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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1324520
審判番号 不服2015-17320  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2017-02-03 
事件の表示 特願2014- 5411「白色反射材」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日出願公開、特開2014- 78041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年6月25日を国際出願日とする特願2011-519952号(国内優先権主張 平成21年6月26日(特願2009-152828号)、平成22年3月23日(特願2010-65888号) 以下「原出願」という。)の一部を平成26年1月15日に新たな特許出願としたものであって、以後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成26年 1月15日 上申書
平成26年 6月 5日 拒絶理由通知(同年6月10日発送)
平成26年 8月 8日 意見書、手続補正書
平成26年10月 9日 拒絶理由通知(最後 同年10月21日発送)
平成26年12月19日 意見書、手続補正書
平成27年 2月 3日 補正の却下の決定(平成26年12月19日付け
手続補正)、拒絶理由通知(最後 同年2月10
日発送)
平成27年 4月13日 意見書、手続補正書
平成27年 6月15日 補正の却下の決定(平成27年4月13日付け手 続補正)、拒絶査定(同年6月23日送達)
平成27年 9月24日 審判請求書、手続補正書
平成28年 1月 7日 上申書
平成28年 7月13日 拒絶理由通知(同年7月19日発送 以下「当審
拒絶理由通知」という。)
平成28年 9月20日 意見書、手続補正書

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年9月20日付け手続補正により補正された請求項1-29に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1は以下のとおりである。

「シリコーン樹脂又はシリコーンゴムに、シランカップリング剤、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び/又はSiO_(2)で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されており、前記酸化チタン粒子と、前記シリコーン樹脂になる未架橋のシリコーン樹脂成分又は前記シリコーンゴムになる未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物が架橋硬化しているもので、前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴムのゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であって、150℃で1000時間の熱処理の後での高温経過時反射率と前記熱処理の前の初期反射率とが波長550nmにおいて反射率が少なくとも80%以上であることを特徴とする白色反射材。」(以下「本願発明」という。)

3 当審拒絶理由通知
当審拒絶理由通知で通知した拒絶理由は、本件出願の請求項1乃至28(当審注:平成27年9月24日付け手続補正により補正された請求項1乃至28である。)に係る発明は、特許法第29条の適用について、優先権の利益を享受することはできないものであり、本件出願の請求項1乃至28に係る発明は、原出願の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。


特開2009-164275号公報(公開日:2009年7月23日 以下「刊行物1」という。)
特開2009-135485号公報(公開日:2009年6月18日以下「刊行物2」という。)

4 優先権の利益について
本願発明は、「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴムのゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であって、」との発明特定事項を有する。
一方、優先権主張の基礎出願である、特願2009-152828号、特願2010-65888号の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面には、何れにも、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムのゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であることは、記載されていない。
してみると、本願発明は、優先権主張の基礎出願である上記2件の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明ではない。よって、本願発明は、特許法第29条の適用について、優先権の利益を享受することはできない。

5 引用発明
(1)記載事項
本願の原出願前に公開され、当審拒絶理由通知で引用した刊行物1(特開2009-164275号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている(当審注:下線は、当審が付加した。以下、同様である。)。

ア 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
三次元架橋しているシリコーン樹脂からなるバインダーと、アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ケイ素粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、チタン酸バリウム粉末、酸化チタン粉末、シルク、カオリン粉末、酸化鉄粉末、酸化亜鉛粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、カーボンファイバー、及び/又は着色剤であるフィラーとが含有されて、成形されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂が、シランカップリング剤と、それに架橋反応するシロキサン化合物とにより、前記三次元架橋していることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、前記シロキサン化合物の不飽和基又はヒドロシリル基に付加する不飽和基を有していることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項4】
前記バインダーと、前記フィラーと、前記シランカップリング剤とが混合されつつ含有されて、成形されていることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項5】
前記バインダーと、前記シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有されて、成形されていることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項6】
反射膜層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項7】
前記フィラーが、40?90質量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項8】
発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品。」

イ 【技術分野】の記載
「【0001】
本発明は、光学素子や電気素子の基板やパッケージに用いられるもので、通電や発光のロスを生じず、強度が強く、自在に成形できるシリコーン樹脂基材に関するものである。」

