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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1324905
異議申立番号 異議2016-701125  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-08 
確定日 2017-02-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5933374号発明「薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5933374号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5933374号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年 7月 3日に出願したものであって、平成28年 5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して、特許異議申立人笹川拓により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件特許
特許第5933374号の請求項1?5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものである。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、米国特許出願公開第2009/0224211号明細書(甲第1号証)、特開2003-207951号公報(甲第2号証)、特開2012-51991号公報(甲第3号証)、特開平11-45715号公報(甲第4号証)、特開2008-251965号公報(甲第5号証)、及び、特開2011-148866号公報(甲第6号証)を提出し、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

4 甲号証の記載
(1)本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、「DISPERSION AND METHOD FOR THE PRODUCTION THEREOF」(発明の名称、当審訳「分散体とその生産のための方法」)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「ABSTRACT
The present invention relates to a dispersion, consisting of a dispersing liquid and at least one solid substance that is distributed in the dispersing liquid. In order to obtain a dispersion with particularly good properties, it is provided that the dispersing liquid has an aqueous and/or non-aqueous base, that the at least one solid substance is formed of graphite and/or of carbon nanomaterial and/or of coke and/or of porous carbon, and that the at least one solid substance is distributed homogeneously and stably in the dispersing liquid. A method for the production of such a dispersion is provided such that the dispersion is produced by applying a strong accelerating voltage. In addition, various advantageous uses of such a dispersion are indicated.」
(当審仮訳:要約
本発明は、分散液体と、分散液体に分散された少なくとも1つの固体物質とからなる分散体に関するものである。特に良い特性を有する分散体を得るために、分散液体は、水系及び/又は非水系溶媒であり、少なくとも1つの固体物質は、黒鉛及び/又は炭素ナノ材料及び/又はコークス及び/又は多孔質炭素からなり、少なくとも1つの固体物質は分散液体中に均一に安定して分散される。このような分散体の製造方法は、分散体に高速圧を作用させることにより提供される。加えて、このような分散体の様々な好適な使用が示される。)
イ 「[0011] The graphites used may be, for example, natural graphites, synthetically produced graphites and their precursors, intercalated graphites (expanded graphites) and the like.」
(当審仮訳:[0011] 黒鉛は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛及びその前駆体、層間黒鉛(膨張黒鉛)など使用してもよい。)
ウ 「[0018] Advantageously, at least one acid and/or at least one acid-acting compound can be added to the dispersion. The latter may involve, for example, organic acids, such as, e.g., acetic acid, formic acid, malonic acid anhydride, and the like. However, for example, it may also involve inorganic acids, such as, e.g., sulfuric acid, nitric acid, and the like.」
(当審仮訳:[0018] 好適には少なくとも1つの酸及び/又は少なくとも1つの酸作用化合物を分散体に添加することができる。後者は、例えば、酢酸、ギ酸、無水マロン酸等のような有機酸を含んでもよい。しかしながら、例えば、硫酸、硝酸等のような無機酸を含んでもよい。)
エ 「[0023] A dispersion formed according to the preceding embodiments can be produced in a particularly advantageous manner by the method according to the invention, which is described as follows.
・・・
[0025] Stable dispersions of graphites and/or carbon nanomaterials and/or cokes and/or porous carbons as well as combinations thereof can be produced with the method according to the invention.
・・・
[0027] Advantageously, the initial product of the dispersion is pumped through a reaction chamber with high acceleration and at high pressure. The dispersal, i.e., the splitting of aggregates and agglomerates into single particles, is achieved by applying an extreme acceleration. The dispersion will be pumped through a reaction chamber at extreme pressure.
