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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23D
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
審判 全部申し立て 特126 条1 項  A23D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23D
管理番号 1324817
異議申立番号 異議2015-700148  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-06 
確定日 2016-12-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5713122号発明「油脂組成物及びチョコレート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5713122号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第5713122号の請求項4、9?11に係る特許を維持する。 特許第5713122号の請求項1?3、5?8に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5713122号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年3月27日(優先権主張 平成24年3月30日)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人日清オイリオグループ株式会社により特許異議の申立てがされ、平成28年1月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年3月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年6月16日付けで意見書が提出され、平成28年8月25日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成28年9月29日に意見書の提出及び訂正の請求があったものである。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成28年9月29日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?11について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1?3、5?8を削除する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項4に
「【請求項4】
前記油脂(A)が、構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂である請求項1?3の何れか1項に記載の油脂組成物。」
(なお、訂正前の請求項1?3は、以下のとおり。
【請求項1】
油脂組成物中のSOS型トリグリセリドの含量が80重量%以上、StOStの含量が35重量%以上、POPの含量が10重量%以上、StLSt/StOStの比率が0.08以下、PLP/POPの比率が0.10以下及びStStO/StOStの比率が0.03以下であることを特徴とする油脂組成物であって、前記油脂組成物が下記油脂(A)を30?80重量%含有し、さらに下記油脂(B)を20?70重量%含有し、油脂(A)と油脂(B)を合計で70%以上含有する油脂組成物。
油脂(A):StOStを70重量%以上含有し、かつ構成脂肪酸中アラキジン酸が5重量%以下である油脂
油脂(B):POPを60重量%以上含有する油脂
但し、SはC16?C22の飽和脂肪酸,Stはステアリン酸,Pはパルミチン酸,Lはリノール酸,Oはオレイン酸をそれぞれ示す。またSOS;1位及び3位の脂肪酸がSであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StOSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StLSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリド、StStO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がStであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、POP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、PLP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリドをそれぞれ示す。
【請求項2】
PPO/POPの比率が0.10以下である請求項1に記載の油脂組成物。但し、PPO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がPであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリドを示す。
【請求項3】
SSSが3重量%以下である請求項1又は2に記載の油脂組成物。但し、SSS;1,2,3位すべての脂肪酸がSであるトリグリセリドを示す。)
とあるのを、
「【請求項4】
構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(A)として含み、パーム油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(B)として含む油脂組成物の製造法であって、油脂組成物中のSOS型トリグリセリドの含量が80重量%以上、StOStの含量が35?60重量%、POPの含量が10重量%以上、StLSt/StOStの比率が0.08以下、PLP/POPの比率が0.10以下、StStO/StOStの比率が0.03以下、PPO/POPの比率が0.10以下及びSSSの含量が3重量%以下であることを特徴とする油脂組成物の製造法であって、前記油脂組成物が下記油脂(A)を30?80重量%含有し、さらに下記油脂(B)を20?70重量%含有し、油脂(A)と油脂(B)を合計で70%以上含有する油脂組成物の製造法。
油脂(A):StOStを70?83.6重量%含有し、かつ構成脂肪酸中アラキジン酸が1.3重量%以下である油脂
油脂(B):POPを60重量%以上含有する油脂
但し、SはC16?C22の飽和脂肪酸,Stはステアリン酸,Pはパルミチン酸,Lはリノール酸,Oはオレイン酸をそれぞれ示す。またSOS;1位及び3位の脂肪酸がSであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StOSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StLSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリド、StStO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がStであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、POP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、PLP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリド,PPO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がPであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリドをそれぞれ示す。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
新たな請求項として
「【請求項9】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのチョコレートの製造法。
【請求項10】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのカカオバター代用脂の製造法。
【請求項11】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用するチョコレート製造におけるエージング時間の短縮方法。」
を追加する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
請求項1?3、5?8を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項3を更に引用する請求項4を独立形式に改めた上で(以下「訂正事項2-1」という。)、油脂組成物について、StOStの含量の範囲を「35重量%以上」から「35?60重量%」へと狭め、油脂(A)について、StOStの割合を「70重量%以上」から「70?83.6重量%」へと狭めるとともに、アラキジン酸の割合を「5重量%以下」から「1.3重量%以下」へと狭め、油脂(B)が、「パーム油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂」であることの限定を付加し(以下「訂正事項2-2」という。)、さらに、「油脂組成物」の発明を「油脂組成物の製造法」の発明に訂正するものである(以下「訂正事項2-3」という。)。
訂正事項2-1は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
訂正事項2-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書の段落【0014】に「StOSt含有量が60重量%を超えないことが好ましい。」と記載され、訂正前の請求項5に「【請求項5】前記油脂(B)がパーム油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中
融点部油脂である請求項1?4の何れか1項に記載の油脂組成物。」とそれぞれ記載され、明細書に記載された実施例1(【0041】表1)に配合された油脂(A)が、StOSt=83.6%、アラキジン酸含量=1.3%であるStOSt含有脂Aである(【0034】、【0036】)ことから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
訂正事項2-3は、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されていたため発明が明確でないおそれがあったところを、発明を明確にすべく物の製造方法の発明に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。
そして、訂正前の請求項4に係る発明と訂正後の請求項4に係る発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前の請求項4は、油脂(A)が「構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる」高融点部又は中融点部油脂であること、すなわち、油脂(A)の製造工程を技術的特徴とする発明であるから、同工程を含む製造方法の発明と技術的特徴が実質的に相違しないのであって、訂正前の請求項4に係る発明と訂正後の請求項4に係る発明における課題解決手段も、訂正事項2により実質的な変更はない。また、訂正後の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項4に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはない。よって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項6?8に
「【請求項6】
請求項1?5の何れか1項に記載の油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのチョコレート。
【請求項7】
請求項1?5の何れか1項に記載の油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのカカオバター代用脂。
【請求項8】
請求項1?5の何れか1項に記載の油脂組成物を使用するチョコレート製造におけるエージング時間の短縮方法。」
とあるうち請求項4を引用するものをそれぞれ新たな請求項9?11とし、請求項4を「油脂組成物の製造法」の発明に訂正したことに伴い、請求項9及び10も「製造法」の発明としたものである。そして、請求項4と請求項1の引用関係が解消されたことにより、請求項9?11と請求項1の引用関係も解消されている。よって、訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2について検討したのと同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 請求項1?3、5?8に係る発明について
請求項1?3、5?8は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1?3、5?8に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、請求項1?3、5?8に係る特許についての申立ては却下すべきものである。

