• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1325212
審判番号 不服2016-4798  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-01 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2012-171283「放射線画像撮影装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月20日出願公開、特開2014- 32044、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月1日の出願であって、平成27年6月15日付け(発送日 同年同月23日)で拒絶理由が通知され、同年8月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成28年1月29日付け(送達日 同年2月9日)で拒絶査定(以下「原査定」という)がされ、これに対し、同年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日に手続補正がされ、その後、当審において同年12月15日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という)が通知され、平成29年1月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成29年1月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】
照射された放射線を検出する放射線撮像素子を筐体に収納した放射線画像撮影装置本体と、
前記放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の表面に取り外し可能に貼り付けられた保護カバーと、
前記保護カバーとは別部材であり、前記筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面とは反対の面に取り付けられ、取り付けられた状態において前記保護カバー及び前記筐体を含めた厚さが16mm以下となる断熱材と、
を有する放射線画像撮影装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物
引用文献1:特開2012-123005号公報
引用文献2:特開2012-125381号公報
引用文献3:特開2010-276659号公報
引用文献4:特開2003-207864号公報
引用文献5:特開平07-313561号公報
引用文献6:特開2006-293368号公報
引用文献7:特開2010-071726号公報
引用文献8:特開2008-233300号公報

引用文献1には、放射線検出器を保護カバーに収納した電子カセッテ本体と、該電子カセッテ本体の保護カバーの表面に取り外し可能に取り付けられ、取り付けられた状態において撮影が行われるケーシングとからなる構成が記載されており、該ケーシングは保護カバー表面に取り付ける構成である。
また、同文献には、放射線検出器の検出面側に擦り傷が発生すると画像診断に影響を及ぼすため、放射線検出器の撮影面上にPETなどの保護フィルムを貼ることも記載されている。
ここで、先行技術を参酌すると、上記放射線検出器は、放射線撮像素子を筐体に収納した放射線画像撮影装置本体である構成も記載されていることから、上記保護フィルムは放射線画像撮影装置本体の筐体の表面に取り外し可能に取り付けられる構造であることは明らかである。
さらに、引用文献2には、既存の設備を有効活用できるように、画像撮影のための装置のサイズはJIS規格サイズに倣ってを設計・製造することが記載され、ハウジングが多層構造であることが記載されている。
してみると、引用文献1に記載の発明に該引用文献2に記載の技術を採用することは設計事項である。その際、引用文献1に記載の発明は、ケーシングを装着した状態で撮影を行うことから、該ケーシングを装着した状態でのサイズを上記JIS規格サイズに倣うこととすることは、当業者が適宜なし得たことである。
なお、筐体の表面に保護フィルムを貼り付けた放射線画像撮影装置本体についても同様である。そして、上記ケーシング、保護カバー、筐体、またはハウジングは程度の差はあるもののそれぞれ多少の断熱性を有することは明らかである。
また、引用文献1の放射線の入射面側が保護すべき面であることは明らかである。
ここで、引用文献2または引用文献3に記載されるように、部品を他の部品に取り付ける構造として段差部を利用する構造は周知である。
してみると、引用文献1に記載の発明において、放射線の入射面のみにケーシングが配置される構造とすることは当業者が適宜変更し得た事項であり、その際、放射線の入射面のみにケーシングを取り付けるための構造として、上記引用文献2、3に記載されるような周知の構造を採用することは設計事項である。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体を透過した放射線を検出し、前記検出した前記放射線を放射線画像情報に変換する放射線検出器を備えた電子カセッテ及び電子カセッテに組み込まれる電子カセッテ本体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、被写体に放射線を照射し、該被写体を透過した前記放射線を放射線検出器に導いて放射線画像情報を撮影する放射線画像撮影システムが広汎に使用されている。前記放射線検出器としては、前記放射線画像情報が露光記録される従来からの放射線フイルムや、蛍光体に前記放射線画像情報としての放射線エネルギを蓄積し、励起光を照射することで前記放射線画像情報を輝尽発光光として取り出すことのできる蓄積性蛍光体パネルが知られている。これらの放射線検出器は、前記放射線画像情報が記録された放射線フイルムを現像装置に供給して現像処理を行い、あるいは、前記蓄積性蛍光体パネルを読取装置に供給して読取処理を行うことで、可視画像を得ることができる。
【0003】
一方、手術室等においては、患者に対して迅速且つ的確な処置を施すため、撮影後の放射線検出器から直ちに放射線画像情報を読み出して表示できることが必要である。このような要求に対応可能な放射線検出器として、放射線を直接電気信号に変換し、あるいは、放射線をシンチレータで可視光に変換した後、電気信号に変換して読み出す固体検出素子を用いた放射線検出器が開発されている。
【0004】
前記放射線検出器を組み込んだ放射線検出装置は、放射線画像撮影システムの一部として所定位置に据え置かれる据置型と、持ち運び自在の携帯型(カセッテ型)とに分類される。後者のカセッテ型放射線検出装置(以下、単に電子カセッテという。)は、可搬性を向上させるために放射線検出器の軽量化が望まれる一方で、撮影時に患者から与えられる負荷、落下衝撃等の外部負荷にも耐え得る強度が必要とされる。
【0005】
そして、従来においては、電子カセッテ本体に着脱自在なケーシングを設け、撮影タイプに応じて電子カセッテ本体のケーシングを着脱して撮影を行うワークフローが提案されている。
【0006】
特許文献1は、ケーシング内にレール等で取り出し可能に電子カセッテ本体を内蔵することで、衝撃吸収材を取り外すことが容易となり保守性を向上させるようにした装置を開示している。
【0007】
また、特許文献2は、電子カセッテ本体の表面と側面周囲を囲う形状の着脱可能なケーシングとに衝撃吸収用の弾性体を設けることで、電子カセッテの可搬性やベッドへの挿入操作性等を向上させるようにした装置を開示している。
【0008】
さらに、特許文献3は、電子カセッテ本体の側面の各辺に着脱可能な衝撃吸収手段を設けることで、電子カセッテ本体に耐衝撃性、耐振動性、耐防水性をもたせるようにした装置を開示している。
【0009】
さらに、特許文献4は、大重量の患者の下方に配置することを容易にしながら放射線を検出する部位が損傷を受ける可能性を抑えるようにした電子カセッテ本体を収納するケーシングを開示している。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1?4に係る装置のいずれについても、電子カセッテ本体からケーシングを着脱する際に、電子カセッテ本体がケーシングの開口部又は内面と擦れることにより、放射線検出器の表面に擦り傷が発生するおそれがある。
【0012】
例えば、放射線検出器の撮影面の材質として炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;以下、略してCFRPという。)がよく用いられる。このような材料の表面に擦り傷が発生すると、炭素繊維が露出してヒゲ状傷(ささくれ)になることがある。
【0013】
そして、前記放射線検出器の検出面側に擦り傷が発生すると、その傷の発生箇所での放射線の検出量が不均一となり、取得される放射線画像に擦り傷の痕が写り込むことから、画像診断に影響を及ぼす可能性もある。このような擦り傷は、放射線検出器の角部に限られず、ケーシングの着脱の際に接触を繰り返す箇所に生じ易い。
【0014】
したがって、仮に、放射線検出器の撮影面上にPETなどの保護フイルムを貼ったとしても、電子カセッテ本体の使用の都度ケーシングとの接触を繰り返すことにより、保護フイルムが破れてその露出箇所にヒゲ状傷が発生するおそれがある。
【0015】
また、ケーシングを装着した状態で電子カセッテを運搬する際にも、振動等に伴いケーシング内壁との接触が起こるので、電子カセッテ本体からケーシングを着脱する場合と同様の懸念がある。
【0016】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、電子カセッテ本体からケーシングを着脱する際に、あるいはケーシングを装着した状態で電子カセッテ本体を運搬する際に、放射線検出器の表面に擦り傷が発生するのを防止することができ、耐久性や画像診断性に対する信頼性が高く、且つ使い勝手が良く収納等の安定性が確保され、しかも可搬性に優れた電子カセッテ及び電子カセッテに組み込まれる電子カセッテ本体を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0044】
また、本発明は、被写体を透過した放射線を検出して放射線画像情報に変換する放射線検出器を囲繞する電子カセッテ本体であって、電子カセッテ本体は保護カバー内に収納される放射線検出器と、カセッテ制御部と、バッテリと、送受信機とを含み、保護カバーの上面部と下面部に位置決め用の複数の穴部又は凹部を有することを特徴とする。」

