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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1324353
審判番号 不服2015-3188  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-19 
確定日 2017-01-25 
事件の表示 特願2012-531427号「薬物の注入のためのインサートを有する配管セット」拒絶査定不服審判事件〔平成23年4月7日国際公開、WO2011/039306、平成25年2月28日国内公表、特表2013-506471号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成22年9月30日(パリ条約による優先権主張 2009年9月30日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月13日に手続補正がなされ、平成26年6月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月22日に手続補正がなされ、同年10月16日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、平成27年2月19日に本件審判の請求がなされ、当審において、平成28年4月15日付けで拒絶理由が通知され、同年7月19日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?11に係る発明は、平成25年9月13日及び平成26年9月22日に補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
患者の血液の血液透析治療を行うための機器(100)と協同で使用するために適する配管セット(126)であって、
患者から該機器(100)のフィルター(106)へ血液を供給するための血液流出管(102)、
フィルター(106)から患者へ血液を戻すための血液流入管(114)、および
患者の血液に補充液を与えるために適する、血液流入管(114)または血液流出管(102)の一方に連結された補充管(116)
を含む配管セットにおいて、該補充管(116)が、薬物の注入のためのインサート(30)を含む、前記配管セット。」

3.引用文献の記載事項

(1)引用文献1
これに対し、本願優先日前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開2007-203044号公報(以下「引用文献1」という。)には、次のように記載されている。なお、下線は、理解の便のため、当審において付したものである。

ア「【請求項1】
血液透析器(14)上に希釈測定場所を設定するための装置であって、
血液透析器入力コネクタ(12)を有する動脈接続要素(1)と、
透析する血液の温度を測定するためのセンサ(30)および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するためのセンサと、
血液透析器出力コネクタ(13)を有し、かつ、当該静脈接続要素(2)を通って流れる透析した血液にボーラスを注入するための注入チャンネル(16)を有する静脈接続要素(2)と、
を有する装置。」

イ「【0023】
図1は、本発明による装置を示す。本装置の動脈接続要素1、および静脈接続要素2は、別体の構成部品として構築する。血管アクセスとして、動脈接続要素1は、動脈瘻針3と接続し、静脈接続要素2は、静脈瘻針4と接続する。瘻針3、4は、どの事例でも、研磨した中空針5、プラスチック製把手部品6、ならびにホーススリーブ8、および締め付けクランプ9を有するホース部品7を有する。プラスチック製把手部品6は、例えば、動脈血管アクセスは赤、静脈は青として、色別に印を付けるのが好ましい。
【0024】
接続要素1、接続要素2と、瘻針3、瘻針4との間の接続は、例えば、動脈接続要素1について示すように、単純なホースタップ接続11により構築するか、または、静脈接続要素2について示すように、例えば、ルアーロック型接続10、または別のワンタッチ接続による何らかの別の方法でも構築できる。動脈接続要素1上の血液透析器入力コネクタ12、および動脈接続要素2上の血液透析器出力コネクタ13は、例えば、ルアーロックナット15により、血液透析器14のコネクタとワンタッチ接続できるように構築するのも好適である。
【0025】
静脈接続要素2は、注入チャンネル16を有し、それを通じて、希釈測定を実行するのに必要なボーラス(bolus:薬剤又は検査試薬)を、血液透析器出力コネクタ13から静脈血管アクセスの方向に、静脈接続要素2を通って流れて来る血液に注入できる。血液透析器を閉止した時(すなわち、血液透析器14を通る血流39が停止する時)、注入液が、血液透析器の方に向かって、血液透析器出力コネクタ13を通過するのを防ぐための、血液透析器出力コネクタ13の領域にあるオプションとして提供されるバルブは図示していない。これは単純なキックバックバルブとすることができるが、代替として、(半)自動、または手動バルブ、例えば、接続した血液透析器14が電子的に制御する、血液透析器14を閉止した時に閉じるソレノイドバルブでもよい。
【0026】
図示の注入チャンネル16は、注射器、注入ポンプ、または注入液を供給する他の装置を接続できるコネクタ17を有する。注入ポンプは、注入測定のための評価ユニット21としても役立つ装置を介して制御すると有益である。
・・・
【0034】
図2に示す、本発明による装置の機能の構造、および方法は、図1との関連で説明したものと基本的に同一である。しかしながら、動脈および静脈接続要素(1、2)は、共通機能ユニット33として、互いに接続される。瘻針(3、4)を接続するためのワンタッチ接続を、両血管アクセスに提供する。」

