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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G01M |
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管理番号 | 1324895 |
異議申立番号 | 異議2016-700267 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-03-31 |
確定日 | 2017-02-10 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第5811259号発明「光線路監視システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5811259号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第第5811259号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年10月2日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人鈴木真理子及び特許異議申立人川部典子より特許異議の申立てがなされ、平成28年7月8日付けで取消理由が通知され、平成28年9月1日に意見書の提出がなされ、平成28年9月29日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成28年11月25日に意見書の提出がなされたものである。 第2 本件発明 特許第5811259号の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれの請求項に係る特許発明を、「本件特許発明1及び2」という。)は、それぞれ、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 N本の光ファイバ線路それぞれにパルス試験光を伝搬させて、そのパルス試験光の伝搬の際に生じる後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記N本の光ファイバ線路を監視するシステムであって、 前記パルス試験光を出力するとともに、前記後方散乱光を入力して、前記後方散乱光の強度の時間変化を検出する光パルス試験器と、 ポートPおよびポートP_(0)?P_(N)を有し、前記光パルス試験器から出力された前記パルス試験光を前記ポートPに入力して、前記ポートP_(0)?P_(N)のうちの選択された一つから前記パルス試験光を出力する光スイッチと、 前記光スイッチの前記ポートP_(0)から出力された前記パルス試験光を入力して、このパルス試験光をN分岐して出力するスプリッタと、 前記スプリッタにより前記パルス試験光がN分岐されて出力された光のうちの第n分岐パルス試験光、および、前記光スイッチの前記ポートP_(n)から出力されたパルス試験光の何れかを、前記N本の光ファイバ線路のうちの第n光ファイバ線路に伝搬させる光結合部と、 前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられ、その設置位置と前記光パルス試験器との間の光路長が互いに異なり、前記パルス試験光を反射させる反射部と、 を備え、 前記光パルス試験器,前記光スイッチ,前記スプリッタおよび前記光結合部がセンタ内に設けられ、 前記光スイッチが前記ポートPに入力した前記パルス試験光を前記ポートP_(0)から選択的に出力するときに、前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられた前記反射部それぞれでの反射を前記光パルス試験器において相互に分解できるようにパルス試験光のパルス幅を小さくして、前記光スイッチの前記ポートP_(0)から前記スプリッタおよび前記光結合部を経て前記N本の光ファイバ線路に前記パルス試験光を伝搬させ、前記N本の光ファイバ線路で生じた後方散乱光が前記光結合部,前記スプリッタおよび前記光スイッチを経て前記光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記N本の光ファイバ線路を一括監視し、 