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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
管理番号 1324852
異議申立番号 異議2016-700312  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-14 
確定日 2017-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5795197号発明「ゴム製品を補強するための補強用コードおよびそれを用いたゴム製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5795197号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第5795197号の請求項1?4、9?14に係る特許を維持する。 特許第5795197号の請求項5?8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5795197号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成23年6月10日に特許出願され、平成27年8月21日にその特許権の設定登録がされた。
その後、請求項1?14に係る特許について、特許異議申立人村戸良至(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年7月6日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年9月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)があり、平成28年9月15日付けで申立人に対し訂正請求があった旨の通知がなされたが、その指定期間内に申立人からの応答はなかった。

2.本件訂正の適否についての判断
(1)本件訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正するもので、以下のア?シの訂正事項1?12からなるものである。

ア 訂正事項1
請求項1の
「前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメント、炭素繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、またはポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維フィラメントによって構成されており、」を
「前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、」に訂正する。(下線は、訂正箇所。以下、同じ。)。

イ 訂正事項2
請求項1の
「前記束に含まれる前記フィラメントの数が250?48000本の範囲にあり、」を
「前記束に含まれる前記フィラメントの数が1000?24000本の範囲にあり、」に訂正する。

ウ 訂正事項3
請求項1の
「前記被膜は、ゴムラテックスと架橋剤とを含む水性処理剤によって形成された被膜であり、」を
「前記被膜は、ゴムと架橋剤とを含み、」に訂正する。

エ 訂正事項4
請求項1の
「前記水性処理剤は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムのラテックスを主成分として含み、
前記水性処理剤が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まない、」を
「前記被膜は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムを主成分として含み、
前記被膜が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記被膜に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、」に訂正する。

オ 訂正事項5
請求項3の
「前記水性処理剤において、前記架橋剤の質量が前記ゴムラテックスのゴムの質量の10?100%の範囲にある、」を
「前記被膜において、前記架橋剤の質量が前記ゴムの質量の10?100%の範囲にある、」に訂正する。

カ 訂正事項6
請求項5を削除する。

キ 訂正事項7
請求項6を削除する。

ク 訂正事項8
請求項7を削除する。

ケ 訂正事項9
請求項8を削除する。

コ 訂正事項10
請求項9の
「請求項1?8のいずれか1項に記載の補強用コード。」を
「請求項1?4のいずれか1項に記載の補強用コード。」に訂正する。

サ 訂正事項11
請求項10の
「前記ストランドは、前記複数のフィラメントを束ねたものに前記水性処理剤を塗布した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって形成される、請求項1?9のいずれか1項に記載の補強用コード。」を
「請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードを製造する方法であって、
前記複数のフィラメントを束ねたものに水性処理剤を塗布した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって前記ストランドを形成し、
前記水性処理剤は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムのラテックスを主成分として含み、かつ架橋剤を含んでおり、
前記水性処理剤が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記水性処理剤に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、
補強用コードの製造方法。」に訂正する。

