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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G08G
管理番号 1324727
審判番号 不服2014-7641  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-24 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-542993号「運転支援装置および運転支援方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年6月3日国際公開、WO2011/064825〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年11月27日を国際出願日とする出願であって、平成26年1月22日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成26年4月24日に本件審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、当審において平成27年1月30日付けで拒絶理由を通知したところ、平成27年3月30日に意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成27年7月3日付けで拒絶理由を通知したところ、平成27年8月3日に意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成28年2月5日付けで拒絶理由を通知したところ、平成28年3月22日に意見書及び手続補正書が提出され、当審において平成28年6月24日付けで最後の拒絶理由を通知したところ、平成28年8月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年8月12日の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月12日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1?請求項5は、本件補正前の
「【請求項1】
車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援装置であって、
前記車両前方の走行路面を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した画像から、前記走行路面の区画線を検出するとともに、検出していた区画線を検出できなくなった区間においては、検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する画像処理手段と、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しないように前記車両を制御して前記運転支援を行う支援手段と、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しそうな場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、
車両が、前記支援手段を作動させるための条件として予め定められた運転支援作動条件を満たし、かつ、前記支援手段の作動を一時的に中断させるための条件として予め定められた運転支援一時中断条件に該当しないとき、前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が線を逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ、
車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、
前記車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ、
前記車両が前記仮想的な区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させないことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記運転支援作動条件は、少なくとも、前記車両のワイパーが作動している状態、前記車両のハンドル操作が車線変更を意図して行われている状態、前記車両の車速が予め定められた範囲にある状態、前記車両のターンシグナルが作動している状態、および前記車両のブレーキが操作されている状態のいずれにも該当していないことである、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、区画線を検出できなくなった区間に、検出できなくなる前に得られていた区画線を延長した線を前記仮想的な区画線として設定する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、
左右いずれか一方の区画線が検出できなくなった場合、当該区画線を検出できなくなった区間に、検出できた他方の区画線の位置から検出できなかった一方の区画線側に向かって過去に検出した右側区画線と左側区画線との距離を隔てた位置に引かれる線を前記仮想的な区画線として設定し、
左右両方の区画線が検出できなくなった場合、当該区画線を検出できなくなった区間に、検出できなくなる前に得られていた区画線を延長した線を前記仮想的な区画線として設定する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援方法であって、
前記車両前方の走行路面を撮像する撮像ステップと、
前記撮像した画像から、前記走行路面の区画線を検出するとともに、検出していた区画線を検出できなくなった区間においては、検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する画像処理ステップと、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しないように前記車両を制御して前記運転支援を行う運転支援ステップと、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しそうな場合に、前記運転支援ステップによる前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告ステップと、を備え、
車両が、前記運転支援ステップを実行させるための条件として予め定められた運転支援作動条件を満たし、かつ、前記運転支援ステップの実行を一時的に中断させるための条件として予め定められた運転支援一時中断条件に該当しないとき、前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が線を逸脱しそうな場合は、前記警告ステップによる警告を行い、
車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、
前記車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告ステップによる警告を行い、
前記車両が前記仮想的な区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告ステップによる警告を行わないことを特徴とする運転支援方法。」
を、本件補正後の
「【請求項1】
検出された区画線に基づいて車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援装置であって、
前記車両前方の走行路面を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段が撮像した画像から、前記走行路面の車両右側の区画線および車両左側の区画線を検出するとともに、検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、検出できなくなった区画線側に仮想的な区画線を設定する画像処理手段と、
車両右側の前記区画線または前記仮想的な区画線と車両左側の前記区画線または前記仮想的な区画線との間の車線内を前記車両が走行するように前記車両を制御して前記運転支援を行う支援手段と、
予め定められた時間後に前記車両の前輪が区画線に到達することによって前記車線から前記車両が逸脱しそうであると判断した場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、
車両が、前記支援手段を作動させるための条件として予め定められた運転支援作動条件を満たし、かつ、前記支援手段の作動を一時的に中断させるための条件として予め定められた運転支援一時中断条件に該当しないとき、逸脱する側の線が前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、
車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、
前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、
前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させないことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記運転支援作動条件は、少なくとも、前記車両のワイパーが作動している状態、前記車両のハンドル操作が車線変更を意図して行われている状態、前記車両の車速が予め定められた範囲にある状態、前記車両のターンシグナルが作動している状態、および前記車両のブレーキが操作されている状態のいずれにも該当していないことである、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記画像処理手段は、検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、途切れる前に得られていた当該少なくとも一方の区画線を延長した線を前記仮想的な区画線として設定する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、検出していた左右の区画線のいずれか一方の区画線が検出できなくなった場合、途切れる前に得られていた左右の区画線間の距離に基づいて、検出できた他方の区画線の位置から当該一方の区画線側に向かって当該距離を隔てた位置に引かれる線を前記仮想的な区画線として設定する、請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
検出された区画線に基づいて車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援方法であって、
前記車両前方の走行路面を撮像する撮像ステップと、
前記撮像した画像から、前記走行路面の車両右側の区画線および車両左側区画線を検出するとともに、検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、検出できなくなった区画線側に仮想的な区画線を設定する画像処理ステップと、
車両右側の前記区画線または前記仮想的な区画線と車両左側の前記区画線または前記仮想的な区画線との間の車線内を前記車両が走行するように前記車両を制御して前記運転支援を行う運転支援ステップと、
予め定められた時間後に前記車両の前輪が区画線に到達することによって前記車線から前記車両が逸脱しそうであると判断した場合に、前記運転支援ステップによる前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告ステップと、を備え、
車両が、前記運転支援ステップを実行させるための条件として予め定められた運転支援作動条件を満たし、かつ、前記運転支援ステップの実行を一時的に中断させるための条件として予め定められた運転支援一時中断条件に該当しないとき、逸脱する側の線が前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告ステップによる警告を行い、
車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、
前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告ステップによる警告を行い、
前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告ステップによる警告を行わないことを特徴とする運転支援方法。」
に補正された。

