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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1324645
審判番号 不服2015-6108  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-02 
確定日 2017-02-08 
事件の表示 特願2013-513112「ラマリンを含有する炎症疾患または免疫疾患の予防または治療用医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日国際公開、WO2011/152671、平成25年 9月 5日国内公表、特表2013-534517〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2011年6月2日(パリ条約による優先権主張 2010年6月3日、韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成26年3月6日付け拒絶理由通知に対し、同年6月11日受付けの手続補正がなされたが、同年10月9日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成27年4月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされた。そして、平成28年4月15日付けで当審による拒絶理由通知がなされ、同年8月10日受付けの手続補正がなされ、同日受付けの意見書が提出された。

2.本件発明

本願請求項1?5に係る発明は、平成28年8月10日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項4に係る発明(以下、「本件発明」という。)は以下のとおりである。
「下記一般式(1)の構造を持つラマリンの15mg/mL?40mg/mLを有効成分として含有する炎症疾患または免疫疾患の予防または改善用機能性食品であって、
前記ラマリンは南極地衣類のラマリナテレブラタから分離したものであり、及び
前記炎症疾患、または免疫疾患は、アトピー皮膚炎、関節炎、尿道炎、膀胱炎、動脈硬化症、アレルギー疾患、鼻炎、喘息、急性痛み、慢性痛み、歯周炎、歯肉炎、炎症性腸疾患、痛風、心筋梗塞、鬱血性心不全、高血圧、狭心症、胃潰瘍、脳梗塞、ダウン症候群、多発性硬化症、肥満、認知症、うつ病、統合失調症(精神分裂症)、結核、睡眠障害、敗血症、火傷、すい臓炎、パーキンソン病、脳卒中、発作による脳損傷、または自己免疫疾患であることを特徴とする、
前記予防または改善用機能性食品:
【化2】



3.引用例及び技術常識を示す文献に記載された事項
(1)引用例A
平成28年4月15日付け拒絶理由通知書に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であるHye-Jin Park et al.,The FASEB journal,2010 (Apr.),Vol.24 (Meeting Abstract Supplement),966.6(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例Aは英語で記載されており、訳文は当審による。

記載事項A-1:タイトル
「Ramaline(ラマリン)は、MAPKおよびNF-κBの活性を調節することにより、マクロファージにおけるLPS誘導NO放出を阻害する。」

記載事項A-2:アブストラクト
「リポ多糖(LPS)は、TLR4シグナリングを介して自然免疫応答を誘導し、活性化されたマクロファージは、一酸化窒素(NO)を含む種々の炎症性メディエーターを産生する。誘導型NO合成酵素(iNOS)によって生成されたNOは多くの病態生理学的プロセスの数を調節する。したがって、マクロファージにおけるNO産生を阻害することは、炎症疾患における潜在的な治療ターゲットである。ここで、我々は南極(polar)地衣類から抽出される新たに発見された酸化防止剤であるラマリン(ramalin)がマクロファージ様RAW264.7細胞株における炎症性メディエーターの産生を阻害することを実証する。RT-PCRおよびウェスタンブロット分析は、ラマリンがiNOSのmRNAおよびタンパク質レベルの両方の下方調節を介してNO放出のレベルを抑制することを実証した。ウェスタンブロット分析はまたラマリンがp65の発現とともにERK、p38およびJNKのLPS誘導リン酸化を抑止することを明らかにした。ラマリンによるNF-κBの低減された活性は、ルシフェラーゼプロモーターアッセイによっても確認された。加えて、LPS誘導TLR4の表面レベルだけでなくそのmRNAおよびタンパク質レベルもラマリンによって減少した。総合すると、これらの結果は、ラマリンが順にMAPKおよびNF-κBの活性を抑制するTLR4シグナル伝達の下方調節を介してマクロファージにおけるNO放出を減少させること、そしてそれが炎症性疾患の治療への可能な治療的アプローチであることを示唆している。」

(2)引用例B
平成28年4月15日付け拒絶理由通知書に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第2010/053327号(以下、「引用例B」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例Bは韓国語で記載されているので、引用例Bに対応する日本語特許文献である特表2012-508229号公報の記載を基にして、訳文は当審が作成した。

