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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1324831
異議申立番号 異議2016-700520  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-07 
確定日 2016-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5829810号発明「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5829810号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。 特許第5829810号の請求項1?3、5?15に係る特許を維持する。 特許第5829810号の請求項4に係る特許に対する特許異議申立ては却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5829810号の請求項1?15に係る特許についての出願は、2010年12月28日(優先権主張 2009年12月28日、日本国、2010年9月10日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年10月30日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人株式会社クラレにより特許異議の申立てがされ、平成28年 8月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年10月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成28年11月30日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)請求項1に記載された
「前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である、合わせガラス用中間膜。」

「前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。」
に訂正する(以下、「訂正事項1」という)。

(2)請求項2に記載された
「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部とを含む樹脂膜を用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である、合わせガラス用中間膜。」

「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第3の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部とを含む樹脂膜を用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。」
に訂正する(以下、「訂正事項2」という)。

(3)請求項4を削除する(以下、「訂正事項3」という)。

(4)請求項5に記載された
「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満であり、かつアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。」

「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。」
に訂正する(以下、「訂正事項4」という)。

(5)請求項6に記載された
「請求項1?5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項5」という)。

(6)請求項8に記載された
「請求項1?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項6」という)。

(7)請求項10に記載された
「請求項1?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項7」という)。

(8)請求項11に記載された
「請求項1?10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5?10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項8」という)。

(9)請求項12に記載された
「請求項1?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項9」という)。

(10)請求項13に記載された
「請求項1?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」

「請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜」
に訂正する(以下、「訂正事項10」という)。

(11)請求項15に記載された
「前記中間膜が、請求項1?14のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である」

「前記中間膜が、請求項1?3及び5?14のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である」
に訂正する(以下、「訂正事項11」という)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、請求項1に係る発明の合わせガラス用中間膜において、その「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」に関して「アセチル化度が8モル%未満である」ことを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 訂正事項1に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「更に、合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長をより一層抑制することができ、合わせガラスの遮音性をより一層高めることができることから、第1の層2に含まれているポリビニルアセタール樹脂は、アセチル化度が8モル%未満であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう)・・・であることが好ましい。」(段落【0077】)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項1は、「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2における「前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2の層中の前記可塑剤の含有量」を「前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第3の層中の前記可塑剤の含有量」とする訂正に関して、本件特許の願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の「合わせガラスの遮音性をより一層高める観点からは、第1の層2中のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量は、第2,第3の層3,4中のポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する可塑剤の各含有量よりも多いことが好ましい。」(段落【0105】)との記載からみて、「第3の層中」の「ポリビニルアセタール樹脂100重量部」を基準とする「可塑剤の含有量」は、「第3の層中」の「可塑剤の含有量」であるから、当該訂正は「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、上記明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
イ 訂正事項2のおける「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である」との訂正は、請求項2に係る発明の合わせガラス用中間膜において、その「ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」に関して「アセチル化度が8モル%未満である」ことを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「更に、合わせガラスにおける発泡の発生及び発泡の成長をより一層抑制することができ、合わせガラスの遮音性をより一層高めることができることから、第1の層2に含まれているポリビニルアセタール樹脂は、アセチル化度が8モル%未満であるポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう)・・・であることが好ましい。」(段落【0077】)と記載されているから、当該訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項2は、誤記を訂正し、「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1及び訂正事項2において、請求項1及び請求項2に「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である」ことが特定されたことにより、該請求項1又は請求項2を引用する請求項5において、重複する発明特定事項を削除するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5?11について
訂正事項5?11は、訂正事項3によって削除された請求項4を引用しないものに訂正するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?15は、請求項1を引用するものであり、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号から第3号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項1?15に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明15」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、
前記第1の層の一方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層と、
前記第1の層の他方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層とを備え、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、
前記第1の層の一方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層と、
前記第1の層の他方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層とを備え、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第3の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部とを含む樹脂膜を用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記弾性率G’(Tg+30)が20万Pa以上である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布比(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が6.5以下である、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布比(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5?3.2である、請求項6に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、50重量部以上である、請求項1?3及び5?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、55重量部以上である、請求項8に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、30モル%以下である、請求項1?3及び5?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1?第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂がそれぞれ、ポリビニルブチラール樹脂を含み、
前記第1?第3の層に含まれている前記可塑剤がそれぞれ、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びトリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1?3及び5?10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂として、カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
前記第1の層がホウ素原子を有する化合物を含む、請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
前記ホウ素原子を有する化合物は、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、及び、ホウ酸からなる群より選択された少なくとも1種を含む、請求項13に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
第1,第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?3及び5?14のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である、合わせガラス。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4、6?11、15に係る特許に対して平成28年 8月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)優先権主張の効果
請求項1、12及び13に係る発明、及び、これら発明を引用する請求項3?15に係る発明については、特願2009-297512号(以下、「優先権基礎1出願」という。)及び特願2010-202840号(以下、「優先権基礎2出願」という。)に基づく優先権主張の効果が認められないから、これらの発明に対しての特許法第29条の規定の適用については、現実の出願日である2010年(平成22年)12月28日を基準日とする。
また、請求項2に係る発明、及びこの発明を引用する請求項3?11、15に係る発明については、優先権基礎1出願に基づく優先権主張の効果が認められないから、これらの発明に対しての特許法第29条の規定の適用については、優先権基礎2出願に基づく優先日である2010年(平成22年)9月10日を基準日とする。
(2)取消理由
請求項1?4、6?11、15に係る発明は、本件特許の出願の現実の出願日及び優先権基礎2出願に基づく優先日の前に頒布された刊行物である引用文献1(甲第1号証、特開2010-150065号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?4、6?11、15に係る特許は、取り消されるべきものである。