ウ「【0035】
図2によるか、またはそれと類似の構造を有する装置33が、血液透析器14に接続される本発明によるシステムを図3に示す。信号線20、29、および31は、本発明による装置33を用いて実行できる熱希釈測定の評価プログラム技術の観点から備えられる評価ユニット21と接続する。
【0036】
動脈および静脈血管アクセスは、どの事例でも、動脈および静脈接続要素(1、2)とそれぞれ接続される瘻針(3、4)を介して、透析患者32の動静脈瘻34で行われる。
【0037】
透析する血液は、血液ポンプ35により送られて、動脈血管アクセスから、動脈接続要素1を通って、血液透析器14に向かって流れる。一般に、血液にはヘパリンが添加されている。大きな膜表面40を備える実際の透析部36では、浸透液との膜浸透物質交換、従って「血液浄化」が行われる。浸透液流37は、基本的に従来の血液透析器と同様に実装できる本明細書で詳細に示す複雑なバランスシステム38を通る。浸透液の電解質、および流体の含有量は、バランスシステム38で正確に調整され、更に浸透液は、限外濾過され、熱交換器により予熱され、気体を除去し、そして漏出血液を検査する。
【0038】
血流39が、実際の透析部36内の膜表面40上を流れた後、空気トラップ42を通過して、血液透析器出力コネクタ13を通って、静脈接続要素2に入る。そこから、静脈血管アクセスを通って患者32の血流41に返血される。
【0039】
静脈接続要素2では、注入チャンネル16を経由してボーラスを注入できるが、このボーラスの温度は、血液温度と異なる。その温度、時間ポイント、および適用可能なら、ボーラス注入継続時間も、温度センサ18、およびリードスイッチ28を用いて、上記の方法で測定し、その測定値を評価ユニット21に渡すのが好ましい。」

エ 上記記載事項ウの「血液透析器14に接続される本発明によるシステム」について、図3の図示内容、及び、当該システムにおける血流39の記載(上記記載事項ウ)に照らせば、当該システムは、患者から、動脈血管アクセス、動脈接続要素1及び血液ポンプ35を通って、血液透析器14の透析部36へ血液を供給するための管(血液流出管)と、血液透析器14の透析部36から、空気トラップ42、静脈接続要素2及び静脈血管アクセスを通って、患者へ血液を戻すための管(血液流入管)を有するものと認められる。

オ 上記認定事項エの「血液流出管」及び「血液流入管」は、これらの管を併せて「配管セット」といい得るものである。そして、当該「配管セット」は、血液透析器14に接続して血液浄化を行うものであるから、血液透析器14と協同して使用するために適するものであると認められる。

カ 注入チャンネル16は、希釈測定を実行するのに必要なボーラス(薬剤又は検査試薬)を静脈接続要素2を通って流れる血液に注入するものであるところ、上記認定事項エに照らせば、「血液流入管」に流体接続されるものであることは明らかである。
また、注入チャンネル16は、注射器、注入ポンプ等の注入液供給装置を接続できるコネクタ17を有するものであるから、単に、注入液の「流路」の意味だけではなく、注入液供給装置と接続する「管(配管)」の意味で用いられているものと認められる。してみれば、上記認定事項オの「配管セット」には、「管(配管)」たる注入チャンネル16が含まれるものと認められる。