記載事項B-1:[3]、[4]
「生物は正常な代謝過程と外部資源から活性酸素種(reactive oxgen species、以下、ROSという)と活性窒素種(reactive nitrogen species)を蓄積する。スーパーオキサイド陰イオン(O_(2))、水酸ラジカル(OH)、過酸化水素(H_(2)O_(2))及び次亜塩素酸(hypocholorous acid,HOCl)のようなROSは、炎症、心血管疾患、癌、老化関連疾患、代謝疾患及びアテローム性動脈硬化症(atherosclerosis)と関連がある(Ames, B.N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:7915, 1993)。ROSは、不飽和脂肪酸を攻撃して、細胞膜の脂質過酸化を起こし、膜の流動性を減少させ、酵素レセプターの活性を減少させ、細胞膜蛋白質に損傷を与えて、その結果、細胞の不活性化を招く(Dean, R.T. and Davies, M.J., Trends. Biochem., Sci., 18:437, 1993)。
生物は、ROSの有毒性に対抗する自然な防御機構を有しているが、それにも拘らず、細胞の一生の間ROSの蓄積が増加すると非可逆的な酸化損傷が起こる(Tseng, T.H. et al., Food Chem. Toxicol., 35:1159, 1997)。従って、自由ラジカル中間体を除去して酸化過程を遅らせたり、抑制する抗酸化剤が求められている。いくつかの強力な合成抗酸化剤が既に開発されたが(Shimizu, K. et al., Lipids, 36:1321, 2001)、これらは非常に強力な発癌物質であることが確認された(Wichi, H.P. et al., Food Chem. Toxicol. 26:717-72, 1988)。そのため、健康用サプリメントとして使うために天然資源から抗酸化剤を分離する必要性が生じた。フェノール化合物、窒素化合物及びカルテノイド(Velioglu, Y.S. et al., J. Agric. Food Chem., 46:113, 1998)を含んだ幅広い天産物質が抗酸化能を有している。」

記載事項B-2:[6]
「そこで、本発明者等は多様な抗酸化活性を有する南極地衣類から抗酸化活性を有する新規化合物を分離しようと鋭意努力した結果、多様な抗酸化活性を有する南極地衣類であるラマリナ・テレブラタから抗酸化活性の非常に優れた新規抗酸化化合物であるラマリンを分離して本発明の完成に至った。」

記載事項B-3:[40]?[56]
「本発明の一様態において、ラマリンはメタノール:水(70:30v/v)混合溶液を利用して冷抽出と熱抽出を行い、粗抽出物を得て、前記得られた粗抽出物をヘキサン(hexane)で抽出して、極性が低い色素を除去して、残った液状をクロロホルムで抽出して、極性が低いか中間の化合物を除去した。残った水溶性抽出物は、メタノール(in water)溶液でグラジエント溶媒システムで分画した結果、0%メタノールで多くのDPPH自由ラジカルに対する活性(IC_(50)=8μg/mL)が示され、前記活性分画を、C18ODSカラムを使った分取(semi preparative)逆相HPLCに互いに異なる溶媒で2回適用させて取得した。
(中略)
本発明の前記抽出物は、糖尿及び肥満予防を目的に食品または飲料に添加される。この時、食品または飲料中の前記抽出物の量は、一般的に本発明の健康機能食品組成物は全体食品重量の0.01乃至50重量%、望ましくは0.1乃至20重量%に加えられ、健康飲料組成物は、100mLを基準に0.02乃至10g、望ましくは0.3乃至1gの割合で加えられる。」

(3)引用例C
平成28年4月15日付け拒絶理由通知書に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物であるBabita Paudel et al., Z. Naturforsch C, 2010(Jan.-Feb.), Vol.65, Nos.1-2, pp.34-38(以下、「引用例C」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例Cは英語で記載されており、訳文は当審による。

