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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01H
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G01H
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G01H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01H
管理番号 1325242
審判番号 不服2015-9686  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-26 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2010-121503「ロータダイナミックシステムの横振動、角振動およびねじり振動監視」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月24日出願公開、特開2010-286483、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年5月27日(パリ条約による優先権主張 平成21年6月6日 米国、平成21年12月17日 米国)の出願であって、平成26年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年1月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後当審において平成28年2月26日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年5月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、当審において同年8月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年11月11日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、さらに、当審において平成29年1月10日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由3」という。)が通知され、同年1月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1及び2に係る発明は、平成29年1月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものと認められる。
そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、分説してA)からG)の符号を付けると、以下の事項により特定される発明である。

【請求項1】
A) 横振動と、回転要素(52)を有するロータダイナミックシステムに関連した角振動との両方を測定するための方法であって、
B) 前記回転要素(52)上の単一の位相基準マーク(24)が回転して、検出装置に関連した検出ゾーンを通るときに、前記位相基準マーク(24)の通過を検出するステップと、
C) 前記位相基準マーク(24)と区別可能な回転要素(52)上の複数の追加マーク(32)が回転して前記検出ゾーンを通るときに、前記追加マーク(32)の通過を検出するステップと、
D) 前記位相基準マーク(24)の前記検出に基づき位相基準信号(34)を発生し、前記位相基準信号(34)を使用して前記横振動の位相を測定するステップと、
E) 前記追加マーク(32)の前記検出に基づき振動基準信号(38)を発生し、前記振動基準信号(38)を使用して前記角振動を測定するステップと、
F) 測定された前記角振動の振幅部に補正係数を適用して、測定された前記角振動の振幅を補正するステップと、
を含み、
G) 前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められる、
方法。

第3 原査定の理由の概要

本願発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・引用例1:特開2008-082879号公報
・引用例2:特開2006-126185号公報
・引用例3:特許第2911664号公報
・引用例4:実願昭61-057459号(実開昭62-170518号)のマイクロフィルム
要すれば、本願発明は、上記引用例1に記載された発明に、上記引用例2ないし4に記載された技術を採用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 当審による拒絶理由の概要

1 当審拒絶理由1の概要

(理由1)
本願は、発明の詳細な説明が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


・請求項4、5、10、11について
請求項4に係る発明は、「前記計算された角振動(38)の振幅を補正するステップをさらに含む」というものであり、また、請求項5に係る発明は、「測定された振幅に、補正関数を掛けるステップをさらに含み、前記補正関数がシミュレーション結果に基づいて求められる」というものであるが、本願の発明の詳細な説明には、前記「シミュレーション」がどのようなものであったのか、何ら具体的な記載がなく、また、前記「補正関数」がどのようなものであるのかについても、何ら例示がなされていないことから、追加の検討が必要であることは明らかであり、当業者に過度な試行錯誤を強いるものである
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項4に係る発明、及び、請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
請求項10に係る発明、及び、請求項11に係る発明についても同様である。

(理由2)
本願発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項1?3、6?9について
・引用例A:特開昭60-97222号公報
・引用例B:特開2008-82879号公報
要すれば、請求項1?3、6?9に係る発明は、上記引用例Aに記載された発明に、上記引用例Bに記載された技術を採用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 当審拒絶理由2の概要

(理由1)
平成28年5月26日付けでした手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


本件補正により、補正後の請求項1には「・・・補正係数を適用して、」の記載、及び、「前記補正係数は、既知の周波数および振幅・・」の記載が付加された。しかしながら、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面には、「補正係数」という記載、及び、「既知の」という記載は存在しない。
同様のことは、補正後の請求項3の記載における「・・・補正係数を適用して、」の記載、及び、「前記補正係数は、既知の周波数および振幅・・」の記載の付加についてもいえる。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(理由2)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(1) 請求項1において、「測定された前記核振動の振幅を補正するステップと、」との記載が存在するが、「核振動」が何か不明である。
請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明についても同様である。
よって、請求項1及び請求項2に係る発明は明確でない。

(2) 請求項3に係る発明の発明特定事項において、「前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められる、」とあるが、いわゆるプロダクトバイプロセスにより補正係数を特定しようとするものであり、不明確である。そして、上記の記載によって、「補正係数」がどのような特徴を有するものであるのか不明である。
請求項3の記載を引用する請求項4ないし6に係る発明についても同様である。
よって、請求項3ないし6に係る発明は明確でない。

