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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60N
管理番号 1324741
審判番号 不服2015-18931  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-21 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-232322「自動車シート」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月13日出願公開、特開2013- 86777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成23年10月22日付けの特許出願であって、平成27年6月17日付けで手続補正書が提出され、同年7月1日付けで拒絶査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同月28日)、これに対し、同年10月21日に拒絶査定不服審判の請求及びこれと同時にする手続補正がなされ、さらに、当審において、平成28年8月23日付けで拒絶理由を通知したところ、指定期間内の同年10月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成28年10月21日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「シート・バック・フレームが、それの左右のフレーム・サイドの一方にアームレスト・ブラケットを備え、
アームレストが、支持ピンでそのアームレスト・ブラケットに組み付けられてそのシート・バック・フレームに前倒し位置と起こし位置とに搖動可能に支持され、
そして、そのアームレスト・ブラケットが、ブラケット縦壁に軸穴を明け、その軸穴のまわりに適宜の間隔でそのブラケット縦壁の裏面に複数のスペース・レッグを突き出してその複数のスペース・レッグでそのブラケット縦壁とその一方のフレーム・サイドとの間に間隔を置いて軸支持スペースを形成可能にするメイン・ブラケットと、
パッチ縦壁に軸穴を明け、そのメイン・ブラケットのその軸支持スペース内において穴合わせ状態でそのブラケット縦壁からその一方のフレーム・サイド側に適宜に離れてそのブラケット縦壁の裏面に固定的に取り付けられる補強パッチとを含み、
そして、そのメイン・ブラケットがその一方のフレーム・サイドの外側面に固定的に取り付けられてそのブラケット縦壁のその軸穴とそのパッチ縦壁のその軸穴とにその支持ピンを通してそのブラケット縦壁およびパッチ縦壁でその支持ピンを離間2点支持するところの自動車シートであって、
そのメイン・ブラケットが、所定の厚さの鋼板からそのブラケット縦壁および複数のスペース・レッグに一体的に打ち抜かれて成り、そのブラケット縦壁にその軸穴を形成し、そして、その複数のスペース・レッグをそのブラケット縦壁のその裏面側に折り曲げると共に、そのブラケット縦壁のその裏面に突き出し形成し、また、メイン・ブラケットのブラケット縦壁と複数のスペース・レッグとにより形成するメイン・ブラケットの空間内に収納可能な補強パッチが、所定の厚さの鋼板から打ち抜かれた穴フランジ成形によりパッチ縦壁にその軸穴を明けて成り、そして、そのパッチ縦壁にエンボス成形からなる外周側壁をその軸穴の穴フランジと反対方向に突き出して形成し、その外周側壁でそのブラケット縦壁のその裏面に溶接されて成り、支持ピンをブラケット縦壁とブラケット縦壁の裏面とは反対方向に形成した穴フランジを設けた補強パッチ縦壁とで、その支持ピンを離間2点支持する自動車シート。」

3.当審で指摘した拒絶理由の概要
当審において平成28年8月23日付けで通知した拒絶の理由は、特許法第29条第2項の規定に係る理由1と、同第36条第6項第2号の規定に係る理由2であるが、そのうち拒絶の理由1の概要は、本願の請求項1、2の発明は,本願の出願前の平成14年7月16日に頒布された特開2002-199964号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の上記各請求項の発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするもので、以下、この拒絶の理由1について検討する。

4.引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。)
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アームレストをシートバックの側部で前倒し回転乃至は立付け回転可能に装備するシートサイド用アームレストの取付構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車用のシートとしては、図6で示すようにアームレストAをシートバックBの側部で前倒し回転乃至は立付け回転可能に装備するものがある。このシートにおいては、全体の軽量化から、アームレストフレームを軽量で価格的に安価なホリプロピレンで樹脂成形し、その樹脂製のアームレストフレームを基体に組み立てたアームレストを備えて構成することが図られている。」
イ.「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係るシートサイド用アームレストの取付構造においては、ホリプロピレン製のアームレストフレームを基体に組み立てたアームレストを備え、そのアームレストをアームレストフレームの基部に設けた軸受け穴でシートバックの側部より突出する金属製の枢支シャフトに組み付けて前倒し回転乃至は立付け回転可能に装備するもので、ナイロン製のブッシュをアームレストフレームの軸受け穴に嵌装させて備え、アームレストの枢支シャフトを該ブッシュの径内に挿通させてアームレストを枢支シャフトに組み付けることにより構成されている。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、添付図面を参照して説明すると、図示実施の形態は、図1で示すようにシートバック1のシートバックフレーム10に取付け固定されるサイドプレート11をベースとし、アームレスト2を後述する如く備えられる枢支シャフト12でシートバック1の側部で前倒し回転乃至は立付け回転可能に保持することにより構成されている。
【0010】そのアームレスト2は、図2で示すようにポリプロピレン製のアームレストフレーム20を基体に組み立てられている。このアームレストフレーム20はアームレスト2の略全長に亘る長尺なもので、一端側は円筒状のボスによる枢支シャフト12の軸受け穴21を設けることにより基部として形成されている。そのアームレストフレーム20の基部には、後述するストッパピンのガイド溝22a,22bが軸受け穴21と同心の円弧状に設けられている。」
ウ.「【0015】アームレスト2の枢支シャフト12としては、軸先端をネジ軸で形成した鉄等の金属製丸棒が備えられている。この枢支シャフト12は、アウターカバー13a,インナーカバー13bで組み立てたブラケット13により植立保持されている。そのブラケット13は、サイドプレート11の板面に締付けボルト14(図1参照)で固定し、アームレスト2の枢支シャフト12をサイドプレート11の側部より外方に突出させるよう取り付けられている。」
エ.図1、2から、次の事項が看取できる。
アウターカバー13aは、縦壁部分と、縦壁部分の裏面からサイドプレート11側に向かって伸びる部分とを備えており、サイドプレート11との間に、枢支シャフト12を収容するスペースが形成されていること、
インナーカバー13bは当該スペース内に収納される状態で設けられていて、インナーカバー13bの縦壁の外周に位置する部分からアウターカバー13aの縦壁部分に向かって伸びる部分を備えていること、
アウターカバー13aとインナーカバー13bには枢支シャフト12を支持するための穴が形成されており、枢支シャフト12はこれらの穴の部分で離間2点支持されていること、
インナーカバー13bに形成された穴には、アウターカバー13aの縦壁部分に向かうフランジが設けられていること。

