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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01Q
管理番号 1324414
審判番号 不服2016-8982  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2014-553560「アンテナ装置及び通信端末機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月 5日国際公開,WO2015/016353,請求項の数(9)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2014年8月1日(パリ条約に基づく優先権主張日本国特許庁受理 2013年8月2日,2013年12月4日,2014年2月17日,2014年5月9日)を国際出願日とする特許出願であって,平成27年9月17日付けで拒絶理由通知がされ,同年11月10日付けで手続補正がされ,平成28年4月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに,同日付けで手続補正がされ,同年8月24日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年4月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし7に係る発明は,以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて,また,本願請求項8及び9に係る発明は,以下の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献一覧
1.特開2010-288242号公報
2.特開2012-134656号公報
3.特開2012-109406号公報
4.特開2004-266811号公報
5.特開2008-34588号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は,平成28年6月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される発明であり,このうち,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 第1の絶縁基材と該第1の絶縁基材の主面側に積層された磁性体シートを含む第1の絶縁基材部と,
前記第1の絶縁基材部において一端部と他端部とを有するスパイラル状に形成されたアンテナパターンと,
第2の絶縁基材と該第2の絶縁基材に形成された配線導体を含む第2の絶縁基材部と,
を備え,
平面視で,前記アンテナパターンの一端部と他端部との間の領域には,前記配線導体と前記アンテナパターンとを絶縁するための絶縁層が介在されており,
前記第1の絶縁基材,前記アンテナパターン,前記絶縁層,前記配線導体を含む前記第2の絶縁基材部はこの順で重ねられており,かつ,前記磁性体シートは前記第1の絶縁基材に前記アンテナパターン及び前記絶縁層を介して重ねられており,
前記配線導体は,前記アンテナパターンの一端部と他端部にそれぞれ導電性材料を介して電気的かつ機械的に接続された複数の電極部を有し,
前記絶縁層は,接着性を有する絶縁性接着剤層であって,前記磁性体シートと前記第1の絶縁基材とを接着しており,かつ,前記配線導体と前記アンテナパターンとを絶縁するための絶縁層と同一部材であり,
前記絶縁層は,前記配線導体が前記アンテナパターンに接続される前の状態において前記アンテナパターンの一端部及び他端部の少なくとも一方を前記配線導体側に露出する切欠き又は開口部を有し,
前記絶縁層の切欠き又は開口部が形成された部分において,前記配線導体と前記アンテナパターンとが前記導電性材料を介して接続され,
前記第1の絶縁基材の厚みは前記第2の絶縁基材部の厚みよりも小さく,
前記第1の絶縁基材の厚みは前記磁性体シートの厚みよりも小さく,
前記第2の絶縁基材部は前記第1の絶縁基材部よりも可撓性に優れていること,
を特徴とするアンテナ装置。」

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-288242号公報)には,「アンテナ装置」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0029】
特に,リーダーライター2側から発信される磁界の影響を受けないようにするため,アンテナ基板11が接着された磁性シートの内側に通信処理部4を配置して,通信処理部4とアンテナコイル11aとを電気的に接続するため磁性シート12側に端子部11bを設ける場合,アンテナモジュール1は,図3に示すような比較例に係るシングルアクセス型の配線板を用いたアンテナモジュール200に比べて全体の薄型化を図ることができる。
【0030】
すなわち,アンテナモジュール200は,図3に示すように,片面のみから導線と接続可能なシングルアクセス配線板210と,接着層220を介して,磁性シート230とを接着させたものである。シングルアクセス配線板210は,ポリイミドからなる絶縁層211の表面に,導電性が高いCuからなる導電性金属層212,導電性金属層211を被覆する絶縁部材からなるレジスト層213が順に積層されたものである。なお,レジスト層213には,エッチング処理により開口され,導電性金属層212と電気的に接続可能なAu/Niからなる端子部213aが形成されている。このアンテナモジュール200では,磁性シート230側からアンテナモジュール200の導電性金属層212と通信処理部との接続を確保するため,磁性シート230の面を基準として,接着層220,レジスト層213,導電性金属層212,絶縁層211という順に積層され,レジスト層213に端子部213aが設けられた構造となっている。アンテナモジュール200では,接着層220とレジスト層213とが,アンテナコイル11a-磁性シート230間を離間するための厚みdで定義される部材として機能する。
【0031】
以上のような構成からなるアンテナモジュール200は,本実施形態に係るアンテナモジュール1と異なり,絶縁層211が,アンテナコイル11a-磁性シート230間を離間するための厚みdで定義される部材として機能しないため,全体として厚くなってしまう。したがって,アンテナコイル-磁性シート間の間隔を同一の条件にした場合,アンテナモジュール1は,アンテナモジュール200に比べて,モジュール全体としての薄型化を図ることができる。」(第5-6ページ)

