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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1324823
異議申立番号 異議2016-700001  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-04 
確定日 2016-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5746890号発明「強化熱可塑性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5746890号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第5746890号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5746890号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成23年3月25日に特許出願され、平成27年5月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1?2に係る特許に対し、特許異議申立人 千阪実木(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年2月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年4月26日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年6月13日付け(差出日:同年6月14日、受理日:同年6月15日)で異議申立人から特許法第120条の5第5項に基づく通知書に対する意見書の提出がなされ、同年7月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年9月20日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年11月15日に異議申立人から特許法第120条の5第5項に基づく通知書に対する意見書の提出がなされたものである。


第2 訂正の適否

1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(3)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
・1-ア
「グラフト重合したグラフト共重合体(A)20?40質量部」とあるのを、
「グラフト重合したグラフト共重合体(A)23?27質量部」に、また、
・1-イ
「該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体」とあるのを、
「芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種」に、また、
・1-ウ
「相対粘度が1.8?2.7であるポリアミド樹脂(C)50?65質量部」とあるのを、
「相対粘度が1.8?2.5であるポリアミド樹脂(C)55?65質量部」に、また、
・1-エ
「相溶化剤(D)0.01?10質量部と」とあるのを、
「メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体である相溶化剤(D)0.01?10質量部と」に、また
・1-オ
「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)1?50質量部とを含有することを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。」とあるのを、
「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部とを含有する強化熱可塑性樹脂組成物であって、
該強化熱可塑性樹脂組成物中のマイレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部としたときに、1.55?4.03質量%であることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。」に
それぞれ訂正にする。

(2)訂正事項2
明細書【0009】に
・2-ア
「グラフト重合したグラフト共重合体(A)20?40質量部」とあるのを、
「グラフト重合したグラフト共重合体(A)23?27質量部」に、また、
・2-イ
「該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体」とあるのを、
「芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種」に、また、
・2-ウ
「相対粘度が1.8?2.7であるポリアミド樹脂(C)50?65質量部」とあるのを、
「相対粘度が1.8?2.5であるポリアミド樹脂(C)55?65質量部」に、また、
・2-エ
「相溶化剤(D)0.01?10質量部と」とあるのを、
「メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体である相溶化剤(D)0.01?10質量部と」に、また
・2-オ
「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)1?50質量部とを含有することを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。」とあるのを、
「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部とを含有する強化熱可塑性樹脂組成物であって、
該強化熱可塑性樹脂組成物中のマイレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部としたときに、1.55?4.03質量%であることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。」に
それぞれ訂正にする。

(3)訂正事項3
明細書【0063】【表1】で
・3-ア
「実施例3」とあるのを
「参考例3」に、また、
・3-イ
「実施例4」とあるのを
「参考例4」に、また、
・3-ウ
「実施例5」とあるのを
「参考例5」に、また、
・3-エ
「実施例6」とあるのを
「参考例6」に、また、
・3-オ
「実施例7」とあるのを
「参考例7」に、
それぞれ訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1
1-アは、組成物中の質量部の数値範囲を限定するものであり、1-イ及び1-エは、具体的な化合物名等の記載がなく単に「単量体」、「相溶化剤」とのみ記載されていた事項を具体的な化合物名等を追加して訂正するものであり、また、1-ウは、組成物中の質量部及び粘度の数値範囲を限定するものであり、1-オは、組成物中の質量部の数値範囲を限定するとともに特定成分の含有量を限定するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、いずれも明細書での記載に基づく訂正であって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものである。そして、一群の請求項ごとにされたものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
2-アないし2-オはいずれも、訂正事項1の特許請求の範囲の記載の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合性を図るための訂正であって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

(3)訂正事項3
3-アないし3-オはいずれも、訂正事項1の特許請求の範囲の記載の訂正に伴い、実施例であったものを参考例に訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、一群の請求項ごとにされたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?2]について訂正を認める。


第3 本件発明
上記第2 3.のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、特許第5746890号の請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、平成28年9月20日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
ゴム質重合体(a)40?75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60?95質量%とシアン化ビニル(c)5?40質量%とを含む単量体混合物25?60質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)23?27質量部と、
マレイミド系単量体(d)5?50質量%と、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種50?95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)5?20質量部と、
相対粘度が1.8?2.5であるポリアミド樹脂(C)55?65質量部と、
メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体である相溶化剤(D)0.01?10質量部と、
グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部とを含有する強化熱可塑性樹脂組成物であって、
該強化熱可塑性樹脂組成物中のマイレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部としたときに、1.55?4.03質量%であることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が、90000?200000であることを特徴とする請求項1に記載の強化熱可塑性樹脂組成物。」


第4 取消理由(決定の予告)の概要

当審において平成28年7月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、
請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願日前に頒布された特開2007-224287号公報(異議申立人が提出した異議申立書の証拠方法である甲第2号証、以下、「甲2」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、その特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由」という。)、
というものである。


第5 取消理由(決定の予告)についての判断

1.刊行物に記載された発明
(1)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
(1-1)
「【請求項1】
ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体100?1重量%とその他の少なくとも1種の単量体0?99重量%とからなる単量体成分をグラフト重合してなるグラフト(共)重合体(A-1)と、芳香族ビニル系単量体100?1重量%とその他の少なくとも1種の単量体0?99重量%からなるビニル系(共)重合体(A-2)のうち少なくとも1種を配合してなるスチレン系樹脂(A)1?99重量%と、
ポリアミド樹脂(B)99?1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、
マレイミド系単量体単位を含むマレイミド系重合体(C)0.05?80重量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、かつ該熱可塑性樹脂組成物を溶融成形加工して得られる成形体において、成形体の表面に垂直な方向を厚みとした時、表面から全厚みに対し40?60%の深さの領域で、電子顕微鏡で観察される相構造として、ポリアミド樹脂(B)が連続相となる部分が5容量%以上形成されることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との混合比率が、スチレン系樹脂(A)55?90重量%と、ポリアミド樹脂(B)45?10重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
該熱可塑性樹脂組成物を溶融成形加工して得られる成形体において、成形体の表面に垂直な方向を厚みとした時、表面から全厚みに対し40?60%の深さの領域で、電子顕微鏡で観察される相構造として、ポリアミド樹脂(B)が連続相となる部分が10容量%以上形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、ポリアミドとの反応性および/または親和性を有する官能基を含有する少なくとも1種のビニル系単量体単位を含む変性ビニル系共重合体(D)0.05?80重量部を含むことを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
変性ビニル系共重合体(D)のメチルエチルケトン溶媒に溶解させ30℃の温度で測定した極限粘度が0.10?2.00dl/gの範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
変性ビニル系共重合体(D)が、シアン化ビニル系単量体単位を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
マレイミド系重合体(C)のメチルエチルケトン溶媒に溶解させ30℃の温度で測定した極限粘度が0.05?2.00dl/gの範囲にあることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
マレイミド系重合体(C)がマレイミド系単量体単位を5?80重量%含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
マレイミド系重合体(C)のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得た厚さ1/4インチの射出成形品について、ASTM D-648に従って、荷重1.82MPaで測定した荷重たわみ温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融成形加工してなる成形体。
【請求項12】
成形体が車両用内外装部品である請求項11記載の成形体。」(特許請求の範囲請求項1?12)

(1-2)
「スチレン系樹脂は、高剛性かつ良外観で寸法安定性がよく、吸水性が低いという特徴を有していることから、汎用熱可塑性樹脂として広く使用されている。しかし、スチレン系樹脂は、耐薬品性、耐摩耗性および耐熱性が十分ではなく、苛酷な条件下での使用が制限されていた。」(【0002】)

(1-3)
「本発明は、スチレン系樹脂とポリアミド樹脂とからなる熱可塑性樹脂組成物を得るに際し、耐衝撃性および流動性を良好に維持したまま、耐熱性と耐スクラッチ性に優れ、更に耐湿熱老化性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。」(【0008】)

(1-4)
「本発明によれば、耐衝撃性および流動性を良好に維持したまま、耐熱性、特に高荷重下での耐熱性と耐スクラッチ性に優れ、更に耐湿熱老化性にも優れる熱可塑性樹脂組成物が得られる。」(【0011】)

(1-5)
「これらポリアミド樹脂(B)の分子量は特に制限はないが、98%濃硫酸中に1g/dlの濃度で溶解した溶液の相対粘度が、25℃で1.8?7.5の範囲であることが好ましい。より好ましくは1.8?4.0の範囲であり、更に好ましくは1.8?2.8の範囲であり、特に好ましくは1.8?2.4の範囲であり、最も好ましくは1.8?2.3の範囲である。」(【0038】)

(1-6)
「本発明におけるマレイミド系重合体(C)に含まれるマレイミド系単量体単位の含有量は特に制限はないが、マレイミド系単量体単位5?100重量%を含むことが好ましい。マレイミド系重合体(C)中のマレイミド系単量体単位の含有量の上限は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性の観点からより好ましくは95重量%以下であり、更に好ましくは80重量%以下であり、特に好ましくは70重量%以下であり、最も好ましくは60重量%以下である。また、マレイミド系重合体(C)中のマレイミド系単量体単位の含有量の下限は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐熱性と耐スクラッチ性の観点からより好ましくは10重量%以上であり、更に好ましくは25重量%以上、特に好ましくは30重量%以上であり、最も好ましくは40重量%以上である。」(【0039】)
「マレイミド系重合体(C)に含まれるその他の単量体単位としては、特に制限はないが、例えば、芳香族ビニル系単量体単位、α、β-不飽和カルボン酸無水物単位およびシアン化ビニル系単量体単位等から選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。」(【0040】)
「マレイミド系重合体(C)において、シアン化ビニル系単量体単位は耐薬品性向上の観点から好ましく含むことができる。シアン化ビニル系単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびエタクリロニトリルなどを挙げることができ、これらは単独ないし2種以上を用いることができ、これらの中ではアクリロニトリルがより好ましい。」(【0042】)
「マレイミド系重合体(C)の極限粘度は特に制限はないが、メチルエチルケトン溶媒に溶解させ、30℃で測定した極限粘度は特に制限はないが、同極限粘度の上限は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐湿熱老化性の観点から2.00dl/g以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.90dl/g以下であり、更に好ましくは0.50dl/g以下であり、特に好ましくは0.40dl/g以下であり、最も好ましくは0.35dl/g以下である。同極限粘度の下限は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐スクラッチ性の観点から0.05dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.10dl/g以上であり、更に好ましくは0.15dl/g以上であり、特に好ましくは0.20dl/g以上である。」(【0045】)

(1-7)
「共重合体(D)中にはシアン化ビニル系単量体単位が含まれることが好ましく、シアン化ビニル系単量体単位の量は0.5?60重量%であることが好ましい。」(【0047】)
「共重合体(D)のポリアミドとの反応性および/または親和性を有する官能基を含有する少なくとも1種のビニル系単量体単位としては、特に制限はないが、α、β-不飽和カルボン酸無水物単位、α、β-不飽和カルボン酸単位、エポキシ基含有ビニル系単量体単位、アミノ基含有ビニル系単量体単位、アミド基含有ビニル系単量体単位、水酸基含有ビニル系単量体単位およびオキサゾリン基含有ビニル系単量体単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、・・・(中略)・・・α、β-不飽和カルボン酸無水物単位としては特に制限はなく、例を挙げると、無水マレイン酸・・・(中略)・・・α、β-不飽和カルボン酸単位としては特に制限はなく、例を挙げると、アクリル酸、メタクリル酸・・・(中略)・・・。」(【0048】)
「共重合体(D)中にシアン化ビニル系単量体単位が含まれる場合、シアン化ビニル系単量体単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられ、好ましくはアクリロニトリルである。」(【0049】)
「共重合体(D)は、その他の少なくとも1種の単量体単位を含んでいてもよい。その他の少なくとも1種の単量体単位としては芳香族ビニル系単量体が好ましく用いられる。この芳香族ビニル系単量体単位としてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、o-エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられ、スチレンおよびα-メチルスチレンが好ましく、より好ましくはスチレンである。」(【0050】)

(1-8)
「また、本発明の熱可塑性樹脂組成物はさらに充填材を含有することにより、強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる。このような充填材は繊維状であっても粒状などの非繊維状であってもよく、その具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、アスベスト、チタン酸カリウムウィスカ、ワラステナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンおよび酸化アルミニウムなどが挙げられ、なかでもチョップドストランドタイプのガラス繊維が好ましく用いられる。
これらの含有量は、充填剤の種類により異なるため一概に規定はできないが、スチレン系樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)の合わせて100重量部に対して、0.05?150重量部が好ましい。」(【0064】?【0065】)

(1-9)
「<スチレン系樹脂(A)>
(参考例1)グラフト共重合体(a-1)の調製
以下の物質を重合容器に仕込み、撹拌しながら65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン71重量部、アクリロニトリル29重量部およびt-ドデシルメルカプタン0.3重量部からなる混合物40重量部を5時間かけて連続滴下した。
ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径0.2μm):60重量部(固形分換算)
オレイン酸カリウム:0.5重量部
ブドウ糖:0.5重量部
ピロリン酸ナトリウム:0.5重量部
硫酸第一鉄:0.005重量部
脱イオン水:120重量部。
並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25重量部、オレイン酸カリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を、7時間で連続滴下し反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥してグラフト共重合体(a-1)を得た。」(【0094】?【0095】)

(1-10)
「(参考例2)ビニル系共重合体(a-2)の調製
アクリルアミド80重量部、メタクリル酸メチル20重量部、過硫酸カリ0.3重量部、イオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み、反応器中の気相を窒素ガスで置換しよくかき混ぜながら70℃に保った。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続けアクリルアミドとメタクリル酸メチル二元共重合体の水溶液として得た。イオン交換水で希釈して、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を得た。
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、60℃に昇温し懸濁重合を開始した。
スチレン:71重量部
アクリロニトリル:29重量部
t-ドデシルメルカプタン:0.2重量部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:0.4重量部。」(【0098】?【0099】)

(1-11)
「(参考例4)ポリアミド樹脂(B)(b-2):98%濃硫酸中に1g/dlの濃度で溶解した溶液の相対粘度が、25℃で2.9のナイロン6を使用した。」(【0102】)

(1-12)
「(参考例6)マレイミド系重合体(c-2)の調整
スチレン55重量部、N-フェニルマレイミド45重量部、t-ドデシルメルカプタン0.05重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部をメチルエチルケトン120重量部を入れたバッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに仕込み、この溶液を300rpmで攪拌しながら温度を80℃まで昇温した後、80℃で8時間保ち、重合を終了した。冷却後、溶液を過剰量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、マレイミド系重合体(c-2)を得た。赤外吸収スペクトル測定により、赤外吸収スペクトル検量線を用いて求めた組成はスチレン単位を55.0重量%、N-フェニルマレイミド単位を45.0重量%含有するものであった。また、マレイミド系重合体(c-2)を0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて30℃で測定した極限粘度は0.68dl/gであり、マレイミド系重合体(c-2)のガラス転移温度は175℃であった。」(【0104】)

(1-13)
「(参考例8)マレイミド系重合体(c-4)の調整
スチレン55重量部、N-フェニルマレイミド30重量部、アクリロニトリル15重量部、t-ドデシルメルカプタン0.05重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部をメチルエチルケトン200重量部を入れたバッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに仕込み、この溶液を300rpmで攪拌しながら温度を80℃まで昇温した後、80℃で8時間保ち、重合を終了した。冷却後、溶液を過剰量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去し、マレイミド系重合体(c-4)を得た。赤外吸収スペクトル測定により、赤外吸収スペクトル検量線を用いて求めた組成はスチレン単位を55.0重量%、N-フェニルマレイミド単位を30.0重量%、アクリロニトリル単位を15.0重量%含有するものであった。また、マレイミド系重合体(c-4)を0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて30℃で測定した極限粘度は0.52dl/gであり、マレイミド系重合体(c-4)のガラス転移温度は131℃であった。」(【0106】)

(1-14)
「(参考例13)共重合体(d-5)の調製
スチレン93重量部、アクリル酸4重量部、無水マレイン酸3重量部をメチルエチルケトン120重量部に溶解させ、t-ドデシルメルカプタン0.02重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3重量部を加え、80℃で6時間溶液重合を行った。冷却後、5倍当量のメタノールに注ぎ込み、再沈殿を行って共重合体を得た。この共重合体を80℃で12時間熱風乾燥させ、スチレン単位を93重量%、アクリル酸単位を4重量%、無水マレイン酸単位を3重量%含む共重合体(d-5)を得た。また、共重合体(d-5)を0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて測定した極限粘度は0.58dl/gであった。」(【0111】)

(1-15)
「(参考例15)共重合体(d-7)の調製
アクリルアミド80重量部、メタクリル酸メチル20重量部、過硫酸カリ0.3重量部、イオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み反応器中の気相を窒素ガスで置換しよくかき混ぜながら70℃に保った。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続けアクリルアミドとメタクリル酸メチル二元共重合体の水溶液として得た。イオン交換水で希釈して、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を得た。
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、60℃に昇温し懸濁重合を開始した。
スチレン:70重量部
アクリロニトリル:25重量部
メタクリル酸:5重量部
t-ドデシルメルカプタン:0.4重量部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:0.2重量部。
15分かけて反応温度を65℃まで昇温したのち、2時間かけて90℃まで昇温し90℃を2時間保ち重合を終了した。反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行ない、ビーズ状の共重合体(d-7)を得た。ポリマー収率は96%であった。赤外吸収スペクトル測定により、赤外吸収スペクトル検量線を用いて求めた組成はスチレン単位を70重量%、アクリロニトリル単位を25重量%、メタクリル酸単位を5重量%含有するものであった。また、共重合体(d-7)を0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて30℃で測定した極限粘度は0.59dl/gであった。」(【0113】?【0115】)

(1-16)



(【0118】【表1】)

(2)甲2に記載された発明
甲2には、摘示(1-1)、摘示(1-9)?摘示(1-12)、提示(1-14)の記載及び摘示(1-16)の実施例5の記載から、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

「ポリブタジエン60重量部の存在下に、スチレン71重量部、アクリロニトリル29重量部を含む単量体混合物40重量部がグラフト重合したグラフト共重合体(a-1)33重量部と、
アクリルアミド80重量部、メタクリル酸メチル20重量部を含む混合物を反応させて得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部の存在下に、スチレン71重量部、アクリロニトリル29重量部を含む単量体混合物を重合して得られるビニル系共重合体(a-2)12重量部と、
N-フェニルマレイミド45重量部とスチレン55重量部とが共重合したマレイミド系重合体(c-2)12重量部と、
相対粘度が2.9のナイロン6であるポリアミド樹脂55重量部と、
スチレン93重量部、アクリル酸4重量部、無水マレイン酸3重量部を共重合した共重合体(d-5)5重量部と
を含有する熱可塑性樹脂組成物。」

2.本件特許発明1と甲2発明との対比
(1)一致点、相違点
本件特許発明1と甲2発明とを比較すると、
甲2発明におけるグラフト共重合体(a-1)を構成する「ポリブタジエン」、「スチレン」及び「アクリロニトリル」は、それぞれ、本件特許発明1における「ゴム質重合体(a)」、「芳香族ビニル(b)」及び「シアン化ビニル(c)」に相当し、それらの割合についても重複一致しており、
甲2発明における「N-フェニルマレイミド」は、本件特許発明1における「マレイミド系単量体(d)」に相当し、
甲2発明における「スチレン93重量部、アクリル酸4重量部、無水マレイン酸3重量部を共重合した共重合体(d-5)」は、本件特許の明細書の【0036】?【0039】の記載から、芳香族ビニルである「スチレン」と「反応性化合物」とを構成単位とする限りにおいて、本件特許発明1における「相溶化剤(D)」に相当する。
そして、甲2発明に係る熱可塑性樹脂組成物中の「マレイミド系重合体(c-2)」、「ポリアミド樹脂」、「共重合体(d-5)」の割合(それぞれ順に、「12重量部」、「55重量部」、「5重量部」)は、本件特許発明1に係る熱可塑性樹脂組成物中の「マレイミド系共重合体」、「ポリアミド樹脂」、「相溶化剤」の割合(それぞれ順に、「5?20重量部」、「55?65重量部」、「0.01?10重量部」)に含まれるものである。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは「ゴム質重合体(a)60質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)71質量%とシアン化ビニル(c)29質量%とを含む単量体混合物40質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)と、マレイミド系共重合体(B)12質量部と、ポリアミド樹脂(C)55質量部と、相溶化剤(D)5質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点ア)
本件特許発明1の樹脂組成物は、マレイミド系共重合体(B)が「マレイミド系単量体(d)5?50質量%と、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種50?95質量%とが共重合した」ものであるのに対し、甲2発明の樹脂組成物は、マレイミド系共重合体(B)が「N-フェニルマレイミド45重量部とスチレン55重量部とが共重合した」ものである点、すなわち、「シアン化ビニル」を共重合したものでなく、また、本件特許発明1では、マイレイミド系単量体(d)単位の含有量が「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部としたときに、1.55?4.03質量%である」と特定するのに対して、甲2発明ではそのような特定がない点。
(相違点イ)
本件特許発明1の樹脂組成物は、相溶化剤(D)が「メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体」であるのに対し、甲2発明の樹脂組成物は、「スチレン93重量部、アクリル酸4重量部、無水マレイン酸3重量部を共重合した共重合体」である点。
(相違点ウ)
本件特許発明1の樹脂組成物は、含有するポリアミド樹脂(C)の相対粘度が「1.8?2.5」であるのに対し、甲2発明の樹脂組成物は、含有するポリアミド樹脂(C)の相対粘度は「2.9」である点。
(相違点エ)
甲2発明の樹脂組成物は「アクリルアミド80重量部、メタクリル酸メチル20重量部を含む混合物を反応させて得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体0.05部の存在下に、スチレン71重量部、アクリロニトリル29重量部を含む単量体混合物を重合して得られるビニル系共重合体(a-2)12重量部」を含むのに対し、本件特許発明1の樹脂組成物は、そのような重合体を含まない点。
(相違点オ)
本件特許発明1の樹脂組成物は「グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部」を含有しているのに対し、甲2発明の樹脂組成物は無機充填材を含有していない点。
(相違点カ)
本件特許発明1の樹脂組成物は「強化熱可塑性樹脂組成物」であるのに対し、甲2発明の組成物は「熱可塑性樹脂組成物」であり、無機充填材により「強化」されていない点。
(相違点キ)
本件特許発明1の樹脂組成物中は、グラフト共重合体(A)を23?27質量部含有するのに対して、甲2発明の樹脂組成物では33重量部含有する点。