3 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開2010-150065号公報)
甲第1号証には、「合わせガラス用中間膜及び合わせガラス」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した(以下同じ)。
ア 「【0001】
本発明は、0℃以下の環境下において遮音性に優れ、かつ、耐熱性にも優れる合わせガラス用中間膜に関する。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスに関する。」
イ 「【0006】
本発明は、0℃以下の環境下において遮音性に優れ、かつ、耐熱性にも優れる合わせガラス用中間膜を提供することを目的とする。また、該合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスを提供することを目的とする。」
ウ 「【0020】
第1の態様の領域1は、特定のポリビニルアセタール樹脂(以下、「ポリビニルアセタール樹脂A」ともいう。)100重量部に対して可塑剤を71?150重量部含有する樹脂組成物により形成されている。本発明者らは、アセチル基量が特定の範囲にあるポリビニルアセタール樹脂は、可塑剤との相溶性が高く大量の可塑剤を配合でき、大量の可塑剤とポリビニルアセタール樹脂とを含有する領域1はガラス転移温度が充分に低く、周波数1Hzにおけるtanδの最大値を示す温度T1を0℃以下に調整できることを見出した。」
エ 「【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の下限は3mol%、上限は30mol%である。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量が3mol%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との相溶性が充分に得られず、領域1のガラス転移温度が充分に低下しないことがある。そのため、0℃以下の環境下における遮音性が得られないことがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量が30mol%を超えると、上記ポリビニルアルコールとアルデヒドとの反応性が著しく低下することからポリビニルアセタール樹脂の製造が困難になることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の好ましい下限は5mol%、好ましい上限は15mol%である。」
オ 「【0058】
本発明の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。なお、本発明の合わせガラスをペアガラスの一部として用いてもよい。・・・」
カ 「【0062】
(実施例1)
(1)樹脂組成物Aの調製
アセチル基量が13mol%、アセタール基の炭素数が4、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度2100)100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)120重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、中間層の領域1用の樹脂組成物Aを調製した。
【0063】
(2)樹脂組成物Cの調製
アセチル基量が1mol%、アセタール基の炭素数が4、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度1700)100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、保護層用の樹脂組成物Cを調製した。
【0064】
(3)合わせガラス用中間膜の作製
樹脂組成物Aを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.1mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.1mmのシートAを得た。
樹脂組成物Cを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.35mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.35mmのシートC1を得た。
樹脂組成物Cを2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.1mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.1mmのシートC2を得た。
【0065】
得られたシートC2を15×30cmの長方形状に切り出し、更に、周辺部に1cmを残して内側をくり抜き、外形15×30cm、内径13×28cmの枠状体を作製した。
得られたシートAから13×28cmの長方形状体を切り出した。
シートAにより形成されている長方形状体を、上記シートC2により形成されている枠状体の枠の内側にはめ込んで中間層用シートを得た。
【0066】
得られたシートC1から15×30cmの長方形状体を切り出した。
得られた中間層用シートを、2枚のシートC1により形成されている長方形状体の間に挟み込んで積層体を得た。
得られた積層体を2枚のテフロン(登録商標)シート間に0.8mmのクリアランス板を介して挟み込み、150℃にてプレス成形して、厚さ0.8mmの合わせガラス用中間膜を得た。」
キ 「【0073】
(実施例7)
樹脂組成物Aの調製において、アセチル基量が13mol%、アセタール基の炭素数が4、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度4200)100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)100重量部を添加し、ミキシングロールで充分に混練することにより、領域1用の樹脂組成物Aを調製した以外は実施例1と同様にして、厚さ0.8mmの合わせガラス用中間膜を得た。」

