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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1324816
異議申立番号 異議2016-700428  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-16 
確定日 2016-12-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5812565号発明「アミノ酸組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5812565号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕,〔3〕について訂正することを認める。 特許第5812565号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5812565号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成20年2月25日(優先権主張 平成19年 2月28日 (JP)日本)を国際出願日とするものであって、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人小林孝次により特許異議の申立てがされ、平成28年 7月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年 9月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人小林孝次から平成28年11月11日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記のアミノ酸を」とあるのを、「下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「下記のアミノ酸を」とあるのを、「下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」に訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0005】に「[3]下記のアミノ酸」とあるのを、「[3]下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0011】に「本発明で用いられるアミノ酸は、アミノ酸が2?5個結合したペプチドの形態のものを含んでいてもよい。この場合、前述の各アミノ酸の配合量は、ペプチドの質量を含むものとする。ただし、本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。」とあるのを、「本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1,2について
訂正事項1,2に係る訂正は、請求項1?3における「アミノ酸」を「アミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」に限定する訂正であるといえる。そして、上記訂正前の請求項1?3における「アミノ酸」はアミノ酸に加えてペプチド等、アミノ酸同士が結合したものも含むものであるのに対し、上記訂正後の請求項1?3における「アミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」はペプチド等、アミノ酸同士が結合したものを含まないものであるから、上記訂正は特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、本件特許明細書の以下の記載、
「ただし、本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。」(【0007】)
からみて、本件特許明細書には、上記「アミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」が記載されているといえる。そうすると、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0005】に「[3]下記のアミノ酸」とあるのを、「[3]下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」に訂正するものであって、訂正事項1,2に係る訂正に伴って特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、(1)で示したとおり、本件特許明細書には「アミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)」が記載されているといえるから、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書の段落【0011】に「本発明で用いられるアミノ酸は、アミノ酸が2?5個結合したペプチドの形態のものを含んでいてもよい。この場合、前述の各アミノ酸の配合量は、ペプチドの質量を含むものとする。ただし、本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。」とあるのを、「本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。」に訂正するものであって、訂正事項1,2に係る訂正に伴って特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、上記訂正は、本件特許明細書の段落【0011】の記載のうち「本発明で用いられるアミノ酸は、アミノ酸が2?5個結合したペプチドの形態のものを含んでいてもよい。この場合、前述の各アミノ酸の配合量は、ペプチドの質量を含むものとする。ただし、」を削除するものであるから、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1,2〕,〔3〕及び明細書について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、平成28年 9月16日付け訂正請求書に添付の訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
なお、以下、本件訂正後の請求項1?3に係る発明を、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明3」のように記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含み、かつ、人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のためのアミノ酸組成物。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部

【請求項2】
上記18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、0.5?20gの量になるように摂取するための請求項1に記載のアミノ酸組成物。

【請求項3】
下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含むアミノ酸組成物を有効成分として含有する、1回当たり、0.5?20gの量になるように人間が経口摂取するための運動時の持久力向上剤。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部

2 取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1?3に係る特許に対して平成28年 7月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許の請求項1?3に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献1:小久保貞之ら、乳業技術、平成16年9月、第54巻、p.13-26
引用文献2:堀井純ら、食品の包装、平成7年3月、第26巻、第2号、p.1-10
引用文献3:平垣内寧子ら、第50回日本栄養・食糧学会要旨集、平成8年4月1日、p.170、講演番号3B1-p7

3 引用文献の記載
本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな各引用文献には、以下の事項が記載されている。
(1)引用文献1の記載事項
ア 摘記事項1-(1)
「食品中のアミノ酸組成を種々のアミノ酸で調製することは可能であるが,原料原価が高くなること、製品の風味が悪くなりやすいこと、浸透圧が高くなることなどの欠点がある。一方、ペプチドをアミノ酸組成を考慮して可能な範囲利用すれば、原料原価、風味、浸透圧の点などで、アミノ酸だけで構成した場合の欠点を解消できる。」(19頁12行?18行)

イ 摘記事項1-(2)
「一般にペプチドはアミノ酸やタンパク質と比べ、消化吸収性や溶解性に優れている。また、乳蛋白ペプチドは乳蛋白質と同様に、筋肉を作るために必要な理想的なアミノ酸バランスを有する。「プロテイン」と「アミノ酸サプリメント」の長所を兼ね備えた乳蛋白ペプチドは、運動選手の蛋白質補給用食品に適した素材である。」(20頁左欄21行?26行)

ウ 摘記事項1-(3)
「カゼインペプチドを6ヶ月間摂取した女子運動選手の持久的運動能力を比較した。持久的運動能力は自転車エルゴメータ全力漕ぎ運動時の心拍数の変化で評価した(図1)。カゼインペプチドを摂取した選手は全力漕ぎ運動中の心拍数の上昇が投与開始前(6ヶ月前)と比較して有意に低くなり、運動終了後の回復も早まることが確認された39)。この運動能力の変化はカゼインペプチドを摂取しなかった選手では認められなかった。」(20頁右欄23行?35行)

エ 摘記事項1-(4)
「カゼイン分解物(カゼインペプチド)」(13頁右欄11行?12行)

オ 摘記事項1-(5)
「我々はカゼインペプチドを用い従来よりも苦みを低減したペプチド飲料を開発し、これをスポーツ栄養食品として利用するため、運動選手を対象とした長期摂取による除脂肪体重の増加と体脂肪率の減少、それに伴う持久的運動能力の向上、運動後の遅発性筋肉痛の軽減等の基礎的な検討を行った。」(20頁左欄31行?37行)

カ 摘記事項1-(6)
「39)平垣内寧子,佐藤祐子,飯本雄二,田村明,小澤和裕,池田智子,高瀬光徳,早澤宏紀:第50回日本栄養・食糧学会要旨集170(1996)」(25頁右欄3行)

(2)引用文献2の記載事項
ア 摘記事項2-(1)


」(表3)
イ 摘記事項2-(2)
「乳蛋白はカゼインと乳清蛋白質に大別される。」(1頁右欄6行)
ウ 摘記事項2-(3)
「最も基本的な乳蛋白ペプチドの製造方法は、原料の乳蛋白を溶解後、たんぱく分解酵素を添加して酵素分解し、次いで酵素失活、濃縮、乾燥して製品とする方法である。(中略)次項では当社で開発したカゼイン系及び乳清蛋白質系の乳蛋白ペプチドを示し、その特性を紹介したい。」(3頁左欄1行?右欄4行)
エ 摘記事項2-(4)


」(図1)
オ 摘記事項2-(5)
「特にC2500やMA-Lは溶状が透明ですっきりとした風味を有し、さらに酸性条件下でも熱安定性が高いという特徴を持っており、スポーツ栄養食品、特にスポーツ飲料素材に最適である。」(6頁左欄16行?右欄3行)