(2)当審の判断
ア 相違点アについて
甲2には、マレイミド系共重合体について、そこに含まれるマレイミド以外の単量体単位として好ましく用いることができるものとして「芳香族ビニル系単量体単位、α、β-不飽和カルボン酸無水物単位およびシアン化ビニル系単量体単位」の例示があり(摘示1-6)、シアン化ビニル系単量体の使用により「耐薬品性向上」が期待されること、シアン化ビニル系単量体の例としてアクリロニトリル(すなわち、シアン化ビニル)が好ましいことも記載されている(摘示1-6)。また、マレイミド系共重合体として、スチレン、N-フェニルマレイミド、アクリロニトリルから構成された重合体も具体的に記載されている(摘示1-13の「マレイミド系重合体(c-4)」)。
スチレン系樹脂には耐薬品性が十分でないとの問題点が知られている(摘示1-2)から、甲2発明の熱可塑性樹脂組成物の特性を改善するために、甲2発明のスチレンを多く含むマレイミド系重合体中で、マレイミド化合物の量を維持したまま、スチレンの一部をシアン化ビニルに替えてみる、あるいは、甲2発明の「マレイミド系重合体(c-2)」に代えて「マレイミド系重合体(c-4)」を用いてみる程度のことは、当業者であれば容易になしえることであるといえる。
また、甲2では「マレイミド系重合体(C)に含まれるマイレイミド系単量体単位の含有量は特に制限はないが、マイレイミド系単量体単位5?100重量%を含むことが好ましい」とあり(摘示1-6)、また、甲2発明でのマイレイミド系単量体(d)単位の含有量は5.14質量%と算出されるので、甲2発明でのマイレイミド系単量体(d)単位の含有量の下限値を5質量%程度とすることは、当業者にとって格別の困難性があるものとまですることができない。
しかしながら、マレイミド系重合体(c-2)をマレイミド系重合体(c-4)に代えた場合のマイレイミド系単量体(d)単位の含有量は3.43質量%であることを踏まえても、甲2に、その下限値を「1.55質量%」とまでする動機付けがあるともいえない。

イ 相違点イについて
甲2には、甲2発明で(d-5)として加えられている共重合体(本件特許発明1の「相溶化剤」に相当する)に関し、アクリロニトリルのような「シアン化ビニル系単量体単位が含まれることが好ましい」の記載があり、また共重合体を構成する成分としてメタクリル酸も例示されていて(摘示1-7)、更には、スチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸から構成された重合体も具体的に記載されている(摘示1-15の「共重合体(d-7)」)。
しかしながら、甲2には、共重合体を構成する成分としてメタクリル酸の他にも非常に多くの化合物が具体的に例示されている中で、甲2発明の(d-5)の共重合体を構成する三種類の単量体の中でアクリル酸とマレイン酸無水物という二種類の単量体の代わりにアクリロニトリル及びメタクリル酸を選択する動機付けがあるものといえない。また、甲2には、(d-5)と同様の共重合体として(d-1)?(d-4)、(d-6)、(d-7)が例示されている中で、甲2発明の(d-5)に代えて特に(d-7)を選択する動機付けがあるものともいえない。

ウ 相違点ウについて
甲2には、ポリアミド樹脂の相対粘度について「最も好ましくは1.8?2.3の範囲である」ことが記載されているので(摘示1-5)、甲2発明において、ポリアミド樹脂の相対粘度について最も好ましいとされている範囲に特定することは、当業者であれば容易になしえることであるといえる。しかしながら、本件特許の明細書【表1】で、本件特許発明1で特定されている範囲内の相対粘度(2.10)を有するポリアミド樹脂を使用した実施例1と範囲外の相対粘度(2.56)を有するポリアミド樹脂を使用した参考例3と、あるいは、同様の関係にある実施例2と参考例4とを比較すれば、組成物中のポリアミド樹脂(c)以外の各成分の種類や量は同じであっても、ポリアミド樹脂(c)の相対粘度が相違すると「意匠性」が異なることを理解することができる。本件特許発明1で特定されている範囲内の相対粘度を有するポリアミド樹脂を使用することで「意匠性」が向上することは、当業者が甲2発明から予想することができない格別なものであるといえるから、相違点ウは当業者が容易になしえたものとすることはできない。

エ 相違点オについて
甲2には「熱可塑性樹脂組成物はさらに充填材を含有することにより、強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる」ことが記載されていて、そのような充填材として「ガラス繊維」や「炭素繊維」などの無機充填材が具体的に例示されており(摘示1-8)、さらには、充填材の含有量について「充填剤の種類により異なるため一概に規定はできないが、スチレン系樹脂(A)およびポリアミド樹脂(B)の合わせて100重量部に対して、0.05?150重量部が好ましい」ことが記載されている(摘示1-7)。加えて、塗装時の意匠性(すなわち、充填材の浮き出しによる毛羽立ち)は、当業者が当然に検討する課題に過ぎないものであって、充填剤の配合量が多ければ多いほどその毛羽立ちも多くなるであろうことは、平成28年11月15日付けの意見書で異議申立人も指摘するように、当然に予想されることであって、その点で充填材の配合量は、塗装時の意匠性に影響を与えないような量、すなわち毛羽立ちが極力起こらないような量、を選択することが自然であるから、甲2発明に無機充填材を含有させる場合には低レベルの含有量とすることは、当業者が普通に想到する程度の事項であると認める。
しかしながら、本件特許の明細書【表1】及び【表2】での実施例1、2と参考例3?5、比較例1?6との比較によれば、これらはいずれも10質量%という「低レベル」でしかも同じ配合量で無機充填材を含む組成物であるが、「意匠性」は◎から×まで大きく異なるものとなっている。そして、上記ウで指摘したように、実施例1と参考例3との比較、あるいは、実施例2と参考例4との比較によれば、組成物中の各成分の配合量は同じであっても、ポリアミド樹脂(c)の相対粘度の違いだけで「意匠性」が異なることを理解できる。
そうしてみると、本件特許発明1の「意匠性」という効果に着目するならば、組成物の各成分の量や種類を本件特許発明1で規定される特定のものにすることによってもたらされる効果というべきものであって、当業者が甲2発明から予想することができない格別なものであるといえる。

