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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B60C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B60C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C |
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管理番号 | 1324877 |
異議申立番号 | 異議2016-700987 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-10-13 |
確定日 | 2017-01-30 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5901508号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5901508号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5901508号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年12月19日に特許出願され、平成28年3月18日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人伊達俊二(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5901508号の請求項1ないし5に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、 請求項1ないし5に係る特許発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 ブレーカークッションと、該ブレーカークッションに隣接するブレーカーとを有する空気入りタイヤであって、 前記ブレーカークッションは、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が35?100質量%、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.1?6.0質量部であるブレーカークッション用ゴム組成物からなり、 前記ブレーカーは、ブレーカーコードをブレーカーコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、 前記ブレーカークッション用ゴム組成物は、該ゴム組成物を単独で、170℃、12分間の加硫条件で加硫することにより得られた加硫ゴムの破断時伸びが350%以上であり、 前記ブレーカークッション用ゴム組成物と、前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物との前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量が、下記式を満たす空気入りタイヤ。 0.00<(前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99 【請求項2】 前記ブレーカークッションに隣接するジョイントレスバンド又はアンダートレッドを更に有し、 前記ジョイントレスバンドは、バンドコードをバンドコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、 前記アンダートレッドは、アンダートレッド用ゴム組成物からなり、 前記ブレーカークッション用ゴム組成物と、前記バンドコード被覆、アンダートレッド用ゴム組成物との前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量が、下記式を満たす請求項1記載の空気入りタイヤ。 -3.2<(前記バンドコード被覆、アンダートレッド用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.0 【請求項3】 前記バンドコード被覆、アンダートレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が50?100質量%、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.5?6.0質量部であり、前記バンドコード被覆、アンダートレッド用ゴム組成物は、該ゴム組成物を単独で、170℃、12分間の加硫条件で加硫することにより得られた加硫ゴムの破断時伸びが350%以上であり、前記ジョイントレスバンド、アンダートレッドの厚みが0.2?1.5mmである請求項2記載の空気入りタイヤ。 【請求項4】 前記ブレーカークッション用ゴム組成物が、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が85質量%以上である請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。 【請求項5】 前記ブレーカークッション用ゴム組成物が、カーボンブラックを含む請求項1?4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」 第3 特許異議申立理由の概要 1 異議理由1 申立人は、請求項1、2に記載の不等式はいずれも無名数であり、該当する明細書の記載も無名数であるから、請求項1、2及び従属する請求項3?5に係る発明は、実施可能ではなく、また、不明確であり、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきである旨主張している(以下、まとめて「異議理由1」という。)