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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10M |
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管理番号 | 1324907 |
異議申立番号 | 異議2016-700033 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-01-15 |
確定日 | 2017-02-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5750218号発明「潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5750218号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5750218号の請求項1に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成21年6月4日に特許出願され、平成27年5月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人竹▲崎▼久仁子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年4月11日付けで取消理由を通知し、平成28年6月24日付けで意見書が提出され、平成28年8月1日付けで申立人に審尋したところ、平成28年10月3日付けで回答書が提出され、その後、回答書による特許異議の申立ての誤記訂正等を踏まえて、再度当審において平成28年11月9日付けで取消理由を通知し、平成29年1月12日付けで意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 「【請求項1】 100℃における動粘度が1?10mm^(2)/s、%C_(P)が70以上、%C_(A)が2以下である潤滑油基油と、 組成物全量基準での0.1?50質量%の、重量平均分子量が100,000以上かつ重量平均分子量とPSSIの比が5.0×10^(4)以上であるポリメタクリレート系粘度指数向上剤と、 を含有し、 40℃における動粘度が30?55mm^(2)/sであり、100℃における動粘度が9.0?12.5mm^(2)/sであり、150℃におけるHTHS粘度が2.8mPa・s以上であり、 150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比が0.50以上であることを特徴とする潤滑油組成物。」 第3 取消理由の概要 当審において、本件特許に対して通知した平成28年11月9日付け取消理由は、特許異議の申立ての理由と同じであり、その要旨は、次のとおりである。 1 甲第1号証により、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2 甲第1号証、甲第2?8号証に記載の事項(周知技術)により、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:国際公開2009-007147号 甲第2号証:米国特許出願公開第2008/0194443号 甲第3号証:H.E. Henderson et al., Compositional Features of New High Performance Specialty Base Fluids; 218th National Meeting, American Chemical Society, New Orleans, LA, August 22-26, 1999 甲第4号証:www.neste.com:Nexbase 3000series properties 甲第5号証:www.benzeneinternational.com:Group I characteristics 甲第6号証:www.benzeneinternational.com:Group II characteristics 甲第7号証:www.benzeneinternational.com:Group III characteristics 甲第8号証:ASTM D6022 第4 甲各号証の記載 1 甲第1号証 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。なお、下記(1-キ)、(1-サ)の前半部分、下記(1-シ)の後半部分、及び、下記(1-ス)の前半部分については、当審において翻訳した。) (1-ア) 「本発明によって提供される特定の櫛型ポリマーによって、驚くべきことに、特定の利点を得ることができる。