甲第1号証には、上記カによれば、実施例1として、長方形状体のシートAを、2枚の長方形状体のシートC1の間に挟み込み成形して得られた合わせガラス用中間膜が記載されており、また、上記シートC1は、アセチル基量が1mol%、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度1700)100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40重量部を添加した樹脂組成物Cから成形して得られたことも記載されている。また、甲第1号証には、上記キによれば、実施例7において、上記実施例1のシートAを、アセチル基量が13mol%、ブチラール化度が65mol%のポリビニルブチラール樹脂(平均重合度4200)100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)100重量部を添加した樹脂組成物Aから成形して得られたシートAとすることが記載されている。
これら記載を本件発明1に則して整理すると、甲第1号証には、実施例7の「合わせガラス用中間膜」として、
「ポリビニルブチラール樹脂とトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)の可塑剤を含有する長方形状体のシートAを、ポリビニルブチラール樹脂とトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)の可塑剤を含有する2枚の長方形状体のシートC1の間に挟み込み成形して得られた合わせガラス用中間膜であって、
前記シートAの前記ポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量が13mol%、ブチラール化度が65mol%、及び、平均重合度が4200であり、前記シートC1の前記ポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量が1mol%、ブチラール化度が65mol%、及び、平均重合度が1700であり、
前記シートAの前記ポリビニルブチラール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の添加量が100重量部であり、前記シートC1の前記ポリビニルブチラール樹脂に対する前記可塑剤の添加量が40重量部である、合わせガラス用中間膜」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証(特開平11-255827号公報)
甲第2号証には、「ポリビニルアセタール樹脂及びこれを用いた合わせガラス用中間膜」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリビニルアセタール樹脂及び合わせガラス用中間膜に関する。
・・・
【0003】ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布を制御することが可能であれば、結晶性、力学的強度、流動特性、熱安定性、他の樹脂との相溶性、可塑化効率、分散安定性、接着性、動的粘弾特性等の改善が可能である。また、末端基を制御することが可能であれば、末端の反応性を利用したマクロモノマーの合成、架橋点としての利用、ブロックポリマーの合成が可能となる。」
イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題点を解消し、分子量、分子量分布、末端基が制御されたポリビニルアセタール樹脂を提供する。さらに、上記ポリビニルアセタール樹脂を用いて、高い透明性・密着性を有し、常温域で優れた遮音性を有する合わせガラス用中間膜を提供する。」
ウ 「【0040】上記アセタール化は、必要とされるアセタール化度まで進行させる。求められるアセタール化度は用途によって異なり、例えば、水溶液と共存させて用いる場合はアセタール化度を低く設定することが好ましく、アセタール化度を30モル%未満とするとよい。また、耐水性が必要とされる場合にはアセタール化度を30モル%以上とするとよい。特にn-ブチルアルデヒドでアセタール化を行う場合には、アセタール化度を50?90モル%とするとよい。
・・・
【0042】本発明のポリビニルアセタール樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.05?3であることが好ましく、さらに好ましくは1.05?3である。」
エ 「【0062】(比較例1?3)市販のポリビニルアルコ-ル樹脂である「PVA-103」、「PVA-108」及び「PVA-117」(全てクラレ社製)純水に溶解させ、反応系を3℃に調整して表1に示した量のn-ブチルアルデヒドと少量の35%塩酸水溶液を添加した。45℃で3時間保って反応を完了させてポリビニルアセタールの白色粉末を得た。」
オ 「【0072】
【表2】



