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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01C
管理番号 1324768
審判番号 不服2016-3526  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-07 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-159612「振動ジャイロ素子、ジャイロセンサー及び電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 4日出願公開、特開2013- 24721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願: 平成23年7月21日
手続補正: 平成26年12月5日(以下、「補正1」という。)
手続補正: 平成27年7月8日 (以下、「補正2」という。)
拒絶査定: 平成27年12月1日(送達日:同年同月8日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成28年3月7日
手続補正: 平成28年3月7日 (以下、「本件補正」という。)


第2 補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正によって、特許請求の範囲は、以下のように補正された。

(補正前)
「 【請求項1】
支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)
の関係を満足し、
前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項2】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載の振動ジャイロ素子。
【請求項3】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2.5の範囲に設定したことを特徴とする請求項2記載の振動ジャイロ素子。
【請求項4】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧3.3の範囲に設定したことを特徴とする請求項3記載の振動ジャイロ素子。
【請求項5】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd-Δfs|≦13000に設定したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の振動ジャイロ素子。
【請求項6】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd-Δfs|≦1000に設定したことを特徴とする請求項5記載の振動ジャイロ素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とする電子機器。」

(補正後)
「【請求項1】
貫通孔が無い支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)
の関係を満足し、
前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする振動ジャイロ素子。
【請求項2】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載の振動ジャイロ素子。
【請求項3】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧2.5の範囲に設定したことを特徴とする請求項2記載の振動ジャイロ素子。
【請求項4】
前記駆動用振動腕の長さLdに関する前記支持部の幅WbをWb/Ld≧3.3の範囲に設定したことを特徴とする請求項3記載の振動ジャイロ素子。
【請求項5】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd-Δfs|≦13000に設定したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の振動ジャイロ素子。
【請求項6】
前記検出離調周波数Δfdと前記スプリアス離調周波数Δfsとをppm表示で|Δfd-Δfs|≦1000に設定したことを特徴とする請求項5記載の振動ジャイロ素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とするジャイロセンサー。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか記載の振動ジャイロ素子を備えることを特徴とする電子機器。」(下線は補正箇所。)

2 検討
(1)新規事項1
補正1により、補正前の請求項2を引用する請求項6が補正され、新たに請求項1とされた(なお、補正2では特許請求の範囲の補正はされていない。)が、その際に「ppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定した」なる記載が「前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定した」と補正された。そして、該補正された記載については、本件補正において変更されていない。しかしながら、ppm表示について、「駆動共振周波数fdを基準値」とする点は、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には記載も示唆もされていない。
審判請求人はこの点につき、審判請求書において、
「本願出願人は、ppm換算するときの基準値をfdとすることは本願明細書の記載のから自明であると考える。その理通は、以下の通りである。まず、本願発明の特徴Bの記載は、周波数(Hz)表記を周波数偏差の表記に替えて表すということであり、所謂「周波数を周波数偏差に換算する」ということを意味している。そのため、換算前後の数値的な特性が変わることがあってはならないし、あるはずもない。このような意味をふまえ、本願発明において、基準周波数としてfd、fp1、fp2のどれが適切であるかを明細書の記載に基づいて確認した。
・・・
以上のことから、周波数の値を周波数偏差に表記し直す場合、その基準周波数がfp1、fp2ではないことが明らかであり、明細書の記載からしてもfdでしかありえない。」
と主張しているが、そもそも「ppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定した」なる記載が、「周波数の値を周波数偏差に表記し直」したものであることを示す記載は当初明細書等には無く、また自明でも無いのであるから、上記主張は採用できない。
また審判請求人は審判請求書において、
「確かに、本願明細書の段落0039に記載されたfd、fp1、fp2の数値から、fdを基準周波数として離調周波数差Δfをppm換算すると、861ppmにはならないが、これは、明細書に記載されているfd、fp1、fp2の数値を、便宜上、実際にシミュレーションに使用された数値の1Hz未満の周波数を四捨五入した値としたためである(Δfのppmの数値も1ppm未満を四捨五入している)。そのため、fd、fp1、fp2の数値から、fdを基準周波数として離調周波数差Δfをppm換算しても861ppmにはならない。この部分の説明は、図3のシミュレーション結果から検出感度の増幅度の最大を示すことが目的であることを考えれば、fd、fp1、fp2の数値を細かく表記することに重要性はなく、本願明細書の記載内容で十分であり、妥当であると考える。」
として、「861ppm」という数値が、当初明細書等には記載されていない「実際にシミュレーションに使用された数値」なるものから算出されたと主張している。しかしながら、該数値については、当初明細書等において
「【0039】
同図に示すように、離調周波数差Δfが小さいほど、検出感度の増幅度は高く、即ち検出感度は顕著に高くなっている。同図において、駆動共振周波数fd=50.581kHz、第1検出共振周波数fp1=49.076kHz、第2検出共振周波数fp2=52.042kHzのとき、離調周波数差Δf=861ppmで検出感度の増幅度が最大となった。」
と記載されているのであるから、上記の主張は当初明細書等の記載に基づかないものであって、採用できない。