前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられている前記反射部で生じた後方散乱光の強度に基づいて何れかの第n光ファイバ線路において故障が生じたと前記一括監視により判断された場合に、前記光スイッチが前記ポートPに入力した前記パルス試験光を前記ポートP_(n)から選択的に出力し、前記光スイッチの前記ポートP_(n)から前記光結合部を経て前記第n光ファイバ線路に前記パルス試験光を伝搬させ、前記第n光ファイバ線路で生じた後方散乱光が前記光結合部および前記光スイッチを経て前記光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記第n光ファイバ線路を個別監視する、 ことを特徴とする光線路監視システム(ただし、Nは2以上の整数、nは1以上N以下の各整数)。 【請求項2】 前記反射部が、 前記N本の光ファイバ線路のうち何れかの光ファイバ線路の遠端に設けられ、第1ポート,第2ポートおよび第3ポートを有し、前記第1ポートが光ファイバ線路の遠端に接続され、前記第1ポートに入力された光を前記第2ポートから出力し、前記第3ポートに入力された光を前記第1ポートから出力する光カプラと、 前記光カプラの前記第2ポートと前記第3ポートとの間を光学的に接続する光導波路と、 を含むことを特徴とする請求項1に記載の光線路監視システム。」 第3 取消理由の概要 当審において、本件特許発明1及び2に対して平成28年7月8日付けで通知した取消理由及び平成28年9月29日付けの取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 1 本件特許発明1は、下記引用例1ないし3記載の技術及び引用例4ないし5に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 本件特許発明2は、下記引用例1ないし3記載の技術、引用例4ないし5に記載の周知技術及び引用例6ないし7に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用例1:特表平04-502210号公報 引用例2:特開平10-170396号公報 引用例3:特開平04-116441号公報 引用例4:特開2001-136110号公報 引用例5:特開2002-328070号公報 引用例6:特開平08-075606号公報 引用例7:特開2004-287105号公報 (尚、引用例1は、鈴木真理子申立による甲第1号証、引用例2ないし5は、鈴木真理子申立による甲第6ないし9号証、引用例6は、鈴木真理子申立による甲第11号証、引用例7は、川部典子申立による甲第4号証である。) 第4 甲各号証の記載 1 特許異議申立人鈴木真理子申立による甲各号証の記載 甲第1号証には、光ファイバ障害点検出装置に関する発明が記載されている。 甲第2号証には、光スプリッタ及び光スプリッタ監視システムに関する発明が記載されている。 甲第3号証には、光線路監視用デバイスに関する発明が記載されている。 甲第4号証には、光スイッチと光スイッチを用いたファイバレーザに関する発明が記載されている。 2 特許異議申立人川部典子申立による甲各号証の記載 甲第1号証には、損失検出に関する発明が記載されている。 甲第2号証には、多分岐光線路試験装置に関する発明が記載されている。 甲第3号証には、光分岐線路の監視システム及び監視装置に関する発明が記載されている。 甲第4号証には、受動分岐型光ファイバ線路の障害点検出システムに関する発明が記載されている。 甲第5号証には、光スプリッタを用いた光ファイバ線路網に関する発明が記載されている。 甲第6号証には、光線路の試験方法及び光線路試験システムに関する発明が記載されている。 甲第7号証には、分岐光線路の試験方法に関する発明が記載されている。 甲第8号証には、伝送路の障害検出装置及び方法に関する発明が記載されている。 甲第9号証には、光線路試験装置、光線路試験システム及び光線路試験方法に関する発明が記載されている。 甲第10号証には、光線路監視装置及び方法に関する発明が記載されている。 甲第11号証には、光ファイバ線路の監視方法に関する発明が記載されている。 第5 判断 1 平成28年7月8日付けで通知した取消理由及び平成28年9月29日付けの取消理由通知(決定の予告)の取消理由(以下、「本件取消理由」という。)について (1)引用例1に記載の事項及び引用例1に記載の発明(下線は、当審にて付した。) ア 「第1の光ファイバおよび第1の光ファイバにそれぞれ結合された複数の第2の光ファイバを含み、第1の光ファイバは主ラインを構成し、第2の光ファイバはブランチラインを構成するブランチされた光ファイバ回路網における損失検出装置において、主ラインにパルスを発射する手段と、各ブランチラインにおいてパルスの通路に配置された各反射器と、反射器から復帰する反射信号の減衰の変化のために主ラインを監視する手段とを具備している装置。」(請求項5) イ 「光ファイバ中の故障は、OTDR(光時間ドメインリフレクトメータ)によって位置を知ることができる。OTDRはファイバに光のパルスを発射し、後方散乱された光は故障を示す突然の変化に対して監視され、発射端におけるパルス発射と光の検出との間の時間は故障が発生するファイバに沿った距離を示す。」(第2頁左上欄第5-10行) ウ 「図面を参照すると、図1は主光ファイバ伝送ライン1、結合アレイ2、および複数のブランチライン3によって構成されたブランチされた回路網を示す。結合アレイ2は典型的に2×2個のカップラのアレイを含んでもよく、それによって主ライン1はn個の出力(ブランチ)ライン3に分割され、各出力ラインは主ラインによって伝送された情報を含んでいる。パルス発生器及び復帰信号監視器によって構成された、市販されているOTDR4は主ライン1の入力端部に接続されている。」(第2頁右下欄第9-17行) エ 「主ライン1に発射されたパルスは結合アレイ2に進み、ブランチライン3にn個の通路を分割される。各ブランチライン3における反射器5において、パルスはOTDR4に反射される。」(第2頁右下欄第18-21行) オ 「図2は、OTDR4に戻る信号を表示することによって得られる典型的なOTDRオシロスコープ軌跡を示す。最初に信号は信号パルスが主ライン1に沿って進んだときに戻った後方散乱光に対応した1次レベル6である。それに続いて信号レベルにおける降下が結合アレイ2における損失によって発生させられ、復帰信号は各ブランチライン3に沿って進んだときに、分割されたパルスの結合された後方散乱信号に対応した第2の低いレベル7で続く。最後に、反射器5における反射からの復帰信号に対応した一連のピーク8が示されている。以降図示され説明される構造において、反射は好ましい構造であるブランチライン3の端部において生じると仮定する。しかしながら、反射がブランチライン3の端部で生じない場合には、情報は外方向にパルスの一部分の連続した伝播から生じる。」(第3頁左上欄第5-18行) カ 「示された軌跡において、ピーク8は間隔を隔てられて示されており、これは個々のブランチライン3が異なる長さである場合であり、反射は異なる時間で発生する。実際のピークの間隔はパルス幅(広いパルスは反射ピークを拡大する)および異なるブランチライン3における反射器5まで伝播する距離の差に依存する。約200nmのパルス幅により、40メータ程度のブランチライン長の差がピーク分離を提供するために要求される。100nmのパルス幅を使用することは、例えば要求される通路長の差を20メータ程度に減少させることを可能にする。」(第3頁右上欄第10-19行) キ 「どのブランチライン3が故障しているかが知られると、故障のラインに沿った距離が通常のOTDR後方散乱監視によって設定されることができる。監視されているブランチライン3で故障が後方散乱信号の分解能のダイナミック範囲を越えて存在する長さである場合、OTDR測定は主ライン1における中間位置または故障ブランチライン3の反対側の端部のような異なる位置から行われる。」(第3頁右下欄第9-15行) ク 図2 ケ「ブランチされた回路網において、多くの多様化された端部から各ラインを別々に監視することは非常に高価である。したがって、交換機のような集中位置からブランチラインを監視することができることが望ましい。OTDRが使用された場合、各ブランチラインから後方散乱された光はブランチの接合部への復帰のときに結合され、パルス源からの距離は知られているが、どのブランチラインからそれが生じたのかを決定することは不可能である。またブランチされた回路網においてもまた外向パルスのパワーはブランチラインに分割される。したがって、任意のブランチラインに関連した情報はその他全てのブランチラインからの情報に重ねられたブランチラインにおいてパルスの一部分からの後方散乱に関連した強度だけを有し、これは分解能を減少させ、それによって装置のダイナミック範囲および特定のブランチラインにおける減衰測定の感度を減少させる。一般に、現在このOTDRは100nsパルス幅に対してほぼ20dBの後方散乱範囲限界を有する。したがって、ブランチラインが実質的な長いおよび、または異なっている場合、通常のOTDR方法によって回路網全体を監視することは不可能である。いずれにしても故障した特定のブランチラインは識別されない。 本発明の目的は、ブランチ点から上流にブランチされた回路網中のブランチラインの個々の監視を可能にすることである。」(第2頁左上欄第20行-右上欄第17行) コ 上記アないしケの記載より、以下の点が理解される。 (ア)上記イより、OTDRは、ファイバに光のパルスを発射し、後方散乱された光を監視するものである点が理解され、上記ウより、本願発明の「OTDR4」は、パルス発生器及び復帰信号監視器によって構成され市販されているものである点が理解されるから、「OTDR4」は、ファイバに光のパルスを発射し、後方散乱された光を監視するものである点が理解される。 (イ)上記オより、図2は、「OTDR4」に戻る信号を表示することによって得られる典型的なOTDRオシロスコープ軌跡を示すものであることが理解され、最初の信号は信号パルスが「主ライン1」に沿って進んだときに戻った後方散乱光に対応した1次レベル6であり、それに続いて、復帰信号が各「ブランチライン3」に沿って進んだときに、分割されたパルスの結合された後方散乱信号に対応した第2の低いレベル7で続き、最後に、反射器5における反射からの復帰信号に対応した一連のピーク8が示されているものである点が理解される。そして、上記クにより、図2は、信号強度の時間変化を表していることが見て取れるから、「OTDR4」は、パルスの伝搬の際に生じる後方散乱光の強度の時間変化を検出している点、及び、「主ライン1」及び各「ブランチライン3」は、その検出結果に基づいて監視されている点が理解される。 (ウ)上記ウより、「ブランチライン3」はn個あることが理解される。 (エ)上記エより、「結合アレイ2」は、「主ライン1」からのパルスをn個に分割して、「ブランチライン3」に出力する点が理解される。 (オ)上記(ア)ないし(エ)を総合すると、n個の「ブランチライン3」にパルスを伝搬させパルスの伝搬の際生じる後方散乱光の強度の時間変化に基づいてn個の「ブランチライン3」を監視する方法が理解される。 (カ)上記エより、各「ブランチライン3」には、パルスを反射する「反射器5」が設けられている点が理解され、上記カの、「示された軌跡において、ピーク8は間隔を隔てられて示されており、これは個々のブランチライン3が異なる長さである場合であり」、「実際のピークの間隔は」「異なるブランチライン3における反射器5まで伝播する距離の差に依存する」との記載より、「OTDR4」から「反射器5」までのパルスが伝搬する距離は、それぞれの「ブランチライン3」において互いに異なる点が理解される。 (キ)上記オより、「ピーク8」は「反射器5」における反射からの復帰信号に対応したものが示されている点が理解され、上記カの記載より、「ピークの間隔」が「パルス幅」と「異なるブランチラインにおける反射器まで伝播する距離の差」に依存し、パルス幅を約200nmから100nmにすることによって、ピーク分離を提供するために要求される通路長の差を40メ一タ程度から、20メ一タ程度に減少させることが可能であることが理解できるから、これらのことより、「反射器5」における反射からの復帰信号に対応した「ピーク8」のピーク分離のために、パルス幅を小さくした点が理解される。 (ク)上記(イ)において検討したように、「OTDR4」は、パルスの伝搬の際に生じる後方散乱光の強度の時間変化に基づいて「主ライン1」及び各「ブランチライン3」を監視しており、上記(ウ)及び(エ)を総合すると、「主ライン1」に発射されたパルスは、「結合アレイ2」に進み、「結合アレイ2」により、n個全ての「ブランチライン3」に分割され伝搬しているものであることが理解される。そして、上記オより、「OTDR4」には、復帰信号が各「ブランチライン3」に沿って進んだときの結合された後方散乱信号が入力されているから、n個の「ブランチライン3」で生じた後方散乱光が、「結合アレイ2」を経て「OTDR4」に入力されている点が理解される。そうすると、「主ライン1」から「結合アレイ2」を経てn個の「ブランチライン3」にパルスを伝搬させ、n個の「ブランチライン3」で生じた後方散乱光が、「結合アレイ2」を経て「OTDR4」に入力され、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて、n個全ての「ブランチライン3」を監視する点が理解される。 (ケ)上記キの記載より、特定の「ブランチライン3」に故障が発生したと判断される場合に、故障のラインに沿った距離が通常のOTDR後方散乱監視によって設定される点が理解される。 (コ) 小括 上記(ア)ないし(ケ)から総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。(以下、引用発明1という。) 「n個のブランチライン3にパルスを伝搬させパルスの伝搬の際生じる後方散乱光の強度の時間変化に基づいてn個のブランチライン3を監視する方法であって、 パルスを発射し、後方散乱光を監視して、後方散乱光の強度の時間変化を検出するOTDR4と、 主ライン1からのパルスをn個に分割して、ブランチライン3に出力する結合アレイ2と n個のブランチライン3に設けられ、その設置位置とOTDR4との間のパルスが伝搬する距離が互いに異なり、パルスを反射する反射器5と、 を備え、 パルスを主ライン1に発射するときに、n個のブランチライン3に設けられた反射器5における反射からの復帰信号に対応したピーク8のピーク分離のために、パルス幅を小さくして、主ライン1から結合アレイ2を経てn個のブランチライン3にパルスを伝搬させ、n個のブランチライン3で生じた後方散乱光が、結合アレイ2を経てOTDR4に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいてn個全てのブランチライン3を監視し、 特定のブランチライン3に故障が発生したと判断される場合に、故障のラインに沿った距離が通常のOTDR後方散乱監視によって設定される方法」 (2)対比 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と引用発明1とを対比する (ア)引用発明1の「n個のブランチライン3」、「パルス」、「結合アレイ2」、「パルスが伝搬する距離」、「反射器5」及び「OTDR4」は、それぞれ、本件特許発明1の「N本の光ファイバ線路」、「パルス試験光」、「スプリッタ」、「光路長」、「反射部」及び「光パルス試験器」に相当する。 (イ)引用発明1の「後方散乱光の強度の時間変化に基づいてn個全てのブランチライン3を監視」することは、本件特許発明1の、「後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記N本の光ファイバ線路を一括監視」することに相当する。 (ウ)以上のことから、本件特許発明1と引用発明1とは、つぎの一致点で一致し、つぎの相違点で相違するものである。 <一致点> 「N本の光ファイバ線路それぞれにパルス試験光を伝搬させて、そのパルス試験光の伝搬の際に生じる後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記N本の光ファイバ線路を監視するシステムであって、 前記パルス試験光を出力するとともに、前記後方散乱光を入力して、前記後方散乱光の強度の時間変化を検出する光パルス試験器と、 前記パルス試験光を入力して、このパルス試験光をN分岐して出力するスプリッタと、 前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられ、その設置位置と前記光パルス試験器との間の光路長が互いに異なり、前記パルス試験光を反射させる反射部と、 を備え、 前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられた前記反射部それぞれでの反射を前記光パルス試験器において相互に分解できるようにパルス試験光のパルス幅を小さくして、前記スプリッタを経て前記N本の光ファイバ線路に前記パルス試験光を伝搬させ、前記N本の光ファイバ線路で生じた後方散乱光が、前記スプリッタを経て前記光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて前記N本の光ファイバ線路を一括監視する、 ことを特徴とする光線路監視システム。」 <相違点1> 本件特許発明1には、ポートPおよびポートP_(0)?P_(N)を有し、光パルス試験器から出力されたパルス試験光をポートPに入力して、ポートP_(0)?P_(N)のうちの選択された一つからパルス試験光を出力する光スイッチと、 スプリッタによりパルス試験光がN分岐されて出力された光のうちの第n分岐パルス試験光、および、光スイッチのポートP_(n)から出力されたパルス試験光の何れかを、N本の光ファイバ線路のうちの第n光ファイバ線路に伝搬させる光結合部と、 光スイッチがポートPに入力した前記パルス試験光を前記ポートP_(0)から選択的に出力するときに、N本の光ファイバ線路で生じた後方散乱光が光結合部,スプリッタおよび光スイッチを経て光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいてN本の光ファイバ線路を一括監視し、 N本の光ファイバ線路それぞれに設けられている反射部で生じた後方散乱光の強度に基づいて何れかの第n光ファイバ線路において故障が生じたと一括監視により判断された場合に、光スイッチがポートPに入力したパルス試験光をポートP_(n)から選択的に出力し、光スイッチのポートP_(n)から光結合部を経て第n光ファイバ線路にパルス試験光を伝搬させ、第n光ファイバ線路で生じた後方散乱光が光結合部および光スイッチを経て光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて第n光ファイバ線路を個別監視するのに対し、引用発明1には、そのような構成が記載されていない点。 <相違点2> 本件特許発明1は、光パルス試験器,光スイッチ,スプリッタおよび光結合部がセンタ内に設けられているのに対し、引用発明1には、光スイッチが記載されておらず、また、光パルス試験器、スプリッタおよび光結合部を何処に配置したか記載されていない点。 イ 本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1の「反射部」を 「前記N本の光ファイバ線路のうち何れかの光ファイバ線路の遠端に設けられ、第1ポート,第2ポートおよび第3ポートを有し、前記第1ポートが光ファイバ線路の遠端に接続され、前記第1ポートに入力された光を前記第2ポートから出力し、前記第3ポートに入力された光を前記第1ポートから出力する光カプラと、 前記光カプラの前記第2ポートと前記第3ポートとの間を光学的に接続する光導波路」という構成に限定したものであるから、本件特許発明2と引用発明1とを比較すると、上記相違点1及び2に加え、以下の相違点があり、その余の点では一致しているといえる。 <相違点3> 光線路監視システムの反射部は、 本件特許発明2は、「第1ポート,第2ポートおよび第3ポートを有し、前記第1ポートが光ファイバ線路の遠端に接続され、前記第1ポートに入力された光を前記第2ポートから出力し、前記第3ポートに入力された光を前記第1ポートから出力する光カプラと、 前記光カプラの前記第2ポートと前記第3ポートとの間を光学的に接続する光導波路」とを有する構成であるのに対し、 引用発明1は、どの様な構成となっているか不明である点。 (3)判断 (ア)相違点1について 上記相違点1において、本件特許発明1及び2は、「光スイッチがポートPに入力した前記パルス試験光を前記ポートP_(0)から選択的に出力するときに、N本の光ファイバ線路で生じた後方散乱光が光結合部,スプリッタおよび光スイッチを経て光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいてN本の光ファイバ線路を一括監視し、 N本の光ファイバ線路それぞれに設けられている反射部で生じた後方散乱光の強度に基づいて何れかの第n光ファイバ線路において故障が生じたと一括監視により判断された場合に、光スイッチがポートPに入力したパルス試験光をポートP_(n)から選択的に出力し、光スイッチのポートP_(n)から光結合部を経て第n光ファイバ線路にパルス試験光を伝搬させ、第n光ファイバ線路で生じた後方散乱光が光結合部および光スイッチを経て光パルス試験器に入力されて、この後方散乱光の強度の時間変化に基づいて第n光ファイバ線路を個別監視」しているから、本件特許発明1の「光スイッチ」は、一括監視と個別監視の切替えと、個別監視における第n光ファイバへの切替えとを行っており、また、本件特許発明1は、「ポートP」に入力される「パルス試験光」により「一括監視」も「個別監視」も行っているから、本件特許発明1は「一括監視と個別監視との切り替えと、個別監視における第n光ファイバへの切替えとを同じ光スイッチで行い、一括監視と個別監視とを同じ光源で行う構成」(以下、「本件特許構成A」という。)を有しているといえる。 本件取消理由において引用した引用例2及び3には、特定の光分岐路(本件特許発明の「光ファイバ線路」に相当)を光スイッチにより選択し、該選択された光分岐路に、光パルス試験器からの光パルス試験光(本件特許発明1の「パルス試験光」に相当)を、光方向性結合器(本件特許発明の「光結合部」に相当)を介して送信することにより、それぞれの光分岐路を個別に試験(本件特許発明1の「監視」に相当)する方法が記載されているおり、該方法を、引用発明1に適用し、一括監視と個別監視とを行う構成とする程度の事は、当業者が容易に想到できたものであるといえる。 