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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1324364 |
審判番号 | 不服2015-13326 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-13 |
確定日 | 2017-01-25 |
事件の表示 | 特願2011-548605「多重特異性ペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月12日国際公開、WO2010/089115、平成25年 5月23日国内公表、特表2013-518807〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2010年2月4日を国際出願日とする出願であって、平成26年5月15日付け拒絶理由通知に対して、平成26年9月24日付けで意見書が提出されたが、平成27年3月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成27年7月13日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年7月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正により、特許請求の範囲は、 補正前の 「【請求項1】 3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ2以上の別個の標的と結合する能力のあるポリペプチドを含む、多重特異性ペプチドリガンドを提供するための方法であって、 (a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップと、 (b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップと、 (c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループと連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップと、 (d)前記複合ポリペプチド(1または複数)を、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場にコンジュゲートするステップと を含む、方法。 【請求項2】 前記第1および第2のレパートリを、第1および第2の標的との結合についてスクリーニングして、ステップ(c)で用いた前記1以上のメンバーを単離する、請求項1に記載の方法。 ・・・ 【請求項19】 2以上の標的と結合することが可能である、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場と共有結合したポリペプチドを含む多重特異性ペプチドリガンド。 ・・・」 から、 補正後の 「 【請求項1】 3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ2以上の別個の標的と結合する能力のあるポリペプチドを含む、多重特異性ペプチドリガンドを提供するための方法であって、 (a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップと、 (b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップと、 (c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループと連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップと、 (d)前記複合ポリペプチド(1または複数)を、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場にコンジュゲートするステップと を含み、 前記第1および第2のレパートリを、第1および第2の標的との結合についてスクリーニングして、ステップ(c)で用いた前記1以上のメンバーを単離し、 前記第1および第2の標的が異なる分子である、方法。 ・・・ 【請求項6】 2以上の標的と結合することが可能である、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場と共有結合したポリペプチドを含む多重特異性ペプチドリガンドであって、前記標的が、2以上の異なる分子である多重特異性ペプチドリガンド。 ・・・」 と補正された。 本件補正前後の発明特定事項を対比すると、本件補正後の請求項1は、補正前の請求項2に対応するものである。 また、本件補正後の請求項6は、補正前の請求項19に対応するものである。 そこで、本件補正前の請求項2と補正後の請求項1を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項2における発明を特定するために必要な事項である「第1および第2の標的」について、「第1および第2の標的が異なる分子である」とする補正である。 また、本件補正前の請求項19と補正後の請求項6を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項19における発明を特定するために必要な事項である「標的」について、「標的が、2以上の異なる分子である」とする補正である。 