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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16D
管理番号 1324380
審判番号 不服2016-2920  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-26 
確定日 2017-02-14 
事件の表示 特願2014-160412「電動式ディスクブレーキ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日出願公開、特開2014-206286、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月21日に出願した特願2011-010642号(以下、「もとの出願」という。)の一部を平成26年8月6日に新たな特許出願としたものであって、同年8月28日に手続補正され、平成27年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年6月3日に手続補正され、同年11月24日付け(発送日:同年12月1日)で拒絶査定が通知され、これに対し、平成28年2月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同年9月5日付けで当審において拒絶理由が通知され、同年10月26日に手続補正されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに支持された電動モータと、
前記ハウジング内に組み込まれた軸方向に移動可能な被駆動部材と、
前記電動モータのロータ軸の回転運動を前記被駆動部材の軸方向への直線運動に変換する運動変換機構と、を有し、
前記運動変換機構は、
前記電動モータによって回転駆動される回転軸と、
前記回転軸の外径面と前記被駆動部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラと、
前記遊星ローラを前記回転軸を中心にして回転自在に支持するキャリアと、を備え、
前記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触で前記遊星ローラを自転および公転させることで前記被駆動部材を軸方向に直線移動するものであり、
前記ハウジングに一体に設けられたキャリパボディ内にブレーキディスクの外周の一部を配置し、そのブレーキディスクの両側に固定ブレーキパッドと可動ブレーキパッドとを設け、前記可動ブレーキパッドを前記被駆動部材でブレーキディスクに押し付けて制動力を付与し、可動ブレーキパッドからの軸方向荷重を、前記運動変換機構の遊星ローラとキャリアのインナ側ディスクとの間に組み込まれたスラスト軸受からなる受圧部で受けるようした電動式ディスクブレーキ装置において、
前記可動ブレーキパッドから前記被駆動部材および前記運動変換機構の遊星ローラを介して前記受圧部に負荷される偏荷重を伴なう軸方向荷重の、前記受圧部での周方向の面圧分布の均一化を図る調心機構を、前記被駆動部材の内側であって、前記遊星ローラと前記受圧部との間、または前記受圧部と前記キャリアのインナ側ディスクとの間に設けたことを特徴とする電動式ディスクブレーキ装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
平成27年6月3日付けの手続補正により補正された本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平11-46467号公報

刊行物1(特に、段落[0026]、[0029]-[0031]、[図1]を参照されたい。)に記載された発明における「ハウジング10」、「電動モータ1」、「ピストン6」、「ボールねじ4」、[図1]左側の「ブレーキパッド8」、[図1]右側の「ブレーキパッド8」、「荷重センサ5」が設けられている面、「自動調心軸受6a」は、それぞれ、平成27年6月3日付けの手続補正により補正された本願の請求項1に係る発明における「ハウジング」、「電動モータ」、「被駆動部材」、「運動変換機構」、「固定ブレーキパッド」、「可動ブレーキパッド」、「受圧部」、「調心機構」に相当する。
また、刊行物1の[図1]において「ブレーキパッド8」から「荷重センサ5」に至る軸方向の負荷経路に、「自動調心軸受6a」が配置されているものと認められ、「自動調心軸受6a」は、周方向の面圧分布の均一化の機能を有するものと認められる。
平成27年6月3日付けの手続補正により補正された本願の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比するに、前者は、「調心機構を前記被駆動部材のインナ側に設けた」のに対し、後者はそのような構成を有するか明らかでない点で相違する。
以下、上記相違点について検討する。
調心機構を被駆動部材のどの部分に設けるかは、調心機構の組み付け性等に応じて当業者が適宜選択する設計事項であり、調心機構をインナ側に設けることによる格別な効果も認められない。
したがって、調心機構を被駆動部材のインナ側に設けることに格別な困難性はない。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物1
原査定の拒絶理由に引用され、もとの出願の出願日前に頒布された刊行物1(特に段落【0001】、段落【0028】、段落【0029】及び【図1】参照。)には、本願発明に則って整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「ハウジング10と、
前記ハウジング10に支持された電動モータ1と、
前記ハウジング10内に組み込まれた軸方向に移動可能なピストン6と、
前記電動モータ1のロータ1bの回転運動を前記ピストン6の軸方向への直線運動に変換する運動変換機構と、を有し、
前記運動変換機構は、
前記電動モータ1によって回転駆動されるネジ軸4bを備え、ピストン6を軸方向に直線移動するものであり、
前記ハウジング10に一体に設けられたブレーキキャリパ内にブレーキディスク9の外周の一部を配置し、そのブレーキディスク9の両側に、図1左側のブレーキパッド8と図1右側のブレーキパッド8とを設け、前記図1右側のブレーキパッドを前記ピストン6でブレーキディスクに押し付けて制動力を付与する電動ブレーキ」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ハウジング10」は、その技術的意義及び機能からみて本願発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「電動モータ1」は「電動モータ」に「ピストン6」は「被駆動部材」に、「ロータ1b」は「ロータ軸」に、「ネジ軸4b」は「回転軸」に、「ブレーキキャリパ」は「キャリパボディ」に、「ブレーキディスク9」は「ブレーキディスク」に、「図1左側のブレーキパッド8」は「固定ブレーキパッド」に、「図1右側のブレーキパッド8」は「可動ブレーキパッド」に、「電動ブレーキ」は「電動式ディスクブレーキ装置」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「ハウジングと、
前記ハウジングに支持された電動モータと、
前記ハウジング内に組み込まれた軸方向に移動可能な被駆動部材と、
前記電動モータのロータ軸の回転運動を前記被駆動部材の軸方向への直線運動に変換する運動変換機構と、を有し、
前記運動変換機構は、
前記電動モータによって回転駆動される回転軸を備え、
前記被駆動部材を軸方向に直線移動するものであり、
前記ハウジングに一体に設けられたキャリパボディ内にブレーキディスクの外周の一部を配置し、そのブレーキディスクの両側に固定ブレーキパッドと可動ブレーキパッドとを設け、前記可動ブレーキパッドを前記被駆動部材でブレーキディスクに押し付けて制動力を付与する電動式ディスクブレーキ装置」
の点で一致し、次の相違点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「前記回転軸の外径面と前記被駆動部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラと、前記遊星ローラを前記回転軸を中心にして回転自在に支持するキャリアと、を備え、前記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触で前記遊星ローラを自転および公転させることで前記被駆動部材を軸方向に直線移動するものであり、」「可動ブレーキパッドからの軸方向荷重を、前記運動変換機構の遊星ローラとキャリアのインナ側ディスクとの間に組み込まれたスラスト軸受からなる受圧部で受けるようにし」、「前記可動ブレーキパッドから前記被駆動部材および前記運動変換機構の遊星ローラを介して前記受圧部に負荷される偏荷重を伴なう軸方向荷重の、前記受圧部での周方向の面圧分布の均一化を図る調心機構を、前記被駆動部材の内側であって、前記遊星ローラと前記受圧部との間、または前記受圧部と前記キャリアのインナ側ディスクとの間に設けた」構成を有するのに対し、引用発明は、このような構成を有しない点。