オ 特許異議申立人の主張についての検討
平成28年11月15日付けの意見書で異議申立人は、
「甲2発明において、強度、剛性、耐熱性を向上させるために(甲第2号証の段落0064)、意匠性を考慮しつつ無機充填材を添加しその含有量を5?15重量部の範囲内とし、その結果強度、剛性、耐熱性に優れることとすることは当業者にとって容易であることに相違はない。そして、甲2発明に無機充填材を添加した場合の意匠性が仮に「◎」ではなく「○」程度であったとしても、本件の実施例1と参考例3との対比から本件において意匠性を「◎」とする際の重要な特徴はポリアミド樹脂の相対粘度であると見られ、そして上述のように相対粘度を訂正発明1で規定する範囲内とすることは容易であるため(甲第2号証の段落0038)、その結果意匠性が「◎」となることは必然である。
従って、甲2発明に無機充填材を訂正発明1で特定する範囲内で含有させた場合、訂正発明1と同様に衝撃強度、耐熱性、剛性、意匠性のトータルの性能について効果を発揮するものであり、甲第2号証の記載から十分に当業者が予想可能なものである」(3(3)コ(イ)d、第11頁)
と主張するものである。
特許権者も、平成28年9月20日付けの意見書で、本件特許発明の「トータルの性能」についてを主張するものであるが、本件特許発明の「意匠性」という効果のみに着目するならば、甲2は、塗装時の意匠性についての記載も示唆もするものでなく、また、組成物中のポリアミド樹脂の相対粘度と「意匠性」との関係についても同様に記載も示唆もするものではないから、「意匠性が「◎」となることは必然である。」とまですることはできず、逆に、甲2発明のポリアミド樹脂を本件特許発明1で規定されている範囲の粘度を有するポリアミド樹脂に代えたことによって、その意匠性が「◎」となるのであれば、当業者に予想外の格別顕著な効果であるとすべきものである。従って、異議申立人の斯かる主張を採用することはできない。

(3)小括
そうしてみると、上記以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が甲2発明に基いて容易に発明をすることができたとすることはできない。

