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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B64C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B64C
管理番号 1325236
審判番号 不服2015-18471  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-09 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2013-227111「振動を減少させるための電気機械式の制動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月19日出願公開、特開2014-91519、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月31日(パリ条約による優先権主張2012年10月31日 フランス共和国)の出願であって、平成26年9月25日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年12月26日付けで意見書が提出されが、平成27年6月1日付け(発送日:同年6月9日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月9日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年4月21日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、その指定期間内の同年7月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月26日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、その指定期間内の同年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年12月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
航空機の少なくとも1つのブレーキ付き車輪(1)に取り付けられた少なくとも1つの電気機械ブレーキ(2)を有する航空機のための電気機械式の制動方法であって、
前記ブレーキ(2)が、摩擦部材(3)と複数の電気機械アクチュエータ(4)とを有し、
各電気機械アクチュエータ(4)が、前記摩擦部材(3)に対して押圧力を選択的に加えるために電動モーター(6)によって動かされるのに適したプッシャ(5)を備え、
前記方法が、
ブレーキ作動のために、前記ブレーキの前記摩擦部材(3)に対して加えられる合計の押圧力が、前記複数の電気機械アクチュエータ(2)がそれぞれゼロではない異なる力を加えるように前記ブレーキの前記電気機械アクチュエータ(4)同士の間で不均等に配分されるような、
制動方法において、
前記ブレーキに与えられたトルクが合計の必要とされた押圧力に対応する目標値に達したときに、前記ブレーキ作動のために、各電気機械アクチュエータ(4)が、前記合計の押圧力になるように予め決められた分担を実行し、
前記複数の電気機械アクチュエータ(4)同士の間の前記配分が、予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正されることを特徴とする、
制動方法。
【請求項2】
配分を修正するごとに、各電気機械アクチュエータが合計の押圧力になるように予め決められた分担の各々を順次実行するように、予め決められた分担が前記複数の電気機械アクチュエータ同士の間で入れ替えられることを特徴とする、
請求項1に記載の制動方法。
【請求項3】
配分を修正するごとに、予め決められた分担が前記複数の電気機械アクチュエータの各々にランダムに割り当てられることを特徴とする、
請求項1に記載の制動方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明1ないし3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特表2003-508296号公報
刊行物2:国際公開第2011/116202号

刊行物1(段落【0008】?【0013】、図2?3等参照)には、航空機の少なくとも1つのブレーキ付き車輪に取り付けられた、少なくとも1つの電気機械ブレーキであって、ブレーキが、摩擦部材(ディスク・スタック)と複数の電気機械アクチュエータとを有し、各アクチュエータが、前記摩擦部材に対して押圧力を選択的に加えるために電動モーター(アクチュエータ11)によって動かされるのに適したプッシャ(ピストン12)を備える、電気機械ブレーキが記載されており(段落【0007】、図1等参照)、また、所定のブレーキ作動のために、電気機械ブレーキの摩擦部材に対して加えられる合計のブレーキ力が、少なくとも2つのアクチュエータ(アクチュエータ(EMA))がそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキの前記アクチュエータ同士の間で不均等に配分される(段落【0012】参照)ような、航空機のための電気機械式の制動方法が記載されている。

刊行物2(11ページ8行?12ページ6行、Fig.6等参照)には、ブレーキ力が、ブレーキのアクチュエータ(electric motor-actuators)同士の間で不均等に配分される制動方法において、アクチュエータの摩耗を抑制するために、アクチュエータ同士の間の前記配分が、予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正される技術が記載されている。

刊行物2(特に、11ページ8?16行。12ページ5?6行等を参照)には、アクチュエータの摩耗を抑制するために、アクチュエータ同士の間のブレーキ力の配分が予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正されることが記載されており、刊行物1に記載された発明においても、アクチュエータの不均等な摩耗を抑制するために、刊行物2に記載された発明を適用し、アクチュエータ同士の間のブレーキ力の配分が予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正されるようにすることは、当業者にとって容易である。