。 2 異議理由2 申立人は、主たる証拠として下記の甲第1号証及び従たる証拠として下記の甲第2ないし6号証を提出し、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきである旨主張している(以下、「異議理由2」という。)。 ・甲第1号証:特許第4909688号公報 ・甲第2号証:特開2008-56801号公報 ・甲第3号証:特開2010-215860号公報 ・甲第4号証:国際公開第2012/053579号 ・甲第5号証:特開2012-233150号公報 ・甲第6号証:特開2009-280804号公報 特に請求項1に係る特許は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された技術事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた旨主張している。 第4 特許異議申立理由についての検討 1 異議理由1(特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第2号違反)について (1)記載不備の検討 申立人が主張するように、本件請求項1及び本件特許明細書における対応箇所である段落【0006】、【0031】?【0032】には、「0.00<(前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99」(以下、「関係式1」という。)について直接的な単位の記載はなく、本件請求項2及び本件特許明細書における対応箇所である段落【0007】、【0033】?【0034】には、「-3.2<(前記バンドコード被覆、アンダートレッド用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.0」(以下、「関係式2」という。)について直接的な単位の記載はない。 しかしながら、本件請求項1において、前提として「前記ブレーカークッションは、・・・ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.1?6.0質量部であるブレーカークッション用ゴム組成物からなり」と記載され、架橋剤由来の純硫黄成分配合量の単位が「ゴム成分100質量部に対する質量部」であることが示されており、また、本件特許明細書の段落【0048】に「ブレーカーコード被覆用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.8質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上、更に好ましくは4.0質量部以上、特に好ましくは4.5質量部以上である。」、同【0055】に「アンダートレッド用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは2.8質量部以上、更に好ましくは3.0質量部以上である。」、同【0063】に「バンドコード被覆用ゴム組成物において、架橋剤由来の純硫黄成分合計配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.0質量部以上、より好ましくは2.3質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上である。」と記載されており、同様に架橋剤由来の純硫黄成分配合量の単位が「ゴム成分100質量部に対する質量部」であることが示されている。 また、【表1】の「brk配合」(ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の配合)、「U/T配合」(アンダートレッド用ゴム組成物の配合)、「JLB配合」(バンドコード被覆用ゴム組成物の配合)、【表2】の「クッション配合」(ブレーカークッション用ゴム組成物の配合)及び【表3】の「クッション配合」(ブレーカークッション用ゴム組成物の配合)の配合量は、「架橋剤由来の純硫黄成分」も含めて全ての単位が「質量部」として記載され、それら各表の各例において「ゴム成分」に対応するNR、SBR、IR、BR1?3の合計は「100質量部」であることが明らかである。 そして、【表2】の「硫黄濃度差:(brk)-(クッション)」(ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分-ブレーカークッション用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分;関係式1に相当)及び【表3】の「硫黄濃度差:(JLB or U/T)-(クッション)」(バンドコード被覆用ゴム組成物またはアンダートレッド用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分-ブレーカークッション用ゴム組成物の架橋剤由来の純硫黄成分;関係式2に相当)も、それらの各値をみれば、単位が「質量部」であることは明らかである。 以上のことを踏まえれば、本件請求項1、2及び本件特許明細書における上記対応箇所において、上記関係式1、2の単位が「ゴム成分100質量部に対する質量部」であることは、当業者にとって明らかであり、他の単位の可能性を解釈できる余地もないことから、特許を取り消すべき不備があるとまではいえない。 (2)小活 上記のとおり、異議理由1の理由によっては、本件請求項1、2及び従属する請求項3?5に係る特許を取り消すことはできない。 