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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1324742
審判番号 不服2015-19236  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-26 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-104120「汚れ判定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開、特開2012-231765〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成23年5月9日を出願日とする出願であって、平成27年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年10月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年8月29日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年9月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年9月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
屋内の汚れがカビか否かを現場で判定する方法であって、
汚れからサンプルを採取するサンプル採取ステップと、
サンプル中の補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量を定量する定量ステップと、
補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量に基づいて汚れがカビか否かを判定する判定ステップと
を含む方法。」


第2.平成28年8月29日付け拒絶理由

平成28年8月29日付け拒絶理由は、本願発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用例1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由を含むものである。


第3.当審の判断

1.引用文献、引用発明

(1)引用文献1

本願優先日前に頒布された刊行物である、メルク微生物マニュアル 第12版、2003年発行、p.563-565(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「検査の目的
ハイリセは不適切な洗浄により残された食品・飲料などの製品残さを測定して表面の清浄度を表示します。
代表的な用途は作業台、スライサー、まな板、冷蔵庫の取っ手、電子レンジなどの食品や手がふれる表面の清浄度評価です。
・・・
測定するものは何か?
・ ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD,NADH)
・ ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP,NADPH)
これらの物質は動植物体などすべての生体細胞に存在する化合物で、細菌、カビ、その他微生物以外にも食品、食品残渣も含まれます。」(第563ページ左欄第1?15行)

イ.「検査の対象
・ 表面清浄度のモニタリング
- 食品・飲料生産区域、保管区域および輸送設備
- ディープクリーニング後の調理区域、食品・飲料準備
区域、保管区域
- 洗面所、浴室、化粧室
・ 食品・飲料メーカーの監督および研修・指導
利点
・ 分析装置不要の衛生検査
- 投資費用なし
- ポケットサイズ
- いつでもどこでも使用可
- メルクのHY-LiTE^((R))の低価格代替品
・ 操作は試験紙に試薬を3滴落とすだけ:
- 簡単な操作
- 簡単な廃棄
・ 5分以内で明瞭な検査結果:
- 汚れた表面を直に再度清掃できる
- 簡単な可否表示」(第563ページ右欄第8?26行)

ウ.「操作方法
・・・
3.検査表面からのサンプリング:
・・・。」(第564ページ左欄第17行?右欄第13行)

(2)引用文献4

本願優先日前に頒布された刊行物である大島 明、建築材料の洗浄試験方法の研究(かび汚染における洗浄方法の検討)、建材試験情報、日本、2006.発行、12?15頁(http://www.jtccm.or.jp/library/jtccm/public/mokuji06/0612_gijyutsu.pdf)には、以下の事項が記載されている。

エ.「建築材料の洗浄試験方法の研究(かび汚染における洗浄方法の検討」(タイトル)

オ.「本研究の目的は,建築材料の汚れに対して再現性の良い洗浄試験方法を提案することにある。汚れの原因となる汚染物質は実態調査を行った結果,物質である塵埃と生物であるかびに大別することができた^(1))。平成14年度には洗浄試験機を試作し,物質による汚れについて試験の再現性を検討した^(1))。
本報告は,前回試作した試験機を用いてかびを対象とした微生物汚染についての洗浄性を検討し,結果の再現性を検討したものである。」(第12ページ左欄第10?19行)。

カ.「まとめ及び今後の課題
(1)かび汚染における洗浄性評価の手法を提案した。
・・・
(4)今後かびによる汚染・塵埃による汚染とも,さらに色々な建築材料(タイル,仕上塗材等)について実験を行い,材料に見合った試験条件を検討する予定である。」(第15ページ左欄下から第6行?右欄第8行)

(3)引用発明
引用文献4は、上記エのとおり、かび汚染における洗浄方法の検討に関する文献であり、引用文献4において該検討は、試験体を用いた実験により行われているが、上記カの記載から、該検討は、実際の建築材料の汚れの洗浄において、材料に見合った洗浄方法を提供することを目的としていることがわかる。
そして、上記オには、建築材料の汚れが、物質である塵埃によるものか、生物であるかびによるものかに大別することができたこと、物質とかび、それぞれの汚れについて、別々に検討したことが記載されている。
したがって、引用文献4には,実際の建築材料を洗浄する際には、まず、建築材料の汚れが物質とかびのいずれによるものかを判別することが前提として記載されていると認められる。
よって、引用文献4には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「建築材料の汚れがかびか物質かを判別する方法。」

2.対比、判断
本願発明と引用発明を対比する。
本願発明の「汚れがかびか否か」の判定は、補酵素等の生物材料によって行われるから、引用発明における「汚れがかびか物質か」の判別は本願発明の「汚れがカビか否か」の判定に相当すると認められる。
したがって、両者は、「汚れをカビか否かを判定する方法」で一致し、以下の3点で相違する。

