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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1324897 |
異議申立番号 | 異議2016-700870 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-15 |
確定日 | 2017-02-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5887131号発明「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5887131号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5887131号に係る発明は、平成23年12月26日に特許出願され、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 田中和幸(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成28年11月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月19日に意見書の提出があったものである。 2 本件発明 本件の請求項1-4に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-4に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 【請求項1】 「管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた撹拌羽根とを有する撹拌体を備える振動式撹拌混合装置を用い、前記ケーシング内に第1の流動体及び第2の流動体を連続的に供給し、両流動体の混合体に前記駆動軸により軸方向の振動を与える工程を有する、ラメラ構造を有する板状αゲル組成物の製造方法であって、 第1の流動体として、25℃において固体の油性成分を1種以上含む原料を加熱溶融して混合させてなる油性の第1の原料と、水性の第2の原料とを、第1の原料の固化開始温度以上で、かつ板状αゲル組成物の固化温度以下で混合して得られた液晶状態の流動体を用い、 第2の流動体として、水性の流動体を用い、 第1の流動体の供給温度が、第1の原料の固化開始温度より高く、 第2の流動体は、第1の流動体の供給温度よりも低い温度で前記振動式撹拌混合装置内に供給され、 前記混合体が前記振動式撹拌混合装置内を通過する過程において、該混合体を、第1の流動体と第2の流動体とを混合した時点での温度よりも低い温度まで冷却する、ラメラ構造を有する板状αゲル組成物の製造方法。」 【請求項2】 「第1の流動体と第2の流動体とを混合した時点での前記混合体の温度が、該混合体の固化終了温度未満となるように両流動体を混合する請求項1に記載の製造方法。」 【請求項3】 「前記25℃において固体の油性成分が、脂肪族アルコールと界面活性剤とを含有する請求項1又は2に記載の製造方法。」 【請求項4】 「前記ラメラ構造を有する板状αゲル組成物が、毛髪化粧料又は皮膚用化粧料である請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。」 3 取消理由通知の概要 当審は平成28年11月2日付けで概要以下のとおりの取消理由を通知した。 「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 … 2 理由Aについて …板状αゲル組成物のDSC曲線が複数の発熱ピークを有する場合、本件発明1における「板状αゲル組成物の固化温度」の意味が不明となり、結果、「板状αゲル組成物の固化温度以下で混合」とはどのような条件下で行うのか、判然としない。 よって、本件発明1は明確でない。また、これに従属する本件発明2-4も明確でない。」 4 上記取消理由についての判断 平成28年12月19日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第2号証(国際公開第2011/027811号)には、「本発明において「αゲル形成温度領域」とはαゲル形成による発熱ピークの温度範囲を意味し、ピーク温度とは前記発熱ピーク頂点の温度を意味する…。なお、DSC測定において、αゲル形成による発熱ピークの他にも発熱ピークが検出されることがある。これは、乳化パーツ中に含まれる成分の単なる凝固による発熱ピークであり、αゲル形成による発熱ピークはこれら凝固による発熱ピークとは異なる。」