(エ)「【0060】
ところで、図1に示すような手術手技を行う際は、ケーシング32を装着した電子カセッテ本体30(電子カセッテ24)を使用する利点は大きい。
【0061】
第1に、電子カセッテ本体30を患者14に敷設するため、電子カセッテ本体30は直接的に荷重を受けやすい。すなわち、耐荷重性を向上するためには、ケーシング32を装着することが望ましい。
【0062】
第2に、手術等の緊急処置時では、単なる静止画撮影のみならず、動画撮影、電子カセッテ本体30の室内・室外運搬(手術室12や撮影室等)や、棚からの取り出し・収納等の作業が想定される。つまり、電子カセッテ本体30の位置・姿勢を移動する頻度が高くなり、床への落下や、他の物体との衝突等の可能性がそれだけ高くなる。すなわち、衝突強度を向上するためには、ケーシング32を装着することが望ましい。
【0063】
第3に、手術手技に伴って患者14の血液等の付着物が生じるため、その対策が必要となる。特に、電子カセッテ本体30の保護カバー38表面に血液等が付着すると、保健衛生上問題となる。すなわち、電子カセッテ本体30への直接的付着を防止するためには、ケーシング32を装着することが望ましい。例えば、ケーシング32を取り外して洗浄すればよく、電子カセッテ本体30と比べて安価なケーシング32を必要に応じて交換すればよい。これにより、電子カセッテ本体30の損傷を防止できるので、寿命を長くすることができる。」

(オ)「【0087】
従って、保護カバー38の一面40を上方に向け電子カセッテ本体30を保持しつつ、本体54の凹部82、82に電子カセッテ本体30の凸部80、80を係合させれば、電子カセッテ本体30の凸部80、80はケーシング32内に収容される。すなわち、放射線Xの入射方向に対して垂直方向に移動させてケーシング32の開口部56から装入することができる。さらに、蓋部84をヒンジ86を介して閉じ、スライダ90を押動して爪94を凹部96に挿入すれば、電子カセッテ本体30はケーシング32に完全に収納されることになる。

(カ)「【0140】
例えば、本発明の各実施形態に係るケーシング32は、電子カセッテ本体30全体を囲繞するように設けられているが、電子カセッテ本体30の一部、具体的には放射線検出器44のみを囲繞するように設けてもよい。放射線画像を検出する部位である放射線検出器44を保護すれば十分だからである。」

(キ)上記(ア)ないし(カ)によれば、引用文献1には、下記の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「被写体を透過した放射線を検出して放射線画像情報に変換する放射線検出器を囲繞する電子カセッテ本体であって、電子カセッテ本体は保護カバー内に収納される放射線検出器と、カセッテ制御部と、バッテリと、送受信機とを含み、保護カバーの上面部と下面部に位置決め用の複数の穴部又は凹部を有し、
電子カセッテ本体はケーシングに完全に収納される電子カセッテ。」

イ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、カセッテ型放射線画像固体検出器に関する。」

(イ)「【0004】
放射線画像撮影では、スクリーンフィルムや輝尽性蛍光体シート等の記録媒体を内部に収納したカセッテ(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)が用いられる。なお、CR装置での撮影に用いられるCR用のカセッテは、従来のスクリーン/フィルム用のカセッテに適合するものとして導入された既存の設備、例えばカセッテホルダーやブッキーテーブルを継続して使用可能となるように、当該スクリーン/フィルム用のカセッテにおけるJIS規格サイズに倣って、設計・製造されている。言い換えると、カセッテのサイズの互換性が維持され、施設の有効活用と画像データのデジタル化が達成されている。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、現在普及しているCR用のカセッテは従来のスクリーン/フィルム用のカセッテにおけるJIS規格サイズに従ったサイズとなっており、ブッキーテーブル等もJIS規格サイズに合わせて作られている。このため、FPDについても、このJIS規格サイズに従ったカセッテに収納した形で用いることができれば、施設に設置されている既存の設備をFPDを用いた撮影に利用することができ、撮影手段としてFPDを導入する際の設備投資を最小限度に抑えることができる。」