シ 訂正事項12
請求項11の
「請求項1?10のいずれか1項に記載の補強用コードで補強されたゴム製品。」を
「請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードで補強されたゴム製品。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記(1)アの訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明に本件訂正前の請求項5で特定する事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)イの訂正事項2は、請求項1に係る発明のフィラメントの数の範囲を「250?48000本」から「1000?24000本」に減縮するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許明細書の段落【0032】には「ストランド(フィラメントの束)に含まれるフィラメントの数は、250?48000本の範囲にあり、1000?24000本の範囲や、1200?12000本の範囲にあってもよい。」との記載があることから、上記訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)ウの訂正事項3は、物の発明である本件特許の請求項1に記載された発明が製造方法によって特定されており不明瞭であったところ、製造方法を含まない記載へと訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)エの訂正事項4は、物の発明である本件特許の請求項1に記載された発明が製造方法によって特定されており不明瞭であったところ、製造方法を含まない記載へと訂正し、被膜に含まれる架橋剤を「マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる」と限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項4のうち、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
また、特許明細書の段落【0022】には「水性処理剤(A)は、架橋剤を含む。この架橋剤によって、マトリックスゴムとの接着性を向上できる。水性処理剤(A)に含まれる架橋剤の例には、P-キノンジオキシムなどのキノンジオキシム系架橋剤、ラウリルメタアクリレートやメチルメタアクリレートなどのメタアクリレート系架橋剤、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)およびTAIC(トリアリルイソシアヌレート)などのアリル系架橋剤、ビスマレイミド、フェニールマレイミドおよびN,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤、芳香族または脂肪族の有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、芳香族ニトロソ化合物、硫黄、および過酸化物が含まれる。これらの架橋剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの架橋剤は、水性処理剤に含まれるゴムラテックスの種類、および補強用コードが埋め込まれるマトリックスゴムの種類などを考慮して選択される。また、これら架橋剤は、水分散体の形態で用いることが、水性処理剤中に均質に存在させるためには好ましい。架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。」との記載があり、同じく段落【0023】には「上記の架橋剤の中でも、マレイミド系架橋剤およびポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。」との記載があることから、上記(1)エの訂正のうち、特許請求の範囲の減縮を目的とするものは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)オの訂正事項5は、物の発明である本件特許の請求項3に記載された発明が製造方法によって特定されており不明瞭であったところ、製造方法を含まない記載へと訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)カ?ケの訂正事項6?9は、それぞれ、請求項5?8を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)コの訂正事項10は、上記訂正事項6?9にそれぞれ係る請求項5?8の削除に対応して、請求項1?8のいずれか1項を引用する請求項9を、請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項9とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)サの訂正事項11は、上記訂正事項6?9にそれぞれ係る請求項5?8の削除に対応して、請求項1?9のいずれか1項を引用する請求項10を、請求項1?4、および9のいずれか1項を引用する請求項10とし、物の発明である本件特許の請求項10に記載された発明が製造方法によって特定されており不明瞭であったところ、製造方法の発明に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)シの訂正事項12は、上記訂正事項6?9にそれぞれ係る請求項5?8の削除、及び、上記訂正事項11に係る請求項10に係る発明を製造方法の発明とする訂正に対応して、請求項1?10のいずれか1項を引用する請求項11を、請求項1?4、および9のいずれか1項を引用する請求項11とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

そして、本件訂正前の請求項2?14は請求項1を直接あるいは間接に引用する請求項であるから、請求項1?14は一群の請求項であるところ、これらの訂正は、一群の請求項1?14に対し請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1?14]についての訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4、9?14に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1?4、9?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
ゴム製品を補強するための補強用コードであって、
含まれるストランドが1つのみであり、
前記ストランドは、束ねられて一方向に撚られた複数のフィラメントによって構成された前記フィラメントの束と、前記束の少なくとも表面に形成された被膜とによって構成されており、
前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、
前記束に含まれる前記フィラメントの数が1000?24000本の範囲にあり、
前記フィラメントの束の撚り数が20?400回/mの範囲にあり、
前記被膜は、ゴムと架橋剤とを含み、
前記被膜は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムを主成分として含み、
前記被膜が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記被膜に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、補強用コード。
【請求項2】
前記被膜の質量が、前記フィラメントの束の質量の7?30%の範囲にある、請求項1に記載の補強用コード。
【請求項3】
前記被膜において、前記架橋剤の質量が前記ゴムの質量の10?100%の範囲にある、請求項1または2に記載の補強用コード。
【請求項4】
前記被膜の質量が、前記フィラメントの束の質量の10?25%の範囲にある、請求項1?3のいずれか1項に記載の補強用コード。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記架橋剤が、マレイミド系架橋剤およびポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の補強用コード。
【請求項10】
請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードを製造する方法であって、
前記複数のフィラメントを束ねたものに水性処理剤を塗布した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって前記ストランドを形成し、
前記水性処理剤は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムのラテックスを主成分として含み、かつ架橋剤を含んでおり、
前記水性処理剤が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記水性処理剤に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、
補強用コードの製造方法。
【請求項11】
請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項12】
伝動ベルトである、請求項11に記載のゴム製品。
【請求項13】
噛み合い伝動ベルトまたは摩擦伝動ベルトである、請求項12に記載のゴム製品。
【請求項14】
歯付ベルト、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、またはVリブドベルトである、請求項13に記載のゴム製品。