よって、本願発明1ないし3は、刊行物1?2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 刊行物1
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物1には、「振動ダンピングを備えた電気作動ブレーキ」に関して、図面(特に、図1?図3参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両にブレーキをかけるための方法および装置に関し、特に航空機用の電気作動ブレーキ・システムの選択的制御のための方法および装置に関する。」

(イ)「【0007】
【実施例】
図1の車輪及びブレーキ組立体において、ブレーキ・キャリア・ハウジング13の電気機械的なアクチュエータ11は、ボルト15によってトルク・チューブ14に固定される。車輪17は、車軸19で回転するように取り付けられる。ブレーキ・ディスク・スタックは、車輪17に固定され且つ車輪17と共に回転可能な21及び23のような交互のロータ・ディスクを有し、25及び27のような介在するステータ・ディスクは、静止状態であり、且つブレーキ・キャリア・ハウジング13に接続されたトルク・チューブ14に固定される。(複数の同様の環状に配置されたアクチュエータを備えた)アクチュエータ11が付勢されると、ピストン12は、ブレーキ圧プレート・ディスク29を強制的に伸張してディスク・スタックを圧縮し、マルチディスク・ブレーキ組立体で従来行われているように、車両速度を低下させる。
【0008】
図2において、電気作動ブレーキ・システム30は、2つの車輪及びブレーキ組立体33及び31を含み、これらの組立体はそれぞれ、車輪の回転軸の周りに環状パターンで、それぞれのブレーキ・キャリア・ハウジング13に設けられた4つの電気機械的なアクチュエータ(EMA)35,37,39,41,43,45,47,49を有するように図示されている。EMAは、イリノイ州スコキイのMPC Products Corporation 及び カリフォルニア州トーランスのAlliedSignal Aerospaceのような会社から得ることができる。アクチュエータ、即ちEMAは、ブレーキ力を圧力プレートに与えるために、ブレーキ・コマンドの発生時に選択的に付勢可能であり、それによりブレーキ・ディスク・スタックを圧縮して、車輪の回転を低減する。車輪及びブレーキ組立体31及び33のそれぞれはまた、車輪速度又はトルク・センサ51及び53、並びに振動センサ55及び57を支持する。振動センサ55及び57の存在を除いて、図2の2つの車輪及びブレーキ組立体31及び33は、例えば、図1に示されたような従来のタイプのものであり得る。
【0009】
パイロット又は他の車両オペレータが命令されたブレーキ事象を開始すると、59で示されたコマンドは、電子制御ユニット(ECU)61に与えられ、このユニットは、通常、回路63,65,67,69,71,73,75,77によって、電気機械的なアクチュエータ(EMA)のそれぞれに付勢電流を与える。(以下略)」