(エ)「【0042】
図3に示すように、ハウジング本体部31は、第1プリプレグP1、第2プリプレグP2、第3プリプレグP3、第4プリプレグP4により一体部品として構成され、4層構造(積層された構造)となっている。第1プリプレグP1、第2プリプレグP2、第3プリプレグP3、第4プリプレグP4の各々はカーボン繊維にエポキシを樹脂を含浸させたものであり、各々の厚さは本実施例では同じとしているが、それぞれ、または一部を異なる厚さとして形成しても良い。
【0043】
なお、被検者等に接触する最外層の第3プリプレグP3、第4プリプレグP4におけるカーボン繊維Cは、図4(a)に示すように、一方向に配列されたカーボン繊維の束C1と、カーボン繊維の束C1に直交する方向に配列されたカーボン繊維の束C2が織成されたものとなっている。図4(b)はカーボン繊維の束C1、C2の断面の概略を示し、カーボン繊維の束C1、C2は複数のカーボン繊維CSが密集した形で構成されている。
【0044】
最外層の第3プリプレグP3、第4プリプレグP4におけるカーボン繊維の構造を図4に示すような構造にすることにより、ハウジング本体部31を強固にするとともに、落下衝撃時の損傷でカーボン繊維がささくれにくくなり安全性を確保することが出来る。
【0045】
ハウジング本体部31は、図5に示すように内型K1の周囲に、第1プリプレグP1、第2プリプレグP2、第3プリプレグP3、第4プリプレグP4を巻回した後、2つの外型K2を矢印方向に移動させて加圧・接着し、高温高圧で焼き固めることにより成型し、その後、内型K1を抜き取ることによって形成する。
【0046】
図5に示すような方法により製造されたハウジング本体部31は、図3に示すように、放射線入射方向(図3における上下方向)におけるハウジング本体部31は、第1プリプレグP1と第3プリプレグP3の2層で形成されており、放射線入射方向と直交する方向(図3における左右方向)におけるハウジング本体部31は、第1プリプレグP1、第2プリプレグP2、第3プリプレグP3、第4プリプレグP4の4層で形成されている。従って、放射線入射方向におけるハウジング本体部31の厚さをtとすると、放射線入射方向と直交する方向におけるハウジング本体部31の厚さは2tで2倍となっている。」

(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献2には、下記の事項(以下「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「既存の設備を有効活用できるように、画像撮影のための装置のサイズはJIS規格サイズに倣ってを設計・製造すること。」、及び、
「ハウジングが多層構造であること。」

ウ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の記載がある。
(ア)「【0012】
[カセッテ型検出器の概要]
図1は、カセッテ型検出器の斜視図である。放射線画像検出カセッテであるカセッテ型検出器1は、カセッテ型のフラットパネルディテクタ(Flat Panel Detector)である。カセッテ型検出器1は、照射された放射線を検出してデジタル画像データとして取得する放射線検出モジュール2(図3等参照)と、放射線検出モジュール2を内蔵する筒型のハウジング(筐体)3とを備えている。
【0013】
本実施形態において、ハウジング3は、放射線入射方向の厚さが15mmとなるように形成されている。なお、ハウジング3の放射線入射方向の厚さは16mm以下であることが好ましく、従来のスクリーン/フィルム用のカセッテにおける規格(JIS Z 4905)に準拠するサイズ(15mm+1mmであり、かつ15mm-2mm)の範囲内であることが好ましい(JIS Z 4905に対応する国際規格は、IEC 60406である)。
【0014】
図2は、ハウジング3の分解斜視図である。図2に示すように、ハウジング3は、両端部に開口311、312(開口312が挿入口として機能し、開口311が挿入口に対向する開口として機能する)を有する中空の本体部31と、本体部31の各開口311、312を塞ぐ第1の蓋部材32及び第2の蓋部材33とを備えている。
【0015】
本体部31は、カーボン繊維体(例えば炭素繊維強化プラスチック:CFRP)で構成され、軽量で強度が優れたものである。本体部31は筒型にしてカセッテ型検出器1の強度を保つようにしている。
【0016】
第1の蓋部材32及び第2の蓋部材33は、蓋本体部321、331と、挿入部322、332とを備えており、アルミニウムで形成されている。
【0017】
挿入部322、332の各側面には、第1の蓋部材32及び第2の蓋部材33と、本体部31と、を係合する係合片324、334が、開口311、312に対する挿入方向に向かって延出している。係合片324、334の外側面には、それぞれ係合凸部325、335が設けられている。第1の蓋部材32と第2の蓋部材33が本体部31に挿入されると、係合凸部325、335が本体部31に設置された係合凹部315、316に係合する。・・・
【0020】
[カセッテ型検出器の内部構造]
次にカセッテ型検出器1の内部構造について説明する。図3は、図1に示すカセッテ型検出器1をa方向から見た所定箇所の断面図である。
【0021】
図3に示すように、放射線検出モジュール2は、検出器ユニット21、基台22、電気部品(中継基板23A、制御基板23B、充電池24(例えばリチウムインキャパシタ等)により構成されている。本実施形態において、基台22の上方の面には、シンチレータ211や検出部212等により構成された検出器ユニット21が支持されており、基台22の下方の面には、制御基板23Bや充電池24等、複数の電気部品が支持されている。・・・
【0027】
以上、図1?図3に示すカセッテ型検出器1を使用することにより、被写体の放射線画像を検出することが可能となっている。
【0028】
[放射検出モジュールのハウジングへの挿入]
図3に示すように、放射線検出モジュール2の外側とハウジング3の内側との間には太線で示す滑りシートSが設けられており、滑りシートSにより放射線検出モジュール2が覆われている。滑りシートSは導電性材料により形成されており、本実施形態ではポリエチレンテレフタレート樹脂により形成されている。
【0029】
放射線検出モジュール2の外側に滑りシートSが設けられていることにより、放射線検出モジュール2がハウジング3の中に挿入されやすくなっている。以下、放射線検出モジュール2がハウジング3の中に挿入されて、カセッテ型検出器1が完成する工程を図4から図10を用いて詳しく説明する。
【0030】
まず、放射線検出モジュール2がハウジング3の中に挿入される前の状態について説明する。図4に示すように、折り曲げられていない状態の滑りシートSの上に放射線検出モジュール2をセットし、滑りシートSにより放射線検出モジュール2を覆うように、滑りシートSをb方向に折り曲げる(被覆工程)。
【0031】
滑りシートSを折り曲げると、図5に示すように、滑りシートSにより放射線検出モジュール2が覆われた状態となる。この状態において、放射線検出モジュール2の一方の端部(図5における下方の端部)は滑りシートSにより覆われており、放射線検出モジュール2の他方の端部(図5における上方の端部)は覆われていない。なお、滑りシートSにおいて、放射線検出モジュール2の一方の端部(図5における下方の端部)を覆う部分には折り目がつけられており、綺麗に折り曲げられるようになっている。
【0032】
次に、滑りシートSにより覆われた放射線検出モジュール2がハウジング3の内部に挿入されるわけであるが、その挿入する工程(挿入工程)を図6を用いて説明する。
【0033】
ハウジング3を構成する本体部31の一方の開口311は、第1の蓋部材32により塞がれており、本体部31の他方の開口312は、放射線検出モジュール2を挿入するために、第2の蓋部材33(図2参照)により塞がれていない。
【0034】
図6に示すように、滑りシートSにより覆われた放射線検出モジュール2はc方向に挿入され、滑りシートSにより覆われた端部から本体部31の内部に挿入される。基台22には検出器ユニット21や制御基板23B等が設置されており(図3参照)、放射線検出モジュール2は凹凸形状となっているが、検出器ユニット21や制御基板23B等が滑りシートSにより覆われた状態で放射線検出モジュール2が本体部31に挿入されるため、検出器ユニット21や制御基板23B等が開口312の周辺に引っ掛かることはなく、スムーズに放射線検出モジュール2を挿入することが出来る。また、制御基板23B等の電気部品が導電性材料である滑りシートSに覆われた状態で放射線検出モジュール2が本体部31に挿入されるため、制御基板23B等が本体部31の内側に擦れて静電気が発生するようなことはなく、制御基板23B等の電気部品が電気的に破損してしまうことも防止出来る。
【0035】
第1の蓋部材32には案内板(案内部)326が設けられており、案内板326の周辺の拡大図を図7に示す。放射線検出モジュール2が本体部31に挿入されると、放射線検出モジュール2が図7のd方向に移動して、最終的に放射線検出モジュール2の端部が第1の蓋部材32に突き当たる。その際に放射線検出モジュール2の端部が案内板326により案内されるので、最終的に放射線検出モジュール2がハウジング3における適正な位置に内蔵されることになる。
【0036】
放射線検出モジュール2の本体部31への挿入が完了すると、図8に示す状態となる。開口312の周辺の滑りシートSはコの字形状に折り曲げられており、コの字形状の部分が本体部31の端部に係合している。
【0037】
第2の蓋部材33を図8に示すe方向に移動させて、第2の蓋部材33により開口312を塞ぐ。図9は、第2の蓋部材33により開口312を塞いだ状態を示す。ハウジング3に内蔵された放射線検出モジュール2は、周辺を滑りシートSで覆われているため、放射線検出モジュール2の防湿性を確保することが出来る。
【0038】
図9では不図示であるが、第2の蓋部材33により開口312を塞いだ状態において、第2の蓋部材33と滑りシートSは、固定ビスT(図10参照)により本体部31に固定され、カセッテ型検出器1が完成する。第2の蓋部材33と滑りシートSが固定ビスTにより本体部31に固定される構造を図10を用いて説明する。
【0039】
図10は、図9のX領域における拡大断面図である。図10(a)に示すように、本体部31と、第2の蓋部材33と、滑りシートSには貫通孔Fが設けられている。そして図10(b)に示すように貫通孔Fに固定ビスTを貫通されてネジ止めすることにより、本体部31に対して第2の蓋部材33と滑りシートSが固定される。なお、図9のY領域においても図10と同様な構造により、固定ビスTにより本体部31に対して第2の蓋部材33と滑りシートSが固定される。
【0040】
図9に示すX領域とY領域において滑りシートSが本体部31に固定されており、また、放射線検出モジュール2の一方の端部(図9における下方の端部)が滑りシートSにより覆われている。そのような構造により、例えば、カセッテ型検出器1を図9のf方向に誤って落下させてしまい、第1の蓋部材32に強い衝撃が加わったとしても、滑りシートSが放射線検出モジュール2のf方向への移動を規制するため、放射線検出モジュール2が第1の蓋部材32を押して放射線検出モジュール2が外部に飛び出すようなことはない。つまり、放射線検出モジュール2を覆っている部分と反対側の方向において、滑りシートSが本体部31に固定されていることにより、放射線検出モジュール2の外部への飛び出しを防止することが出来る。・・・
【0044】
参考例として、放射線検出モジュール2の飛び出しを防止する形態を図11に示す。図11に示す参考例では本体部31の内部に滑りシートSは設置されていない。第2の蓋部材33にはL字部336が設けられており、L字部336と基台22との間には緩衝部材Uが介在している。このような構造により、例えば、カセッテ型検出器1を図11のg方向に誤って落下させてしまい、第1の蓋部材32に強い衝撃が加わったとしても、緩衝部材Uが放射線検出モジュール2のg方向への移動を規制するため、放射線検出モジュール2が第1の蓋部材32を押して放射線検出モジュール2が外部に飛び出すようなことはない。」

(イ)上記(ア)によれば、引用文献3には、下記の事項(以下「引用文献3に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「放射線検出モジュールと、該放射線検出モジュールの外側を覆う(表面に)挿入されて(取り外し可能に取り付けられ)、挿入された(取り付けられた)状態において放射線検出モジュールを含めた厚さが16mm以下であるハウジングとを有する放射線画像検出カセッテ。」、及び、
「ハウジングの本体部(31)は蓋部材(32、33)の挿入部(322、332 凹部からなる段差部)に取り付けられること。」

エ 上記イ及びウによれば、本願出願当時、放射線画像撮影用カセッテにおいて、部品を他の部品に取り付ける構造として段差部を利用する構造は周知技術であったと認められる。