[0028] Preferably, the initial product of the dispersion is thus pumped through the reaction chamber at a pressure between 500 bars and 5,000 bars. In addition, the pumping through the chamber can be performed with a shearing velocity between 500,000 sec^(-1) and 8,000,000 sec^(-1). In this way, the dispersed particles are extremely accelerated in the reaction chamber. In a preferred embodiment, the pressure amounts to 1,000 bars or to at least approximately 1,000 bars and the shearing velocity amounts to 5,000,000 sec^(-1).
[0029] Advantageously, the reaction chamber has at least one dispersion guide with at least one baffle plate, whereby the dispersion is pumped through the dispersion guide equipped with the at least one baffle plate. A dispersion guide generally involves a structural configuration for correctly guiding or leading the dispersion through the reaction chamber.
[0030] The extreme shearing stresses that occur in this way tear apart the aggregates and agglomerates so that they are broken down into single particles. The additives that are optionally present in the dispersing liquid prevent re-agglomeration. The additives are selected so that they act either by electrochemical shielding or by steric stabilizing.
・・・
[0032] The described method is also suitable for the purpose of mechanically and/or chemically modifying the materials used. For example, graphites can be delaminated and carbon nanotubes or fibers can be unraveled and shortened. ・・・」
(当審仮訳:[0023] 先の実施態様に従って形成された分散体は、以下に記載された本発明による方法によって特に有利に製造することができる。
・・・
[0025] 黒鉛及び/又は炭素ナノ材料及び/又はコークス及び/又は多孔質炭素、それらの組み合わせの安定な分散体は、本発明による方法で製造することができる。
・・・
[0027] 好適には、分散体の初期生成物は、高い流速及び高い圧力で反応チャンバに流通される。分散体、つまり凝集体及び塊の単一粒子への分割は、速い流速を作用させることにより処理される。前記分散体は超高圧で反応チャンバに流通させる。
[0028] 好ましくは、分散体の初期生成物は、500bar?5000barの圧力で反応チャンバに流通させる。さらに、チャンバに流通させることで、500000秒^(-1)?8000000秒^(-1)のせん断速度がかかる。このように分散された粒子は反応チャンバ内で高速である。好ましい実施形態では、圧力は1000bar又は少なくとも約1000barであり、せん断速度は5000000秒^(-1)である。
[0029] 有利には、反応チャンバは、少なくとも1つの邪魔板を有する少なくとも1つの分散ガイドを有し、それによって、分散体が少なくとも1つの邪魔板を備えた分散ガイドを流通する。分散ガイドは、一般的に、分散体を反応チャンバに正確にガイドまたは導くための構造的構成を含んでいる。
[0030] このようにして起こる極端なせん断応力は、凝集体及び塊を引き裂き、それらが単一粒子に粉砕される。分散体中に存在する付加的な添加剤は再凝集を防止する。添加剤は、電気化学的遮蔽または立体安定化のいずれかが作用するように選択される。
・・・
[0032] 記載された方法はまた、使用される材料を機械的および/または化学的に改質する目的にも適している。例えば、黒鉛を層間剥離させることができ、カーボンナノチューブまたは繊維を解き縮めることができる。・・・)
オ 「EXAMPLE 1
[0049] 20 g of polyethylene glycol, molecular weight of 1500, were dissolved in 700 ml of demineralized water while stirring. After this, 30 g of carboxymethylcellulose sodium salt, degree of substitution 0.8-1.2 were also dissolved while stirring. Subsequently, while continuing the stirring process, 250 g of graphite powder, 99.9% C, a particle size D50 of 2.0 μm, a specific BET surface of 18.3 m^(2)/g and an aspect ratio of 13.2 were added. This preliminary dispersion with a viscosity of 1250 mPa s was then subjected to a shearing velocity of 3,500,000 sec^(-1) at a pressure of 1500 bars. After passage, the graphite had a particle size D50 of 1.4 μm and a specific surface of 26.2 m^(2)/g as well as a viscosity of 6300 mPa s. The graphite particles did not show agglomeration and the increase of surface and viscosity as well as the increase of the aspect ratio from 13.2 to 16.6 showed a delamination along with the dispersal.」
(当審仮訳:実施例1
[0049] 攪拌しながら700mlの純水に、分子量1500のポリエチレングリコール20gを溶解させた。その後、攪拌しながら置換度0.8?1.2のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩30gを溶解させた。その後、攪拌工程を継続しながら、純度99.9%、粒子サイズD50 2.0μm、BET比表面積18.3m^(2)/及びアスペクト比13.2の黒鉛粉末250gを添加した。次に、粘度1250mPa・sの予備分散物を、圧力1500barで3500000秒^(-1)のせん断速度に付した。流通後、黒鉛の粒子径D50は1.4μm、比表面積は26.2m^(2)/gであり、粘度は6300mPa・sであった。黒鉛粒子は凝集を示さず、表面及び粘度の増加、並びに、13.2から16.6へのアスペクト比の増加は、分散に伴う層間剥離を示した。)

(2)本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には、「静電写真用液体現像剤、その製造方法、画像形成方法及び分散液の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の第二の目的は、分散性の悪い分散媒中においても良好に分散できる静電写真用液体現像剤、インク及び塗料の製造方法を提供することである。・・・」
イ 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記本発明の目的は次の手段によって達成される。すなわち、本発明によれば、第一に、請求項1では、少なくとも分散媒と着色剤とを含有する静電写真用液体現像剤形成用分散液を直径10μm?1mmの径のノズル中を1Mpa以上の圧力で通過させることにより微粒化することを特徴とする静電写真用液体現像剤が提供される。
ウ 「【0017】第十二に、請求項12では、少なくとも分散媒と着色剤とを含有する分散液を直径10μm?1mmの径のノズル中を1Mpa以上の圧力で通過させることにより微粒化することを特徴とする分散液の製造方法が提供される。」
エ 「【0020】圧力は1Mpa以上が必要であるが、低すぎると分散性が悪くなるため、望ましくは20?200Mpa、更に望ましくは80?140Mpaが良い。・・・」
オ 「【0053】
(実施例8)
ロジン変性フェノール樹脂 40部
カーボンブラック(デグサ社製Printex) 40部
アマニ油 40部
トルエン 50部
をディスパーザで十分プレミックスした後、貫通型ノズル分散機(吉田機械社製:ナノマイザー貫通型ジェネレータタイプA)に入れて130?150Mpaで吐出させ分散し、印刷インクを製造した。・・・」

(3)本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には、「セルロースナノファイバー分散体及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0009】
本発明によれば、セルロースナノファイバーが良好に分散した分散体を得ることができる。」
イ 「【0012】
本発明において、セルロースは高圧噴射処理によりナノファイバーとすることができ、得られたナノファイバーは、高圧噴射処理に供されるセルロースの濃度が薄い場合には、流動性の分散体になるが、特にセルロースが微細化(ナノファイバー化)するにしたがって粘性が高くなり、濃度が高くなるとペーストに近い性状となる。・・・」
ウ 「【0023】
セルロースの分散流体は、(株)スギノマシンが開発した高圧噴射を用いた超微細化装置を用いてノズルより高圧噴射することができる。高圧噴射の圧力は、100?245MPa程度である。噴射速度は、440?700m/s程度である。
【0024】
高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させたセルロースの分散流体は回収し、再度ノズルより衝突用硬質体に向けて高圧噴射され、この操作を必要な回数、例えば1?50回程度、好ましくは1?40回程度、より好ましくは1?30回程度、さらに好ましくは1?20回程度、特に好ましくは1?10回程度繰り返す。セルロースは、衝突用硬質体に衝突することで、繊維の絡まりがほどけ、繊維径が縮小し、ナノサイズに微細化していく。また、高圧噴射処理に供するセルロース分散体に特定の分散剤が含まれているので、分散したナノファイバーの再結合が抑制され、少ない処理回数で良好に分散したナノファイバー分散体を得ることができる。」
エ 「【0032】
実施例1?28及び比較例1?3
微細化用シングル噴射チャンバーを用いたセルロースナノファイバー分散体の製造方法
【0033】
図1に、本発明で使用する高圧噴射装置の一例を示す。
(1)液体にセルロースを混合した液体状もしくはスラリー状の流体を100?245 MPaの超高圧に加圧し、微細なオリフィスノズル(φ0.1?0.8mm)から高圧で噴射し、ナノファイバーを得る。
(2)オリフィスノズルからの吐出流は440?700m/sの高速噴流となるが、その速度までに加速されるオリフィス内では、高い剪断力が発生する。ここで使用するオリフィスノズルの厚みは0.4mmと極端に薄いため、圧力エネルギーのほぼ100%を噴射の速度エネルギーに変換できる。すなわち、オリフィス内部では、0.1?0.8mmという狭い隙間と、440?700m/sの超高速の状態となり、高い剪断力を得るための構成要素が満たされている。
(3)440?700m/sの高速噴流(高圧噴射状態)ではキャビテーション気泡が発生し、この気泡が消滅することによって強い衝撃力が発生する。オリフィスノズル後に「衝撃増強領域」を設けることで、キャビテーションを効率的に発生させることができる。
(4)構造上の噴流受けとして、ボール状または平板状のセラミック硬質体を具える。結晶化度をより低下させるためには、噴射圧力を高くし噴流の速度の速い領域を用い、この硬質体への衝突力も粉砕に利用する。
【0034】
上記の装置を用いて、セルロース原料(KCフロック、日本製紙製)、を0.02重量%、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムまたはポリリン酸カリウム0.0004?0.01重量%を含む分散液について5回高圧噴射処理を繰り返し、セルロースナノファイバー分散体を調製した。」