([0032])と記載されており、また、上記意見書に添付された乙第1号証には、上記申立人の追試と同様の温度設定で行った追試の結果として、大きな鋭い発熱ピーク(68℃前後と見受けられる。)とその低温側の小さな複数の発熱ピークの存在が示されている。 そして、乙第2号証の上記記載を勘案すると、乙第1号証の大きな鋭い発熱ピークは、αゲル形成による発熱ピークであり、低温側の小さな複数の発熱ピークは、乳化パーツ中に含まれる成分の単なる凝固による発熱ピークと解される。そうすると、本件発明1の「板状αゲル組成物の固化温度」を測定した際に発熱ピークが複数存在したとしても、その大きな鋭い発熱ピークを観測することで、「板状αゲル組成物の固化温度」を定めることができるものと認められる。このため、本件発明1における「板状αゲル組成物の固化温度」の意味が不明なものとはいえず、「板状αゲル組成物の固化温度以下で混合」という条件が明らかでないとはいえない。 したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2-4は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものといえ、本件発明1-4に係る特許は、この理由によって取り消すことはできない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 申立人は、特許異議申立書において、請求項1-4に係る発明の特許は、甲第1号証及び甲第2号証、さらに甲第3-5号証に記載された発明から当業者が容易に想到したものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(「理由1」という。)、また、請求項1-4に係る発明の特許は同法第36条第6項第2号の要件を満たさないものにされたものである(「理由2」という。)旨主張する。 <証拠方法> 甲第1号証:特表2006-509805号公報 甲第2号証:特表2006-509623号公報 甲第3号証:特開平4-235729号公報 甲第4号証:岡本亨、「化粧品における熱分析」、熱測定、第37巻、 第3号、第124頁-第131頁 甲第5号証:国際公開第2010/077707号 及びその翻訳文(特表2012-511038号公報) (以下、「甲第1号証」…「甲第5号証」を、「甲1」…「甲5」と略すことがある。) (1)理由1について ア 甲第1号証に記載された事項 (ア)「【請求項1】 (i)パーソナルケアベース組成物の第1水性相部分を第1容器において形成すること; (ii)場合によっては、前記パーソナルケアベース組成物の第2相部分を第2の容器において形成すること; (iii)前記第1水性相をブレンド管に供給し、前記第1水性相を、1分間あたり2.27から2,270kg(5から5,000ポンド)の流量で、前記ブレンド管を通して移動させること; (iv)場合によっては、存在する場合に前記第2相を前記ブレンド管に供給し、前記第2相を、1分間あたり2.27から2,270kg(5から5,000ポンド)の流量で、前記ブレンド管を通して移動させること; (v)前記第1水性相と、存在する場合には前記第2相とを、前記ブレンド管内で混合すること; (vi)相違部分の後添加相を、香料、着色剤、促進成分およびこれらの混合物から選択される材料を含む前記ベース組成物の前記混合相に供給して、得られるパーソナルケア組成物を生成させること;および (vii)得られた前記パーソナルケア組成物を回収すること を含むパーソナルケア組成物の製造方法。 … 【請求項4】 前記ブレンド管がホモジナイザの一部分をなす前記請求項のいずれか一項に記載の方法。」 (イ)「【0009】 図1により、本発明の方法による第1の実施形態の大まかな全体像が得られる。第1水性相2がタンク4内で配合される。この相はポンプ6により配管を通してブレンド管8に送られる。第2相10はタンク12内に入っている。タンクからの第2相の移動は、配管を通してブレンド管8にこの相を導くポンプ14により行われる。 【0010】 目的とする組成物がスキンケア組成物である場合には、しばしば、配合は、水とオイルの1つの相を必要とするエマルジョンであろう。この場合には、第2相はオイルであろう。シャンプーおよびシャワーゲルのような製品はオイル相を必要としないことが多い。これらのタイプの製品では、第2相は水性であり、通常、1種または複数の界面活性剤を送り込むであろう。シャンプーおよびシャワーゲルの界面活性剤の濃度は、通常、10%を優に超える。したがって、これらのタイプの製品では、第2相の重量に対して、約15%から約90%、好ましくは、約25%から約75%の範囲の全濃度で界面活性剤を含み得る水性の第2相を利用することができる。 … 【0014】 通常、第1水性相の配合は、タンク4において成分を混合すること、および、約10から約70℃、好ましくは、約18から約58℃、最適には、約24から約52℃の範囲の温度に保つことを含む。