したがって、補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(2)新規事項2
本件補正のうち、請求項1の補正は、「支持部」を「貫通孔が無い支持部」と限定するものである。しかしながら、支持部に「貫通孔が無い」という点は、当初明細書等には記載も示唆もされていない。
審判請求書において上記補正の根拠と主張されている、当初明細書等の図1には、貫通孔が明示されていない支持部2が記載されてはいるものの、該図1は振動ジャイロ素子の概略的な構成及び動作を説明するためのものに過ぎず、素子の具体的な形状を表すものではない。当初明細書等の記載においても、「図1は、例えば角速度センサーに使用される本発明の第1実施例の振動ジャイロ素子1を概略的に示している。振動ジャイロ素子1は両側音叉型屈曲振動片からなり、中央の概ね矩形の支持部2と、・・・」(【0027】)とあり、またそのほかに支持部に貫通孔を設けないことによる効果の記載なども無いので、支持部に「貫通孔が無い」ことが技術事項として当初明細書等に記載されているとは言えず、また自明でもない。
してみると、本件補正は、当初明細書等の記載を総合することによって導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3)独立特許要件
ア 補正の目的
仮に補正1及び本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとすれば、本件補正に係る請求項1についての補正は、支持部の構成を特定する記載を含むものであり、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としている。

イ 補正後の本願発明
本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、請求項1に記載した事項から特定される以下のとおりのものと認める。

「貫通孔が無い支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)
の関係を満足し、
前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする振動ジャイロ素子。」

そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

ウ 検討
a 先願発明
本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願であり、しかも、その発明者が本願の発明者と同一ではなく、また本願出願の時において、その出願人が本願の出願人と同一でもない特許出願である、特願2010-244517号の公開公報である特開2012-98091号公報(その願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面と同一の内容である。以下「先願文献」という。)には、図面と共に以下のように記載されている。

(a)
「【0001】
本発明は、高感度且つ優れたノイズ低減効果を有するヨーレートセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微小振動を検出するための圧電振動デバイスとして、例えば、振動する質量体に回転が加えられた際に生じるコリオリ力に起因して発生する非常に微弱な振動や変位を、圧電素子を介して検出することにより、各方向における回転動作(回転角速度)を検知・測定することが可能な圧電振動型ヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)が知られている。また近年、長寿命・低価格且つ小型・軽量の圧電振動型ヨーレートセンサとして、基部を挟んで対向する複数の振動腕を有するセンサ素子を備え、一方の振動腕(駆動腕)を平面内で駆動させ、コリオリ力によってその駆動方向と直交する方向へ生じた振動・変位を、他方の振動腕(検出腕)にて検知するH型ヨーレートセンサが提案又は実用に供されている。
【0003】
しかし、極めて小型のセンサ素子を有するH型ヨーレートセンサでは、駆動腕自体の質量が小さいことから、F=2mvΩで表わされるコリオリ力自体が小さくなってしまうので、その検知感度が低下してしまう。加えて、センサ素子の各振動腕が接続される基部は、例えばセンサパッケージの略中央部に固定されるところ、H型ヨーレートセンサ全体を小型化するため、振動腕と基部内の接続部位を所望に長くすることは、その構造上、極めて困難である。その結果、その接続部位の剛性が過度に高くなり、コリオリ力による駆動腕の振動・変位を十分に大きくし難くなるので、コリオリ力の検知感度が更に低下してしまう。また、極めて小型のセンサ素子を有するH型ヨーレートセンサの製造には、殊に高い加工精度や組立精度が要求されるところ、それらの精度が十分ではないと、不要振動(もれ振動)に起因するノイズが生じ易くなってしまう。」