(理由3)
本願発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項3?6について
・引用例A:特開昭60-97222号公報
・引用例B:特開2008-82879号公報
要すれば、請求項3?6に係る発明は、上記引用例Aに記載された発明に、上記引用例Bに記載された技術を採用して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 当審拒絶理由3の概要

本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1において、「測定された前記核振動の振幅を補正するステップと、」との記載が存在するが、「核振動」が何か不明である。
請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明についても同様である。
よって、請求項1及び請求項2に係る発明は明確でない。

第5 当審の判断

1 進歩性について

原査定の主引用例である引用例1に記載されている発明よりも、当審拒絶理由1の(理由2)及び当審拒絶理由2の(理由3)で提示した引用例Aに記載されている発明の方が、本願発明により近い技術であるといえることから、本願発明の進歩性について、当審拒絶理由1の(理由2)から判断することとする。

(1) 当審拒絶理由1の(理由2)について

ア 引用例に記載された事項

(ア) 引用例A
引用例Aには、以下の記載がある(下線は当審において付与。以下同じ。)。
(引A-1) 第1頁左下欄第5行-第14行
「(1) 回転子の回転速度と軸振動変位と位相角とを検出するセンサ、前記センサの回転出力信号と軸振動変位出力信号とを設定された回転速度と軸変位レベルとのパラメータ信号と比較する速度-振動レベル演算器、及び前記センサの回転出力信号と軸変動変位出力信号と位相角出力信号とにより位相角を計測する偏心-振動位相角計測器を備え、低速回転域での軸偏心と高速回転域での軸振動と位相角とを監視するようにしたことを特徴とする振動監視装置。」

(引A-2) 第1頁右下欄第9行-第14行
「〔発明の技術分野〕
この発明は振動監視装置に関するものであり、例えばタービン,ポンプ,ブロワ,コンプレッサ,発電機,モータ等の回転機械の振動を検出し、この振動を監視したり、警報を出す振動監視装置に関するものである。」

(引A-3) 第3頁左上欄第9行-第18行
「〔発明の概要〕
この発明は上記のような従来のものの欠点を除去するためになされたもので、偏心センサ(6)と振動センサ(10)とを回転センサで共用させ、回転数信号と軸変位信号とを処理演算して、回転速度と軸変位をパターン化し、全ての回転数域で振動と位相角の監視を行えるようにすると共に、偏心レベル信号の低下によりターニング運転の完了を検知して、出力信号を出力するようにした振動監視装置を提供することを目的としている。」

(引A-4) 第3頁右上欄第1行-第14行
「第4図はこの発明に係る振動監視装置の一実施例を示すブロック線図である。図中第1図と同一部分には同一符号を付している。第4図において、回転マーク(14)は歯車(2)の一部の溝を他より深くして位置符号としたものである。回転数検出用整形器(15)は回転数センサ(3)で検出した歯車(2)の凹凸変位信号を矩形波のパルス信号に波形整形するものである。回転数検出器(16)は回転数検出用波形整形器(15)のパルス出力を計数して、回転子(1)の回転数を検出するものである。振動検出器(17)は回転数検出用波形整形器(15)からのパルス信号に同期させて、回転数センサ(3)からの凹凸変位信号の凸部の変位信号のみを入力して、軸振動レベル信号を検知するようにしたものである。」

(引A-5) 第4図




(引A-6) 第4頁左下欄第1行-第17行
「次に位相角検出について説明する。回転マーク(14)から得られた第6図(c)に示す位置検出用波形整形器(28)の振動位相角の基準信号と、歯車(2)の凹凸変位と合った第6図(b)に示す回転数検出用波形整形器(15)のパルス信号と、歯車(2)と回転数センサ(3)との間隔に応じた出力の第6図(d)に示す振動検出器(17)の振動レベル信号とを、偏心-振動位相角計測器(29)に入力する。偏心-振動位相角計測器(29)では、第6図(c)に示す位置検出用波形整形器(28)の振動位相角の基準信号が、回転マーク(14)が一回転する毎に、即ち360度毎に入力されることにより、第6図(b)に示す回転数検出用波形整形器(15)のパルス信号に位相角を与える。この位相角が与えられたパルス信号と第6図(d)に示す振動検出器(17)の振動レベルとを重畳して、振動レベルの最高のものを検出し、その位相角を位相角表示器(30)に表示させる。」

