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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1324743
審判番号 不服2015-19268  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-26 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-84736号「穀類の滅菌・長期保存方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月12日出願公開,特開2012-217366号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成23年4月6日の出願であって,平成27年2月20日付けで拒絶理由が通知され,これに応答して平成27年4月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,平成27年7月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成27年10月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものであり,平成28年9月1日付けで当審による拒絶理由が通知され,これに応答して平成28年11月1日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。


2.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成28年11月1日に補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
穀類100重量部に平均粒径が20?200μmの酸化カルシウム粉末0.01?10重量部を添加混合することで,穀類の穀類表面のみに酸化カルシウム含有粉末を接触させることを特徴とする穀類の滅菌・長期保存方法。」

3.引用発明
当審による平成28年9月1日付け拒絶理由に引用された,本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-72610号公報(以下「引用例A」という。),及び,特開2009-7号公報(以下「引用例B」という。)には,以下の各事項が記載されている。

3-1.引用例A
(A1)「【請求項1】ほたて貝殻を,700?1000℃で5?15時間,好ましくは800℃以上1000℃以下で約10時間焼成した後に粉砕し,平均粒径が0.5?50μm,好ましくは3?6μmの微粉末状としたほたて貝殻焼成物からなる殺菌剤。」

(A2)「【請求項10】種子及び請求項1の殺菌剤を,密閉容器内に乾燥状態で収容することを特徴とする種子の殺菌保存方法。」

(A3)「【0053】ほたて貝殻を700℃以上で焼成した場合,その主成分であるカルシウムは,図1に示されるように,酸化カルシウム;CaOとして存在する。」

(A4)「【0064】本発明の,上記ほたて貝殻焼成物を種子とともに密閉容器内に収容することにより,種子を殺菌,保存することができる。」

(A5)「【0065】ほたて貝殻焼成物は,単に殺菌するのみならず,CaO→Ca(OH)2 と変化する際に吸湿するので,種子を乾燥状態で長期保存できる。」

(A6)「【0082】本発明によるほたて貝殻焼成物の微粉末を,水中に0.4?10重量%の濃度で懸濁した殺菌水,あるいは懸濁後にほたて貝殻焼成物を沈澱又は濾過させた上澄み液からなる殺菌水によって,ほたて生貝柱,鮭生肉を殺菌すると,周囲の環境が高温多湿であっても十分に減菌あるいは滅菌することができた。」

(A7)「【0057】前記かき殻の真珠層からなる焼成物におけるカルシウムが60重量%であるのに対して,本発明のほたて貝殻焼成物はカルシウムが95重量%であり,カルシウムの含有量において大幅に相違する。」

(A8)「【課題】 食品中に混入,残留,あるいは付着しても無害である殺菌剤。」(第1ページ【要約】)

(A9)「【0002】
【従来の技術】食品においては,最近特に食中毒菌の発育を阻止し,あるいは黴の発生を抑制する必要がある。」

(A10)「【0003】このための手段として,従来,人体に対する安全性を考慮して,エタノール,次亜塩素酸塩等の殺菌剤によって食品を殺菌するようにしていたが,エタノールは可燃性があり,又次亜塩素酸塩は強く不快な匂いを発生するという問題点があり,特に,食品中に残留させることが困難であった。」

(A11)「【0004】これに対して,例えば,国際公開WO93-11670号発明のように,かき殻を焼成して得られる酸化カルシウム型焼成物及び/又はその水溶物である水酸化カルシウム型焼成物からなる殺菌剤が提案されている。」

(A12)「【0005】これらは,食品中に残留しても無害であり,場合によっては,カルシウム添加剤として用いることができるという利点がある。」

(A13)「【0012】この発明は,上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって,表面を削ることなく焼成した状態でも異物が少なく,又食品に添加した場合は,苦みを発生することがないほたて貝殻焼成物からなる殺菌剤,その製造方法,殺菌作用のある研磨剤を含む歯磨,殺菌水,食品の殺菌方法,ほたて貝殻焼成物添加食品,及びその製造方法を提供することを目的とする。」

(A14)「【0145】
【発明の効果】本発明は上記のように構成したので,食品との接触による食品中への混入や残留が生じても,何ら無害であり,場合によっては有益である殺菌剤を得ることができるという優れた効果を有する。」

(A15)「【0146】又,食品中に混合したり,付着させたりすることなく,食品を殺菌することができるという優れた効果を有する。」

以上の(A1)?(A7)の記載によると,引用例Aには,
「ほたて貝殻を,700?1000℃で5?15時間,好ましくは800℃以上1000℃以下で約10時間焼成した後に粉砕し,平均粒径が0.5?50μmの微粉末状としたほたて貝殻焼成物であって,その主成分であるカルシウムは酸化カルシウムとして存在する殺菌剤を,種子とともに密閉容器内に乾燥状態で収容する,種子の殺菌・長期保存方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3-2.引用例B
(B1)「【0001】
本発明は,穀類および豆類の除菌方法に関する。より詳細には,本発明は,穀類や豆類の外観,食感,味,風味などを損なうことなくそのまま良好に保持しながら,穀類および豆類に付着している菌類などの微生物を十分に且つ安全に除去して,安全性,衛生性,保存性に優れ,しかも外観,食感,味,風味などにも優れる除菌された穀類および豆類を得る方法に関する。

(B2)「【0002】
穀類や豆類の表面には,一般に真菌類などの菌が付着している。菌が多く付着した穀類や豆類は保存時に変質を生ずる場合があり,また衛生上や安全性などの点でも望ましいものではない。また,穀類や豆類は粉にして用いられることも多く,特に小麦,ライ麦,ソバなどは大半が粉にして用いられるが,製粉前の穀類や豆類に菌が多く付着していると,製粉して得られる小麦粉,ソバ粉,ライ麦粉などは菌による汚染度が高くなって,保存性,衛生性,安全性に劣るようになり易い。」

(B3)「【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では,穀類または豆類を,粘土鉱物と,酸化カルシウム,水酸化カルシウムおよびクエン酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種のカルシウム成分を添加した水で処理するか,或いは粘土鉱物と,酸化カルシウム,水酸化カルシウムおよびクエン酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種のカルシウム成分と,乳化剤を添加した水で処理して,穀類または豆類に付着している菌類などの微生物の除菌(菌などの微生物の付着量の低減,殺菌)を行う。
本発明の除菌処理は,バッチ式で行ってもよいしまたは連続式で行ってもよい。ここで,本明細書でいう「穀類または豆類の除菌」とは,穀類または豆類に付着している菌類などの微生物の数の低減,当該微生物の殺傷(殺菌,滅菌)の総称である。」

(B4)「【0021】
本発明の除菌方法でカルシウム成分として用い得る酸化カルシウムは,酸化カルシウム100%からなるものであっても,または酸化カルシウムを主体とし他の成分を少量成分として含むものであってもいずれでもよい。本発明で用い得る酸化カルシウムとしては,例えば,石灰石を焼いて製造した酸化カルシウム,炭酸カルシウム,硝酸カルシウム,クエン酸カルシウムなどのカルシウム塩や水酸化カルシウムを焼成して製造した酸化カルシウム,貝殻,骨,サンゴ,乳清,卵殻などのカルシウム含有材料を焼成して製造した酸化カルシウムなどを挙げることができる。
酸化カルシウムは,除菌処理に使用する水中に添加すると,水酸化カルシウムに変化する。」


4.対比
技術常識に加え上記記載事項(A6)を参酌すると,引用発明の「殺菌」は,本願発明の「滅菌」と実質的に相違するところがないものと認められる。
また,引用発明の「種子」と本願発明の「穀類」とは,滅菌・長期保存対象の限りで一致し,引用発明の「ほたて貝殻焼成物であって,その主成分であるカルシウムは酸化カルシウムとして存在する殺菌剤を,」滅菌・長期保存対象とともに「密閉容器内に乾燥状態で収容する」ことは,本願発明の「酸化カルシウム粉末」「を添加混合することで,」滅菌・長期保存対象の滅菌・長期保存対象「表面のみに酸化カルシウム含有粉末を接触させること」に相当する。
また,引用発明の「ほたて貝殻焼成物であって,その主成分であるカルシウムは酸化カルシウムとして存在する殺菌剤」は,上記記載事項(A3),(A7)によれば,酸化カルシウムとしてカルシウム95重量%を含有するものであって,しかも,本願明細書の段落0010に記載される酸化カルシウム粉末の実施例同様,ほたて貝殻を焼成した後に粉砕して得られたものであるから,本願発明の「酸化カルシウム粉末」に相当するとともに,「酸化カルシウム含有粉末」にも相当する。
さらに,引用発明の「平均粒径が0.5?50μm」の微粉末状としたほたて貝殻焼成物と,本願発明の「平均粒径が20?200μm」の酸化カルシウム粉末とは,「平均粒径が20?50μm」の範囲で一致する。

よって,両者は,
「滅菌・長期保存対象に平均粒径が20?50μmの酸化カルシウム粉末を添加混合することで,滅菌・長期保存対象の滅菌・長期保存対象表面のみに酸化カルシウム含有粉末を接触させる,滅菌・長期保存対象の滅菌・長期保存方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点]
本願発明では滅菌・長期保存対象が穀類であり,穀類100重量部に酸化カルシウム粉末0.01?10重量部を添加混合するのに対して,引用発明では滅菌・長期保存対象が種子であり,酸化カルシウム粉末の添加混合割合については特定がない点。


5.判断
上記相違点について検討する。
上記「3-1.引用例A」の(A8)ないし(A15)からみて,引用例Aでは,殺菌の対象を主に食品としていることが理解できる。
また,穀類とは,イネ科作物の種子(狭義の穀類),あるいはイネ科作物に加え大豆などマメ科作物を含む種子(広義の穀類)であることは技術常識であり,引用発明の種子に含まれる概念である。
そうすると,引用例Aに接した当業者であれば,引用発明の殺菌対象である種子から,食品である種子,すなわち大豆等の穀類を把握することは格別困難なくなし得たことである。
そして,引用例Bの上記「3-2.引用例B」の(B1)及び(B2)には,穀類に対してもその表面の菌を滅菌し保存性を高めることが周知の課題であることが示されており,同(B3)及び(B4)には,この滅菌に酸化カルシウムが有効であることが示唆されている。この酸化カルシウムによる穀類の滅菌は,引用発明の酸化カルシウムによる種子の殺菌と同じ作用であることは明らかである。
これより,引用発明において,酸化カルシウムによる滅菌・長期保存の対象を穀類とすることは,当業者が容易に想起し得たことである。

また,一般に殺菌対象に添加する殺菌剤の量は,殺菌の効果等を考慮して適宜決定すべきものであり,本願明細書を参酌しても,本願発明が,穀類100重量部に酸化カルシウム粉末0.01?10重量部を添加混合するとした数値限定に臨界的意義は見出せない。
よって,引用発明の滅菌・長期保存対象を穀類としたものにおいて,酸化カルシウム粉末の添加混合量を,穀類100重量部に酸化カルシウム粉末0.01?10重量部とすることは,当業者が必要に応じて適宜決定し得た設計的事項にすぎない。

以上より,引用発明において引用例B記載の上記技術的事項を踏まえ,上記相違点に係る本願発明の構成を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。

また,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例B記載の上記技術的事項の奏する作用効果からみて,格別なものとは認められない。


6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例B記載の上記技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-12 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2011-84736(P2011-84736)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 中村 則夫
佐々木 正章
発明の名称 穀類の滅菌・長期保存方法  
代理人 村田 幸雄  
代理人 村田 幸雄  
代理人 村田 幸雄  

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