(b)
「【0013】
さらに、本発明による圧電振動型ヨーレートセンサは、少なくとも一対の駆動腕、及び、少なくとも一対の検出腕が接続される枠体と、その枠体の内部に形成された接続島部と、少なくとも一対の駆動腕及び/又は少なくとも一対の検出腕の延在方向と平行な方向に延在し、且つ、枠体に跨設された複数の橋部と、接続島部と複数の橋部を連結する複数の補助橋部と、を有する基部を備えていても好適である。より具体的には、少なくとも一対の駆動腕と少なくとも一対の検出腕は、互いに対向する方向(反対方向)に延設されていてもよく、また、枠体の形状は、特に制限されず、例えば、方形であってもよい。また、複数の橋部と複数の補助橋部は、互いに交差する方向、特に、互いに直交又は略直交する方向に延設されていると好ましい。」

(c)
「【0027】
図1は、本発明によるH型ヨーレートセンサ素子1の構成の一例を示す斜視図である。このH型ヨーレートセンサ素子1(圧電振動デバイス)は、中央に位置する基部10と、基部10を挟んで一方(図1では+Y方向)に延びる一対の駆動腕2,3、及びその駆動腕とは反対側(図1では-Y方向)に延びる一対の検出腕4,5を備えるものである。
【0028】
本実施形態におけるH型ヨーレートセンサ素子1の基部10は、駆動腕2,3、及び検出腕4,5が接続される方形の枠体15の内側空間中央部に、センサパッケージ(図示せず)に対してH型ヨーレートセンサ素子1を接続するための接続島部16を有しており、接続島部16は枠体15内側空間をY方向に平行に走る二本の橋部17,18、並びに橋部17,18の間に接続島部16を保持するためにX方向に直列に走る補助橋部19,20を備えている。ここで、左側の橋部17は、左駆動腕2及び左検出腕4の延在方向に概ね直列に設けられており、右側の橋部18は、右駆動腕3及び右検出腕5の延在方向に概ね直列に設けられている。基部10は、枠体15の内側空間における上記接続構造を画定するために、切り抜き21乃至24によって肉抜きされている。」

(d)
「【0031】
次に、本実施形態におけるH型ヨーレートセンサ素子1の動作原理を説明する。本実施形態では、H型ヨーレートセンサ素子1は、駆動腕2,3を上、検出腕4,5を下にして、立ち上がった姿勢で、検出対象となる回転の中心軸7の方向にH型ヨーレートセンサ素子1の長手方向が合致するように、センサパッケージ内に保持されている。基部10における電気的接続を介して、駆動腕2,3に備えられた圧電体(図示せず)に対して駆動用の電圧が印加されると、圧電体の伸縮動作によって駆動腕2,3は駆動振動を生じる。具体的には、図1の±X方向で両駆動腕2,3が近接・離反を繰り返す振動運動が生じる。
【0032】
駆動腕2,3が上述のように振動している状態で、H型ヨーレートセンサ素子1の長手方向(Y方向)の中心軸7周りに回転が生じると、コリオリ力の式:F=2mvΩで表される当該回転の角速度が、コリオリ力としてH型ヨーレートセンサ素子1に対して作用し、駆動腕2,3には、駆動振動の向き(X方向)及び回転の軸(Y方向)の双方に直交するZ方向のコリオリ力が発生する。コリオリ力は、回転角速度の大きさに比例したZ方向の振幅(変位)として現れる。本実施形態のH型ヨーレートセンサ素子1は、上述のよう
に検出腕4,5の共振周波数を駆動腕2,3の共振周波数(駆動周波数)に近くなるように設定しているので、駆動腕2,3に発生したZ方向の振動は、検出腕4,5に向かって基部10を伝搬し、検出腕4,5にて検出振動が生じる。次に、伝搬した検出腕4,5における振動変位を圧電素子が検出することにより、H型ヨーレートセンサ素子1において生じた回転運動の角速度が検出されることとなる。
【0033】
図2乃至4に示すのは、本実施形態にかかるH型ヨーレートセンサ素子1の動作原理を説明するための簡略図であり、図2はH型ヨーレートセンサ素子1の模式的な正面図、図3及び図4はH型ヨーレートセンサ素子1が、第1の振動モード及び第2の振動モードで動作する様子を上方(+Y方向)から見下ろした模式的な上面図である。
【0034】
上述したとおり、基部10を挟んで対向する振動腕の対(駆動腕2,3及び検出腕4,5)を備えるH型ヨーレートセンサ素子1は、2本の検出腕4,5が互いにZ方向へ逆位相の振動を行なう検出振動モードが少なくとも2つ存在している。それらは、2本の検出腕4,5が互いにZ方向へ逆位相の振動を行なう検出振動モードとして、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ逆位相に振動する振動モード(左右逆位相且つ上下逆位相の第1の振動モード:HSモード)、及び駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ同位相に振動する振動モード(左右逆位相且つ上下同位相の第2振動モード:HCモード)の2つに分けられる。そして、駆動腕2,3より基部10を介して伝搬された検出振動は、検出腕4,5にて図3に示すHSモード及び図4に示すHCモードの双方で生じ得るが、本実施形態にかかるH型ヨーレートセンサ素子1は、これら2つのモードの共振周波数の値が互いに近接するようにセンサを設計することを特徴とする。
【0035】
図3及び図4に示すように、HSモードとHCモードは、左右の駆動腕2,3がZ方向に逆位相に振動するという相違点はあるが、検出腕4,5の動きにのみに着目すれば同一の動きをしている。ここで左右の駆動腕2,3の何れが+の位置又は-の位置から振動を開始するか、すなわち位相に対する振動の方向は、駆動腕2,3の構造における非対称性等を素子設計に加味することにより容易に決定することができる。このことから、この二つのモードの共振周波数の値が隣接しても双方の振動形状は崩れることはなく、それ以上にお互いが干渉し合うことで振幅を増大させる(両モードにおける感度を合算することができる)。」