したがって本発明は、主鎖中に、ポリオレフィンベースのマクロモノマーに由来する繰り返し単位と、8?17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレート、アシル基中に1?11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有するビニルエーテル、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルフマレート、アルコール基中に1?10個の炭素原子を有する(ジ)アルキルマレエート、およびこれらのモノマーの混合物からなる群から選択される低分子モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む櫛形ポリマーであって、・・・(以下、略)」(第5頁第17行?第28行) (1-イ) 「特に興味深い櫛形ポリマーには、質量平均分子量Mwの範囲が好ましくは500000?1000000g/モル、より好ましくは100000?500000g/モル、最も好ましくは150000?450000g/モルのものが含まれる。」(第17頁第8行?第11行) (1-ウ) 「上記に詳述したマクロモノマーのうちのいくつかは市販されている。これには例えば、Kraton Polymers GmbH (ドイツ国エッシュボルン)から市販される、Kraton Liquid(登録商標)L-1253があるが、これはKraton Liquid(登録商標)L-1203から製造され、約96質量%程度までメタクリレート官能化され、1,2繰り返し単位と1,4繰り返し単位とをそれぞれ約50%有する水素化ポリブタジエンである。」(第23頁第6行?第10行) (1-エ) 「本発明の櫛形ポリマーは、好ましくは、潤滑油組成物中に使用することができる。潤滑油組成物は、少なくとも1つの潤滑油を含む。潤滑油には、特に鉱物油、合成油、および天然油が含まれる。」(第26頁第25行?第27行) (1-オ) 「潤滑油配合物用のベースオイルは、API(American Petroleum Institute(米国石油協会))により、いくつかの群に分類される。鉱物油は、I群(水素処理されていない)、ならびに飽和度、硫黄含有量、および粘度指数によってIII群(当審注:「II群」の誤記であると認定して、以下検討する。)およびIII群(どちらも水素処理されている)に分類される。」(第29頁第17行?第22行) (1-カ) 「潤滑油組成物中の櫛形ポリマーの濃度は、組成物の総質量に対して、好ましくは0.1?40質量%の範囲内、より好ましくは0.2?20質量%の範囲内、最も好ましくは0.5?10質量%の範囲内である。」(第29頁第27行?第30行) (1-キ) 「前述の成分に加え、潤滑油組成物は、さらなる添加剤を含んでもよい。好適な添加剤は、特に、アルコール基中に1?30個の炭素原子を有する直鎖ポリアルキル(メタ)アクリレート(PAMA)に基づく。これらの添加剤には、DI添加剤(分散剤、清浄剤、消泡剤、腐食防止剤、抗酸化剤、摩耗保護および極圧添加剤、摩擦調整剤)、流動点向上剤(より好ましくは、アルコール基中に1?30個の炭素原子を有するポリアルキル(メタ)アクリレートに基づく)、および/または色素が含まれる。」(第30頁第1行?第9行) (1-ク) 「好適な潤滑油組成物は、ASTM D 445に従って40℃で測定した粘度が、10?120mm^(2)/sの範囲内、より好ましくは22?100mm^(2)/sの範囲内である。100℃で測定した動粘度KV_(100)は、好ましくは少なくとも5.5mm^(2)/s、より好ましくは少なくとも5.6mm^(2)/s、最も好ましくは少なくとも5.8mm^(2)/sである。」(第34頁第1行?第6行) (1-ケ) 「特に興味深いさらなる潤滑油組成物は、150℃で測定した高温高せん断粘度HTHSが、少なくとも2.4mPas、より好ましくは少なくとも2.6mPasのものである。」(第34頁第14行?第16行) (1-コ) 「100℃での高温高せん断粘度HTHS_(100)の150℃での高温高せん断粘度HTHS_(150)に対する比、HTHS_(100)/HTHS_(150)は、好ましくは最大で2.0、より好ましくは最大で1.9である。」(第34頁第22行?第24行) (1-サ) 「櫛形ポリマーの合成 実施例1?5および比較例1?3 4口フラスコと精密ガラスサーベル撹拌機を備える装置に、まず、第1表に組成を示す低分子モノマーの混合物とマクロモノマーとの混合物600gと、Shell Risella 907ガスオイルと100Nオイル35gとの混合物(65%/35%)400gとを装入する。窒素下で115℃まで加熱したあと、2,2-ビス-tert-ブチルペルオキシブタン1.2gを添加し、温度を維持する。開始剤の最初の添加の3時間後および6時間後に、新たに2,2-ビス-tert-ブチルペルオキシブタン1.2gをそれぞれ供給し、混合物を115℃で一晩攪拌する。翌日、150Nオイル500gで混合物を固形分60%から40%に希釈する。鉱物油中の櫛形ポリマーの40%溶液1500gが得られる。 第1表 第1表中: hPBD_(MM4800):CrayValley(フランス国パリ)の水素化ポリブタジエンであり、M_(n)=4800g/モル、T_(M)=-25℃、およびf_(MM)の範囲90?95%(マクロモノマー) nBMA:n-ブチルメタクリレート Sty:スチレン LMA:アルコール基中に12?14個の炭素原子を有するアルキルメタクリレート混合物 MMA:メチルメタクリレート マクロモノマーのマクロモノマー官能度f_(MM)は、WO2007/025837に詳述されているように、櫛形ポリマー自体のGPC曲線から得た。 分子量および多分散性指数PDIは、WO2007/025837に詳述されているように、GPCを用いて測定した。 第1表(続き) 」(第37頁第5行?第39頁第1表続き) (1-シ) 「A)APIのI/III群オイルに基づく、DIパッケージを含むOW-20ベースオイルにおいて: 得られた櫛形ポリマー添加剤は、ASTM D445による40℃および100℃での動粘度(KV_(40)およびKV_(100))、ASTM D5292に従って測定したCCS粘度、およびASTM D4683に従って100℃で測定した高温高せん断粘度HTHS_(100)によって、150℃での高温高せん断粘度HTHS_(150)=2.6mPasを有する(ASTM D4683)、DIパッケージ含有OW-20ベースオイル中の溶液(KV_(40)=23.45mm^(2)/s、KV_(100)=4.92mm^(2)/s、VI=138)と特徴付けられた。 本発明の櫛形ポリマーが著しく低いKV_(40)(および同様に低いKV_(100))、および100℃での低い高温高せん断粘度HTHS_(100)を有し、EP0699694の広報に詳述されているポリマーもそうであることが明らかに示されている。類似する結果は、-35℃でのCCS粘度に関しても得られる。詳細な評価の結果は、第2表に示す。 比較のために、市販のVI向上剤(粘度指数向上剤)を追加的に検討した。この目的で、市販のInfineum SV200(HSD星型ポリマー)とViscoplex(登録商標)6-950(RohMax Additives GmbHから市販される直鎖PAMA)を用いて、エンジンオイル配合物を作製した。これらの結果は、同様に第2表に示す。 第2表 」(第39頁第7行?第40頁第2表) (1-ス) 「さらに、実施例1?5の櫛形ポリマーを含む潤滑油組成物のせん断安定性を検討した。この目的で、DIN 51382(Boschポンプ30サイクル)に従ってPSSI測定を実施したが、全ての潤滑油が0の優れたPSSI値を達成した(すなわち、これらの製品はKV_(100)の低下を全く示さなかった)。」(第40頁第11行?第41頁第1行) (1-セ) 「C)APIのIII群オイルに基づく、DIパッケージを含む5W-30ベースオイルにおいて: 最後に、DIパッケージ含有5W-30ベースオイル(KV_(40)=38.76mm^(2)/s、KV_(100)=6.938mm^(2)/s、およびVI=140)において、3番目の一連の測定を実施した。5W-30配合物にHTHS_(150)=2.9mPas「のみ」が要求されるSAE J300から逸脱して、欧州のエンジン製造者の常用の手段(例えば、Mercedes-Benzの作動液規格MB229.1およびMB228.3(工場充填用))で、5W-30配合物をHTHS_(150)=3.5mPasに調整した。」(第34頁第1行?第6行) (1-ソ) 「 」(第43頁第6表) (1-タ) 「 」(第44頁第8表) 2 甲第2号証 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (2-ア) 「 」(第10頁第4表) 3 甲第3号証 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (3-ア) 「 」(第265頁第1表) (3-イ) 「 」(第267頁第4表) 4 甲第4号証 甲第4号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (4-ア) 「 」 5 甲第5号証 甲第5号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (5-ア) 「ベースオイル分類-群I ベースオイルとは ベースオイルとは、粗油の精製(鉱油性基油)からあるいは化学合成(合成基油)を介して製造された潤滑剤グレードの油である。ベースオイルは典型的には550?1050Fの範囲の沸点を有する油として定義され、18?40個の炭素原子を有する炭化水素から成る。このオイルは分子の化学構造によりパラフィン油またはナフテン油の性質を有していてもよい。 ベースストックはNeutral、Solvent Neutral、Bright Stocksを含む種々のグレードに分類される。最も一般的であるのは、その粘度に応じた群I(SN;Solvent Neutral)、群II(N;Neutral)、群IIIの名称である(4cst、6cst、8cst...)。」(第1頁第1段落) (5-イ) 「ベースオイルの群 ベースオイルの5つのカテゴリーを示す。これらのカテゴリーは、配合されるべきオイルのベースストックの形を規定する。カテゴリーは以下のとおりである。 備考:ベースオイルの群のカテゴリーはその製造方法にしたがい、それにより各カテゴリーのオイル特性を記載した。 群I 群Iのベースオイルはすべての群のうち最も精製度の低いものである。これは通常ほとんど均一でないかまたは不均一の異なる炭化水素鎖の混合物である。いくつかの市販のモービル油は群Iのストックを使用しているが、一般にはダメージの受けにくい適用において使用される。 群Iのベースストックは90%未満の飽和分および/または0.03%を上回る硫黄分を有しており、かつ粘度指数は80以上かつ120未満である。 群II 群IIのベースオイルは市販の鉱油ベースのモーター油として一般的である。これらは潤滑油特性においてかなり良好な性能を有しており、たとえば揮発性、抗酸化性および引火点がこれにあたる。流動点、低温亀裂粘度および極圧摩耗性のような領域においてもまずまずの性能を示す。 群IIのベースストックは90%以上の飽和分および0.03%以下の硫黄分および80以上かつ120未満の粘度指数を有する。 群III 群IIIのベースオイルは、ベースオイル群のうち鉱油系精製油の最も高いレベルを示す。化学的には合成できないが、広範囲の良好な性能および良好な分子均一性、安定性を示す。通常、これらは添加剤と混合され、かつ合成製品または半合成製品として市販されている。 群IIIベースストックは90%以上の飽和分および0.03%以下の硫黄分を有し、かつ120以上の粘度指数を示す。 群IV 群IVベースストックはポリハロオレフィン(PAO)であり、かつ化学的に合成された合成ベースストックである。PAOは合成ベースストックの一般的な例である。添加剤と組み合わせた合成品は、広範囲の潤滑剤特性において優れた性能を示す。これは、極めて安定な化学組成と極めて均一な分子鎖を有する。群IVベースオイルは自動車および工業的適用のための合成品または半合成品として一般的なものとなりつつある。 群V 群Vベースストックは群I、II、IIIおよびIVに含まれない他のすべてのベースストックを含み、主にオイル添加剤の製造に使用されている。エステルおよびポリオールエステルの双方が、オイル添加剤配合物に使用される一般的な群Vベースオイルである。群VIは一般的にはベースオイル自体として使用されることはなく、他のベースオイルに有益な性能を添加するものとして使用される。 備考:群Vに関する記載を基準とする添加剤は、市販のタイプの添加剤ではない。この添加剤は、最終製品を製造する製油会社により化学的に合成され、かつモーター油および他の潤滑油と配合されて使用されるべき添加剤に関する。」(第2頁?第3頁の「ベースオイルの群」) (5-ウ) 「技術仕様 」(第3頁?第4頁の「技術仕様」の表) 6 甲第6号証 甲第6号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (6-ア) 「技術仕様 」(第1頁?第2頁の「技術仕様」の表) 7 甲第7号証 甲第7号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (7-ア) 「 」 8 甲第8号証 甲第8号証には、以下の事項が記載されている。(特許異議の申立てに添付の抄訳文の記載を引用した。) (8-ア) 「1.2 PSSIは単一のブレンド成分に関して計算され、かつその化合物の最終的な潤滑剤ブレンド上での効果を評価するために使用することができる。」(第1頁の「1.Scope」) (8-イ) 「4.1 指数は、潤滑剤の粘度に対する添加剤の寄与においてせん断力による変化を示す。低い指数は、恒久的変化に対する高い耐性を示す。」 (第2頁の「4.Summary of Practice」) (8-ウ) 「6.3 増粘剤の割合が1.2以上である場合には、PSSIは以下の等式を用いて計算する: PSSI=100×(V_(O)-V_(S))/(V_(O)-V_(b)) (2) [式中、PSSIは永久せん断安定性指数を示し、 V_(O)は未せん断のオイルの粘度を示し、 Y_(S)はせん断されたオイルの粘度を示し、かつ、 V_(h)はベースフルイドの粘度を示す。] 6.3.1 粘度は同じ試験方法を用いて、温度およびせん断速度またはせん断応力における同じ条件下で測定され、かつ同一の単位で報告される。」(第2頁の「6.Procedure」) (8-エ) 「^(1)この基準は、石油製品および潤滑油に関するASTM委員会D02の管轄下基準であり、直接的には流動特性部会D02.07が管轄している。最新バージョンは2006年5月1日に承認され、発行は2006年5月となる。最初に承認されたのは1996年であり、前回のバージョンはD6022-01であって、2001年に承認されている。」 (第1頁の左下注釈1) 第5 判断 1 甲第1号証に記載された発明 (1) 甲第1号証の上記(1-セ)によれば、「C)APIのIII群オイルに基づく、DIパッケージを含む5W-30ベースオイル」と記載されており、ここで、当該「DIパッケージ」は、同じく上記(1-キ)によれば、「前述の成分に加え、潤滑油組成物は、さらなる添加剤を含んでもよい。好適な添加剤は、特に、アルコール基中に1?30個の炭素原子を有する直鎖ポリアルキル(メタ)アクリレート(PAMA)に基づく。これらの添加剤には、DI添加剤(分散剤、清浄剤、消泡剤、腐食防止剤、抗酸化剤、摩耗保護および極圧添加剤、摩擦調整剤)、流動点向上剤(より好ましくは、アルコール基中に1?30個の炭素原子を有するポリアルキル(メタ)アクリレートに基づく)、および/または色素が含まれる。」(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)と記載されていることから、分散剤、清浄剤、消泡剤、腐食防止剤、抗酸化剤、摩耗保護および極圧添加剤、摩擦調整剤などが含まれた「DI添加剤」であるということができ、「5W-30ベースオイル」は、「APIのIII群オイル」と「DI添加剤(DIパッケージ)」との混合物であることが解る。 (2) 甲第1号証の上記(1-サ)によれば、「実施例3」、及び、「実施例5」の櫛形ポリマーについて、重量平均分子量(M_(W))は、それぞれ、352,000、及び、374,000であると記載されている。 (3) 甲第1号証の上記(1-セ)、(1-ソ)によれば、「実施例3」、及び、「実施例5」の櫛形ポリマーを用いた潤滑油配合物について、40℃における動粘度は、それぞれ、46.19mm^(2)/s、及び、46.04mm^(2)/sであり、100℃における動粘度は、それぞれ、9.502mm^(2)/s、及び、10.200mm^(2)/sであり、150℃におけるHTHS粘度は、共に、3.5mPa・sであると記載されており、また、100℃におけるHTHS粘度が、それぞれ、6.76mPa・s、及び、6.49mPa・sであることから、150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比を算出すると、それぞれ、0.52(=3.5÷6.76)、及び、0.54(=3.5÷6.49)と算出することができる。 してみると、甲第1号証の上記記載、特に、「実施例C)」、「実施例3」、及び、「実施例5」に係る各記載に注目し、上記検討事項(1)?(3)も考慮すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「APIのIII群オイルと、 重量平均分子量が352,000、374,000である櫛形ポリマーと、 を含有し、 40℃における動粘度が46.04、46.19mm^(2)/sであり、100℃における動粘度が9.502、10.200mm^(2)/sであり、150℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・sであり、 150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比が0.52、0.54である潤滑油配合物。」(以下、「甲1発明」という。) 2 本件発明について (1) 本件発明と甲1発明との対比 本件発明と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「APIのIII群オイル」、「潤滑油配合物」は、それぞれ、本件発明の「潤滑油基油」、「潤滑油組成物」に相当する。 イ 甲1発明の「櫛形ポリマー」は、甲第1号証の上記(1-サ)の実施例3、5に関する記載によれば、「nBMA:n-ブチルメタクリレート」、「LMA:アルコール基中に12?14個の炭素原子を有するアルキルメタクリレート混合物」、「MMA:メチルメタクリレート」等が重合された化合物(ポリメタクリレート系化合物)であり、また、甲第1号証の上記(1-シ)の第2表によれば、比較されているのが市販のVI向上剤(粘度指数向上剤)であることから、 当該「櫛形ポリマー」が粘度指数向上剤として添加されていることは明かであるから、甲1発明の「櫛形ポリマー」は、本件発明の「ポリメタクリレート系粘度指数向上剤」に相当する。 ウ ポリメタクリレート系粘度指数向上剤の重量平均分子量について、甲1発明の「352,000、374,000」と、本件発明の「100,000以上」とは、「352,000、374,000」である点で一致する。 エ 潤滑油組成物の40℃における動粘度について、甲1発明の「46.04、46.19mm^(2)/s」と、本件発明の「30?55mm^(2)/s」とは、「46.04、46.19mm^(2)/s」である点で一致する。 オ 潤滑油組成物の100℃における動粘度について、甲1発明の「9.502、10.200mm^(2)/s」と、本件発明の「9.0?12.5mm^(2)/s」とは、「9.502、10.200mm^(2)/s」である点で一致する。 カ 潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度について、甲1発明の「3.5mPa・s」と、本件発明の「2.8mPa・s以上」とは、「3.5mPa・s」である点で一致する。 キ 潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比について、甲1発明の「0.52、0.54」と、本件発明の「0.50以上」とは、「0.52、0.54」である点で一致する。 上記ア?キから、本件発明と甲1発明とは、 「潤滑油基油と、 重量平均分子量が352,000、374,000であるポリメタクリレート系粘度指数向上剤と、 を含有し、 40℃における動粘度が46.04、46.19mm^(2)/sであり、100℃における動粘度が9.502、10.200mm^(2)/sであり、150℃におけるHTHS粘度が3.5mPa・sであり、 150℃におけるHTHS粘度と100℃におけるHTHS粘度との比が0.52、0.54である潤滑油組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 潤滑油基油について、本件発明は、「100℃における動粘度が1?10mm^(2)/s、%C_(P)が70以上、%C_(A)が2以下である」のに対して、甲1発明は、この点の明示がない点。 <相違点2> ポリメタクリレート系粘度指数向上剤について、本件発明は、「組成物全量基準での0.1?50質量%」であるのに対して、甲1発明は、この点の明示がない点。 <相違点3> ポリメタクリレート系粘度指数向上剤について、本件発明は、「重量平均分子量が100,000以上かつ重量平均分子量とPSSIの比が5.0×10^(4)以上である」であるのに対して、甲1発明は、「重量平均分子量が352,000?374,000であ」り、100,000以上であるものの、「重量平均分子量とPSSIの比が5.0×10^(4)以上である」点の明示がない点。 (2) 相違点についての判断 事案に鑑み、はじめに上記相違点3について検討する。 甲第1号証の上記(1-ス)によれば、「さらに、実施例1?5の櫛形ポリマーを含む潤滑油組成物のせん断安定性を検討した。この目的で、DIN 51382(Boschポンプ30サイクル)に従ってPSSI測定を実施したが、全ての潤滑油が0の優れたPSSI値を達成した」と記載されていることから、甲第1号証には、「櫛形ポリマー(ポリメタクリレート系粘度指数向上剤)を含む潤滑油組成物」全体についてのPSSI値が「0」である旨記載されているだけであって、甲第1号証における上記(1-ス)以外の記載や、その他の記載を参照しても「櫛形ポリマー(ポリメタクリレート系粘度指数向上剤)」自体のPSSI値を開示もしくは示唆する記載は見当たらない。また、甲第2?8号証の記載を精査しても、甲1発明の櫛形ポリマー自体のPSSI値を見出すことはできない。すなわち、甲1発明の櫛形ポリマー自体のPSSI値が不明である以上、相違点3に係る「重量平均分子量とPSSIの比」を算出することは不可能である。 そして、本件特許明細書の【0053】によれば、「本発明に係る粘度指数向上剤の重量平均分子量とPSSIの比(MW/PSSI)は、1.0×10^(4)以上であることが必要であり、好ましくは2.0×10^(4)以上、より好ましくは5.0×10^(4)以上、更に好ましくは8.0×10^(4)以上、特に好ましくは10×10^(4)以上である。MW/PSSIが1.0×10^(4)未満の場合には、省燃費性や低温始動性すなわち粘度温度特性や低温粘度特性が悪化するおそれがある。」と記載されており、省燃費性や低温始動性すなわち粘度温度特性や低温粘度特性について所定の効果を認めることができる。 したがって、上記相違点3は、実質的なものであることから、当該相違点1に係る本件発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得る事項であるとはいえないから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明に、特許法第29条に規定の違反は認められない。 3 小括 以上の検討のとおり、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえない。 第6 結び 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとは認められないから、同法第113条第1項第2号に該当せず、取消理由通知に記載した取消理由、すなわち、特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許1ないし4を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-02-16 |
出願番号 | 特願2009-135372(P2009-135372) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C10M)
P 1 651・ 113- Y (C10M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 内藤 康彰 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
國島 明弘 日比野 隆治 |
登録日 | 2015-05-22 |
登録番号 | 特許第5750218号(P5750218) |
権利者 | JXエネルギー株式会社 |
発明の名称 | 潤滑油組成物 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 城戸 博兒 |