(4)本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には、「非水電解質二次電池とその負極の製造法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0018】請求項8に記載の発明は広角X線回折法による(002)面の面間隔(d002)が3.350?3.360Åであり、C軸方向の結晶子の大きさ(Lc)が少なくとも1000Å以上で平均粒子径が20μm以上でかつ一番薄い部分の厚さの平均値が15μm以上の鱗片状あるいは塊状黒鉛粒子を液体中あるいは気体中に分散させ、その液体または気体に圧力をかけてノズルからラセン状に吐出して微粉砕後篩分けし、ディスク状またはタブレット状粒子を得て、これを用いて負極を形成することを特徴とする非水電解質二次電池用負極の製造法に係るものである。本発明方法を実施するに当っては、湿式法、乾式法のいずれでもよく、黒鉛粒子を液体中に分散させて微粉砕しディスク状またはタブレット状の黒鉛粒子を得る湿式法に関しては、液体中の黒鉛濃度を5?30重量%にするのが好ましく、15?25重量%がより好ましい。ノズル径としては、0.3?3mmにするのが好ましく、0.6?1.2mmがより好ましい。さらに吐出圧としては、100?1000kg/cm^(2) が好ましく、400?700kg/cm^(2) がより好ましい。」

(5)本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には、「電気化学素子用電極およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0014】
黒鉛の粒子の形状や寸法は、得られる複合粒子が電気化学素子用電極に成形できる範囲であれば、特に限定されない。例えば、黒鉛として、薄片状黒鉛粒子、圧密化黒鉛粒子及び球状化黒鉛粒子等を使用できる。これら黒鉛の粒子の性状及び製造方法は公知である。薄片状黒鉛粒子は一般に厚みが1μm以下、好ましくは0.1μm以下であり、かつ最大粒子長は100μm以下、好ましくは50μm以下である。薄片状黒鉛粒子は天然黒鉛や人造黒鉛を化学的、あるいは物理的方法で粉砕してえられる。例えば、天然黒鉛や、キッシュ黒鉛、高結晶性熱分解黒鉛等の人造黒鉛材料を硫酸と硝酸の混酸で処理、加熱して膨張黒鉛を得て、超音波法などで粉砕して薄片化黒鉛を得る方法や、硫酸中で電気化学的に黒鉛を酸化して得られる黒鉛-硫酸の層間化合物や、黒鉛-テトラヒドロフラン等の黒鉛-有機物の層間化合物を外熱式あるいは内熱式炉で、更にはレーザー加熱等により急速加熱処理して膨張化させ、粉砕する等の公知の方法に従って製造することができる。あるいは天然黒鉛や人造黒鉛を機械的に例えばジェットミルなどで粉砕して得ることが出来る。上記薄片状黒鉛粒子は、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛を、薄片化及び粒子化することにより得られる。薄片化及び粒子化の方法としては、例えばこれらを超音波や各種粉砕機を用いて機械的或いは物理的に粉砕する方法がある。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛をジェットミルなどシェアをかけない粉砕機で粉砕薄片化した黒鉛粒子は、ここでは特に鱗片状黒鉛粒子と呼ぶ。これに対し、膨張黒鉛を超音波などを用いて粉砕、薄片化した黒鉛粒子をここでは特に葉片状黒鉛とよぶ。・・・」