全てではないがほとんどの場合に、第1水性相の温度が、第2相より、互いにブレンドされる時点で、少なくとも約5℃、好ましくは、少なくとも約11℃低いことが好ましいであろう。 【0015】 ブレンド管8を出た後、その1相、あるいは、2と10の相の組合せは、大きな圧力と剪断の下で全ての相を完全に混合するホモジナイザとして機能するSonolator16に入る。次に、結果として得られる流体は、導管18を通して、スタティックミキサ20に送られる。」 (ウ)【0016】 Sonolator16の下流で、スタティックミキサ20に入る前に、着色剤相22、香料相24および促進成分相26の流体の流れが導入される。後添加される3つの相違部分の流れの各々は、それぞれの容器28、30および32に入れられている。一連の各ポンプ34、36および38が、導管18の中をスタティックミキサに向かって流れているベース組成物の流れに、相違部分の後添加相を送る。後で添加される相違部分の相は、それぞれの容器において配合され、約0から約66℃、好ましくは、約10から約52℃、最適には、約24から約46℃の範囲の温度で、導管18に送られる。 … 【0024】 第2相を、特にそれがオイルである場合、タンク12において、約10から約150℃、好ましくは、約38から約93℃、最適には、約65から約83℃の範囲の温度で成分を混合することにより形成することができる。 … 【0030】 第2相がオイルである場合、ブレンド管8におけるエマルジョンの温度は通常、オイル相がタンク12を出る時のオイル相の温度より低温であるべきである。ブレンド管8内の典型的なエマルジョンの温度は、約10から約83℃、好ましくは、約26から約65℃、最適には、約35から約55℃の範囲であり得る。」 (エ)「【0034】 本発明によるパーソナルケア組成物には、シャンプー、シャワーゲル、液体ハンドクレンザー、液体歯用組成物、スキンローションおよびクリーム、毛髪着色剤、フェイシャルクレンザー、ならびに、拭き取り用の物品に染み込ませるための流体が含まれる。 【0035】 相違部分の後添加相の数は1つまたは複数であり得る。これらの相の数は、約2から約8の範囲になることがある。それらは、水性またはオイル状の相であり得る。香料および着色剤と促進成分は、それらが高温に弱いので、相違部分として後添加するのに特に適している。」 (オ)「【実施例3】 【0098】 ヘアコンディショナー 以下の手順に従ってヘアコンディショナーが調製される。第1タンクにおいて水相が配合される。成分は表IIIAに示されている。温度は24°と46℃の間に保たれる。 【0099】 【表6】 表IIIA 水相 ┌────────────────┬──────────────┐ │ 成分 │ 重量% │ ├────────────────┼──────────────┤ │水 │ 46.785 │ ├────────────────┼──────────────┤ │塩化カリウム │ 0.30 │ ├────────────────┼──────────────┤ │EDTA二ナトリウム │ 0.10 │ ├────────────────┼──────────────┤ │Kathon CG (登録商標) │ 0.05 │ ├────────────────┼──────────────┤ │2-ブロモ-2-ニトロプロパノール-1 │ 0.03 │ └────────────────┴──────────────┘ 【0100】 別にオイル(エマルジョン型)相が第2タンクにおいて調製される。この相の成分は下の表IIIBに略述されている。オイル相の温度は65°と88℃の間に保たれる。 【0101】 【表7】 表IIIB オイル(エマルジョン)相 ┌────────────────┬──────────────┐ │ 成分 │ 重量% │ ├────────────────┼──────────────┤ │水 │ 41.785 │ ├────────────────┼──────────────┤ │塩化ジステアリルジモニウム │ 0.15 │ ├────────────────┼──────────────┤ │塩化セトリモニウム │ │ │(活性成分30%) │ 2.80 │ ├────────────────┼──────────────┤ │セチルアルコール │ 3.00 │ └────────────────┴──────────────┘ 【0102】 1組のプログレッシブキャビティポンプ(例えば、Moyno/Seepex)を用いてオイルおよび水の相が、それぞれのタンクから、1分間に約216.56と214.74kg(477ポンドと473ポンド)の速度でそれぞれ移送される。これらの相は、Sonolator(登録商標)の前室部分であるブレンド管に最終的には至るように結合されたパイプを通して送られる。 【0103】 次に、得られたブレンドは、液体がオリフィスを通って、液体のジェット流として直接ブレード状障害物に向けて流出する時に、混合分散される。この液体は、液体中のキャビティを引き起こす超音波振動を受ける。ソノレーションの圧力は約3,000psiに保たれる。Sonolator(登録商標)からの、最終ヘアコンディショナーの95%を占める液体は、得られるヘアコンディショナーの残りの5%を占める相違部分の後添加相の流れを受け入れる。相違部分の後添加相の流れの導入は、スタティックミキサに至る導管を通って移動する流体の流路の途中で行なわれる。次に、全ての流れはスタティックミキサにおいて(背圧は20psiに保たれる)さらにブレンドされる。相違部分の後添加相の成分は表III(C)に略述されている。相違部分の後添加相の温度は24°と46℃の間に保たれる。 【0104】 【表8】 表IIIC 相違部分の後添加相 ┌────────────────┬──────────────┐ │ 成分 │ 重量% │ ├────────────────┼──────────────┤ │水 │ 4.79788 │ ├────────────────┼──────────────┤ │香料 │ 0.20 │ ├────────────────┼──────────────┤ │酢酸ビタミンA │ 0.001 │ ├────────────────┼──────────────┤ │ハーブ抽出物 │ 0.001 │ ├────────────────┼──────────────┤ │D&C Red #33 │ 0.0001 │ ├────────────────┼──────────────┤ │D&C Orange #4 │ 0.00002 │ └────────────────┴──────────────┘ 【0105】 スタティックミキサにおける処理に続いて、混合されたヘアコンディショナーは貯蔵容器に送られる。個々のボトルが、貯蔵容器から供給を受けてパッケージラインで充填される。」 イ 甲第1号証に記載された発明 甲1には、65℃-88℃の間に保ったセチルアルコールを含むオイル相と、24℃-46℃の間に保った水を含む水相とを混合した流動体に、24℃-46℃の間に保った水を含む相違部分の後添加相である流動体を添加してホモジナイザで混合し、パーソナルケア組成物を得ること(上記ア(ア)、(イ)、(オ))が記載されている。また、オイル相と水相とをブレンドするホモジナイザの一部分をなすブレンド管における典型的なエマルジョンの温度は、好ましくは「約26から約65℃」(上記ア(ウ))と記載されている。 そうすると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。 「ホモジナイザを用い、ホモジナイザ内に水相とオイル相を混合した第1の流動体及び水を含む相違部分の後添加相である第2の流動体を供給し、両流動体をスタティックミキサで混合するパーソナルケア組成物の製造方法であって、 第1の流動体として、セチルアルコールを含む原料を65℃-88℃の間に加熱して混合させてなるオイル相と、水相とを、好ましくは約26から約65℃で混合して得られた流動体を用い、 第2の流動体として、水を含む相違部分の後添加相を用い、 第2の流動体は、24℃-46℃で前記ホモジナイザのブレンド管内に供給される、 パーソナルケア組成物の製造方法。」 ウ 本件発明1と甲1発明との対比・判断 (ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。 オイル相及び水相は、それぞれ油性及び水性の原料である。水を含む相違部分の後添加相は、水性の流動体である。甲1発明で使用されるセチルアルコールの融点は49℃であるのは技術常識であるから、セチルアルコールは25℃において固体の油性成分といえ、オイル相は、65℃-88℃の間に保っている(上記ア(オ))のであるから、加熱溶融されているといえる。スタティックミキサは攪拌混合装置といえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、下記の点で一致する。 「撹拌混合装置を用い、攪拌混合装置のケーシング内に第1の流動体及び第2の流動体を供給する組成物の製造方法であって、 第1の流動体として、25℃において固体の油性成分を1種以上含む原料を加熱溶融して混合させてなる油性の第1の原料と、水性の第2の原料とを、混合して得られた流動体を用い、 第2の流動体として、水性の流動体を用いる、 組成物の製造方法。」 そして、両発明は、下記の点で相違する。 相違点1:本件発明1は「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物の製造方法」であるのに対し、甲1発明は「パーソナルケア組成物の製造方法」である点。 相違点2:第1の流動体及び第2の流動体を混合する攪拌混合装置において、本件発明1は「管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた撹拌羽根とを有する撹拌体を備える振動式撹拌混合装置」であるのに対し、甲1発明は「スタティックミキサ」である点。 相違点3:攪拌混合装置のケーシング内への第1の流動体及び第2の流動体の供給が、本件発明1は「連続的」であるのに対し、甲1発明は明らかでない点。 相違点4:第1の流動体に関し、本件発明1は「第1の原料の固化開始温度以上で、かつ板状αゲル組成物の固化温度以下で混合して得られた液晶状態」のものであるのに対し、甲1発明は「好ましくは約26から約65℃で混合して得られた」ものである点。 相違点5:本件発明1は「第1の流動体の供給温度が、第1の原料の固化開始温度より高く、第2の流動体は、第1の流動体の供給温度よりも低い温度で前記振動式撹拌混合装置内に供給され」るのに対し、甲1発明は明らかでない点。 相違点6:第1の流動体と第2の流動体の混合体に対して、本件発明1は「振動式撹拌混合装置内を通過する過程において、該混合体を、第1の流動体と第2の流動体とを混合した時点での温度よりも低い温度まで冷却する」のに対し、甲1発明は明らかでない点。 (イ)上記相違点について検討する。 相違点1に関し、甲1のいずれの記載からも、「パーソナルケア組成物」が「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」となっていることが明らかでない。 この点に関し、甲4には以下の記載がある。 「3.1 界面活性剤/高級アルコール/水系分子集合体と熱分析 化粧品や医薬品に用いられる乳化基剤には,セチルアルコールやステアリルアルコールのような高級アルコールが配合されている。これら高級アルコールは,基剤中で界面活性剤,水とともにα-ゲルと呼ばれる会合体を形成し,そのネットワーク構造により系の粘度を上昇させエマルションの安定化に寄与している。…α-ゲルの構造はSAXS(小角X線散乱)測定などから,層状結晶の親水部の間に水が保持されたラメラ状の構造をとることが分かっている。」(126頁左欄16行-右欄18行) しかし、この記載をもってしても、甲1発明において、スタティックミキサによる攪拌混合を経たものが「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」となっていることが確認できない。このため、本件発明1と甲1発明とは、甲4の記載を参酌しても、少なくとも相違点1において明らかに相違するものである。そして、甲3及び甲5の各々において「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」を得ることの記載ないし示唆はない。 また、相違点2に関し、甲3には「管状のケーシング内に、駆動軸と、該駆動軸に取り付けられた撹拌羽根とを有する撹拌体を備える振動式撹拌混合装置」が記載されているが、甲3に記載された振動式攪拌混合装置を甲1発明の「スタティックミキサ」の代わりに使用しうることの記載ないし示唆は、甲1、甲3-甲5のいずれにも存在しない。加えて、甲3に記載された振動式攪拌混合装置を甲1発明の「スタティックミキサ」の代わりに使用した際に、「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」を得ることができるのか,何ら明らかでない。 してみると、相違点3-6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第3-5号証に記載された発明から当業者が容易に想到したものとはいえない。 エ 甲第2号証に記載された事項 (ア)「【請求項1】 (i)50から30,000cpsの粘度をもつ第1の水相をブレンド管に供給すること; (ii)第2の相を前記ブレンド管に供給すること; (iii)30cps未満の粘度をもち、組成物の少なくとも15%である第3の相を前記ブレンド管に供給すること; (iv)3つの全ての前記相を合わせて混合すること; を含み、前記相のそれぞれが、10から5,000psiの圧力で、また、1分間あたり2.274から2,270kg(5から5,000ポンド)の流量で、液体の流れとして、前記ブレンド管にポンプで送られ; さらに (v)得られた混合物をパーソナルケア組成物として回収すること; を含む、パーソナルケア組成物の製造方法。」 (イ)「【0006】 今や、パーソナルケア組成物の製造について、かなり優れた製造効率を達成できることが見出された。