オ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、以下の記載がある。
「【請求項1】 放射線入射側のフロント部材と、前記フロント部材と対向するバック部材と、被写体の胸壁に向けられる胸壁側側壁と、前記フロント部材と前記バック部材との間に放射線画像を記録する記録媒体をその端面が前記胸壁側側壁に当接または接近して収納可能な空間と、を備え、
前記胸壁側側壁の一部または全てが開閉可能であり、前記胸壁側側壁の開放により前記フロント部材と前記バック部材とが分離可能になることを特徴とする放射線画像撮影用カセッテ。・・・
【請求項48】 請求項1乃至47のいずれか1項に記載の放射線画像撮影用カセッテが抗菌材料から構成されるか、または抗菌処理されていることを特徴とする放射線画像撮影用カセッテ。」

カ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、放射線画像撮影用カセッテに関し、特に乳房撮影用(マンモグラフィー用)カセッテに適用して好適な放射線画像撮影用カセッテに関する。」

(イ)「【0043】この放射線画像撮影用カセッテによれば、カセッテが抗菌効果を有するので、衛生管理のための紫外線照射を不要にできるかまたは少なくできるので、カセッテの管理が簡単となり、また、紫外線によるカセッテの損傷が軽減されてカセッテの寿命が延びて好ましい。

キ 上記オ及びカによれば、本願出願当時、放射線画像撮影用カセッテを抗菌材料から構成することは周知技術であったと認められる。

ク 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、以下の記載がある。
「【0014】
図6は、患者94の関心領域90の画像を撮影するのに用いられている撮像用線源30の側面図を示す。動作時には、技士はカバー50を寝台又はテーブル98のような表面に配置する。次いで、技士は、関心領域90がカバー50の上面に又はカバー50に近接して配置されるようにして患者94をテーブル98に配置する。代替的には、技士は、テーブル98に既に配置されている関心領域90に近接してカバー50を配置してもよい。例示のみのために述べると、関心領域90は患者94の腹部であってよい。次いで、技士は画像検出器34を取って、関心領域90を移動させて、画像検出器34を摺動させてカバー50の開口72(図3)に入れ、図4及び図5に示すようにカバー50の内部78(図3)に挿入する。技士は、カバー50の上に戻すように関心領域90を移動させる。次いで、技士は、撮像用線源30を関心領域90の周りで移動させて、撮像用線源30が画像検出器34に整列するようにする。次いで、技士は、操作ステーション14(図1)において撮像用線源30を動作させて撮像用線源30が画像を形成するようにし、この画像は画像検出器34によって受け取られる。例示のみのために述べると、撮像用線源30はX線102を発生して、画像検出器34にX線画像を残す。次いで、画像検出器34は画像を操作ステーション14又はその他任意のステーションに送信することができ、ここで技士は画像を観察することができる。技士が画像の作成を終えたら、技士はカバー50から患者を持ち上げて患者を除けた後に、カバー50から画像検出器34を取り外す。代替的には、技士が画像の撮影を完了した後に、技士はカバー50から画像検出器34を取り外し、次いで、患者の下方からカバー50を取り外す。代替的には、画像検出器34が画像を送信するように構成されておらず、カセット又はプレートに画像を記憶する場合には、画像検出器34から画像を回収することができる。」

ケ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、以下の記載がある。
「【0031】
手術室、検診又は病院内での回診等において、放射線画像情報の撮影を行う場合、医師又は放射線技師は、図示しない保管箱等からロール状の放射線検出カセッテ15Aを取り出して平面状に展開し、次に、カセッテ収納袋13Aの蓋部28dと背面28bとが離間している状態(開口部28cが開いている状態)で、マーク29bの示す方向に放射線検出カセッテ15Aを挿入する。次に、医師又は放射線技師は、蓋部28dによる開口部28cの閉塞の邪魔にならない程度の長さにまで、放射線検出カセッテ15Aからアンテナ32を引き伸ばし、該アンテナ32の先端部を電気絶縁部材30に通す。その後、開口部28cを蓋部28dにより閉塞して、放射線検出カセッテ15Aをカセッテ収納袋13A内に密封した後、医師又は放射線技師は、アンテナ32を所定長さ(アンテナ32とコンソール20との間での無線通信が可能となる程度の長さ)まで引き伸ばす。
【0032】
次に、医師又は放射線技師は、例えば、患者18とベッドとの間の所定位置に、前面28a(照射面33)を放射線源16側とした状態で放射線検出装置10Aを設置し、さらに、放射線源16を放射線検出装置10Aに対向する位置に適宜移動させた後、放射線源16の撮影スイッチを操作して撮影を行う。前記撮影スイッチの操作に起因して、放射線源16は、無線通信により、コンソール20に対して撮影条件の送信を要求し、コンソール20は、受信した前記要求に基づいて、当該患者18の撮影部位に係る撮影条件を放射線源16に送信する。放射線源16は、前記撮影条件を受信すると、当該撮影条件に従って、所定の線量からなる放射線14を患者18に照射する。
【0033】
患者18を透過した放射線14は、カセッテ収納袋13Aの前面28aを透過し、放射線検出カセッテ15Aのグリッド34によって散乱線が除去された後、放射線検出器40に照射される。放射線検出器40を構成するシンチレータ72は、放射線14の強度に応じた強度の可視光を発光し、光電変換層76を構成する各画素50は、可視光を電気信号に変換し、電荷として蓄積する。次いで、各画素50に保持された患者18の放射線画像情報である電荷情報は、カセッテ制御部46を構成するアドレス信号発生部82からライン走査駆動部58及びマルチプレクサ66に供給されるアドレス信号に従って読み出される。」

コ 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、医療分野においてX線撮影に用いられるカセッテ、或はカセッテを収蔵する保護カバーに被覆するカバーに関する。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みて、カセッテ自体やカセッテを収蔵する強固な剛性を有する保護カバーを収容してX線撮影に使用中は患者にやさしく接触し、使用後は安全に廃棄されてX線撮影による汚染感染の拡大を防止するカセッテカバーを提供しようとするものである。」

サ 上記クないしコによれば、本願出願当時、放射線を利用した画像検出器において、カバーを装着した状態で放射線の撮影を行うことは周知技術であったと認められる。

(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「放射線検出器」、「電子カセッテ本体」、「保護カバー」、「ケーシング」及び「電子カセッテ」は、本願発明の「放射線撮像素子」、「放射線画像撮影装置」、「保護カバー」、「筐体」及び「放射線画像撮影装置」にそれぞれ相当するから、本願発明と引用発明1とは、
「照射された放射線を検出する放射線撮像素子を筐体に収納した放射線画像撮影装置本体と、
前記放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の保護カバーと、
を有する放射線画像撮影装置。」
の点で一致している。
他方、本願発明と引用発明1は、以下の点で相違する。