4 対比・判断

(1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 本件発明1についての検討
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違している。
(相違点1)
「第1の層」の「粘弾性」に関して、本件発明1では、「前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である」のに対して、甲1発明では、第1の層の粘弾性が不明な点。
(相違点2)
「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」に関して、本件発明1では、「8モル%未満である」のに対して、甲1発明では、「13mol%」である点。

(イ)上記相違点1について検討すると、甲1発明の「第1の層」の「ポリビニルブチラール樹脂」は、「アセチル基量が13mol%、ブチラール化度が65mol%、及び、平均重合度が4200」である。また、甲第2号証の上記3(2)エ及びオに記載されているように、市販のポリビニルアルコ-ル樹脂から得られたポリビニルアセタールの分子量分布(Mw/Mn)が2.4?3.53であることは技術常識といえるから、甲1発明の上記「ポリビニルブチラール樹脂」の分子量分布(Mw/Mn)も2.4?3.53程度であるといえる。
一方、本件特許明細書の【表2】の実施例20には、「第1の層」の「ポリビニルブチラール樹脂」について、PVAの平均重合度が4000、ブチラール化度が64.3mol%、アセチル化度が12.5mol%、分子量分布比が3.0であることが記載されている。
そして、甲1発明及び本件特許明細書の実施例20の「第1の層」の「ポリビニルブチラール樹脂」を比較すると、両者の平均重合度、ブチラール化度、アセチル化度、分子量分布比は極めて近い値であるといえる。
ここで、本件特許明細書には、「上記弾性率G’と温度との関係は、ポリビニルアセタール樹脂の種類に大きく影響され、特にポリビニルアセタール樹脂を得るために用いられる上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度に大きく影響され、可塑剤の種類には大きく影響されず、一般の可塑剤の含有量では該可塑剤の含有量に大きく影響されない。」(【0053】)、「上記第1の層中の上記ポリビニルアセタール樹脂を得るために用いられる上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が上記下限以上であることより、上記試験法A又は上記試験法Bによる上記比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が上記下限及び上記上限を満たすようにすることが容易であることも見出した。」(【0060】)、及び、「第1の層に含まれているポリビニルアセタール樹脂の上記分子量分布比が上記下限以上及び上記上限以下であることにより、又は、2.5?3.2であることにより、上記試験法A又は上記試験法Bによる上記比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が上記下限及び上記上限を満たすようにすることが容易であり」(【0088】)と記載されており、これら記載からみて、弾性率G’と温度との関係は、ポリビニルアセタール樹脂の種類、特に、ポリビニルアセタール樹脂の重合度や分子量分布比に影響されるといえる。
そうしてみると、甲1発明及び本件特許明細書の実施例20の「第1の層」の「ポリビニルブチラール樹脂」の平均重合度、ブチラール化度、アセチル化度、分子量分布比は極めて近い値であるから、甲1発明の「第1の層」の試験法Bでの「比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))」も、実施例20と同様に0.81程度であるといえ、甲1発明の「第1の層」は、本件発明1の「前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である」ことを満足しているといえる。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点といえない。
しかしながら、上記相違点2について検討すると、本件発明1と甲1発明の「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」は、その値が異なっていることから、上記相違点2は実質的な相違点といえる。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明との間に実質的な相違点が存在するから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当しない。