2.新規事項
(1)本件補正後の請求項1には、「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、検出できなくなった区画線側に仮想的な区画線を設定する」と記載されているから、区画線が検出できなくなったときの区画線に基づくのではなく、道路上で区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定することとなる。

そこで、本件補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、
「車両に搭載され走行レーンに沿った運転を支援する運転支援装置であって、前記車両前方の走行路面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段が撮像した画像を用いて、前記走行路面の区画線を検出するとともに区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定する画像処理手段と、前記区画線と前記仮想的な区画線とに基づいて前記車両を制御して前記運転支援を行う支援手段と、前記車両の状態を検出し、当該状態を示す情報を車両情報として算出する算出手段と、前記車両情報が予め定められた解除条件を満たす場合に前記運転支援を解除する解除手段と、前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱する場合に警告を報知する警告手段と、前記運転支援が解除された場合には前記警告手段の作動を禁止する禁止手段とを備える、運転支援装置。」(【請求項1】)
「前記画像処理手段は、前記撮像手段が撮像した画像を用いて、走行路面の区画線を検出するとともに前記車両の左側および右側の少なくとも何れか一方の区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定することを特徴とする、請求項1に記載の運転支援装置。」(【請求項5】)
「前記画像処理手段は、前記車両の左側および右側の少なくとも何れか一方の区画線が存在しない区間が予め定められた距離を超える場合に当該区間に仮想的な区画線を設定することを特徴とする、請求項5に記載の運転支援装置。」(【請求項6】)
「前記画像処理手段が仮想的な区画線を設定する区画線が存在しない区間は、分岐区間、合流区間、車線増加区間、交差点内、バス停留所の乗降区間、カープールレーン出口区間から成る群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項5に記載の運転支援装置。」(【請求項7】)
「車両に搭載され走行レーンに沿った運転を支援する運転支援方法であって、前記車両前方の走行路面を撮像する撮像ステップと、前記撮像ステップで撮像した画像を用いて、前記走行路面の区画線を検出するとともに区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定する画像処理ステップと、前記区画線と前記仮想的な区画線とに基づいて前記車両を制御して前記運転支援を行う支援ステップと、前記車両の状態を検出し、当該状態を示す情報を車両情報として算出する算出ステップと、前記車両情報が予め定められた解除条件を満たす場合に前記運転支援を解除する解除ステップと、前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱する場合に警告を報知する警告ステップと、前記運転支援が解除された場合には前記警告ステップでの作動を禁止する禁止ステップとを備える、運転支援方法。」(【請求項8】)
「しかしながら、車両が走行している走行路面の区画線を認識する際に、例えば、上述した上記特許文献1に開示されている技術を用いた場合、検出されていない方の区画線の位置を推定し、当該推定された位置に基づいて実際に区画線が存在しない区間に一時的に仮想的な区画線を設定することになる。そして、一時的に設定された仮想的な区画線に基づいて、車線逸脱警報を行った場合、実際には区画線が存在しない区間でも車線逸脱警報が行われてしまうことがあり、ドライバーは違和感を抱くことがあった。」(【0007】)
「本発明は、上記課題を解決するために以下に示すような特徴を有する。車両に搭載され走行レーンに沿った運転を支援する運転支援装置である。上記運転支援装置は、上記車両前方の走行路面を撮像する撮像手段と、上記撮像手段が撮像した画像を用いて、上記走行路面の区画線を検出するとともに区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定する画像処理手段と、上記区画線と前記仮想的な区画線とに基づいて上記車両を制御して上記運転支援を行う支援手段と、上記車両の状態を検出し、当該状態を示す情報を車両情報として算出する算出手段と、上記車両情報が予め定められた解除条件を満たす場合に上記運転支援を解除する解除手段と、上記仮想的な区画線から上記車両が逸脱する場合に警告を報知する警告手段と、上記運転支援が解除された場合には上記警告手段の作動を禁止する禁止手段とを備える。」(【0009】)
「本発明の第5の局面は、上記第1の局面において、上記画像処理手段は、上記撮像手段が撮像した画像を用いて、走行路面の区画線を検出するとともに上記車両の左側および右側の少なくとも何れか一方の区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定することを特徴とする。
本発明の第6の局面は、上記第5の局面において、上記画像処理手段は、上記車両の左側および右側の少なくとも何れか一方の区画線が存在しない区間が予め定められた距離を超える場合に当該区間に仮想的な区画線を設定することを特徴とする。
本発明の第7の局面は、上記第5の局面において、上記画像処理手段が仮想的な区画線を設定する区画線が存在しない区間は、分岐区間、合流区間、車線増加区間、交差点内、バス停留所の乗降区間、カープールレーン出口区間から成る群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする。
本発明の第8の局面は、車両に搭載され走行レーンに沿った運転を支援する運転支援方法である。上記運転支援方法は、上記車両前方の走行路面を撮像する撮像ステップと、上記像ステップで撮像した画像を用いて、上記走行路面の区画線を検出するとともに区画線が存在しない区間に仮想的な区画線を設定する画像処理ステップと、上記区画線と上記仮想的な区画線とに基づいて上記車両を制御して上記運転支援を行う支援ステップと、上記車両の状態を検出し、当該状態を示す情報を車両情報として算出する算出ステップと、上記車両情報が予め定められた解除条件を満たす場合に上記運転支援を解除する解除ステップと、上記仮想的な区画線から上記車両が逸脱する場合に警告を報知する警告ステップと、上記運転支援が解除された場合には上記警告ステップでの作動を禁止する禁止ステップとを備える。」(【0013】?【0016】)
「例えば、図4に示すように・・(略)・・運転支援ECU1は、カメラ2からの画像に基づいて自車両mvが右側区画線Rが得られなくなったポイント(図中のポイントPcR)まで来たと判断したとき、これまでに得られた右側区画線Rに基づき、当該右側区画線Rを延長した線を仮想線Rfとして設定する。」(【0069】)
(なお、図4の右側区画線RはRcrと連続している。)
「また、図10で例示したような右側区画および左側区画線ともに区画線が無い交差点等においては・・(略)・・運転支援ECU1は、カメラ2からの画像に基づいて自車両mvが左側区画線Lおよび右側区画線Rが得られなくなったポイントまで来たと判断したとき、これまでに得られた左側区画線Lおよび右側区画線Rに基づき、当該左側区画線Lおよび右側区画線Rをそれぞれ延長した線を仮想線Lfおよび仮想線Rfとして設定する。」(【0071】)
と記載されているのみで、「右側区画線Rが得られなくなったポイントまで来たと判断したとき、これまでに得られたこれまでに得られた右側区画線R」に基づき区画線Rを延長した線を仮想線として設定するものや、「左側区画線Lおよび右側区画線Rが得られなくなったポイントまで来たと判断したとき、これまでに得られた左側区画線Lおよび右側区画線R」に基づき区画線Rを延長した線を仮想線として設定するものが記載されているにすぎず、「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて」仮想的な区画線を設定する(すなわち、単に区画線が得られなくなったときに、これまでに得られた区画線に基づくのではなく、道路上で区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて仮想的な区画線を設定すること)ことは、図面を参照しても記載も示唆もない。