ア 「保護カバー」が、本願発明では、放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の「表面に取り外し可能に貼り付けられた」ものであるのに対して、引用発明では、表面に取り外し可能に貼り付けられたものではない点(以下「相違点1」という。)。

イ 本願発明は、「保護カバーとは別部材であり、前記筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面とは反対の面に取り付けられ」る「断熱材」を備えるのに対して、引用発明は、このような「断熱材」を備えない点(以下「相違点2」という。)。

ウ 本願発明の「断熱材」は、「取り付けられた状態において前記保護カバー及び前記筐体を含めた厚さが16mm以下となる」のに対して、引用発明は、このような「断熱材」を備えない点(以下「相違点3」という。)。

(3)判断
上記相違点1について検討する。
引用発明1の保護カバーは、「保護カバー内に収納される放射線検出器と、カセッテ制御部と、バッテリと、送受信機とを含み、保護カバーの上面部と下面部に位置決め用の複数の穴部又は凹部を有」するものであるから、表面に取り外し可能に貼り付けられた保護カバーが周知のものであっても、引用発明1の保護カバーを「表面に取り外し可能に貼り付けられた」ものとなすことは想定し得ない。
また、引用発明1は既に保護カバーを備えるため、さらに表面に取り外し可能に貼り付けられる保護カバーを付加する動機も見当たらない。
そして、引用文献2ないし8の記載事項及び上記「(1)」「エ」、「(1)」「キ」及び「(1)」「サ」の周知技術を踏まえても、引用発明1の保護カバーを「表面に取り外し可能に貼り付けられた」ものとなすことが容易であったとする証拠はない。
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本願発明は引用発明1及び周知技術から容易に想到し得たということはできない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1、引用文献2ないし8に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2ないし9に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明1、引用文献2ないし8に記載の事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用文献9 特開2012-132703号公報

引用発明の「電子カセッテ」は、「国際規格ISO4090:2001に準拠した外形サイズを有」するものであって、かつ、「緩衝材33aを取り付けたことによって電子カセッテ13の使用感が変化しない」ものであるから、「緩衝材33aを取り付けたことによって電子カセッテ13の」「国際規格ISO4090:2001に準拠した外形サイズ」「が変化しない」ものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用発明の電子カセッテ13は、緩衝材33aを取り付けた筐体31に収容した状態で(緩衝材33aを取り付けた筐体31から取り外すこと無く)、X線撮影システム10のトレイ21に電子カセッテ13が着脱自在に取り付けられ撮影するものであることからも、緩衝材33a及び筐体31を含めた厚さが、X線撮影システム10のトレイ21に電子カセッテ13が着脱自在に取り付けられる厚さ以下のものであると認められる。
そして、その際の外形サイズの「厚さ」は国際規格に準拠すればよいから、これを16mm以下となして上記相違点にかかる本願発明1の構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

2 当審拒絶理由の判断
(1)引用刊行物及び引用発明
当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献9には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出パネルを用いて放射線画像を取得する電子カセッテに関するものである。」