(3)引用文献3の記載事項
ア 摘記事項3-(1)
「【方法】同意の得られた健常な運動選手(中京女子大学運動部員15名:A群、石川県K高校野球部員53名:B群)に、原則としてペプチドを1日20g負荷摂取(A群は6ヶ月間、B群は約3ヶ月間)させた。」(8行?10行)

4 判断
(1)本件訂正発明1について
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第29条第2項について
摘記事項1-(3)と摘記事項1-(4)からみて、引用文献1には以下の発明が開示されているといえる。
「カゼイン分解物を含み、かつ、人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のためのカゼイン分解物組成物。」(以下「引用発明1」という。)

そして、本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、両発明は以下の点で相違し、「人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のための組成物」である点で一致する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。以下「本件アミノ酸組成比」という。)で含むアミノ酸組成物であるのに対し、引用発明1はカゼイン分解物を含むカゼイン分解物組成物である点。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部

そこで、相違点1について検討するに、摘記事項1-(1)と摘記事項1-(2)からみて、引用発明1はアミノ酸だけで構成した場合の欠点を解消するためにペプチドであるカゼイン分解物を用いたものであるといえる。そうすると、カゼイン分解物をアミノ酸(アミノ酸同士が結合したものを除く)に置換することは引用発明1の目的に反するから、引用発明1においてカゼイン分解物をアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)とすることは、当業者が容易に為し得たこととはいえない。
また、摘記事項2-(1)?2-(5)からみて、引用文献2には「アミノ酸が2?5個結合したペプチドを多く含むカゼイン分解物であって、それを構成するアミノ酸の組成比が本件アミノ酸組成比と同様であり、すっきりとした風味を持っており、スポーツ栄養食品に最適であるC2500」(以下「C2500」という。)が記載されているといえるものの、C2500はペプチドを多く含むカゼイン分解物であってアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)ではないから、たとえ引用発明1においてカゼイン分解物を引用文献2に記載のC2500に置き換えたとしても、本願訂正発明1と同様の構成となることはない。
さらに、引用文献1,3にも、本件アミノ酸組成比のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)を含むことは記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1は、引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人小林幸次は平成28年11月11日付けの意見書において、本件訂正発明1は、ペプチドを含むことを許容している上、本件配合量のアミノ酸をどの程度含むかは特定されていないから、引用文献1,2にそれぞれ記載された発明と実質的に差異がなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない旨主張するが、(ア)において説示したとおり、引用文献1,2に記載された発明は何れも本件訂正発明1と相違するものであるから、当該意見は採用できない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
具体的な取消理由は、以下の(ア)、(イ)の2点である。
(ア)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(イ)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である下記の甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:小久保貞之ら、乳業技術、平成16年9月、第54巻、p.13-26 (引用文献1と同じ)
甲第2号証:Jpn.J.Phys.Fitness Sports Med.、1995年、Vol.44、p.225-238
甲第3号証:食品の包装、平成7年3月、第26巻、第2号、p.1-10(引用文献2と同じ)
甲第4号証:特開平6-336432号公報
甲第5号証:FFIジャーナル、2005年、第210巻、第8号、p.716-726

以下、検討する。
(ア)の点について
ア(ア)で説示したとおり、甲第1号証にはアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)を含有する組成物は開示されておらず、引用発明1が記載されている。そして、引用発明1は本件訂正発明1と相違点1で相違するから、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。

(イ)の点について
a ア(ア)で説示したとおり、甲第1号証に記載された引用発明1は相違点1で相違し、「人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のための組成物」である点で一致する。
相違点1について検討するに、甲第2号証には、マウスの水泳耐久実験において、スズメバチアミノ酸混合物(VAAM)投与の比較対象として、下記組成比(以下「甲2組成」という。)からなるアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)の混合物であるカゼインアミノ酸混合物(CAAM)を投与することが開示されているといえる(225頁要約、226頁右欄1行?231頁左欄13行、表1、表2)。
アスパラギン酸 7.5質量部
トレオニン 2.2質量部
セリン 6.3質量部
グルタミン酸 21.6質量部
プロリン 7.3質量部
グリシン 2.5質量部
アラニン 3.0質量部
バリン 4.8質量部
シスチン 0.4質量部
メチオニン 2.8質量部
イソロイシン 5.4質量部
ロイシン 8.4質量部
チロシン 6.8質量部
フェニルアラニン 5.0質量部
リシン 7.7質量部
トリプトファン 1.5質量部
ヒスチジン 2.9質量部
アルギニン 3.9質量部

しかしながら、ア(ア)において説示したとおり、カゼイン分解物をアミノ酸(アミノ酸同士が結合したものを除く)に置換することは引用発明1の目的に反するから、引用発明1においてカゼイン分解物を甲第2号証に記載されたCAAMで置換することは、当業者が容易に為し得たこととはいえない。
また、甲第5号証にはカゼイン分解物であるペプチドPeptoProが開示されている(表3)が、当該PeptoProはアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)を含有する組成物ではないから、引用発明1のカゼイン分解物を甲第5号証に記載されたPeptoProで置き換えたとしても、本件訂正発明1と同様の構成とはならない。
そして、甲第3号証については、ア(ア)で説示したとおりであるから、本件訂正発明1は、引用発明1と甲第2,3,5号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 甲第2号証には、マウスの水泳耐久実験において、スズメバチアミノ酸混合物(VAAM)投与の比較対象として、甲2組成のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く)の混合物であるカゼインアミノ酸混合物のを経口投与した結果、VAAMを投与した場合に劣る平均最大水泳時間を示すことが開示されているといえる(225頁要約、226頁右欄1行?231頁左欄13行、表1、表2)から、甲第2号証には「甲2組成のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を含むアミノ酸組成物」(以下「引用発明2」という。)が開示されているといえる。なお、異議申立人小林幸次は、甲第4号証の表Bに本件アミノ酸組成比を満たすカゼイン・アミノ酸組成物(CAAM)が開示されていることから、甲第2号証に記載された技術的思想としてのCAAMは上記訂正請求による訂正前の請求項1に係る発明の「アミノ酸組成物」と同一である旨主張しているが、当該甲第4号証の開示はカゼイン由来のアミノ酸組成物に本件アミノ酸組成比を満たすものがあることを示すに過ぎず、甲第2号証に開示されたCAAMの組成とは直接関係ないものであるから、当該主張は採用できない。
そして、甲第2号証に開示されたマウスの水泳耐久実験は、人間のモデル動物としてマウスを用いたものであることが自明であるから、本件訂正発明1と引用発明2は「人間が経口摂取するためのものであることを特徴とするアミノ酸組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件訂正発明1は本件アミノ酸組成比を有する運動時の持久力の向上のためのアミノ酸組成物であるのに対して、引用発明2はトレオニンの比率が本件アミノ酸組成比と異なり、また、VAAMに劣る平均最大水泳時間を示す点。

