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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1324510
審判番号 不服2015-4775  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-11 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2009-523984「メモリ素子およびクロスポイントスイッチと不揮発性ナノチューブブロックとを使用したそのアレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日国際公開、WO2008/021911、平成22年 5月 6日国内公表、特表2010-515241、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年8月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月8日 米国、2006年8月8日 米国、2006年8月28日 米国、2006年10月27日 米国、2007年3月16日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成21年 4月 6日 翻訳文の提出
平成22年 7月23日 審査請求
平成24年10月25日 拒絶理由通知(起案日)
平成25年 4月30日 意見書及び手続補正書の提出
平成25年 9月12日 最後の拒絶理由通知(起案日)
平成26年 3月17日 意見書の提出
平成26年10月30日 拒絶査定(起案日)
平成27年 3月11日 審判請求及び手続補正書の提出
平成28年 6月16日 当審拒絶理由通知(起案日)
平成28年12月20日 意見書及び手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、平成28年12月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1ないし21に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明21」という。)のうち、独立請求項に係る発明である本願発明1、本願発明11及び本願発明19は以下のとおりである。
1 本願発明1
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリックで形成され、上面、下面、および複数の側面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触する第1および第2の導電端子であって、前記第1の導電端子は前記ナノチューブ素子の上面全体に配置されてこれを実質的に覆い、前記第2の導電端子は前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも一部分と接触する、第1および第2の導電端子と、
(c)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」

2 本願発明11
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリックで形成され、上面と下面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触して互いに対して隔離した第1および第2の導電端子と、
(c)前記ナノチューブ素子の前記上面と接触する第1の絶縁体層と、
(d)前記ナノチューブ素子の前記下面と接触する第2の絶縁体層であって、前記第1および第2の導電端子と前記第1および第2の絶縁体層は一緒に前記ナノチューブ素子を実質的に包囲する、第2の絶縁体層と、
(e)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」

3 本願発明19
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリックで形成され、上面と下面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触して互いに対して隔離した第1および第2の導電端子と、
(c)前記ナノチューブ素子の前記上面の上に配置され前記上面に対して隔離した第1の絶縁体層と、
(d)前記ナノチューブ素子の前記下面の下に配置されてこの下面に対して隔離した第2の絶縁体層であって、前記第1および第2の導電端子と前記第1および第2の絶縁体層は一緒に前記ナノチューブ素子を実質的に包囲する、第2の絶縁体層と、
(e)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子に前記制御回路によって印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態に切り替わることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)拒絶理由通知の概要
原査定の根拠となった平成25年9月12日付けの最後の拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。

「理由2 この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


……(中略)……
第2 理由2について
1.特許請求の範囲における「ナノチューブファブリック」という文言では、どの様な技術的事項を指し示しているのか明確でない。
【0007】、【0008】、【0040】、【0041】、【0049】、【0054】、【0093】?【0095】及び【0191】を中心に明細書の記載を斟酌しても、本願における「ナノチューブファブリック」という文言がどの様な技術的事項を指すのか明確でない。
したがって、請求項1?21に係る発明は明確でないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に違反している。また、発明の詳細な説明の記載は当業者が特許請求の範囲に記載された発明を実施可能な程度に明確かつ十分であるものとは言えないので、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に違反している。

2.発明の詳細な説明の記載によっては、特許請求の範囲におけるナノチューブファブリック層の形成について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものではない。
【0093】においては、「好ましい方法を用いて蒸着される……ナノチューブファブリック層」及び「しかし、全体的なナノチューブファブリック層は、複数の個別のナノチューブファブリック層をスピンコーティングすることによって形成されてもよい。」と記載されているが、上述のとおりナノチューブファブリックなるものが明確でなく、当該ナノチューブファブリック層が蒸着やスピンコーティングにより形成可能なものであるのか明確でない。そのため、具体的な蒸着方法を示していない上記記載によっては、ナノチューブファブリック層をどのようにして形成するのかを実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものではない。
【0184】に記載されている様に他の書面を参照することを要求する記載では、本願明細書が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているものとは言えない。」

(2)拒絶査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
「・理由2[(実施可能要件,明確性)特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号]について

出願人は意見書において,証拠1(「ナノチューブ」,大辞泉)及び証拠2(「ファブリック」,大辞泉)を用いて,「ナノチューブファブリック」がカーボンナノチューブが繊維の様に織られて形成された布地であることを指し示すものであることは,本願明細書に定義が無くとも明確である旨主張している。