イ 「【0024】
図1に示すように、X線撮影システム10は、X線発生器11、臥位撮影台12、電子カセッテ13、コンソール14、モニタ15を備えている。電子カセッテ13は、コンソール14の制御に基づいて、X線発生器11から被検者Hに照射されて透過したX線を検出し、X線画像を生成する。コンソール14は、電子カセッテ13から送信されたX線画像に各種画像処理を施し、モニタ15に表示させる。トレイ21は、電子カセッテ13が着脱自在に取り付けられる取付部である。
【0025】
X線撮影システム10による撮影は、臥位撮影台12に載せられている被検者Hに向けてX線発生器11により上方からX線を照射し、そのX線が被検者Hを透過して得られるX線像を電子カセッテ13で検出する。また、四肢や肘等の撮影では、臥位撮影台12の上に電子カセッテ13を載置して撮影することもある。
【0026】
電子カセッテ13は、ほぼ直方体形状をしており、例えば、半切サイズ(383.5mm×459.5mm)のフィルム用またはIP用のカセッテと同様の国際規格ISO4090:2001に準拠した外形サイズを有している。電子カセッテ13の外形サイズは、前述した半切サイズの他、四切サイズ、六切サイズ等があり、撮影部位に応じて適宜選択される。
【0027】
図2及び図3に示すように、電子カセッテ13は、筐体31と、筐体31に収容されるX線検出パネル32(FPD)、ベース板34、回路基板36?39等からなる。
【0028】
筐体31は、前面部31aと背面部31bとからなる中空の直方体形状に形成され、内部にX線検出パネル32等、電子カセッテ13の各部を収容する。筐体31は、例えばステンレス等のX線の透過率が低い金属で形成されている。前面部31aは、X線を入射させる前面側からX線検出パネル32を覆うとともに、中央部分にX線透過窓33が設けられている。
【0029】
X線透過窓33は、前面部31aの中央部分に設けられた開口と、この開口に嵌め込まれた緩衝材33a及びカーボン板33bとからなる。緩衝材33a及びカーボン板33bは、X線の照射方向側から、緩衝材33a、カーボン板33bの順に開口に前面部31aに嵌めこまれている。このため、前面部31aの前面には緩衝材33aが露呈され、カーボン板33bは前面部31aの内面を形成する。
【0030】
緩衝材33aは、例えば、シリコーン樹脂や低反発フォーム等、X線を透過するとともに変形することにより衝撃を吸収する材料で形成され、前面部31aの開口とカーボン板33bによって形成される凹部に取り付けられる。筐体31に緩衝材33aを取り付けることにより、筐体31の前面は平坦になる。また、緩衝材33aは、着脱自在に取り付けられており、電子カセッテ13を繰り返し使用するうちに汚れが付着したり、キズ等により緩衝効果が薄らいだときには、適宜交換される。・・・
【0039】
回路基板36は、検出素子アレイ44のTFTを駆動する駆動回路が形成された駆動用回路基板である。回路基板37はA/D変換回路が形成されたA/D変換回路基板である。A/D変換回路は、後述するICチップが出力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。・・・
【0046】
また、緩衝材33aは、カーボン板33bと前面部31aの開口とで形成される凹部に嵌まり込み、前面部31aの表面を平坦にするので、被検者Hと臥位撮影台12間への挿入やトレイ21への挿入をスムーズに行うことができ、取り扱い易さが向上する。
【0047】
なお、上述の実施形態では、緩衝材33aを取り付けることによって前面部31aの表面が平坦になる態様を説明したが、これに限らない。例えば、図4に示すように、緩衝材33aを前面部31aから所定の高さだけ突出させるようにしても良い。この場合、背面部31bの背面に、緩衝材33aの突出量に応じた凹部61を設けておくことによって、緩衝材33aと凹部61が勘合させて複数の電子カセッテ13を重ね合わせることにより、複数の電子カセッテ13を自動的に整然と保管することができる。
【0048】
なお、上述の実施形態では、緩衝材33aがシリコーン樹脂や低反発フォームにより形成される例を説明したが、これに限らない。衝撃吸収性、特に被検者Hの体が電子カセッテ13に載置されるときにX線透過窓33に加わる荷重や衝撃によってカーボン板33b及びカーボン板33bに接着されたX線検出パネル(TFT基板42)の変形や破損等を防止できれば、緩衝材33aの材料は任意であり、シリコーン樹脂や低反発フォームの他にも、ゲルシートやゴム、発泡スチロール等を好適に用いることができる。但し、X線画像の画質を劣化させないように、緩衝材33aは、X線を均一に透過するものであることが好ましい。また、緩衝材33aは、断熱性を有する材料であることが好ましい。これは、被検者Hが接触することによってシンチレータ41に熱ムラが生じることを防止するためである。シンチレータ41は、温度によってX線を蛍光に変換する変換効率が変化するので、被検者Hの接触等によってシンチレータ41に熱ムラが生じると、撮影するX線画像の画質が劣化する。
【0049】
また、緩衝材33aは、防水性を有していることが好ましい。緩衝材33aの防水性は、例えば、緩衝材33a自体を防水性を有している材料から形成するか、図5に示すように緩衝材33aの表面に防水性材料71のコーティングする等の防水加工を施すことによって容易に得られる。電子カセッテ13は、様々な環境で使用され、被検者Hの血液や体液、薬品等が付着することがあるが、緩衝材33aが防水性を有していることによって、こうした汚染物質を容易に除去し、電子カセッテ13及び緩衝材33aを清潔に保つことができる。緩衝材33aの防水性は、汚染物質が付着しやすい手術室での使用時に特に有用である。
【0050】
なお、上述の実施形態では説明を省略したが、電子カセッテ13には通常、撮影位置を目視確認するためのマーカーが設けられる。例えば、図6に示すように、マーカー66がカーボン板33bの表面に設けられている場合、緩衝材33aを通してマーカー66を視認可能なように、緩衝材33aは透明な材料で形成することが好ましい。また、図7に示すように、緩衝材33aを不透明な材料で形成する場合には、電子カセッテ13の外面に露呈される緩衝材33aの表面にマーカー67を設けることが好ましい。この場合、緩衝材33aを取り付けたことによって電子カセッテ13の使用感が変化しないように、マーカー67は、緩衝材33aによって覆い隠されるカーボン板33b上のマーカー66と、同様の形状や個数で、マーカー66と同じ位置に設けることが好ましい。
・・・
【0053】
なお、上述の実施形態では、緩衝材33aは着脱自在に前面部31aに取り付けられる例を説明したが、緩衝材33aを前面部31aに取り付けるための具体的な機構は任意である。例えば、カーボン板33bと前面部31aの開口とで形成される凹部に嵌合させることによって取り付けても良いし、板状の磁石や両面テープ、面状ファスナー、その他係止爪を用いた係止機構等の機械的機構等によって緩衝材33aを前面部31aに取り付けるようにしても良い。また、上述の実施形態では、筐体31の前面から緩衝材33aを着脱する態様で緩衝材33aを取り付ける例を説明したが、これに限らない。例えば、筐体の側面にスロットを設け、このスロットから緩衝材33aを挿抜する態様で緩衝材33aを筐体31に取り付けるようにしても良い。
【0054】
また、上述の実施形態では、カーボン板33bと前面部31aの開口によって形成される凹部に緩衝材33aを取り付ける例を説明したが、緩衝材33aは少なくともカーボン板33bの前面を覆うものであれば良い。このため、例えば、緩衝材33aとして、前面部31aの全面を覆う態様のものを用いても良く、電子カセッテ13の全体を包むものであっても良い。」

ウ 図1ないし4は次のものである。


(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献9には、次の発明(以下「引用発明9」という。)が記載されているものと認められる。
「コンソール14の制御に基づいて、X線発生器11から被検者Hに照射されて透過したX線を検出し、X線画像を生成する電子カセッテ13において、前記電子カセッテ13は、ほぼ直方体形状をしており、国際規格ISO4090:2001に準拠した外形サイズを有し、筐体31と、筐体31に収容されるX線検出パネル32(FPD)、ベース板34、回路基板36?39等からなり、前記筐体31は、前面部31aと背面部31bとからなる中空の直方体形状に形成され、内部にX線検出パネル32等、電子カセッテ13の各部を収容し、前記前面部31aは、X線を入射させる前面側からX線検出パネル32を覆うとともに、中央部分にX線透過窓33が設けられ、前記X線透過窓33は、前面部31aの中央部分に設けられた開口と、この開口に嵌め込まれた緩衝材33a及びカーボン板33bとからなり、前記緩衝材33aは、シリコーン樹脂やゲルシート等、X線を透過するとともに変形することにより衝撃を吸収する材料で形成され、前面部31aの開口とカーボン板33bによって形成される凹部に取り付けられ、筐体31に緩衝材33aを取り付けることにより、筐体31の前面は平坦になり、前記緩衝材33aは、着脱自在に取り付けられており、適宜交換され、前記回路基板37はA/D変換回路が形成されたA/D変換回路基板であり、前記A/D変換回路は、後述するICチップが出力するアナログ信号をデジタル信号に変換し、前記緩衝材33aは、断熱性を有する材料であり、前記緩衝材33aを取り付けたことによって電子カセッテ13の使用感が変化しないものであり、両面テープ等によって緩衝材33aを前面部31aに取り付けるものであり、前記緩衝材33aとして、電子カセッテ13の全体を包むものである、放射線検出パネルを用いて放射線画像を取得する電子カセッテ。」