相違点1
汚れが、本願発明では「屋内」のものであると特定されているのに対し、引用発明では「建築材料」のものである点。

相違点2
本願発明では「汚れからサンプルを採取するサンプル採取ステップと、
サンプル中の補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量を定量する定量ステップと、
補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量に基づいて汚れがカビか否かを判定する判定ステップとを含む」方法であることが特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。

相違点3
本願発明では「現場で」判定することが特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。

相違点1について
引用文献4には、建築材料について、明示的な記載はないものの、その汚れの原因は屋内外を問わないものであると認められる。そうすると、引用発明において、屋内の建築材料について判定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

相違点2について
引用発明において、引用文献1に記載される公知のカビ検出手段である「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を用いる方法とは、引用文献1の上記ウの記載から、サンプルを採取する工程を有するものと認められ、また、引用文献1の上記アの記載から、NAD、NADH、NADP、NADPHといった補酵素の存在量を定量し、補酵素の存在量に基づいて汚れがカビか否かを判定するものであると認められる。
したがって、引用発明において「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を用いることについて、「汚れからサンプルを採取するサンプル採取ステップと、
サンプル中の補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量を定量する定量ステップと、
補酵素又はアデノシン三リン酸の存在量に基づいて汚れがカビか否かを判定する判定ステップとを含む方法。」と特定することは、当業者が容易になし得ることである。

相違点3について
「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」はキット化されたものであり、上記イのとおり、引用文献1には「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を用いる方法が、「いつでもどこでも使用可」であることが記載されているから、引用発明の「建築材料」の判別を現場で行うことは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明において、引用文献1及び4の記載から、当業者の予測できない効果が奏されたとは認められない。
したがって、本願発明は引用文献1及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.審判請求人の主張について

審判請求人は、平成28年9月26日付け意見書において、「引用文献4には、上記のとおり、洗浄試験に供する試験体として、栄養分とかび胞子懸濁液を1週間毎に散布し、かびが全面に発生した試験体を用いたこと、及び「『洗浄操作で除去された分の明度差』を『汚染操作によって汚れた分の明度差』で除した値を除去率」として洗浄性を評価したことの記載があるのみで、「かび汚染における洗浄の前にその汚れがカビか否かを判定している」といえる根拠はありません。むしろ、試験体を人為的にかび汚染させているのであり、その汚れがカビか否かを判定しようなどと考えるはずがありません。」と主張している。
しかし、上記1.(3)のとおり、引用文献4には、実際の建築材料を洗浄する際に、建築材料の汚れが物質とかびのいずれによるものかを判別することが前提として記載されていることは、当業者であれば明らかである。
そして、引用文献4において、洗浄試験に供する試験体として「3.1 試験体の汚染操作」(第13ページ左欄)の項に記載される方法で作成されたものを用いるのは、「モルタル」「塗料」「壁紙」というサンプルに対し、該方法によって促進的に汚染を付着させた同様の汚れを複数の試験体を作製し、これを「手」「機械」「ポリシャ」という異なる方法で洗浄試験に付すことによって、異なる方法での洗浄による結果を定量的に評価するためであると認められる。そして、このような洗浄試験による評価・検討結果は、実際の建築材料によるカビによる汚れ除去において参考にされること、そのように参考の前提として、建築材料の汚れがかびによるものと判別される必要があることも理解される。
したがって、引用文献4に人為的にかび汚染させた試験体が使用されていることは、引用発明の認定を妨げるものではない。

また、審判請求人は、「引用文献4は建築材料の洗浄試験方法に関するものであるのに対し、引用文献1は食品等における微生物をNAD等の補酵素を利用して測定する技術に関するものです。
したがって、建築材料に関する引用文献4において、引用文献1に開示されているような食品等における微生物を測定対象とする技術を適用しようとする動機づけは存在しません。」と主張している。
しかし、上記アのとおり、引用文献1には、食品・飲料生産区域、保管区域および輸送設備などに加え、洗面所、浴室、化粧室を検査対象とすることが記載されており、「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を建造物の様々な場所に適用されることが示されていることから、引用発明の判別において、この「ハイリセ清浄度検査テストストリップ」を用いることに格別の困難性があるとはいえない。

したがって、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。


第4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は引用文献1及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-29 
結審通知日 2016-12-06 
審決日 2016-12-21 
出願番号 特願2011-104120(P2011-104120)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 瀬下 浩一
三原 健治
発明の名称 汚れ判定方法  
代理人 城戸 博兒  
代理人 黒木 義樹  
代理人 池田 正人  
代理人 木元 克輔  
代理人 近藤 寛  
代理人 長谷川 芳樹  

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