以下、上記相違点について検討する。
<相違点2について>
甲第4号証の表Bに本件アミノ酸組成比を満たすカゼイン・アミノ酸組成物が開示されているものの、該組成物はVAAMによる実験において比較例として用いられているものであるから、これを当業者が他の発明に転用しようという動機付けは乏しい。また、引用発明2はVAAMに劣る比較例として甲第2号証に記載されているものであるから、当業者がこれに着目する動機付けも乏しい。してみると、甲第2号証及び甲第4号証に接した当業者には、引用発明2の甲2組成のアミノ酸混合物を甲4号証に記載されたカゼイン・アミノ酸組成物で置き換える動機付けが極めて乏しいから、引用発明2において甲2組成のアミノ酸混合物を甲4号証に記載されたカゼイン・アミノ酸組成物で置き換えることは、当業者が容易に為し得たことではない。
また、甲第1号証の15頁左欄12?15行には「酵素の組合わせ、分解条件、精製方法により分子量、等電点等が異なる多種多様なペプチドが生成し、乳蛋白の機能が増強あるいは、もとの乳蛋白質あるいはアミノ酸にはない新しい機能が付与される。」との記載が、同20頁左欄20?21行には「一般にペプチドはアミノ酸や蛋白質と比べ、消化吸収性や溶解性に優れている。」との記載があり、これらは同じカゼイン由来であっても、ペプチドとアミノ酸とでは機能等が異なる可能性を示唆するものといえるから、たとえ甲第1号証にカゼイン分解物の持久力向上機能が開示されていたとしても、当業者が引用発明2についても同様の機能を期待し得たとはいえない。
そうすると、本件訂正発明1は、引用発明2と甲第1,4号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、上記いずれの取消理由にも該当しない。

(2)本件訂正発明2について
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1について、「18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、0.5?20gの量になるように摂取するため」であることをさらに特定したものであるが、(1)アで説示したとおり、本件訂正発明1は、引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正発明2も引用文献1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人小林幸次は、訂正前の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1,2,4,5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明2は、本件訂正発明1について「18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、0.5?20gの量になるように摂取するため」であることを特定したものであるところ、(1)イにおいて説示したとおり、本件訂正発明1は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である上記された甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものはないから、本件訂正発明2も甲1?5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明2についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明2は、上記いずれの取消理由にも該当しない。

(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1と同一の組成を有する運動時の持久力向上剤であって、本件訂正発明1と実質的に同一のものである。
そして、(1)において説示したとおり、本件訂正発明1は、取消理由通知に記載した取消理由と、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由のいずれにも該当しないものであるから、本件訂正発明3も取消理由通知に記載した取消理由と、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由のいずれにも該当しないものである。