(3)相違点の検討
以下、相違点について検討する。
本願発明の運動変換機構は、「前記回転軸の外径面と前記被駆動部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラと、前記遊星ローラを前記回転軸を中心にして回転自在に支持するキャリアと、を備え、前記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触で前記遊星ローラを自転および公転させることで前記被駆動部材を軸方向に直線移動する」との構成を有するものであり、当該構成を有さない引用発明とは、そもそも前提とする構成を異にすると認められる。
上記相違点に係る本願発明の構成は、刊行物1に記載も示唆もされていないし、もとの出願の出願日前に周知であったとも設計事項であったとも認められない。
そして、本願発明は、この相違点に係る本願発明の構成により、
「遊星ローラに負荷される偏荷重によって加圧側調心座と受圧側調心座の接触面でずれ動きが生じるため、遊星ローラを回転自在に支持するスラスト軸受の周方向の面圧分布の均一化を図ることができ、スラスト軸受の耐久性の低下を抑制することができる。」(段落【0025】)という格別顕著な効果を奏する。
そうであれば、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、「電動モータによって回転駆動される回転軸と軸方向に移動自在に支持された外輪部材との間に遊星ローラを組込み、上記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触によって遊星ローラを自転させつつ公転させ、その遊星ローラの外径面に形成された螺旋溝または円周溝と外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条との噛み合いによって外輪部材を軸方向に直線移動させる」(段落【0006】)という構成の運動変換機構と、「遊星ローラとその遊星ローラを回転自在に支持するキャリアのインナ側ディスク間」(段落【0007】)の「スラスト軸受」という構成の受圧部を前提としている発明が記載されている。
そして、この運動変換機構の構成及び受圧部の構成を前提として、発明の詳細な説明に記載された発明は、「直線駆動される被駆動部材としての外輪部材から遊星ローラに負荷される軸方向荷重は、遊星ローラの外径面に形成された螺旋溝または円周溝と外輪部材の内径面に設けられた螺旋突条の係合部に入力されるため、その遊星ローラのインナ側端面に形成された軸受軌道面へ負荷される軸方向荷重は偏荷重となり、スラスト軸受はその偏荷重を受けることになる。このため、受圧部としてのスラスト軸受においては、軸方向荷重が入力される入力部位と同一の位相に位置する転動体に大きな軸方向荷重が負荷され、その転動体から周方向にずれるにしたがって転動体に負荷される荷重が次第に小さくなって、スラスト軸受の面圧分布が周方向で不均一となり、転動体や軌道輪が偏摩耗する可能性がある。」(段落【0009】-【0010】)という課題を解決すると認められる。
しかしながら、請求項1には、前述の運動変換機構の構成及び受圧部の構成が記載されていない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1の「前記被駆動部材のインナ側」という記載の「インナ」という用語は、「インナ側ディスク14a」の「インナ」と混同しやすく、不明確である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)平成28年10月26日付けの手続補正により、「前記回転軸の外径面と前記被駆動部材の内径面間に組み込まれた遊星ローラと、前記遊星ローラを前記回転軸を中心にして回転自在に支持するキャリアと、を備え、前記回転軸の回転により、その回転軸との摩擦接触で前記遊星ローラを自転および公転させることで前記被駆動部材を軸方向に直線移動するものであり、」「可動ブレーキパッドからの軸方向荷重を、前記運動変換機構の遊星ローラとキャリアのインナ側ディスクとの間に組み込まれたスラスト軸受からなる受圧部で受けるようにし」、「前記可動ブレーキパッドから前記被駆動部材および前記運動変換機構の遊星ローラを介して前記受圧部に負荷される偏荷重を伴なう軸方向荷重の、前記受圧部での周方向の面圧分布の均一化を図る調心機構を、前記被駆動部材の内側であって、前記遊星ローラと前記受圧部との間、または前記受圧部と前記キャリアのインナ側ディスクとの間に設けた」との事項が請求項1に記載され、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
(2)同手続補正により、請求項1の「前記被駆動部材のインナ側」という記載は「前記被駆動部材の内側」と補正され、明確となった。

よって、上記1(1)及び(2)の拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2014-160412(P2014-160412)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16D)
P 1 8・ 537- WY (F16D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹村 秀康本庄 亮太郎佐々木 佳祐  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 内田 博之
中川 隆司
発明の名称 電動式ディスクブレーキ装置  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 文二  

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