この前進は、最終のパーソナルケア組成物において見出される水溶性成分のほとんどを組み入れる濃厚な第1の水相に基づいている。ここで、濃厚液は、第2の相とブレンドされる。最終のパーソナルケア組成物が、スキンクリームなどのエマルジョンである場合、第2相は油相であろう。油相を含まないシャンプーのような他の製品は、1種または複数の界面活性剤と共に配合された水性の第2相を用いて製造されるであろう。第3の相は追加の水を供給する。通常、第3相は、純粋な水であろうが、時には、それは少量のさらなる成分を伴い得る。」 (ウ)「【0011】 図1は、本発明による方法の概略的流れ図である。濃厚な第1水相2がタンク4内で配合される。所望の組成を実現するために、濃厚液を薄めるには、重量で2から50倍の間の何れかの量の純粋な水を必要とするであろう。第1相はポンプ6により配管を通してブレンド管8に送られる。 【0012】 第2相10は、タンク12内に保持される。目的とする組成物がスキンケア製品である場合にはしばしば、配合は水および油の相を必要とするエマルジョンであろう。この場合には、第2相は油相であろう。シャンプーおよびシャワージェルなどの製品では、油相を必要としないことが多い。これらのタイプの製品では、第2相は水性で、1種または複数の界面活性剤を通常伴うであろう。シャンプーおよびシャワージェルにおける界面活性剤のレベルは、通常、10%を優に超える。したがって、これらのタイプの製品は、第2相の約15重量%から約90重量%、好ましくは、約25重量%から約75重量%の範囲のレベルで総界面活性剤を含み得る水性第2相を用いるであろう。 【0013】 ポンプ14により第2相はブレンド管に送られる。典型的なポンプはTriplex Catまたはプログレッシブ(progressive)キャビティポンプ(例えば、Moyno/Seepex)であり得る。 【0014】 通常水だけからなるが、時には少数の添加剤を含み得る第3の相16もまたブレンド管に供給される。移送はポンプ18により円滑に行われる。ポンプは、Moyno/Seepexのプログレッシブキャビティポンプ、Waukeshaまたは容積移送式ポンプであり得る。 【0015】 ブレンド管8を出て次に、相2、10および16の組合せは、全ての相を合わせて高圧、高剪断下で十分に混合するホモジナイザとして働く、Sonolator(登録商標)20に入る。次に、得られた流体は背圧バルブ22を通して送られる。三方バルブ24の下流で、ほとんどの生成物は、貯蔵タンクに、あるいは直接パッケージ充填機26に導かれる。通常、少量の生成物が、ポンプ30による第1相の流れへのリサイクルのために、三方バルブを通して再処理タンク28に向けられる。再処理量は、ブレンド管を経由してSonolatorを出た総生成物の、0から50%、好ましくは1から20%の範囲、最適には約5%であり得る。 【0016】 通常、本発明の方法は、第1の反応器における第1水相の形成を含み、そこで、成分が混合され、約10から約70℃、好ましくは、約18から約58℃、最適には、約24から約52℃の温度に保たれる。全てではないがほとんどの場合において、第1水相は、第2水相(特にこれが油である場合)より、互いにブレンドされる時点で、少なくとも約5℃、好ましくは少なくとも約11℃、低い温度であることが好ましいであろう。 【0017】 第2相は、反応器において、約10から約150℃、好ましくは、約40から約165℃、最適には約66から約95℃の範囲の温度で成分を混合することにより得られるであろう。 【0018】 第3相は、約0から約57℃、好ましくは、約5から約45℃、最適には約15から約38℃の温度に保たれ得る。 … 【0024】 第2相が油である系では、ブレンド管8におけるエマルジョンの温度は、通常、第2(油)相がその反応器タンクを出る時のその相の温度より低くあるべきである。ブレンド管8内のエマルジョンの典型的な温度は、約10から約82℃、好ましくは、約27から約65℃、最適には、約35から約55℃の範囲であり得る。 … 【0031】 通常、第3相は水だけからなるであろう。しかし、特定の事例では、この相は少量の添加剤を含み得る。通常、これらの添加剤の量は、第3相の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、最適には2重量%以下をなすであろう。対照的に、第1水相(濃厚液)は、通常、濃厚液の5重量%を超え、好ましくは10重量%を超え、最も好ましくは15重量%を超え、最適には40重量%を超える、水以外の成分を含む。」 (エ)「【0033】 本発明によるパーソナルケア組成物には、シャンプー、シャワージェル、液体ハンドクレンザー、液体歯用組成物、スキンローションおよびクリーム、毛染め、フェイシャルクレンザー、ならびに、拭き取り物品に吸収させる含浸流体が含まれ得る。 