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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61C
管理番号 1324862
異議申立番号 異議2016-701082  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-24 
確定日 2017-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5923086号発明「歯科又は外科的使用のためのモータとハンドピースの間のカップリング・デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5923086号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5923086号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年5月10日(パリ条約による優先権主張 2010年5月12日 欧州特許庁)を国際出願日とするものであって、平成28年4月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人山崎宏(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?6係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものである。


第3 特許異議申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証?甲第4号証を提出し、本件発明1?6は、甲第1号証に記載された発明に甲第2?4号証に記載された発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきである旨主張している。

[証拠方法]
・甲第1号証:「日本工業規格 歯科用ハンドピースのカップリング寸法」,財団法人日本規格協会,平成5年3月31日
・甲第2号証:「Today IDS第33回国際歯科ショー・ケルン・2009年3月24-28日 特別号」及びその抄訳
・甲第3号証:サイコテック社パンフレット及びその抄訳
・甲第4号証:特開平8-38508号公報


第4 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明
本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第1号証の記載からみて、次の事項が把握できる。
ア)図2によれば、モータがハンドピースにカップリングするための雄部材を含むか備えること。
イ)図2によれば、該雄部材の長さは31.8mmであり、また、外径は9.86mmであり、これらの数値からみて、雄部材の長さと外径との間の比は3.2であること。
ウ)ハンドピースはモータの雄部材に結合されるものであること。
エ)図1によれば、ハンドピースは、モータの雄部材を受けるための円筒ボディを有し、その長さは最小32mmであること。
オ)モータとハンドピースとから組立体が形成されること。
カ)モータは、歯科用マイクロモータ、歯科用エアモータの総称であり、ハンドピースは、歯科用ストレートハンドピース、歯科用コントラアングルハンドピースの総称であるから、上記オ)の組立体は、歯科的に使用される組立体であること。

以上によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されている。
「ハンドピースにカップリングするための雄部材を含むモータであって、前記雄部材の長さと前記雄部材の外径との間の比が3.2であって、前記ハンドピースは前記雄部材に結合され、前記雄部材の長さが、31.8mmの長さである、モータ。」

また、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明B」という。)が記載されている。
「歯科的に使用されるモータとハンドピースによって形成される組立体であって、前記モータは、前記ハンドピースにカップリングするための雄部材を備え、前記雄部材の長さが31.8mmであり、前記雄部材の長さと、前記雄部材の外径である9.86mmとの間の比は、3.2であり、前記ハンドピースは前記雄部材に結合され、前記モータの前記雄部材を受けるための前記ハンドピースの円筒ボディの長さは、最小32mmである、組立体。」

2 本件発明1について
2-1 対比
本件発明1と甲1発明Aとを対比するに、後者における「ハンドピース」は、文言の意味、形状又は機能等からみて前者の「歯科用ハンドピース」に相当し、以下同様に、「雄部材」は「ノズル」又は「カップリング・ノズル」に、「モータ」は「電気モータ」に、「結合され」は「固定され」に、それぞれ相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
外科又は歯科用ハンドピースにカップリングするためのノズルを含む電気モータであって、前記ハンドピースは前記カップリング・ノズルに固定される、電気モータ。

(相違点1)
前者では、「カップリング・ノズルの長さとISO規格3964-1982によって設定され9.86mmに等しい前記カップリング・ノズルの外径との間の比が1.8から2.5の間に含まれるものであって、」「前記カップリング・ノズルの長さが、ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされ」ているのに対し、後者では、カップリング・ノズルの長さと外径との間の比は3.2であって、1.8から2.5の間に含まれず、また、カップリング・ノズルの長さも、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされていない点。