イ 本件発明2についての検討
(ア)本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記アでの検討と同様に、以下の点で相違している。
(相違点3)
「第1の層」の「粘弾性」に関して、本件発明2では、「前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部とを含む樹脂膜を用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上である」のに対して、甲1発明では、可塑剤量を60重量部とした場合の第1の層の粘弾性が不明な点。
(相違点4)
「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」に関して、本件発明2では、「8モル%未満である」のに対して、甲1発明では、「13mol%」である点。

(イ)上記相違点3及び4について検討すると、上記ア(イ)で検討したと同様の理由によって、上記相違点3は実質的な相違点といえない。
しかしながら、上記相違点4は、本件発明2と甲1発明の「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」の値が異なっていることから、実質的な相違点といえる。
そうしてみると、本件発明2と甲1発明との間に実質的な相違点が存在するから、本件発明2は、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当しない。

ウ 本件発明3、5?15についての検討
本件発明3、5?15は、本件発明1又は2を減縮するものであるから、上記ア及びイで検討したとおり、甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定する発明に該当しない。

エ 特許異議申立人の意見について
(ア)特許異議申立人は、平成28年11月30日付けの意見書において、「甲第1号証の段落[0024]には、ポリアセタール樹脂A(本件発明の「第1の層中のポリアセタール樹脂」に相当する)のアセチル基量(本件訂正発明1及び2における「アセチル化度」に相当する)の範囲は明確に示されており、具体的には、下限が3モル%以上、上限が30モル%以下、好ましい下限が5モル%以上、好ましい上限が15モル%以下と示されている。すなわち、・・・甲第1号証に記載された発明において、ポリアセタール樹脂Aのアセチル基量は13モル%のみに限定される訳でなく、3?30モル%の範囲内である。実際、甲第1号証の実施例において、7モル%から24モル%までの種々のアセチル基量を有するポリアセタール樹脂Aが用いられている(段落[0062]?[0075])。」とし、甲第1号証には、「前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である」との事項が記載されており、本件発明1?3、6?11及び15は、甲第1号証に記載された発明であると主張している(意見書第5頁下から11行?第6頁16行)。

(イ)この点について検討すると、上記3(1)で検討したとおり、甲1発明は、甲第1号証に記載された実施例7の「合わせガラス用中間膜」であり、その「シートA」の「ポリビニルブチラール樹脂」は、「アセチル基量が13mol%、ブチラール化度が65mol%、及び、平均重合度が4200」であることが具体的に特定されていることから、段落【0024】及び他の実施例の記載があったとしても、実施例7のシートAのポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量が、13mol%以外の値であることにはならない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

ア 特許異議申立人は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証(国際公開第2007/132777号)、及び、甲第4号証(特開平1-252556号公報)を提出し、訂正前の請求項1?15に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、訂正前の請求項1?15に係る特許は取り消すべきものである旨を主張している。

イ 本件発明1についての検討
本件発明1と甲1発明と対比すると、上記(1)ア(ア)で検討したとおり、本件発明1と甲1発明は、先に示した相違点2で実質的に相違している。
そこで、相違点2について検討すると、甲第1号証には、上記3(1)エのとおり、「上記ポリビニルアセタール樹脂Aのアセチル基量の下限は3mol%、上限は30mol%である。」と記載されている。
しかしながら、甲1発明の「第1の層」の試験法Bでの「比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))」の値は、甲1発明の「第1の層」の「ポリビニルブチラール樹脂」が、「アセチル基量が13mol%、ブチラール化度が65mol%、及び、平均重合度が4200」であることを前提にして、相違点1に係る本件特許1の特定事項を満足するものであり、また、弾性率G’と温度との関係は、ポリビニルアセタール樹脂の種類に影響を受けること(本件特許明細書の段落【0053】)を考慮すると、甲1発明の「第1の層」の試験法Bでの「比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))」の値が、相違点1に係る本件特許1の特定事項を満足しつつ、「第1の層」の「ポリビニルアセタール樹脂」の「アセチル化度」を、「13mol%」から「8モル%未満」に変更することが甲第1号証に記載ないし示唆されているとはいえない。
次に、甲第2号証?甲第4号証には、ポリアセタール樹脂を含む合わせガラス用中間膜に関する事項が記載されているが、甲第2号証?甲第4号証のいずれにも、ポリアセタール樹脂を含む合わせガラス用中間膜を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、「該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上」とすると共に、該ポリアセタール樹脂のアセチル化度を「8モル%未満」とすることは記載も示唆もなされていない。また、特許異議申立人が平成28年11月30日付けの意見書に添付した参考文献1(特開2007-331964号公報)、参考文献2(特開2004-67427号公報)及び参考文献3(特開2010-201932号公報)を参酌しても、これら事項が技術常識であるともいえない。
よって、甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項を参酌したとしても、甲1発明において、上記相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項を同時に満足させることは、当業者が容易になし得ることではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

ウ 本件発明2についての検討
本件発明2と甲1発明と対比すると、上記(1)イ(ア)で検討したとおり、本件発明2と甲1発明は、先に示した相違点4で実質的に相違している。
そこで、相違点4について検討すると、上記イで検討したと同様に、甲1発明において、上記相違点3及び4に係る本件発明2の発明特定事項を同時に満足させることは、当業者が容易になし得ることではない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

エ 本件発明3、5?15について
本件発明3、5?15は、本件発明1又は2を減縮するものであるから、上記イ及びウで検討したとおり、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、5?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、5?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項4に係る発明は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、
前記第1の層の一方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層と、
前記第1の層の他方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層とを備え、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層を樹脂膜として用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第1の層と、
前記第1の層の一方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第2の層と、
前記第1の層の他方の面に積層されており、かつポリビニルアセタール樹脂と可塑剤とを含有する第3の層とを備え、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率よりも5.9モル%以上低く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第2の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第2の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第1の層中の前記可塑剤の含有量は、前記第3の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記第3の層中の前記可塑剤の含有量よりも多く、
前記第1の層に含まれる前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部と、可塑剤としてトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)60重量部とを含む樹脂膜を用いて、該樹脂膜の粘弾性を測定した場合に、該樹脂膜のガラス転移温度をTg(℃)としたときに、(Tg+80)℃での弾性率G’(Tg+80)の(Tg+30)℃での弾性率G’(Tg+30)に対する比(G’(Tg+80)/G’(Tg+30))が、0.65以上であり、
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度が8モル%未満である、合わせガラス用中間膜。
【請求項3】
前記弾性率G’(Tg+30)が20万Pa以上である、請求項1又は2に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が68モル%以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項6】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布比(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が6.5以下である、請求項1?3及び5のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項7】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂の分子量分布比(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が2.5?3.2である、請求項6に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項8】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、50重量部以上である、請求項1?3及び5?7のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項9】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対する前記可塑剤の含有量が、55重量部以上である、請求項8に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項10】
前記第1の層中の前記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率が、30モル%以下である、請求項1?3及び5?9のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
前記第1?第3の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂がそれぞれ、ポリビニルブチラール樹脂を含み、
前記第1?第3の層に含まれている前記可塑剤がそれぞれ、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート及びトリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエートからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1?3及び5?10のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
前記第1の層に含まれている前記ポリビニルアセタール樹脂として、カルボン酸変性ポリビニルアセタール樹脂を含む、請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項13】
前記第1の層がホウ素原子を有する化合物を含む、請求項1?3及び5?11のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項14】
前記ホウ素原子を有する化合物は、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、及び、ホウ酸からなる群より選択された少なくとも1種を含む、請求項13に記載の合わせガラス用中間膜。
【請求項15】
第1,第2の合わせガラス構成部材と、
前記第1,第2の合わせガラス構成部材の間に挟み込まれた中間膜とを備え、
前記中間膜が、請求項1?3及び5?14のいずれか1項に記載の合わせガラス用中間膜である、合わせガラス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-14 
出願番号 特願2010-550972(P2010-550972)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山崎 直也原田 隆興  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 後藤 政博
宮澤 尚之
登録日 2015-10-30 
登録番号 特許第5829810号(P5829810)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 合わせガラス用中間膜及び合わせガラス  
代理人 特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 川添 雅史  
代理人 特許業務法人宮▲崎▼・目次特許事務所  
代理人 森住 憲一  

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