上記の記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「アームレストを備え、そのアームレストをアームレストフレームの基部に設けた軸受け穴でシートバックの側部より突出する金属製の枢支シャフトに組み付けて前倒し回転乃至は立付け回転可能に装備する自動車用のシートであって、
枢支シャフト12は、シートバックフレーム10に取付け固定されるサイドプレート11をベースとし、アームレスト2をシートバック1の側部で前倒し回転乃至は立付け回転可能に保持しており、アウターカバー13aとインナーカバー13bとで組み立てたブラケット13により植立保持され、
そのブラケット13は、サイドプレート11の板面に締付けボルト14で固定され、
アウターカバー13aは、縦壁部分と、縦壁部分の裏面からサイドプレート11側に向かって伸びる部分とを備えていて、サイドプレート11との間に、枢支シャフト12を収容するスペースが形成されており、
インナーカバー13bは当該スペース内に収納される状態で設けられていて、インナーカバー13bの縦壁の外周に位置する部分からアウターカバー13aの縦壁部分に向かって伸びる部分を備えており、
アウターカバー13aとインナーカバー13bのそれぞれの縦壁部分には枢支シャフト12を支持するための穴が形成されていて、枢支シャフト12はこれらの穴の部分で離間2点支持されており、
インナーカバー13bに形成された穴には、アウターカバー13aの縦壁部分に向かうフランジが設けられている、自動車用のシート。」

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者における「自動車用のシート」は、その構造、機能等からみて、前者における「自動車シート」に相当し、以下同様に、「シートバックフレーム10」は「シート・バック・フレーム」に、「サイドプレート11」は「フレーム・サイド」に、「アームレスト2」は「アームレスト」に、「枢支シャフト12」は「支持ピン」に、「ブラケット13」は「アームレスト・ブラケット」に、「シートバック1の側部で前倒し回転乃至は立付け回転可能に保持」は「シート・バック・フレームに前倒し位置と起こし位置とに搖動可能に支持」に、「アウターカバー13a」は「メイン・ブラケット」に、「穴」は「軸穴」に、「インナーカバー13b」は「補強パッチ」に、それぞれ相当している。
そして、後者におけるアウターカバー13aの「縦壁部分」は、前者における「ブラケット縦壁」に相当し、同様に、「縦壁部分の裏面からサイドプレート11側に向かって伸びる部分」は「スペース・レッグ」に相当する。 また、後者の「インナーカバー13bの縦壁部分」は、前者の「パッチ縦壁」に相当し、同様に、「インナーカバー13bの縦壁の外周に位置する部分からアウターカバー13aの縦壁部分に向かって伸びる部分」は「(補強パッチの)外周側壁」に相当する。
また、前者の補強パッチの外周側壁は、軸穴の穴フランジと反対方向に突き出して形成したものであるが、軸穴の穴フランジと反対方向とは、ブラケット縦壁の方向といえるから、後者の「インナーカバー13bの縦壁の外周に位置する部分からアウターカバー13aの縦壁部分に向かって伸びる部分を備えている」ことは、前者の「そのパッチ縦壁の外周側壁をその軸穴の穴フランジと反対方向に突き出して形成すること」に相当する。
更に、後者においても、枢支シャフト12を支持するための二つの「穴」が「穴合わせ状態」とされていることは明らかである。