第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認め、また、上記取消理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アミノ酸組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、持久力を要する競技(例えば、サイクリング等)や長時間に亘る肉体労働等における持久力の向上を図るためのアミノ酸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運動後の疲労軽減等に有効なアミノ酸組成物が知られている。
一例として、「下記のアミノ酸を下記のモル比で含むアミノ酸組成物。プロリン12.6?23.4モル、アラニン8.4?15.6モル、グリシン13.3?24.9モル、バリン8.2?15.4モル、スレオニン5.0?9.4モル、ロイシン4.3?8.1モル、ヒスチジン1.8?11.9モル、セリン1.7?3.3モル、リジン6.0?11.2モル、イソロイシン3.1?5.9モル、グルタミン酸2.2?10.4モル、アルギニン2.4?4.6モル、フェニルアラニン2.6?5.0モル、チロシン4.2?7.8モル、トリプトファン1.5?2.9モル」が知られている(特許文献1)。
他の例として、アスパラギン酸を有効成分とする疲労回復作用を有する食品組成物であって、アスパラギン酸のヒト成人一日あたり投与量が2g以上となる量で摂取されるべきことを特徴とする疲労回復用食品組成物が知られている(特許文献2)。
さらに他の例として、分岐鎖アミノ酸を含有することを特徴とする中枢神経系の疲労回復剤が知られている(特許文献3)。この文献には、分岐鎖アミノ酸として、L-バリン、L-ロイシン、L-イソロイシンの混合物を用いることが好ましい旨、記載されている。
【特許文献1】特許第3814683号公報
【特許文献2】再公表特許公報(国際公開番号:WO2003/011056)
【特許文献3】再公表特許公報(国際公開番号:WO2002/034257)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の特許文献1に記載された発明は、(i)スズメバチの幼虫が分泌する唾液中に含まれるアミノ酸組成物(VAAM;Vespa Amino Acid Mixture)が、経口投与により運動時の脂質及び糖質の代謝を調節すること、及び、(ii)VAAMを構成するアミノ酸組成が、運動による疲労で減少する血中アミノ酸と極めて高い相関を示すこと、などの知見に基き、上記(i)のVAAMを構成するアミノ酸組成に対して、上記(ii)の相関から大きく外れて疲労時に大きな減少率を示す特定のアミノ酸(具体的には、アラニン、バリン、ヒスチジン、グルタミン酸)を補うことによって、新規なアミノ酸組成物を得たものである。そして、この新規なアミノ酸組成物によれば、激しい運動に伴う血中アミノ酸の減少を補い、運動機能の向上と運動後の疲労軽減及び疲労回復効果を得ることができる。
また、上記の特許文献2に記載された発明は、市販の滋養強壮飲料に含まれるアスパラギン酸の用量が少ない(1回投与量が200mg以下)のに対して、アスパラギン酸の一日あたりの投与量を多量(1回投与量が2g以上)に定めることによって、肝臓のエネルギー代謝をいちはやく改善し、疲労回復の効果を得るものである。
さらに、上記の特許文献3に記載された発明は、コンピューター作業等による中枢神経系疲労(脳疲労)の回復や予防に特異的に寄与するという効果を有する。
【0004】
しかし、特許文献1?3等に記載された組成物以外のアミノ酸組成物についても、運動機能の向上等の効果が認められる可能性が残されている。
特に、サイクリング、ボート、マラソン、トライアスロン等の持久力を要する競技や、長時間に亘る肉体労働等において、持久力を向上させることのできる組成物(特に、経口摂取可能な液状組成物)を見出すことができれば、競技前または競技中等に摂取するための飲料等として有用性が高く、競技後半のスパート時等に効果を発揮しうると考えられる。
この点、従来のアミノ酸組成物は、特許文献1?3に記載されているように、持久力の向上等よりもむしろ、疲労回復を主目的とするものが多かった。
そこで、本発明は、サイクリング等の持久力を要する競技や長時間に亘る肉体労働等において、持久力を向上させることのできるアミノ酸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、牛乳等に含まれるタンパク質であるカゼインを構成するアミノ酸単位の組成と近似する組成を有するアミノ酸組成物によれば、持久力を要する競技や長時間に亘る肉体労働等において、持久力の向上の効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]?[3]を提供するものである。
[1]下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含み、かつ、人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のためのアミノ酸組成物。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部
[2]上記18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、0.5?20gの量になるように摂取するための上記[1]に記載のアミノ酸組成物。
[3]下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含むアミノ酸組成物を有効成分として含有する、1回当たり、0.5?20gの量になるように人間が経口摂取するための運動時の持久力向上剤。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部
【発明の効果】
【0006】
本発明のアミノ酸組成物によれば、サイクリング、ボート、マラソン、トライアスロン等の持久力を要する競技や、工場内の長時間に亘る肉体労働等において、通常の負荷の運動から、より高い負荷の運動に切り替わった場合等であっても、本発明のアミノ酸組成物を摂取しない場合と比べて作業量を増大させることができる。したがって、例えば、競技の後半のスパート時等において有意な効果を期待することができる。
このように、本発明のアミノ酸組成物によれば、運動時の持久力の向上の効果を得ることができる。特に、持久力を要する競技や、長時間の肉体労働等において、持久力の向上の効果を得ることができる。
したがって、本発明のアミノ酸組成物は、競技成績の向上を図るアスリートや、長時間の肉体労働を行なう者等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は持久力の向上等の試験(実施例1、比較例1?2)のタイムスケジュールを示すグラフである。
【図2】図2はマウス繊維芽細胞における脂肪酸遊離活性の程度を示すグラフである。
【図3】図3は1回目の遊泳時間の結果を示すグラフである。
【図4】図4は3週間に亘る遊泳時間の経時変化を示すグラフである。
【図5】図5は血中3-ヒドロキシ酪酸の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】図6はマウス抗疲労評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のアミノ酸組成物は、下記のアミノ酸を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含むものである。