イ 「 【0039】
<アンテナモジュールの設計条件>
以下では,図5(A)及び図5(B)に示すようなアンテナ基板101を用いてアンテナモジュールを作成するものとする。
【0040】
すなわち,アンテナ基板101は,図5(A)に示すように,外形形状が36[mm]×29[mm],厚さが0.09[mm]であって,次のようなアンテナコイル102と,端子部103とが実装される。また,アンテナコイル102は,幅が0.31[mm]の導線が,隣接する導線間で0.12[mm]のスペース,すなわち,パターンピッチが0.42[mm]で,巻き線数が4となるように巻回される。
【0041】
磁性シート104は,アンテナコイル102の外形形状と一致するように配置されるものであって,図5(B)に示すように,その形状が,36[mm]×29[mm]の略矩形である。また,磁性シートは,発振周波数が13.56MHzの磁界における比複素透磁率が次の値のフェライト板を用いるものとする。すなわち,フェライト板は,比複素透磁率の実数部μ’が119,虚数部μ”が1.33のものを用いるものとする。
【0042】
上述した設計条件に従い,それぞれモジュール全体の厚みが同程度となるようにして,実施例としてアンテナモジュール1に対応するアンテナモジュールAと,比較例としてアンテナモジュール200に対応するアンテナモジュールBを次のように作成した。
【0043】
(…中略…)
【0044】
<アンテナモジュールB>
アンテナモジュールBは,次のようなシングルアクセス型の配線板を用いたものである。すなわち,膜厚が25μmのポリイミドからなる絶縁層の表面に,膜厚が35μmのCuからなる導電性金属層,膜厚が15μmからなるレジスト層が順に積層されたものである。アンテナモジュールBは,アンテナコイル-磁性シート間の間隔が50[μm]となるように接着層の厚みを調整して,アンテナ基板のレジスト層と磁性シートを接着させたものである。
【0045】
<評価>
上述したアンテナモジュールA,Bについて,形状と通信特性とを,下記の表1を用いて評価した。ここで,「FPC」とは,アンテナ基板の全厚であり,「間隔」とは,アンテナコイル-磁性シート間の間隔であり,「Total」とはモジュール全体の全厚であり,「最大通信可能距離」とは,発振周波数が13.56[MHz]において,リーダライタとアンテナモジュール間で通信可能な最大距離を示す値であり,この値が大きいほど通信特性がよい。具体的に,「最大通信可能距離」は,図6に示すように,ソニー株式会社製の型名RC-S440Cの非接触ICカードリーダー/ライター301を用いて,アンテナ基板302aを有するアンテナモジュール302の磁性シート302b側に2mm離れた位置に,擬似的な電子基板として50×100[mm]のステンレス板303を設置した条件下で測定したものである。
【0046】
【表1】

」(第7-8ページ)

ウ 「

」(第10ページ)