ウ 【背景技術】の記載
「【0004】
セラミックス製基板は、セラミックスの焼成時の大きな収縮の所為で精密構造にすることができなかったり、発光した光の一部が基板へ向いて出射されセラミックス孔から遺漏したり、表面をメッキしてもメッキ金属がその孔からマイグレーションしたりする。エポキシ樹脂製やポリエーテルエーテルケトン製の基板は、成形時に鉛フリーリフローに耐え得るが、その際に極僅かに収縮した凹み、所謂、ひけを生じたり、転写性が悪いため精密かつ正確な基板を成形できなかったり、発光した高輝度の光の一部の曝露やその光源の熱の曝露により基板を黄変させて劣化させたり、基板での反射効率を低下させたりする。またポリシロキサン組成物から形成した透明シリコーン樹脂製基板は、強度が不十分である所為で、応力や歪がかかると容易く割れてしまう。」

エ 【発明が解決しようとする課題】の記載
「【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、発光ダイオードを始めとする光学素子や電気素子の基板やパッケージに用いることができ、鉛フリーリフローに耐え、ひけを生じることなく精密な成形ができ、光や熱で黄変したり劣化したりせず、メッキなどの表面加工を施すことができ、硬くて丈夫なシリコーン樹脂基材を提供することを目的とする。」

オ 【発明の効果】の記載
「【0015】
本発明のシリコーン樹脂基材は、高い機械的強度を有し、強光で劣化せず、硬くて耐久性に優れたものである。それの製造の際、260℃以上に加熱される鉛フリーリフローに耐え、ひけを生じることなく精密かつ正確に成形でき、生産効率が良いため、安価に大量生産できる。
【0016】
しかも、シリコーン樹脂基材に、金属メッキや金属蒸着のような表面加工処理を施すことができる。シリコーン樹脂基材は、その表面加工処理が施されても、セラミックスのようにその孔からの光漏れや表面処理した金属のマイグレーションを生じないうえ、セラミックス並みの硬度を有する。
【0017】
このシリコーン樹脂基材は、熱伝導率や誘電率や反射強度を調整することができるので、発光ダイオードを始めとする光学素子や電気素子の基板やパッケージとして組み込んでシリコーン基材含有製品とすることができる。」

カ 【発明を実施するための好ましい形態】の記載
「…
【0024】
シリコーン樹脂基材1及び発光ダイオードパッケージ11は、以下のようにして作製される。
【0025】
先ず、シランカップリング剤とシロキサン化合物とフィラーとを含むバインダー用組成物を調製し、加熱、又は光照射によりシランカップリング剤とシロキサン化合物とが架橋したバインダーとしその分子間にフィラーを含ませたシリコーン樹脂を金型内で成型し、中央で窪んだシリコーン樹脂基材である発光ダイオード基板を得る(いわゆる内添法)。その窪みの表面に金属メッキ処理を施して反射膜層を付し、窪みに発光ダイオードの導線を貫通させ、発光ダイオードと発光ダイオード基板とを接着剤で固定する。発光ダイオード基板をフィルターで覆い接着剤で固定して封止すると、発光ダイオードパッケージが得られる。
【0026】
内添法の例を示したが、フィラーにシランカップリング剤をコーティング処理してから、シロキサン化合物に加え、加熱、又は光照射によりシランカップリング剤とシロキサン化合物とを架橋させてバインダーの分子間にフィラーを内包させたシリコーン樹脂を金型内で成型させるいわゆる乾式法で、発光ダイオード基板を得てもよい。」

【0040】
シロキサン化合物にシランカップリング剤が含まれていると、それが含まれていない場合よりも、フィラーを網目構造の中に確りと取り込むため、シリコーン樹脂の強度が顕著に強くなる。
【0041】
シロキサン化合物とシランカップリング剤とにより三次元架橋したシリコーン樹脂は、シランカップリング剤の分子量が小さいほど、アルミナのようなフィラーと相互作用し難くまたフィラーに付着してもシリコーン樹脂のバインダー自体を膨張させない。その結果、シリコーン樹脂基材の線膨張係数が小さいものとなる。シランカップリング剤は、フィラーが顔料であると、シリコーン樹脂基材の線膨張係数がなお一層小さいものとなる。
【0042】
特に、シランカップリング剤処理してフィラーと、バインダーであるシリコーン樹脂とが架橋しているシリコーン樹脂基材は、フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、曲げ強度、濡れ性・分散性が向上しており、高品質のものとなる。このようなシランカップリング処理は、例えばフィラーに対し1質量%のシランカップリング剤を添加し、ヘンシェルミキサーで撹拌して表面処理を行い、100?130℃で、30?90分間、乾燥させるというものである。
【0043】
本来、透明なシリコーン樹脂をバインダーとし、そこにフィラーを分散させつつ介在させたこのシリコーン樹脂基材は、フィラーにより、着色して不透明になっている。例えば、フィラーが酸化チタンである場合、シリコーン樹脂基材は不透明な白色となっている。

