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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
管理番号 1324883
異議申立番号 異議2016-700649  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-29 
確定日 2017-02-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5928504号「水処理方法及び水処理システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5928504号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5928504号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成24年5月7日に出願された特願2012-106295号の一部を平成26年2月19日に新たな特許出願としたものであって、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 吉田秀平 及び 後藤 衞 よりそれぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5928504号の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
包装飲食物の殺菌処理装置からホルムアルデヒド含有排水を回収する回収工程と、
前記排水に対し、亜硫酸水素塩を添加し、前記排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、pH5?7(但し、pH7を除く)であり、かつ、反応温度が20℃以上60℃以下であり、かつ、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する反応工程と、
前記反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのままポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する除去工程と、
前記除去工程で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水を用水として再利用する利用工程と、
を含む、水処理方法。
【請求項2】
次式で表される有効モル比が1以上となる量で、前記亜硫酸水素塩を前記排水に添加する請求項1に記載の水処理方法。
有効モル比=(亜硫酸水素イオンのモル数-酸化剤のモル数)/ホルムアルデヒドのモル数
【請求項3】
包装飲食物の殺菌処理装置からホルムアルデヒド含有排水を回収する回収手段と、
前記排水に対し、亜硫酸水素塩を添加する亜硫酸水素塩添加手段と、
前記排水と前記亜硫酸水素塩とを混合し、前記排水に含まれるホルムアルデヒドと前記亜硫酸水素塩から生成した亜硫酸水素イオンとを、pH5?7(但し、pH7を除く)であり、かつ、反応温度が20℃以上60℃以下であり、かつ、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させて、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する混合手段と、
前記混合手段で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのままポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する除去手段と、
前記除去手段で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水を用水として再利用する利用手段と、
を備える水処理システム。
【請求項4】
次式で表される有効モル比が1以上となる量で、前記亜硫酸水素塩を前記排水に添加する請求項3に記載の水処理システム。
有効モル比=(亜硫酸水素イオンのモル数-酸化剤のモル数)/ホルムアルデヒドのモル数
【請求項5】
前記ポリアミド系逆浸透膜の上流側に流れる液に含まれる全有機炭素量と、前記ポリアミド系逆浸透膜の下流側に流れる液に含まれる全有機炭素量との差であるTOC差を測定する全有機炭素量測定手段を備え、
前記TOC差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する、請求項3に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記ポリアミド系逆浸透膜の上流側に流れる液に含まれる亜硫酸水素イオン濃度と、前記ポリアミド系逆浸透膜の下流側に流れる液に含まれる亜硫酸水素イオン濃度との差を測定する亜硫酸水素イオン測定手段を備え、
前記亜硫酸水素イオン濃度の差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する、請求項3に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記ポリアミド系逆浸透膜の上流側に流れる液に含まれるヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度と、前記ポリアミド系逆浸透膜の下流側に流れる液に含まれるヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度との差を測定するヒドロキシメタンスルホン酸イオン測定手段を備え、
前記ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度の差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する、請求項3に記載の水処理システム。

第3 特許異議申立の理由について
A.異議申立人 吉田秀平 の異議申立について
異議申立人 吉田秀平は、以下の甲各号証を証拠として提出し、取消理由Aに示す概要の理由により、本件発明1ないし7に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。
<取消理由A>
本件発明1ないし7に係る特許は、同発明が、その出願の原出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載の技術手段を参酌すると、同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願の原出願日前の甲第1号証の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の原出願日において、その出願人が上記甲第1号証の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。
<証拠>
甲第1号証 :特願2012-77254号
(特開2015-37766号公報)
甲第2号証 :特開2005-296414号公報
甲第3号証 :特開2004-202313号公報
甲第4号証 :特開2005-137949号公報
甲第5号証 :特表平11-504855号公報
甲第6号証 :特開2007-218866号公報
甲第7号証 :特開2005-351838号公報
甲第8号証 :特開2010-131579号公報
甲第9号証 :特開2010-104919号公報
甲第10号証:特開平9-57076号公報
甲第11号証:「超低圧逆浸透膜『ESシリーズ』」、
川崎睦男、河田一郎、膜(MEMBRANE)、
1997年、第22巻、第2号、111-113頁

B.異議申立人 後藤 衞 の異議申立について
異議申立人 後藤 衞は、以下の甲各号証(以下、「甲第X号証」を「丙第X号証」と記す。)を証拠として提出し、取消理由B1またはB2に示す概要の理由により、本件発明1ないし7に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。
<取消理由B1>
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、その出願の原出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた丙第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と、丙第2号証?丙第5号証に記載の技術手段及び参考資料1を参酌すると、同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願の原出願日前の丙第1号証の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の原出願日において、その出願人が上記丙第1号証の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。
<取消理由B2>
本件発明1ないし7に係る特許は、同発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、または明確でなく、または、発明の詳細な説明の記載が、同発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号または第2号、または、同条第4項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<証拠>
丙第1号証(甲第1号証):特願2012-77254号
(特開2015-37766号公報)
丙第2号証(甲第2号証):特開2010-247009号公報
丙第3号証(甲第3号証):特公昭51-26898号公報
丙第4号証(甲第4号証):有機化学 化学入門コース4、
竹内敬人著、梅澤喜夫ら編、
2007年5月25日、株式会社岩波書店、
226-239頁
丙第5号証(甲第5号証):特開2006-263510号公報
参考資料1 :丙第1号証の実験例のグラフ

なお、以下で「甲第X号証」、「丙第Y号証」を、それぞれ「甲X」、「丙Y」と記すことがある。

第4 当審の判断
==取消理由Aについて==
取消理由Aは、甲第1号証から引用発明を認定して本件発明と対比する場合の取消理由であり、以下に検討する。

1.本件発明1について
1-1.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下のことが記載されている。
ア)「【請求項1】ホルムアルデヒド含有排水に亜硫酸塩を添加した後、逆浸透膜分離処理する工程を有するホルムアルデヒド含有排水の膜処理方法。
【請求項2】請求項1において、逆浸透膜分離処理時のpHが7以上であることを特徴とするホルムアルデヒド含有排水の膜処理方法。
イ)「【0002】食品製造工場の容器洗浄排水や高圧殺菌窯(レトルト)からの冷却排水にホルムアルデヒドが含まれることがある(特許文献1)。」
ウ)「【0012】ホルムアルデヒド含有排水に亜硫酸塩を添加すると、ヒドロキシメタンスルホネートが生成する。このヒドロキシメタンスルホネートは水中で負に帯電しているので、逆浸透膜によって分離される。なお、逆浸透膜における表面電荷がpH値の上昇に伴い負に帯電するため、逆浸透膜分離処理時のpHを高くする(例えばpH7以上とする)ことにより、負に帯電したヒドロキシメタンスルホネートの分離効率が高くなる。」
エ)「【0014】本発明では、好ましくはホルムアルデヒド含有排水にまず亜硫酸塩を添加してヒドロキシメタンスルホネートを生成させる。この亜硫酸塩としてはNa_(2)SO_(3)又はNaHSO_(3)が好適である。」
オ)「【0016】この亜硫酸塩とホルムアルデヒドとの反応時のpHは3?8程度であればよい。また、反応時間は5分以上例えば10?15分程度であればよい。」
カ)「【0017】この亜硫酸塩を添加したホルムアルデヒド含有排水を、その後、逆浸透膜(RO膜)によって膜分離処理する。この場合、前述の通り、RO膜への給水のpHの上昇に伴いRO膜表面の電荷がマイナスとなり、負に帯電したヒドロキシメタンスルホネートが分離され易くなるので、pHを7以上特に7?11とりわけ8?11とすることが好ましい。」
キ)「【0021】このホルムアルデヒド含有排水に対し[SO_(3)]/[HCHO](重量比)が0,2,3,5,8又は10となるように亜硫酸ナトリウムを添加した(「0」の場合は添加せず)。常温で5分撹拌した後、RO装置(日東電工製ES-20)に通水してRO処理した。透過水のホルムアルデヒド濃度を測定し、ホルムアルデヒド除去率を求めた。結果を表1に示す。」

1-2.甲第1号証に記載された発明
i)甲1の記載事項ア)から、請求項2を請求項1を引用して独立形式で記載すれば、甲1には、
「ホルムアルデヒド含有排水に亜硫酸塩を添加した後、逆浸透膜分離処理する工程を有し、逆浸透膜分離処理時のpHが7以上であるホルムアルデヒド含有排水の膜処理方法。」について記載されているといえる。
ii)同オ)から、「亜硫酸塩とホルムアルデヒドとの反応時のpHは3?8程度」である。
iv)「逆浸透膜分離処理する工程」では、同キ)から、「RO装置(日東電工製ES-20)」を用いているといえる。
v)同イ)から、「ホルムアルデヒド含有排水」は「食品製造工場の容器洗浄排水や高圧殺菌窯(レトルト)からの冷却排水」であり、上記「膜処理方法」は「ホルムアルデヒド含有排水」を処理するものだから、処理対象である「ホルムアルデヒド含有排水」を集めるための回収工程は当然に存在するといえる。
vi)同ウ)カ)から、上記「膜処理方法」では、「ホルムアルデヒド含有排水に亜硫酸塩を添加すると、ヒドロキシメタンスルホネートが生成」し、「このヒドロキシメタンスルホネート」が「逆浸透膜によって分離」される、すなわち、「逆浸透膜」で「ヒドロキシメタンスルホネート」が除去された透過水を製造することが上記「膜処理方法」であるといえる。
vii)同オ)から、「亜硫酸塩とホルムアルデヒドとの反応時」の「反応時間」は「10?15分程度」であるといえる。
viii)以上から、本件発明1の記載に則して整理すると、甲1には、
「食品製造工場の容器洗浄排水や高圧殺菌窯(レトルト)からの冷却排水を集めてホルムアルデヒド含有排水を回収して亜硫酸塩を添加し、pHは3?8程度でホルムアルデヒドと亜硫酸塩を10?15分程度反応させてヒドロキシメタンスルホネートを生成した後、逆浸透膜分離処理時のpHが7以上で、RO装置(日東電工製ES-20)で逆浸透膜分離処理する工程を有し、ヒドロキシメタンスルホネートが逆浸透膜で分離除去された透過水を製造するホルムアルデヒド含有排水の膜処理方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

