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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1324560
審判番号 不服2016-5385  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-12 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2014-532984「移動通信システム、ユーザ端末及びプロセッサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日国際公開、WO2014/034572、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年8月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年8月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月18日付けで拒絶理由が通知され、平成27年11月30日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成28年1月7日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年4月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成28年5月23日に前置報告がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成28年1月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項1-3
・引用文献等1-3
・備考
引用文献1には、無線端末は、他の無線端末との直接通信要求フレーム(本願の「他のユーザ端末を示す端末識別子」を含む「D2D 開始要求」に相当)を無線基地局に送信すること、及び当該直接通信要求フレームを受信した基地局は直接通信の可否を判断することが記載されている。(特に段落0297-0337を参照)
本願の請求項1-3に係る発明と引用文献1に記載された発明とを比較すると、直接的な端末間通信を、本願請求項に係る発明では、基地局から割り当てられる無線リソースを用いて行うのに対し、引用文献1にはその旨明記されていない点、D2D開始要求に、本願発明では、アプリケーション識別子と端末識別子を含んでいるのに対し、引用文献1にはその旨明記されていない点で相違する。
しかしながら、引用文献2には、移動局から直接通信を行うための要求を受信した基地局は、移動局間直接通信のための通信領域を割り当て、移動局は当該割り当てられた領域を用いて直接通信を行うことが記載されている。(特に段落0027を参照)
また、引用文献3には、端末装置間で直接通信を行う際に、通信開始要求メッセージに要求元(自端末)のアプリケーション識別子と宛先端末装置の識別子とを含めて送信することが記載されている。(特に段落0057,0070,0202-0211を参照)
引用文献1-3は、いずれも直接的な端末間通信を行う技術分野で共通しているから、引用文献1に記載された発明における直接通信要求フレームを受信した基地局に、引用文献2に記載された技術を適用し、直接通信要求フレームを受信した基地局が、無線端末間直接通信のためのリソースを割り当てること、引用文献1に記載された直接通信要求フレームに、引用文献3に記載された直接通信要求フレームに自端末のアプリケーション識別子を含ませることにより、本願の請求項1-3に係る発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願の請求項1-3に係る発明は引用文献1-3に記載された発明に基づいて、特許を受けることができない。
・・・略・・・
引用文献1に記載された「直接通信要求フレーム」及び引用文献3に記載された「通信路確保要求メッセージ」は、いずれも直接通信を行うために必要な要求を直接通信を開始したい端末から送信するという点で共通しており、その要求に含める内容(他の端末装置の識別子のみとするか、他の端末の識別子とアプリケーションの識別子とするか)を適宜どのようにするか、当業者が考慮することは自明のことである。そして、前記直接通信を行うために必要な要求を送信する相手が、基地局装置であるか、下流端末装置であるかによって、当該要求内容が制限される合理的な根拠(阻害要因)を見いだせない。すなわち、引用文献1に記載された「直接通信要求フレーム」の内容として、引用文献3に記載されたアプリケーション識別子と相手先端末装置の識別子を含めることは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、出願人の上記意見書の主張は採用できない。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-333271号公報
2.特開2011-055221号公報
3.特開2007-142945号公報


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとは認められない。
なお、本願請求項1、2、3の「D2D通信を行う際」という記載を「D2D通信における前記無線リソースの割り当てを前記基地局に要求する際」とする審判請求時の補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「第4 本願発明」から「第6 当審の判断」において後述するように、補正後の請求項1、2、3に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年4月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明と認められる。

「【請求項1】
基地局から割り当てられる無線リソースを用いて行う直接的な端末間通信であるD2D通信をサポートする移動通信システムであって、
前記D2D通信における前記無線リソースの割り当てを前記基地局に要求する際に、前記D2D通信において使用するアプリケーションを示す識別子と共に前記D2D通信において自ユーザ端末の通信相手となる他のユーザ端末を示す識別子を前記基地局に対して送信するユーザ端末を有することを特徴とする移動通信システム。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006-333271号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0025】
(第1の実施形態)
図1に、本実施形態のIEEE 802.11の無線LANシステムで1つの無線基地局(AP)1に複数の無線端末(STA)101?104が無線接続する通信形態を取る場合の例を示す。IEEE 802.11でこの無線基地局と複数の無線端末から成る構成単位をBSS(Basic Service Set)という。
【0026】
無線端末は前記同一BSS内で他の無線端末と通信する際は、無線基地局を介しての通信または他の無線端末との直接通信のいずれかを行うが、前記他の無線端末との通信方法の選択基準は無線基地局からの指示により行う。」