(2)本件補正後の請求項1には、「車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させない」と記載されているから、車両が運転支援作動条件を満たさないとき、車両が区画線側から車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させることとなる。

そこで、本件補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、
「運転支援ECU1が自車両mvが安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置を行う制御を、特に、LKA(Lane keep Assist)制御と称す。」(【0037】)
「警告を行う制御を、特に、LDW(Lane Departure Warning)制御と称す」(【0038】)
「次に、図2を参照しつつ、本実施形態に係る運転支援装置の運転支援ECU1において行われる処理の流れの一例を説明する。図2は、本実施形態に係る運転支援装置の運転支援ECU1における処理の流れの一例を示したフローチャートである。」(【0046】)
「図2の説明に戻って、ステップS15において、運転支援ECU1は、車両情報取得装置4から車両情報情報を取得する。そして、運転支援ECU1は、次のステップS16に処理を進める。」(【0075】)
「ステップS16において、運転支援ECU1は、LDW制御が必要であるか否かを判断する。そして、当該ステップS16での判断を肯定(YES)した場合、次のステップS17に処理を進め、判断を否定(NO)した場合、ステップS15に処理を戻す。」(【0076】)
「なお、運転支援ECU1は、上記ステップS16において、予め定められた時間後に自車両mvの前輪が右側区画線R(右側区画線Rに対応する仮想線Rf)、または左側区画線L(左側区画線Lに対応する仮想線Lf)に到達すると判断した場合でも、例えば、図12に示すLDW作動条件を満たしていなかったり、後述のLDW一時中断条件に当てはまる場合は、当該ステップS16の判断を否定(NO)する。」(【0078】)
「具体的には、運転支援ECU1によってLDW制御が必要であると判断された場合でも、例えば、図12に示すように、LKAスイッチがONにされていなかったり(図12のD1a)、自車両mvが、所定速度v1内で走行してないかったり(図12のD1b)、右側区画線R(または右側区画線Rに対応する仮想線Rf)および左側区画線L(または左側区画線Lに対応する仮想線Lf)が認識されていなかったりした場合である(図13のD1c)には、LDW制御は行われない。」(【0079】)
「また、自車両mvのドライバーが車線変更を目的とした意図したハンドル操作を行ったり、例えば車線変更をするためにターンシグナルを出したり、例えば自車両mvを停止させるためにブレーキ操作を行ったり、ワイパーが作動していたり、システムに異常があった場合は、LDW作動条件を満たさない。」(【0080】)
「ステップS18において、運転支援ECU1は、自車両mvが当該自車両mvの走行すべき走行レーンから逸脱しそうである旨の警告を自車両mvのドライバーに対して、表示装置6や音声出力装置7を介して行うLDW制御をする。そして、運転支援ECU1は、ステップS20に処理を進める。
上記ステップS17での処理が肯定(YES)された次のステップS19において、運転支援ECU1は、仮想線に対して警告するか否かを判断する。具体的には、運転支援ECU1は、当該ステップS19において、仮想線に対して警告するか否かの判断は、仮想線におけるLKA作動状況に応じて判断する。
ここで、一般的なLKA作動状況について簡単に説明する。図13は、LKA作動条件の一例を示した図である。運転支援ECU1は、例えば、図13に示すように、LKA作動条件D2a?D2iを全て満たした場合に、運転支援ECU1は、LKA制御を行うことができる。具体的には、LKA制御は、まず、前提としてLKAスイッチがONされていなければならない(図13のD2a)。そして、自車両mvが、所定速度v2内で走行しており、右側区画線R(または右側区画線Rに対応する仮想線Rf)および左側区画線L(または左側区画線Lに対応する仮想線Lf)が認識されていることが必要である(図13のD2bおよひD2c)。」(【0082】?【0084】)
「運転支援ECU1は、上述したLKA作動条件を全て満たしており、かつ上述のLKA一時中断条件に該当しない場合、当該ステップS19の判断を肯定(YES)、つまり、仮想線に対しても警告すると判断する。」(【0091】)
「運転支援ECU1は、上述したLKA作動条件を全て満たしていなかったり、上述のLKA一時中断条件に該当する場合、当該ステップS19の判断を否定(NO)、つまり、仮想線に対しては警告しないと判断する。」(【0093】)
と記載されている。