(2)取消理由の概要
当審において、本件訂正前の請求項1?14に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由において、本件特許異議申立理由のすべてを、採用している。

1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

4)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



甲1:特開2007-154382号公報
甲2:特開2002-340100号公報
甲3:特開平7-26029号公報
甲4:特開平10-329507号公報
甲5:特開2008-190714号公報
甲6:国際公開第2006/051873号
甲7:特開2009-297894号公報
甲8:特開平9-49139号公報
甲9:特開2001-89946号公報

<理由1>
請求項1?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

<理由2>
請求項1?14に係る発明は、明確でない。

<理由3>
請求項1?3、6、10?14に係る発明は、甲1記載発明である。

<理由4>
請求項1?14に係る発明は、甲2記載発明、甲1記載事項、甲7記載事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。(以下「理由4-1」という。)

請求項1?14に係る発明は、甲6記載発明、甲7記載事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。(以下「理由4-2」という。)

請求項1?14に係る発明は、甲7記載発明、甲8記載事項、甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。(以下「理由4-3」という。)

(3)判断
ア 理由1について
上記理由1の具体的なものは、以下のとおりである(特許異議申立書の第11頁第26行?第15頁第4行)。
(1-1)本件特許明細書には、第2の被膜を有さない実施例としては、ガラス繊維フィラメントを使用した実施例しかなく、出願時の技術常識に照らしても、ガラス繊維フィラメント以外の繊維フィラメントを使用した場合においても、ガラス繊維フィラメントを使用した場合と同様に、「水や油が存在する環境下で繰返し応力を与えても強度低下が小さい補強用コード、およびそれを用いたゴム製品を提供する」という本件特許発明の課題を解決できることについては全く裏付けがない。
(1-2)本件特許明細書の実施例によると、ガラス繊維フィラメント数を600本及び36000本に変えたことを除いて実施例1と同じ条件で作製された比較例5及び6の補強用コードは、表6に示す結果から、本件特許発明の課題を解決できないと解されるところ、比較例5及び6の補強用コードは、本件特許の請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2?14に係る発明に含まれるから、請求項1?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないものも含む。

そこで検討する。
本件訂正後の請求項1に係る発明は、「実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されて」いるものとなり、「フィラメントの数が1000?24000本の範囲」となった。
よって、理由1によっては、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すことができない。

イ 理由2について
上記理由2の具体的なものは、請求項1及び10に係る発明は物の発明であるところ、製造方法によって特定されているというものである。
しかし、本件訂正後の請求項1に係る発明は、製造方法によって特定されないものとなり、本件訂正後の請求項10に係る発明は、製造方法の発明となった。
よって、理由2によっては、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すことができない。

ウ 理由3について
甲1記載発明は、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明の発明特定事項である「前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、」との事項を備えておらず、当該事項を備えることが自明のことともいえない。
したがって、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は、甲1記載発明ではない。
よって、理由3によっては、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すことができない。

エ 理由4-1について
甲2、甲1、甲7のいずれにも、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明の発明特定事項である「含まれるストランドが1つのみであり、」「前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、前記束に含まれる前記フィラメントの数が1000?24000本の範囲にあり、前記フィラメントの束の撚り数が20?400回/mの範囲にあり、」との事項は記載されておらず、当該事項を備えることが自明のことともいえない。
そして、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は当該事項を備えることで、「水や油が存在する環境下で繰返し応力を与えても強度低下が小さい補強用コード、およびそれを用いたゴム製品を提供することができる」との格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は、甲2記載発明、甲1記載事項、甲7記載事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものではない。

オ 理由4-2について
甲6には、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明の発明特定事項である「前記被膜に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、」との事項は記載されていない。
そして、甲6は、マトリクスゴムと高い接着性を示すゴム補強用コード、およびその製造方法を提供するという目的を達成するために、架橋剤として作用するオキサゾリン基を含む化合物を添加した水性接着剤をゴム補強用繊維に塗布して被覆膜を形成するものであるから(甲6の段落[0012]?[0013]、[0048]を参照。)、甲6記載の架橋剤を、オキサゾリン基を含む化合物以外のものに変更することには、阻害要因がある。
したがって、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は、甲6記載発明、甲7記載事項に基いて、当業者が容易に発明し得たものではない。

カ 理由4-3について
甲7?9のいずれにも、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明の発明特定事項である「含まれるストランドが1つのみであり、」「前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、前記束に含まれる前記フィラメントの数が1000?24000本の範囲にあり、前記フィラメントの束の撚り数が20?400回/mの範囲にあり、」との事項は記載されておらず、当該事項を備えることが自明のことともいえない。
そして、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は当該事項を備えることで、「水や油が存在する環境下で繰返し応力を与えても強度低下が小さい補強用コード、およびそれを用いたゴム製品を提供することができる」との格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る発明は、甲7記載発明、甲8記載事項、甲9記載事項に基づいて、当業者が容易に発明し得たものではない。

キ 理由4についての小括
上記エ?カのとおり、理由4によっては、本件訂正後の請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すことができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1?4、9?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項5?8に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5?8に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品を補強するための補強用コードであって、
含まれるストランドが1つのみであり、
前記ストランドは、束ねられて一方向に撚られた複数のフィラメントによって構成された前記フィラメントの束と、前記束の少なくとも表面に形成された被膜とによって構成されており、
前記束は、実質的に、ガラス繊維フィラメントによって構成されており、
前記束に含まれる前記フィラメントの数が1000?24000本の範囲にあり、
前記フィラメントの束の撚り数が20?400回/mの範囲にあり、
前記被膜は、ゴムと架橋剤とを含み、
前記被膜は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムを主成分として含み、
前記被膜が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記被膜に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、補強用コード。
【請求項2】
前記被膜の質量が、前記フィラメントの束の質量の7?30%の範囲にある、請求項1に記載の補強用コード。
【請求項3】
前記被膜において、前記架橋剤の質量が前記ゴムの質量の10?100%の範囲にある、請求項1または2に記載の補強用コード。
【請求項4】
前記被膜の質量が、前記フィラメントの束の質量の10?25%の範囲にある、請求項1?3のいずれか1項に記載の補強用コード。
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記架橋剤が、マレイミド系架橋剤およびポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の補強用コード。
【請求項10】
請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードを製造する方法であって、
前記複数のフィラメントを束ねたものに水性処理剤を塗布した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって前記ストランドを形成し、
前記水性処理剤は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、およびカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムのラテックスを主成分として含み、かつ架橋剤を含んでおり、
前記水性処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物を含まず、
前記水性処理剤に含まれる架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、および芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つからなる、
補強用コードの製造方法。
【請求項11】
請求項1?4、および9のいずれか1項に記載の補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項12】
伝動ベルトである、請求項11に記載のゴム製品。
【請求項13】
噛み合い伝動ベルトまたは摩擦伝動ベルトである、請求項12に記載のゴム製品。
【請求項14】
歯付ベルト、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、またはVリブドベルトである、請求項13に記載のゴム製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-19 
出願番号 特願2011-130444(P2011-130444)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 113- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 蓮井 雅之
山田 由希子
登録日 2015-08-21 
登録番号 特許第5795197号(P5795197)
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 ゴム製品を補強するための補強用コードおよびそれを用いたゴム製品  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 鎌田 耕一  

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