【0046】
シリコーン樹脂基材の誘電率を調整するのに用いられるフィラーとして、誘電率の高いフィラーであるチタン酸バリウム、酸化チタン;誘電率が低いフィラーであるシルクフィラー、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、フッ素樹脂パウダー、粉末アルミニウムが挙げられる。なかでも、酸化チタンは、屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効である。酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよく、平均粒子径を10?100nmとすることが好ましい。ルチル型結晶構造は、屈折率が一層高いから、反射効率を向上させることができる。さらに酸化チタンは、酸化還元触媒作用があるので、黄変対策に有効である。

【0054】
シリコーン樹脂基材は、それの表面反射効率を上げて、光漏れを防止するために、銀蒸着、アルミニウム蒸着のような金属蒸着処理;めっき処理が施されて金属被膜が形成されていてもよい。金属被膜ほどの反射効率でなくてもよい場合には、屈折率の大きな酸化チタンのような白色フィラーや、アルミニウム粉末のような金属フィラーを含有するものであってもよい。それにより、高輝度の発光ダイオード等の光や熱の所為で、黄変してしまうのを、防ぐことができる。」(当審注:【0042】に「…シランカップリング剤処理してフィラーと…」とあるのは、「…シランカップリング剤処理したフィラーと…」の誤記と認める。)

キ 【実施例】の記載
「【0057】
以下に示す通り、本発明を適用するシリコーン樹脂基材と、本発明を適用外のシリコーン樹脂基材とを、様々な条件で試作し、それの様々な物性を比較した。
【0058】
(試験1.曲げ強度測定試験(その1)・硬さ測定試験)
フィラーであるアルミナに対するシランカップリング処理の有無による曲げ強度・硬さの物性についての試験を行った。
【0059】
フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)を80質量部に、ビニルメトキシシランであるシランカップリング剤SZ6300(東レ・ダウコーニング株式会社製;商品名)の1質量部を、撹拌羽根のあるミキサーによる混合する乾式法によりシランカップリング処理し、シランカップリング剤で被覆されたアルミナのフィラーを調製した。それの300質量部を、バインダーであるシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)の100質量部に充填し、コンプレッション成形により、成形して、硬化物であるシリコーン樹脂基材(試験1:試験基材No.1-2)を得た。この基材について、JIS R1601に準じた曲げ強度試験、及びJIS K6253に準じた硬さ試験を行い、物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
一方、フィラーとしてシランカップリング剤処理していないアルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シリコーン樹脂基材(試験1:試験基材No.1-2)を得た。この基材について、同様にして、曲げ強度試験及び硬さ試験により、強度・硬さの物性を評価した。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から明らかな通り、バインダーとシランカップリング剤で被覆されたフィラーとが混合されつつ含有されて成形されているシリコーン樹脂基材No.1-1の方が、シランカップリング剤を有しないシリコーン樹脂基材No.1-2よりも、曲げ強度及び硬さの点で、優れていた。

【0073】
(試験5.透過率測定試験・反射率測定試験)
フィラーであるアルミナ又は酸化チタンの含有量毎の透過率と反射率との物性についての試験を行った。
【0074】
フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)、又は酸化チタンTTO-51(石原産業株式会社製;商品名)の20質量%、40質量%、60質量%をシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)に夫々充填し、金型を用いたコンプレッション成形により、成形して、硬化物であるシリコーン樹脂基材を得た。夫々の透過率と反射率とを、分光光度計UV-3150(株式会社島津製作所製;商品名)により測定した。その結果を、図5に示す。
【0075】
図5から明らかな通り、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材の透過率が低く、何れも40質量%、60質量%含まれていると、透過率が極めて低く、光の遺漏が殆ど認められない。一方、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材での420nm以上の反射率が高い。フィラーがアルミナである方が酸化チタンであるよりも、低波長での320nm近傍の低波長での反射率が高い。