(6)本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には、「エマルジョン燃料及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
ア 「【0042】
この発明では、高圧攪拌装置を用いた攪拌が行われるため、エマルジョン燃料の乳化状態を一層安定化させることが可能である。
【0043】
本願における「高圧攪拌装置」は、液体を加圧する加圧手段と、前記加圧手段により加圧された液体が通過する流路とを有し、前記流路を通過させることで液体を攪拌する攪拌装置を言う。本発明の加圧手段による加圧は、20MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることが更に好ましく、80MPa以上であることが特に好ましい。本発明の加圧手段により加圧された液体の流路中での流速は、30m/秒以上であることが好ましく、50m/秒以上であることがより好ましく、100m/秒以上であることが特に好ましい。
【0044】
本発明の「高圧攪拌装置」には、以下に定義されるナノマイザー装置及びホモゲナイザー装置が含まれる。
【0045】
「ナノマイザー装置」は、流路の断面積Sが1mm^(2)以下であり、アスペクト比R(流路断面積Sを流路長Lで除した値)が10mm^(-1)以上の高圧攪拌装置を言う。ナノマイザー装置では、液体が流路を通過する際に生じるキャビテーションや剪断力により液体が攪拌され、及び/又は、液体中の粒子(液滴)が微細化及び/又は高分散化されるものと考えられる。ナノマイザー装置の流路は、直線状であっても良く、湾曲、屈曲又は分岐したものでも良い。
【0046】
流路の断面積S及びアスペクト比Rは、S≦1mm^(2)、R≧10mm^(-1)であることが好ましく、S≦0.5mm^(2)、R≧50mm^(-1)であることがより好ましく、S≦0.1mm^(2)、R≧100mm^(-1)であることが特に好ましい。流路長Lは2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることが特に好ましい。」
イ 「【0053】
このような直線状の流路30aを有するナノマイザー装置1では、液体と管壁の間に生じるキャビテーションや管壁からの距離による流速差によって生じる剪断力などにより、流路30aを通過する液体が攪拌され、及び/又は、液体中の粒子(液滴)が微細化及び/又は高分散化される。」

5 判断
(1)甲第1号証に記載された発明
上記4(1)アによれば、甲第1号証には、分散液体に分散された黒鉛からなる分散体に高速圧を作用させて、黒鉛を分散液体中に均一に安定して分散させることが記載されている。また、上記4(1)エによれば、甲第1号証には、分散体の初期生成物を、邪魔板を有する分散ガイドを備えた反応チャンバ内に超高圧で高いせん断速度で流通させて、黒鉛が安定して分散された分散体を製造することが記載され、また、黒鉛の層間剥離させる目的に適することも記載されている。さらに、上記4(1)オによれば、甲第1号証には、純水に黒鉛粒子を添加した予備分散物を、圧力1500bar、せん断速度3500000秒^(-1)となるように通過させ、黒鉛粒子の層間剥離をすることが記載されている。

これらの記載を、本件特許の請求項1に係る発明の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、「黒鉛を純水に分散させた予備分散物を、邪魔板を有する分散ガイドを備えた反応チャンバ内に、圧力1500bar、せん断速度3500000秒^(-1)となるように通過させて、層間剥離した黒鉛が均一に安定して分散された分散体を製造する方法」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)請求項1に係る発明について
ア 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」ということもある。)と甲1発明を対比すると、甲1発明の「黒鉛を純水に分散させた予備分散物」、「反応チャンバ内に」「通過させ」ることは、本件特許発明1の「黒鉛または黒鉛化合物を分散媒に懸濁させた懸濁液」、「細孔に通過させる」ことにそれぞれ相当する。また、甲1発明の「層間剥離した黒鉛が均一に安定して分散された分散体を製造する方法」は、黒鉛が層間剥離することで薄層黒鉛となることから、本件特許発明1の「黒鉛または黒鉛化合物の層間を」「剥離する」「薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法」に相当する。さらに、甲1発明の「予備分散物」を「反応チャンバ内に、圧力1500bar、せん断速度3500000秒^(-1)となるように通過させて」、「黒鉛が均一に安定して分散された分散体」とすることは、予備分散物を高圧で細孔に通過させて均一安定な分散体を得ていることから、本件特許発明1の「高圧乳化処理」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「黒鉛または黒鉛化合物の層間を高圧乳化法により剥離する高圧乳化処理工程を有する薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法であって、前記高圧乳化処理工程において、黒鉛または黒鉛化合物を分散媒に懸濁させた懸濁液を細孔に通過させる高圧乳化法を用いる薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離するための高圧乳化処理に関して、本件特許発明1では、「孔径0.05mm?0.50mmの細孔に通過させる貫通型高圧乳化法」を用いているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
上記相違点1について検討する。
甲第2号証には、上記4(2)ア?オによれば、分散性の悪い分散媒中においても良好に分散できる印刷インクを得るために、カーボンブラックをトルエンに分散させた分散液を直径10μm?1mmの径のノズルを有する貫通型ノズル分散機に入れて130?150MPaで吐出させることにより微細化する、印刷インクの製造方法が記載されている。そして、甲第2号証には、カーボンブラックをトルエンに分散させた分散液を高圧で直径10μm?1mmの径のノズルに通過させることから、貫通型高圧乳化法を用いて、前記分散液を微細化していることが記載されていると認められる。
また、甲第3号証には、上記4(3)ア?エによれは、セルロースナノファイバーが良好に分散した分散体を得るために、セルロース原料を含む分散液を、超高圧に加圧して直径0.1?0.8mmの微細なオリフィスノズルから高圧で噴射して、衝突用硬質体に衝突させることで、繊維の絡まりをほどき、繊維径を縮小したナノサイズに微細化して、セルロースナノファイバー分散体を調製する方法が記載されている。そして、甲第3号証には、セルロース原料を含む分散液を、超高圧に加圧して直径0.1?0.8mmの微細なオリフィスノズルから高圧で噴射していることから、貫通型高圧乳化法を用いることが記載されていると認められる。
しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証には、黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離するために、貫通型高圧乳化法を用いることは記載も示唆もなされていない。
さらに、甲第4号証の記載事項(上記4(4)ア)、甲第5号証の記載事項(上記4(5)ア)及び甲第6号証の記載事項(上記4(6)ア及びイ)を参酌しても、いずれの甲号証にも、貫通型高圧乳化法で黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離することは記載されていない。
また、貫通型高圧乳化法を用いることで、黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離できることが本件特許に係る出願時の技術常識ともいえない。
そうしてみると、甲1発明において、黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離するために、「孔径0.05mm?0.50mmの細孔に通過させる貫通型高圧乳化法」を用いることは、当業者が容易になし得るものではない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明から当業者が容易になし得るものではない。

イ 特許異議申立人は、本件特許発明1、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明は、粒径制御という課題が共通するから、甲1発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を組み合わせできる旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1は黒鉛または黒鉛化合物の層間を剥離するものであるのに対して、甲第2号証に記載された発明は、カーボンブラックを含む分散液を微細化するものであり、二次粒子を解砕することで微細化するものといえるし、甲第3号証に記載された発明はセルロース繊維の絡まりをほどいて、繊維径を縮小するものであるから、これら発明は、処理される対象も微細化メカニズムも異なっている。
よって、甲1発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を組み合わせる動機付けが存在するとはいえないから、特許異議申立人の主張は妥当なものでない。

ウ 以上のとおり、特許異議申立人の主張は妥当なものでなく、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるといえない。

(3)請求項2?5に係る発明について
本件特許の請求項2?5に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものである。したがって、上記(2)における請求項1に係る発明に対する判断と同様の理由により、本件特許の請求項2?5に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるといえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-14 
出願番号 特願2012-149565(P2012-149565)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 壷内 信吾  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 宮澤 尚之
山本 雄一
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5933374号(P5933374)
権利者 ハリマ化成株式会社
発明の名称 薄層黒鉛または薄層黒鉛化合物の製造方法  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
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