・【図2】は「運転支援ECU1における処理の流れの一例を示したフローチャート」であって、下記(a)(b)のステップS18の「警告」に至るまでの流れが記載されている。、
(a)「S15」の「車両情報を所得」→「S16」の「LDW制御必要」がYES→「S17」の「仮想線?」がNO→S18の「警告」。
(b)「S15」の「車両情報を所得」→「S16」の「LDW制御必要」がYES→「S17」の「仮想線?」がYES→「S19」の「仮想線に対して警告する?」がYES→S18の「警告」。
(c)なお、上記(a)(b)以外のS18の「警告」に至る流れは記載されていない。

そうすると、当初明細書等には、運転支援作動条件(LKA作動条件)を全て満たしているとき警告手段を動作するものが記載されているにすぎず、車両が運転支援作動条件を満たさないとき、前記車両が区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、警告手段を作動させることは、図面を参照しても記載も示唆もない。

(3)したがって、本件補正後の請求項1に記載された「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、検出できなくなった区画線側に仮想的な区画線を設定する」、及び「車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させない」は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。
なお、請求項5も同様である。

3.目的用件
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の限縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。また、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正前後で、請求項数は共に5であり、請求項1-4は共に運転支援装置に係る発明であり、請求項5は共に運転支援方法に係る発明であり、請求項1、5は共に独立項であり、従属項の引用形式は共に同じであるから、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応するものとして検討する。

本件補正前の請求項1は、仮想的な区画線を設定することについて、「検出していた区画線を検出できなくなった区間においては、検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線」に基づいて設定しているので、検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて設定している。
本件補正後の請求項1は、仮想的な区画線を設定することについて、「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線」に基づいて設定しているから、区画線が検出できなくなったときの区画線に基づくのではなく、道路上で区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定することとなる。
そうすると、本件補正前のどの構成を限定しても、補正後の請求項1に記載されたような仮想的な区画線設定条件にはならず、且つ、本件補正前の請求項1記載の仮想的な区画線設定条件から「検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて」設定することが削除されているから、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当せず、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の限縮」に該当しない。請求項5も同様である。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の限縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。

4.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由II]
上記のとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項に記載されたものが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1には「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて、検出できなくなった区画線側に仮想的な区画線を設定する」と記載されている。

発明の詳細な説明には、上記[理由I]2.(1)と同様の記載がある。
そうすると、「検出していた左右の区画線の少なくとも一方の区画線を検出できなくなった場合、当該少なくとも一方の区画線が途切れる前までに得られていた区画線に基づいて」仮想的な区画線を設定する本件補正発明は、上記[理由I]2.(1)と同様に、発明の詳細な説明に記載された発明でない。
同様の記載がなされた請求項5も同様である。

(2)請求項1には「車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させない」と記載されているから、車両が運転支援作動条件を満たさないとき、車両が区画線側から車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させることとなる。

発明の詳細な説明には、上記[理由I]2.(2)と同様の記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明には、運転支援作動条件(LKA作動条件)を全て満たしているとき警告手段を動作するものが記載されているにすぎず、車両が運転支援作動条件を満たさないとき、前記車両が区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、警告手段を作動させる本件補正発明は、上記[理由I]2.(2)と同様に、発明の詳細な説明に記載された発明でない。
請求項5も同様である。