(e)
「【0039】
本実施形態では、HSモードの共振周波数frsとHCモードの共振周波数frcとが、両モードの混在を避ける従来のH型ヨーレートセンサの場合と比較してより近接している。この共振周波数の近接の程度は、H型ヨーレートセンサ素子1の材質や厚さ等の任意のパラメータで決定される各モードの検出感度スペクトルの外形にもよるが、各モードの検出感度が優位に合算できることを要件とし、検出感度が低い各モードのスペクトルの山の裾部分で両モードが重なる場合は除外される。具体的には、本実施形態において、周波数帯が低い方の山であるHSモードのピーク周波数に相当する共振周波数frsから任意の周波数fだけ高周波数側にシフトした周波数frs+fにおける合算検出感度S1が、周波数fだけ低周波側にシフトした周波数frs-fにおける合算検出感度S2と比較して大きく、周波数帯が高い方の山であるHCモードのピーク周波数に相当する共振周波数frcから周波数fだけ低周波数側にシフトした周波数frc-fにおける合算検出感度S3が、周波数fだけ高周波側にシフトした周波数frc+fにおける合算検出感度S4と比較して大きくなる程度に両モードのスペクトルが重なることが好ましい。このように共振周波数のピークを近接させて両モードの振動スペクトルを重ねることで、感度の合算効果をより高めることができる。
【0040】
図6に示すように、両モードの検出感度スペクトルの感度合算効果は、各々のモードにおける共振周波数に近い周波数領域ほど高くなっている。よって、本実施形態にかかるH型ヨーレートセンサ素子1においては、駆動腕2,3の共振周波数が、HSモード又はHCモードのいずれか一方の共振周波数にのみ近接するだけでも、上述した感度合算効果を得ることができる。なお、各モードの共振周波数等は、センサ素子の材料、厚さ、基部の形状、振動腕の形状等の諸条件を微調整すること設定可能である。
【0041】
本実施形態では、感度を高めつつノイズ低減も実現される高S/N比のH型ヨーレートセンサについて詳述する。なお、第1実施形態にかかるH型ヨーレートセンサ素子1と、本実施形態にかかるヨーレートセンサとは必ずしも明確な外観上の差異を有するものではなく、センサ素子の材料、厚さ、基部の形状、振動腕の形状等の諸条件を微調整することで、駆動モードの振動周波数を二つの検出モードの共振周波数の間に設定することができる。図7は、横軸に周波数をとり、本実施形態にかかるH型ヨーレートセンサ素子1の駆動周波数と、HSモード及びHCモードの各々のモード共振周波数との関係が示す図である。なお、本実施形態においても、HSモードの共振周波数がHCモードの共振周波数より低くされているが、上述したセンサ素子の構成における諸条件に応じて、HSモードがHCモードより高い周波数である場合であっても同様の効果が得られる。
【0042】
図7では、HSモードの共振周波数より低い周波数領域をFL領域、HSモードの共振周波数とHCモードの共振周波数との間の領域をFM領域、HCモードの共振周波数よりも高い領域をFU領域とする。
【0043】
ここで、駆動腕2,3の挙動について考察すると、FL領域では、左右の駆動腕2,3は左右の検出腕4,5とは逆の方向に変位する、つまり左検出腕4が+Z方向に変位するとき、左駆動腕2は-Z方向に変位し、右検出腕5が-Z方向に変位するとき、右駆動腕3は+Z方向に変位するというHSモードでの駆動腕の挙動が主に支配的である(図3参照)。これに対して、FU領域では、左右の駆動腕2,3は左右の検出腕4,5と同じ方向に変位する、つまり左検出腕4が+Z方向に変位するとき、左駆動腕2も+Z方向に変位し、右検出腕5が-Z方向に変位するとき、右駆動腕3も-Z方向に変位するというHCモードでの駆動腕の挙動が主に支配的である(図4参照)。
【0044】
これに対して、FM領域では、HSモードとHCモードの挙動が互いに干渉しあっている。具体的には、FM領域において、駆動周波数を低周波数領域(FL領域)側から高周波数領域(FU領域)側へと変化させるに連れて、駆動腕2,3はHSモードにおける振幅方向とは逆向きに振動しようとするため、HSモードにおける振動は徐々に打ち消される、すなわち減算されて結果としてHSモードでの駆動腕2,3の振幅は減少する。つまり、FL領域側で支配的だったHSモードでの駆動腕2,3の挙動は徐々に弱まり、逆にHCモードでの駆動腕2,3の挙動が顕在化して、両モードの挙動が混在するようになる。駆動周波数が、FM領域の中央部分、HSモードの振動スペクトルとHCモードの振動スペクトルの交差する周波数fX(図6参照)にまで到達すると、両モードの挙動はほぼ均等に合成される。そして交差周波数fXを超えると、駆動腕2,3はHCモードでの挙動が支配的なHSモードとの混合状態となり、FU領域へと高周波側に変化するに連れて最終的にはHCモードでの挙動が支配的になる。」

(f)
「【0050】
また、第1実施形態で詳述したとおり、HSモード及びHCモードの共振周波数を近接させると、検出腕4,5の振幅が互いに増幅しあってコリオリ力に対する感度が向上することが見込まれる。よって本実施形態は、第1実施形態の感度向上効果が増大することに加えて、2つの振動モードの共振周波数間の周波数でセンサを駆動させることで、H型ヨーレートセンサ素子1に対してノイズ除去効果をもたらすものであり、両効果が相まって、H型ヨーレートセンサ素子1のS/N比を飛躍的に向上させることができる。」

上記(a)ないし(f)、及び図1ないし図7の記載から、先願文献には、

「基部10と、
基部10を挟んで一方に延びる一対の駆動腕2,3と、
その駆動腕とは反対側に延びる一対の検出腕4,5を備え、
駆動腕2,3は±X方向で近接・離反を繰り返す共振周波数(駆動周波数)の振動運動を生じ、
H型ヨーレートセンサ素子1の長手方向(Y方向)の中心軸7周りに回転が生じると、コリオリ力の式で表される当該回転の角速度が、コリオリ力としてH型ヨーレートセンサ素子1に対して作用し、駆動腕2,3には、Z方向の振動が生じ、
2本の検出腕4,5が互いにZ方向へ逆位相の振動を行なう検出振動モードとして、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ逆位相に振動する振動モード(HSモード)と、
駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ同位相に振動する振動モード(HCモード)とを有し、
HSモードとHCモードは、左右の駆動腕2,3がZ方向に逆位相に振動するものであり、
駆動モードの振動周波数が二つの検出モードの共振周波数の間に設定され、
駆動腕2,3の共振周波数が、HSモード又はHCモードの共振周波数に近接され、HSモード及びHCモードの共振周波数が近接される、
圧電振動型ヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

b 対比・相違点
本願補正発明と先願発明とを対比する。
まず、先願発明の「基部10」と、本願補正発明における「貫通孔が無い支持部」とは、共に「支持部」である点で共通する。
また先願発明における「基部10を挟んで一方に延びる一対の駆動腕2,3」、及び「その駆動腕とは反対側に延びる一対の検出腕4,5」は、それぞれ本願補正発明の「前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕」及び「前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕」に相当する。
次に、先願発明において「駆動腕2,3は±X方向で近接・離反を繰り返す共振周波数(駆動周波数)の振動運動を生じ」ることは、本願補正発明において「隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モード」を有することに相当する。

先願発明において「H型ヨーレートセンサ素子1の長手方向(Y方向)の中心軸7周りに回転が生じると、コリオリ力の式で表される当該回転の角速度が、コリオリ力としてH型ヨーレートセンサ素子1に対して作用し、駆動腕2,3には、Z方向の振動が生じ」ることは、駆動腕2,3がコリオリ力の作用でZ方向の振動を行うものであり、また隣り合う振動腕同士が互いに逆向きに振動することも図3,4から明らかであることから、本願補正発明において「前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動」すること、及び「前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動」することに相当するといえる。
また、先願発明は「2本の検出腕4,5が互いにZ方向へ逆位相の振動を行なう検出振動モードとして、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ逆位相に振動する振動モード(HSモード)と、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ同位相に振動する振動モード(HCモード)とを有し」ており、「HSモードとHCモードは、左右の駆動腕2,3がZ方向に逆位相に振動するものであ」るから、これらHSモードとHCモードは、それぞれ本願補正発明の「前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モード」と、「前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モード」のいずれかに相当する。
そうすると、先願発明において「H型ヨーレートセンサ素子1の長手方向(Y方向)の中心軸7周りに回転が生じると、コリオリ力の式で表される当該回転の角速度が、コリオリ力としてH型ヨーレートセンサ素子1に対して作用し、駆動腕2,3には、Z方向の振動が生じ、2本の検出腕4,5が互いにZ方向へ逆位相の振動を行なう検出振動モードとして、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ逆位相に振動する振動モード(HSモード)と、駆動腕2,3と検出腕4,5とがZ方向へ同位相に振動する振動モード(HCモード)とを有し、HSモードとHCモードは、左右の駆動腕2,3がZ方向に逆位相に振動するものであ」ることは、本願補正発明において「前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有」することに相当するといえる。

そして、先願発明において「駆動モードの振動周波数が二つの検出モードの共振周波数の間に設定され」ることは、本願補正発明において「前記共振周波数fd,fp1,fp2が、fp1<fd<fp2の関係を満足する」ことに相当し、先願発明の「圧電振動型ヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)」は、本願補正発明の「振動ジャイロ素子」に相当する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2
の関係を満足する、
振動ジャイロ素子。」

(相違点)
相違点1:本願補正発明の「支持部」は「貫通孔が無い」とされているのに対し、先願発明においてはそのような特定はなされていない点。

相違点2:本願補正発明においては、共振周波数fd,fp1,fp2が「0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)の関係を満足」するとされているのに対し、先願発明においてはそのような特定はなされていない点。

相違点3:本願補正発明においては、共振周波数fd,fp1,fp2について「前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする」とされているのに対し、先願発明においてそのような特定はなされていない点。

c 判断
上記相違点1について検討する。
先願文献においては、基部10(支持部)に貫通孔が無いことが明示されてはいないものの、逆に貫通孔を設けること(基部を枠体、接続島部、橋部、及び補助橋部から構成すること)について、
「【0013】
さらに、本発明による圧電振動型ヨーレートセンサは、少なくとも一対の駆動腕、及び、少なくとも一対の検出腕が接続される枠体と、その枠体の内部に形成された接続島部と、少なくとも一対の駆動腕及び/又は少なくとも一対の検出腕の延在方向と平行な方向に延在し、且つ、枠体に跨設された複数の橋部と、接続島部と複数の橋部を連結する複数の補助橋部と、を有する基部を備えていても好適である。」
と記載されており、貫通孔を設ける点は選択事項の1つとして挙げられているに過ぎず、貫通孔の無いものを排除してはいないといえる。
すなわち、先願発明は基部(支持部)として貫通孔の無いものを含んでおり、相違点1は実質的な相違点ではない。