上記記載事項(ア)?(ウ)及び上記認定事項(エ)?(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「血液透析器14と協同で使用するために適する配管セットであって、
患者から該血液透析器14の透析部36へ血液を供給するための血液流出管、
透析部36から患者へ血液を戻すための血液流入管、および
患者の血液に薬物を与えるために適する、血液流入管に流体接続された注入チャンネル16
を含む配管セットにおいて、該注入チャンネル16が、薬物の注入のためのコネクタ17を含む、前記配管セット。」

(2)引用文献2
同じく、本願優先日前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された登録実用新案第3069839号公報(以下「引用文献2」という。)には、次のように記載されている。

ア「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は人工透析に使用する体外循環回路の改良に関する。」

イ「【0005】
【考案の実施の形態】
図1は本考案の体外循環回路1の概略図である。
体外循環回路1は動脈側回路2と静脈側回路3から構成される。
動脈側回路2(以後「A側回路」と略記する)には患者接続部から順に生理食塩液14を補充する生食ライン16、送液ポンプ11に装着するローリングチューブ、へパリンライン15、動脈側ドリップチャンバー12を配置しダイアライザー13(以後「DL」と略記する)に接続している。途中に混注部材を装着する場合がある。
静脈側回路3(以後「V側回路」と略記する)には前記DL13を接続し静脈側ドリップチャンバー4が配置され患者と接続さている。前記動脈側回路2と同様に回路の途中に混注部材を装着する場合がある。前記静脈圧ドリップチャンバー4の上流には補充液ライン5a、その他に圧力モニターライン25やレベル調整ライン(図示せず)を備えている。該レベル調整ライン(図示せず)は混注部材でも良い。また補充液ライン5aや圧力モニターライン25に分岐管等を用いて前記レベル調整ライン(図示せず)を装着する事もできる。
前記補充液ライン5aとは、透析液8を精密濾過フィルター9により清浄化した補充液を静脈側ドリップチャンバー4に導入するラインであり、前記静脈側ドリップチャンバー4の上流に接続された左側の端部から右側端部の接続コネクター24までを含む。さらに該補充液ライン5aの途中にはクランプ17a、エアートラップ6及び補充液ポンプ7に装着するローリングチューブ27が配置されている。」

ウ「【0007】
次に体外循環回路1の使用方法について説明する。
・・・透析液8の一部は前記のように注入ライン18、18fを通り精密濾過フィルター9により濾過された液(以後「ET除去液」と表現する)となり・・・
・・・A側回路2を患者に接続し、充填した生理食塩液を血液と置換して、V側回路3の患者側接続部より置換した血液が出てきた時に患者に接続し送液ポンプ11を作動させ透析を開始する。透析を開始した後クランプ17a、17bを開き補充液ポンプ7を作動させ補充液の供給を開始する。補充液ポンプ7は除水調整装置10で設定する除水量と連動して作動するので該補充液ポンプ7が自動的に調整され、前記ET除去液は補充液として静脈側ドリップチャンバー4に送られ、前記送液ポンプ11の作動により静脈側回路3、患者、動脈側回路2、DL13中に循環させる。
・・・」

上記記載事項ア?ウによれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。

「人工透析に使用する体外循環回路1であって、動脈側回路2及び静脈側回路3から構成されるとともに、該静脈側回路3には、補充液ライン5aを備えた静脈側ドリップチャンバー4が配置され、補充液が該補充液ライン5aを介して、該静脈側回路3、患者及び該動脈側回路2中に循環させる、体外循環回路1。」

4.対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、後者の「血液透析器14」は、その構成及び機能からみて、前者の「患者の血液の血液透析治療を行うための機器(100)」に相当し、以下同様に、「透析部36」は「フィルター(106)」に、「コネクタ17」は「インサート(30)」それぞれ相当する。
また、後者の「患者の血液に薬物を与えるために適する、血液流入管に流体接続された注入チャンネル16」は、その構成及び機能からみて、前者の「患者の血液に補充液を与えるために適する、血液流入管(114)または血液流出管(102)の一方に連結された補充管(116)」と、「患者の血液に流体を与えるために適する、血液流入管に流体接続された管」である限りにおいて共通する。
そうすると、両者の一致点、及び相違点は以下のとおりと認める。

(一致点)
「患者の血液の血液透析治療を行うための機器と協同で使用するために適する配管セットであって、
患者から該機器のフィルターへ血液を供給するための血液流出管、
フィルターから患者へ血液を戻すための血液流入管、および
患者の血液に流体を与えるために適する、血液流入管に流体接続された管
を含む配管セットにおいて、該管が、薬物の注入のためのインサートを含む、前記配管セット。」

(相違点)
患者の血液に流体を与えるために適する管であって、薬物の注入のためのインサートを含む管について、
本願発明は、患者の血液に補充液を与えるために適する、血液流入管(114)または血液流出管(102)の一方に連結された補充管(116)であるのに対して、引用発明1は、患者の血液に薬物を与えるために適する、血液流入管に流体接続された注入チャンネル16である点。

(2)相違点の検討
まず、引用発明1と引用発明2は、共に、血液透析器と協同で使用するために適する配管セットに係るものである。
また、引用発明2の補充液ライン5a(本願発明の「補充管(116)」に相当する。)は、患者の血液に補充液を与えるものであるところ、患者の血液に流体を与えるために適する、血液流入管に流体接続された管である点で、引用発明1の注入チャンネル16と機能を共通するものである。
さらに、機能を共通する複数本の配管を1本の配管にまとめることは、当業者が通常採用しうる周知慣用技術にすぎない(例えば、実公昭63-14858号公報には、2本の透析原液吸込管を1本の透析原液供給管にまとめた点が記載されている。)。
してみれば、引用発明1の注入チャンネル16と引用発明2の補充液ライン5aを組み合わせる動機づけは十分にある。
そして、引用発明1の注入チャンネル16と引用発明2の補充液ライン5aを組み合わせるに当たり、引用発明1の注入チャンネル16に引用発明2の補充液ライン5aの機能を兼ね備えるようにして、これを1本の補充管として、該補充管が引用発明1のコネクタ17を含むものとし、もって、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。

また、本願発明が奏する効果も、引用発明1及び2から当業者が予測できたものであり、格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成28年7月19日付け意見書において、引用発明1の注入チャンネル16は、希釈測定の実行に必要なボーラスを注入するためのもので、ボーラスの注入は必要なときに随時行われ、継続的でないのに対して、引用発明2の補充液ライン5aは、補充液の導入を継続的に行うものである。
このように、引用発明1の注入チャンネル16と引用発明2の補充液ライン5aは、その機能が全く異なるから、これらを統合して1本の配管とする動機がない。また、統合して1本の配管にすると、引用発明1のコネクタ17を連結することができない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び2から容易に発明をすることができたものではない旨主張している。

しかしながら、引用発明1の注入チャンネル16と引用発明2の補充液ライン5aとの間で、注入液の注入について頻度が異なるからといって、上述した両者を組み合わせる動機が否定されたり、両者の組合せが阻害されることはない。また、両者を統合して1本の配管にすることをもって、論理必然的に、コネクタ17の構成や機能が阻害されることもない。配管の統合とコネクタ17の存続は、両立し得るものである。したがって、審判請求人の主張は理由がない。

5.むすび

本願発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-22 
結審通知日 2016-08-29 
審決日 2016-09-09 
出願番号 特願2012-531427(P2012-531427)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 宮下 浩次
平瀬 知明
発明の名称 薬物の注入のためのインサートを有する配管セット  
代理人 村上 博司  
代理人 松井 光夫  

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