【0080】
(試験7.熱安定性試験)
シリコーン樹脂基材の熱安定性の物性についての試験を行った。
【0081】
試験1で作製したのと同様なシリコーン樹脂基材を作製した。それを、150℃の循環式オーブン内に、クリップで吊るし、100時間、200時間、400時間、700時間、800時間経過後に、全光線透過率を測定した。なお、対照としてエポキシ樹脂製の基材を用いた。その結果を図6に示す。図6から明らかな通り、シリコーン樹脂基材は、長期間加熱しても、黄変も透過率低下も起こっていない。一方、エポキシ樹脂製の基材は、経時的に長波長側の透過率が低下しており、品質の劣化が認められた。
【0082】
(試験8.紫外線安定性試験)
シリコーン樹脂基材の紫外線安定性の物性についての試験を行った。
【0083】
試験1で作製したのと同様なシリコーン樹脂基材を作製した。それを、100mJ/cm^(2)/分のブラックランプで紫外線に曝し、24時間、46時間、117時間、208時間経過後に、全光線透過率を測定した。なお、対照としてエポキシ樹脂製の基材を用いた。その結果を図7に示す。図7から明らかな通り、シリコーン樹脂基材は、長期間紫外線に曝されても、黄変も透過率低下も起こっていない。一方、エポキシ樹脂製の基材は、経時的に長波長側の透過率が低下しており、品質の劣化が認められた。

ク 【産業上の利用可能性】の記載
「【0084】
本発明のシリコーン樹脂基材は、発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板として、またそれらのパッケージとして用いることができる。」

ケ 図5?図7は、以下のとおりである。



(2)引用発明
刊行物1には、「発光ダイオードを始めとする光学素子や電気素子の基板やパッケージに用いることができ、鉛フリーリフローに耐え、ひけを生じることなく精密な成形ができ、光や熱で黄変したり劣化したりせず、メッキなどの表面加工を施すことができ、硬くて丈夫なシリコーン樹脂基材」を提供することを課題(上記(1)エ参照。)とし、前記課題を解決するものとして上記(1)アの【請求項1】には「アルミナ粉末、…、酸化チタン粉末、…、及び/又は着色剤であるフィラー」を含有するシリコーン樹脂基材が開示されている。そして、上記(1)カ【0046】には、フィラーとして酸化チタンを用いたものは、「屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効である」ことが記載されている。そこで、前記課題を解決するとともに、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効な「酸化チタン」をフィラーとして含有するシリコーン樹脂基材について引用発明を認定する。

ア 上記(1)ア【請求項1】、【請求項2】、【請求項5】によれば、
「三次元架橋しているシリコーン樹脂からなるバインダーと、酸化チタン粉末であるフィラーとが含有されて、成形されているシリコーン樹脂基材であって、
前記シリコーン樹脂が、シランカップリング剤と、それに架橋反応するシロキサン化合物とにより、前記三次元架橋し、
前記バインダーと、前記シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有されて、成形されているシリコーン樹脂基材。」
が開示されている。

イ 上記(1)カ【0042】によれば、
「シランカップリング剤処理したフィラーと、バインダーであるシリコーン樹脂とが架橋しているシリコーン樹脂基材は、フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、曲げ強度、濡れ性・分散性が向上して」いることが記載されている。

ウ 上記(1)カ【0043】によれば、酸化チタンであるフィラーを含有するシリコーン樹脂基剤は、不透明な白色である。

エ 上記(1)カ【0046】によれば、フィラーとしての酸化チタンは、屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効である。また、酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよい。

オ 上記(1)ク【0084】によれば、シリコーン樹脂基材は、発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いることができる。

カ 以上によれば、刊行物1には以下の発明が記載されている。
「三次元架橋しているシリコーン樹脂からなるバインダーと、酸化チタン粉末であるフィラーとが含有されて、成形されているシリコーン樹脂基材であって、
前記シリコーン樹脂が、シランカップリング剤と、それに架橋反応するシロキサン化合物とにより、前記三次元架橋しており、
前記バインダーと、前記シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有されて、成形されており、
シランカップリング剤処理したフィラーと、バインダーであるシリコーン樹脂とが架橋しているシリコーン樹脂基材は、フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、曲げ強度、濡れ性・分散性が向上しており、
酸化チタンは、屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効であり、シリコーン樹脂基材は不透明な白色となっており、
前記酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよく、
発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いることができるシリコーン樹脂基材。」(以下「引用発明」という。)

6 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)本願発明の
「シリコーン樹脂又はシリコーンゴムに、シランカップリング剤、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び/又はSiO_(2)で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されて」いること
と、引用発明の
「三次元架橋しているシリコーン樹脂からなるバインダーと、酸化チタン粉末であるフィラーとが含有されて、成形されて」おり、前記フィラーが「前記シランカップリング剤で被覆され」ており、「フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、曲げ強度、濡れ性・分散性が向上しており」、「前記酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよ」いこと
を対比する。

ア 本願発明の「シランカップリング剤、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び/又はSiO_(2)で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子」と、引用発明の「酸化チタン粉末であるフィラー」が「前記シランカップリング剤で被覆され」ており、「前記酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよ」いことは、「シランカップリング剤で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子」の点で一致する。

イ 引用発明の「フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、…濡れ性・分散性が向上して」いることは、本願発明のシリコーン樹脂に酸化チタン粒子が「分散されて」いることに相当する。

ウ してみると、両者は、
「シリコーン樹脂に、シランカップリング剤で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されて」いる点
で一致する。

(2)本願発明の
「前記酸化チタン粒子と、前記シリコーン樹脂になる未架橋のシリコーン樹脂成分又は前記シリコーンゴムになる未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物が架橋硬化している」こと
と、引用発明の
「前記シリコーン樹脂が、シランカップリング剤と、それに架橋反応するシロキサン化合物とにより、前記三次元架橋しており」、「シランカップリング剤処理した」「酸化チタン粉末である」「フィラーと、バインダーであるシリコーン樹脂とが架橋しているシリコーン樹脂基材は、フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋している」こと
を対比する。

ア 本願発明は、
「シリコーン樹脂又はシリコーンゴムに、シランカップリング剤、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、及び/又はSiO_(2)で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されており、前記酸化チタン粒子と、前記シリコーン樹脂になる未架橋のシリコーン樹脂成分又は前記シリコーンゴムになる未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物が架橋硬化しているもので、…」
との発明特定事項を有する。該発明特定事項によれば、本願発明には、
(ア)「シランカップリング剤…で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子」における「シランカップリング剤」と、
(イ)「前記酸化チタン粒子と、…未架橋のシリコーン樹脂成分又は…未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物」における「シランカップリング剤」
が特定されている。
引用発明の「シランカップリング剤処理した」「酸化チタン粉末である」「フィラー」における「シランカップリング剤」は、上記(ア)、すなわち、本願発明の「シランカップリング剤…で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子」における「シランカップリング剤」に相当する。一方、上記(イ)、すなわち、本願発明の「前記酸化チタン粒子と、…未架橋のシリコーン樹脂成分又は…未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物」における「シランカップリング剤」に相当するものを引用発明が有するのか否か不明である。
してみると、両者は、
「前記酸化チタン粒子と、前記シリコーン樹脂になる未架橋のシリコーン樹脂成分とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物が架橋硬化している」点
で一致する。

(3)本願発明の
「白色反射材」
と、引用発明の
「酸化チタンは、屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効であり」、「不透明な白色となって」いる「シリコーン樹脂基材」であって、「発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いることができるシリコーン樹脂基材」
を対比する。
引用発明の「シリコーン樹脂基材」は、「発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いることができ」、「光反射性や隠蔽性が大き」く、「不透明な白色」であることから、本願発明の「白色反射材」に相当する。

(4)以上のことから、本願発明と引用発明は、
「シリコーン樹脂に、シランカップリング剤で表面処理されたアナターゼ型及び/又はルチル型の酸化チタン粒子が分散されて成形されており、
前記酸化チタン粒子と、前記シリコーン樹脂になる未架橋のシリコーン樹脂成分とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物が架橋硬化している白色反射材。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:シリコーン樹脂に関し、本願発明では、「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴムのゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であ」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か明らかでない点。

相違点2:白色反射材に関し、本願発明では、「150℃で1000時間の熱処理の後での高温経過時反射率と前記熱処理の前の初期反射率とが波長550nmにおいて反射率が少なくとも80%以上である」のに対し、引用発明ではそのようなものであるのか否か明らかでない点。

相違点3:シランカップリング剤に関し、本願発明では、「前記酸化チタン粒子と、…未架橋のシリコーン樹脂成分又は…未架橋のシリコーンゴム成分と、架橋成分としてシランカップリング剤とを含有する酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物」における「シランカップリング剤」を有するのに対し、引用発明は、そのようなものを有するのか否か不明である点。

7 判断
以下、上記相違点1乃至3について、まとめて検討する。
(1)はじめに、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項について検討する。

ア ゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80である「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム」の技術的意味について
本願発明の「白色反射材」は、「シリコーン樹脂又はシリコーンゴムに、…の酸化チタン粒子が分散されて成形されており、」との発明特定事項を有するところ、該発明特定事項によれば、「シリコーン樹脂又はシリコーンゴム」は「酸化チタン粒子」が分散されるもの、すなわち「酸化チタン」を含まないものと解される。そうすると、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項である、ゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80である「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム」は、「酸化チタン粒子」を含まない「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム」と解される。
なお、平成28年9月20日付け意見書「2.(2)(2-2)引用文献の発明と本願発明との比較」において、請求人は、「請求項1の白色反射材は、酸化チタン含有シリコーン未架橋成分組成物中に、シランカップリング剤、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)及び/又はSiO_(2)で表面処理された酸化チタンと架橋成分としてのシランカップリング剤との両方を含み、その組成物が架橋硬化し、シリコーン樹脂自体やシリコーンゴム自体の特定のゴム硬度と特定の反射率とを有する白色反射材であるのに対し、…」と主張する。該主張によれば、ゴム硬度は「シリコーン樹脂自体やシリコーンゴム自体」のものと解される。そうすると、ゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80である「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム」は、「酸化チタン粒子」を含まない「前記シリコーン樹脂又は前記シリコーンゴム」である旨の上記解釈は、審判請求人の前記主張と合致する。

イ 「ゴム硬度がショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であ」ることの技術的意味について
本願の明細書には、ショアA硬度、ショアD硬度についての説明が記載されていないので、技術常識を参酌する。「未硬化及び硬化シリコーンゴム」の試験方法は、JISK6249に規定され、試験方法は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験によるとされるところ、本願発明の特定事項である、「ショアA硬度」、「ショアD硬度」は、それぞれ、JISK6253に規定するタイプAデュロメータの測定値、タイプDデュロメータの測定値を意味するものと解される。
ここで、JISK6253で規定するデュロメータ硬さは、デュロメータ硬さ試験機を用いて、規定の形状の押針を、規定のスプリングカで試験片表面に押し付け、そのときの押針の押込み深さから得られる硬さである。押針は、試験片表面に押し付けていないときには、試験機下面から規定の寸法で突き出ているところ、この突出し寸法が最大の時の硬さを”0”、突出し寸法が0のときの硬さを”100”とし、その間を100等分した指示機構を用いるものである。デュロメータには、タイプA、タイプD、タイプE、タイプAMがあり、タイプAは中硬さ用、タイプDは高硬さ用、タイプEは低硬さ用、タイプAMは薄い試験片用である。そうすると、「ショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であ」るとのゴム硬度の範囲は、低硬さや特に硬いゴム硬度を除いた、中硬さから高硬さの、比較的広い範囲のゴム硬度を意味するものと解される。
以上のことは、刊行物2の記載とも整合する。刊行物2には、
「【0177】

以上のような観点から、封止部23の材料自身が、大きく応力緩和するものが好ましい。具体的には、硬度が低いもの、及び/又は、ゴム性を有しているものが好ましい。
【0178】
具体的な物性値を挙げると、封止部23の材料は、デュロメータタイプAによる硬度測定値(ショアA)が、通常5以上、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、また、通常90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下である。上記範囲の硬度測定値を有することにより、半導体発光装置100は、封止部23にクラックが発生しにくく、耐リフロー性及び耐温度サイクル性に優れるという利点を得ることができる。」
該記載によれば、硬度が低いゴム硬度、及び/又は、ゴム製を有しているゴム硬度は、ショアA硬度が通常5以上90以下であることが理解できる。そうすると、そうすると、本願発明の特定事項である「ショアA硬度で30?90」のゴム硬度は、硬度が低い範囲を除いた通常のゴム硬度を意味するものと解され、上記解釈と矛盾しない。

(2)以下、上記(1)ア、イの解釈を踏まえて検討する。
ア 本願発明は、シリコーン樹脂又はシリコーンゴムに、酸化チタン粒子が分散されて成形された白色反射材であるところ、一般に、高分子(本願発明の「シリコーン樹脂又はシリコーンゴム」が相当する。)中にフィラー(本願発明の「酸化チタン粒子」が相当する。)を分散させて、強度、弾性率、耐熱性、着色など、高分子材料の物性や特性を改良することは、当業者の技術常識である。
上記5(1)ウ【0004】の記載によれば、従来の透明シリコーン樹脂製基板は、強度が不十分であったところ、引用発明の「シリコーン樹脂基材」は、シランカップリング剤とそれに架橋反応するシロキサン化合物とにより前記三次元架橋してているシリコーン樹脂、シランカップリング剤で被覆された酸化チタン粉末であるフィラーとが含有されて成形されることにより、光反射性や隠蔽性が大きく、曲げ強度が向上し、発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いることができるものである。そうすると、発光ダイオード基板、太陽電池基板、発光ダイオードのパッケージ、太陽電池のパッケージとして用いるのに適した光反射性、隠蔽性、曲げ強度等の物性や特性が得られるように、シランカップリング剤とそれに架橋反応するシロキサン化合物とにより前記三次元架橋しているシリコーン樹脂の特性、シランカップリング剤で被覆された酸化チタン粉末の特性(種類(ルチル型結晶構造であるか、あるいはアナターゼ型結晶構造であるか)、粒子径、シランカップリング剤で被覆する程度等)、前記酸化チタン粉末の含有量等を設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項と認められる。
そして、
(ア)上記(1)イに記載したとおり、「ショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80であ」るとのゴム硬度の範囲は、低硬さや特に硬いゴム硬度を除いた、中硬さから高硬さの、比較的広い範囲のゴム硬度を意味するものと解されること、
(イ)上記5(1)キ【0073】?【0075】の「試験5.透過率測定試験・反射率測定試験」の記載と同ケの図5によれば、実施例のシリコーン樹脂基材として、反射率(本願発明の「初期反射率」に相当する。)は、波長550nmにおいて90%程度以上のものが記載されていること、
(ウ)上記5(1)キ【0040】、【0041】の記載によれば、シロキサン化合物にシランカップリング剤が含まれていると、シロキサン化合物とシランカップリング剤とにより三次元架橋したシリコーン樹脂の強度が顕著に強くなること、
から、引用発明において、「シリコーン樹脂」のゴム硬度を中硬さから高硬さのゴム硬度(言い換えると「ショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80」。)とすること、「シリコーン樹脂基材」の反射率を80%以上とすること、酸化チタンとともに「架橋成分として」の「シランカップリング剤」を含有させることでもシリコーン樹脂基材の強度等を調整することは、当業者が容易になし得たことと認められる。

イ また、
(ア)上記5(1)ウ【0004】には、背景技術として、エポキシ樹脂製やポリエーテルエーテルケトン製の基板は、発光した高輝度の光の一部の曝露やその光源の熱の曝露により基板を黄変させて劣化させたり、基板での反射効率を低下させること、透明シリコーン樹脂製基板は、強度が不十分であること、
(イ)上記5(1)エ【0006】には、発明が解決しようとする課題として、光や熱で黄変したり劣化したりせず、硬くて丈夫なシリコーン樹脂基材を提供することを目的とすること、
(ウ)上記5(1)キ【0080】?【0082】及び同クの図には、シリコーン樹脂基材は、長期間加熱(150℃で100時間?800時間)しても、あるいは長期間紫外線に曝されても、黄変も透過率低下も起こっていないこと
が記載されている。
上記(ア)?(ウ)によれば、従来の、エポキシ樹脂製やポリエーテルエーテルケトン製の基板は、光や熱の暴露等により、黄変して劣化したり反射効率が低下するのに対し、引用発明のシリコーン樹脂基板は、光や熱の暴露(150℃で100時間?800時間)等により黄変して劣化せず、反射効率が低下しないことが理解できる。
そうすると、引用発明の「シリコーン樹脂基材」の反射率は、さらに長時間の熱の暴露である150℃で1000時間の熱処理においても、反射効率が低下しない蓋然性が高いものと認められる。

(3)以上によれば、引用発明において、三次元架橋するシリコーン樹脂に架橋成分としてのシランカップリング剤を含有させ、シリコーン樹脂のゴム硬度をショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80とすると共に、150℃で1000時間の熱処理の後での高温経過時反射率と前記熱処理の前の初期反射率とが波長550nmにおいて反射率が少なくとも80%以上であるように為し、上記相違点1乃至3に係るの本願発明の発明特定事項と為すことは、引用発明、刊行物1、2に記載の事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

(4)作用効果について
本願発明が奏する作用効果は、引用発明、刊行物1、2に記載の事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に予測しうる程度のものであって、格別のものとは認められない。

(5)請求人の主張について
審判請求人は、平成28年9月23日付け意見書において、本願発明は、ショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80という適切なゴム硬度を有するので、タック性が発現せず、塵芥が付着しない等の作用効果を奏する(当該作用効果は、平成26年1月15日付け上申書、平成27年9月24日付け審判請求書等においても主張している。)のに対し、刊行物1に記載のものは、セラミックス並みの強度を有し、前記作用効果を奏しない旨主張するので、以下、検討する。

ア 本願の明細書には、ショアA硬度で30?90又はショアD硬度で5?80のゴム硬度の範囲であれば、タック性が発現しないとか、塵芥が付着しない旨の説明はなく、また、前記範囲が臨界的意義を有する旨の説明もない。そうすると、審判請求人の上記主張は、本願の明細書の記載に基づく主張ではない。
また、審判請求人は、平成26年1月15日付け上申書4.(4)において、上記作用効果に関する追試結果を記載している。しかしながら、該追試は、アルミナ表面処理した酸化チタンを含有したシリコーン未架橋成分組成物をPETフィルム上に印刷して架橋硬化した白色反射材に関するものである。上記追試によれば、酸化チタンの表面処理がシランカップリング剤ではなくアルミナであること、ショアA硬度が、フィラーを含有したシリコーン樹脂の試験片のショアA硬度なのか、シリコーン樹脂自体のショアA硬度なのか不明であることから、該追試結果を直ちには採用できない。
以上によれば、本願発明は、タック性が発現せず、塵芥が付着しない等の作用効果を奏する旨の審判請求人の主張は採用できない。

イ 念のため、ゴム硬度が低くなるに従い塵芥が付着し易くなることが技術常識であり、該技術常識を踏まえると、当業者が上記作用効果を理解できる場合について、以下検討する。
引用発明は、太陽電池基板や太陽電池のパッケージとしも用いられるところ、太陽光が照射される場所、すなわち屋外での使用が想定される。そうすると、該技術常識を考慮し、塵芥が付着しにくいゴム硬度とすることも、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

ウ 刊行物に記載された「セラミックス並みの強度」の技術的意味について検討する。上記5(1)キ【0059】には、「…JIS K6253に準じた硬さ試験を行い、物性を評価した。その結果を表1に示す。」との記載がある。ここで、上記(1)イに記載した技術常識を参酌する。JIS K6253で規定するショア硬度は、「突出し寸法が最大の時の硬さを”0”、突出し寸法が0のときの硬さを”100”とし、その間を100等分した指示機構を用いるもの」であるから、ショア硬度は単位のない無名数である。そうすると、刊行物1の表1に記載された硬さの単位である「(MPa)」は誤記と認められる。そして、表1によれば、試験基材No.1-1の硬さ「88」と試験基材No.1-2の硬さ「79」は、何れのタイプのデュロメータで測定した値なのかは不明である。しかしながら、最も硬い高硬さ用のデュロメータであるタイプDの測定値であるとしても、刊行物1では、タイプDの測定値(ショアD硬度)79を「セラミックス並みの強度」と評価するものである。そうすると、刊行物1の評価に従えば、本願発明の特定事項である「ショアD硬度で5?80」の範囲には、セラミックス並みの強度のものが含まれる。したがって、ゴム硬度の点において、本願発明と引用発明は、格別相違するものではない。よって、刊行物1に「セラミックス並みの強度」との記載があることを根拠として、本願発明と引用発明では作用効果が相違する旨の請求人の主張は、採用することができない。

エ 以上のとおりであるから、審判請求人の上記主張は、何れも採用することができない。

(6)小括
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物1、2に記載の事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と刊行物1、2に記載の事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-24 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2014-5411(P2014-5411)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高椋 健司  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 小松 徹三
近藤 幸浩
発明の名称 白色反射材  
代理人 大西 浩之  
代理人 小宮 良雄  

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