(ウ)「【0011】
図3において、単一のブレーキに対する速度及び振動の監視も示されている。・・・(省略)・・・車両オペレータが59でブレーキ・コマンドを出すと、通常のブレーキ動作が、81で図示されたように開始する。制御ユニット61は、79で示されたように航空機の速度を監視し、その速度が所定値を超える限り航空機の着陸及びロールアウト中に1つのモード(通常のブレーキ動作81)で全てのブレーキ・アクチュエータを作動し、あるアクチュエータが消勢される場合に、或いは速度が所定の最小値以下に低下するときにアクチュエータの駆動が航空機のタクシー及び牽引中に低下する場合に、第2のモード83に切り替わる。速度又はトルク・センサ51はまた、従来のアンチロック・ブレーキ機能の一部であってもよい。
【0012】
独立のアクチュエータ制御の利用は、他の利点を提供する。各EMAによって発生される力は、所与の状況に当てはめることができる。通常、EMAは、圧力プレート29に等しい力を与えるように駆動される。有害な振動状態のような他の状況において、EMAは、ダンピングを与えるような、状況に応じた分配によって等しくない力を与えるように駆動できる。このアクティブな振動ダンピングは、ブレーキまたはキャリア・ハウジングに1又はそれ以上の加速メータ55を設けることによって達成できる。ブレーキ31に関連する、この振動検知手段55は、制御ユニット61における振動しきい値検知回路85に接続される。制御ユニットは、振動検知手段55によって検知された振動が特定のレベル以下に留まる限り、ブレーキを通常モード81で作動し、且つ検知された振動が特定のレベルを超えるときに振動ダンピング・モードまたは修正ルーチン87に変更する。振動センサ信号は、より洗練された分析を実行し、且つ修正ルーチンは、この分析に基づく。修正ルーチンは、車輪に与えられるブレーキ力を変化させてブレーキの有害な振動を回避して、それによりブレーキ力によってもたらされるブレーキ振動の形成を防止するために、ブレーキ事象中に記憶されたシーケンスに従って個々のアクチュエータを付勢するバリエーションのプログラムであり得る。例えば、ECU61が加速メータの信号を受けてそれを処理すると、それは、対応するEMA力分配スペクトルを有する特定の振動スペクトルに応答するようにプログラムされる。従って、所与の振動状態に応答して、力分配のアクティブなダンピング・モードがECUによって開始される。それは、振動状態が通常モードに対する特定の基準に合致するまで、アクティブなダンピング・モードを介して機能し続ける。(以下略)」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「航空機の2つの車輪17に取り付けられた2つのブレーキ組立体33,31を有する航空機のための電気作動ブレーキ・システム30の制動方法であって、
前記ブレーキ組立体33,31が、ブレーキ・ディスク・スタックと4つの電気機械的なアクチュエータ35,37,39,41,43,45,47,49とを有し、
各アクチュエータが、前記ブレーキ・ディスク・スタックに対して押圧力を選択的に加えるためにアクチュエータによって動かされるのに適したピストン12を備え、
前記方法が、
ブレーキ作動のために、前記ブレーキ組立体33,31の前記ブレーキ・ディスク・スタックに対して加えられる合計の押圧力が、前記複数のアクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキ組立体33,31の前記アクチュエータ同士の間で不均等に配分される、
制動方法。」

イ 刊行物2
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物2には、「ELECTRONIC MOTOR ACTUATORS BRAKE INHIBIT FOR AIRCRAFT BRAKING SYSTEM」に関して、図面(特に、FIG.3、FIG.4、FIG.6参照)とともに、次の事項が記載されている。仮訳は当審による。下線は当審が付した。

・11ページ8行?12ページ6行
(仮訳)
別の重要な考慮事項は、もし、電動アクチュエータの抑制ロジックが常に同じ電動アクチュエータを抑制するならば、好ましくないが、常時作動の電動アクチュエータは、抑制したアクチュエータよりも急速に磨耗するだろうということです。本発明は、また、電動アクチュエータが抑制され、或いは抑制されないような、定期的な変更を可能にします。航空機に適用するために、これを行う1つの方法は、着陸ギアの指示または飛行サイクルの他の着陸の指示により、各フライトサイクル毎に切り換えることです。より好ましい方法は、言い換えれば、ブレーキが解除されるたびに、そのブレーキのクランブ力指令が除去されるたびに切り替えることです。図6に示されるように、阻害制動モードにおける電動アクチュエータの交互の選択は、電動アクチュエータの複数の第1及び第2の部分の起動と停止を交互に連続するサイクルを含みます。こうして、ブレーキペダルが印加されていない最初の非制動構成96に続いて、阻害制動モードにおいてブレーキペダルが印加され、ブレーキシステム制御ユニットがブレーキペダルのコマンドを受信したとき、ブレーキシステム制御ユニットは、電子ブレーキ作動制御装置を制御し、電動モータアクチュエータを第1のブレーキ構成98に作動し、複数の電動モータアクチュエータの第1の部分100、例えば、電動アクチュエータ70a及び70c(#1、#3)のように、4つの電動アクチュエータのうち2つを活性化し、他方、複数の電動モータアクチュエータの第2の部分102、例えば、電動アクチュエータ70b及び70d(#2、#4)のように、4つの電動アクチュエータのうち残りの2つを不活性化します。その後、ブレーキペダル指令信号が停止したときに、電動アクチュエータには電動アクチュエータが作動されていない第2の非制動構成104となります。そして、連続して、ブレーキシステム制御ユニットが、ブレーキペダルコマンドを受信したとき、ブレーキシステム制御ユニットは、電子ブレーキ作動制御装置を制御し、電動モータアクチュエータを第2のブレーキ構成106に作動し、複数の電動モータアクチュエータの第2の部分102、例えば、電動アクチュエータ70b及び70d(#2、#4)を活性化し、他方、第1の部分100、例えば、電動アクチュエータ70a及び70c(#1、#3)を不活性化します。このロジックは、電動アクチュエータの使用量の最も均一な分布を提供し、実装するために、追加の車両論理データを必要としません。これは、阻害によって提供される摩耗のすべての減少が均等にすべての電動アクチュエータの間で分配されることを保証します。