そして、引用発明1に、引用例2及び3に記載された個別監視の構成を適用することにより想到される一括監視と個別監視とを行う構成において、「パルス試験光」を発生させる光源は、一括監視用と個別監視用とのそれぞれの別に用意されているものであるといえる。そして、一括監視と個別監視とを切り替える手段と、個別監視のためにファイバ線路を切り替える光スイッチとは、別途用意されている構成になるといえる。 これらの構成から、上記本件特許構成Aが導き出すためには、一括監視用の光源と個別監視用の光源とを共用した上で、更に一括監視と個別監視とを切り替える手段と、個別監視光のためにファイバ線路を切り替える光スイッチとを共用するか、又は、一括監視と個別監視とを切り替える手段と、個別監視のための光スイッチとを共用した上で、更に一括監視用の光源と個別監視用の光源とを共用することとなる。 そうすると、引用発明1に、引用例2及び3に記載された発明を適用した構成から、本件特許構成Aを想到するには、平成28年11月25日付け意見書において特許権者が主張するとおり、論理が飛躍しているといわざるを得ない。 また、本件取消理由で引用した引用例4ないし7にも、上記本件特許構成Aは記載も示唆もされていない。 そうすると、本件特許発明1及び2は、他の相違点を検討するまでもなく、引用発明1、引用例2及び3に記載された発明及び引用例4ないし7に記載された周知技術から、本件特許発明1の相違点1にかかる構成を容易に想到できたとはいえない。 (イ)本件取消理由において採用しなかった甲各号証について 上記取消理由で採用しなかった、川部典子申立による甲第1号証ないし甲第3号証及び鈴木真理子申立による甲第2号証ないし甲第5号証並びに甲第10号証のいずれの証拠にも上記本件特許構成Aが記載も示唆もされていないし、例え、これらの証拠を主引例として検討したとしても、本件特許発明1及び2を容易に想到できたとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2は、引用発明1、引用例2及び3記載の発明及び引用例4ないし7に記載の周知技術から当業者が容易になし得るものではない。 (2)本件取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人川部典子は、特許異議申立書において、請求項1に記載の「前記光スイッチが前記ポートPに入力した前記パルス試験光を前記ポートP_(0)から選択的に出力するときに、前記N本の光ファイバ線路それぞれに設けられた前記反射部それぞれでの反射を前記光パルス試験器において相互に分解できるようにパルス試験光のパルス幅を小さくして」の「前記光パルス試験器において相互に分解できるようにパルス試験光のパルス幅を小さくして」は、「パルス幅」の下限が不明確であるから、特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないと主張しているが、パルス試験光のパルス幅を極端に小さくすると、パルス試験光の強度が小さくなり、後方散乱光や反射光を検出することが困難になることは技術常識であるから、「パルス幅」の下限は、この技術常識を考慮して、後方散乱光や反射光を検出できる程度に十分に小さい幅であることが理解できるから、かかる主張は理由がない。 第6 むすび したがって、請求項1及び2に係る特許は、平成28年7月8日付けで通知した取消理由、平成28年9月29日付けの取消理由通知(決定の予告)の取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-01-31 |
出願番号 | 特願2014-260808(P2014-260808) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G01M)
P 1 651・ 537- Y (G01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森口 正治 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
福島 浩司 田中 洋介 |
登録日 | 2015-10-02 |
登録番号 | 特許第5811259号(P5811259) |
権利者 | 住友電気工業株式会社 |
発明の名称 | 光線路監視システム |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | ▲高▼木 邦夫 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 柴田 昌聰 |
代理人 | 寺澤 正太郎 |
代理人 | 阿部 寛 |