり、本件の場合、請求項2?4、6?8に記載の「などの」という表現は、その直後の名詞を限定的に修飾する用法で用いられており、「などの」があることにより、請求項2、6の「無電解メッキ」「真空メッキ」、請求項3、7の「金属」「合金」、請求項4、8の「有機樹脂」「無色透明樹脂」といった用語の意味を、一層、容易に理解し得るため、膜の形成に用いる手法が最初から示されている状況でもある。
したがって、請求項1、5に係る発明はサポート要件を満たすものである。また、同様の理由により、請求項2?4、6?8に係る発明もサポート要件に適合しないものとはいえない。

(請求人の主張について)
(ア)請求人は、審判請求書(第9頁第5?13行)において、「酸化珪素」などは、甲第2号証に記載されているとおりフッ化水素以外の酸に溶解しないものであるにも関わらず、どのようにして当該「酸化珪素」を金属材料として用い電気メッキ等の手法によって金属被膜層(2)を形成させるかサポートされていない旨を主張するが、本件請求項2及び6には、「・・・の何れかによって形成されていることを特徴とする」と記載されており、いずれかの方法によって形成することができれば足りるものである。さらに、酸化珪素の膜形成は、前記に周知とされた文献を参照することで、どの手法を用いるかも自然と判明できるものでもある。上記のとおり、請求項1?8に係る発明はサポート要件を満たすものであり、単に実施例がないということのみをもってサポート要件に適合しないとはいえない。

(イ)請求人は、審判請求書(第9頁第11?13行)において、「金属材料」の概念に包含されるウランなどの放射性金属、水と接触するだけで爆発的に反応が進行する金属ナトリウムなどの人体に悪影響を及ぼすおそれがある金属、水等との反応性が著しく高い金属を金属材料として用い、どのようにして電気メッキ等の手法によって金属被膜層(2)を形成させるかが本件明細書には具体的に記載されているものとは認められない、と主張するが、上記1(3)で示したように、本件特許発明の「金属材料」とは基材に対して層着した際に形成される被膜層が金属光沢を有するものであると解釈すべきところ、ウランや金属ナトリウムがそのような材料であることを示す証拠もないから、これらを根拠とする主張を採用することはできない。

3 無効理由3について
無効理由3は、要するに、金属被膜層を形成させるための具体条件が示されていないから、本件特許は実施可能要件に適合しない、というものである。

本件明細書の【発明を実施するための形態】には、金属被膜層の形成について、以下のとおり記載されている。
「【0020】
しかして、本発明の装飾構造を構成するにあっては、基材(1)の表裏両面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2)を形成する。基材(1)の具体的な材料としては、合成樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エポキシ、ポリカーボネート、アセチルセルロース(アセテート)、ナイロン、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリイミド、フッ素系樹脂など)などを採用することができ、本実施形態では、アセチルセルロースを採用する。
【0021】
また、コーティングの対象とする前記基材(1)による装飾品としては、眼鏡、ライター、時計、イヤリング、ブレスレット、ネックレス、指輪、筆記具、携帯電話などから選択することができ、本実施形態では、眼鏡のテンプルについて採用する。
【0022】
そして、この金属被膜層(2)を形成するには、電気メッキ、または、化学メッキ、置換メッキなどの無電解メッキ、または、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの真空メッキ、または、溶融メッキの何れかの方法を採用し得る。本実施形態では、定着性の優れたスパッタ方式のイオンプレーティング法を使用することにより、確実かつ強固に層着させることができる。
【0023】
具体的には、基材(1)をイオンプレーティング装置内に取り付け、アルゴン雰囲気中で基材表面をボンバードクリーニングする。この際、定着性の観点から、前処理として、前記基材(1)の表面にエッチング処理を施すのが好ましい。次いで、この表面に、金属被膜層(2)としてチタンメッキ被膜をスパッタ方式のイオンプレーティング法により形成する。
【0024】
なお、前記金属被膜層(2)の金属材料としては、アルミニウム、チタン、モリブデン、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、金、銀、銅、鉄などの金属、黄銅(Cu-Fe)、ステンレス(Fe-Ni-Cr)、青銅(Cu-Sn)などの合金、酸化珪素、酸化チタン、ITO(酸化インジウムスズ)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、窒化チタン、炭化チタンなどを採用することができ、反射率が高い銀やアルミニウムを用いるのが好ましい。
【0025】
また、上記金属材料のうち、合金材料については、合金成分間で昇華速度の差があることから、真空蒸着法やイオンプレーティング法が適さないため、超高真空スパッタ法などを採用する。また、酸化物や窒化物については、チャンバー内の雰囲気ガスにより生成することができる。」