エ 「

」(第10ページ)

a.前記アの【0029】より,引用文献1には,「アンテナモジュール」(200)が記載されている。

b.前記アの【0030】より,前記「アンテナモジュール」は,「片面」のみから導線と接続可能な「シングルアクセス配線板」(210)と,「接着層」(220)と,「磁性シート」(230)とがこの順に積層されたものである。前記「片面」を「主面」と称することは任意である。
また,前記アの【0030】より,前記「シングルアクセス配線板」は,ポリイミドからなる「絶縁層」(211)の表面(主面)側に,Cu(銅)からなる「導電性金属層」(212)と,これを被覆する絶縁部材からなる「レジスト層」(213)が順に積層されたものである。
そうすると,引用文献1には,前記「アンテナモジュール」が,「絶縁層と該絶縁層の主面側に積層された磁性シートを含むシングルアクセス配線板」を備えることが記載されているといえる。

c.前記アの【0030】より,絶縁層上のレジスト層に開口が形成され,導電性金属層と電気的に接続可能な「端子部」(213a)が形成されており,前記エ(図5)より,当該「端子部」は,絶縁層上の導電性金属層からなる「アンテナコイル」(102)の2つの「端子部」として2つ形成されることが見てとれる。これら2つの「端子部」を,「第1の端子部」及び「第2の端子部」と称することは任意である。
そうすると,引用文献1には,前記「アンテナモジュール」が,「前記シングルアクセス配線板において第1の端子部と第2の端子部とを有するアンテナコイル」を備えることが記載されているといえる。

d.前記アの【0030】には,「磁性シート230側からアンテナモジュール200の導電性金属層212と通信処理部との接続を確保するために,…積層され,…端子部213aが設けられた構造となっている。」と記載されていることから,「導電性金属層」すなわち「アンテナコイル」の両「端子部」と,「磁性シート」側にある通信処理部とを接続するための何らかの接続手段があることは自明である。
そうすると,引用文献1には,前記「アンテナモジュール」が,「前記第1の端子部及び第2の端子部と通信処理部とを接続するための接続手段」を備えることが記載されているといえる。

e.前記c.において,「レジスト層」の開口は,「端子部」が形成される部分に形成されると解するのが合理的であるから,「第1の端子部」と「第2の端子部」との間には,平面視で,「レジスト層」の一部が介在されているといえる。また,「レジスト層」と,当該「レジスト層」の一部とは,同一部材であることは自明である。
そうすると,前記d.も加味すれば,引用文献1には,「平面視で,前記アンテナコイルの第1の端子部と第2の端子部との間には,絶縁性のレジスト層の一部が介在されて」いること,「前記レジスト層は,前記レジスト層の一部と同一部材」であること,「前記レジスト層は,前記アンテナコイルの前記第1の端子部及び前記第2の端子部を形成するための開口」を有すること,が記載され,及び,「前記レジスト層の開口が形成された部分において,前記接続手段と前記アンテナコイルとが接続され」ることが記載されているといえる。

f.前記b.及びc.ならびに前記ウ(図3)より,引用文献1には,「前記絶縁層,前記アンテナコイル,前記レジスト層,接着層及び磁性シートはこの順で重ねられ」ていること,及び,「前記磁性シートは前記絶縁層に前記アンテナコイル及び前記レジスト層を介して重ねられ」ていることが記載されているといえる。

g.前記イの【0044】より,絶縁層の膜厚が25μm,アンテナコイル(導電性金属層)の膜厚が35μm,レジスト層の膜厚が15μm,アンテナコイルと磁性シート間の間隔を50μmとすることが記載されていることから,接着層の膜厚が35μmであることがわかる。さらに,前記イの【0045】及び【0046】より,<アンテナモジュールB>においては,全体の厚さ(total)は285μm,アンテナ基板(シングルアクセス配線板)の膜厚は80μmであるから,接着層と磁性シートの膜厚が205μmであり,接着層の膜厚35μmを差し引いた磁性シートの膜厚は170μmとなる。
すると,引用文献1には,「前記絶縁層の膜厚は前記磁性シートの膜厚よりも小さいこと」が記載されているといえる。