2.特許法第36条第4項及び第6項第2号について
(1)請求項1には「予め定められた時間後に前記車両の前輪が区画線に到達することによって前記車線から前記車両が逸脱しそうであると判断した場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、・・(略)・・車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させない」と記載されている。

発明の詳細な説明には、「【0089】また、例えば、自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合や、ドライバーが手放し運転していることが検出された場合も、LKA制御は作動しなくなる。つまり、仮にLKA制御中であっても当該LKA制御は一時中断される(LKA一時中断条件)。」と記載され、「自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合」は、「運転支援一時中断条件」に該当する。

そうすると、請求項1は「自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合」に「車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ」るものとなるが、自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いでいれば、前端が既に区画線に到達しているので、車両が前向きに走行している限り、すでに跨いで逸脱していて、「逸脱しそうである」と未来の出来事を判断することはできないので、本件補正発明の「車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ」る構成が不明確である。
また、「予め定められた時間」とはどのように決めるのか(発明の詳細な説明に記載されていない。)、速度と無関係で良いのか(同じ時間であっても、低速時に逸脱回避できても、高速時には逸脱回避できない。)、車両の形と無関係に「前輪が区画線に到達」で良いのか(ボンネット車のように車体の前輪よりも前方にある部分が、区画線からはみ出して危険な状態となる。)も不明確である。
請求項5も同様である。

(2)請求項1では「区画線」に関して、「検出された区画線」か「仮想的な区画線」と特定されており、「仮想的な」との限定のない区画線は、検出された現実の区画線を表すから、「予め定められた時間後に前記車両の前輪が区画線に到達することによって前記車線から前記車両が逸脱しそうであると判断した場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段」の「区画線」は、検出された区画線であり、仮想的な区画線に前輪が到達して警告を行うことはない。
そうすると、請求項1に「逸脱する側の線が前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動」と記載されているが、逸脱する側の線が仮想的な区画線の場合、警告手段をどのように作動させるのかが何ら開示がないため構成が不明である。

(3)したがって、本件補正後の請求項1に記載された「逸脱する側の線が前記区画線か前記仮想的な区画線かにかかわらず前記車両が前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動」及び「予め定められた時間後に前記車両の前輪が区画線に到達することによって前記車線から前記車両が逸脱しそうであると判断した場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、・・(略)・・ 車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線側から前記車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させない」で特定される構成は不明である。
請求項5も同様である。

3.まとめ
以上のとおり、本件補正後の請求項1?5の記載は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.特許請求の範囲
平成28年8月12日の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲は、平成28年3月22日の手続補正書で補正された、上記のとおりのものである。

第4 当審拒絶理由
1.平成28年6月24日付け当審の最後の拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「本件出願は、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)
(a)請求項1には、『車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援装置であって、・・・
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しないように前記車両を制御して前記運転支援を行う支援手段と、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しそうな場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、・・・する運転支援装置。』とあるが、『車両が逸脱しないよう』及び『車両が逸脱しそうな場合』の定義(特に『・・しそうな』とはどの様な状態を表しているのか。例えば、車体全体が車線内を走行している場合は含まれるのか否か、車体全体が車線外を走行している場合は含まれるのか否か、車体の一部分のみが車線外を走行している場合はどうか等)が不明。
(b)請求項1には、『撮像手段が撮像した画像から、前記走行路面の区画線を検出する』『検出していた区画線を検出できなくなった区間においては、検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する』と記載されており、運転支援するには最初の『区画線を検出』が必須と解されるが、現実的には、田舎道等、最初から区画線自体が存在しない場合が存在し、そのような場合においては、上記『車線内を走行するように運転支援する運転支援装置』としての構成が不明である。
【発明の詳細な説明】には、検出できない区間として『検出できない区間の具体例として、例えば、右側区画および左側区画線ともに区画線が無い、図10に示す交差点等が挙げられる。』としているが、最初から区画線自体が存在しない場合の運転支援については記載されていない。
そして、請求項1には、『車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援装置であって、・・・
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しないように前記車両を制御して前記運転支援を行う支援手段と、
前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しそうな場合に、前記支援手段による前記運転支援が停止する旨の警告を行う警告手段と、を備え、・・・する運転支援装置。』とあり、当該記載に基づけば、発明が運転支援装置として機能するためには、区画線または仮想的な区画線が認識されることが前提となるが、上記のように何故この区画線または仮想的な区画線が認識されるのか不明であるので、運転支援装置として機能するための構成も不明である。
(c)請求項1記載の運転支援装置は、請求項1において(『画像処理手段』の特定としては『走行路面の区画線を検出するとともに、・・仮想的な区画線を設定する』と特定されているものの、支援手段としては)『前記区画線または前記仮想的な区画線から前記車両が逸脱しないように前記車両を制御して前記運転支援を行う』としか記載されていないので、文言上、前記最初の『区画線を検出』することを必須としない運転支援装置(換言すると、最初の区画線を検出がなされなくとも運転支援装置として機能するもの)が含まれるものであるが、この様な運転支援装置は発明の詳細な説明に記載したものではない。
(d)請求項1の『運転支援装置』における、『車両が逸脱しそうな場合』、その前、及び逸脱後の『車両を制御して前記運転支援を行う支援手段』の制御内容が明確ではない(発明の詳細な説明に、部分的には記載されているものの、一連の運転動作全部として把握できない。)ので、『運転支援』内容が不明である。
(e)また、(a)?(d)指摘の点に関して、発明の詳細な説明に、当業者が上記『車両が車線内を走行するように運転支援する運転支援装置』を実施することができるように記載されていると認めることはできない。
(f)請求項1を引用する請求項2?4、及び請求項5も同様である。