3.本件特許発明2と甲2発明との対比
本件特許発明2は、本件特許発明1にさらに「マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が、90000?200000であること」を特定するものである。
上記の2.のように、本件特許発明1は甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含む本件特許発明2も同様に、甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
強化熱可塑性樹脂組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂を含む強化熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は優れた機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性などの特徴を有することから、自動車、電気・電子・機械部品等の工業用品、スポーツ・レジャー用品等多くの用途に使用されている。しかし、ポリアミド樹脂は、塗装性や耐衝撃性が劣るという欠点があり、また、その化学構造に起因して吸水し易く、寸法変化が大きいという問題があった。そのため、これらの欠点を改良するため、過去に多くの研究がなされてきた。
【0003】
例えば、不飽和カルボン酸とスチレンやアクリロニトリルとを共重合してなるカルボン酸基含有共重合体を相溶化剤として用い、ポリアミド樹脂にABS樹脂を配合したゴム変性ナイロン組成物が提案されている(特許文献1参照)。
また、ポリアミド樹脂はガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加することで、成形品の耐熱性、寸法安定性、剛性が飛躍的に向上することが知られており、例えばポリアミド樹脂とABS樹脂を含む組成物にガラス繊維や炭素繊維などを配合した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。この熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、寸法安定性、剛性、耐熱性に優れる、性能バランスの良好な成形品材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7-84549号公報
【特許文献2】特開2002-212383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のゴム変性ナイロン組成物では、成形品の耐熱性や剛性が不十分であるという問題があり、例えば、加熱機器、調理家電、熱分析機器など、高温にて荷重がかかるような用途には不向きであった。さらに、意匠性が求められるような用途にも使用し難いという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載の熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品は、低荷重時の耐熱性には優れるものの、高荷重時の耐熱性は不十分であった。
高荷重時の耐熱性を向上させるにはポリアミド樹脂の配合量を増やせばよいが、ポリアミド樹脂の配合量を増やすと吸湿時の剛性が低下しやすくなり、ガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加した効果が十分に発揮されない。
また、ガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加した材料は、成形品表面にこれらの無機充填材が浮き出しやすく、特に成形品を塗装した際に毛羽立つなどの外観不良が生じやすく、意匠性を損なう傾向にあった。
【0007】
従って、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる材料が求められていた。
【0008】
本発明は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる強化熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] ゴム質重合体(a)40?75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60?95質量%とシアン化ビニル(c)5?40質量%とを含む単量体混合物25?60質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)23?27質量部と、
マレイミド系単量体(d)5?50質量%と、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種50?95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)5?20質量部と、
相対粘度が1.8?2.5であるポリアミド樹脂(C)55?65質量部と、
メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体である相溶化剤(D)0.01?10質量部と、
グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部とを含有する強化熱可塑性樹脂組成物であって、
該強化熱可塑性樹脂組成物中のマレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量%としたときに、1.55?4.03質量%であることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が、90000?200000であることを特徴とする[1]に記載の強化熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<強化熱可塑性樹脂組成物>
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と、マレイミド系共重合体(B)と、ポリアミド樹脂(C)と、相溶化剤(D)と、無機充填材(E)とを含有する。
【0012】
(グラフト共重合体(A))
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)とを含む単量体混合物がグラフト重合したものである。
【0013】
ゴム質重合体(a)としては、例えば、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ジエン-アクリル複合ゴム、シリコーン(ポリシロキサン)-アクリル複合ゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエンゴムなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより高くなることから、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム、ジエン-アクリル複合ゴム、シリコーン-アクリル複合ゴム、エチレン-プロピレン-非共役ジエンゴムが好ましい。
【0014】
芳香族ビニル(b)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
これら芳香族ビニル(b)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
単量体混合物100質量%中の芳香族ビニル(b)の含有量は、60?95質量%であり、65?80質量%であることが好ましい。単量体混合物中の芳香族ビニル(b)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0016】
シアン化ビニル(c)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
これらシアン化ビニル(c)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
単量体混合物100質量%中のシアン化ビニル(c)の含有量は、5?40質量%であり、20?35質量%であることが好ましい。単量体混合物中のシアン化ビニル(c)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0018】
単量体混合物には、上記の芳香族ビニル(b)およびシアン化ビニル(c)の他に、これらと共重合可能な他の単量体(e)を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
他の単量体(e)としては、アクリル酸、メタアクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸無水物類などが挙げられる。
これら他の単量体(e)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0019】
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)の存在下に上述した単量体混合物をグラフト重合させることで得られる。
グラフト重合時のゴム質重合体(a)の割合は40?75質量部であり、単量体混合物の割合は25?60質量部である(ただし、ゴム質重合体(a)と単量体混合物の合計を100質量部とする。)。ゴム質重合体(a)の割合が40質量部以上、単量体混合物の割合が60質量部以下であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および高荷重時の耐熱性が向上する。一方、ゴム質重合体(a)の割合が75質量部以下、単量体混合物の割合が25質量部以上であれば、グラフト共重合体(A)とマレイミド系重合体(B)との相溶性が良好となり、成形品の耐衝撃性が向上する。
グラフト重合時のゴム質重合体(a)の割合は50?70質量部であることが好ましく、単量体混合物の割合は30?50質量部であることが好ましい。
【0020】
グラフト共重合体(A)は、例えば以下のようにして得られる。
まず、乳化重合にて製造されたゴム質重合体(a)を攪拌翼ジャケット付き反応容器に仕込む。次に、グラフト重合させる単量体混合物の全量または一部を数回に分けて一括または連続して滴下し、攪拌しながら40?70℃にて、5?60分間放置する。その後、さらに開始剤を添加する。これにより、添加した単量体混合物がゴム質重合体(a)に含浸し、ゴム質重合体(a)内および表面にてグラフト重合して、グラフト共重合体(A)が得られる。
グラフト重合方法については特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合などを採用することができる。
【0021】
グラフト共重合体(A)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量部としたときに、20?40質量部であり、23?35質量部であることが好ましい。グラフト共重合体(A)の含有量が20質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。一方、グラフト共重合体(A)の含有量が40質量部以下であれば、成形品の耐熱性および機械的物性が向上する。
【0022】
(マレイミド系共重合体(B))
マレイミド系共重合体(B)は、マレイミド系単量体(d)と、該マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体(f)とが共重合したものである。
【0023】
マレイミド系単量体(d)としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-トルイルマレイミド、N-キシリールマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-オルトクロルフェニルマレイミド、N-オルトメトキシフェニルマレイミドなどが挙げられる。これらの中でも、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-トルイルマレイミド、N-オルトクロルフェニルマレイミド、N-オルトメトキシフェニルマレイミドが好ましく、N-シクロヘキシルマレイミドおよびN-フェニルマレイミドがより好ましい。
これらマレイミド系単量体(d)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
マレイミド系単量体(d)の含有量は、マレイミド系単量体(d)と他の単量体(f)の合計を100質量%としたときに、5?50質量%であり、20?50質量%であることが好ましく、30?50質量%であることがより好ましい。マレイミド系単量体(d)の含有量が5質量%以上であれば、マレイミド系共重合体(B)の耐熱性が高くなるため、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。一方、マレイミド系単量体(d)の含有量が50質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0025】
また、強化熱可塑性樹脂組成物中のマレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量%としたときに、1?10質量%であることが好ましく、2?7質量%であることがより好ましい。マレイミド系単量体(d)単位の含有量が1質量%以上であれば、成形品の高荷重時の耐熱性および吸湿時の剛性がより向上する傾向にある。一方、マレイミド系単量体(d)単位の含有量が10質量%以下であれば、成形品の耐衝撃性がより向上する傾向にある。
【0026】