(引A-7) 第6図




(引A-8) 上記(引A-4)の第4図を参照すると、歯車(2)は回転子(1)に直結され、回転子(1)と共に回転するものであり、歯車(2)は凹凸を有し、また、歯車(2)の凹凸を検出する回転数センサ(3)を有する点が記載されている。

(引A-9) 上記(引A-1)ないし(引A-7)の摘記事項を含む引用例A全体の記載を総合し、分説してa)ないしj)の符号を付与し、方法の発明として整理すると、引用例Aには、

「a) 回転機械の振動を検出し、軸振動と位相角とを監視する方法であって、
b) 回転数信号と軸変位信号とを処理演算して、回転速度と軸変位をパターン化し、全ての回転数域で振動と位相角の監視を行えるようにするものであり、
c) 回転子(1)に直結され、回転子(1)と共に回転する、凹凸を有する歯車(2)と、
d) 歯車(2)の凹凸を検出する回転数センサ(3)とを有し、
e) 歯車(2)は、一部の溝を他より深くして位置符号とした回転マーク(14)を有し、
f) 回転数センサ(3)で検出した歯車(2)の凹凸変位信号を矩形波のパルス信号に波形整形する回転数検出用波形整形器(15)と、
g) 回転数検出器(16)は回転数検出用波形整形器(15)のパルス出力を計数して、回転子(1)の回転数を検出する回転数検出器(16)と、
h) 回転数検出用波形整形器(15)からのパルス信号に同期させて、回転数センサ(3)からの凹凸変位信号の凸部の変位信号のみを入力して、軸振動レベル信号を検知するようにした振動検出器(17)を有し、
i) 回転マーク(14)から得られた振動位相角の基準信号と、歯車(2)の凹凸変位と合ったパルス信号と、歯車(2)と回転数センサ(3)との間隔に応じた出力の振動検出器(17)の振動レベル信号より、振動位相角の基準信号が、回転マーク(14)が一回転する毎に、即ち360度毎に入力されることにより、パルス信号に位相角を与え、
j) この位相角が与えられたパルス信号と振動検出器(17)の振動レベルとを重畳して、振動レベルの最高のものを検出し、その位相角を位相角表示器(30)に表示する
方法。」
の発明(以下、「引用発明A」という。)が開示されていると認められる。

(イ) 引用例B
引用例Bには、以下の記載がある。

(引B-1)
「【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大型火力タービン、発電機ユニット等の回転軸のねじり角変位変動を測定するのに用いられるねじり振動測定装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のねじり振動測定装置としては、非接触型のセンサを用いて回転軸等の回転体のねじり振動を測定するものが各種提案されている・・・。
【0003】
ところで、このようなねじり振動測定装置は、回転軸のねじり振動変位を測定する場合、被検出部として、例えば鋼材等の磁性体で形成した歯車を回転軸に嵌着して配し、この歯車の歯先に対して周知の電磁ピックアップ等の検出器が対向配置される。この検出器は、回転軸が回転駆動されると、その回転に伴い歯車の歯先が順に対向されて、その凹凸に伴う距離の差に応じた誘導電流を発生し、電流の増減を繰り返す電気信号を検出信号波形として出力する。
この検出信号波形は、例えば図17に示すように回転軸の回転速度と歯車の凹凸の間隔に基づく周期(Ti)をもち、その凹凸のわずかな形状の差異に応じた周期差を持つ。この周期(Ti)は、連続して順に算出される。
【0004】
例えば1回転分等の一定個数周期(Ti)を加重平均して基準周期(T)として求める。ねじり振動は、発生すると、ねじりの周期が含まれて周期(Ti)と違った周期(ti)が計測される。
【0005】
その他、測定したい状態における検出信号波形の周期(ti)と基準周期(T)と、例えば別の検出器で検出した回転軸の1回転の周期(TN)として、ねじり角変位変動(Δθi)、すなわちねじり振動を求める回転角変位変動が
ねじり角変位(Δθi)=(検出信号波形の周期(ti)-基準周期(T))/1回転の周期(TN)×360°
の式に基づいて算出される。
【0006】
また、基準パルス発生器を備えて、図18に示すように検出信号波形の周期(ti)の平均から基準周期(T)を算出するのでなく、歯車の歯数に対応する一定周期(Tp)の基準周期信号を発生させ、これを基準周期として、この基準周期(Tp)と検出信号波形の周期(ti)とに基づいて回転角変位変動(Δθi)を算出する方法がある。
即ち、いずれも検出信号波形の基準周期(T)、あるいは一定周期(Tp)と、検出信号波形の周期(ti)とに基づいてねじり角変位変動が算出されている。」