上記の記載から、
(1)本発明の装飾構造を構成する上で必要となる記載の具体候補を、本件明細書では示した事実(段落【0020】)、用いる手法の具体的提示を伴った事実(段落【0022】)、手法として、イオンプレーティング法を選択した場合、必要とされる処理手順を示した事実(段落【0023】)、金属材料の具体候補を示した事実(段落【0024】)、イオンプレーティング法が向かない材料を用いたい際は、別の手法を用いるべきものとした事実(段落【0025】)、材料として、酸化物、窒化物を選択した場合にチャンバー内のガスで生成を図るとして説明を行った事実(段落【0025】)がある。
(2)この金属被膜層を形成するには、電気メッキ、または、化学メッキ、置換メッキなどの無電解メッキ、または、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの真空メッキ、または、溶融メッキの何れかの方法を採用し得ることが理解でき、実施する場合にどのようにすればよいかの情報開示はなされている。
また、乙第10?16号証及びこれまでに被請求人が提出した証拠(特に、以下に示す乙第8、10、11号証等)によれば、
(3)以下の(ア)?(ウ)に示すように、さらに詳細な条件が公知であると扱うべき事実を確認できる。
(ア)乙第8号証(特許第3913902号公報)
プラスチック製の場合を含むつけ睫毛に、金属、又は金属酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物等の金属化合物からなる薄膜層3を形成する方法に関して、薄膜層を形成する方法として、PVD、CVD、化学メッキ等があること、PVD処理法には、例えば、蒸着法、ガス中蒸発法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等が含まれること、蒸着法には、例えば、化学蒸着法、同時蒸着法、フラッシュ蒸着法、単純蒸着法及び分子線蒸着法等が含まれること、スパッタリング法には、例えばDCスパッタリング法、RFスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法及びSガン法等が含まれることが記載され(段落【0022】?【0026】)、さらに具体例として、
「( 実施例1 )
以下に説明するように、つけ睫毛であって、睫毛部分上に、チタンから成る第一層と、酸化チタンから成る第二層とを順次設けてなる、図4 に示されるものと同様の構造のつけ睫毛を製造した。
先ず、市販の人毛製のつけ睫毛をスライドガラスに貼り付け、イオンビームスパッタ装置(日新電気株式会社製)でアルゴンガスを用いて、6×10^(-3)Paの圧力条件下で、チタンを1000Å堆積し、第一層を成膜した。
次に、酸素ガスを全圧力1.1×10^(-2)Paになるまで導入し、酸化チタン膜をスライドガラスが緑色になるまで約2000Åの厚さに堆積し、第二層を成膜した。」(段落【0065】【0066】)
と記載されている。
(イ)乙第10号証(特開平6-270597号公報)
材質がプラスチックの場合を含む基材をめっきするための手段に関して、上記基材に施されるめっきは、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、カドミウム、コバルト、クロム、スズ、白金族、合金などの中から、使用された基材や研磨材、および装飾後め所望の色あいなどを考慮して適宜選択され、また、めっき方法も電気めっき、無電解めっき(化学めっき)、溶融めっき、衝撃めっきなどの中から適宜選択され得ることが記載され(段落【0005】?【0006】)、さらに具体例として、
「実施例1
鉄鋼板から成形して製造したライターを銀めっき浴(シアン化銀36g/l,シアン化カリウム60g/l,炭酸カリウム15g/l)中に浸漬し、20?30℃、0.5?1.5A/dm^(2 )で電気めっきして数μmの厚さの銀めっきを施す。次に、銀めっきをしたライターを黒色クロムめっき浴(クロム酸200g/l,スルファミン酸アンモニウム10g/l)中に浸漬し、30℃以下の温度、50A/dm^(2 )で数秒間電気めっきして黒色クロムめっきを施す。乾式バレル装置のメディアとして粗仕上げ用のバレル研磨材〔商品名:Gチップ(ヒシ形),日本磨料工業株式会社製〕を用いて、上記の2層のめっきを施したライターにバレル研磨を施し、5分、10分、30分および1時間後に数個ずつ取り出した。
各々の時間研磨処理したライターに仕上げ塗装として、セルロース誘導体塗料の一種であるクリアラッカーをスプレー塗装した。研磨時間が少なかったものほど、黒色が多かったが、いずれも、銀色の地に黒色がまだらに入った、いわゆる大理石様の模様が施され、かつ、銀めっきに形成された凹凸が光を散乱させ、通常の単色のものに比べはるかに美麗な高級感のあるライターが得られた。」(段落【0009】)
と記載されている。
(ウ)乙第11号証(特開2000-218999号公報)
材質が合成樹脂の場合を含む部材本体5に金属からなる光輝層7を形成するための手段に関して、このような光輝層7を部材本体5上に形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD(物理的気相成長)法や、或いは、P-CVD(プラズマCVD)法、MOCVD(有機金属CVD)法等のCVD(化学的気相成長)法、又は、湿式メッキ法等を用いることが可能であり、このような方法によって、部材本体5上に光輝層7をコーティングできることが記載されている。(段落【0010】?【0012】)

上記(1)?(3)から、請求人が主張する具体条件が当業者に相当に不知であるとする事情はない。したがって、本件発明の実施は当業者であれば容易になし得たものということができ、本件特許は実施可能要件に適合しないものとはいえない。

(請求人の主張について)
請求人は、審判請求書(第10頁第10?15行)において、本件発明の詳細な説明には、金属被覆層(2)を形成させるための具体条件が記載されていないため、当該条件が何ら記載されていない下で前記金属被覆膜(2)を形成することは、当業者といえども過度の試行錯誤を要する旨を主張するが、上記のとおり、当業者が金属被膜層を形成する上で必要な条件は充足しているから、本件の発明の詳細な説明に、金属被覆層を形成させるための具体条件が記載されていないことのみをもって実施可能要件に適合しないとはいえない。


4 無効理由4-1について
無効理由4-1は、要するに、請求項1?8に係る発明は、甲第3号証に記載の発明に甲第4号証に記載の発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を有しない、というものである。

(1)本件特許発明1と甲第3号証発明とを対比する。
甲第3号証発明の「全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材」は、光線を80%以上透過することから、本件特許発明1の「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材」に相当する。
甲第3号証発明の「貴金属等の金属素材をスパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等により積層した金属層」は、金属光沢を有することが明らかであるから、本件特許発明1の「少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層」に相当する。
甲第3号証発明の「Qスイッチパルスレーザーを用いて、両面の金属層を同時に除去したレーザー加工部」は、表裏面で対称形状に設けられ、基材の表面が露出しているものであるから、本件特許発明1の「レーザー光が照射されることにより設けられた剥離部」に相当する。
甲第3号証発明の「バイオセンサ用電極」は、本件特許発明1の「物品」に相当する。

したがって、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層が形成されている一方、
この金属被膜層の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部において前記基材の表面が露出している物品の構造。」

そして、以下の点で、相違しているものと認められる。
[相違点1]
本件特許発明1では、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」いる「物品の表面装飾構造」であるのに対し、甲第3号証発明では、表裏面に「レーザー加工部が形成されている」「バイオセンサ用電極」である点。
[相違点2]
本件特許発明1では、「基材および金属被膜層がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層によって被覆されて、前記金属光沢による装飾模様の表面が保護されている」のに対し、甲第3号証発明では、そのようなものではない点。

(2)[相違点1]について検討する。
装飾模様について、本件特許請求の範囲の請求項1には、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」と規定されており、「装飾模様が形成されて」いることは、「物品の表面装飾構造」に係る本件特許発明1が前提とする基本的な役割である。
一方、甲第3号証の「バイオセンサ用電極」は専ら機能にのみ基づいて配置されたり形成され、そもそも「装飾」の概念がないものであるから、甲第3号証において「バイオセンサ用電極」の表裏面に形成される「レーザー加工部」は、たとえある種の「模様」とはいえても、「装飾模様」には該当しない。
このように、「模様」の担う基本的な役割が相違するから、甲第3号証発明における「レーザー加工部が形成されている」「バイオセンサ用電極」から、甲第3号証に開示のない「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」いる「物品の表面装飾構造」への役割変更は、技術的思想の創作を変更することを意味すると判断され、上記[相違点1]に係る構成が、当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
(請求人の主張について)
請求人は、審判請求書(第11頁第11?18行)において、甲第3号証には、請求項1に係る発明の「・・・装飾模様(P)が形成されており」が記載されていると主張するが、上記に示したとおり、甲第3号証に記載の電極が「模様」を構成するものであったとしても、それが「装飾」のための「模様」であるとまでいうことはできない。

(3)[相違点2]について検討する。
上記(2)で述べたように、甲第3号証に開示された「バイオセンサ用電極」に形成される「レーザー加工部」は「装飾模様」には該当しないものであり、甲第3号証は物品の表面装飾に関するものではないから、甲第4号証に「保護膜」が開示されているとしても、甲第3号証発明の「酵素層」を甲第4号証に示された「保護膜」に置換するとか、甲第3号証発明の「バイオセンサ用電極」の発明に甲第4号証に示された「保護膜」を付加することの動機付けがあるとは認められない。
しかも、甲第3号証発明は、「酵素電極法」に基づく「バイオセンサ用電極」に係る発明であり、「電極(測定極、対極、参照極)」の上に「酵素層」を形成して酸素と接する「酵素電極」とすることが不可欠であるところ、仮に「電極(測定極、対極、参照極)」の上に甲第4号証記載の保護膜を設けたとすれば、「酵素電極」が酸素と接することができなくなり、バイオセンサとしての役目を果たし得なくなる。
したがって、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の構成が、当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
(請求人の主張について)
請求人は、口頭審理陳述要領書(請求人)(第11頁第4?第12頁第3行)において、甲第4号証に記載の「保護層4」は、本件発明で使用されている「クリアコーティング」と同一であり(同一の技術分野及び同一の作用・機能)、その使用目的が本件発明と同様に「下地表面の保護」にあることから(課題の共通性)、甲第4号証に記載の発明は、本件発明とは技術的関連性を有し、甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明は、いずれも、本件発明とは「技術的関連性」を有する旨を主張する。
しかし、請求人の主張する「技術的関連性」は、甲第3号証及び甲第4号証と本件特許発明とを個別に対比した場合に見出されるものに過ぎないものであって、それをもって直ちに両文献から「本件特許発明に容易に想到できたことの論理付け」が構築されたことにはならないものである。甲第3号証は物品の表面装飾に関するものでないから、甲第4号証と組み合わせる動機付けがない。
たとえ甲第3号証に記載の発明を「レーザー加工方法」の発明(第1発明)というように上位概念化して把握することができたとしても、同発明の必要性はあくまでバイオセンサ用電極の製造方法との関連において示されているに過ぎず、それを超えて相違点2のように構成する必要性ないし動機付けまで開示されているものではない。

(4)作用効果について
本件明細書、並びに技術常識に鑑みれば、本件特許発明1は[相違点1][相違点2]に係る構成により、高級感のある装飾模様を簡単に形成することができるといった優れた作用効果を生じるものである。

(5)小括
したがって、本件特許発明1は甲第3号証発明に甲第4号証に記載の発明を適用して当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

(6)本件特許発明2?4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものであるから、少なくとも、前記(1)に示した[相違点1]及び[相違点2]で甲第3号証発明と相違する。
そうすると、本件特許発明1は、上記(5)に示したとおり、甲第3号証発明及び甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであるから、本件特許発明1をさらに限定した本件特許発明2?4は、甲第3号証発明及び甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(7)本件特許発明5と甲第3号証方法発明とを対比する。
甲第3号証方法発明の「全光線透過率が80%以上である高分子フィルム基材」は、光線を80%以上透過することから、本件特許発明5の「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材」に相当する。
甲第3号証方法発明の「貴金属等の金属素材をスパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法等により積層した金属層」は、金属光沢を有することが明らかであるから、本件特許発明5の「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層」に相当する。
甲第3号証方法発明の「前記基材の表面を表裏面で対称形状に露出させたレーザー加工部」は、両面の金属層をQスイッチパルスレーザーを用いて同時に除去して形成したものであるから、本件特許発明5の「金属被膜層の少なくとも一部に設けた剥離部」に相当する。
甲第3号証方法発明の「バイオセンサ用電極」は、本件特許発明5の「物品」に相当する。

したがって、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層を透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材の表裏に位置する表面に層着し、
この金属被膜層の少なくとも一部に設けた剥離部をレーザー光照射により剥離して前記基材の表面を表裏面で対称形状に露出させる物品の加工方法。」

そして、以下の点で、相違しているものと認められる。
[相違点1’]
本件特許発明5では、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様を表出させ」る「表面装飾加工方法」であるのに対し、甲第3号証方法発明では、「基材の表面を表裏面で対称形状に露出させたレーザー加工部を形成する」「バイオセンサ用電極の加工方法」である点。
[相違点2’]
本件特許発明5では、「基材および金属被膜層をそれぞれ表出させた状態で、これらの表面に透光性を有する合成樹脂材料を被覆してクリアコーティング層を形成し、このクリアコーティング層で前記金属光沢による装飾模様(P)の表面を保護するようにした」のに対し、甲第3号証方法発明では、そのようなものではない点。

[相違点1’]については、上記(2)[相違点1]についての検討と同様である。
[相違点2’]については、上記(3)[相違点2]についての検討と同様である。

しかも、本件明細書、並びに技術常識に鑑みれば、本件特許発明5は[相違点1’][相違点2’]に係る構成により、上記(4)に記載の作用効果を生じるものである。
したがって、本件特許発明5は、甲第3号証方法発明に甲第4号証に記載の発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)本件特許発明6?8は、本件特許発明5の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものであるから、少なくとも、前記(7)に示した[相違点1’]及び[相違点2’]で甲第3号証方法発明と相違する。
そうすると、本件特許発明5は、上記(7)に示したとおり、甲第3号証方法発明及び甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであるから、本件特許発明5をさらに限定した本件特許発明6?8は、甲第3号証方法発明及び甲第4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないものである。

(9)無効理由4-1についてのまとめ
よって、請求人の主張する無効理由4-1によっては、本件特許発明1?8についての特許を無効とすることはできない。


5 無効理由4-2について
無効理由4-2は、要するに、請求項1?8に係る発明は、甲第5号証に記載の発明に甲第3、4号証に記載の発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、進歩性を有しない、というものである。

(1)本件特許発明1と甲第5号証発明とを対比する。
甲第5号証発明のCr等の「金属薄膜」は、基板の表裏に位置する表面に被覆され、金属光沢を有することが明らかであるから、本件特許発明1の「少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層」に相当する。
甲第5号証発明の「レーザ光を照射することにより上記両膜の被照射部を同時に除去して形成された所定のパターン」は、両膜の被照射部を同時に除去して形成され、表裏面で対称形状に設けられたものであるから、本件特許発明1の「レーザー光が照射されることにより設けられた剥離部」に相当する。
甲第5号証発明の「被覆基板」は、甲第5号証の記載によれば「自動車のアウターミラー」、「防曇効果を有する鏡」などの用途に用いられるものであり、本件特許発明1の「物品」に相当する。

したがって、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「基材の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層が形成されている一方、
この金属被膜層の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部において前記基材の表面が露出している物品の構造。」

そして、以下の点で、相違しているものと認められる。
[相違点X]
本件特許発明1では、基材が、「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材」であるのに対し、甲第5号証発明では、「レーザ光を透過しうるような基板」である点。
[相違点Y]
本件特許発明1では、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されており、基材および金属被膜層がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層によって被覆されて、前記金属光沢による装飾模様の表面が保護されている」「物品の表面装飾構造」であるのに対し、甲第5号証発明では、「パターン形成後に、該導電膜上全面に透明な絶縁膜が形成され前記導電膜の表面が保護されている被覆基板」である点。

(2)[相違点Y]について検討する。
装飾模様について、本件特許請求の範囲の請求項1には、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」と規定されており、「装飾模様が形成されて」いることは、「物品の表面装飾構造」に係る本件特許発明1が前提とする基本的な役割である。
一方、甲第5号証に記載の発明における「パターン」は静電容量を計測するためのものであって、美感を目的に形成されたものではないから、甲第5号証に開示された被覆基板の「パターン」は、たとえ「模様」とはいえても、「装飾模様」には該当しないものである。また、甲第5号証の「パターン」は微細な幅で形成されていると考えられるから、肉眼によって「パターン(溝)」を通して「立体的に装飾模様が見える」という作用効果が得られるとは考えにくいものである。
このように、「模様」の担う基本的な役割が相違するから、甲第5号証に記載の発明における被覆基板の「パターン」から、甲第5号証に開示のない「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」いる「物品の表面装飾構造」に置換えることが、当業者にとって容易であったとはいえない。
したがって、上記[相違点Y]に係る本件特許発明1の構成が、当業者にとって容易に想到し得たものとはいえない。
(請求人の主張について)
請求人は、口頭審理陳述要領書(2)(請求人)(第14頁第14?23行)において、甲第4号証に記載の発明においても「有色保護層(保護層4)」を形成する目的は、パターニングされた薄膜金属層の「表面保護(下地の保護)」にあるから、甲第5号証に記載の発明において、パターン形成後の保護目的で使用されている「透明な絶縁膜」として、甲第4号証に記載の「透明または半透明の樹脂からなる有色保護層(保護層4)」を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである旨を主張しているが、上記(2)で述べたとおり、甲第5号証に記載の発明における被覆基板の「パターン」から、甲第5号証に開示のない「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様が形成されて」いる「物品の表面装飾構造」に置換えることが、当業者にとって容易であったとはいえないから、請求人による上記主張は採用することができない。

(3)小括
上記したとおり、甲第5号証に記載の発明において[相違点Y]にかかる構成を備えることが当業者にとって容易に想到し得たといえない以上、[相違点X]について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第5号証発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明2?4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものであるから、少なくとも、前記(1)に示した[相違点X]及び[相違点Y]で甲第5号証発明と相違する。
そうすると、本件特許発明1は、上記(2)に示したとおり、甲第5号証発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1をさらに限定した本件特許発明2?4は、甲第5号証発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(5)本件特許発明5と甲第5号証方法発明とを対比する。
甲第5号証方法発明のCr等の「金属薄膜」は、基板の表裏に位置する表面に被覆され、金属光沢を有することが明らかであるから、本件特許発明5において基材の表裏に位置する表面に層着する「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層」に相当する。
甲第5号証方法発明の「基板の表裏面で対称形状に露出させた所定のパターン」は、レーザ光を照射することにより両膜の被照射部を同時に除去して形成されたものであるから、本件特許発明5の「金属被膜層の少なくとも一部に設けた剥離部」に相当する。
甲第5号証方法発明の「被覆基板」は、甲第5号証の記載によれば「自動車のアウターミラー」、「防曇効果を有する鏡」などの用途に用いられるものであり、本件特許発明5の「物品」に相当する。

したがって、両発明は、以下の点で一致していると認められる。
「少なくとも金属光沢を有する金属材料からなる金属被膜層を基材の表裏に位置する表面に層着し、
この金属被膜層の少なくとも一部に設けた剥離部をレーザー光照射により剥離して前記基材の表面を表裏面で対称形状に露出させる物品の加工方法。」

そして、以下の点で、相違しているものと認められる。
[相違点X’]
本件特許発明5では、基材が、「透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材」であるのに対し、甲第5号証方法発明では、「レーザ光を透過しうるような基板」である点。
[相違点Y’]
本件特許発明5では、「基材の外観と残存した金属被膜層の金属光沢との相異により装飾模様を表出させ、
基材および金属被膜層をそれぞれ表出させた状態で、これらの表面に透光性を有する合成樹脂材料を被覆してクリアコーティング層を形成し、このクリアコーティング層で前記金属光沢による装飾模様の表面を保護するようにした」「表面装飾加工方法」であるのに対し、甲第5号証方法発明では、「パターン形成後に該導電膜上全面に透明な絶縁膜を形成し、前記導電膜の表面が保護されている」「被覆基板の加工方法」である点。

[相違点Y’]については、上記(2)[相違点Y]についての検討と同様である。

したがって、甲第5号証に記載の発明において[相違点Y’]にかかる構成を備えることが当業者にとって容易に想到し得たといえない以上、[相違点X’]について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第5号証方法発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件特許発明6?8は、本件特許発明5の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものであるから、少なくとも、前記(5)に示した[相違点X’]及び[相違点Y’]で甲第5号証方法発明と相違する。
そうすると、本件特許発明5は、上記(5)に示したとおり、甲第5号証方法発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明5をさらに限定した本件特許発明6?8は、甲第5号証方法発明及び甲第3、4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものである。

(7)無効理由4-2についてのまとめ
よって、請求人の主張する無効理由4-2によっては、本件特許発明1?8についての特許を無効とすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠によっては、本件特許発明1?8に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-29 
結審通知日 2016-02-03 
審決日 2016-03-07 
出願番号 特願2009-174851(P2009-174851)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B44C)
P 1 113・ 536- Y (B44C)
P 1 113・ 121- Y (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 正博  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 久保 克彦
渡邊 真
登録日 2010-02-26 
登録番号 特許第4465408号(P4465408)
発明の名称 物品の表面装飾構造及びその加工方法  
代理人 木村 俊之  
代理人 鈴江 正二  
代理人 木村 俊之  
代理人 鈴江 正二  

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