1-3.本件発明1と引用発明との対比
i)引用発明の「食品製造工場の容器洗浄排水や高圧殺菌窯(レトルト)からの冷却排水を集めてホルムアルデヒド含有排水を回収し」は、本件発明1の「包装飲食物の殺菌処理装置からホルムアルデヒド含有排水を回収する回収工程」に相当する。
ii)甲1の記載事項エ)から、引用発明において「ホルムアルデヒド含有排水」に添加される「亜硫酸塩」は「NaHSO_(3)」すなわち「亜硫酸水素塩」を採用でき、同ウ)から「亜硫酸塩」は「ホルムアルデヒド」と反応して「ヒドロキシメタンスルホネート」を形成するものといえる。
iii)引用発明の「RO装置(日東電工製ES-20)」について、甲11の111頁右欄「2.ESシリーズの一般的特徴」には、日東電工(株)の超低圧逆浸透膜「ESシリーズ」の「ES20」は、「全芳香族架橋ポリアミド系スキン層からなる超低圧逆浸透複合膜」であることが記載されるから、引用発明の「RO装置(日東電工製ES-20)」は、本件発明1の「ポリアミド系逆浸透膜」に相当するといえる。
iv)本件発明1では、「反応工程」において「排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、pH5?7(但し、pH7を除く)であり、かつ、反応温度が20℃以上60℃以下であり、かつ、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する」のに対して、引用発明では、「ホルムアルデヒド含有排水を回収して亜硫酸塩を添加し、pHは3?8程度でホルムアルデヒドと亜硫酸塩を10?15分程度反応させてヒドロキシメタンスルホネートを生成」するから、両者は「排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、特定のpH、特定の反応温度、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する」点で一致する。
v)本件発明1では、「除去工程」において「反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのままポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する」のに対して、引用発明では、「逆浸透膜分離処理時のpHが7以上で、RO装置(日東電工製ES-20)で逆浸透膜分離処理する工程を有し、ヒドロキシメタンスルホネートが逆浸透膜で分離除去された透過水を製造する」から、両者は「反応工程で得られた反応工程後排水を、特定のpHでポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する」点で一致する。
vi)本件発明1の「水処理方法」も、引用発明の「膜処理方法」も、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」すなわち「ヒドロキシメタンスルホネート」を生成させて、逆浸透膜で分離除去して透過水を得るものだから、引用発明の「膜処理方法」は本件発明1の「水処理方法」に相当するといえる。
vii)以上から、本件発明1と引用発明とは、
「包装飲食物の殺菌処理装置からホルムアルデヒド含有排水を回収する回収工程と、
前記排水に対し、亜硫酸水素塩を添加し、前記排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、特定のpH、特定の反応温度、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する反応工程と、
前記反応工程で得られた反応工程後排水を、特定のpHでポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する除去工程と、
を含む水処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)「排水に含まれるホルムアルデヒドと亜硫酸水素イオンとを、特定のpH、特定の反応温度、反応時間が10分以上10時間以下である条件で反応させてヒドロキシメタンスルホン酸イオンを生成する」点について、「特定のpH」と「特定の反応温度」は、本件発明1では「pH5?7(但し、pH7を除く)」で「20℃以上60℃以下」であるのに対して、引用発明では「pHは3?8程度」で反応温度は明示がない点。
(相違点2)「反応工程で得られた反応工程後排水を、特定のpHでポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する」点について、「特定のpH」は、本件発明1では「反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水」を「そのままポリアミド系逆浸透膜に供給する」から「pH5?7(但し、pH7を除く)」であるのに対して、引用発明では「逆浸透膜分離処理時のpHが7以上」である点。
(相違点3)本件発明1では「除去工程で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水を用水として再利用する利用工程」を有するのに対して、引用発明では「透過水」の「ホルムアルデヒド濃度」と「透過水を用水として再利用する利用工程」について不明である点。

1-4.相違点の検討
i)事案に鑑み、相違点2について検討する。
相違点2は、生成した「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」(「ヒドロキシメタンスルホネート」)を「ポリアミド系逆浸透膜」で分離する際に、本件発明1では「pH5?7(但し、pH7を除く)」とするのに対して、引用発明では「pHが7以上」とするものである。
ここで、両者のpHの値が持つ技術的な意味について検討する。
本件特許明細書【0019】【0020】には、「アルカリ」の存在下では「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」は「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」とに分解する逆反応が起きることが記載されており、逆反応が起きれば、再生成した「ホルムアルデヒド」が「ポリアミド系逆浸透膜」を透過してしまい透過水中に多く含まれることになるので、これを防止するために、本件発明1では「pH5?7(但し、pH7を除く)」とするものといえる。
これに対して、甲1の記載事項ウ)カ)には、「ヒドロキシメタンスルホネートは水中で負に帯電して」おり、「逆浸透膜における表面電荷がpH値の上昇に伴い負に帯電するため、逆浸透膜分離処理時のpHを高くする(例えばpH7以上とする)ことにより、負に帯電したヒドロキシメタンスルホネートの分離効率が高くなる」と記載されており、引用発明においては「ヒドロキシメタンスルホネート」の「逆浸透膜」における分離効率を高めるために「pH7以上とする」、「とりわけ8?11とすることが好ましい」ことが示されている。
すなわち、生成した「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」(「ヒドロキシメタンスルホネート」)を「ポリアミド系逆浸透膜」で分離する際に、本件発明1では逆反応による「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の「ホルムアルデヒド」への分解を防ぐために「pH5?7(但し、pH7を除く)」とすることを要するものであるのに対して、引用発明では「ヒドロキシメタンスルホネート」の「逆浸透膜」における分離効率を高めるために「pH7以上とする」、「とりわけ8?11」とすることを要するものだから、両者のpHの値は技術的意味が相違するものといえる。
ii)この点で、甲2?甲10の記載を検討するに、
甲2には、加熱殺菌した容器の冷却水は多量なので逆浸透膜により処理して回収する旨の技術手段が示され(【0002】?【0004】)、
甲3には、飲料容器の洗浄廃水の処理は種々の物質を完全に除去する必要がある旨の技術手段が示され(【0004】)、
甲4には、食品関連工場の製造工程から排出される排出工程水を再利用する旨の技術手段が示され(【0001】)、
甲5には、種々起源の有機汚染物質、無機汚染物質により汚染されたビンや容器の洗浄水、濯ぎ水を飲料水品質に精製回収して循環使用する旨の技術手段が示され(【発明の詳細な説明】5頁2-21行)、
甲6には、平成16年4月1日から施行された改正水道法により、ホルムアルデヒドは水道水1リットル当たり0.08mg以下という基準になっている旨の技術手段が示され(【0002】)、
甲7には、水道水質基準ではホルムアルデヒドについては、水質基準値が80ppb(=0.080mg/L)である旨の技術手段が示され(【0002】)、
甲8には、逆浸透膜の処理水(処理水水質)の変化の要因(変化要因)の値の変化を検出することで膜の劣化度に関する膜性能を検出可能であり、検出するものとして、処理水流量、水温、処理水水質(電気伝導度)、除去率(イオン成分を除去した割合)、透過率、透過流束等がある旨の技術手段が示され(【0016】【0017】【0026】)、
甲9には、RO装置の後段(透過水)に水質計、TOC計を設け、水質計は電導度計(電解質、有機物濃度)、TOC計で、RO膜の劣化による阻止率の低下を監視できる旨の技術手段が示され(【0050】)、
甲10には、濃縮水中の酸化剤の検出方法として、残存SBS(重亜硫酸ナトリウム=亜硫酸水素ナトリウム)の計測があり、SBSが少ないほど還元剤が少なく酸化剤が多い旨の技術手段(【0020】)が示され、
何れの証拠にも、上記pHの技術的な意味について開示されているものは見当たらないので、上記pHの技術的な意味が周知技術であるともいえない。
iii)すると、本件発明1の「pH5?7(但し、pH7を除く)」と引用発明の「pHが7以上」とは、そもそもpHの数値範囲として相違する上に、技術的意味が異なるから、引用発明の「pHが7以上」が本件発明1の「pH5?7(但し、pH7を除く)」に相当するものであるとはいえないことは明らかである。
よって、上記相違点2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明と同一発明とはいえない。

1-5.本件発明1についての結言
以上から、本件発明1に係る特許は、同発明が、その出願の原出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と、甲第2号証?甲第11号証に記載の技術手段を参酌しても、同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

2.本件発明3について
「水処理システム」の発明である本件発明3と、「水処理方法」である本件発明1は、特定事項の記載からみて、発明のカテゴリーのみを異にするだけで、実質的に同一発明であるから、本件発明1に係る特許と同様に、本件発明3に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

3.本件発明2、4ないし7について
本件発明2は本件発明1を引用し、本件発明4ないし7はいずれも本件発明3を引用するから、本件発明1及び3に係る特許と同様に、本件発明2並びに4ないし7に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

==取消理由B1について==
取消理由B1は、丙第1号証から引用発明を認定して本件発明1と対比する場合の取消理由であり、以下に検討する。

1.本件発明1について
1-1.丙第1号証に記載の発明及び本件発明1との対比
丙第1号証は、取消理由Aの甲第1号証であるから、丙第1号証に記載された発明(引用発明)及び本件発明1との一致点、相違点は上記「==取消理由Aについて==」の「1-2.」「1-3.」を援用する。
ただし、「1-3.iii)」で引用するのは甲第11号証ではなく、丙第5号証の【0051】である。

1-2.相違点の検討
i)上記「1-4.i)」を援用する。
ii)丙2?丙5、参考資料1の記載を検討するに、
丙2には、清涼飲料水等の容器の殺菌洗浄装置の廃液からのアルデヒドの除去が必要である旨の技術手段(【0001】?【0003】)が示され、
丙3には、「ホルムアルデヒド等のアルデヒド類は亜硫酸塩及び酸性亜硫酸塩と反応して付加物を生成することは古くから知られている」(2欄32-34行)、「亜硫酸塩を用いた場合これらアルデヒド類との反応により必然的にアルカリが副生し、反応系は強アルカリを呈する結果、反応の平衡は原系側にかたより反応は円滑に進行しない。一方、酸性亜硫酸塩を使用した場合にはアルカリの副生はないが反応自体が遅く、」(2欄37行?3欄5行)と記載され、亜硫酸水素ナトリウム(酸性亜硫酸塩)、亜硫酸ナトリウム(亜硫酸塩)それぞれとホルムアルデヒドとの反応式についての技術手段が示され(3頁12-14行)ているが、亜硫酸水素ナトリウム(亜硫酸水素塩)とホルムアルデヒドとが反応して付加物を生成する反応において、アルカリ性では逆反応が起きる旨の開示は見いだせず、また、付加物が逆浸透膜を透過しないことを利用して、ホルムアルデヒドを除去する旨の開示も見いだせない。
丙4には、アルデヒドに亜硫酸水素ナトリウム(亜硫酸水素塩)を添加すると亜硫酸水素ナトリウム付加物(ヒドロキシメタンスルホネート)が生成し、「付加物に酸または塩基を加えると、平衡状態で存在する亜硫酸水素ナトリウム付加物がこわれ、カルボニル化合物が再生する」(237?238頁)と記載されており、亜硫酸水素ナトリウムとホルムアルデヒドとが反応して付加物を生成する反応において、アルカリ性では逆反応が起きる旨の技術手段が示されているが、どの程度のpHで逆反応が起きるのか不明であり、また、亜硫酸水素ナトリウム付加物が逆浸透膜を透過しないことを利用して、ホルムアルデヒドを除去する旨の開示は見いだせない。
丙5には、膜分離用スライム防止剤及び膜分離方法に関し、「ポリアミド系逆浸透膜(ES20-D4 日東電工(株)製)」(【0051】)と記載されている。
参考資料1は、丙第1号証の実験例のグラフである。
iii)以上でみたように、丙2,丙3,丙5及び参考資料1は、上記「==取消理由Aについて== 1-4.」でみたpHの技術的意味について言及するものではなく、また、丙4はpHの技術的意味について言及するが、「逆浸透膜」における分離効率を高めるために「pH7以上とする」引用発明において、丙4を参酌しても、「逆浸透膜」における分離効率を高めるという利点を捨ててまでも当然に「pH5?7(但し、pH7を除く)」とするための理由は見いだせない。
iv)すると、引用発明の「pHが7以上」が本件発明1の「pH5?7(但し、pH7を除く)」に相当するものであるとはいえないことは明らかである。
よって、上記相違点2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明と同一発明とはいえない。

1-3.本件発明1についての結言
以上から、本件発明1に係る特許は、同発明が、その出願の原出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた丙第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と、丙第2号証?丙第5号証に記載の技術手段及び参考資料1を参酌しても、同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

2.本件発明3について
「水処理システム」の発明である本件発明3と、「水処理方法」である本件発明1は、特定事項の記載からみて、発明のカテゴリーのみを異にするだけで、実質的に同一発明であるから、本件発明1に係る特許と同様に、本件発明3に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

3.本件発明2、4について
本件発明2は本件発明1を引用し、本件発明4は本件発明3を引用するから、本件発明1及び3に係る特許と同様に、本件発明2及び4に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。

==取消理由A及びB1の証拠を合わせてみた場合について==
甲第1号証(すなわち丙第1号証)より認定した引用発明において、「pHが7以上」であることが、本件発明1の「pH5?7(但し、pH7を除く)」に相当するものであることを裏付ける点は、上記で検討したように、甲第2?11号証と丙第2?5号証及び参考資料1を合わせて参酌しても、見いだすことができない。
よって、本件発明1ないし7は、甲第2?11号証と丙第2?5号証及び参考資料1を合わせて参酌しても、引用発明(甲第1号証すなわち丙第1号証)と同一発明であるとは認められない。

==取消理由B2について==
取消理由B2は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載不備に関するものであり、以下に詳細に検討する。

1.本件発明1について
1-1.「(4.4.1.1)1C:反応工程」(異議申立書28-29頁)について
<異議申立人の主張の概要>
本件発明1の「反応工程」における「pH5?7(但し、pH7を除く)で反応させ」について、pH範囲についての実施例における言及がなく、「pH5?7(但し、pH7を除く)」で反応させる効果が発明の詳細な説明において証明されていないから、本件発明1に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
本件発明の課題は「【0007】本発明は、迅速かつ安定的に、ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去することのできる水処理方法及び水処理システムを提供することを目的とする。」もので、その解決手段は「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を生成させ、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を逆浸透膜で分離することで「ホルムアルデヒド」を原水から分離するものであるから、「ホルムアルデヒド」を原水から分離するという課題を解決できていれば、それが本件発明の効果であって、当該効果は例えば「反応工程」と「除去工程」とに分けて記載される必要は無く、「ホルムアルデヒド」を原水から分離できていれば、それは「反応工程」の効果ということができる。
そして、本件発明は「pH5?7(但し、pH7を除く)」とすることで「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」が「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」に分解されることを防ぐ(【0018】【0019】【0039】等)ことにより、「ホルムアルデヒド」を原水から分離するという上記効果を奏するものだから、例えば[実施例5](【0074】)(原水でホルムアルデヒド3.3mg/L)で、亜硫酸水素ナトリウムの添加後の「透過水」中のホルムアルデヒド濃度が検出限界未満となって、「ホルムアルデヒド」を原水から分離するという上記本件発明の効果が奏されることが示されているので、これは当然に「pH5?7(但し、pH7を除く)」であることを前提とするものといえる。
よって、「反応工程」において「pH5?7(但し、pH7を除く)」で反応させる効果は本件特許明細書に記載されているといえるものであり、本件発明1の効果は、発明の詳細な説明に記載されているものといえる。
よって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

1-2.「(4.4.1.2)1D:除去工程」(異議申立書29頁)について
<異議申立人の主張の概要>
本件発明は、ホルムアルデヒドを含む原水を逆浸透膜に透過させてホルムアルデヒドを除去することを課題とし、その解決手段として、「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を生成させ、同イオンを逆浸透膜で除去することでホルムアルデヒドを除去するものであるから、本件発明1の「除去工程」において「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」が実施例でも測定されていないことは、「ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去すること」が発明の詳細な説明に記載されていないことになるから、本件発明1に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の濃度を測定する実施例はないが、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」は「ホルムアルデヒド」が「亜硫酸水素イオン」と反応して形を変えたものであって、同イオンは逆浸透膜を透過しない(【0018】参照)から、透過水中の「ホルムアルデヒド」を計測して検出限界未満であれば、それは結局のところ、ホルムアルデヒドを含む原水中からホルムアルデヒドが除去されたことといえる。
そして、例えば[実施例5](【0074】)では透過水中の「ホルムアルデヒド」濃度は検出限界未満である。
したがって、「ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去すること」は発明の詳細な説明に記載されているといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

1-3.「(4.4.1.3)1E:利用工程」(異議申立書29-30頁)について
<異議申立人の主張の概要>
本件発明1の「利用工程」において、「除去工程で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水」に「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」が含まれているか否か不明なので、本件発明1は明確でなく、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
本件発明は、「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を生成させ、同イオンを逆浸透膜で除去することでホルムアルデヒドを除去するものであるから、本件発明1の「除去工程」で製造された逆浸透膜の透過水には「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」が原理的に含まれない。
したがって、「利用工程」における「除去工程で製造されたホルムアルデヒド濃度が0.08mg/L以下の透過水」に「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」は含まれないのは明らかである。
よって、本件発明1は明確で、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

2.本件発明2、4について
2-1.「(4.4.2.1)2G、2Ga」(異議申立書30頁)について
2-2.「(4.4.4.1)4G、4Ga」(異議申立書33頁)について
本件発明2、4の特定事項は共通するのでまとめて検討する。

<異議申立人の主張の概要>
本件発明2、4の「有効モル比」について、実施例において言及がなく、発明の詳細な説明においてその効果は具体的に証明されていないから、本件発明2に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
本件明細書【0038】には、「有効モル比」について、原水中に「次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤」が混入した場合に、「亜硫酸水素イオン」を添加しても「亜硫酸水素イオンは、還元剤として作用するため、原水W1中に含まれる酸化剤と反応して失われてしまう」ことから、予め「酸化剤」混入量を差し引いて「亜硫酸水素イオン」の有効量、したがって「有効モル比」を見積もる旨が記載されており、「亜硫酸水素イオン」の添加により「ホルムアルデヒド」を「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の形にして膜の透過を阻止せしめる本件発明1であれば、実施例に言及がなくとも、その実施に当たっては、【0038】の記載のみから「有効モル比」について考慮することは当然といえるから、本件発明2に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえ、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものでない。

3.本件発明3について
3-1.「(4.4.3.1)3C:混合手段」(異議申立書31頁)について
3-2.「(4.4.3.2)3D:除去手段」(異議申立書31-32頁)について
3-3.「(4.4.3.3)3E:利用手段」(異議申立書32頁)について
上記三者の「手段」に関する記載不備について、以下にまとめて検討する。
「水処理システム」の発明である本件発明3と、「水処理方法」である本件発明1は、特定事項の記載からみて、発明のカテゴリーのみを異にするだけで、実質的に同一発明である。
すると、本件発明1の「1C:反応工程」、「1D:除去工程」、「1E:利用工程」は、本件発明3の「3C:混合手段」、「3D:除去手段」、「3E:利用手段」にそれぞれ対応する。
よって、「3C:混合手段」、「3D:除去手段」、「3E:利用手段」についての記載不備の主張については、それぞれ上記「1-1.」の「1C:反応工程」での検討、「1-2.」の「1D:除去工程」での検討、「1-3.」の「1E:利用工程」での検討と同旨であるので、本件発明3に係る特許は、特許法第36条第6項第1,2号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

4.本件発明5-7について
4-1.「(4.4.5)請求項5」(異議申立書33-34頁)について
4-2.「(4.4.6)請求項6」(異議申立書34頁)について
4-3.「(4.4.7)請求項7」(異議申立書34-35頁)について
上記三者の「逆浸透膜の劣化の程度を判断」することに関する記載不備について、以下にまとめて検討する。
<異議申立人の主張の概要>
(1)本件発明5-7は、それぞれ本件発明3を引用するから、本件発明3と同様の記載不備がある。
(2)「ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する」に際して、
本件発明5は「TOC差に基づいて」、本件発明6は「亜硫酸水素イオン濃度の差に基づいて」、本件発明7は「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度の差に基づいて」行うが、いずれもその具体的な方法、手段が特定されず、
本件発明5については、「TOC」には種々の成分が含まれるので、「TOC差」が一定以上になっても、どの成分によるかは不明であることから、
本件発明6については、「亜硫酸水素イオン」は過剰分のほか、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の分解によっても生成することから、
本件発明7については、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度」は「ホルムアルデヒド濃度」と一定の相関関係にあるものでもないから、
本件発明5-7は、明確でなく、発明の詳細な説明に記載されてもいないので、本件発明3-5に係る特許は、特許法第36条第6項第1,2号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
(1)については、本件発明3の記載不備についての上記「3.本件発明3について」の判断のとおりである。
(2)については、逆浸透膜の劣化を判断するのに、例えば、透過前の原水(「ポリアミド系逆浸透膜の上流側に流れる液」)に含まれる成分と、透過水(「ポリアミド系逆浸透膜の下流側に流れる液」)に含まれる成分とを比較し、透過してはならない成分が透過するようになれば膜の劣化は明らかで、その場合には両成分の差が小さくなることは当然であるから、当該差が一定値以下になったときに膜の劣化を判断することは技術常識といえる。
そして、本件発明は、「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を生成させ、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を逆浸透膜で分離することで「ホルムアルデヒド」を原水から分離するものであり、「pH5?7(但し、pH7を除く)」とすることで上記反応の逆反応による「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の消失と「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」の再生を防ぐ(例えば本件特許明細書【0019】【0020】【0039】)ものだから、本件発明は、透過水中で、透過によらずに、当該再生により、「TOC」、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」、「ホルムアルデヒド」、「亜硫酸水素イオン」各濃度の増減は生じないことを前提とする。
したがって、本件発明においては、上記成分の逆浸透膜の透過の程度によってのみ、原水と透過水とで成分の濃度が変化するものである。
すると、
本件発明5は、当該成分を「TOC」とするもので、透過するようになった成分が「TOC」を構成するどの物質であろうと、透過するようになってしまったことが膜の劣化を示すものであることにも何ら変わりはなく、原水と透過水の「TOC濃度」を比べれば逆浸透膜の劣化を判断できることは明らかである。
本件発明6は、当該成分を「亜硫酸水素イオン」とするもので、「亜硫酸水素イオン」を過剰に添加すれば、ホルムアルデヒドとの反応分を除いた過剰分が、逆浸透膜を透過する可能性があるというだけで、原水と透過水の「亜硫酸水素イオン濃度」を比べれば逆浸透膜の劣化を判断できることは明らかである。
本件発明7は、当該成分を「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」とするもので、原水と透過水の「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度」を比べれば逆浸透膜の劣化を判断できることは明らかである。
よって、本件特許明細書に直接の記載がなくても、膜の劣化の判断手法は周知ないし技術常識であるから、
本件発明5の「TOC差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する」こと、
本件発明6の「亜硫酸水素イオン濃度の差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する」こと、
本件発明7の「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン濃度の差に基づいて前記ポリアミド系逆浸透膜の劣化の程度を判断する」こと、
は明確であり、発明の詳細な説明に記載されていたものに等しく、本件発明5-7に係る特許は、特許法第36条第6項第1,2号の規定に適合するから、同発明に係る特許は取り消されるべきものでない。

5.発明の詳細な説明について[(4.4.8)発明の詳細な説明(異議申立書35-36頁)]
<異議申立人の主張の概要>
以下の理由により、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないから、取り消されるべきである。 (1)本件発明1の「1C:反応工程」、「1D:除去工程」、「1E:利用工程」は、いずれも実施例で効果が証明されておらず、また具体的な説明もないから、この点において当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(2)本件発明2、4の「有効モル比」について、実施例で効果が証明されておらず、また具体的な説明もないから、この点において当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(3)本件発明3の「3C:混合手段」、「3D:除去手段」、「3E:利用手段」は、いずれも実施例で効果が証明されておらず、また具体的な説明もないから、この点において当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(4)本件特許明細書の【0061】および【0062】において、「RO膜モジュール5」を省略してもよいと記載されているが、
本件発明1の「1D:前記反応工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのままポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する除去工程」、および、
本件発明3の「3D:前記混合工程で得られたpH5?7(但し、pH7を除く)の反応工程後排水を、そのままポリアミド系逆浸透膜に供給することにより、ヒドロキシメタンスルホン酸イオンが除去された透過水を製造する除去手段」、
との関係が不明であり、この点において当業者が実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえない。

<当審の判断>
以下の理由により、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものであるから、取り消されるべきでない。
(1)及び(3)について
本件発明1と本件発明3とはカテゴリーが相違するだけで実質的には同一発明であり、本件発明1の「1C:反応工程」、「1D:除去工程」、「1E:利用工程」は本件発明3の「3C:混合手段」、「3D:除去手段」、「3E:利用手段」にそれぞれ対応する。
そして、本件発明の課題は「【0007】本発明は、迅速かつ安定的に、ホルムアルデヒドを含む原水からホルムアルデヒドを除去することのできる水処理方法及び水処理システムを提供することを目的とする。」もので、その解決手段は「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を生成させ、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を逆浸透膜で分離することで「ホルムアルデヒド」を原水から分離するものであるところ、
例えば、[実施例5](【0074】)には、上記解決手段と効果について具体的に記載されており、これらは「工程」毎に、あるいは、「手段」毎に記載されていなければならないものではないから、同実施例に基づき、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(2)について
本件明細書【0038】には、「有効モル比」について、原水中に「次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤」が混入した場合に、「亜硫酸水素イオン」を添加しても「亜硫酸水素イオンは、還元剤として作用するため、原水W1中に含まれる酸化剤と反応して失われてしまう」ことから、予め「酸化剤」混入量を差し引いて「亜硫酸水素イオン」の有効量、したがって「有効モル比」を見積もる旨が記載されており、「亜硫酸水素イオン」の添加により「ホルムアルデヒド」を「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」の形にして膜の透過を阻止せしめる本件発明2、4であれば、実施例に言及がなくとも、その実施に当たっては、【0038】の記載のみから「有効モル比」について考慮することは当然といえるから、同記載に基づき、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2、4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(4)について
本件特許明細書の【0061】に記載されているのは、「ホルムアルデヒド」と「亜硫酸水素イオン」を反応させて生成させた「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を、「RO膜モジュール」なしに、ただちに「多孔質吸着材床塔」(【0032】)で吸着させるもので、同【0062】に記載されているのは、同じく生成させた「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を、「RO膜モジュール」なしに、ただちに「陰イオン交換樹脂床塔」(【0051】)で吸着させるもので、請求項1の「除去工程」および請求項2の「除去手段」は共に「RO膜モジュール」に関するものである。
よって、いずれも「RO膜モジュール」と同様に、「ヒドロキシメタンスルホン酸イオン」を下流に透過させないためのものであるから、「RO膜モジュール」と「多孔質吸着材床塔」と「陰イオン交換樹脂床塔」は、代替可能な等価な処理装置といえるものであって、それらの関係は明らかである。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

==取消理由についてのまとめ==
上記のように、
本件発明1ないし7は、甲第2?11号証の記載を参酌しても、引用発明(甲第1号証)と同一発明であるとは認められないから、取消理由Aは理由がなく、
本件発明1ないし4は、丙第2?5号証及び参考資料1を参酌しても、引用発明(丙第1号証すなわち甲第1号証)と同一発明であるとは認められないから、取消理由B1は理由がなく、
また、本件発明1ないし7は、甲第2?11号証と丙第2?5号証及び参考資料1を合わせて参酌しても、引用発明(甲第1号証すなわち丙第1号証)と同一発明であるとは認められない。
そして、本件発明1ないし7は、明確で、発明の詳細な説明に記載されており、発明の詳細な説明の記載は、当業者が同発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、取消理由B2は理由がない。
よって、本件発明1ないし7に係る特許は、同発明が、その出願の原出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証(丙第1号証)の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と、甲第2号証?甲第11号証、丙第2?5号証及び参考資料1に記載の技術手段を参酌しても、同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえず、取り消されるべきものでない。
また、本件特許は、特許請求の範囲に記載された発明が、明確で、発明の詳細な説明に記載されており、発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第6項第1、2号及び同条第4項第1号の規定に適合するから、取り消されるべきものでない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-27 
出願番号 特願2014-29845(P2014-29845)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (C02F)
P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 536- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 萩原 周治
中澤 登
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5928504号(P5928504)
権利者 三浦工業株式会社
発明の名称 水処理方法及び水処理システム  
代理人 加藤 竜太  
代理人 岩池 満  

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