2-2 判断
申立人は、相違点1における本件発明1に係る特定事項は、甲第2号証、甲第3号証に開示され、また、同事項は、甲第4号証にも開示されており、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張しているので、以下に検討する。
(1)甲第2、3号証
本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第2号証の第31頁には、サイコテック社の「SycoDrill」の「もう一つの改良型」である「SycoSLM」について、「長さがわずか31.7mmで、SycoSLMは世界最小のマイクロモータでもあります。」、「機器の結合はISO規格に対応しており、全ての直線状及び逆角度のハンドピースに適しています。」との記載とともに、「SycoSLM」の斜視図が示されているが、当該「31.7mm」が「SycoSLM」のどの部分の長さを示しているのかは不明であり、また、甲第2号証の他の記載をみても、甲第2号証には、カップリング・ノズルの径及び長さの具体的寸法に関する記載はない。
この点に関し、申立人は、「甲第3号証は、甲第2号証に記載されたSycoTec社のSycoDrillの詳細を示し、歯科用ハンドピースにカップリングするためのノズルを含む歯科用電気モータであって、歯科用電気モータも長さが開示されたものである。」(特許異議申立書第11頁)との主張をしている。
甲第3号証は、その発行日が不明であって、本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物とはいえないが、なるほど、甲第3号証には、サイコテック社の「SycoDrill」なる歯科用モータが斜視図を含む図面とともに記載されている。
しかしながら、例えば、甲第3号証に記載の斜視図では、歯科用モータにおけるカップリング・ノズルの接続面(本件明細書段落【0025】の「円形肩部18」に相当する面)に、マイナス溝を有するネジ頭らしき部材が複数看取できるが、甲第2号証の斜視図では、当該部材が見当たらないこと等を踏まえると、甲第2号証に記載された「SycoDrill」または「SycoSLM」と甲第3号証に記載された「SycoDrill」とが同一の製品を示しているとはいい難く、「甲第3号証は、甲第2号証に記載されたSycoTec社のSycoDrillの詳細を示し」ているとの申立人の主張は採用できない。
そうすると、仮に、甲第3号証に、相違点1における本件発明1に係る特定事項を備える「SycoDrill」が記載されていたとしても、甲第3号証は、本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物とはいえないし、また、甲第3号証の記載を参酌して甲第2号証をみても、甲第2号証に、甲第3号証の上記「SycoDrill」と同一の形状や長さを有する「SycoDrill」または「SycoSLM」が開示されているとはいえない。

(2)甲第4号証
甲第4号証には、「歯科用ハンドピース」が記載され、その寸法に関し、「グリップスリーブ18の第1形状部分73と第2形状部分74との凹状側の長さl1は約35?65mm、好ましくは約47.4mmであり、凸状側の長さl2は約20?45mm、好ましくは約41.3mmである。第4形状部分76の長さl3は約12?20mm、より詳しくは約15mmである。」(段落【0024】)との記載はあるが、カップリング・ノズル(カップリングピン12)の径及び長さの具体的な寸法に関する記載はない。
請求人は、図1の各部の長さを実測することにより、甲第4号証には、カップリング・ノズルの長さを約24mmとすることが開示される旨主張するが、一般に、願書に添付される図面は、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らないのであるから、甲第4号証の図1も、「本発明によるハンドピースを備えた医療用又は歯科用治療器具」(【図面の簡単な説明】)が概略的に示されているものと解することができるのであって、その正確性について何ら裏付けのない同図の実測に基づき、カップリング・ノズルの長さがたまたま約24mmであったとしても、このことをもって、甲第4号証に、カップリング・ノズルの長さを特定長さへと変更する事項、即ち相違点1における「カップリング・ノズルの長さが、ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされ」る事項が記載されているとまではいえない。
さらに、甲第4号証の他の記載をみても、甲第4号証には、カップリング・ノズルの長さの変更や短縮化を示唆する記載も見当たらない。