2 異議理由2(特許法第29条第2項違反)について (1) 刊行物に記載された発明及び技術的事項 ア 甲第1号証 本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の【表2】に記載される実施例1?5に用いられる高硫黄濃度配合組成物及び低硫黄濃度配合組成物のゴム成分は、【表1】の記載からいずれも天然ゴムからなることが示されている。 また、【表2】に記載される実施例1?5に用いられるゴム成分100質量部に対する高硫黄濃度配合組成物の硫黄の配合量(質量部)、低硫黄濃度配合組成物の硫黄の配合量(質量部)、高硫黄濃度配合と低硫黄濃度配合との硫黄濃度の差(質量部)を順に整理すると、次のとおりである。 ・実施例1:6,2,4 ・実施例2:6,2,4 ・実施例3:6,2,4 ・実施例4:6,2,4 ・実施例5:4,2,2 以上のことと、【請求項1】、【請求項6】、段落【0002】?【0004】、【0012】、【0020】、【0026】の記載から、本件請求項1の記載に倣って整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 「ゴム部材と、該ゴム部材に隣接するスチールコードとそのコーテイングゴムを有する重荷重タイヤであって、 前記ゴム部材は、ゴム成分が天然ゴムからなり、ゴム成分100質量部に対する硫黄の配合量が2質量部である低硫黄濃度ゴム組成物からなり、 前記スチールコードは、コーテイングゴムである高硫黄濃度ゴム組成物でコーテイングされ、 前記低硫黄濃度ゴム組成物と前記高硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量の差が、4質量部または2質量部であり、 酸化亜鉛を下記式(I)かつ、低硫黄濃度ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する老化防止剤及び/又はナフトエ酸ヒドラジド化合物を下記式(II)に示す条件を満たす量を配合する重荷重用タイヤ。 低硫黄濃度ゴム組成物の酸化亜鉛の配合量(質量部)>Sb×1.3+(Sa-Sb)×0.3・・・・・・・(I) [式中、Saは高硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量(質量部)、Sbは低硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量(質量部)を示す。] 低硫黄濃度ゴム組成物の老化防止剤及び/又はナフトエ酸ヒドラジド化合物の配合量(モル)>0.005+(Sa-Sb)/2000・・・・・・(II) [式中のSa及びSbは式(I)に記載の内容と同じである。]」 イ 甲第2号証 本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証の【表1】には、実施例1?4、6、7のゴム成分が天然ゴム(NR)80重量部とイソプレンゴム(IR)20重量部からなることが記載され、実施例5のゴム成分が天然ゴム(NR)80重量部、ブタジエンゴム(BR)20重量部からなることが記載されている。また、【表1】の実施例1?7には、配合量として純硫黄分が2.0重量部または2.5重量部、酸化亜鉛を3.0重量部または3.5重量部とし、熱老化前の試験片の破断時伸び(熱老化前EB)が、510%?610%となることが記載されている。 以上のことと、【請求項1】、段落【0002】、【0014】、【0016】、【0048】、【0050】の記載から、次の技術的事項が記載されているものと認める。 「天然ゴム(NR)80重量部とイソプレンゴム(IR)20重量部または天然ゴム(NR)80重量部とブタジエンゴム(BR)20重量部に対して、純硫黄分2.0重量部または2.5重量部配合し、酸化亜鉛を3.0重量部または3.5重量部配合したブレーカークッション用ゴム組成物であって、 前記ブレーカークッション用ゴム組成物は、該ゴム組成物を、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、得られた加硫ゴム組成物の熱老化前の破断時伸びが510%?610%であるブレーカークッション用ゴム組成物。」 (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について (ア) 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「重荷重タイヤ」は本件特許発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。 また、甲第1号証には「硫黄」が架橋剤由来の純硫黄成分であることの直接的な記載はないものの、硫黄架橋された隣接部材間の硫黄の移行を課題としているものであるから(段落【0001】、【0002】)、「硫黄の配合量」は架橋剤由来の純硫黄成分配合量を示していることは明らかといえる。 (イ)本件特許発明1の「ブレーカークッション」はゴムからなる部材であり、甲1発明の「スチールコードとそのコーテイングゴム」と本件特許発明1の「ブレーカー」はいずれも「タイヤ構造物」といえるものであるから、甲1発明の「ゴム部材と、該ゴム部材に隣接するスチールコードとそのコーテイングゴムを有する重荷重タイヤであって、」と、本件特許発明1の「ブレーカークッションと、該ブレーカークッションに隣接するブレーカーとを有する空気入りタイヤであって、」とは、「ゴム部材と、該ゴム部材に隣接するタイヤ構造物を有する空気入りタイヤであって、」の限度で一致するといえる。 (ウ)天然ゴムはイソプレン系ゴムであるから、甲1発明の「前記ゴム部材は、ゴム成分が天然ゴムからなり、ゴム成分100質量部に対する硫黄の配合量が2質量部である低硫黄濃度ゴム組成物からなり、」と、本件特許発明1の「前記ブレーカークッションは、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が35?100質量%、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.1?6.0質量部であるブレーカークッション用ゴム組成物からなり、」とは、「前記ゴム部材は、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が35?100質量%であるゴム部材用ゴム組成物からなり、」の限度で一致するといえる。 (エ)甲1発明の「スチールコード」は上記(イ)の「タイヤ構造物」を構成する一部材であるから、甲1発明の「前記スチールコードは、コーテイングゴムである高硫黄濃度ゴム組成物でコーテイングされ、」と、本件特許発明1の「前記ブレーカーは、ブレーカーコードをブレーカーコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、」とは、「前記タイヤ構造物は、コードをコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、」の限度で一致するといえる。 (オ)甲1発明の「前記低硫黄濃度ゴム組成物と前記高硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量の差が、4質量部または2質量部である重荷重用タイヤ。」と、本件特許発明1の「前記ブレーカークッション用ゴム組成物と、前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物との前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量が、下記式を満たす空気入りタイヤ。0.00<(前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99」とは、「前記ゴム部材用ゴム組成物と、前記コード被覆用ゴム組成物との硫黄成分配合量が、下記式を満たすもの(2質量部)も含まれる空気入りタイヤ。0.00<(前記コード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ゴム部材用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99」の限度で一致するといえる。 (カ)以上のことから、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。 〔一致点〕 「ゴム部材と、該ゴム部材に隣接するタイヤ構造物を有する空気入りタイヤであって、 前記ゴム部材は、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が35?100質量%であるゴム部材用ゴム組成物からなり、 前記タイヤ構造物は、コードをコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、 前記ゴム部材用ゴム組成物と、前記コード被覆用ゴム組成物との硫黄成分配合量が、下記式を満たすもの(2質量部)も含まれる空気入りタイヤ。 0.00<(前記コード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ゴム部材用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99」 〔相違点1〕 「ゴム部材」、「ゴム部材用ゴム組成物」、「タイヤ構造物」、「コード」、「コード被覆用ゴム組成物」について、本件特許発明1が「ブレーカークッション」、「ブレーカークッション用ゴム組成物」、「ブレーカー」、「ブレーカーコード」、「ブレーカーコード用ゴム組成物」であって、「ブレーカークッション用ゴム組成物」は、「ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.1?6.0質量部であ」り「該ゴム組成物を単独で、170℃、12分間の加硫条件で加硫することにより得られた加硫ゴムの破断時伸びが350%以上であり」というものであって、さらに、「ブレーカークッション用ゴム組成物」(ゴム部材用ゴム組成物)と「ブレーカーコード被覆用ゴム組成物」(コード被覆用ゴム組成物)との純硫黄成分配合量が、「0.00<(前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)-(前記ブレーカークッション用ゴム組成物の前記架橋剤由来の純硫黄成分配合量)<3.99」を満たすのに対し、甲1発明は、ゴム部材の具体的な種類が明らかでなく、スチールコードとそのコーテイングゴムからなる部材の具体的な種類も明らかでなく、したがって、対応するゴム組成物やコードの用途も明らかでなく、「低硫黄濃度ゴム組成物」(ゴム部材用ゴム組成物)は硫黄の配合量が2質量部であり、破断時伸びも明らかでなく、さらに、ゴム組成物の用途を別にすれば、「低硫黄濃度ゴム組成物」(ゴム部材用ゴム組成物)と「高硫黄濃度ゴム組成物」(コード被覆用ゴム組成物)の硫黄の配合量の差が、上記の不等式の関係を満たす「2質量部」のものがあるものの、満たさない「4質量部」のものもある点。 