したがって,上記引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 絶縁層と該絶縁層の主面側に積層された磁性シートを含むシングルアクセス配線板と,
前記シングルアクセス配線板において第1の端子部と第2の端子部とを有するアンテナコイルと,
前記第1の端子部及び第2の端子部と通信処理部とを接続するための接続手段と,
を備え,
平面視で,前記アンテナコイルの第1の端子部と第2の端子部との間には,絶縁性のレジスト層の一部が介在されており,
前記絶縁層,前記アンテナコイル,前記レジスト層,接着層及び磁性シートはこの順で重ねられており,かつ,前記磁性シートは前記絶縁層に前記アンテナコイル及び前記レジスト層を介して重ねられており,
前記レジスト層は,前記レジスト層の一部と同一部材であり,
前記レジスト層は,前記アンテナコイルの前記第1の端子部及び前記第2の端子部を形成するための開口を有し,
前記レジスト層の開口が形成された部分において,前記接続手段と前記アンテナコイルとが接続され,
前記絶縁層の膜厚は前記磁性シートの膜厚よりも小さいこと,
を特徴とするアンテナモジュール。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2012-134656号公報)には,「RFIDリーダ/ライタ用アンテナ」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

オ 「【0021】
共通接続ポート20は,アンテナ基板10上に配置され,ホット側接続部21及びグラウンド側接続部22を有するものである。共通接続ポート20からは,第1アンテナ30及び第2アンテナ40が延在している。共通接続ポート20には,アンテナ基板10外に設けられるアンテナ駆動用の回路が載置されるアンテナモジュール基板60が,フレキシブルケーブル50を介して接続される。即ち,第1アンテナ30及び第2アンテナ40は,共通接続ポート20により共通の入出力部となるように構成されている。また,図示例では,インピーダンスマッチング用のパターン25が共通接続ポート20の近傍に配置されているものを示したが,本発明はこのパターンに限定されるものではない。」(第5ページ)

カ 「【0024】
フレキシブルケーブル50は,共通接続ポート20と,第1アンテナ30及び第2アンテナ40を駆動するための回路が載置されたアンテナモジュール基板60との間を接続するものである。図示例では,アンテナ基板10の裏面に,第1アンテナ30及び第アンテナ40を駆動するためのアンテナモジュール基板60が積重されている。そして,フレキシブルケーブル50は,アンテナ基板10の一辺とそれに対応するアンテナモジュール基板60の一辺の間に接続されている。フレキシブルケーブル50は,フィルム状の絶縁体に導体箔により信号ラインを形成したものである。フレキシブルケーブル50により共通接続ポート20とアンテナモジュール基板60の給電部が接続されることになるため,フレキシブルケーブル50はアンテナエレメントとしても作用することになる。したがって,同じ周波数帯であれば,この分,アンテナ基板10上の第1アンテナ30及び第2アンテナ40の長さを短くすることが可能となるため,さらにアンテナ基板10を小型化することができる。なお,フレキシブルケーブル50は,共通接続ポート20及びアンテナモジュール基板60にはんだ等により直接電気的に接続されても良いし,フレキシブルケーブル用の平型コネクタ等により接続されても良い。」(第6ページ)

前記オ及びカより,上記引用文献2には,次の技術事項(以下,「技術事項2」という。)が記載されていると認める。

「 アンテナ基板上の共通ポートと外部のアンテナモジュール基板とを,フレキシブルケーブルにより接続すること,
前記フレキシブルケーブルは,フィルム上の絶縁体に導体箔により信号ラインを形成したものであり,
前記フレキシブルケーブルと,前記共通ポート及び前記アンテナモジュール基板とは,はんだ等により直接電気的に接続されるか,または,平型コネクタ等により接続されること。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2012-109406号公報)には,「フレキシブル多層回路基板の製造方法」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