2 請求項4、9?11に係る発明について
(1)本件発明
本件訂正により訂正された請求項4、9?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明4、9?11」という。)は、上記第2「1 訂正の内容」の(2)、(3)に示した訂正後の請求項4、9?11に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項4の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張する。
また、特許異議申立人は、下記刊行物を提出し、訂正前の請求項4、9?11に係る発明は、(a)甲第1号証に記載された発明であるか、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、(b)甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、(c)甲第4号証に記載された発明であるか、同発明及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであると主張する。
[刊行物]
甲第1号証:米国特許出願公開第2011/0262592号明細書
甲第2号証:国際公開第2011/138034号
甲第4号証:国際公開第2009/031679号の再公表公報
甲第5号証:特開平11-169191号公報

(3)特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第2号について
特許異議申立人は、本件特許明細書に、StOSt含有量が60重量%を超えることや、PPO/POPの比率が0.10より大きいことが好ましくない旨記載されていることを踏まえると、訂正前の請求項4に係る発明は、所望の効果を奏さないものを含み、当業者が実施できないことから、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし、訂正により、StOStの含量の上限が60重量%とされ、PPO/POPの比率が0.10以下とされたから、上記不備は解消した。
また、特許異議申立人は、訂正前の請求項1に、StOSt及びPOPの含量の上限が規定されていないから発明が明確でなく、訂正前の請求項4に係る発明は物の発明であるのに、その物の製造方法が記載されているため発明が明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし、StOSt及びPOPの含量の上限が規定されていないこと自体は、何ら発明を不明確にするものではないし、訂正により、請求項4は製造法の発明とされたから、訂正後の請求項4に係る発明は明確である。
したがって、上記特許異議申立人の主張は理由がない。

(4)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
ア 甲第1号証に基づく新規性及び進歩性
(ア)甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある(当審訳を示す。但し、特許異議申立人の訳を参考にした。)。

「[0027] 本発明の目的は、酵素エステル交換によって得られる、脂肪酸含量が低く、トリグリセリド組成におけるSOS含量が85%以上のハードバター及びその製造法を提供することである。」

「[0030] 特に、本発明は以下のステップを有するSOS含有量が85%以上のハードバターの製造方法に関する。
[0031] (a)ハードバターを調製するために油と、脂肪酸又は脂肪酸エステルを混合する。
[0032] (b)ステップ(a)で得られた混合物にエステル交換反応を行うための1、3位置特異性酵素を添加する。
[0033] (c)反応から生成した脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリドを取り除くため、ステップ(b)で得られた反応物を蒸留する。
[0034] (d)固形脂部分を分けるために、ステップ(b)で得られた反応物を分別する。」

「実験例5 トリグリセリド組成の分析
・・・



以上によれば、甲第1号証には、表11に示される「本発明のココアバター代用脂」の製造法について、次の発明が記載されていると認められる。なお、甲第1号証では、ステアリン酸を「S」と表記しているが、以下、本件特許明細書に合わせて「St」と表記する。
「StOOが1.0%、POPが48.4%、POStが12.1%、StOStが38.7%であるココアバター代用脂の製造法。」(以下「甲1発明」という。)

(イ)対比・判断
本件発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも、本件発明4は「構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(A)として含み」「油脂(A):StOStを70?83.6重量%含有し、かつ構成脂肪酸中アラキジン酸が1.3重量%以下である油脂」と特定されているのに対し、甲1発明はこのように特定されていない点で相違する。
そして、甲第1号証には、StOSt含有量が85%以上のハードバターの製造方法として、(a)油と、脂肪酸又は脂肪酸エステルを混合し、(b)エステル交換反応を行うための1、3位置特異性酵素を添加し、(c)反応物を蒸留して、生成した脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリドを取り除き、(d)固形脂部分を分けるために反応物を分別することが記載されている([0030]?[0034])ものの、該方法はStOSt含有量が85%以上のハードバターの製造方法であるから、StOStを70?83.6重量%含有する油脂(A)の製造方法として、上記甲第1号証に記載された製造方法を採用する動機付けは認められない。
よって、上記相違点に係る本件発明4の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

また、本件発明9?11は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当するから、本件発明9?11も、本件発明4と同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、同発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 甲第2号証に基づく進歩性
(ア)甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の記載がある(当審訳を示す。但し、特許異議申立人の訳を参考にした。)。

「以下から構成される脂肪混合物:(i)第1の脂肪は、25℃での固体脂含量が少なくとも75%で、SOS及びSSO脂を合計86重量%以上含有する。ここで、Sは炭素数16?18の飽和脂肪酸で、Oはオレイン酸である。そして、(ii)第2の脂肪は、SOSを75重量%以上及びStOStを70重量%以上含有する。この脂肪混合物は、20℃での固体脂含量が80%以上で、35℃での固体脂含量が5%以上である。この脂肪混合物は、ココアバター代用脂として有用である。」(Abstract)

「第2の脂肪のシアステアリンの代わりに、酵素的に製造されたStOStでもよく、酵素的に製造されたStOStは、グリセライドの1、3位の選択性があるリパーゼの存在下で、2位にオレイルグループを有するトリグリセライドとステアリン酸又はステアリンエステルを選択的反応することによって製造されてもよい。」(5頁1行?6行)

「例1
本発明による脂肪混合物は、シアステアリン40%と、アセトンによる湿式分別によりパーム油から得られたパーム油中融点画分60%とを混合することで調製される。製品、及び出発原料を以下の通り分析した。」(6頁15行?18行)



」(7頁)

「クレーム
1.以下から構成される脂肪混合物:(i)第1の脂肪は、25℃での固体脂含量が少なくとも75%で、SOS及びSSO脂を合計86重量%以上含有する。ここで、Sは炭素数16?18の飽和脂肪酸で、Oはオレイン酸である。
(ii)第2の脂肪は、SOSを75重量%以上及びStOStを70重量%以上含有する。
・・・
8.第1の脂肪を50?70重量%、及び第2の脂肪を50?30重量%含有する前項のいずれか1つの請求項の脂肪混合物。
・・・
14.ココアバター代替脂としての請求項1?12のいずれか1つの脂肪混合物の用途。
15.ココア固形分、砂糖、乳製品、乳化剤から選ばれる1種又は2種以上の成分と一緒に、請求項1?12のいずれか1つの請求項の脂肪混合物を含むチョコレート、又はチョコレート類似組成物。」(9頁1行?10頁14行)

以上によれば、甲第2号証には、第1の脂肪としてパーム油中融点画分60%と、第2の脂肪としてシアステアリン40%を混合して調製した「例1」の製品が記載されており、また、第1の脂肪50%と第2の脂肪50%を混合した脂肪混合物とすることの記載もある。そうすると、甲第2号証には、上記パーム油中融点画分50%と上記シアステアリン50%を混合して調製した脂肪混合物の製造法である、次の発明が記載されていると認められる。なお、上記脂肪混合物のトリグリセリド組成は、例1の表に示された原料のトリグリセリド組成から算出した。
「SOS型トリグリセリド:85.3%、StOSt:37.8%、POP:38.1%、StLSt:2.9%、PLP:1.6%、StStO:0%、PPO:0%、PPP:1.7%、PPSt:0.4%、PStSt:0.2%、StStSt:0.8%を含む脂肪混合物であって、
前記脂肪混合物がシアステアリン50%とパーム油中融点画分50%を含有し、シアステアリンはStOSt:73%、AStSt:0.1%、AOSt:3.3%、AOO:0.2%、ALSt:0.2%を含み、パーム油中融点画分はPOP:74.8%を含む、脂肪混合物の製造法。」(以下「甲2発明」という。)

(イ)対比・判断
本件発明4と甲2発明とを対比すると、本件発明4は「構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(A)として含み」「油脂(A):StOStを70?83.6重量%含有し、かつ構成脂肪酸中アラキジン酸が1.3重量%以下である油脂」と特定されているのに対し、甲2発明は油脂(A)に相当するのがシアステアリンである点で相違する。
そして、甲第2号証には、第2の脂肪のシアステアリンの代わりに、酵素的に製造されたStOStでもよい旨が記載されている(5頁1?6行)ものの、甲2発明のシアステアリンを酵素的に製造されたStOStに変更すると、トリグリセリド組成も変更されることになるから、本件発明4の構成が得られるとはいえない。
よって、上記相違点に係る本件発明4の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、本件発明9?11は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当するから、本件発明9?11も、本件発明4と同様に、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲第4号証に基づく新規性及び進歩性
(ア)甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の記載がある。

「【0039】
実施例4
ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)1200gに、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)1800gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物8(2987g)を得た。得られた反応物8(2900g)を薄膜蒸留を行い、蒸留温度140℃にて反応物より脂肪酸エチルエステルを除去し、蒸留残渣8(1100g)を得た。得られた蒸留残渣8(1000g)にヘキサン2000gを加え溶解した後、-10℃に冷却して得られた固形部をろ別した後、定法によりヘキサン除去及び精製を行い、ハードバター1(450g)を得た。
【0040】
表4 TAG組成

注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。
XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。
P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) 」

「【0050】
実施例8
上記ハードバター(実施例4ハードバター1)を用い、表11の配合にてチョコレートの試作と評価を行った。製造時の粘度や型抜けなどに特に問題はなかった。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後にスナップ性、艶、口溶けの評価を行った。その結果、ハードバター1を用いたチョコレート1は、口どけが良くかつスナップ性に優れており、代用脂を使用しない対照チョコレート1と同等の品質であった。
【0051】
表11 チョコレートの配合(質量%)



以上によれば、甲第4号証には、表11に記載されたチョコレート1の製造法に関する次の発明が記載されていると認められる。なお、甲第4号証の「S」は、ステアリン酸を意味しているので、以下、本件特許明細書に合わせて「St」と表記する。
「POStを5.6%、St_(2)Oを82.6%、StO_(2)を8.6%、St_(2)Lを3.2%を含むハードバター(但し、XOX/(XXO+OXX)は99/1)を7.5%、パーム油中融点画分を7.5%含むチョコレートの製造法。」(以下「甲4発明」という。)