3 対比・判断
(1)対比
ア 本願発明と引用発明9とを対比すると、引用発明9の「X線」、「X線検出パネル32」、「筐体31」及び「電子カセッテ13」は、本願発明の「放射線」、「放射線撮像素子」、「筐体」及び「放射線画像撮影装置」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明9の「緩衝材33a」は、「断熱性を有する材料」であり、また、「衝撃を吸収する材料」でもあり、そして、「電子カセッテ13の全体を包むものであ」って、電子カセッテ13の筐体31の全表面(前面及び裏面)に取り外し可能に貼り付けられるから、筐体31の一面に取り付けられた衝撃を吸収する材料であるとともに、反対の面に取り付けられた断熱性を有する材料であるといえる。
したがって、引用発明9の「断熱性を有する材料であり、両面テープ等によって緩衝材33aを前面部31aに取り付けるものであり、前記緩衝材33aとして、前面部31aの全面を覆う態様のもの、あるいは、電子カセッテ13の全体を包むものである」「緩衝材33a」は、本願発明の「前記放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の表面に取り外し可能に貼り付けられた保護カバー」及び「前記保護カバーとは別部材であり、前記筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面とは反対の面に取り付けられ、取り付けられた状態において前記保護カバー及び前記筐体を含めた厚さが16mm以下となる断熱材」と、「前記放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の表面の保護カバー」及び「前記筐体における前記保護カバーの面とは反対の面の断熱材」の点で一致する。

ウ 上記ア及びイによれば、両者は、「照射された放射線を検出する放射線撮像素子を筐体に収納した放射線画像撮影装置本体と、
前記放射線画像撮影装置本体の前記筐体の放射線が入射される側の表面の保護カバーと、
前記筐体における前記保護カバーの面とは反対の面の断熱材と、
を有する放射線画像撮影装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

(ア)本願発明の「保護カバー」は、放射線画像撮影装置本体の筐体の放射線が入射される側の表面に「取り外し可能に貼り付けられた」ものであるのに対して、引用発明9の「(電子カセッテ13の全体を包む)緩衝材33a」は、このようなものとはされない点(以下「相違点4」という。)。

(イ)本願発明の「断熱材」は「前記保護カバーとは別部材であ」るのに対して、引用発明9の「(電子カセッテ13の全体を包む)緩衝材33a」は、このようなものとはされない点(以下「相違点5」という。)。

(ウ)本願発明の「断熱材」は、筐体における保護カバーが貼り付けられた面とは反対の面に「取り付けられ、取り付けられた状態において前記保護カバー及び前記筐体を含めた厚さが16mm以下となる」ものであるのに対して、引用発明9の「(電子カセッテ13の全体を包む)緩衝材33a」は、このようなものとはされない点(以下「相違点6」という。)。

(2)判断
上記相違点5について検討する。
引用発明9の「緩衝材33a」は、前面部31aに取り付けるものであり、電子カセッテ13の全体を包むものであって、本願発明の「保護カバー」と「断熱材」を兼ねるものであるところ、引用文献9の明細書には、「緩衝材33aは、断熱性を有する材料であることが好ましい。これは、被検者Hが接触することによってシンチレータ41に熱ムラが生じることを防止するためである。シンチレータ41は、温度によってX線を蛍光に変換する変換効率が変化するので、被検者Hの接触等によってシンチレータ41に熱ムラが生じると、撮影するX線画像の画質が劣化する。」(上記「(1)」「イ」「段落【0048】」)と記載され、引用発明9における「緩衝材33a」が「断熱性」を有する目的は、被検者Hの温度(体温)からシンチレータ41を断熱することにあるとされるから、「断熱性」を有する「緩衝材33a」を被検者H側に配設する必要がある。
したがって、「緩衝材33a」を、「保護カバー」と「断熱材」の別部材とし、かつ、「保護カバー」を放射線が入射される側(被検者H側)とし、「断熱材」を筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面(被検者H側)とは反対の面とすることには阻害要因があるといえる。
そして、引用文献1ないし8を見ても、引用発明9の「緩衝材33a」を、「保護カバー」と「断熱材」の別部材とし、かつ、「保護カバー」を放射線が入射される側(被検者H側)とし、「断熱材」を筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面(被検者H側)とは反対の面とすることが容易であったとする証拠はない。
よって、本願発明は上記相違点4及び6について検討するまでもなく、引用発明9及び周知技術から容易に想到し得たということはできない。

(2)判断
上記相違点3について検討する。
引用発明9の「緩衝材33a」は、前面部31aに取り付けるものであり、電子カセッテ13の全体を包むものであって、本願発明の「保護カバー」と「断熱材」を兼ねるものであるところ、引用文献9の明細書には、「緩衝材33aは、断熱性を有する材料であることが好ましい。これは、被検者Hが接触することによってシンチレータ41に熱ムラが生じることを防止するためである。シンチレータ41は、温度によってX線を蛍光に変換する変換効率が変化するので、被検者Hの接触等によってシンチレータ41に熱ムラが生じると、撮影するX線画像の画質が劣化する。」(上記「(1)」「イ」「段落【0048】」)と記載され、引用発明9における「緩衝材33a」が「断熱性」を有する目的は、被検者Hの温度(体温)を断熱することにあるとされるから、「緩衝材33a」を、「保護カバー」と「断熱材」の別部材とし、かつ、「保護カバー」を放射線が入射される側(被検者H側)とし、「断熱材」を筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面(被検者H側)とは反対の面とすることは想定し得ない。
そして、引用文献1ないし8を見ても、引用発明9の「緩衝材33a」を、「保護カバー」と「断熱材」の別部材とし、かつ、「保護カバー」を放射線が入射される側(被検者H側)とし、「断熱材」を筐体における前記保護カバーが貼り付けられた面(被検者H側)とは反対の面とすることが容易であったとする証拠はない。
したがって、本願発明は引用発明9及び周知技術から容易に想到し得たということはできない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明9に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
本願の請求項2ないし9に係る発明についても、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明9に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえなくなった。
そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2012-171283(P2012-171283)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青木 洋平  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 放射線画像撮影装置  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