(3)まとめ
以上のとおり、甲第3号証は、本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物とはいえないし、また、その甲第3号証の記載を考慮しても、甲第2号証に、「カップリング・ノズルの長さとISO規格3964-1982によって設定され9.86mmに等しい前記カップリング・ノズルの外径との間の比が1.8から2.5の間に含まれるものであって、」「前記カップリング・ノズルの長さが、ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされ」る事項が記載されているとはいえない。
同様に、甲第4号証にも、「カップリング・ノズルの長さとISO規格3964-1982によって設定され9.86mmに等しい前記カップリング・ノズルの外径との間の比が1.8から2.5の間に含まれるものであって、」「前記カップリング・ノズルの長さが、ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされ」る事項が記載されていない。
また、甲第1号証には、「カップリング・ノズルの長さとISO規格3964-1982によって設定され9.86mmに等しい前記カップリング・ノズルの外径との間の比が1.8から2.5の間に含まれるものであって、」「前記カップリング・ノズルの長さが、ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短くされ」る事項が記載されていないだけでなく、同事項を示唆する記載もないのであるから、日本工業規格を定める甲第1号証の記載に接した当業者が、カップリング・ノズルについて敢えて規格外の寸法への変更を想起すべき動機付けはなく、甲1発明Aにおいてカップリング・ノズルの長さを「ISO規格3964-1982によって設定される31.8mmの長さから、17mmから25mmの範囲内の長さまで短く」することが単なる設計事項であるともいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明A及び甲第2?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-3 小括
したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

3 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明であるから、上記「2 本件発明1について」において示した理由と同様の理由により、甲1発明A及び甲第2?4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明2?4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

4 本件発明5について
4-1 対比
上記「2-1 対比」における検討を踏まえつつ、本件発明5と甲1発明Bとを対比するに、後者における「歯科的に使用され」は、前者における「外科又は歯科的使用のための」に相当し、以下同様に、「組立体」は「組立品」に、「円筒ボディ」は「円筒形ハウジング」に、「結合され」は「固定され」に、それぞれ相当する。
また、本件発明5と甲1発明Bとは、“円筒形ハウジングの長さは、少なくとも17mm以上である”点で共通する。
してみると、本件発明5と甲1発明Bとの一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
外科又は歯科的使用のための電気モータとハンドピースによって形成される組立品であって、前記電気モータは、前記ハンドピースにカップリングするためのノズルを備え、前記ハンドピースは前記カップリング・ノズルに固定され、
前記電気モータの前記カップリング・ノズルを受けるための前記ハンドピースの円筒形ハウジングの長さは、少なくとも17mm以上である、組立品。

(相違点2)
前者では、「カップリング・ノズルの長さが17mmから25mmの間に含まれるように、前記カップリング・ノズルの長さと、ISO規格3964-1982によって設定される前記カップリング・ノズルの外径である9.86mmとの間の比は、1.8から2.5の間に含まれ」るのに対し、後者では、カップリング・ノズルの長さと外径との間の比は3.2であって、1.8から2.5の間に含まれず、また、カップリング・ノズルの長さも、31.8mmであって、17mmから25mmの間には含まれない点。

(相違点3)
前者では、「前記電気モータの前記カップリング・ノズルを受けるための前記ハンドピースの円筒形ハウジングの長さは、前記電気モータの前記カップリング・ノズルと同じ短縮比率で縮小され、少なくとも17mmにされる」のに対し、後者では、ハンドピースの円筒形ハウジングの長さは、なんら縮小されていない点。

4-2 判断
相違点2について検討するに、相違点2は相違点1と実質的に差違はない。
そうすると、相違点3について検討するまでもなく、上記「2-2 判断」で示した理由と同様の理由により、本件発明5は、甲1発明B及び甲第2?4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4-3 小括
したがって、本件発明5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

5 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する発明であるから、上記「4 本件発明5について」において示した理由と同様の理由により、甲1発明B及び甲第2?4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-16 
出願番号 特願2013-509535(P2013-509535)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 熊谷 健治  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 橘 均憲
関谷 一夫
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5923086号(P5923086)
権利者 ビエン-エアー ホールディング エスアー
発明の名称 歯科又は外科的使用のためのモータとハンドピースの間のカップリング・デバイス  
代理人 山川 茂樹  
代理人 野崎 俊剛  
代理人 山川 政樹  
代理人 下田 容一郎  
代理人 小池 勇三  
代理人 下田 憲雅  
代理人 奈良 如紘  

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