アスパラギン酸(Asp)の質量割合は、3.0?10.0質量部、好ましくは4.0?9.0質量部、より好ましくは5.0?8.0質量部、特に好ましくは6.0?7.0質量部である。
トレオニン(Thr)の質量割合は、2.5?9.0質量部、好ましくは3.0?7.5質量部、より好ましくは3.5?5.5質量部、特に好ましくは3.8?4.8質量部である。
セリン(Ser)の質量割合は、2.0?9.5質量部、好ましくは3.0?8.0質量部、より好ましくは4.5?6.5質量部、特に好ましくは5.0?6.0質量部である。
グルタミン酸(Glu)の質量割合は、12.0?40.0質量部、好ましくは14.0?32.0質量部、より好ましくは16.0?25.0質量部、特に好ましくは18.0?23.0質量部である。
プロリン(Pro)の質量割合は、7.0?20.0質量部、好ましくは8.0?17.0質量部、より好ましくは9.0?13.0質量部、特に好ましくは9.5?11.5質量部である。
【0009】
グリシン(Gly)の質量割合は、0.5?4.5質量部、好ましくは0.8?3.5質量部、より好ましくは1.2?2.5質量部、特に好ましくは1.4?2.2質量部である。
アラニン(Ala)の質量割合は、1.0?4.5質量部、好ましくは1.5?4.0質量部、より好ましくは2.0?3.5質量部、特に好ましくは2.3?3.3質量部である。
バリン(Val)の質量割合は、3.0?12.0質量部、好ましくは4.0?10.0質量部、より好ましくは5.0?8.0質量部、特に好ましくは5.5?7.0質量部である。
シスチン(Cys)の質量割合は、0.1?0.8質量部、好ましくは0.1?0.6質量部、より好ましくは0.2?0.5質量部、特に好ましくは0.2?0.4質量部である。
メチオニン(Met)の質量割合は、1.5?5.0質量部、好ましくは1.8?4.0質量部、より好ましくは2.1?3.0質量部、特に好ましくは2.3?2.9質量部である。
イソロイシン(Ile)の質量割合は、2.0?8.0質量部、好ましくは3.0?7.0質量部、より好ましくは4.0?6.0質量部、特に好ましくは4.5?5.4質量部である。
【0010】
ロイシン(Leu)の質量割合は、5.0?15.0質量部、好ましくは6.0?12.0質量部、より好ましくは7.5?10.0質量部、特に好ましくは8.0?9.5質量部である。
チロシン(Tyr)の質量割合は、3.0?10.0質量部、好ましくは4.0?8.0質量部、より好ましくは4.5?6.5質量部、特に好ましくは4.8?5.8質量部である。
フェニルアラニン(Phe)の質量割合は、3.0?10.0質量部、好ましくは3.5?8.0質量部、より好ましくは4.0?6.0質量部、特に好ましくは4.2?5.5質量部である。
リシン(Lys)の質量割合は、4.0?15.0質量部、好ましくは5.0?11.0質量部、より好ましくは6.0?9.0質量部、特に好ましくは7.0?8.0質量部である。
トリプトファン(Trp)の質量割合は、0.8?4.0質量部、好ましくは1.0?3.0質量部、より好ましくは1.1?2.0質量部、特に好ましくは1.2?1.8質量部である。
ヒスチジン(His)の質量割合は、1.5?5.0質量部、好ましくは1.8?4.0質量部、より好ましくは2.1?3.2質量部、特に好ましくは2.3?3.0質量部である。
アルギニン(Arg)の質量割合は、2.0?6.0質量部、好ましくは2.5?5.0質量部、より好ましくは3.0?4.0質量部、特に好ましくは3.1?3.8質量部である。
なお、リシン、ヒスチジン、アルギニンの各配合量は、正電荷を有する状態におけるもの(例えば、リシンの場合、側鎖の末端が-NH_(3)^(+)であるもの)をいう。また、アスパラギン酸、グルタミン酸の各配合量は、負電荷を有する状態におけるもの(換言すれば、ナトリウム等のカチオンを含まないもの)をいう。
また、本発明で用いられるシスチンは、その一部または全部が還元されてシステインの形で存在してもよい。この場合、システインの配合量は、シスチンの質量に換算して、本発明で規定する「シスチンの配合量」の一部または全部を構成するものとする。
本発明で用いられるアミノ酸は、ナトリウム塩、塩酸塩等の塩類や、誘導体として存在することもできる。ただし、本発明で規定する「アミノ酸の配合量」には、上述のとおり、ナトリウム等のカチオンや塩化物イオン等の陰イオンの質量を含まないものとする。
【0011】
本発明で用いられるアミノ酸は、タンパク質を構成する型(L形;天然型)であることが好ましい。
本発明のアミノ酸組成物は、好ましくは、ペプチドを含まないものである。
本発明のアミノ酸組成物は、必要に応じて、ビタミンC、ビタミンB_(1)、ビタミンB_(2)、ビタミンB_(6)、砂糖、果糖、ショ糖、トレハロース、クエン酸、スクラロース、ペクチン、重曹(炭酸水素ナトリウム)、ステビア、香料、他のアミノ酸(例えば、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn))等を含むことができる。
本発明のアミノ酸組成物を調製する方法の一例として、市販の各種アミノ酸を前述の配合量で混合する方法が挙げられる。
本発明のアミノ酸組成物は、液状物(例えば、水溶液)、固形物(粉状物、顆粒物、錠剤(タブレット)、カプセル剤等)、半固形物(ゼリー等)のいずれの形態でも用いることができるが、摂取の容易性等の観点から、液状物または半固形物であることが望ましい。本発明のアミノ酸組成物は、液状物、固形物及び半固形物のいずれの場合でも、経口投与によって摂取される。
本発明において特に好ましい使用形態は、液状物及び半固形物である。この場合、摂取が容易で、しかも1日当たりの摂取量を好適な数値範囲内に調整し易いという利点がある。
本発明のアミノ酸組成物の摂取量は、本発明で規定する18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、好ましくは0.5?20g、より好ましくは1?15g、特に好ましくは3?10gである。該量が0.5g未満では、本発明の効果を十分に得ることができない。該量が20gを超えると、液状物の形態で摂取する場合においてアミノ酸を十分に溶解させるのに要する水分の量が過大となり、液状物全体の容量が大きくなるため、摂取しづらくなる等の問題が生じることがある。
本発明のアミノ酸組成物の1日当たりの摂取回数は、特に限定されないが、通常、1?5回である。
本発明のアミノ酸組成物は、医薬品、医薬部外品、清涼飲料水、炭酸飲料、食品(固形、半固形)等として摂取することができる。
【実施例】
【0012】
[アスリートによるin vivo(生体内)の実験(実施例1、比較例1?2)]
持久力を要求される競技(サイクリング、ボートまたはトライアスロン)のアスリート12名(男性6名、女性6名)を対象にして、発明のアミノ酸組成物、水及び香料を含む飲料(実施例1)、グルコース、水及び香料を含む飲料(比較例1)、水及び香料を含む飲料(比較例2)の各場合について、(a)全力運動時の運動量、(b)安定運動時の脂肪の総酸化量、(c)血漿中のグルカゴン濃度及び遊離脂肪酸濃度の変化、(d)血中の乳酸濃度の変化、を評価した。
【0013】
[A.飲料の調製]
(a)本発明の飲料(実施例1)の調製
下記の配合量のアミノ酸組成物(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)6g、香料1.7g、及び水を混合して、380gの飲料を調製した。