(2)請求項1には、『検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する』と記載されているが、『検出できなくなる前に得られていた区画線』及び『過去に検出した区画線』により特定される事項(特に、両者の違い)が不明である。
また、【発明の詳細な説明】には、『検出できなくなる前』なる記載は存在せず、『過去に検出した』なる記載は【0066】【0067】に存在するのみであり、発明の詳細な説明の記載との対応関係も不明瞭。
また、上記の点に関して、発明の詳細な説明に、当業者が『検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する』構成を実施することができるように記載されていると認めることはできない。(日本であれば、車は一度は車線のある道路は通ったことがあるはすであるが、『検出できなくなる前に得られていた区画線』が何時まで有効であるか、『過去』は何時まで含むのか不明である。)
請求項1を引用する請求項2?4、及び請求項5も同様である。

(3)請求項1に『逸脱しそうな場合』と記載されているが、『逸脱しそうな』の意味が技術的に不明確である。(例えば、ハンドルを少しでも左にまわしたら該当するのか。)
(a)特に、『運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、
前記車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ、
前記車両が前記仮想的な区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させない』とあるが、【発明の詳細な説明】には、『【0089】・・自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合』が、上記2.の『運転支援一時中断条件』の例示として記載されているが、『区画線を跨いだ場合』は、すでに区画線から逸脱した状態であるので、『逸脱しそうな』の意味が技術的に不明確(『逸脱しそうな』がまだ越えていないことを意図しているのか否か、まだ越えていないのであれば不明)である。
(b)請求人は、平成28年3月22日の意見書において、『明細書の段落0037には『自車両mvが、当該車両mvの走行すべき走行レーン(右側区画線と左側区画線との間のエリア)から逸脱する』とあります。この記述は、『車両mvの全体がエリアから逸脱する』ことを指します。従いまして、審査官殿がご指摘された『車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合』は、車両mvの全体がエリアから出ていないため『逸脱』には該当しません。』旨主張する。
(c)しかし、【0037】には『全体が』逸脱するとは記載されていない。
さらに、『【0035】 運転支援ECU1は、・・・各種装置(後述のEPS5等)の動作を制御して、例えば、自車両mvが車線内(右側区画線と左側区画線との間のエリア)を走行するように運転支援を行う。・・
【0036】また、一方で、・・当該自車両mvの走行すべき走行レーン(右側区画線と左側区画線との間のエリア)から逸脱すると判断したと仮に想定した場合・・ハンドル操作を補助したり、・・各種装置(後述のEPS5等)の動作を制御したりして、ドライバーのハンドル操作の支援を行う。
【0037】・・自車両mvが安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置を行うものであればよく・・』と、『逸脱する』が『車線内(右側区画線と左側区画線との間のエリア)を走行する』こと(すなわち、車両mvが車線内にあること)に対するものとして記載されており、かつ、通常、車両の一部分であっても、走行レーンをはみ出した場合は、安全であるといえず、まして『全体が』逸脱する直前まで措置を行わないものを『安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置』がなされているといえるものでないことを考慮すると、【0037】の『自車両mvが当該自車両mvの走行すべき走行レーン(右側区画線と左側区画線との間のエリア)から逸脱する』が、『車両mvの全体がエリアから逸脱する』ことを表していたと解することは適切ではない。
(d)そうすると、請求人の主張は採用出来るものではない。
(e)また、発明の詳細な説明に、当業者が『逸脱しそうな場合』に係る各動作を実施することができるように記載されていると認めることはできない。
(f)請求項1を引用する請求項2?4、及び請求項5も同様である。

(4)したがって、請求項1?5の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?5の記載は、発明の詳細な説明を参照しても明確ではないから、請求項1?5の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」