(イ)対比・判断
甲4発明のハードバター7.5%とパーム油中融点画分7.5%との混合物は「油脂組成物」といえるが、パーム油中融点画分のトリグリセリド組成が開示されていないため、該「油脂組成物」のトリグリセリド組成は明らかでない。
そうすると、油脂組成物について、本件発明4は「油脂組成物中のSOS型トリグリセリドの含量が80重量%以上、StOStの含量が35?60重量%、POPの含量が10重量%以上、StLSt/StOStの比率が0.08以下、PLP/POPの比率が0.10以下、StStO/StOStの比率が0.03以下、PPO/POPの比率が0.10以下及びSSSの含量が3重量%以下である」と特定されているのに対し、甲4発明はトリグリセリド組成が明らかでない点で相違する。
そして、甲第4号証には、油脂組成物のトリグリセリド組成を上記のように設定するとの技術思想は開示されていないから、上記相違点は当業者が容易に想到し得たとはいえない。
なお、甲第5号証には、グリセリド組成が、POP=60.7、PPO=9.1の「PMF(IV=34)」、及び、POP=71.7、PPO=1.4の「分別品」が記載されている(【0009】表1)が、甲4発明のパーム油中融点画分として上記「PMF(IV=34)」を用いても、PPO/POPの比率が0.10以下にならないし、また、甲4発明のパーム油中融点画分を上記「分別品」に変更する動機付けは認められない。
よって、本件発明4は、甲第4号証に記載された発明ではなく、同発明及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

また、本件発明9?11は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当するから、本件発明9?11も、本件発明4と同様に、甲第4号証に記載された発明ではなく、同発明及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第4 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項4、9?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項4、9?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1?3、5?8は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1?3、5?8に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
構成脂肪酸中オレイン酸を80重量%以上含む高オレイン酸含有植物油とステアリン酸又はステアリン酸アルコールエステルを、1,3-位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させ、得られたエステル交換油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(A)として含み、パーム油を溶剤分別又はドライ分別で分別して得られる高融点部又は中融点部油脂を油脂(B)として含む油脂組成物の製造法であって、油脂組成物中のSOS型トリグリセリドの含量が80重量%以上、StOStの含量が35?60重量%、POPの含量が10重量%以上、StLSt/StOStの比率が0.08以下、PLP/POPの比率が0.10以下、StStO/StOStの比率が0.03以下、PPO/POPの比率が0.10以下及びSSSの含量が3重量%以下であることを特徴とする油脂組成物の製造法であって、前記油脂組成物が下記油脂(A)を30?80重量%含有し、さらに下記油脂(B)を20?70重量%含有し、油脂(A)と油脂(B)を合計で70%以上含有する油脂組成物の製造法。
油脂(A):StOStを70?83.6重量%含有し、かつ構成脂肪酸中アラキジン酸が1.3重量%以下である油脂
油脂(B):POPを60重量%以上含有する油脂
但し、SはC16?C22の飽和脂肪酸,Stはステアリン酸,Pはパルミチン酸,Lはリノール酸,Oはオレイン酸をそれぞれ示す。またSOS;1位及び3位の脂肪酸がSであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StOSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、StLSt;1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリド、StStO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がStであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、POP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリド、PLP;1位及び3位の脂肪酸がPであり、2位の脂肪酸がLであるトリグリセリド,PPO;1位及び2位、又は2位及び3位の脂肪酸がPであり、3位、又は1位の脂肪酸がOであるトリグリセリドをそれぞれ示す。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのチョコレートの製造法。
【請求項10】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用してなるテンパリングタイプのカカオバター代用脂の製造法。
【請求項11】
請求項4に記載の製造法で製造された油脂組成物を使用するチョコレート製造におけるエージング時間の短縮方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-11-25 
出願番号 特願2013-558862(P2013-558862)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23D)
P 1 651・ 536- YAA (A23D)
P 1 651・ 537- YAA (A23D)
P 1 651・ 85- YAA (A23D)
P 1 651・ 113- YAA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
佐々木 正章
登録日 2015-03-20 
登録番号 特許第5713122号(P5713122)
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 油脂組成物及びチョコレート  

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