【0014】
(b)比較用飲料(比較例1)の調製
グルコース6g、香料1.7g、及び水を混合して、380gの飲料を調製した。
(c)比較用飲料(比較例2)の調製
香料1.7g、及び水を混合して、380gの飲料を調製した。
【0015】
[B.試験方法]
3ウェイ・ダブルブラインド・クロスオーバー法を用いて試験を行なった。すなわち、12名のアスリートの各人における前記の3種類の飲料(実施例1、比較例1?2)を用いた実験の順序を、(1)実施例1、比較例1、比較例2の順、(2)実施例1、比較例2、比較例1の順、(3)比較例1、実施例1、比較例2の順、(4)比較例1、比較例2、実施例1の順、(5)比較例2、実施例1、比較例1の順、(6)比較例2、比較例1、実施例1の順、の合計6通りの各々について2人ずつ振り分けて、試験を行なった。
試験のタイムスケジュールは、図1に示すとおりであった。図1中、絶食終了時点を基準時(0時間)として、24時間前から12時間前までの間に規定食及び運動制限を行ない、12時間前から0時間までの間に絶食し、絶食終了時点から30分経過後に飲料(実施例1、比較例1、比較例2のいずれかの飲料)を経口摂取した。飲料(図1中の「サンプル」)の摂取後、30分経過後に、最大酸素摂取量の65%の運動負荷(固定式のトレーニング用サイクリング機を使用)の下で85分間の運動(以下、安定運動という。)を行ない、安定運動の終了と同時に、5分間の全力運動(固定式のトレーニング用サイクリング機を使用)を行なった。
【0016】
[C.飲料の効果の評価]
(a)全力運動時の作業量
5分間の全力運動における作業量(12名の平均値)は、実施例1で86.1kJ、比較例1で83.3kJ、比較例2で83.6kJであった。
作業量の数値が大きいほど、持久力が優れていることを示す。
比較例1(83.3kJ)、比較例2(83.6kJ)の各々の数値に対して、実施例1は、86.1kJと有意(p<0.05)に高い値を示した。
作業量(持久力)の検定法は、対t検定(paired-t)によった。
(b)安定運動時の脂肪の総酸化量(体脂肪の燃焼量)
85分間の安定運動中における脂肪の総酸化量は、実施例1で56.7g、比較例1で49.3g、比較例2で45.9gであった。
脂肪の総酸化量の数値が大きいほど、解糖の抑制をもたらし、その結果、グリコーゲンが節約されることを示す。一般的に、グリコーゲンを節約し、体脂肪を効率的に燃焼することによって、疲労を感じずに長時間運動を続けることが可能である。
比較例1(49.3g)、比較例2(45.9g)の各々の数値に対して、実施例1は、56.7gと有意(p<0.01)に高い値を示した。
脂肪の総酸化量の検定法は、対t検定(paired-t)によった。
(c)血漿中のグルカゴン濃度及び遊離脂肪酸濃度の測定
血漿中のグルカゴン濃度、及び血漿中の遊離脂肪酸濃度についても測定したところ、飲料の摂取時から全力運動後までの実験期間に亘って、脂肪の総酸化量と同様に、濃度が高いものから順に、実施例1、比較例1、比較例2の順(特に、安定運動中)となる傾向が認められた。なお、グルカゴンは、ホルモン感受性リパーゼを活性化して、脂肪分解を促進し、遊離脂肪酸の放出量を増大させる働きを有する物質である。これらグルカゴン濃度及び遊離脂肪酸濃度の測定結果は、安定運動時の脂肪の総酸化量の測定結果と整合している。
血漿中のグルカゴン濃度及び遊離脂肪酸濃度の測定は、反復測定分散分析(repeated-ANOVA)によった。
【0017】
(d)全力運動時の血中の乳酸濃度の変化
5分間の全力運動後の乳酸値は、実施例1で9.8mmol/リットル、比較例1で8.8mmol/リットル、比較例2で8.0mmol/リットルであった。
なお、全力運動の直前(換言すれば安定運動後)の乳酸値は、実施例1で1.4mmol/リットル、比較例1で1.5mmol/リットル、比較例2で1.6mmol/リットルであった。
全力運動後の乳酸値の数値が大きいほど、安定運動中に蓄えられた糖質が全力運動時に消費されて乳酸に変化した量が大きいことを示す。つまり、全力運動後の乳酸値の数値が大きいほど、ラストスパートの全力運動時の運動量が大きいことを示し、このことにより持久力が向上していることを示す。
乳酸値の測定は、反復測定分散分析(repeated-ANOVA)によった。
以上の(a)全力運動時の運動量、(b)安定運動時の脂肪の総酸化量、(c)血漿中のグルカゴン濃度及び遊離脂肪酸濃度の変化、(d)全力運動時の血中の乳酸濃度の変化、の評価結果から、本発明のアミノ酸組成物を含む飲料(実施例1)を摂取すると、本発明に該当しない飲料(比較例1?2)を摂取する場合と比べて、有意に、持久力の向上の効果が得られることがわかる。
【0018】
以下の実施例2?7及び比較例3?13は、人間が経口摂取した実験例ではないが、本発明のアミノ酸組成物の効果を説明するための参考実施例及び参考比較例として記載したものである。
[in vitro(試験管内)の実験(実施例2、比較例3?5)]
本発明のアミノ酸組成物が、細胞内における脂肪粒の蓄積を阻害する活性(具体的には、前駆脂肪細胞の分化誘導を阻害する効果)を有するかについて、実験した。
この活性が大きいことは、細胞内で脂肪粒が蓄積され難く、抗肥満効果があることを示す。また、運動時のエネルギー源である糖質や脂質を利用し、運動の持久力を向上させ、かつ疲労を軽減させることを示す可能性もある。
[実験の原理]
実験の原理は次のとおりである。
マウス繊維芽細胞(3T3-L1細胞)は、デキサメタゾン(dexamethasone;DEX)、イソブチルメチルキサントン(isobutyl-methylxanthine;IBMX)及びインスリン(insulin)の存在下で、効率良く脂肪細胞に分化する。この際、脂肪細胞への分化誘導を阻害する活性を有する物質である「Wortmannin」を添加すると、脂肪細胞への分化が抑制されることが知られている。この抑制効果は、GPDH活性を測定することによって評価することができる。
GPDH活性とは、マウス繊維芽細胞(3T3-L1細胞)を脂肪細胞に分化させるための培養液1ミリリットル中に含まれるNADHが1分間に酸化される量1nmolを、1ユニット(unit)として定量されるものである。ユニットの数値が小さいほど、分化の抑制効果が大きく、細胞内で脂肪粒が蓄積され難いことを示す。
【0019】
[実施例2]
(a)培養液の調整
実施例1と同じ本発明のアミノ酸組成物を、D-MEM培地(血清を含む液状の培地)に1質量%の濃度となるように溶解して、培養液を得た。この際、超音波処理によって溶解性を高め、アミノ酸組成物のほぼ全量を溶解させた。
次いで、得られた培養液のpHを、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を用いて8.2に調整した。このpH調整済みの培養液に対して、ろ過滅菌を行い、評価用培養液とした。
(b)マウス繊維芽細胞(3T3-L1細胞)の脂肪細胞への分化誘導方法
マウス繊維芽細胞(3T3-L1細胞)を含む培養液を、トリプシン処理した後、4℃、1,000rpmの条件下で3分間、遠心分離を行なった。遠心分離で得られた固形物(培養細胞を含むもの)を、1ウェル当たりの細胞数が4.2×10^(4)個となるようにマルチ・ウェル・プレート(ウェル数:24)に分注し、検定用プレートとした。この検定用プレートを37℃、二酸化炭素濃度5%の雰囲気下で72時間、培養した後、各ウェル内に前記(a)で得た評価用培養液を供給し、37℃、二酸化炭素濃度5%の雰囲気下で30分間、静置した。次いで、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサントン及びインスリンを、各々の最終濃度が20μM、10μM、1.7μMとなるように、検定用プレートの各ウェル内に添加した。添加から48時間後、各ウェル内の液分(評価用培養液)を除去し、各ウェル内に新たな評価用培養液、及び、最終濃度が1.7μMとなる量のインスリンを供給した。その後、12日間培養した。以上の手順(各ウェル内の評価用培養液の交換、及び、インスリンの供給)を3日間隔で繰り返し行ない、合計で12日間培養した。
【0020】
(c)GPDH活性の測定方法
前記の(b)で得た培養液から、遠心分離によって液分を除去し、固形物を得た。この固形物を、氷冷したPBS(Phosphate Buffered Saline;リン酸緩衝液)2ミリリットルを用いて2回洗浄した。洗浄後の固形物(細胞)に、トリス緩衝液(50mMのTris-HCl(pH7.5)と1mMのEDTAと1mMのβ-メルカプトエタノールの混合液)600マイクロリットルを加えた後、セル・スクレーバーを用いて固形物(細胞)を剥離して細胞懸濁液とし、次いで、この細胞懸濁液を1.5ミリリットルのプラスチックチューブ内に収容した。