第5 当審の最後の拒絶理由についての判断
1.本件補正前の請求項1に「前記車両が逸脱しそうな場合」とあるが、どの様な状態を定義しているのか、構成を特定できず不明である。
逸脱しそうとは、これから逸脱することを意味するが、車体全体が車線内を走行している場合に、ハンドルをきると所定時間後に逸脱が予想されるが、逸脱しそうに該当するのか否か不明であり、車体の一部分のみが車線外を走行している場合に一部は車線内であるから、車体全体が逸脱していないので、逸脱しそうな場合とするのか否か不明であり、仮に該当する場合、車体全体の何%が車線外の場合に逸脱したと扱うのか不明であり、発明の詳細な説明にも何ら記載されていないため、構成が不明瞭である。
なお、請求人は、平成28年3月22日付けの意見書において、「明細書の段落0037には『自車両mvが、当該車両mvの走行すべき走行レーン(右側区画線と左側区画線との間のエリア)から逸脱する』とあります。この記述は、『車両mvの全体がエリアから逸脱する』ことを指します。従いまして、審査官殿がご指摘された『車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合』は、車両mvの全体がエリアから出ていないため『逸脱』には該当しません。」と主張するが、【0037】には、「車両mvの全体がエリアから逸脱する」とは記載されておらず、しかも、【0037】の逸脱が、「自車両mvが安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置を行う制御」につながるものであって、車両mvの全体がエリアから逸脱する場合は、通常安全に走行レーン内を走行している状況といえないことから、【0037】の記載が車両mvの全体がエリアから逸脱することを意味していると解するには無理があるから請求人の上記主張は採用できない。
さらに、車両が90%車線からはみ出したとき、10%の方が正しいレーンで、90%が間違いのレーンと何故判断するのか不明であり、発明の詳細な説明にも何ら記載されていないため、構成が不明瞭である。
請求項5も同様である。

2.本件補正前の請求項1に「検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する」と記載されている。

しかし、日本であれば、車は一度は車線のある道路は通ったことがあるはすであるから、検出できなくなる前とはどの程度の期間を意味するのか不明(1日前でも検出できなくなる前とする意味があるのか)であり、過去はどの程度の時期までを意図するのか不明であり、検出した区画線からどの程度の距離まで離れたものまで含むのか、発明の詳細な説明に記載されていないので構成が特定できず不明である。
さらに、発明の詳細な説明には、「検出できなくなる前」との記載は存在せず、「過去に検出した」との記載も【0066】、【0067】に【0065】の右側区画線および左側区画線の一方が検出できない場合の説明として存在するのみであり、両側の区画線が検出できない場合についての説明はない。また、「検出できなくなる前」が過去何時まで、どの距離まで含むのかも記載されてないので、請求項1の「検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する」構成は不明確であって、発明の詳細な説明に記載されていたものともいえない。
さらに、発明の詳細な説明には、検出できない区間として「検出できない区間の具体例として、例えば、右側区画および左側区画線ともに区画線が無い、図10に示す交差点等が挙げられる。」(【0064】)が記載されているものの、ジグザグな道路の様に道路形状が変化し続ける道路における、左右両側の区画線がない場合の運転支援がどのようになされるかについては記載されていない。
そして、両方の区画線が検出できない場合であって、ジグザグな道路の様に道路形状が変化し続ける場合に、「検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて」道路形状に則した「仮想的な区画線を設定する」ことができない状態では、発明の詳細な説明を参酌しても、運転支援に用いることのできる仮想的な区画線を設定することができない。従って、本件補正前の請求項1の記載により特定される「検出できなくなる前に得られていた区画線または過去に検出した区画線に基づいて、仮想的な区画線を設定する」は不明確であって、発明の詳細な説明に記載されていたものといえず、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が請求項1記載の「仮想的な区画線を設定する」発明を実施できるものともいえない。
請求項5も同様である。

3.本件補正前の請求項1には「車両が、前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき、前記車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ、前記車両が前記仮想的な区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させない」と記載されているから、運転支援作動条件を満たさないとき、車両が区画線側から車線を逸脱しそうであると判断した場合は、前記警告手段を作動させることとなる。