〔相違点2〕 本件特許発明1が、酸化亜鉛、老化防止剤、ナフトエ酸ヒドラジド化合物の配合量の特定がないのに対し、甲1発明は、「酸化亜鉛を下記式(I)かつ、低硫黄濃度ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する老化防止剤及び/又はナフトエ酸ヒドラジド化合物を下記式(II)に示す条件を満たす量を配合する」「低硫黄濃度ゴム組成物の酸化亜鉛の配合量(質量部)>Sb×1.3+(Sa-Sb)×0.3・・・・・・・(I) [式中、Saは高硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量(質量部)、Sbは低硫黄濃度ゴム組成物の硫黄の配合量(質量部)を示す。] 低硫黄濃度ゴム組成物の老化防止剤及び/又はナフトエ酸ヒドラジド化合物の配合量(モル)>0.005+(Sa-Sb)/2000・・・・・・(II) [式中のSa及びSbは式(I)に記載の内容と同じである。]」という事項を特定している点。 (キ)上記相違点1について検討する。 空気入りタイヤにおいて、ゴム部材と該ゴム部材に隣接するスチールコードとそのコーテイングゴムを有するタイヤ構造物として、ブレーカークッションと該ブレーカークッションに隣接するブレーカーであり、前記ブレーカーは、ブレーカーコードをブレーカーコード被覆用ゴム組成物で被覆されているものは、本件特許の出願前の周知技術といえるものであるので、甲1発明の具体的用途として、ブレーカークッション及びブレーカーに適用することが一応考えられる。 しかしながら、その場合であっても、ブレーカークッション用ゴム組成物となる「低硫黄濃度ゴム組成物」の純硫黄成分配合量は2質量部となり、本願特許発明1の事項を満たさない。また、「低硫黄濃度ゴム組成物」を「単独で、170℃、12分間の加硫条件で加硫することにより得られた加硫ゴムの破断時伸び」も明らかでない。 ここで、甲第2号証においては、その段落【0002】に記載されるように、ブレーカーやケースからのブレーカークッションへの硫黄の移動を課題としているとしても、その解決手段としては、【請求項1】示されるように、ブレーカークッション用ゴム組成物単体として硫黄と酸化亜鉛の配合量を特定範囲内とすることであり、もとより「ブレーカークッション用ゴム組成物」と「ブレーカーコード被覆用ゴム組成物」との硫黄成分配合量の差を特定の数値範囲内としてタイヤの耐久性を高める技術思想が開示されているとはいえないものである。 したがって、上記甲第2号証に記載された技術事項から、本件特許発明1のブレーカークッション用ゴム組成物の純硫黄成分配合量の数値範囲(2.1?6.0質量部)を満たすところの「純硫黄分」が「2.5質量部」(なお、甲第2号証では配合量の単位が「重量部」であるが、実質的に意味するところは「質量部」と等価と認める。)である実施例1?3、5に対応する「ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの配合量が80質量%または100質量%、ゴム成分100質量部に対する架橋剤由来の純硫黄成分配合量が2.5質量部であり、単独で、170℃、12分間の加硫条件で加硫することにより得られた加硫ゴムの破断時伸びが510?550%であるブレーカークッション用ゴム組成物」の事項が仮に把握できたとしても、上記数値範囲を満たさない「純硫黄分」が「2.0質量部」である実施例4、6、7も存在する中で、上記事項のみ取り出して、甲1発明のうち「低硫黄濃度ゴム組成物」と「高硫黄濃度ゴム組成物」の硫黄の配合量の差が、上記の不等式の関係を満たす「2質量部」のものに対して適用する動機付けは見当たらない。 さらにいえば、そもそも甲1発明をブレーカークッション及びブレーカーに適用した上で、さらに甲第2号証に記載された技術事項を適用することになり、いわゆる容易の容易ということになるので、この点からみても上記適用は当業者にとって容易になし得たということはできない。 また、甲第3ないし6号証を検討しても、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項に対応する開示はなく、甲1発明に甲第3ないし6号証に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとはならない。 よって、甲1発明において、少なくとも上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。 イ 本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3) 小活 上記のとおり、本件特許発明1ないし5は、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、異議理由2の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし5を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上検討したとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-01-19 |
出願番号 | 特願2012-277093(P2012-277093) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B60C)
P 1 651・ 537- Y (B60C) P 1 651・ 536- Y (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 梶本 直樹 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 覚 小原 一郎 |
登録日 | 2016-03-18 |
登録番号 | 特許第5901508号(P5901508) |
権利者 | 住友ゴム工業株式会社 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |