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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1324885 |
異議申立番号 | 異議2016-700985 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-10-13 |
確定日 | 2017-02-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5901448号発明「離型剤用窒化ケイ素粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5901448号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5901448号の請求項1,2に係る特許についての出願は、平成24年 6月28日に特許出願され、平成28年 3月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 彦根 香 により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5901448号の請求項1,2の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第01号証?甲第07号証(以下、「甲第1号証」?「甲第7号証」という。)を提出し、上記特許は、特許法第29条第2項の規定に違反(以下、「取消理由1」という。)してされたものであり、また、同法第36条第4項、又は第6項に規定する要件を満たしていない(以下、「取消理由2」という。)特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特表2001-510434号公報 甲第2号証:Fifth E.C. Photovoltaic Solar Energy Conference, Proceedings of the International Conference, 1984年, p.1037-1042 甲第3号証:窯業協会誌,セラミックスと材料科学, 1983年, Vol.91, No.12, page.559-561 甲第4号証:STRUCTURAL CERAMICS, TREATISE ON MATERIALS SCIENCE AND TECHNOLOGY, 1989年, Vol.29, page.166 甲第5号証:粉体工学便覧 第2版, 1998年, page.149-152 甲第6号証:特開2002-265276号公報 甲第7号証:特開2007-261832号公報 第4 甲各号証の記載事項 1(1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、以下の記載がある。 1a「【特許請求の範囲】 1.溶融ポットと固化しつつある非鉄溶融物との接触の後溶融ポットと非鉄金属との接着を回避するために窒化ケイ素保護層を備えた石英、グラファイト又はセラミック溶融ポットであって、該層は、0.3重量%乃至5重量%の酸素含有率を有しそして長さ(l)対直径(d)比が<10である窒化ケイ素粉末を含んで成ることを特徴とする溶融ポット。 ・・・ 4.窒化ケイ素粉末の2乃至100%が結晶学的β相から成ることを特徴とする請求の範囲1?3の1つ又は1つより多くに記載の窒化ケイ素保護層を備えた溶融ポット。 ・・・ 7.液体シリコンを保持しそして液体シリコンを結晶化させてシリコンブロック、ロッド又はビレット及びシリコンウエーハ又はシリコングラニュールを形成するための、シリコン溶融物の製造のための請求の範囲1?5の1つ又はそれより多くに記載の窒化ケイ素保護層を備えた溶融ポットの使用。」(特許請求の範囲) 1b 「・・・この目的は、0.3重量%乃至5重量%のO_(2)含有率を有しそして長さ対直径(l/d)比が<10である粉末粒子を有する窒化ケイ素粉末から成る窒化ケイ素保護層を備えた石英、グラファイト又はセラミック溶融ポットにより達成された。」(6ページ19行?22行) 1c「・・・窒化ケイ素粉末1g当たり100粒子以下の鉄・・・含有率を有する。外来粒子の数はこの場合に元素分布曲線と組み合わせて走査型電子顕微鏡写真によって決定される。この場合に、特に0.05μm以上のサイズを有する粒子がピックアップされる。 ・・・ 好ましくは、窒化ケイ素粒子の平均粒子径(mean particle size)は50μm以下、特に好ましくは0.6乃至6μmである。本発明の特に好ましい態様では、窒化ケイ素粉末は0.3乃至1.5重量%の酸素含有率、0.6乃至6μmの平均粒子径、1000ppm以下のフッ化物及び全炭素含有率及び2乃至100%、好ましくは5乃至100%の割合の結晶学的β相(β crystallogrphic phase)を有する。」(7ページ下から8行?8ページ5行) 1d「実施例1 ・・・窒化ケイ素粉末1g当たり2粒子の鉄粒子含有率(iron particle content)を有し、10%の結晶学的β相含有率を有する窒化ケイ素粉末から、30%の固体含有率を有する水性分散液を生成させた。・・・この分散液を噴霧するこにより石英るつぼをコーティングした。・・・コーティングされたるつぼとシリコン溶融物との3時間の接触時間の後、溶融物全量(melt volume)を結晶化させた。室温に冷却した後、石英ガラスの結晶化から生じるるつぼ断片をブロック状に結晶化したシリコンの壁から困難なく除去することができた。るつぼとシリコン間のベーキング又は接着は全るつぼ-シリコン接触ゾーンにわたって観察されなかった。ブロック状に結晶化したシリコンはクラックなしに固化し、そして例えば太陽電池用途のシリコンウエーハの製造に全部使用することができた。」(9ページ下から11行?10ページ5行) 1e「実施例3 ・・・10μmの平均粒子径及び検出限界以下の鉄粒子含有率及び98%の結晶学的β相含有率を有する窒化ケイ素粉末を使用して、実施例2に記載の方法を実施した。 ブロック状に結晶化したシリコンはるつぼの結晶化した石英断片を困難なく除去されることができ、結晶化したシリコンにおけるクラック及びるつぼ断片のベーキングは起こらなかった。結晶化したシリコンは更なる加工(例えば太陽電池用途のシリコンウエーハの製造のため)に十分に適していた。」 (10ページ下から7行?11ページ2行) (2)甲第1号証に記載された発明 摘記1a、1b、1dなどによれば、甲第1号証には、溶融ポットの窒化ケイ素保護層に用いられる窒化ケイ素粉末に関して記載されている。 摘記1cによれば、窒化ケイ素粉末は、1g当たり100粒子以下の鉄含有率を有し、平均粒子径は0.6乃至6μmである。 また、摘記1a、1cによれば、窒化ケイ素粉末は、2乃至100%の結晶学的β相を有する。 以上のことから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「平均粒子径が0.6乃至6μm、結晶学的β相が2乃至100%、窒化ケイ素粉末1g当たり100粒子以下の鉄含有率である、溶融ポットの窒化ケイ素保護層に用いられる窒化ケイ素粉末。」 2 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、透明溶融シリカるつぼの内面にコーティングする窒化ケイ素粉末であって、Sylvania製の57%α、及び50μg・μ^(-1)のFe、すなわち50ppmのFeを含む窒化ケイ素粉末、並びにCerac製の40%αの窒化ケイ素粉末が記載されている。 3 甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、Sylvania社製のSi_(3)N_(4)粉末「SN502」にY_(2)O_(3)を添加した粉末のSEM写真が記載されている。 4 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、GTE Sylvania製の窒化ケイ素粉末「SN502」は、アルファ56%、ベータ3%、総金属不純物が0.1%であることが記載されている。 5 甲第5号証の記載事項 甲第5号証は、大小2成分ランダム充填層の空隙率に関するものであって、最密充填を行うために大小2成分の粉体の粒径比に応じた粒子の混合分率が存在することが記載されている。 6(1)甲第6号証の記載事項 甲第6号証には、以下の記載がある。 6a「【請求項1】 体積割合で積算頻度が10%、50%および90%での粒子径(d_(10))(d_(50))および(d_(90))が、それぞれ0.5?0.8μm、2.5?4.5μmおよび7.5?10.0μmの粒度分布を有し、かつ含有酸素量が0.01?0.5wt%であることを特徴とする窒化ケイ素粉末。 【請求項2】 平均粒子径(d_(50))以上の粒子中に存在するβ型窒化ケイ素粒子の割合が1から50%である請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。」 6b「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、高強度、高靱性かつ優れた放熱性を有する窒化ケイ素焼結体と前記窒化ケイ素焼結体を得ることができ、かつシート成形性に優れる窒化ケイ素粉末に関する。 【0002】 【従来の技術】窒化ケイ素焼結体は、・・・耐熱性、低熱膨張性、耐熱衝撃性、および金属に対する耐食性に優れているので、従来からガスタ-ビン用部材、エンジン用部材、製鋼用機械部材、あるいは溶融金属の耐溶部材等の各種構造用部材に用いられている。・・・」 6c「【0018】原料粉末の粒度分布は、特にシート成形性ならび焼結体密度に大きく影響する。体積割合で積算頻度が10%、50%および90%での粒子径(d_(10))(d_(50))および(d_(90))が、それぞれ、前記範囲を外れた場合には、適度の粒子充填度が得られず、充分な成形体密度を得ることができなくなり、しいては焼結体密度が低下する等の不具合を生じる。特に、(d_(50))が2.5μm未満の場合、全窒化ケイ素粉末の累積粒子の粒径が小さく、粒子充填度が低下して、シート成形後の成形体シートにクラック等の不具合が生ずる。」 6d「【0030】・・・またFe、Al等の不純物量を極力少なく抑える目的からイミド分解法による高純度原料の窒化ケイ素質粉末の使用がより好ましい。」 6e「【0032】シリコン直接窒化法あるいは酸化シリコン還元窒化法により得た塊状窒化ケイ素を順次分級する方法では、得られる窒化ケイ素粉末中のFe、AlおよびCa等の不純物量は、原料となる金属シリコンおよび酸化シリコンの純度に大きく依存しており、また、塊状の窒化ケイ素は粉砕・分級工程を必要とするので、使用する装置からのこれら不純物元素が混入することが多い。焼結体の熱伝導率向上のためにはこれら阻害要因となる不純物の混入を抑えることが肝要である。」 6f「【0039】また、平均粒子径(d_(50))以上の粒子中に存在するβ型窒化ケイ素粒子の割合(β分率)は、以下の方法で求めた。・・・得られた窒化ケイ素スラリーは、遠心分級器により所定の分級条件で分級点が、粒度分布測定で求めた(d_(50))となるよう湿式分級を行った。・・・得られた窒化ケイ素分級スラリーを、乾燥後目開き150μmの篩を用いて造粒し、Cu?Kα線を用いたX線回折強度比から式(1)により求めた。 β分率(%)= {(I_(β(101))+I_(β(210)))/(I_(β(101))+I_(β(210))+I_(α(102))+I_(α(201)))}×100 ・・・(1) I_(β(101)) :β型Si_(3)N_(4)の(101)面回折ピーク強度 I_(β(210)) :β型Si_(3)N_(4)の(210)面回折ピーク強度 I_(α(102)) :α型Si_(3)N_(4)の(102)面回折ピーク強度 I_(α(210)) :α型Si_(3)N_(4)の(210)面回折ピーク強度」 6g「【0040】β型窒化ケイ素粒子の粒径、およびアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(日立製作所製FE-SEM S4500)により直接観察倍率×2000倍、観察視野200μm×500μm中の粉末500個を評価対象とし、アスペクト比が2以上である柱状の窒化ケイ素粒子を無作為に選定して画像解析装置により最小径と最大径を測定し、その平均値を求めて評価した。・・・図1に得られた窒化ケイ素粉末の粒度分布評価結果を、また、図2に調整した窒化ケイ素粉末の形状観察像を示す。当該粉末の10%、50%および90%累積径(d_(10)、d_(50)およびd_(90))は、それぞれ、0.72μm、3.1μmおよび8.6μmであり、酸素量は0.45wt%である。また、(d_(50))以上に含まれるβ型窒化ケイ素粒子の割合が30%であり、粒子径が3.5μm、アスペクト比が8.5および酸素量が0.2wt%である。」 6h「【図1】 」 (2)甲第6号証に記載された技術的事項 摘記6a、6bによれば、甲第6号証には、溶融金属の耐溶部材等の各種構造用部材に用いる窒化ケイ素焼結体を得ることができる窒化ケイ素粉末に関して記載されている。 摘記6cによれば、粒子充填度などの観点から、窒化ケイ素粉末は適切な粒度分布が必要であること、摘記6d,6eによれば、Feなどの不純物量を極力少なく抑えること、及び摘記6fによれば、α相及びβ相のX線回折強度比から結晶相の分率を求めることがそれぞれ記載されている。 そして、摘記6g、6hによれば、粒度分布について0.55μm、2.5μm付近で極大値を有し、それぞれの頻度が2.5%、及び6%付近にある窒化ケイ素粉末が示されている。 7 甲第7号証の記載事項 甲第7号証には、Fe濃度が、11,12,又は5ppmである窒化珪素離型材粉末が記載されている。 第5 当審の判断 1 取消理由1(特許法第29条第2項) (1)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の溶融ポットの窒化ケイ素保護層に用いられる窒化ケイ素粉末は、本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、離型剤用窒化ケイ素粉末である点で一致するが、以下の点で相違している。 (相違点) 相違点1:本件発明1は、レーザー回折散乱法による90%粒子径が3.0?10μmであるのに対し、甲1発明は、平均粒子径が0.6乃至6μmである点。 相違点2:本件発明1は、α相の比率が20?60%であるのに対し、甲1発明は、結晶学的β相が2乃至100%である点。 相違点3:本件発明1は、鉄の含有量が24ppm以下であるのに対し、甲1発明は、窒化ケイ素粉末1g当たり100粒子以下の鉄含有率である点。 相違点4:本件発明1は、粒度分布が2つの極大値を有し、ひとつが0.2μm以上1.0μm未満(極大値1)、もうひとつが1.0μm以上8.0μm以下(極大値2)にあり、かつ極大値1と2の各頻度の比率{(極大値2の頻度)/(極大値1の頻度)}が1.0?5.0、極大値1と2の間隔が0.8?7.8μmであるのに対し、甲1発明は、粒度分布について明らかではない点。 ここで、特許異議申立人は、特許異議申立書において、相違点4について、甲第1号証、又は甲第5,6号証に記載の技術事項の基いて、容易になし得た旨の主張をしているといえる(特許異議申立書7ページ12行?8ページ20行、8ページ下から4行?最下行、10ページ下から8行?12ページ27行)。 そこで、相違点4に係る本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末の粒度分布について、当業者が容易になし得たものであるのか否かについて以下に検討する。 まず、甲第1号証には、摘記1a?1eによれば、窒化ケイ素粉末の平均粒子径、及び長さ対直径比に関する記載はあるが、相違点4に係る粒度分布について何ら示唆するものはない。 また、甲第5号証には、最密充填と大小2成分の粉体の粒径比との関係について示されているが、一般的な粒子集合体に関する記載にとどまるものであり、離型剤用窒化ケイ素粉末に対して、望ましい粒度分布が存在することを何ら示唆するものではない。 次に、甲第6号証の図1に示す窒化ケイ素粉末の粒度分布は、0.55μm、2.5μm付近に2つの極大値を有し、各極大値の頻度の比率が約2.4、2つの極大値の間隔が約1.95μmであるから、本件発明1で特定する粒度分布における、極大値1,2、極大値1と2の頻度の比率、及び極大値1と2の間隔を満たすものといえる。 しかし、甲第6号証の摘記6bに、窒化ケイ素焼結体を溶融金属の耐溶部材に用いることが記載され、これは、「溶融金属の耐溶部材等の各種構造用部材に用いられている。」の記載から明らかであるように、耐溶部材は構造用部材として用いることを想定しているのであって、摘記6b、6cなどによれば、当該窒化ケイ素焼結体の原料である窒化ケイ素粉末の粒度分布は、充分な成形体密度や優れたシート成形性を得るために規定したものである。 そうすると、甲第6号証は、窒化ケイ素粉末を、塗布性や剥がれの抑制を課題とする、シリコンインゴットを作製するためのルツボ内面に塗布するための離型剤に用いることを何ら想定していないから、甲第6号証に記載の窒化ケイ素粉末の粒度分布は、相違点4に係る本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末の粒度分布を示唆しているものとすることはできない。 さらに、甲第2?4,7号証や、特許異議申立書に記載の他の文献についても、相違点4に係る本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末の粒度分布を何ら示唆するものではない。 よって、甲第1?7号証、及び上記他の文献を参照しても、相違点4に係る本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末の粒度分布を当業者が導き出すことはできない。 したがって、相違点1?3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の離型剤用窒化ケイ素粉末を離型剤として用いた溶融ルツボの発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 取消理由2(特許法第36条第4項及び第6項) 特許異議申立書における特許法第36条第4項又は第6項の具体的理由の欄の記載からすると(13ページ下から13行?15ページ19行)、特許異議申立人は、本件発明1、2が、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)、同法第36条第6項第2号(明確性要件)、同法第36条第4項第1号(実施可能要件、及び委任省令要件)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると主張しているものといえる。 そこで、本件特許が、これらの要件に違反するか否かについて検討する。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件発明の解決しようとする課題は、「多結晶シリコンインゴット製造時に用いられる離型剤について、塗布時の作業性を改善し、かつ離型剤の剥がれを抑制することで多結晶シリコンインゴットへの不純物混入を低減した離型剤用窒化ケイ素粉末を提供する」というものである(本件明細書【0010】)。 そして、本件明細書の【実施例】の欄をみると、本件発明の特定事項を満たす「実施例1?12」と、「比較例1?13」のそれぞれの離型剤用窒化ケイ素粉末について比較することで、本件発明は「溶融ルツボからの多結晶シリコンインゴットへの不純物の混入を低減することができる。また、離型剤の塗布性が改善され、塗布時の作業性が向上する。」(本件明細書【0012】)という効果を奏することを把握することができる。 したがって、本件発明1,2は、当業者は本件発明の課題が解決できることを認識し得るものといえるから、サポート要件に違反するものではない。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 本件発明は、離型剤用窒化ケイ素粉末の90%粒子径、α相の比率、鉄の含有量、及び粒度分布の数値範囲が具体的に特定されているものであるから、発明特定事項の記載自体は明確であるといえる。 また、本件明細書には、本件発明の特定事項を充足する具体的な実施例が記載されているから、本件発明を明確に把握することができるものであるといえる。 したがって、本件発明1,2は、明確性要件に違反するものではない。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 本件明細書には、本件発明に係る離型剤用窒化ケイ素粉末の実施例が記載されており、当該窒化ケイ素粉末の具体的な製造方法も記載されているから、本件発明を当業者がどのように実施するかを理解することができるといえる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に違反するものではない。 (4)特許法第36条第4項第1号(委任省令要件)について 上記(1)で記載したように、本件明細書の【実施例】の欄をみることで、本件発明の特定事項を充足する離型剤用窒化ケイ素粉末は、本件発明の課題が解決できることを認識できるのであるから、発明の詳細な説明の記載によって当業者であれば発明の技術上の意義を十分理解することができるといえる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、委任省令要件に違反するものではない。 なお、特許異議申立人は、上記取消理由2(特許法第36条第4項及び第6項)の具体的理由として、表1の比較例3、4のα相の比率の値と本件明細書【0016】の本件発明のα相の比率の数値範囲を特定する理由とは矛盾があるから(他に、比較例7、8と【0023】の極大値2の値に関する記載、比較例9、10と【0024】の極大値の比率の値に関する記載)、数値範囲の限定理由を正しく理解することができない旨主張している。 しかし、上記(1)?(4)に記載したとおり、本件発明1、2は明確であり、また、本件明細書全体の記載をみれば、発明の技術上の意義を理解することができるものであるから、特許法第36条第4項及び第6項に違反するとまではいえない。 また、特許異議申立人は、本件発明1で「極大値1と2の間隔が0.8?7.8μmである」と特定されているが、本件明細書【0025】には、「極大値1と2の間隔は0.8?7.6μmである必要があり」と記載され、比較例7は「7.7μm」であるから、本件発明1の「極大値1と2の間隔が0.8?7.8μmである」という特定事項を理解することができない旨主張している。 しかし、実施例12の極大値1と2の間隔は「7.8μm」であるから、表1において、0.8?7.8μmまでが本件発明1の範囲内であることを理解することができるものであって、同様に特許法第36条第4項及び第6 項に違反するとまではいえない。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1,2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-02-08 |
出願番号 | 特願2012-145269(P2012-145269) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C01B)
P 1 651・ 537- Y (C01B) P 1 651・ 536- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 塩谷 領大 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
後藤 政博 瀧口 博史 |
登録日 | 2016-03-18 |
登録番号 | 特許第5901448号(P5901448) |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 離型剤用窒化ケイ素粉末 |
代理人 | 宮崎 悟 |