しかしながら,上記主張は,「ナノチューブファブリック」という言葉が,本願において新たに定義することなく使用可能な程度に本願出願前に使用されていたことを示すために出願人が示した証拠3(特表2005-502201号公報),証拠4(米国特許第6919592号明細書)及び証拠5(特表2005-524000号公報)の記載内容と対応していない。
出願人が示した証拠3には,「ファブリック」という言葉自体が使われていないので,証拠3の記載からでは出願人の主張通りの意味で「ナノチューブファブリック」という言葉が使用されていたことの裏付けにはならない。
出願人が示した証拠4は,英語の文献であって日本語の文献ではないので,出願人の主張通りの意味で「ナノチューブファブリック」なる言葉が使用されていたことの裏付けにはならない。なお,証拠4には,「nanotube fabric」を含む文として,図面の説明(第3段)における図12の説明に「FIG. 12 illustrates the non-woven nanotube fabric, or matted nanotube layer, used to make certain embodiments of the invention;」との記載があり,第6段第18?21行目に「The photoresist is removed to leave ribbons 101 of non-woven nanotube fabric lying on planar surface 306 to form fourth intermediate structure 318.」との記載があり,第9段第44?47行目に「As explained above, once the matted nanotube layer 312 is provided over the surface 306
, the layer 312 is patterned and etched to define ribbons 101 of nanotube fabric that cross the supports 102.」との記載がある。これらの記載を中心に証拠4の記載を参照すると,第9段第44?47行目における「nanotube fabric」は,第6段第18?21行目に記載された「non-woven nanotube fabric」と同じ概念を指し示しているものと認められ,第6段第18?21行目の記載通り不織布であるものを指し示すものと認められる。不織布は「織られて形成された布地」ではないので,証拠4の記載は,出願人が意見書で主張する「カーボンナノチューブが繊維の様に織られて形成された布地」という意味で「nanotube fabric」という言葉が使われていたことを裏付けるものではない。
出願人が示した証拠5の【0047】には,「好ましいナノファブリックは、不織布を形成するために、接触している複数のナノチューブを有する。」と記載されており,ナノチューブにより不織布を形成したものがナノファブリックの概念に含まれるものと認められる。そして,証拠5の【0053】における「発明者は、前記技法が作成プロセスにおいて制御できる重要な特性を有するナノファブリックを作成するために拡張されてよいことを発見した。さらに、発明者はナノファブリックを作成する新しい技法を発見した。ファブリックは(例えばウェハ表面全体で)組み立てるあるいは生長させることができ、次にファブリックは、例えばリトグラフィックパターン化を使用して選択的に除去されてよい。つまり、ナノチューブファブリックは、所望される場所で生長し、生長後に削除される必要があるものは何もない。」との記載からみて,証拠5における「ナノチューブファブリック」は「ナノファブリック」と同じ概念を指し示しているものと認められる。証拠5におけるこれらの記載からみて,証拠5における「ナノチューブファブリック」には,ナノチューブにより形成された不織布を含むものと認められる。不織布は上記主張における「織られて形成された布地」ではないので,証拠5の記載は,出願人が意見書で主張する「カーボンナノチューブが繊維の様に織られて形成された布地」という意味で「ナノチューブファブリック」という言葉が使われていたことを裏付けるものではない。

してみると,出願人の主張によっては,本願における「ナノチューブファブリック」との記載が十分に明確であるということができない。意見書の他の記載を斟酌しても,記載不備に係る拒絶の理由を覆す根拠を見いだすことができない。

したがって,発明の詳細な説明の記載は当業者が請求項1?21に係る発明を当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものではなく,特許法第36条第4項第1号に違反するものである。また,請求項1?21に係る発明は明確でないから,特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に違反するものである。よって,本願は拒絶すべきものである。」

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)平成25年9月12日付けの最後の拒絶理由通知は、「「ナノチューブファブリック」という文言では、どの様な技術的事項を指し示しているのか明確でない」及び「上述のとおりナノチューブファブリックなるものが明確でなく、当該ナノチューブファブリック層が蒸着やスピンコーティングにより形成可能なものであるのか明確でない。そのため、具体的な蒸着方法を示していない上記記載によっては、ナノチューブファブリック層をどのようにして形成するのかを実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものではない。」と指摘したところ、本願発明1、本願発明11及び本願発明19は、いずれも、「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリックで形成され、上面、下面」を有する「ナノチューブ素子」を発明特定事項として有する。
そこで、「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリック」という記載が明確であるか、前記「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリック」の形成方法が、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されているかについて検討する。

(2)本願明細書及び図面には、前記「ナノファブリック」に関して、以下の記載がある(下線は当審において付した。)。
ア 「【0013】
本出願は、以下の出願の一部継続出願であり、米国特許法第120条に基づいて優先権を主張し、その全容が参考として組み入れられる。
2005年11月15日に出願された「Two-Terminal Nanotube Devices And Systems And Methods Of Making Same」と題する米国特許出願第11/280,786号明細書」
イ 「【0024】
一部の実施形態は、2端子不揮発性ナノチューブ記憶ノードを含む高密度の不揮発性メモリアレイを可能にする2-Dセル構造体および強化型(enhanced)3-Dセル構造体を提供する。ノードは、不揮発性ナノチューブスイッチ(NV NTスイッチ)と呼ばれる2-Dナノチューブスイッチ、または不揮発性ナノチューブブロックスイッチ(NV NTブロックスイッチ)と呼ばれる3-Dナノチューブスイッチ、あるいはこれらの両方を含む。また、ノードは、多サイクルに対して論理1および0状態を書き込むことができ、記憶された論理状態を読み取ることができ、電源をメモリノードに印加せずに論理状態をホールドすることができるNMOS FET(NFET)などの対応する選択トランジスタを含む。一部の実施形態は、大規模のメモリアレイ構造体に拡張可能であり、またはCMOS回路製造物と整合可能であり、あるいはこの両方が可能である。一部の実施形態では、NMOS FETとカーボンナノチューブと組み合わせるが、半導体デバイスにおける双対性(duality)の原則に基づいて、PMOS FETをNMOS FETに置き換え、それに対応して印加電圧の極性を変えてもよいことに留意されたい。」
ウ 「【0040】
米国特許出願第11/280,786号明細書にさらに詳しく記載される図2Aは、絶縁体2030上のパターン化ナノチューブ素子2035を含むNV NTスイッチ2000を示しており、絶縁体2030は絶縁体と配線層2020との結合される表面にあり、配線層2020は基板2025によって支持される。パターン化ナノチューブ素子2035は、平面上のナノファブリックであり、端子(導電素子)2010および2015と部分的に重なってこれらに接触する。コンタクト端子2010および2015は、蒸着され、結合された絶縁体と配線層2020に直接パターン化され、配線層2020はパターン化ナノチューブ素子2035の形成前に基板2025上にある。不揮発性ナノチューブスイッチチャネル長LSW-CHは、コンタクト端子2010と2015の間隔である。…(中略)…
【0041】
米国特許出願第11/280,786号明細書にさらに詳しく記載された図2Bは、不動態化前の不揮発性ナノチューブスイッチ2000’のSEM画像を示しており、図2Aの断面図における不揮発性ナノチューブスイッチ2000に対応する。不揮発性ナノチューブスイッチ2000’は、ナノファブリック素子2035’、コンタクト端子2010および2015にそれぞれ対応するコンタクト端子2010’および2015’、ならびに絶縁体および配線層2020に対応する絶縁体2020’を含む。スイッチ2000’などの例示的な不揮発性ナノチューブスイッチは、250nm?22nmの範囲のチャネル長LCHANNELで製作されており、これによって、米国特許出願第11/280,786号明細書にさらに詳しく記載されるように、不揮発性ナノチューブスイッチのサイズを縮小し、プログラミング電圧を低下させているが、他の適切なチャネル長も採用されうる。」
エ 図2Bには、「ナノファブリック2035’」は、方向が不規則な複数のナノチューブが互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成されていることが、記載されている。
オ 「【0093】
図10Aに示されるSEM画像10000は、図4に示されるNV NTブロックスイッチ4000に対応するNV NTブロックスイッチの形成の直前に部分的に製作されたメモリセルの平面図を示しており、NV NTブロックスイッチはメモリセルのレイアウト9200に対応する下層セルの選択トランジスタおよびアレイの配線の上方に形成される。好ましい方法を用いて蒸着されるおよそ40nmの厚さの全体的な(多孔質の)ナノチューブファブリック層は、表面絶縁体および配線層10200を覆うが、コントラストが不十分であるためにこのSEM画像では見えない。ただし、対応する(多孔質の)パターン化ナノチューブブロックが、図10BのSEM画像によって以下にさらに示される。全体的なナノチューブファブリック層は、スプレーコーティングを用いて被覆された。しかし、全体的なナノチューブファブリック層は、複数の個別のナノチューブファブリック層をスピンコーティングすることによって形成されてもよい。図10Aに示されるコンタクト端子10100は、図4Aに示されるコンタクト端子4010に対応しており、コンタクト端子10150はコンタクト端子4015に対応する。SEM画像10000において見えない全体的なナノチューブファブリック層は、コンタクト端子10100および10150の最高部同一平面と絶縁体および配線層10200の上面とに接触しており、これは図4Aにおける絶縁体および配線層4030に対応する。全体的なナノチューブファブリック層の表面のパターン化マスク10250画像と上層のコンタクト端子10150とは、全体的なナノチューブファブリック層の下層部分をプロセスの流れの後の方で酸素プラズマエッチングステップから保護するために使用される。パターン化マスク画像10250は、Al_(2)O_(3)、またはGe、またはその他の適合する硬質マスク材料を用いて形成されてもよい。」

前記アには、「米国特許出願第11/280,786号明細書」の内容は「本出願」に「組み入れられる」と記載されている。
前記イには、本願明細書の「一部の実施形態」においては、「不揮発性ナノチューブスイッチ(NV NTスイッチ)」を、「NMOS FET(NFET)などの対応する選択トランジスタ」と「カーボンナノチューブ」とを「組み合わせる」ことで形成することが記載されていると認められる。
そして、前記ウ?エに記載されるように、前記「米国特許出願第11/280,786号明細書」には、「不揮発性ナノチューブスイッチ2000’は、ナノファブリック素子2035’」を含み、当該「ナノファブリック素子2035’」は、方向が不規則な複数のナノチューブが互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成される「平面上のナノファブリック」であることが記載されていると認められる。
以上から、本願明細書において、「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリック」とは、方向が不規則な複数のカーボンナノチューブのみが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成されるものを指すと認められる。

(3)さて、一般に「ファブリック【fabric】」とは「織物。布地。」を意味する。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]
これに対して、方向が不規則な複数の繊維が、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成されるものは、いわゆる不織布であることは当業者の技術常識である。
しかし、不織布の英語表記は“non-woven fabric”であるから、方向が不規則な複数の繊維状のカーボンナノチューブのみが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成されるものを「ナノファブリック」と称することは、前記技術常識とも整合する。

(4)そうすると、本願発明1、本願発明11及び本願発明19の「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリック」という記載は、本願明細書の記載を参酌すれば、方向が不規則な複数のカーボンナノチューブのみが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成されるものを、少なくとも包含すると認められ、したがって、明確である。

(5)そして、本願発明1、本願発明11及び本願発明19の前記「ナノファブリック」の記載が明確であるから、前記(2)オで摘記した、「(多孔質の)ナノチューブファブリック」を、「好ましい方法」を用いる「蒸着」、「スプレーコーティング」あるいは「スピンコーティング」によって形成するという本願明細書の段落【0093】に記載に接した当業者であれば、複数のカーボンナノチューブのみが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで「多孔質」になる前記「ナノファブリック」を、特段の試行錯誤を要することなく形成できるものと認められる。

(6)したがって、原査定の理由によっては、もはや、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審より平成28年6月16日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.Basudev Pradhan , Sudip K. Batabyal , and Amlan J. Pal,“Electrical Bistability and Memory Phenomenon in Carbon Nanotube-Conjugated Polymer Matrixes”,J. Phys. Chem. B,米国,2006.04.01発行,Vol.110,No.16,pp 8274?8277
2.国際公開第2006/027887号
3.特開2006-203178号公報
4.特公昭53-15782号公報
5.特開昭54-88739号公報
6.特開2006-120701号公報
7.特表2002-540605号公報
8.特開2005-217408号公報
9.国際公開第2005/048296号



・請求項 :1
・引用文献等:1?3
・備考
文献1の第8274頁右欄第22?36行、第8275頁右欄第5?17行には、酸化インジウムスズ(ITO)で被覆したガラス基板上に、所定量のカーボンナノチューブ粉末を混合したポリ(3-ヘキシルチオフェン)溶液をスピンコーティングして形成した薄膜をアニールし、その上にアルミニウムを真空蒸着することで、デバイスを製造することが記載されている。
文献1の第8274頁右欄第39行?第8275頁左欄第6行、第8275頁右欄第18行?第8276頁左欄第5行には、前記アルミニウムに対して印加する電圧を0Vから+VMAX、及び、0Vから-VMAXへスキャンさせて前記デバイスのI-V特性を測定すると、適切な正のバイアスで前記デバイスは、高電導状態から低電導状態にスイッチングすることが記載されている。
文献1の第8277頁左欄第1行?第8277頁右欄第13行には、前記デバイスの高電導状態と低電導状態は、メモリの書込、消去状態にそれぞれ対応付けられること、前記デバイスを、電気的に双安定で書き換え可能なランダムアクセスメモリに適用できることが記載されている。
そして、文献1のFigure3(a)及び(b)には、各カーボンナノチューブがランダムな向きで互いに絡み合ってポリマー中に分散していることが示されている。
……(中略)……
以上から、本願の請求項1に係る発明と、文献1に記載された発明とは、
(相違点1)本願の請求項1に係る発明の「カーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」は「複数の側面を有する」のに対して、文献1の所定量のカーボンナノチューブ粉末を混合したポリ(3-ヘキシルチオフェン)溶液をスピンコーティングして形成し、アニールした薄膜が「複数の側面」を有するかどうかは不明である点。
(相違点2)本願の請求項1に係る発明の「第1の導電端子は前記ナノチューブ素子の上面全体に配置されてこれを実質的に覆」うのに対して、文献1のアニールした薄膜上に真空蒸着するアルミニウムは、前記薄膜の「上面全体に配置されてこれを実質的に覆」っているのか不明である点。
で相違し、その余の点では一致している。

印加する電気的刺激に応じて複数の抵抗状態に切り換えることができる材料層を情報の記憶層とする不揮発メモリにおいて、前記材料層を上面及び下面に加えて複数の側面を有する形状とし、前記材料層に接触する上部電極を、前記材料層の上面全体を覆うように設けることは、文献2の段落[0003]及び図1、または、段落[0009]?[0010]及び図5?6、あるいは、段落[0015]及び図13に、文献3の段落【0018】及び図1、または、段落【0044】及び図7にそれぞれ記載されるように、周知技術である。
したがって、文献1において、スピンコーティングして形成しアニールした薄膜を、複数の側面を有する形状に加工するとともに、その薄膜の上面全体を覆うように真空蒸着したアルミニウム電極を設けることは、当業者が適宜になし得たものと認められる。
……(中略)……
・請求項 :11、17
・引用文献等:1、7?9
・備考
印加する電気的刺激に応じて複数の抵抗状態に切り換えることができる材料層の上面及び下面とそれぞれ接触する絶縁体層を設け、前記材料層を複数の抵抗状態に切り換えるための2つの導電端子と前記各絶縁体層とで、前記材料層を包囲することは、文献7の段落【0014】及び図1、文献8の段落【0014】?【0015】及び図1、文献9の段落[0042]及びFigure1A?1Dに記載されるように、周知技術である。

・請求項 :12、13、19、20
・引用文献等:1、7?9
・備考
文献9の段落[0042]及びFigure1A?1Dには、印加する電気的刺激に応じて複数の抵抗状態に切り換えることができる材料層の上面側及び下面側に設けた絶縁体層と前記材料層との間に、それぞれ、ギャップを設けたことが記載されている。
……(中略)……

2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1?21には、「被覆ナノチューブスイッチ」と記載されている。
しかしながら、前記記載では、「ナノチューブ」が「被覆」された「スイッチ」を意味するのか、「ナノチューブスイッチ」が「被覆」されたものを意味するのか、不明である。
さらに、上記のいずれであっても、「ナノチューブ」ないし「ナノチューブスイッチ」が何によって「被覆」されるのか、不明である。

そして、前記記載について、本願明細書の記載を参酌すると、
段落【0060】に「NV NTブロックスイッチの一部の実施形態は、図8Cに関して以下にさらに示されるように被覆または密封(包囲)されたNV NTブロックスイッチを形成することによって下層の絶縁体と接触する下面NV NTブロック領域のごく一部を残して、6面のうちの5面で導体のみ(絶縁体なし)と接触してもよい。」と、段落【0072】に「被覆または密封(たとえば、導体接触によって密封)されたNV NTブロック構成では、図8Cに関して以下にさらに記載され」と、段落【0132】には「図8Cに示される密封型NV NTブロックスイッチ8050に関して先に記載されたように上面/全側面コンタクトを形成するためのNV NTブロック15600を密封(包囲)している。被覆(包囲)している導体は、たとえば、5?50nmと比較的薄くてもよく、密封型NV NTブロック側面のコンタクトを形成し、絶縁体材料との側面接触を防止するために使用される。」と記載されている。
すなわち、本願明細書には、「被覆」された「NV NTブロックスイッチ」とは、図8Cに示される構造を意味することが記載されている。
前記図8Cに示される構造では「NV NTブロック8075」は上面に加えて側面も「側壁コンタクト8082-1」で覆われているが、そのような構成が特定されていない請求項1、5?10においては、「被覆ナノチューブスイッチ」の事項の意味するところが不明である。
また、請求項11?18では「ナノチューブ素子の前記上面と接触する第1の絶縁体層」を有しており、請求項19?21では「ナノチューブ素子の前記上面の上に配置され前記上面に対して隔離した第1の絶縁体層」を有しており、いずれも、「NV NTブロック8075」の上面が「上面コンタクト8083」によって直接に覆われている図8Cに示される構造を有していない。
したがって、請求項11?21においても、「被覆ナノチューブスイッチ」の事項の意味するところが不明である。

以上から、「被覆ナノチューブスイッチ」は、それ自体が不明瞭な記載であるとともに、本願明細書を参酌しても、請求項1、5?21においては、如何なる構造を有する「ナノチューブスイッチ」を意味するのか、不明である。
よって、請求項1?21に係る発明は、明確でない。

(2)請求項1、11及び19に「複数の非配向ナノチューブを備えるカーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載されている。
しかしながら、「ナノチューブ素子」が「非配向ナノチューブを備える」ことは、本願明細書のどの開示に基づくのか、不明である。
すなわち、
ア 本願明細書には、ナノチューブ素子は「ナノチューブファブリック層」で形成される旨の記載が多数見受けられる。
しかしながら、本願明細書には、前記「ファブリック層」が、「ファブリック」の繊維要素である「ナノチューブ」が特定の方向に揃っていない不織布(non-woven fabric)状の層である旨の記載は、何ら存在しない。
イ 本願明細書の図面の簡単な説明には、図2A、図3、図6A?図7B及び図21の「NV NTスイッチ」は「水平配向」であること、図4A、図8A?図8Bの「NV NTスイッチ」は「垂直および水平配向」であること、図5A、図8Cの「NV NTスイッチ」は「垂直配向」であること、がそれぞれ記載されている。
また、段落【0068】に「図7Aは、絶縁体7010を図3に示されるNV NTスイッチ3000に追加することによって形成される自己配向チャネル長LSW-CHを有するNV NTスイッチ7000を示す。」と記載されており、段落【0181】?【0205】には、「水平配向」ないし「垂直配向」の「ナノチューブ素子」についての記載はある。
しかし、上記の、「NV NTスイッチ」あるいは「ナノチューブ素子」が、「水平配向」か「垂直および水平配向」ないし「垂直配向」であることの意味、「自己配向チャネル長」を有することの意味は、本願明細書の他の記載を参照しても不明である。
そして、前記各請求項に記載の「ナノチューブ素子」が「非配向ナノチューブを備える」ことと、上記の、「NV NTスイッチ」あるいは「ナノチューブ素子」が、「水平配向」か「垂直および水平配向」ないし「垂直配向」であること、あるいは、「自己配向チャネル長」を有することとの間に技術的な関連がある旨の記載は本願明細書には存在しない。
以上ア及びイから、「ナノチューブ素子」が「非配向ナノチューブを備える」ことは発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
よって、請求項1、11及び19に係る発明、各請求項を引用する請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)請求項1、11及び19に「カーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載されている。
しかしながら、「カーボンナノチューブ層」状とは、「ナノチューブ素子」が如何なる状態にあることを意味するのか不明である。
また、「カーボンナノチューブ層状」とは、「カーボンナノチューブ」が「層状」をなしていることを意味するとしても、この表現では、「カーボンナノチューブ」が如何なる態様で「層状」をなしているのか、不明である。
よって、請求項1、11及び19に係る発明、各請求項を引用する請求項に係る発明は、明確でない。

(4)請求項5には「前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも1つ」と記載されている。
しかしながら、同項が引用する請求項1には、「上面、下面、および複数の側面を有するカーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載され、「前記ナノチューブ素子」は「下面」を1つ有することが記載されている。
したがって、「前記下面の少なくとも1つ」という記載は不明瞭である。
よって、請求項5に係る発明は、明確でない。」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)理由1について
ア 引用例1の記載事項
当審拒絶理由通知で「文献1」として引用した、Basudev Pradhan , Sudip K. Batabyal , and Amlan J. Pal,“Electrical Bistability and Memory Phenomenon in Carbon Nanotube-Conjugated Polymer Matrixes”,J. Phys. Chem. B,米国,2006.04.01発行,Vol.110,No.16,pp 8274?8277(以下「引用例1」という。)には、当該当審拒絶理由通知で指摘した事項に加え、以下の記載がある。
(ア)“Transport processes and work-function of the CNTs, in conjunction with suitable molecular orbitals of conjugated polymers, may provide interesting characterisics as devices; electrical bistability with associated memory phenomenon can be one application of interest.”(第8274頁左欄第15?20行、訳:CNTの輸送プロセスと仕事関数は、共役ポリマの適切な分子軌道と連携して、興味ある用途の1つであるメモリの電気的双安定性という、デバイスとしての興味深い特性を提供する。)
(イ)“Figure 3. SEM image of (a) P3HT:CNT(33%) thin films and (b)CNTs surrounded by the polymers. The increase in diameter in the latter image as compared to the former one in due to polymer-corting of the nanotubes.”(図3の説明、訳:図3.)(a)はP3HT:CNT(33%)の薄膜の、(b)はポリマに囲まれたカーボンナノチューブの、それぞれSEM写真。前者の写真に比較しての後者の写真における直径の増加は、ナノチューブがポリマで被覆されたことによる。)
(ウ)Figure 3(b)には、ポリマに囲まれたカーボンナノチューブを有する薄膜において、方向が不規則な複数のカーボンナノチューブが、互いに交差し、あるいは、絡まり合っていることが記載されている。
(エ)“The swiching was proposed to be due to electir-field-induced charge transfer between the nanoparticle and their conjugated capping. In the present case with CNTs in conjugated environment, electron transfer may occur at a suitable bias from the CNTs to the lowest unoccupied molecular orbital(LUMO) of the polymer, leading to an increase in conductivity of the system.”(第8276頁左欄第26?32行、訳:スイッチングは、ナノ粒子とその共役キャッピングとの間の電荷移動で誘導される電界に依存する。共役環境にあるカーボンナノチューブである本ケースにおいては、電子の移動は、カーボンナノチューブからポリマの最低空軌道(LUMO)までの適切なバイアスによって生じ、これは、系の電導度の増加をもたらす。)

イ 引用発明
以上の引用例1の記載事項、及び、平成28年6月16日付けの当審拒絶理由通知の理由1において指摘した引用例1の記載事項から、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸化インジウムスズ(ITO)で被覆したガラス基板上に、所定量のカーボンナノチューブ粉末を混合したポリ(3-ヘキシルチオフェン)溶液をスピンコーティングし、アニールすることで、(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され方向が不規則な複数のカーボンナノチューブが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成される薄膜と、
前記薄膜の上に真空蒸着したアルミニウム層と、
を備えるデバイスであって、
前記アルミニウム層に対して印加する電圧を0Vから+VMAX、及び、0Vから-VMAXへスキャンさせて前記デバイスのI-V特性を測定すると、適切な正のバイアスで前記デバイスは、高電導状態から低電導状態にスイッチングし、
前記デバイスの高電導状態と低電導状態を、メモリの書込状態と消去状態にそれぞれ対応付けることで、電気的に双安定で書き換え可能なランダムアクセスメモリに適用できることを特徴とするデバイス。」

ウ 本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「方向が不規則な複数のカーボンナノチューブが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成される薄膜」は、「複数のカーボンナノチューブ」からなる不織布(non-woven fabric)状の薄膜であるから、「ナノファブリック」と言い得るものと認められる。
したがって、引用発明の「酸化インジウムスズ(ITO)で被覆したガラス基板上に、所定量のカーボンナノチューブ粉末を混合したポリ(3-ヘキシルチオフェン)溶液をスピンコーティングし、アニールすることで、(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され方向が不規則な複数のカーボンナノチューブが、互いに交差し、あるいは、絡まり合うことで形成される薄膜」と、本願発明1の「複数のカーボンナノチューブのみからなるナノファブリックで形成され、上面、下面、および複数の側面を有するナノチューブ素子」とは、「複数のカーボンナノチューブ」からなる「ナノファブリックで形成され、上面、下面」を「有するナノチューブ素子」である点で共通する。
(イ)引用発明において、前記「薄膜」の下に配置される「ガラス基板」の「上」を「被覆」する「酸化インジウムスズ(ITO)」、「前記薄膜の上に真空蒸着したアルミニウム層」が、いずれも、引用発明の「デバイス」の導電端子として機能していることは明らかである。
したがって、引用発明の「薄膜」の下に配置される「ガラス基板」の「上」を「被覆」する「酸化インジウムスズ(ITO)」は、本願発明1の「前記ナノチューブ素子」と接触する「第2の導電端子」であって「前記第2の導電端子は前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも一部分と接触」する「第2の導電端子」に相当する。
また、引用発明の「前記薄膜の上に真空蒸着したアルミニウム層」と、本願発明1の「前記ナノチューブ素子と接触する第1」の「導電端子であって、前記第1の導電端子は前記ナノチューブ素子の上面全体に配置されてこれを実質的に覆」う「第1」の「導電端子」とは、「前記ナノチューブ素子と接触する第1」の「導電端子であって、前記第1の導電端子は前記ナノチューブ素子の上面」に「配置され」る「第1」の「導電端子」である点で共通する。
(ウ)引用発明において、「前記アルミニウム層」に対して「電圧」を「印加する」手段を備えることが自明であることと同様に、「前記デバイス」に「適切な正のバイアス」を印加するために「酸化インジウムスズ(ITO)」に対して「電圧」を「印加する」手段を備えることも自明である。
そして、引用発明におけるこれら「酸化インジウムスズ(ITO)」及び「前記アルミニウム層」に対して「電圧」を「印加する」手段は、本願発明1の「前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路」に相当する。
(エ)引用発明において、「前記アルミニウム層に対して印加する電圧を0Vから+VMAX、及び、0Vから-VMAXへスキャンさせて前記デバイスのI-V特性を測定すると、適切な正のバイアスで前記デバイスは、高電導状態から低電導状態にスイッチング」することは、本願発明1において、「前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ」ることに相当する。
(オ)引用発明の「前記デバイスの高電導状態と低電導状態を、メモリの書込状態と消去状態にそれぞれ対応付けることで、電気的に双安定で書き換え可能なランダムアクセスメモリに適用できることを特徴とするデバイス」は、本願発明1の「前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ」に相当する。
(カ)以上から、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<一致点>
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブからなるナノファブリックで形成され、上面、下面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触する第1および第2の導電端子であって、前記第1の導電端子は前記ナノチューブ素子の上面に配置され、前記第2の導電端子は前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも一部分と接触する、第1および第2の導電端子と、
(c)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」

<相違点>
<<相違点1>>本願発明1の「ナノファブリック」は「複数のカーボンナノチューブのみからなる」のに対して、引用発明の「薄膜」における「カーボンナノチューブ」は「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され」ている点。
<<相違点2>>本願発明1の「ナノファブリック」は「複数の側面」を有するのに対して、引用発明の「薄膜」は「複数の側面」を有するかどうか明確でない点。
<<相違点3>>本願発明1の「第1の導電端子」は「前記ナノチューブ素子の上面全体に配置されてこれを実質的に覆」うのに対して、引用発明の「前記薄膜の上に真空蒸着したアルミニウム層」は、「前記薄膜の上」面全体に「蒸着」されて当該「薄膜」を実質的に覆っているかどうか不明である点。

エ 本願発明1についての判断
(ア)相違点1について検討する。
(イ)引用発明の「薄膜」における「カーボンナノチューブ」は「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され」ている。
そして、第4の2(1)アの(ア)及び(エ)で摘記した引用例1の記載をみると、引用発明の「カーボンナノチューブ」が「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され」ていることは、「前記デバイス」を「高電導状態と低電導状態」とで「スイッチング」させて「電気的に双安定で書き換え可能なランダムアクセスメモリに適用できる」ための必須の構成であると認められる。
(ウ)したがって、引用発明において、「薄膜」から前記「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマ」を除去して、前記「薄膜」を「方向が不規則な複数のカーボンナノチューブ」のみで形成することには阻害要因がある。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

オ 本願発明2ないし10についての判断
本願発明2ないし10は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

カ 本願発明11と引用発明との対比
本願発明11と引用発明とを対比すると、第4の2(1)ウでの検討から、本願発明11と引用発明とは、以下の点で一致するとともに以下の点で相違すると認められる。
<一致点>
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブからなるナノファブリックで形成され、上面と下面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触して互いに対して隔離した第1および第2の導電端子と、
(e)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」

<相違点>
<<相違点4>>本願発明11の「ナノファブリック」は「複数のカーボンナノチューブのみからなる」のに対して、引用発明の「薄膜」における「カーボンナノチューブ」は「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され」ている点。
<<相違点5>>本願発明11の「ナノチューブスイッチ」は「前記ナノチューブ素子の前記上面と接触する第1の絶縁体層」を有するのに対して、引用発明の「デバイス」はそのような「第1の絶縁体層」を有していない点。
<<相違点6>>本願発明11の「ナノチューブスイッチ」は「前記ナノチューブ素子の前記下面と接触する第2の絶縁体層であって、前記第1および第2の導電端子と前記第1および第2の絶縁体層は一緒に前記ナノチューブ素子を実質的に包囲する、第2の絶縁体層」を有するのに対して、引用発明の「デバイス」はそのような「第2の絶縁体層」を有していない点。

キ 本願発明11ないし18についての判断
相違点4について検討すると、第4の2(1)エで検討したと同様の理由により、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明11は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明12ないし18は、本願発明11をさらに限定したものであるので、本願発明11と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

ク 本願発明19と引用発明との対比
本願発明19と引用発明とを対比すると、第4の2(1)ウでの検討から、本願発明19と引用発明とは、以下の点で一致するとともに以下の点で相違すると認められる。
<一致点>
「ナノチューブスイッチであって、
(a)複数のカーボンナノチューブからなるナノファブリックで形成され、上面と下面を有するナノチューブ素子と、
(b)前記ナノチューブ素子と接触して互いに対して隔離した第1および第2の導電端子と、
(e)前記第1および第2の導電端子と電気的に連通してこれに電気的刺激を印加することができる制御回路と、を備え、
前記ナノチューブ素子は前記制御回路によって前記第1および第2の導電端子に印加される、対応する複数の電気的刺激に応じて複数の抵抗状態を切り替えることができ、
前記複数の抵抗状態のそれぞれ異なる抵抗状態のために、前記ナノチューブ素子は前記第1および第2の導電端子間に対応する、異なる抵抗の電気経路を提供することを特徴とするナノチューブスイッチ。」

<相違点>
<<相違点7>>本願発明19の「ナノファブリック」は「複数のカーボンナノチューブのみからなる」のに対して、引用発明の「薄膜」における「カーボンナノチューブ」は「(3-ヘキシルチオフェン)のポリマで被覆され」ている点。
<<相違点8>>本願発明19の「ナノチューブスイッチ」は「前記ナノチューブ素子の前記上面の上に配置され前記上面に対して隔離した第1の絶縁体層」を有するのに対して、引用発明の「デバイス」はそのような「第1の絶縁体層」を有していない点。
<<相違点9>>本願発明19の「ナノチューブスイッチ」は「前記ナノチューブ素子の前記下面の下に配置されてこの下面に対して隔離した第2の絶縁体層であって、前記第1および第2の導電端子と前記第1および第2の絶縁体層は一緒に前記ナノチューブ素子を実質的に包囲する、第2の絶縁体層」を有するのに対して、引用発明の「デバイス」はそのような「第2の絶縁体層」を有していない点。

ケ 本願発明19ないし21についての判断
相違点7について検討すると、第4の2(1)エで検討したと同様の理由により、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明19は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明20ないし21は、本願発明19をさらに限定したものであるので、本願発明19と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

コ 当審拒絶理由の理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、当審拒絶理由の理由1によっては、もはや、本願を拒絶することはできない。

(2)理由2について
ア 理由2(1)について
当審拒絶理由通知の理由2(1)において、請求項1?21には「被覆ナノチューブスイッチ」と記載されているところ、前記「被覆ナノチューブスイッチ」は、それ自体が不明瞭な記載であるとともに、本願明細書を参酌しても、請求項1、5?21においては、如何なる構造を有する「ナノチューブスイッチ」を意味するのか、不明であると指摘した。
これに対して、平成28年12月20日付けの手続補正によって、請求項1?21において、補正前の「被覆ナノチューブスイッチ」の記載から前記「被覆」の語が削除された。
したがって、補正後の請求項1?21に係る発明は明確になったので、当審拒絶理由の理由2(1)は解消した。

イ 理由2(2)について
当審拒絶理由通知の理由2(2)において、請求項1、11及び19に「複数の非配向ナノチューブを備えるカーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載されているところ、「ナノチューブ素子」が「非配向ナノチューブを備える」ことは、本願明細書のどの開示に基づくのか、不明であると指摘した。
これに対して、平成28年12月20日付けの手続補正によって、請求項1、11及び19において、補正前の「非配向ナノチューブ」を備える「ナノチューブ素子」という記載が、「カーボンナノチューブ」からなる「ナノチューブ素子」という記載に補正された。そして、補正後の記載は、本願明細書の段落【0024】における「不揮発性ナノチューブスイッチ(NV NTスイッチ)」を含む「ノード」は「一部の実施形態では、NMOS FETとカーボンナノチューブと組み合わせる」ことで形成する旨の記載と整合する。
したがって、請求項1、11及び19に係る発明、各請求項を引用する請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなったので、当審拒絶理由の理由2(2)は解消した。

ウ 理由2(3)について
当審拒絶理由通知の理由2(3)において、請求項1、11及び19に「カーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載されているところ、この記載は明確でない旨を指摘した。
これに対して、平成28年12月20日付けの手続補正によって、請求項1?21において、補正前の「カーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」の記載が、「ナノファブリックで形成され」る「ナノチューブ素子」という記載に補正された。そして、「ナノファブリック」は、平成26年3月17日提出の意見書に添付の証拠3?5に示されているとおり、当業者にとって一般的に知られた用語であり、明確である。
したがって、請求項1、11及び19に係る発明、各請求項を引用する請求項に係る発明は明確になったので、当審拒絶理由の理由2(3)は解消した。

エ 理由2(4)について
当審拒絶理由通知の理由2(4)において、請求項5には「前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも1つ」と記載されているところ、この記載は、同項が引用する請求項1に「上面、下面、および複数の側面を有するカーボンナノチューブ層状のナノチューブ素子」と記載され、「前記ナノチューブ素子」は1つの「下面」しか有しないことと反する旨を指摘した。
これに対して、平成28年12月20日付けの手続補正によって、請求項5における補正前の「前記ナノチューブ素子の前記下面の少なくとも1つと」の記載が、「前記ナノチューブ素子の前記下面と」に補正された。
したがって、請求項5に係る発明は明確になったので、当審拒絶理由の理由2(4)は解消した。

オ 当審拒絶理由の理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、当審拒絶理由の理由2はすべて解消した。

(3)小括
したがって、平成28年12月20日付けの手続補正によって、当審拒絶理由の理由1及び理由2はすべて解消した。
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-08 
出願番号 特願2009-523984(P2009-523984)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 鈴木 匡明
河口 雅英
発明の名称 メモリ素子およびクロスポイントスイッチと不揮発性ナノチューブブロックとを使用したそのアレイ  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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