【0034】 通常、第1相および/または第2相は界面活性剤を含んでいるであろう。有用な界面活性剤には、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両性、双性(zwitterionic)のもの、およびこれらの組合せが含まれる。界面活性剤の全体としての量は、パーソナルケア組成物全体の約0.1重量%から約50重量%、好ましくは、約2重量%から約40重量%、最適には、約15重量%から約25重量%の範囲であり得る。」 (オ)「【0086】 1組のスキンローションを、2倍および10倍レベルの濃厚液を示すために調製する。何れの濃厚液も、適切な量の水を追加すると、表Iに示される、結果として得られる組成物となるであろう。 【0087】 【表1】 【0088】 油および水の相を、それぞれ別々に、それぞれの第1および第2タンクに入れる。プログレッシブキャビティポンプ(例えば、Moyno/Seepex)により、これらの相を、別々に、パイプを通して、Sonolator(登録商標)の前室部分であるブレンド管に供給する。合わせた流量を、200psiで、正確に9.08kg(20ポンド)/分に維持する。濃厚水相を、24と52℃の間の温度に保ち、タンク容量は3,000ガロンである。油相を、250ガロンのタンクにおいて65から93℃の温度に保つ。 【0089】 2倍濃厚液の実験では、第3のタンクから、第1水相および油相の圧力と同じ圧力に調節した純粋な水である第3の流れを送る。純粋な水の相を15から38℃に保ち、Sonolator(登録商標)の前室部分であるブレンド管にポンプで送る。次に、全ての相を、Sonolator(登録商標)において500psiで、合わせて均質化する(homogenize)。その後、合わせた流れを貯蔵容器に送り、得られた生成物をそこで24から44℃に保つ。得られたスキンローション組成物のいくらかを、戻りの流れとして、Sonolator(登録商標)のブレンド管に、容積式供給ポンプにより輸送する。この戻りの流れの量は、新たな運転開始のために、あるいは再処理物として、ほぼ5%である。貯蔵容器内に保たれる組成物の残りを、パッケージングラインに送り、空のボトルに充填する。 【0090】 10倍濃厚液では、水/シックナー(Carbopol 934(登録商標))の第4の流れを用いる。この第4の流れを、同様の圧力と流量(最終組成物におけるその比率に比例する)で、Sonolator(登録商標)の前室部分であるブレンド管にポンプで送る。他の全ての工程は、2倍濃厚液について上に記載したものと同じである。」 オ 甲第2号証に記載された発明 甲2には、65℃-93℃の間に保ったセチルアルコールを含む油相と、24℃-52℃の間に保った水溶性成分を含む水相と、15℃-38℃の間に保った別の水相とをブレンド管とホモジナイザで混合して、パーソナルケア組成物を得ること(上記エ(ア)、(イ)、(オ))が記載されている。 そうすると、甲2には、次の甲2発明が記載されている。 「水溶性成分を含む水相とセチルアルコールを含む油相と別の水相を、ブレンド管とホモジナイザで混合するパーソナルケア組成物の製造方法。」 カ 本件発明1と甲2発明との対比・判断 本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも、上記ウ(ア)で挙げた相違点1において両者は相違する。 また、少なくとも両者は、本件発明1が「油性の第1の原料」と「水性の第2の原料」とを混合した「第1の流動体」と、水性の「第2の流動体」とを混合するものであるのに対し、甲2発明が「水溶性成分を含む水相」と「セチルアルコールを含む油相」と「別の水相」の三相を同時にホモジナイザで混合することにおいても相違する。(相違点7) そして、上記ウ(イ)で検討したことと同様、甲2発明において、ブレンド管及びそれに続くホモジナイザによる混合を経たものが「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」となっていることが確認できない。このため、本件発明1と甲2発明とは、甲4の記載を参酌しても、少なくとも相違点1において明らかに相違するものである。そして、甲3及び甲5の各々において「ラメラ構造を有する板状αゲル組成物」を得ることの記載ないし示唆はない。 また、相違点7に関し、甲2発明に係る「水溶性成分を含む水相」と「セチルアルコールを含む油相」と「別の水相」の三相を、まず「水溶性成分を含む水相」と「セチルアルコールを含む油相」とを混合して第1の流動体とし、その後「別の水相」を第2の流動体として混合するというようにすることの記載ないし示唆は、甲各号証のいずれにも存在しない。 してみると、本件発明1は、甲2発明及び甲第3-5号証に記載された発明から当業者が容易に想到したものとはいえない。 