この細胞懸濁液に対して超音波処理を行ない、細胞膜を破壊した後、15,000rpmで15分間遠心分離を行ない、得られた液分(液温:4℃)を細胞抽出液とした。
Bradford色素結合法によって細胞抽出液に含まれているタンパク質の定量を行なった後、前記と同じトリス緩衝液を用いて、液中のタンパク質の濃度を一定(21μg/アッセイ)にした。
【0021】
このようにタンパク質の濃度を一定にした細胞抽出液に対して、GPDH活性測定を行なった。GPDH活性測定の方法は、まず、細胞抽出液に、氷冷した反応液(100mMのトリエタノールアミン-塩酸(pH7.5)と0.12mMのNADHと0.1mMのβ-メルカプトエタノールの混合液)を加え、全量を950マイクロリットルとした。この液を25℃で5分間静置した後、反応開始液(4mMのジヒドロキシアセトンホスフェート)50マイクロリットルを添加し、全量を1ミリリットルとした。得られた液について、25℃の温度下に、340nmの波長の光に対する1分間の吸光度の変化量を測定した。
なお、GPDH活性は、1分間に1nmolのNADHを酸化する酵素量を1ユニットとして示した。
測定結果は、3ユニットであった。
【0022】
[比較例3]
実施例2のアミノ酸組成物に代えて、バリン、ロイシン、イソロイシンの各分岐鎖アミノ酸を質量比で1:2:1に混合してなるアミノ酸組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、評価用培養液を得た。この評価用培養液を用いて、実施例2と同様にしてGPDH活性を測定した。
測定結果は、168ユニットであった。
[比較例4]
脂肪細胞分化誘導阻害物質である「Wortmannin」を、D-MEM培地に10μMの濃度となるように溶解して、培養液を得たこと以外は、実施例2と同様にして、評価用培養液を得た。この評価用培養液を用いて、実施例2と同様にしてGPDH活性を測定した。
測定結果は、47ユニットであった。
[比較例5]
D-MEM培地に他の物質を添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、評価用培養液を得た。この評価用培養液を用いて、実施例2と同様にしてGPDH活性を測定した。
測定結果は、370ユニットであった。
【0023】
実施例2(本発明のアミノ酸組成物)と比較例3(本発明に該当しないアミノ酸組成物)を比較すると、使用量が同量(D-MEM培地に1質量%の濃度)であるにもかかわらず、脂肪細胞への分化の抑制効果の指標であるGPDH活性の値が、実施例2では3ユニットと優れている一方、比較例3では168ユニットと劣っており、両者間に効果の点で大きな差があることがわかる。なお、アミノ酸組成物を添加しない比較例5におけるGPDH活性の値は、上述のとおり、370ユニットである。
また、実施例2(本発明のアミノ酸組成物)と比較例4(Wortmannin)を比較すると、脂肪細胞への分化の抑制効果があることが知られている「Wortmannin」(47ユニット)よりも、本発明のアミノ酸組成物(3ユニット)のほうが、脂肪細胞への分化の抑制効果が大きいことがわかる。
【0024】
[マウス繊維芽細胞における脂肪酸遊離活性の評価実験(実施例3?5、比較例6?10)]
12wellマルチウェルプレートにおいて、既報に従い、マウス繊維芽細胞(3T3-L1細胞)から脂肪細胞への分化誘導を行なった。約2週間に亘る脂肪細胞への分化誘導処理の後、顕微鏡下において、各ウェルにおける分化誘導活性に大きな差がないことを確認した。
[実施例3]
培養液を除去した後、本発明のアミノ酸組成物(実施例1と同じもの;本明細書において「本アミノ酸組成物」ともいう。)を0.2質量%の含有率で含むリン酸緩衝液(PBS溶液)を、各ウェルに500マイクロリットル(μL)ずつ添加した。4時間後、PBS溶液5μLを回収して、96wellマルチウェルプレートに移した。96wellマルチウェルプレート上で、遊離脂肪酸測定用のNEFA C-テストワコーを用いて、遊離脂肪酸の量を測定した。
遊離脂肪酸の量の測定の原理は、次のとおりである。遊離脂肪酸にアシルCoAシンセターゼ(ACS)が作用すると、アシルCoAが生成する。生成したアシルCoAと、アシルCoAオキシダーゼ(ACOD)の反応で生じる過酸化水素により、3-メチル-N-エチル-N-(β-ヒドロキシエチル)-アニリン(MEHA)と4-アミノアンチピリンとの酸化縮合が生じ、青紫色色素が生成する。この青紫色色素の吸光度を測定すれば、遊離脂肪酸の量の大きさを知ることができる。遊離脂肪酸の量が大きいことは、脂肪の分解の程度が大きく、マウスの体内に脂肪が蓄積され難いことを示す。
前記と同様の実験を3回行い、その平均値及び標準偏差を算出した。
吸光度の平均値は0.083、標準偏差は0.044であった。
なお、吸光度0.086は、オレイン酸0.25mEq/リットルに相当する。
【0025】
[実施例4]
アミノ酸組成物の濃度を0.04質量%に定めたこと以外は実施例3と同様にして実験した。
実施例4における吸光度の平均値は0.046、標準偏差は0.037であった。
[実施例5]
アミノ酸組成物の濃度を0.008質量%に定めたこと以外は実施例3と同様にして実験した。
実施例5における吸光度の平均値は0.049、標準偏差は0.025であった。
[比較例6]
本発明のアミノ酸組成物の代わりに、バリン、ロイシン、イソロイシンの各分岐鎖アミノ酸を質量比で1:2:1の割合で混合してなるアミノ酸組成物(本明細書において「BCAA」ともいう。)を用いたこと以外は実施例3と同様にして実験した。
吸光度の平均値は0.082、標準偏差は0.003であった。
[比較例7]
アミノ酸組成物の濃度を0.04質量%に定めたこと以外は比較例6と同様にして実験した。
比較例7における吸光度の平均値は0.048、標準偏差は0.022であった。
[比較例8]
アミノ酸組成物の濃度を0.008質量%に定めたこと以外は比較例6と同様にして実験した。
比較例8における吸光度の平均値は0.038、標準偏差は0.013であった。
[比較例9]
本発明のアミノ酸組成物を含むPBS溶液の代わりに、1μMのdl-イソプロテレノール(isoproterenol)を含むPBS溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして実験した。なお、dl-イソプロテレノールは、脂肪酸遊離活性を示すことが知られている既知の化合物である。
吸光度の平均値は0.041、標準偏差は0.004であった。
[比較例10]
対照実験として、本発明のアミノ酸組成物を含むPBS溶液の代わりに、PBS溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして実験した。
吸光度の平均値は0.024、標準偏差は0.022であった。
【0026】
以上の結果(平均値、標準偏差)を図2に示す。
図2から、本発明のアミノ酸組成物は、PBS溶液中に0.2質量%及び0.04質量%の濃度で含まれる場合(実施例3、4)に、BCAAと同程度の脂肪酸遊離活性を示すことがわかる。また、本発明のアミノ酸組成物は、PBS溶液中に0.008質量%の濃度で含まれる場合(実施例5)に、同濃度のBCAAに比べて、より高い脂肪酸遊離活性を示すことがわかる。
【0027】
[アミノ酸組成物の継続投与がマウスの遊泳時間に与える影響の評価実験(実施例6、比較例11?12)]
4週令のddY雄マウス30匹を1週間、馴化した後、各個体の遊泳時間(遊泳開始時から遊泳可能な限界の時までの長さ)を調べ、遊泳時間の平均値が各群間で同等になるように、10匹ずつ、3つの群に分けた。
[実施例6]
前記の群分けの1週間後に、実施例1と同じアミノ酸組成物を含む生理食塩水(saline)を、マウスの体重1kg当たりのアミノ酸組成物の投与量が500mgとなるように、マウスに経口投与し、投与から1日後に、マウスの遊泳時間(1回目)を測定した。マウスの遊泳時間は、マウスの尻尾に体重の5質量%の錘を取り付けた場合における、遊泳開始時から遊泳可能な限界の時(溺れる時)までの時間である。
その結果、遊泳時間(10匹の平均値;以下、同様である。)は19.1分間、標準誤差は0.85分間であった。
その後、毎日1回、前記と同量のアミノ酸組成物を6週間連続して経口投与するとともに、前記の1回目の遊泳の1週間後、2週間後、3週間後の各時点で、前記の1回目の遊泳と同様の遊泳を行い、遊泳時間を測定した。なお、遊泳時間を測定する日におけるアミノ酸組成物の経口投与は、遊泳開始30分前に行なった。また、実験期間中、通常の固形食は自由に摂取させた。
その結果、1週間後において、遊泳時間は22.3分間、標準誤差は2.50分間であり、2週間後において、遊泳時間は26.7分間、標準誤差は3.41分間であり、3週間後において、遊泳時間は26.1分間、標準誤差は2.77分間であった。
さらに、6週間後において、アミノ酸組成物の経口投与から30分後に、マウスの尻尾に体重の4.5質量%の錘を取り付けて、15分間遊泳させた。この際、経口投与の直前、遊泳直前(経口投与から30分後)、遊泳終了直後、の各時点における血中3-ヒドロキシ酪酸の量を測定した。血中3-ヒドロキシ酪酸の量が大きいことは、脂肪の分解量が大きく、マウスに脂肪が蓄積され難いことを示す。
その結果、血中3-ヒドロキシ酪酸の量は、経口投与の直前で31.2μmol/リットル(標準誤差:1.61μmol/リットル)、遊泳直前で33.2μmol/リットル(標準誤差:0.98μmol/リットル)、遊泳終了直後で37.5μmol/リットル(標準誤差:1.83μmol/リットル)であった。
【0028】
[比較例11]
実施例6で用いたアミノ酸組成物に代えて、バリン、ロイシン、イソロイシンを質量比で1:2:1の割合で混合してなるアミノ酸組成物(BCAA)を用いたこと以外は実施例6と同様にして実験した。
その結果、1回目の遊泳において、遊泳時間は16.0分間(標準誤差:1.03分間)であり、1週間後において、遊泳時間は16.0分間(標準誤差:2.15分間)であり、2週間後において、遊泳時間は18.3分間(標準誤差:2.65分間)であり、3週間後において、遊泳時間は19.6分間(標準誤差:2.74分間)であった。
また、血中3-ヒドロキシ酪酸の量は、経口投与の直前で33.3μmol/リットル(標準誤差:2.49μmol/リットル)、遊泳直前で33.7μmol/リットル(標準誤差:1.84μmol/リットル)、遊泳終了直後で37.6μmol/リットル(標準誤差:1.66μmol/リットル)であった。
【0029】
[比較例12]
実施例6で用いたアミノ酸組成物を用いないこと以外は実施例6と同様にして実験した。
その結果、1回目の遊泳において、遊泳時間は15.4分間(標準誤差:1.31分間)であり、1週間後において、遊泳時間は13.1分間(標準誤差:1.62分間)であり、2週間後において、遊泳時間は15.1分間(標準誤差:1.54分間)であり、3週間後において、遊泳時間は15.5分間(標準誤差:1.24分間)であった。
また、血中3-ヒドロキシ酪酸の量は、経口投与の直前で27.9μmol/リットル(標準誤差:1.25μmol/リットル)、遊泳直前で26.9μmol/リットル(標準誤差:1.79μmol/リットル)、遊泳終了直後で31.9μmol/リットル(標準誤差:1.53μmol/リットル)であった。
【0030】
以上の結果のうち、1回目の遊泳時間の結果(平均値、標準誤差)を図3に示す。図3から、本発明のアミノ酸組成物(実施例6)を用いた場合には、BCAAを用いた場合(比較例11)及び対照群(control)の場合(比較例12)よりも、遊泳時間が長いことがわかる。
3週間に亘る遊泳時間(平均値、標準誤差)の経時変化を図4に示す。図4から、本発明のアミノ酸組成物を用いた場合(実施例6)を用いた場合には、BCAAを用いた場合(比較例11)及び対照群(control)の場合(比較例12)よりも、各時点において遊泳時間が長いことがわかる。
血中3-ヒドロキシ酪酸の濃度(平均値、標準誤差)の経時変化を図5に示す。図5から、本発明のアミノ酸組成物を用いた場合(実施例6)には、各時点において、対照群(control)の場合(比較例12)よりも大きく、かつBCAAを用いた場合(比較例11)とほぼ同等の血中3-ヒドロキシ酪酸の濃度を得ていることがわかる。
なお、実験期間中、前記の実施例及び比較例で使用したマウス群において、体重の有意な差は認められなかった。
【0031】
[マウス抗疲労評価試験;実施例7、比較例13]
[実施例7]
実施例1と同じアミノ酸組成物を含む生理食塩水を、マウスの体重1kg当たりのアミノ酸組成物の投与量が500mgとなるように、マウスに経口投与し、3時間強制歩行させた後、暗室内にマウスを15分間静置した。その後、1回目と同量のアミノ酸組成物の経口投与(2回目)を行い、90分間に亘り、15分毎に自発運動量を自動的にカウントし、抗疲労効果を評価した。
なお、自発運動量のカウントは、具体的には、室町機械社製の「スーパーメックス」(製品名)を用いて行なった。
一方、3時間の強制歩行を行なわないこと以外は前記と同様に実験した例(無歩行の場合)についても、抗疲労効果を評価した。
なお、強制歩行させたマウスの数は20匹であり、無歩行のマウスの数は18匹であった。
その結果、強制歩行させたマウスにおける自発運動量のカウント数は、平均値で149(標準誤差:33.4)であった。無歩行のマウスにおける自発運動量のカウント数は、平均値で182(標準誤差:42.8)であった。
無歩行の場合のカウント数(182)と、強制歩行の場合のカウント数(149)の差は、33であった。
【0032】
[比較例13]
対照例(control)として、アミノ酸組成物を用いないこと以外は実施例7と同様にして実験を行なった。
なお、強制歩行させたマウスの数は20匹であり、無歩行のマウスの数は28匹であった。
その結果、強制歩行させたマウスにおける自発運動量のカウント数は、平均値で74(標準誤差:13.9)であった。無歩行のマウスにおける自発運動量のカウント数は、平均値で241(標準誤差:25.9)であった。
無歩行の場合のカウント数(241)と、強制歩行の場合のカウント数(74)の差は、167であった。
以上の結果を図6に示す。図6中、無歩行の場合を「no run」、強制歩行した場合を「run」として表示している。図6から、生理食塩水を用いた場合(比較例13)には、無歩行の場合に比べて強制歩行の場合の自発運動量の低下の幅が大きく、強制歩行によってマウスに蓄積された疲労が大きいことが認められるのに対し、本発明のアミノ酸組成物を用いた場合(実施例7)には、無歩行の場合に比べて強制歩行の場合の自発運動量の低下の幅が小さく、強制歩行によってマウスに蓄積された疲労が小さいことがわかる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含み、かつ、人間が経口摂取するためのものであることを特徴とする運動時の持久力の向上のためのアミノ酸組成物。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部
【請求項2】
上記18種類のアミノ酸の合計量の質量として、1回当たり、0.5?20gの量になるように摂取するための請求項1に記載のアミノ酸組成物。
【請求項3】
下記のアミノ酸(ただし、アミノ酸同士が結合したものを除く。)を下記の配合量(ただし、下記の18種類のアミノ酸の合計量を100質量部とする。)で含むアミノ酸組成物を有効成分として含有する、1回当たり、0.5?20gの量になるように人間が経口摂取するための運動時の持久力向上剤。
アスパラギン酸 3.0?10.0質量部
トレオニン 2.5? 9.0質量部
セリン 2.0? 9.5質量部
グルタミン酸 12.0?40.0質量部
プロリン 7.0?20.0質量部
グリシン 0.5? 4.5質量部
アラニン 1.0? 4.5質量部
バリン 3.0?12.0質量部
シスチン 0.1? 0.8質量部
メチオニン 1.5? 5.0質量部
イソロイシン 2.0? 8.0質量部
ロイシン 5.0?15.0質量部
チロシン 3.0?10.0質量部
フェニルアラニン 3.0?10.0質量部
リシン 4.0?15.0質量部
トリプトファン 0.8? 4.0質量部
ヒスチジン 1.5? 5.0質量部
アルギニン 2.0? 6.0質量部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-01 
出願番号 特願2009-501227(P2009-501227)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 山本 吾一
穴吹 智子
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5812565号(P5812565)
権利者 株式会社明治
発明の名称 アミノ酸組成物  
代理人 衡田 直行  
代理人 衡田 直行  

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