2 本件補正の適否 (1)本件補正の目的について 本件補正は、補正前の請求項2の発明特定事項である「第1および第2の標的」を、「第1および第2の標的が異なる分子である」ものに限定するものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項2に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、本件補正は、補正前の請求項19の発明特定事項である「標的」を、「標的が、2以上の異なる分子である」ものに限定するものであり、かつ、本件補正後の請求項6に記載された発明と本件補正前の請求項19に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、請求項6についても、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2)独立特許要件について そこで、本件補正後の請求項1又は6に記載された発明(以下、本件補正後の各請求項に記載された発明を「本件補正発明1」のように、本件補正発明に請求項の番号を付していう。)が、それぞれ特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か、について検討する。 (2-1)本件補正発明1について ア 引用例に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/098450号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(引用例1は英語で記載されているため訳文で示す。) (A)「複合体を作製する方法であって、以下のステップ: (i)ポリペプチドを含むファージ粒子を用意するステップ、 (ii)連結化合物を用意するステップ、 (iii)上記連結化合物とポリペプチドとの間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物を上記ポリペプチドに結合させるステップ を含む、上記方法。」(請求項8) (B)「本発明は、有利なことに、遺伝的にコード化された多様性、特に遺伝的にコード化されたポリペプチドライブラリーと、化学的修飾及び構造的制約の組合せを可能にする。 さらに、本明細書に開示される方法は、少なくとも3つの共有結合により連結化合物とポリペプチド分子の連結を初めて達成する。これは、ポリペプチドの構造的制約、特に、ポリペプチドの少なくとも2つのセグメントの互いに対する構造的制約という利点をもたらす。対照的に、従来の架橋方法、すなわち、2つの共有結合のみを形成する連結物質の使用では、ポリペプチドの単一セグメントしか制約しない。 本発明の利点はこれらの技術的特徴から生じるものであるが、例えばその三重結合構造により、本発明のコンジュゲート分子は2つ以上のペプチドループを有し、これらループは標的と相互作用することができる。複数の結合ループによって、単一ペプチドループのみを有する分子より高い結合親和性を得ることができる。」(6頁2?18行) (C)「好適には、少なくとも3つの共有結合の各々は、ポリペプチドの個別のアミノ酸残基と一緒に形成される。換言すれば、個別のアミノ酸残基は、好適には個々の又は異なるアミノ酸残基であり、1以上の結合を単一種又は単一型のアミノ酸残基と一緒に形成してもよく、例えば、結合の2つは各々、システイン残基と一緒に形成されたものでもよいが、好適には2つのシステイン残基は個別のシステイン残基である。」(7頁12?17行) (D)「・・・i)少なくとも3つの共有結合により連結化合物に結合したポリペプチドは、少なくとも2つの制約ポリペプチドループを含み、・・・」(13頁1?13行) (E)「本明細書で論じられるように、本発明は、2つ(又はそれ以上)のループの各々が異なる特性を有する環状ペプチド構造の作製も達成する。こうした構造は、単一の分子自体が、同じ全体構造の2つの異なる部分(ループ)に因ると考えられる二重特異性を有する事実を表すために、「二重特異性」と呼ばれる。このような実施形態の利点は、異なる標的(例えば、「抗原」)に結合するように、各ループを選択又は構築することができる点である。これは、本発明の3つの結合系のさらに別の顕著な特徴を示すものである。」(14頁8?14行) (F)「さらに、2つ以上のループを有する利点は、「二重特異性」分子の製造に利用することができ、その場合、1つのループは、特定の特性若しくは結合親和性を有するものか、又はそれについて選択されたものであり、他方のループは、別の特性若しくは親和性について選択されたものである。これらの分子は、「二重特異性分子(bispecifics)」又は「二重特異性分子(dual specifics)」と呼ばれる。複数の種類が考えられる。例えば、以下のものがある: (a)ループ1について選択した後、ループ2(又はそれ以上)について選択することにより作製した二重特異性分子、 (b)2つの連結した二環式大環状分子、 (c)1つの二環式大環状分子とペプチド又は薬物。 (a)の場合、これは、典型的に第1抗原に対するライブラリーの1アリコート、及び第2抗原に対する別のアリコートを作製/選択することにより、実施することができる。次に、例えば標準的技法、例えば、2つのループをコードする核酸セグメントを組換えて、第1ループ及び第2ループの様々な組合せの新規ライブラリーを提供することにより、選択したループを対として組み合わせることができる。次に、対として組み合わせた分子(例えば、ファージ)を両方の抗原に対する結合について逐次スクリーニング及び/又は選択することができる。このようにして、2つの個別の抗原に結合することができる二重特異性分子を作製することができる。当然、この方法は、さらなる任意のステップで増強することができ、例えば、各抗原の結合親和性を各ループの突然変異により改善することができ、その場合、該突然変異は部位指定突然変異でも、又はランダム突然変異であってもよい。 上記方法の変形では、ライブラリーの1アリコートを第1抗原に対する結合について選択することができる。結合に最も重要なループは、例えばバインダーとして選択したものから「共通配列」の検査により同定することができ、また、他方のループは、第2抗原に対してランダム化して、選択することができる。」(15頁6?30行) (G)「合成 目的のポリペプチドを本発明に従い単離又は同定した後、可能な場合はいつでも、その後の合成を単純化することができることに留意すべきである。例えば、目的の配列を決定することができ、また標準的技法による合成で製造した後、in vitroでの連結化合物との反応を実施することができる。これを実施する場合、遺伝的にコード化された担体粒子の機能性又は完全性を保存する必要はもはやないため、標準的化学を用いてもよい。これにより、さらに下流の実験又は確認のための可溶性材料の高速大規模製造が可能になる。これに関して、候補又はリード材料の大規模製造は、Meloen及びTimbermanに開示されているような慣用的化学を用いて達成することができる。 従って、本発明はまた、本明細書に記載のように選択したポリペプチド又はコンジュゲートの製造であって、以下に説明するように任意の別のステップを含む、上記製造にも関する。最も好適には上記ステップは、ファージではなく、化学合成により製造された最終生成物ポリペプチド/コンジュゲートについて実施する。 」(36頁11?27行) (H)「二環式ペプチドの化学合成 N-末端に遊離アミン及びC-末端にアミドを有するペプチドを固相化学(JPT Peptide Technologies、ドイツ、ベルリン)により25 mgスケールで化学的に合成した。1 mlの60%NH4HCO3(pH 8)及び30%ACN(1 mM)中の粗ペプチドをTBMB(1.2 mM)と室温で1時間反応させた。流量2 ml/分でのACN及び0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液から構成される移動相を含むC18カラム及び勾配溶離を用いた逆相高速液体クロマトフラフィー(HPLC)により、反応生成物を精製した。精製したペプチドは、凍結乾燥した後、活性測定のためにDMSO、又は50 mM Tris-Cl(pH 7.8)、150 mM NaClのバッファーに溶解させた。」(60頁11?20行) (I)「[実施例4]複合体の特定決定 化学的に合成したインヒビターの活性及び特異性を調べた。 一次選択で単離した4つの最良のヒト血漿カリクレインインヒビター(PK2、PK4、PK6、PK13)、並びに親和性成熟選択からの最良のインヒビター(P15)の合成ペプチドを固相合成により作製した。ペプチドは、ファージディスプレイされるペプチドの電荷及び化学的環境を厳密に呈示する目的で、N-末端に遊離アミノ基を含むアラニンを、またC-末端にアミド化グリシンを有するように設計した。合成TBMB反応ペプチドは、対応するTBMB反応D1-D2融合ペプチドより約10倍低いIC50を有することがわかった(表A ;図5)。D1-D2融合物としてのペプチドの親和性が低いのは、該ペプチドと遺伝子-3-タンパク質ドメインとの分子内結合、従って、低い見掛けインヒビター濃度に起因するものであろう。TBMB修飾ペプチドPK15の見掛けKiをCheng-Prusoffの式で計算したところ、1.5 nMであることがわかった(Cheng, Y.及びPrusoff, W. H., Biochem. Pharmacol., 1973)。線状、すなわち非制約ペプチドのIC50は、TBMB修飾ペプチドより少なくとも250倍高かった(表A)」(64頁16?32行) イ 引用発明 ア(A)の複合体を作製する方法において、該複合体は、連結化合物とポリペプチドとの間での少なくとも3つの共有結合の形成により、連結化合物をポリペプチドに結合させたものであるところ、ア(D)には、少なくとも3つの共有結合により連結化合物に結合したポリペプチドは、少なくとも2つの制約ポリペプチドループを含むことが記載され、また、ア(B)には、ペプチドループは標的と高い結合親和性で相互作用することができることが記載されている。そうすると、上記複合体は、連結化合物とポリペプチドの間の少なくとも3つの共有結合が形成された、少なくとも2つのループを有するものであり、該ループはそれぞれ標的と高い結合親和性で相互作用することができるものである。さらに、ア(C)によれば、3つの共有結合の各々は、ポリペプチドの個別のアミノ酸残基上に形成されるものである。 してみると、引用例1には、下記の発明(以下、「引用発明1A」という。)が記載されているといえる。 「複合体を作製する方法であって、以下のステップ: (i)ポリペプチドを含むファージ粒子を用意するステップ、 (ii)連結化合物を用意するステップ、 (iii)上記連結化合物とポリペプチドの少なくとも3つのアミノ酸残基との間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物をポリペプチドに結合させ、標的と高い結合親和性で相互作用する、少なくとも2つのループを有する複合体を作製するステップを含む、上記方法。」 ウ 対比 引用発明1Aの「連結化合物」は、ア(B)からみて、ポリペプチドと共有結合することにより、ポリペプチドに対して構造的制約をもたらすものであるから、その役割を同じくする、本件補正発明1の「分子足場」に該当する。また、本件補正発明1の「3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ2以上の別個の標的と結合する能力のあるポリペプチド」なる記載における「ポリペプチド」、及び、ステップ(c)で形成される「ポリペプチド」は、いずれも、2つのループを含むポリペプチドであるから、ステップ(d)に記載の「複合ポリペプチド」と同じものである。一方、ステップ(a)又はステップ(b)で得られる「ポリペプチド」は、いずれも、少なくとも一つのループを含むものであり、上記複合ポリペプチドの一部分となるものである。これに対し、引用発明1Aの「ポリペプチド」は、連結化合物と結合し、少なくとも2つのループを有する複合体を形成するものであるから、本件補正発明1の「複合ポリペプチド」に該当する。そして、引用発明1Aの「連結化合物とポリペプチドの少なくとも3つのアミノ酸残基との間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物をポリペプチドに結合させ、標的と高い結合親和性で相互作用する、少なくとも2つのループを有する複合体」、及び、引用発明1A冒頭の「複合体」は、本件補正発明1の「3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ・・・標的と結合する能力のあるポリペプチドを含む、・・・特異性ペプチドリガンド」に該当する。さらに、引用発明1Aの「(ii)連結化合物を用意するステップ、(iii)上記連結化合物とポリペプチドの間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物を上記連結化合物をポリペプチドに結合させ、標的と高い結合親和性で相互作用する、少なくとも2つのループを有する複合体を作製するステップ」は、本件補正発明1の「(d)前記複合ポリペプチド(1または複数)を、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場にコンジュゲートするステップ」に該当する。そして、引用発明1Aの「(i)ポリペプチドを含むファージ粒子を用意するステップ」も、本件補正発明1の「(a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップと、(b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップと、(c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループと連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップ」及び「前記第1および第2のレパートリを、第1および第2の標的との結合についてスクリーニングして、ステップ(c)で用いた前記1以上のメンバーを単離し」も、ともに、複合ポリペプチドを用意するステップであることに変わりはない。 そうすると、本件補正発明1と引用発明1Aは、 「3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ標的と結合する能力のあるポリペプチドを含む、特異性ペプチドリガンドを提供するための方法であって、 複合ポリペプチドを用意するステップと、 (d)複合ポリペプチド(1または複数)を、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場にコンジュゲートするステップ を含む、方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する(以下、相違点を順に「相違点1」、「相違点2」とする。)。 (相違点1)本件補正発明1では、特異性ペプチドリガンドが2以上の別個の異なる分子を標的とする多重特異性ペプチドリガンドであり、それを用意するステップが、「(a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップと、(b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップと、(c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループと連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップ」及び「前記第1および第2のレパートリを、第1および第2の標的との結合についてスクリーニングして、ステップ(c)で用いた前記1以上のメンバーを単離し」なるステップであって、かつ、「前記第1および第2の標的が異なる分子である」のに対し、引用発明1Aではそのような特定がなされていない点。 (相違点2)ポリペプチドが、本件補正発明1では特段の限定はなされていないのに対し、引用発明1Aは、ファージ粒子に含まれるものである点。 エ 判断 (相違点1について〉 ア(E)には、2つ以上のループの各々が異なる特性を有する環状ペプチド構造の作製も達成すること、こうした構造は、単一の分子自体が、同じ全体構造の2つの異なる部分(ループ)による二重特異性を有するために「二重特異性」と呼ばれることが記載され、その利点は、異なる標的(例えば、「抗原」)に結合するように、各ループを選択又は構築することができることであることが記載されている。また、ア(F)には、ループ1について選択した後、ループ2について選択することにより作製した二重特異性分子について、2つの個別の抗原に結合することができる二重特異性分子であることが記載されている。これらの記載から、引用例1には、2つの別個の異なる分子に結合することができる二重特異性分子とすることが記載されているといえる。 そして、ア(F)によれば、ループ1について選択した後、ループ2について選択することにより作製した二重特異性分子は、典型的に第1抗原に対するライブラリーのアリコート、及び第2抗原に対する別のアリコートを作製/選択し、次に、標準的技法により、選択したループを対として組み合わせることにより作製されるものである。ここで、上記「第1抗原に対するライブラリーのアリコート、及び第2抗原に対する別のアリコートを作製/選択」とは、本件補正発明1における「(a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップ」、「(b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップ」、「第1および第2のレパートリを、第1および第2の標的との結合についてスクリーニングして、ステップ(c)で用いた前記1以上のメンバーを単離」する工程に該当する。また、上記「標準的技法により、選択したループを対として組み合わせ」は、本件補正発明1の「(c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップ」に該当する。 してみると、引用発明1Aの特異性ポリペプチドリガンドとして、別個の異なる分子を標的とする多重特異性ポリペプチドリガンドを採用し、その際に使用する複合ポリペプチドを、本件補正発明1の上記ステップにより作製することは、当業者であれば容易に成し得ることである。 (相違点2について) 本願の発明の詳細な説明の段落【0025】、【0162】、【0170】?【0178】、【0209】?【0220】等に記載されるように、本願のポリペプチドもファージ粒子上にディスプレイされたものを含むから、相違点2は実質的な相違点ではない。 また、仮に、本件補正発明1のポリペプチドがファージ粒子上にディスプレイされたものを含まないものであったとしても、ア(G)?ア(I)によれば、引用例1には、ファージディスプレイされるペプチドに対応する合成ペプチドを固相化学合成により作製すること、すなわち、化学合成したポリペプチドを用いることが記載されているのであるから、化学合成したポリペプチドを用いることに、当業者であれば格別の困難性は見出せない。 (効果について) 引用例1には、2以上の別個の異なる分子を標的とする多重特異性ポリペプチドリガンドとすることが記載されているのであるから、2以上の別個の標的と結合するという本件補正発明1の効果についても、引用例1から当業者であれば予測できる範囲内のものであったといえる。 オ 小括 したがって、本件補正発明1は、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (2-2)本件補正発明6について ア 引用例に記載された事項 引用例1には、上記(2-1)アに記載した事項が記載されている。 イ 引用発明 引用例1に引用発明1Aが記載されていることは、上記(2-1)イに記載したとおりであり、引用例1に、引用発明1A、すなわち複合体を作製する方法が記載されているということは、引用例1には、当該複合体を作製する方法により作製された複合体の発明も記載されているということである。そして、引用発明1Aにより作製される複合体とは、「連結化合物とポリペプチドの少なくとも3つのアミノ酸残基との間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物をポリペプチドに結合させ、標的と高い結合親和性で相互作用する、少なくとも2つのループを有する複合体」である。 よって、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1B」という。)が記載されている。 「連結化合物とポリペプチドの少なくとも3つのアミノ酸残基との間での少なくとも3つの共有結合の形成により、上記連結化合物をポリペプチドに結合させ、標的と高い結合親和性で相互作用する、少なくとも2つのループを有する複合体」 ウ 対比 本件補正発明6と引用発明1Bを対比する。引用発明1Bの「連結化合物」は、本件補正発明6の「分子足場」に該当する。また、引用発明1Bの「複合体」は「標的と高い結合親和性で相互作用する」ものであるから、本件補正発明6の「特異性ペプチドリガンド」に該当する。 そうすると、両者は、「標的と結合することが可能である、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場と共有結合したポリペプチドを含む特異性ペプチドリガンド」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3)特異性ペプチドリガンドが、本件補正発明6では「2以上の標的と結合することが可能」であり、「標的が、2以上の異なる分子」であるのに対し、引用発明1Bでは、そのような特定がなされていない点。 エ 判断 (相違点3について) 上記(2-1)エに記載したとおり、(2-1)ア(E)及び(F)によれば、引用例1には、2つの別個の異なる分子に結合することができる二重特異性分子とすることが記載されているのであるから、引用発明1Bの特異性ペプチドリガンドを、2つの別個の異なる分子に結合する二重特異性分子とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 (効果について) 上記(2-1)エに記載したとおり、引用例1には、2以上の別個の異なる分子を標的とする多重特異性ポリペプチドリガンドとすることが記載されているのであるから、2以上の別個の標的と結合するという本件補正発明6の効果についても、引用例1から当業者であれば予測できる範囲内のものであったといえる。 オ 小括 したがって、本件補正発明6は、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (3)むすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、国際出願時の特許請求の範囲の請求項1?38により特定されるものであるところ、その請求項1及び19に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明19」という。)は、それぞれ次のとおりのものである。 「【請求項1】 3以上のアミノ酸残基で分子足場と共有結合し、かつ2以上の別個の標的と結合する能力のあるポリペプチドを含む、多重特異性ペプチドリガンドを提供するための方法であって、 (a)ポリペプチドの第1のレパートリを準備するステップであって、各々のポリペプチドが、分子足場と共有結合する能力のある2以上の反応性基、および2つの前記反応性基間に内在する2以上のアミノ酸からなる配列を含む少なくとも一つのループを含む、ステップと、 (b)(a)に記載されるポリペプチドの第2のレパートリを準備するステップと、 (c)前記第1のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループを、前記第2のレパートリの1以上のメンバーの少なくとも一つのループと連結して、2つのループを含む少なくとも一つのポリペプチドを形成するステップと、 (d)前記複合ポリペプチド(1または複数)を、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場にコンジュゲートするステップと を含む、方法。」 「【請求項19】 2以上の標的と結合することが可能である、少なくとも3つのアミノ酸位置で分子足場と共有結合したポリペプチドを含む多重特異性ペプチドリガンド。」 第4 本願発明1について (1)引用発明 引用例1に記載された事項は、上記第2(2)(2-1)アに記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明1Aは、上記第2(2)(2-1)イに記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明1は、本件補正発明1における「前記第1・・・単離し、前記第1・・・分子である」との発明特定事項がなく、本件補正発明1の上位概念にあたるものである。 そうすると、本願発明1の下位概念の発明に相当する本件補正発明1が、上記第2(2)(2-1)にて説示したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明1も同様に、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)小括 したがって、本願発明1は、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 第5 本願発明19について (1)引用発明 引用例1に記載された事項は、上記第2(2)(2-1)アに記載したとおりであり、引用例1から認定される引用発明1Bは、上記第2(2)(2-2)イに記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明19は、「標的」を、本件補正発明6の上位概念にしたものである。 そうすると、本願発明19の下位概念の発明に相当する本件補正発明6が、上記第2(2)(2-2)にて説示したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明19も同様に、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)小括 したがって、本願発明19は、引用例1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1及び19は、それぞれ引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-31 |
結審通知日 | 2016-09-02 |
審決日 | 2016-09-13 |
出願番号 | 特願2011-548605(P2011-548605) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹内 祐樹、菅原 洋平 |
特許庁審判長 |
内藤 伸一 |
特許庁審判官 |
新留 素子 大久保 元浩 |
発明の名称 | 多重特異性ペプチド |
代理人 | 奥山 尚一 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 水島 亜希子 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 有原 幸一 |