キ 本件発明2-4についての判断 本件発明2-4は、本件発明1を引用し、さらに限定を加えたものである。そして、上述のとおり、本件発明1は甲第1号証及び甲第2号証、さらに甲第3-5号証に記載された発明から当業者が容易に想到したものはいえないことに鑑みると、本件発明2-4についても、甲第1号証及び甲第2号証、さらに甲第3-5号証に記載された発明から当業者が容易に想到したものはいえない。 ク まとめ よって、本件発明1-4は、甲第1号証及び甲第2号証、さらに甲第3-5号証に記載された事項から当業者が容易に想到したものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとの理由で本件発明1-4に係る特許を取り消すことはできない。 (2)理由2について 申立人は、「第1の原料の固化開始温度」及び「板状αゲル組成物の固化温度」の追試結果を示しつつ、「本件特許明細書には、DSC測定を行う際の各種条件について記載されていないため、請求項1に記載された「第1の原料の固化開始温度」及び「板状αゲル組成物の固化温度」の意味が不明確であるとともに、「板状αゲル組成物の固化温度」の定義自体も不明確であることから、明確性要件を満たさない。 なお、請求項2に記載された「混合体の固化終了温度」についても上記と同様の不備を有する。」と主張する。 しかし、上記4で検討したとおり、本件発明1における「板状αゲル組成物の固化温度」の意味が不明なものとはいえず、「板状αゲル組成物の固化温度以下で混合」という条件が明らかでないとはいえない。 また、「第1の原料の固化開始温度」については、本件明細書【0049】には、「上述した「第1の原料の固化開始温度」とは、該第1の原料を、示差走査熱量計(DSC)を用い、2℃/minの加熱速度で95℃まで昇温した後、2℃/minの冷却速度で降温したときの、発熱ピークの立ち上がる温度で定義される。第1の原料が固体油性成分を2種以上含有する場合、その固化開始温度とは、2種以上の固体油性成分が相溶する場合は前記と同様に定義され、2種以上の固体油性成分が相溶せず発熱ピークが多数になる場合は、固化開始温度は、最も高温側の発熱ピークの立ち上がる温度で定義される。」と記載されており、上記4で検討した「板状αゲル組成物の固化温度」の意味と同様、「固化開始温度は、最も高温側の発熱ピークの立ち上がる温度」として明らかである。 さらに、「混合体の固化終了温度」については、本件明細書【0055】には、「撹拌混合装置51内において第1の流動体と第2の流動体とを混合した時点でのラメラ液晶状態の混合体の温度は、目的とするゲル組成物の感触向上の観点から、該混合物の固化終了温度未満、すなわち目的とするゲル組成物の固化終了温度未満となるように、両流動体を混合することが好ましい。」との記載があるとおり、「混合体の固化終了温度」は「ゲル組成物の固化終了温度」であり、本件明細書【0051】の「上述した「板状αゲル組成物の固化終了温度」とは、該板状αゲル組成物を、示差走査熱量計(DSC)を用い、2℃/minの加熱速度で95℃まで昇温した後、2℃/minの冷却速度で降温したときの、最も低温側の発熱ピークと低温側でのベースラインとの交点である温度で定義される。」との記載を勘案すると、上記4で検討した「板状αゲル組成物の固化温度」の意味と同様、「最も低温側の発熱ピークと低温側でのベースラインとの交点である温度」として明らかである。 そうすると、本件発明1-4は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものとはいえず、この理由によって本件発明1-4に係る特許を取り消すことはできない。 6 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件発明1-4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1-4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-02-08 |
出願番号 | 特願2011-282999(P2011-282999) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 吾一 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 大熊 幸治 |
登録日 | 2016-02-19 |
登録番号 | 特許第5887131号(P5887131) |
権利者 | 花王株式会社 |
発明の名称 | ラメラ構造を有する板状αゲル組成物の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人翔和国際特許事務所 |
代理人 | 松嶋 善之 |
代理人 | 羽鳥 修 |