「【0297】
(第8の実施形態)
本実施形態は基本的には第1の実施形態に基づくので、以下では本実施形態が第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0298】
本実施形態が第1の実施形態と異なる点は、無線端末が所望無線端末と直接通信が可能かどうかを判断するのではなく、無線基地局が無線端末からの直接通信の要求フレームを受信した際に、無線基地局側で前記要求を許可するか否かを判断することである。
【0299】
図20を用いて説明する。
【0300】
無線基地局1は無線端末101と無線端末102、各々と無線通信を行っている際に、無線端末101と無線端末102からの受信フレームの受信フレーム情報を保持し、それに基づき、前記無線端末101からの無線端末102との直接通信要求フレーム{3}を受信すると、前記フレーム{3}の要求を許可するか否かを判断する。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 無線端末が他の無線端末と通信する際には、無線基地局を介しての通信、または他の無線端末との直接通信のいずれかを行う通信システムであって、
直接通信する際に、直接通信要求フレームを前記無線端末から前記無線基地局が受信し、無線基地局側で前記要求を許可するか否かを判断する通信システム。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2011-055221号公報)の【0027】段落の記載からみて、当該引用文献2には、「基地局装置及び複数の移動局装置から構成される通信システムにおいて、基地局装置を介さずに移動局装置間で直接通信を行う場合には、基地局装置は移動局装置からの要求に応じて上りデータ領域31の一部を移動局間直接通信のための通信領域として割り当てる。」という技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開2007-142945号公報)の【0068】-【0070】及び【0202】-【0205】段落の記載からみて、当該引用文献3には、「端末装置間のアドホック通信を行うシステムにおいて、上流端末装置が下流端末装置に対して送信する宛先端末装置までの通信路を確保することを要求するメッセージに、宛先端末装置を示す端末識別子と、要求元のアプリケーションプログラムを示す要求元識別子を含む。」という技術的事項が記載されていると認められる。


第6 当審の判断
1.本願発明について
(1)対比
本願発明を引用発明と対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「無線端末」、「無線基地局」は、本願発明における「ユーザ端末」、「基地局」にそれぞれ相当する。また、引用発明における「他の無線端末との直接通信」は、本願発明の「直接的な端末間通信であるD2D通信」に相当する。
引用発明における「直接通信要求フレーム」と、本願発明の「前記D2D通信において使用するアプリケーションを示す識別子と共に前記D2D通信において自ユーザ端末の通信相手となる他のユーザ端末を示す識別子」とは、ともに端末間の直接通信を要求する信号であるから「要求信号」といえる点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があると認められる。

(一致点)
「 直接的な端末間通信であるD2D通信をサポートする移動通信システムであって、
前記D2D通信を前記基地局に要求する際に、要求信号を前記基地局に対して送信するユーザ端末を有することを特徴とする移動通信システム。」

(相違点1)本願発明は基地局から割り当てられる無線リソースを用いてD2D通信を行うのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(相違点2)一致点とした「前記D2D通信を前記基地局に要求する際に、要求信号を前記基地局に対して送信する」ことに関し、本願発明においては無線リソースの割り当てを前記基地局に要求するしているのに対して、引用発明にはこのような特定がなく、また、「要求信号」についても、本願発明では「D2D通信において使用するアプリケーションを示す識別子と共に前記D2D通信において自ユーザ端末の通信相手となる他のユーザ端末を示す識別子」であるのに対して、引用発明では単に「直接通信要求フレーム」であって、その内容は特定されていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点2について検討する。
上述したように引用文献3に記載された技術的事項は、基地局を有さない端末間のアドホック通信に係る技術であることを前提とし、通信路の確保を要求するために、宛先端末装置の端末識別子と要求元のアプリケーションプログラムを示す要求元識別子を送信するものである。そうしてみると、引用発明のように要求フレームを基地局に送り、当該基地局が要求を許可するか否かを判断するものとは、その前提となる構成が異なるから、引用文献3の技術的事項を引用発明に適用する動機付けはないというべきである。
してみれば、引用発明の直接通信要求フレームを、引用文献3の技術的事項に記載されたような、宛先端末装置の端末識別子と要求元のアプリケーションプログラムを示す要求元識別子により構成することは当業者が容易に想到できたものということはできない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明、引用文献1,2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


2.請求項2、3について
本願請求項2に係る発明は、本願発明をユーザ端末として特定したものであり、本願発明と共通する技術的特徴を有するものであるから、本願発明と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
また、本願請求項3に係る発明は、本願発明をユーザ端末を制御するプロセッサとして特定したものであり、本願発明と共通する技術的特徴を有するものであるから、本願発明と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2014-532984(P2014-532984)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H04W)
P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 遠山 敬彦  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 山本 章裕
近藤 聡
発明の名称 移動通信システム、ユーザ端末及びプロセッサ  
代理人 キュリーズ特許業務法人  

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