この記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2の技術事項」という。)が記載されている。

「ブレーキ作動のために、ブレーキに対して加えられる合計の押圧力が、複数の電動アクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキの前記電動アクチュエータ同士の間で不均等に配分されるような制動方法において、各電動アクチュエータが、合計の押圧力になるように予め決められた分担を実行し、複数の電動アクチュエータ同士の間の配分が、ブレーキが解除される毎に修正される制動方法。」

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その機能からみて、後者の「2つの車輪17」は前者の「少なくとも1つのブレーキ付き車輪(1)」に相当し、以下同様に、「2つのブレーキ組立体33,31」は「少なくとも1つの電気機械ブレーキ(2)」に、「電気作動ブレーキ・システム30の制動方法」は「電気機械式の制動方法」に、「ブレーキ・ディスク・スタック」は「摩擦部材(3)」に、「4つの電気機械的なアクチュエータ35,37,39,41,43,45,47,49」は、付勢電流を与えられて作動するから、「複数の電気機械アクチュエータ(4)」及び「電動モーター(6)」に、「ピストン12」は「プッシャ(5)」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「航空機の少なくとも1つのブレーキ付き車輪に取り付けられた少なくとも1つの電気機械ブレーキを有する航空機のための電気機械式の制動方法であって、
前記ブレーキが、摩擦部材と複数の電気機械アクチュエータとを有し、
各電気機械アクチュエータが、前記摩擦部材に対して押圧力を選択的に加えるために電動モーターによって動かされるのに適したプッシャを備え、
前記方法が、
ブレーキ作動のために、前記ブレーキの前記摩擦部材に対して加えられる合計の押圧力が、前記複数の電気機械アクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキの前記電気機械アクチュエータ同士の間で不均等に配分される、
制動方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明1は、ブレーキ作動のために、複数の電気機械アクチュエータがそれぞれ「ゼロではない」異なる力を加え、「前記ブレーキに与えられたトルクが合計の必要とされた押圧力に対応する目標値に達したときに、前記ブレーキ作動のために、各電気機械アクチュエータ(4)が、前記合計の押圧力になるように予め決められた分担を実行し、前記複数の電気機械アクチュエータ(4)同士の間の前記配分が、予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正される」のに対し、
引用発明は、かかる構成を備えていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
刊行物1には、「有害な振動状態のような他の状況において、EMAは、ダンピングを与えるような、状況に応じた分配によって等しくない力を与えるように駆動できる」(段落【0012】)との記載、及び「修正ルーチンは、車輪に与えられるブレーキ力を変化させてブレーキの有害な振動を回避して、それによりブレーキ力によってもたらされるブレーキ振動の形成を防止するために、ブレーキ事象中に記憶されたシーケンスに従って個々のアクチュエータを付勢するバリエーションのプログラムであり得る」(同)との記載がある。

これらの記載によれば、引用発明は、ブレーキの有害な振動を回避するために、ブレーキ事象中、すなわちブレーキ作動中に「前記複数のアクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキ組立体33,31の前記アクチュエータ同士の間で不均等に配分される」ものであることが理解できる。

他方、刊行物2には、「これは、阻害によって提供される摩耗のすべての減少が均等にすべての電動アクチュエータの間で分配されることを保証します」との記載、及び「各フライトサイクル毎に切り換えることです。より好ましい方法は、言い換えれば、ブレーキが解除されるたびに、そのブレーキのクランブ力指令が除去されるたびに切り替えることです」との記載がある。
これらの記載によれば、刊行物2の技術事項は、すべての電動アクチュエータの間で摩耗を均等に分配するために、各ブレーキ作動毎に「複数の電動アクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるように前記ブレーキの前記電動アクチュエータ同士の間で不均等に配分される」ものであることが理解できる。