したがって、両者は、
「シート・バック・フレームが、それの左右のフレーム・サイドの一方にアームレスト・ブラケットを備え、
アームレストが、支持ピンでそのアームレスト・ブラケットに組み付けられてそのシート・バック・フレームに前倒し位置と起こし位置とに搖動可能に支持され、
そして、そのアームレスト・ブラケットが、ブラケット縦壁に軸穴を明け、その軸穴のまわりに適宜の間隔でそのブラケット縦壁の裏面に複数のスペース・レッグを突き出してその複数のスペース・レッグでそのブラケット縦壁とその一方のフレーム・サイドとの間に間隔を置いて軸支持スペースを形成可能にするメイン・ブラケットと、
パッチ縦壁に軸穴を明け、そのメイン・ブラケットのその軸支持スペース内において穴合わせ状態でそのブラケット縦壁からその一方のフレーム・サイド側に適宜に離れてそのブラケットに取り付けられる補強パッチとを含み、
そして、そのメイン・ブラケットがその一方のフレーム・サイドの外側面に固定的に取り付けられてそのブラケット縦壁のその軸穴とそのパッチ縦壁のその軸穴とにその支持ピンを通してそのブラケット縦壁およびパッチ縦壁でその支持ピンを離間2点支持するところの自動車シートであって、
そのメイン・ブラケットが、そのブラケット縦壁にその軸穴を形成し、そして、その複数のスペース・レッグをそのブラケット縦壁のその裏面に突き出し形成し、また、メイン・ブラケットのブラケット縦壁と複数のスペース・レッグとにより形成するメイン・ブラケットの空間内に収納可能な補強パッチが、パッチ縦壁にその軸穴を明けて成り、そして、そのパッチ縦壁に外周側壁をその軸穴の穴フランジと反対方向に突き出して形成し、支持ピンをブラケット縦壁と穴フランジを設けた補強パッチ縦壁とで、その支持ピンを離間2点支持する自動車シート。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1] 本願発明に係る補強パッチは、「(メイン・ブラケットの)ブラケット縦壁の裏面に固定的に取り付けられ」、「外周側壁でそのブラケット縦壁のその裏面に溶接される」のに対し、引用発明に係るインナーカバー13b(補強パッチ)の外周側壁は、ブラケット縦壁の裏面から離れた位置にあり、また「溶接され」「固定的に取り付けられる」か否かは不明である点。
[相違点2] 本願発明では、メイン・ブラケットが「所定の厚さの鋼板からそのブラケット縦壁および複数のスペース・レッグに一体的に打ち抜かれて成り」、そのブラケット縦壁にその軸穴を明け、そして、「その複数のスペース・レッグをそのブラケット縦壁のその裏面側に折り曲げて」形成され、補強パッチが「所定の厚さの鋼板から打ち抜かれた穴フランジ成形により」パッチ縦壁にその軸穴を明け、そして、「エンボス成形からなる」外周側壁を突き出して形成されるのに対し、引用発明ではメイン・ブラケット(アウターカバー13a)と補強パッチ(インナーカバー13b)の形成手法について言及されていない点。
[相違点3] 本願発明に係る補強パッチ縦壁は、「ブラケット縦壁の裏面とは反対方向に形成した」穴フランジを設けたものであるのに対し、引用発明に係る補強パッチ(インナーカバー13b)に形成された穴には、メイン・ブラケット(アウターカバー13a)の縦壁部分に向かうフランジが設けられている点。


6.当審の判断
上記の相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明において、インナーカバー13b(補強パッチ)をアウターカバー13a(メイン・ブラケット)のどの部分に固定的に取付けるか、また、溶接して取り付けるか否かは、通常の選択的設計事項であり、また上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項において本願明細書をみても格別の技術的意義は示されていない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到しうる程度の事項といえる。
(2)相違点2について
上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項である、「所定の厚さの鋼板」から所定の形状を一体的に打ち抜いたり、「軸穴を明け」、「折り曲げ」る、「エンボス成形」といった手法は、金属加工に関する技術分野において、慣用手段あるいは常套手段とされているもので、引用発明に係るブラケットなどは金属で形成されるのが普通であり、また上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項において本願明細書をみても格別の技術的意義は示されていない。
したがって、引用発明において、上記の慣用手段や常套手段を採用して、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になしうる程度の事項といえる。
(3)相違点3について
引用発明において、軸穴の穴フランジ(インナーカバー13bに形成された穴に設けられたフランジ)の突き出し方向は、ブラケット縦壁(アウターカバー13aの縦壁部分)の裏面の方向かその反対方向の何れかであって、どちらに突き出すかは、通常の設計事項にすぎず、また上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項において本願明細書をみても格別の技術的意義は示されていない。
したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になしうる程度の事項といえる。
(4)そして、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明及び上記の慣用手段や常套手段に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記の慣用手段等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-16 
結審通知日 2016-11-22 
審決日 2016-12-05 
出願番号 特願2011-232322(P2011-232322)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永安 真  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 植田 高盛
黒瀬 雅一
発明の名称 自動車シート  
代理人 山田 和明  

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