キ 「【0006】
そこで,本発明は,フレキシブル多層回路基板を安定して製造することができるフレキシブル多層回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフレキシブル多層回路基板の製造方法は,可撓性を有するベースフィルム上に回路層が形成された一対の転写用回路基板,及び,貫通孔が形成された絶縁フィルムを準備する準備工程と,それぞれの前記転写用回路基板の前記回路層が形成された面を前記絶縁フィルム側に向け,前記貫通孔と前記回路層の一部とが重なるようにして,前記絶縁フィルムの両面に前記転写用回路基板を貼り合わせる貼り合せ工程と,前記絶縁フィルムに貼り合わされたそれぞれの前記転写用回路基板の前記ベースフィルムを前記回路層から剥離する剥離工程と,前記貫通孔において前記絶縁フィルムの両面の回路層同士を溶接により接続する接続工程と,を備えることを特徴とするものである。」(第3ページ)

前記キより,上記引用文献3には,次の技術事項(以下,「技術事項3」という。)が記載されていると認める。

「 可撓性を有するベースフィルム上に回路層が形成された一対の転写用回路基板,及び,貫通孔が形成された絶縁フィルムを準備する準備工程と,それぞれの前記転写用回路基板の前記回路層が形成された面を前記絶縁フィルム側に向け,前記貫通孔と前記回路層の一部とが重なるようにして,前記絶縁フィルムの両面に前記転写用回路基板を貼り合わせる貼り合わせ工程と,前記絶縁フィルムに貼り合わされたそれぞれの前記転写用回路基板の前記ベースフィルムを前記回路層から剥離する剥離工程と,前記貫通孔において前記絶縁フィルムの両面の回路層同士を溶接により接続する接続工程と,を備える,フレキシブル多層回路基板の製造方法。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2004-266811号公報)には,「無線タグリーダライタ」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ク 「【請求項1】
ケースにおいて無線タグの読み取りを行なう一端面が曲面で形成されている無線タグリーダライタであり,その曲面に沿って可撓性を有するシートとそのシートに形成した導体パターンとからなる可撓性を有するアンテナが取り付けられた無線タグリーダライタ。
【請求項2】
(…中略…)
【請求項4】
可撓性を有するシートが磁性を有する請求項1から3いずれか一項に記載の無線タグリーダライタ。
【請求項5】
アンテナの空心部に可撓性を有する磁性材料を設けた請求項1から3いずれか一項に記載の無線タグリーダライタ。」(第2ページ)

上記クより,上記引用文献4には,次の技術事項(以下,「技術事項4」という。)が記載されていると認める。

「 ケースにおいて無線タグの読み取りを行なう一端面が曲面で形成されている無線タグリーダライタであり,その曲面に沿って可撓性を有するシートとそのシートに形成した導体パターンとからなる可撓性を有するアンテナが取り付けられた無線タグリーダライタであって,
可撓性を有するシートが磁性を有するか,または,
アンテナの空心部に可撓性を有する磁性材料を設けた,無線タグリーダライタ。」

5.引用文献6について
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献6(特開2012-151829号公報)(特に,【0019】及び【0028】,図2参照。)には,次の事項(以下,「技術事項6」という。)が記載されていると認める。

「 第一の絶縁層(21),第二の絶縁層(22a,22b)と,送受信アンテナ部導体層(16),伝送部導体層(17)及び高周波回路導体層(18)からなる導体層,前記第1の絶縁層(21)と前記第二の絶縁層(22a,22b)との間及び前記第二の絶縁層(22a,22b)と前記導体層との間に介在する,絶縁性接着剤である第三の絶縁層(23)と,これら全体を覆う保護層であって,前記絶縁性接着剤である第四の絶縁層(25)とを含む,無線通信モジュール(11)。」

なお,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2008-34588号公報)は,本願発明1に対するものではないので,判断を省略する。

第5 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明における「絶縁層」,「磁性シート」,「シングルアクセス配線板」はそれぞれ,本願発明1における「第1の絶縁基材」,「磁性体シート」及び「第1の絶縁基材部」に相当する。
引用発明における「アンテナコイル」は,「スパイラル状に形成」された「パターン」といい得るものである。
よって,引用発明における「第1の端子部」,「第2の端子部」,「アンテナコイル」はそれぞれ,本願発明1における「一端部」,「他端部」及び「スパイラル状に形成されたアンテナパターン」に相当する。