記載事項C:36頁右欄最終行?37頁左欄2行
「ラマリンはR. terebrata抽出物の水溶性画分における主要成分であった。」

(4)技術常識を示す文献
ア 技術常識を示す文献である特開平10-338678号公報には以下の事項が記載されている。

記載事項E-1:段落【0002】、【0003】
「【0002】
【従来の技術】一酸化窒素(以下、NOと略記する)は、哺乳動物の生体内で生理的な活性、例えば、脈管系では血管拡張因子として〔ファーマコロジカル・レビュー(Pharmacol. Rev.)第43巻、109-142頁(1991)〕、白血球系では殺腫瘍細胞殺菌作用を示す因子として〔カレント・オピニオン・イムノロジー(Curr. Opin. Immunol.)第3巻、65-70頁(1991)〕、神経系では神経伝達因子として〔ニューロン(Neuron)第8巻、3-11頁(1992)〕等、種々の役割を担っていると考えられている。NOは、NO合成酵素(以下、NOSと略す)によりL-アルギニンから生成される。現在のところ、遺伝子的に神経型NOS、血管内皮型NOS、誘導型(inducible)NOS(以下、iNOSと略記する)の3種のアイソフォームの存在が明らかにされており〔セル(Cell)第70巻、705-707頁(1992)〕、その産生様式から後者のiNOSに対比して前二者は構成型(constitutive)NOS(以下、cNOSと略記する)とも呼称される。cNOSは、血管内皮細胞内、神経細胞内に存在し、カルシウム・カルモジュリン依存性で各種レセプター刺激により活性化されて少量のNOを産生し、上述の生理的調節作用を担っているといわれている。一方、iNOSは各種サイトカインや細菌性リポ多糖類(LPS)などにより、マクロファージ、好中球などで誘導され、大量のNOを持続的に産生するため、上述の生理的な活性のみならず産生局所で細胞および組織に傷害的に作用することが指摘されている〔イムノロジー・トゥデイ(Immunol. Today)第13巻、157-160頁(1992)〕。
【0003】iNOSを発現する細胞・組織としては、上記細胞の他、肝細胞、クッパー細胞、グリア細胞、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、心筋内膜、心筋細胞、メサンギウム細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、膵臓β細胞、破骨細胞などが知られており〔ファセブ・ジャーナル(FASEB J.)第6巻、3051-3064頁(1992)、アーチ・サーグ(Arch Surg.)第128巻、396-401頁(1993)、ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)第44巻、27580-27588頁(1994)、ジャーナル・オブ・セルラー・バイオケミストリー(J. Cell. Biochem.)第57巻、399-408頁(1995)〕、これら細胞・組織で過剰産生されたNOが多くの疾患や病態に関与することが想定される。したがって、iNOS誘導細胞からのNO産生を抑制する物質は、例えば、動脈硬化症、心筋炎、心筋症、脳虚血性障害、アルツハイマー病、多発性硬化症、敗血症、慢性関節リウマチ、変形性関節症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、糖尿病、糸球体腎炎、骨粗鬆症、肺炎、肝炎、移植片拒絶反応または疼痛など、種々の疾患の予防薬・治療薬として有効であることが考えられる。このような観点から、これまでにiNOSを阻害する化合物としてL-アルギニン類縁体〔ファーマコロジカル・レビュー(Pharmacol. Rev.)第43巻、109-142頁(1991)〕、アミノグアニジン〔ブリテッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Br. J. Pharmacol.)第110巻、963-968頁(1993)〕、S-エチルイソチオウレア〔ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol.Chem.)第43巻、26669-26676頁(1994)〕などが報告されている。しかしながら、これらの化合物は、活性としてあまり強くないか、あるいはiNOSのみならず生理活性を担うcNOSをも阻害するなどの問題があった。」

記載事項E-2:段落【0045】
「【0045】本発明の化合物(I)またはその塩は、優れたiNOS誘導細胞からのNO産生抑制作用、IL-6活性阻害作用などを有し、かつ毒性が低く、ヒトおよび哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、サル、チンパンジーなど)に対する安全なNO産生抑制剤またはIL-6活性阻害剤として使用することができる。また、本発明の化合物(I)は、NOに起因する疾患(例えば、動脈硬化症、心筋炎、心筋症、脳虚血性障害、アルツハイマー病、多発性硬化症、敗血症、慢性関節リウマチ、変形性関節症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、糖尿病、糸球体腎炎、骨粗鬆症、肺炎、肝炎、移植片拒絶反応または疼痛)に対する予防・治療薬などの医薬として、さらには、IL-6に起因する疾患(例えば、心筋症,心肥大,心筋梗塞,狭心症などの心疾患、慢性関節リウマチ,全身性エリスマトーデス,全身性強皮症,リウマチ熱,多発性筋炎,結節性動脈周囲炎,シェーグレン症候群,ペーチェット病,キャッスルマン病もしくは自己免疫性溶血性貧血などの各種自己免疫疾患、メサンギウム増殖性腎炎,IgA腎炎,ループス腎炎,骨粗鬆症,アミロイドーシス,気管支喘息,アトピー性皮膚炎,乾癬,胸膜炎,潰瘍性大腸炎,アテローム硬化症,活動性慢性肝炎,アルコール性肝硬変症,通風もしくは各種脳炎などの炎症疾患、または多発性骨髄腫,心房内粘膜腫,腎癌,肺腺癌,悪性中皮腫,卵巣癌もしくは癌悪液質などの肉芽腫を伴う疾患)に対する予防・治療剤などの医薬として、ヒトおよび哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、サル、チンパンジーなど)に対して安全に使用することができる。」

ウ 技術常識を示す文献である特表2008-544981号公報には以下の事項が記載されている。

記載事項F:段落【0015】
「【0015】
本発明で開示された用語“アレルギー疾病”は、過敏症(anaphylaxis)、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis)、喘息(asthma)、食品アレルギー、及び、じんましん(urticaria)を含み、望ましくは、じんましんを含み、用語“炎症疾患(inflammation disease)”は、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎(contact dermatitis)、新生児頭部皮膚炎(cradle cap)、おむつ皮膚炎(diaper rash)、風焼け(windburn)、にきび(pimple)、乾癬(psoriasis)、湿疹(eczema)から選ばれた皮膚疾患を含み、望ましくは、皮膚炎、乾癬、湿疹を含む。」

エ 技術常識を示す文献である特表2008-540569号公報には以下の事項が記載されている。

記載事項G:段落【0019】
「【0019】
本発明はまた、pNKp30が役割を果たしている炎症疾患に罹患している哺乳動物を処置する方法を提供する。この方法は、炎症が軽減するようにpNKp30アンタゴニストを哺乳動物に投与する工程であって、アンタゴニストが、薬学的に許容されるビヒクルの中に入れた可溶性pNKp30タンパク質である工程を含む。炎症疾患は、例えば、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、アトピー性皮膚炎、湿疹、または乾癬などの慢性炎症疾患でもよい。炎症疾患は、例えば、内毒血症、敗血症、毒素性ショック症候群、移植片対宿主反応、または感染症などの急性炎症疾患でもよい。任意に、可溶性pNKp30タンパク質は、放射性核種、酵素、基質、補因子、蛍光マーカー、化学発光マーカー、ペプチドタグ、磁気粒子、薬物、または毒素をさらに含んでもよい。」

オ 技術常識を示す文献である特表2008-506773号公報には以下の事項が記載されている。

記載事項H:段落【0062】
「【0062】
一般に、PPAR作動薬および多不飽和脂肪酸は炎症反応を調節する。TTAは炎症性サイトカインであるインタロイキン-2の放出を低下させ、末端単核細胞のPHA促進増殖を抑制することにより炎症反応を調節する[オークラスト ピー他(2003年)ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション第33巻第5号第426?33頁(Aukrust P et al.(2003) Eur J Invest 33(5):426-33)]。TTAによるサイトカインの調節はPPAR媒介、または変更されたプロスタグランジンレベルにより、または脂質媒介シグナル変換の調節により行うことができ、後者の脂質媒介シグナル変換も、植物油および魚油において見出されているものと同様に、多不飽和脂肪酸に対する作用の機作として提案されているものである。本発明者が本発明の予想外の結果を見出したので、本発明者は植物油および/または魚油を非β酸化性脂肪酸体と組み合わせると脂肪酸類縁体の炎症障害に対する効果が増強されることが期待される。この炎症疾患としては免疫媒介障害、例えばリューマチ性関節炎、全身性血管炎、全身性紅斑性狼瘡、全身性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、種々の自己免疫内分泌障害(例えば甲状腺炎および副腎炎)、種々の免疫媒介神経障害 (例えば、多発性硬化症および重症筋無力症)、種々の心臓血管障害(例えば、心筋炎、うっ血性心不全、動脈硬化症、安定および不安定狭心症、並びにウェゲナー肉芽腫症)、炎症性腸疾患、クローン疾患、非特異的結腸炎、膵炎、腎炎、肝臓の胆汁うっ帯/線維症、並びに器官移植後の急性および慢性同種移植拒絶反応、並びに乾癬、アトピー性皮膚炎、非特異的皮膚炎、原発性刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、表層魚鱗癬、表皮剥離性角質増殖症、前悪性太陽誘発角化症、および脂漏症のような増殖性皮膚疾患、並びに例えばアルツハイマー症または低下した/改善性認知機能のような炎症成分を有する疾患が挙げられる。」