そうすると、引用発明は、1回のブレーキ作動中に複数のアクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるのに対し、刊行物2の技術事項は、各ブレーキ作動毎に複数のアクチュエータがそれぞれ異なる力を加えるものであるから、両者は、前提とする制動期間、及びそれぞれの技術的課題において相違するので、引用発明に刊行物2の技術事項を適用する動機付けがあるとは認められない。

したがって、引用発明に刊行物2の技術事項を適用することは、当業者が容易に想到することができたとはいえないから、上記相違点に係る本願発明1の構成を導き出し得たとはいえない。

ウ 小括
以上から、本願発明1は、当業者が引用発明及び刊行物2の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
本願は、明細書、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号又は同項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)当審拒絶理由1
ア 請求項1ないし3の「所定のブレーキ作動」の概念が広範囲のため、どのようなブレーキ作動を対象とするのか不明瞭である。

イ 請求項1の「少なくとも2つのアクチュエータ(2)がそれぞれゼロではない異なる力を加える」との事項によれば、複数の電気機械アクチュエータ(4)のうち「少なくとも2つのアクチュエータ(2)」以外のアクチュエータ(2)の力がゼロである場合を含むから、発明の詳細な説明と整合しない。

ウ 請求項1の「前記アクチュエータ(4)同士の間の前記配分が、予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動の後に修正される」との記載は、発明の詳細な説明の段落【0019】の記載と整合しない。

(2)当審拒絶理由2
ア 請求項1の「合計のブレーキ力」及び請求項2の「合計の力」との文言は、請求項1の「合計の必要とされた押圧力」との違いが明確でない。

イ 請求項1の「目標値に少なくとも達したときに」「予め決められた分担を実行」するとの事項からみて、目標値に達する以前は予め決められた分担とは異なる分担を実行することが含まれるが、そのような態様は明細書(段落【0015】)や図面(図2(b))に開示されているとはいえない。明細書(段落【0015】)や図面(図2(b))には、目標値に達したときに「現れた振動が非常に小さい」(段落【0015】)ことである。
また、請求項1の「前記配分が」「ブレーキ作動の後に修正される」との記載からみて、ブレーキ作動後には修正されており、このこととの整合も不明確である。

2 当審拒絶理由の判断
(1)当審拒絶理由1について
ア 補正により、請求項1に「前記ブレーキに与えられたトルクが合計の必要とされた押圧力に対応する目標値に達したとき」が追加されたので、ブレーキ作動が「前記ブレーキに与えられたトルクが合計の必要とされた押圧力に対応する目標値に達したとき」のものであることが明確となった。

イ 請求項1が「前記複数の電気機械アクチュエータ(2)がそれぞれゼロではない異なる力を加える」と補正されたので、発明の詳細な説明と整合することになった。

ウ 段落【0019】が「予め決められたまたはランダムな回数のブレーキ作動後予め決められたように、アクチュエータ4同士の間でブレーキ制御の不均等配分を変更する」と補正されたので、発明の詳細な説明と整合することになった。


(2)当審拒絶理由2について
ア 補正により、請求項1及び2において「押圧力」に統一されたので、明確となった。

イ 補正により、請求項1が「ブレーキに与えられたトルクが合計の必要とされた押圧力に対応する目標値に達したときに、前記ブレーキ作動のために、各電気機械アクチュエータ(4)が、前記合計の押圧力になるように予め決められた分担を実行し」と補正されたので、発明の詳細な説明と整合することになった。

3 まとめ
よって、当審拒絶理由1及び2は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2013-227111(P2013-227111)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B64C)
P 1 8・ 121- WY (B64C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 黒田 暁子  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 内田 博之
冨岡 和人
発明の名称 振動を減少させるための電気機械式の制動方法  
代理人 青木 篤  
代理人 篠田 拓也  
代理人 三橋 庸良  
代理人 三橋 真二  
代理人 島田 哲郎  
代理人 伊藤 公一  

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