本願明細書の段落【0038】には,「配線導体31,32はアンテナパターン15の一端部15aと他端部15bにそれぞれ一平面上で半田付け(電気的かつ機械的に接続)された電極部31a,32aと外部接続用端子部31b,32bを有している。」と記載されていることから,本願発明1における「配線導体」及びこれを含む「第2の絶縁基材部」は,「外部」と「アンテナパターン」とを電気的に接続するための手段であると解される。また,引用発明における「通信処理部」は,「アンテナモジュール」から見れば「外部」といい得るものである。
そうすると,引用発明における「接続手段」と,本願発明1における「第2の絶縁基材部」とは,「外部とアンテナパターンとを接続するための接続手段」である点において共通する。

引用発明における「絶縁性のレジスト層(の一部)」は,「絶縁層」といい得るものである。よって,引用発明と本願発明1とは,「平面視で,前記アンテナパターンの一端部と他端部との間の領域には,絶縁層が介在されており」という構成を備える点で共通する。

引用発明における「前記絶縁層,前記アンテナコイル,前記レジスト層,接着層及び磁性シートはこの順で重ねられており」と,本願発明1における「前記第1の絶縁基材,前記アンテナパターン,前記絶縁層,前記配線導体を含む前記第2の絶縁基材部はこの順で重ねられており」とは,「前記第1の絶縁基材,前記アンテナパターン,前記絶縁層がこの順で重ねられており」という点において共通する。
また,引用発明における「前記磁性シートは前記絶縁層に前記アンテナコイル及び前記レジスト層を介して重ねられており」は,本願発明1における「前記磁性体シートは前記第1の絶縁基材に前記アンテナパターン及び前記絶縁層を介して重ねられており」という点において共通する。

本願発明1における「前記配線導体と前記アンテナパターンとを絶縁するための絶縁層」とは,「アンテナパターンの一端部と他端部との間の領域」に「介在」する「絶縁層」のことである。そうすると,「絶縁層」に関し,引用発明と本願発明1とは,「前記絶縁層は,前記アンテナパターンの前記一端部と前記他端部との間の領域に介在する前記絶縁層と同一部材」である点において共通する。

引用発明において,「レジスト層」が有する「開口」は,「アンテナコイル」の「第1の端子部」及び「第2の端子部」を形成するためのものであり,また,当該「第1の端子部」および「第2の端子部」は,前記「接続手段」を介して外部と接続されるものであるから,当該「接続手段」が接続される前の状態においては,「アンテナコイル」の「第1の端子部」及び「第2の端子部」が,前記「接続手段」側に露出するものであることは自明である。
そうすると,引用発明における「前記レジスト層は,前記アンテナコイルの前記第1の端子部及び前記第2の端子部を形成するための開口を有し」は,本願発明1における「前記絶縁層は,前記配線導体が前記アンテナパターンに接続される前の状態において前記アンテナパターンの一端部及び他端部の少なくとも一方を前記配線導体側に露出する開口部を有し」に相当する。
また,引用発明における「前記レジスト層の開口が形成された部分において,前記接続手段と前記アンテナコイルとが接続され」と,本願発明1における「前記絶縁層の切欠き又は開口部が形成された部分において,前記配線導体と前記アンテナパターンとが前記導電性材料を介して接続され」とは,「前記絶縁層の開口部が形成された部分において,前記接続手段と前記アンテナパターンとが接続され」において共通する。

引用発明における「前記絶縁層の膜厚は前記磁性シートの膜厚よりも小さいこと」は,本願発明1における「前記第1の絶縁基材の厚みは前記磁性体シートの厚みよりも小さく」に相当する。

引用発明における「アンテナモジュール」は,「アンテナ装置」といい得るものである。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