カ 技術常識を示す文献である特表平09-503524号公報には以下の事項が記載されている。

記載事項I:16頁最下行から8行目?4行目
「 本発明の化合物はロイコトリエンD4の拮抗薬であると信じられ、それ故、その処置がロイコトリエンD4レセプター阻害により達成ないし促進される広範囲の臨床症状の処置に価値がある。かかる症状には、喘息、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、気管支炎、慢性閉鎖性気道疾患、乾癬、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、ショック及び他の炎症疾患が包含される。」

4.引用発明との対比
引用例Aには、Ramaline(ラマリン)がMAPK及びNF-κBの活性を調節することにより、マクロファージにおけるLPS誘導NO放出を阻害することが記載されており(記載事項A-1)、南極地衣類から抽出される新たに発見された酸化防止剤であるラマリンがマクロファージ様RAW264.7細胞株における炎症性メディエーターの産生を阻害することが実証されたこと(記載事項A-2)、及びラマリンが順にMAPK及びNF-κBの活性を抑制するTLR4シグナル伝達の下方調節を介してマクロファージにおけるNO放出を減少させ、そしてそれが炎症性疾患の治療への可能な治療的アプローチであることが示唆されること(記載事項A-2)が記載されている。
これらの記載を勘案すると、引用例Aにはラマリンを有効成分とする、マクロファージにおけるLPS誘導NO放出を阻害するための組成物(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

ここで、本件発明と引用発明とを対比すると、本件発明と引用発明とは、ラマリンを有効成分とする組成物である点で一致し、以下の点で相違する、もしくは一応相違する。
(a)本件発明ではラマリンを含有する組成物が「炎症疾患または免疫疾患の予防または改善用機能性食品」であって「前記炎症疾患、または免疫疾患は、アトピー皮膚炎、関節炎、尿道炎、膀胱炎、動脈硬化症、アレルギー疾患、鼻炎、喘息、急性痛み、慢性痛み、歯周炎、歯肉炎、炎症性腸疾患、痛風、心筋梗塞、鬱血性心不全、高血圧、狭心症、胃潰瘍、脳梗塞、ダウン症候群、多発性硬化症、肥満、認知症、うつ病、統合失調症(精神分裂症)、結核、睡眠障害、敗血症、火傷、すい臓炎、パーキンソン病、脳卒中、発作による脳損傷、または自己免疫疾患」であるのに対して、引用発明では組成物が「マクロファージにおけるLPS誘導NO放出を阻害するための組成物」である点、
(b)本件発明ではラマリンがラマリナテレブラタから分離したものであるのに対して、そのような特定が引用発明ではなされていない点、 及び
(c)本件発明ではラマリンの量が15mg/mL?40mg/mLであるのに対して、引用発明ではラマリンの量が特定されていない点。

なお、引用例Aのタイトルにはラマリンの綴りが「Ramaline」となっており、末尾に「e」がついているが、アブストラクトでは「ramalin」と記載されていること、引用例B及び引用例Cでも「ramalin」と記載されていること、及び引用例Cには「ramalin」がR. terebrana(ramalina terebrana)抽出物の水溶性画分における主要な構成成分であると記載されていることから(記載事項C)、引用例Aのタイトルにある「Ramaline」は「Ramalin」の誤記と解される。そのため、「Ramaline」と「ramalin」が互いに異なる化合物であるとは認められない。