上記相違点2,3について検討する。
相違点2,3はいずれも、共振周波数fd,fp1,fp2がfp1<fd<fp2の関係を満足する場合において、ΔfdとΔfsとの差の値がある範囲内に収まるように限定するものといえるが、そのいずれの範囲も臨界的な作用効果を奏するものではなく、また「0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)」の中央点や「|Δfd-Δfs|=0」の場合に最高感度となる訳でもない。(例えば、本願明細書の【0038】の記載によれば、検出感度の増幅度が最大となるのは、Δf(=|Δfd-Δfs|)=0となる場合ではなく、Δf=861ppmの場合である。)
そうすると、相違点2,3による共振周波数fd,fp1,fp2の選択は、fp1<fd<fp2の関係内において(先願発明における、ノイズ除去効果を期待できる、frs<駆動周波数<frcの関係内において)、先願発明における感度向上を図る条件である「駆動腕2,3の共振周波数が、HSモード又はHCモードの共振周波数に近接され、HSモード及びHCモードの共振周波数が近接される」点を考慮して、適宜各周波数を選択した以上の特段の技術的意味はなく、相違点2,3は実質的な相違点ではない。

したがって、本願補正発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特願2010-244517号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また仮に補正1及び本件補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとしても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、補正1により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる(なお、補正2では特許請求の範囲の補正はされていない。)ところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「支持部と、
前記支持部から並んで延出する複数の駆動用振動腕と、
前記支持部から前記駆動用振動腕とは反対側に並んで延出する、前記駆動用振動腕と同じ複数の検出用振動腕とを備え、
隣り合う前記複数の駆動用振動腕が、その表裏主面に沿う面内方向に互いに逆向きに所定の駆動共振周波数fdで屈曲振動する駆動モードと、
前記振動腕の延出方向の周りの回転により作用するコリオリ力によって、前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と逆相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と逆相で所定の第1検出共振周波数fp1で屈曲振動する第1の検出モードと、
前記複数の駆動用振動腕がその表裏主面に交わる面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記コリオリ力の作用方向と同相で屈曲振動し、前記複数の検出用振動腕が前記面外方向に、隣り合う振動腕同士互いに逆向きにかつ前記駆動用振動腕と同相で所定の第2検出共振周波数fp2で屈曲振動する第2の検出モードとを有し、
前記共振周波数fd,fp1,fp2が、
fp1<fd<fp2、かつ、
0.7×(fd-fp1)≦fp2-fd≦1.3×(fd-fp1)
の関係を満足し、
前記第1検出共振周波数fp1と前記駆動共振周波数fdとの差である検出離調周波数Δfdと、前記第2検出共振周波数fp2と前記駆動共振周波数fdとの差であるスプリアス離調周波数Δfsとを、前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定したことを特徴とする振動ジャイロ素子。」(以下「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
1.(新規事項)平成26年12月5日付けでした手続補正(補正1)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(拡大先願)この出願の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特願2010-244517号の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
というものである。

3 先願発明
特願2010-244517号の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明は、上記「第2 補正の却下の決定 2検討 (3)独立特許要件 ウ 検討 a 先願発明」に示したとおりである。

4 判断
本願発明は、本願補正発明と同様に、補正1により補正された、「前記駆動共振周波数fdを基準値としたppm表示で|Δfd-Δfs|≦40000に設定した」という発明特定事項を含むものである。そして前記「第2 補正の却下の決定 2 検討 (1)新規事項1」に記載したとおり、補正1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。。
また本願発明は、本願補正発明から、「貫通孔が無い支持部」として支持部の構成を限定することを省いたものである。そうすると、本願発明の構成に上記本件補正に係る限定を付加した本願補正発明が、前記「第2 補正の却下の決定 2 検討 (3)独立特許要件 ウ 検討」に記載したとおり、特願2010-244517号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、本願発明も同様の理由により、特願2010-244517号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一である。

5 むすび
以上のとおり、平成26年12月5日付けでした手続補正(補正1)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特願2010-244517号の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-25 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-13 
出願番号 特願2011-159612(P2011-159612)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01C)
P 1 8・ 161- Z (G01C)
P 1 8・ 561- Z (G01C)
P 1 8・ 55- Z (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸 智史  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
大和田 有軌
発明の名称 振動ジャイロ素子、ジャイロセンサー及び電子機器  
代理人 増田 達哉  

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