[一致点]
「 第1の絶縁基材と該第1の絶縁基材の主面側に積層された磁性体シートを含む第1の絶縁基材部と,
前記第1の絶縁基材部において一端部と他端部とを有するスパイラル状に形成されたアンテナパターンと,
外部とアンテナパターンとを接続するための接続手段と,
を備え,
平面視で,前記アンテナパターンの一端部と他端部との間の領域には,絶縁層が介在されており,
前記第1の絶縁基材,前記アンテナパターン,前記絶縁層はこの順で重ねられており,かつ,前記磁性体シートは前記第1の絶縁基材に前記アンテナパターン及び前記絶縁層を介して重ねられており,
前記絶縁層は,前記アンテナパターンの前記一端部と前記他端部との間の領域に介在する前記絶縁層と同一部材であり,
前記絶縁層は,前記配線導体が前記アンテナパターンに接続される前の状態において前記アンテナパターンの一端部及び他端部の少なくとも一方を前記接続手段側に露出する開口部を有し,
前記絶縁層の開口部が形成された部分において,前記接続手段と前記アンテナパターンとが接続され,
前記第1の絶縁基材の厚みは前記磁性体シートの厚みよりも小さいこと,
を特徴とするアンテナ装置。」

[相違点1]
「接続手段」に関し,本願発明1においては,「第2の絶縁基材と該第2の絶縁基材に形成された配線導体を含む第2の絶縁基材部」であり,「配線導体」が「前記アンテナパターンの一端部と他端部にそれぞれ導電性材料を介して電気的かつ機械的に接続された複数の電極部」を有し,「第2の絶縁基材部」は,「絶縁層」の上に「重ねられ」るという構造を有し,さらに,「前記第1の絶縁基材の厚みは前記第2の絶縁基材部の厚みよりも小さく」及び「前記第2の絶縁基材部は前記第1の絶縁基材部よりも可撓性に優れていること」との限定を有するのに対し,引用発明においては,「接続手段」の具体的な構造等について言及がない点。

[相違点2]
前記[相違点1]にも関連するが,「アンテナパターン」の「一端部」と「他端部」との間の領域に介在する「絶縁層」が,本願発明1においては,「前記配線導体と前記アンテナパターンとを絶縁するため」という目的を備えるのに対し,引用発明においては,「第1の端子部」と「第2の端子部」との間に介在する「レジスト層」の一部の目的について言及がない点。

[相違点3]
「絶縁層」に関し,本願発明1においては,「接着性を有する絶縁性接着剤層」であって,「前記磁性体シートと前記第1の絶縁基材とを接着」するのに対し,引用発明においては,「絶縁層」,「アンテナコイル」,「レジスト層」,「接着層」及び「磁性シート」の順に積層され,「接着層」が「レジスト層」とは別に設けられていることから,「レジスト層」は,「接着性を有する絶縁性接着材層」とはいえない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,まず,前記[相違点3]について判断する。
前記[相違点3]に係る本願発明1の構成(「接着性を有する絶縁性接着剤層」である「絶縁層」により,「磁性体シート」と「第1の絶縁基材」とを「接着」する点。)は,技術事項2ないし4には含まれていない。また,技術事項6は,絶縁層間及び絶縁層と導体層との間に絶縁性接着剤を用い,無線通信モジュールを覆う絶縁層として前記絶縁性接着剤を用いるものにすぎず,前記[相違点3]に係る本願発明1の構成に対応しない。
また,「接着性を有する絶縁性接着剤層」である「絶縁層」により「磁性体シート」等を「接着」することが本願の優先日における公知技術又は周知技術であったとしても,引用発明においては,「磁性シート」を接着するための「接着層」が「レジスト層」とは別に存在していることから,「レジスト層」を「接着性を有する」ものとして使用することの動機付けが存在しない。
したがって,前記[相違点1]及び[相違点2]について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び各技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は,前記[相違点3]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び各周知事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
本願発明1ないし9は,前記[相違点3]に係る構成を備えるから,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし4または引用文献1ないし5に基づいて,容易に発明できたものとは認められない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-06 
出願番号 特願2014-553560(P2014-553560)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 緒方 寿彦  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
林 毅
発明の名称 アンテナ装置及び通信端末機器  
代理人 アセンド特許業務法人  

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