マレイミド系単量体(d)と共重合可能な他の単量体(f)としては、グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した芳香族ビニル(b)、シアン化ビニル(c)、芳香族ビニル(b)およびシアン化ビニル(c)と共重合可能な他の単量体(e)などが挙げられる。
これら他の単量体(f)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
他の単量体(f)の含有量は、マレイミド系単量体(d)と他の単量体(f)の合計を100質量%としたときに、50?95質量%であり、50?80質量%であることが好ましく、50?70質量%であることがより好ましい。他の単量体(f)の含有量が50質量%以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。一方、他の単量体(f)の含有量が95質量%以下であれば、マレイミド系共重合体(B)の耐熱性が高くなるため、成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。
【0028】
マレイミド系共重合体(B)を製造する方法としては、塊状重合が好ましい。
ここでいう塊状重合では、少量の有機溶媒が存在する重合を含む。有機溶媒としては、それ自体が重合せず、単量体の重合を妨げるものではなく、かつ、マレイミド系共重合体(B)を溶解できるものが好ましい。そのような有機溶媒の具体例としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0029】
マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は、90000?200000であることが好ましい。マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が90000以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより向上する傾向にある。一方、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が200000以下であれば、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となるとともに、フィラーの毛羽立ちが生じにくく、意匠性に優れた成形品が得られやすくなる傾向にある。
なお、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定された、ポリスチレン換算の質量平均分子量である。
【0030】
マレイミド系共重合体(B)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量部としたときに、5?20質量部である。マレイミド系共重合体(B)の含有量が5質量部未満であると、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性、塗装密着性、吸湿時の剛性の少なくとも1つが劣る傾向にある。一方、マレイミド系共重合体(B)の含有量が20質量部以下であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。
【0031】
(ポリアミド樹脂(C))
ポリアミド樹脂(C)としては、例えば、ジアミンとジカルボン酸とから得られるポリアミドが挙げられる。
ここで、ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3-または1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族ジアミンが挙げられる。
一方、ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0032】
また、ポリアミド樹脂(C)として、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ドデカラクタムなどのラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などから得られるポリアミドおよびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド、さらにはポリアミドをハードセグメントとし、かつポリエーテルをソフトセグメントとするポリアミドエラストマーなどを用いてもよい。
【0033】
これらの中でも、ポリアミド樹脂(C)としては、工業的に安価かつ大量に製造されており、入手しやすい点で、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリドデカアミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、およびこれらの共重合体、例えばナイロン6とナイロン66の共重合体(この場合の共重合体を「ナイロン6/66」と表記する。以下、同様。)、ナイロン6/610、ナイロン6/12、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610/12、およびこれらの混合物などが好ましい。また、ジアミンとしてビス(p-アミノシクロヘキシル)メタンと、ジカルボン酸としてテレフタル酸やイソフタル酸とから得られるポリアミドもポリアミド樹脂(C)として好ましい。
【0034】
ポリアミド樹脂(C)は、JIS K6810に準拠して測定した相対粘度が1.8?3.0であり、1.8?2.7であることが好ましく、1.8?2.5であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(C)の相対粘度が1.8以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性が向上する。一方、ポリアミド樹脂(C)の相対粘度が3.0以下であれば、ポリアミド樹脂(C)と無機充填材(E)との相互作用が良好に保持され、成形品の高荷重時の耐熱性が向上する。また、成形品を塗装する際に、無機充填材(E)が毛羽立ち、意匠性が低下するのを抑制できる。
【0035】
ポリアミド樹脂(C)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量部としたときに、40?65質量部であり、50?65質量部であることが好ましい。ポリアミド樹脂(C)の含有量が40質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性および耐衝撃性が向上する。加えて、成形品を塗装する際の毛羽立ちを抑制できる。一方、ポリアミド樹脂(C)の含有量が65質量部以下であれば、成形品の吸湿時の剛性および塗装密着性が向上する。
【0036】
(相溶化剤(D))
相溶化剤(D)としては、反応性官能基を有する芳香族ビニル系重合体などが挙げられる。
ここで、反応性官能基とは、ポリアミド樹脂の末端アミンまたはカルボン酸と反応して結合しうる官能基のことであり、具体的には、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シリル基、水酸基、無水ジカルボキシ基のいずれかである。これらの中でも、カルボキシル基、無水ジカルボキシ基が好ましい。
なお、相溶化剤(D)は2種以上の反応性官能基を有していてもよい。
【0037】
相溶化剤(D)としては、具体的に、炭素-炭素不飽和結合(すなわち炭素-炭素二重結合または炭素-炭素三重結合)および反応性官能基を有する反応性化合物と、芳香族ビニルと、シアン化ビニルとを共重合した共重合体が挙げられる。
炭素-炭素不飽和結合および反応性官能基を有する反応性化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、ビニルオキシラン、アリルアミン、ビニルメルカプタン、ビニルアルコールなどが挙げられる。これらのうち、重合時における芳香族ビニルやシアン化ビニルとの溶解性の点で、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸が好ましい。
これら反応性化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
反応性化合物の含有量は、反応性化合物と芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計を100質量%としたときに、0.05?20質量%であることが好ましく、0.05?10質量%であることがより好ましい。反応性化合物の含有量が上記範囲内であれば、グラフト共重合体(A)とポリアミド樹脂(C)とが相溶しやすくなるため、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性がより向上する。
【0039】
芳香族ビニルおよびシアン化ビニルとしては、グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した芳香族ビニル(b)およびシアン化ビニル(c)などが挙げられる。
反応性化合物と芳香族ビニルとシアン化ビニルとの合計を100質量%としたときに、芳香族ビニルの含有量は60?95質量%であることが好ましく、65?80質量%であることがより好ましい。一方、シアン化ビニルの含有量は4.95?40質量%であることが好ましく、19.95?35質量%であることがより好ましい。
芳香族ビニルおよびシアン化ビニルの含有量が上記範囲内であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐衝撃性および耐熱性がより向上する。また、強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0040】
相溶化剤(D)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量部としたときに、0.01?10質量部である。相溶化剤(D)の含有量が10質量部を超えても、それ以上のグラフト共重合体(A)とポリアミド樹脂(C)との相溶性の向上が得られにくい。また、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の高荷重時の耐熱性および剛性が低下しやすくなる。
【0041】
(無機充填材(E))
無機充填材(E)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、該無機繊維を金属コーティングしたもの、ウォラストナイト、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の無機物、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属や合金、およびそれらの酸化物の繊維、粉末などが挙げられる。これらの中でも、少ない配合で高い剛性が得られることからウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状の無機充填材が好ましく、成形品の剛性と耐衝撃性のバランスから炭素繊維が特に好ましい。
これら無機充填材(E)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
無機充填材(E)は、その表面をカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤)などの表面処理剤で処理されていてもよい。
また、無機充填材(E)としてガラス繊維や炭素繊維を用いる場合、これらは、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0043】
無機充填材(E)の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、1?50質量部であり、5?30質量部であることが好ましく、5?15質量部であることがより好ましい。無機充填材(E)の含有量が1質量部以上であれば、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品の耐熱性および剛性が向上する。一方、無機充填材(E)の含有量が50質量部以下であれば、成形品を塗装する際の毛羽立ちが目立ちにくくなり、意匠性を良好に維持できる。また強化熱可塑性樹脂組成物の成形性が向上する。
【0044】
(その他の成分)
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、その物性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば、滑剤、顔料、染料、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤を含有してもよい。
【0045】
(製造方法)
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、グラフト共重合体(A)、マレイミド系共重合体(B)、ポリアミド樹脂(C)、相溶化剤(D)、および無機充填材(E)と、必要に応じて他の成分とを溶融混練することにより得られるが、この方法に限定されない。
溶融混練に用いる溶融混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられ、中でも、汎用性の点から、一軸押出機、二軸押出機が好ましい。
【0046】
以上説明したように、本発明の強化熱可塑性樹脂組成物は、上述したグラフト共重合体(A)と、マレイミド系共重合体(B)と、ポリアミド樹脂(C)と、相溶化剤(D)と、無機充填材(E)とを特定量含有するので、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れる成形品を得ることができる。
【0047】
<成形品>
本発明の強化熱可塑性樹脂組成物より得られる成形品は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などの成形加工法により、強化熱可塑性樹脂組成物を成形加工してなる。成形加工法としては、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
本発明により得られる成形品は、剛性(特に吸湿時の剛性)、耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、良好な塗装外観も有するため、電気部品、電子部品、機械部品および車両部品として好適に使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、具体的に実施例を示す。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の例では、下記の成分を用いた。
【0049】
[グラフト共重合体(A)の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水170質量部と、ポリブタジエン(ゲル含有量:95%、平均粒子径:3000Å)65質量部と、スチレン70質量%およびアクリロニトリル30質量%からなる単量体混合物35質量部と、不均化ロジン酸カリウム1質量部と、水酸化ナトリウム0.01質量部と、ピロリン酸ナトリウム0.45質量部と、硫酸第1鉄0.01質量部と、デキストローズ0.57質量部と、t-ドデシルメルカプタン0.07質量部と、クメンハイドロパーオキサイド1.0質量部とを仕込み、60℃から反応を開始し、途中で75℃まで昇温し、2時間半後乳化グラフト重合を完結させ、反応生成物のラテックスを得た。
得られた反応性生物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(A)を得た。
【0050】
[マレイミド系共重合体(B)の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器を窒素置換した後、該重合反応器に、アクリロニトリル15質量部、スチレン54質量部、およびN-フェニルマレイミド31質量部からなる混合液と、メチルエチルケトン30質量部、および重合開始剤として1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)0.103質量部からなる混合液とを別々の配管から重合反応器に連続的に滴下供給した。重合温度100℃および滞留時間90分の条件の下で共重合反応を行った。
次いで、この反応により得られた重合反応液を、重合反応器の底部に備えたギヤポンプにより連続的に抜き取り、その重合反応液を150℃に保持した熱交換機にて約20分滞在させた。その後、バレル温度230℃に制御した2ベントタイプの30mm二軸押出機に導入し、その二軸押出機における大気圧の第1のベント部と、0.0027MPaの第2のベント部とで揮発成分を脱揮した。そして、脱揮したペレタイザーにてペレット化して、マレイミド系共重合体(B)のペレットを得た。
得られたマレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量を、GPC測定装置(東ソー株式会社製)にて、溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、標準PS(ポリスチレン)換算法にて測定した。その結果、マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量は165000であった。
【0051】
[ポリアミド樹脂(C)]
ポリアミド樹脂(C)として、以下のポリアミド樹脂(C1)?(C3)を用いた。
・ポリアミド樹脂(C1):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1011FB」、相対粘度=2.10)。
・ポリアミド樹脂(C2):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1013B」、相対粘度=2.56)。
・ポリアミド樹脂(C3):ナイロン6(宇部興産株式会社製、「1022B」、相対粘度=3.57)。
なお、ポリアミド樹脂(C1)?(C3)の相対粘度は、JIS K6810に準拠して測定した値である。
【0052】
[相溶化剤(D)の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水200質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2質量部を仕込み、65℃にした。これにスチレン71質量部、アクリロニトリル24質量部、メタクリル酸5質量部、およびt-ドデシルメルカプタン0.4質量部からなる単量体混合物を5時間かけて滴下し、重合を行った。滴下終了後、70℃に昇温し、さらに60分間保持した後に冷却してグラフト重合を完結させ、反応性生物のラテックスを得た。
得られた反応性生物のラテックスを酢酸カルシウムで凝固、水洗した後、乾燥して相溶化剤(D)を得た。
【0053】
[無機充填材(E)]
無機充填材(E)として、炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、「TR06NE」)を用いた。
【0054】
[スチレン系共重合体の製造]
撹拌装置を備えた20Lの重合反応器に、蒸留水120質量部と、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003質量部と、スチレン68.0質量%およびアクリロニトリル32.0質量%からなる単量体混合物100質量部と、t-ドデシルメルカプタン0.5質量部と、過酸化ベンゾイル0.15質量部と、リン酸カルシウム0.5質量部とを添加し、110℃で10時間懸濁重合した後、冷却して重合を完結させた。水洗した後、乾燥してスチレン系共重合体を得た。
得られたスチレン系共重合体の質量平均分子量について、マレイミド系共重合体(B)と同様にして測定したところ、158000であった。
【0055】
[実施例1?7、比較例1?6]
グラフト共重合体(A)、マレイミド系共重合体(B)、ポリアミド樹脂(C1、C2、C3)、相溶化剤(D)、無機充填材(E)、スチレン系共重合体を表1、2の組成(質量部)で混合し、30mm二軸押出し機(株式会社神戸製鋼所製「KTX-30」)を用いて270℃で溶融混練し、ペレット状の強化熱可塑性樹脂組成物を得た。なお、表1、2中の「マレイミド系単量体単位の含有量」は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量%としたときの含有量(質量%)である。
得られた強化熱可塑性樹脂組成物を射出成形して各種成形品(試験片)を作成し、引張特性、剛性、耐熱性、耐衝撃性、吸湿後の剛性、塗装密着性、意匠性を、以下の方法により評価した。評価結果を表1、2に示す。
【0056】
[引張特性]
ISO試験法527に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、引張強度(MPa)および引張伸び(%)を測定した。
【0057】
[剛性]
ISO試験法178に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0058】
[耐熱性]
ISO試験法75に準拠し、1.83MPa、4mm、フラットワイズ法の条件で、荷重たわみ温度(℃)を測定し、これを高荷重時の耐熱性とした。
【0059】
[耐衝撃性]
ISO試験法179に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で、Vノッチ付きシャルピー衝撃強さ(kJ/m^(2))を測定した。
【0060】
[吸湿時の剛性]
ISO試験法291に準拠し、試験片を23℃、50%RHで平衡状態になるまで状態調整した後、ISO試験法178に準拠し、測定温度23℃、試験片厚さ4mmの条件で測定した曲げ弾性率(MPa)を、吸湿時の剛性とした。
【0061】
[塗装密着性]
100mm×100mmの試験片(厚さ2mm)に、エアブラシを用いてアクリル塗料を約30μmの膜厚になるように塗布し、60℃、30分の条件下で乾燥させ、試験片上に塗膜を形成した。
ついで塗膜表面に、カッターで試験片に達する切れ目を入れて、1mm間隔で100個の碁盤目を形成し、セロハンテープを密着させた後、180度方向に引き剥がす剥離試験を行った。剥離試験後に塗膜表面に残存した碁盤目の数を数え、以下の評価基準にて塗装密着性の評価を行った。
◎:碁盤目の数が100個。
○:碁盤目の数が95個以上、100個未満。
△:碁盤目の数が85個以上、95個未満。
×:碁盤目の数が85個未満。
【0062】
[意匠性]
塗装密着性と同様にして、試験片にアクリル塗料を塗布し、塗膜を形成した。このときの試験片の外観を目視にて観察し、無機充填材(E)の浮き出しによる毛羽立ちの数を数え、以下の評価基準にて意匠性の評価を行った。
◎:毛羽立ちの数が0個。
○:毛羽立ちの数が1個以上、5個未満。
△:毛羽立ちの数が5個以上、10個未満。
×:毛羽立ちの数が10個以上。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1から明らかなように、各実施例の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品(試験片)は、吸湿時の剛性の低下が少なく、しかも耐衝撃性、高荷重時の耐熱性に優れ、かつ塗装時の意匠性にも優れていた。
【0066】
これに対し、表2に示すように、ポリアミド樹脂(C2)の含有量が30質量部と少ない比較例1の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性、耐衝撃性、意匠性に劣っていた。
ポリアミド樹脂(C2)の含有量が70質量部と多い比較例2の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、吸湿時の剛性が低く、塗装密着性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)の含有量が25質量部と多い比較例3の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)の代わりに、スチレン系共重合体を用いた比較例4の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性に劣っていた。
相対粘度が3.57であるポリアミド樹脂(C3)を用いた比較例5の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、高荷重時の耐熱性、意匠性に劣っていた。
マレイミド系共重合体(B)の含有量が2質量部と少ない比較例6の強化熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品は、吸湿時の剛性が低く、塗装密着性に劣っていた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)40?75質量部の存在下に、芳香族ビニル(b)60?95質量%とシアン化ビニル(c)5?40質量%とを含む単量体混合物25?60質量部(ただし、ゴム質重合体(a)との合計が100質量部である。)がグラフト重合したグラフト共重合体(A)23?27質量部と、
マレイミド系単量体(d)5?50質量%と、芳香族ビニル(b)とシアン化ビニル(c)の2種50?95質量%とが共重合したマレイミド系共重合体(B)5?20質量部と、
相対粘度が1.8?2.5であるポリアミド樹脂(C)55?65質量部と、
メタクリル酸0.05?20質量%、芳香族ビニル60?95質量%、シアン化ビニル4.95?40質量%とを共重合した共重合体である相溶化剤(D)0.01?10質量部と、
グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計100質量部に対し、無機充填材(E)5?15質量部とを含有する強化熱可塑性樹脂組成物であって、
該強化熱可塑性樹脂組成物中のマレイミド系単量体(d)単位の含有量は、グラフト共重合体(A)とマレイミド系共重合体(B)とポリアミド樹脂(C)と相溶化剤(D)の合計を100質量%としたときに、1.55?4.03質量%であることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記マレイミド系共重合体(B)の質量平均分子量が、90000?200000であることを特徴とする請求項1に記載の強化熱可塑性樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-12 
出願番号 特願2011-68225(P2011-68225)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平繁田 えい子  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
大島 祥吾
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5746890号(P5746890)
権利者 ユーエムジー・エービーエス株式会社
発明の名称 強化熱可塑性樹脂組成物  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 高橋 詔男  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 西 和哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  

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