(1)それに対して発明の詳細な説明では、本件補正前の請求項1の前記運転支援作動条件を満たさないか、または前記運転支援一時中断条件に該当するとき「警告手段を作動させ」ることに関して次の記載がある。
「次に、図2を参照しつつ、本実施形態に係る運転支援装置の運転支援ECU1において行われる処理の流れの一例を説明する。図2は、本実施形態に係る運転支援装置の運転支援ECU1における処理の流れの一例を示したフローチャートである。」(【0046】)
「図2の説明に戻って、ステップS15において、運転支援ECU1は、車両情報取得装置4から車両情報情報を取得する。そして、運転支援ECU1は、次のステップS16に処理を進める。」(【0075】)
「ステップS16において、運転支援ECU1は、LDW制御が必要であるか否かを判断する。そして、当該ステップS16での判断を肯定(YES)した場合、次のステップS17に処理を進め、判断を否定(NO)した場合、ステップS15に処理を戻す。」(【0076】)
(なお、「LDW制御」は「警告を行う制御」を意味する。【0038】「警告を行う制御を、特に、LDW(Lane Departure Warning)制御と称す」参照。)
「なお、運転支援ECU1は、上記ステップS16において、予め定められた時間後に自車両mvの前輪が右側区画線R(右側区画線Rに対応する仮想線Rf)、または左側区画線L(左側区画線Lに対応する仮想線Lf)に到達すると判断した場合でも、例えば、図12に示すLDW作動条件を満たしていなかったり、後述のLDW一時中断条件に当てはまる場合は、当該ステップS16の判断を否定(NO)する。」(【0078】)
「具体的には、運転支援ECU1によってLDW制御が必要であると判断された場合でも、例えば、図12に示すように、LKAスイッチがONにされていなかったり(図12のD1a)、自車両mvが、所定速度v1内で走行してないかったり(図12のD1b)、右側区画線R(または右側区画線Rに対応する仮想線Rf)および左側区画線L(または左側区画線Lに対応する仮想線Lf)が認識されていなかったりした場合である(図13のD1c)には、LDW制御は行われない。」(【0079】)
「また、自車両mvのドライバーが車線変更を目的とした意図したハンドル操作を行ったり、例えば車線変更をするためにターンシグナルを出したり、例えば自車両mvを停止させるためにブレーキ操作を行ったり、ワイパーが作動していたり、システムに異常があった場合は、LDW作動条件を満たさない。」(【0080】)
「ステップS18において、運転支援ECU1は、自車両mvが当該自車両mvの走行すべき走行レーンから逸脱しそうである旨の警告を自車両mvのドライバーに対して、表示装置6や音声出力装置7を介して行うLDW制御をする。そして、運転支援ECU1は、ステップS20に処理を進める。
上記ステップS17での処理が肯定(YES)された次のステップS19において、運転支援ECU1は、仮想線に対して警告するか否かを判断する。具体的には、運転支援ECU1は、当該ステップS19において、仮想線に対して警告するか否かの判断は、仮想線におけるLKA作動状況に応じて判断する。
ここで、一般的なLKA作動状況について簡単に説明する。図13は、LKA作動条件の一例を示した図である。運転支援ECU1は、例えば、図13に示すように、LKA作動条件D2a?D2iを全て満たした場合に、運転支援ECU1は、LKA制御を行うことができる。具体的には、LKA制御は、まず、前提としてLKAスイッチがONされていなければならない(図13のD2a)。そして、自車両mvが、所定速度v2内で走行しており、右側区画線R(または右側区画線Rに対応する仮想線Rf)および左側区画線L(または左側区画線Lに対応する仮想線Lf)が認識されていることが必要である(図13のD2bおよひD2c)。」(【0082】?【0084】)
(なお、「LKA」は、自車両mvが安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置を行う運転支援を意味する。【0037】「運転支援ECU1が自車両mvが安全に走行レーン内を走行できるように然るべき措置を行う制御を、特に、LKA(Lane keep Assist)制御と称す。」参照。)
「運転支援ECU1は、上述したLKA作動条件を全て満たしており、かつ上述のLKA一時中断条件に該当しない場合、当該ステップS19の判断を肯定(YES)、つまり、仮想線に対しても警告すると判断する。」(【0091】)
「運転支援ECU1は、上述したLKA作動条件を全て満たしていなかったり、上述のLKA一時中断条件に該当する場合、当該ステップS19の判断を否定(NO)、つまり、仮想線に対しては警告しないと判断する。」(【0093】)
と記載されている。

・【図2】は「運転支援ECU1における処理の流れの一例を示したフローチャート」であって、下記(a)(b)のステップS18の「警告」に至るまでの流れが記載されている。、
(a)「S15」の「車両情報を所得」→「S16」の「LDW制御必要」がYES→「S17」の「仮想線?」がNO→S18の「警告」。
(b)「S15」の「車両情報を所得」→「S16」の「LDW制御必要」がYES→「S17」の「仮想線?」がYES→「S19」の「仮想線に対して警告する?」がYES→S18の「警告」。
(c)なお、上記(a)(b)以外のS18の「警告」に至る流れは記載されていない。

そうすると、発明の詳細な説明には、LKA作動条件を全て満たしているとき警告手段を動作するものが記載されているにすぎず、「車両が、前記運転支援作動条件を満たさない・・(略)・・とき、前記車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ」と特定された本件補正前の請求項1は、発明の詳細な説明に記載されていない、LKAスイッチがONされていないときに「警告手段を作動させ」るものが含まれるものであり、発明の詳細な説明に記載された発明でない。
また、発明の詳細な説明に当業者が、当該発明を実施することができる程度に記載されているともいえない。
請求項5も同様である。

(2)発明の詳細な説明には、「【0089】また、例えば、自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合や、ドライバーが手放し運転していることが検出された場合も、LKA制御は作動しなくなる。つまり、仮にLKA制御中であっても当該LKA制御は一時中断される(LKA一時中断条件)。」と記載され、「自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合」は、「運転支援一時中断条件」に該当する。

そうすると、請求項1は「自車両mvの大凡半分以上が区画線を跨いだ場合」に「車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ」るものとなるが、車両が前向きに走行している限り、すでに跨いで逸脱(「本筋からそれはずれること。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」)していて、上記「逸脱しそう」と未来の出来事を判断することはできないので、本件補正前の請求項1の「車両が前記区画線から逸脱しそうな場合は、前記警告手段を作動させ」る構成が不明確である。
請求項5も同様である。

したがって、請求項1?5の記載は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?5の記載は、発明の詳細な説明を参照しても明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?5記載の発明を実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1?5の記載は明確でなく、また、発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
そうすると、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-30 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2011-542993(P2011-542993)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (G08G)
P 1 8・ 536- WZ (G08G)
P 1 8・ 537- WZ (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神山 貴行  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
前田 浩
発明の名称 運転支援装置および運転支援方法  
代理人 特許業務法人 小笠原特許事務所  

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