5.判断
ア 相違点(a)について
引用例Aにはラマリンを炎症性疾患の治療に適用し得る旨示されている(記載事項A-2)。そして、細胞・組織で過剰産生されたNOが多くの疾患や病態に関与するため誘導型NO合成酵素(iNOS)によるNO産生を抑制することにより種々の疾患の予防・治療ができることが本願優先日前既に当業者に知られており(要すれば、記載事項E-1等参照)、炎症疾患がアトピー皮膚炎等の各種疾患を包含することは、技術常識である(例えば、記載事項E-2、記載事項F、特記載事項G、記載事項H、記載事項I等参照)。
そうすると、引用発明において、ラマリンをアトピー皮膚炎等の各種炎症疾患の改善に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】には「本発明の機能性食品は、炎症予防のための薬剤、食品及び飲料等に多様に利用される。本発明の機能性食品は、例えば、各種食品類、キャンディ、チョコレート、飲料、ガム、茶、ビタミン複合剤、健康補助食品類などがあって、粉末、顆粒、精製、カプセルまたは飲料の形態で使える。」と記載されていることから、本件発明の機能性食品は飲料の形態を包含する。そして、疾患の治療効果が期待できる成分を、疾患の予防や改善を期待して、健康用サプリメント等の機能性食品の形態にすることは本願優先日前既に当業者に広く知られている(例えば、記載事項B-1等参照)。さらに、引用例Bには、ラマリン含有抽出物を健康飲料組成物に添加することが記載されている(記載事項B-3)。
よって、引用発明の「マクロファージにおけるLPS誘導NO放出を阻害するための組成物」を機能性飲料にすることも当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点(b)について
ラマリンは化合物であるから、本件発明のラマリンと引用発明のラマリンとには、どのような原料の違いがあっても、またはいかなる製造工程の違いがあっても、両者は化合物として相違するとはいえない。
よって、相違点(b)は実質的な相違点であるとは認められない。

ウ 相違点(c)について
引用例Bには、HPLCで分取して得られたラマリン含有抽出物を健康飲料組成物に添加することが記載されており、飲料中の前記抽出物の量は100mLを基準に0.02?10gの割合で加えられることが記載されている(記載事項B-3)。ここで、食品に添加される成分の添加量は所望の機能に応じて当業者が適宜調節し得ることである。そして、前記抽出物が純粋なラマリンであったとすると、前記健康飲料組成物中のラマリンの濃度は0.02?10g/100mL、すなわち0.2?100mg/mLとなる。この値は本件発明のラマリンの含有量15?40mg/mLと重複する。
そうすると、引用発明を健康飲料組成物とした場合にラマリン含有量を15?40mg/mL程度に設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。

エ 本件発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】には「本発明の機能性食品に有効性分として含まれたラマリンは、下記生物学的メカニズムを分析した結果から、明らかに抗炎症活性が優れているため、食品に用いる場合、優れた効能を示すことは当業者には自明であろう。」と記載されていることから、生物学的メカニズム分析結果を基に、ラマリンを含む本件発明の機能性食品は抗炎症活性に優れ、優れた効能を示すとされている。一方、引用例Aにも、ラマリンがマクロファージにおけるNO放出を減少させることから、ラマリンは炎症疾患に適用し得る旨記載されている(記載事項A-2)。
そうすると、本件発明の効果は引用発明と比較して当業者の予測し得ない格別顕著なものとは認められない。

オ 小括
したがって、本件発明は引用例A、引用例B、及び引用例Cに記載された発明ならびに技術常識に基づいて当業者が容易に発明できたものといえる。

6.むすび
以上のとおり、本願請求項4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、ほかの請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-12 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-26 
出願番号 特願2013-513112(P2013-513112)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人関 景輔鶴見 秀紀  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 横山 敏志
渕野 留香
発明の名称 ラマリンを含有する炎症疾患または免疫疾患の予防または治療用医薬組成物  
代理人 森田 憲一  
代理人 長山 弘典  
代理人 山口 健次郎  

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