(引B-2) 「図17」




(引B-3) 「図18」




(引B-4) 上記摘記事項(引B-1)ないし(引B-3)より、引用例Bには、以下の技術が記載されていると認められる。
「歯車を回転軸に嵌着して配し、この歯車の歯先に対して対向配置される検出器により、
回転軸が回転駆動されると、その回転に伴い凹凸に伴う回転軸の回転速度と歯車の凹凸の間隔に基づく周期(Ti)の検出信号波形が出力され、
ねじり振動が発生すると、ねじりの周期が含まれて周期(Ti)と違った周期(ti)が計測されることによって回転軸のねじり角変位変動を測定する技術。」

イ 対比

請求項1に係る発明と、引用発明Aを対比する。

(ア) 本願発明のA)の特定事項について
(a) 引用発明Aの「軸振動」は、「軸変位」をもたらすものであるから、本願発明の「横振動」に相当する。
(b) よって、引用発明Aの「回転機械の振動を検出し、軸振動と位相角とを監視する方法」は、本願発明の「横振動」「を測定するための方法」に相当する。

(イ) 本願発明のB)及びC)の特定事項について
(a) 引用発明Aの「回転子(1)に直結され、回転子(1)と共に回転する、凹凸を有する歯車(2)」は、回転するものであるから、本願発明の「回転要素(52)」に相当する。
(b) 引用発明Aの「歯車(2)」は「凹凸を有する」ものである。そして、「歯車(2)の凹凸」は、「回転数センサ(3)」により「検出」されるものであり、さらに、「歯車(2)は、一部の溝を他より深くして位置符号とした回転マーク(14)を有」するものである。したがって、引用発明Aの「回転数センサ(3)」は、本願発明の「検出装置」に相当し、引用発明Aの「歯車(2)」の「回転マーク(14)」は、本願発明の「回転要素(52)上の」「位相基準マーク(24)」に相当する。
(c) 引用発明Aは、「歯車(2)の凹凸」を「回転数センサ(3)」で検出していることから、前記「歯車(2)」と「回転数センサ(3)」とが「対向する部位」を備えていることは明らかである。そして、当該「対向する部位」は、本願発明の「検出装置に関連した検出ゾーン」に相当する。
(d) 引用発明Aにおいて「回転マーク(14)」は「凹凸」の一部であることから、「回転マーク(14)」も「回転数センサ(3)」で検出され、また、前記「回転マーク(14)」は当該「対向する部位」を通るときに「回転数センサ(3)」により検出されることも、当業者にとって明らかである。
(e) よって、上記(a)?(d)より、引用発明Aの「回転子(1)に直結され、回転子(1)と共に回転する」「歯車(2)」の「回転マーク(14)」が、前記「歯車(2)」と「回転数センサ(3)」とが「対向する部位」を通るときに、前記「回転数センサ(3)」により検出されることは、本願発明の「前記回転要素(52)上の単一の位相基準マーク(24)が回転して、検出装置に関連した検出ゾーンを通るときに、前記位相基準マークの通過を検出するステップ」に相当する。
(f) また、引用発明Aにおける「歯車(2)の凹凸」のうち、「溝を他より深く」された「回転マーク(14)」以外のものは、溝の深さによって「回転マーク(14)」とは区別可能であり、「歯車(2)」に複数存在することは明らかである。よって、引用発明Aにおける「歯車(2)の凹凸」のうち、「溝を他より深く」された「回転マーク(14)」以外のものは、本願発明の「前記位相基準マーク(24)と区別可能な回転要素(52)上の複数の追加マーク(32)」に相当する。
(g) よって、上記(a)?(f)に照らし、引用発明Aの「回転マーク(14)」以外の「歯車(2)の凹凸」が、前記「歯車(2)」と「回転数センサ(3)」とが「対向する部位」を通るときに前記「凹凸」が「回転センサ(3)」により検出されることは、本願発明の「前記位相基準マーク(24)と区別可能な回転要素(52)上の複数の追加マーク(32)が回転して前記検出ゾーンを通るときに、前記追加マーク(32)の通過を検出するステップ」に相当する。

(ウ) 本願発明のD)の特定事項について
(a) 引用発明Aの「回転マーク(14)から得られた振動位相角の基準信号」は、本願発明の「位相基準マーク(24)の前記検出に基づ」く「位相基準信号(34)」に相当する。
(b) 引用発明Aは、「回転マーク(14)から得られた振動位相角の基準信号と、歯車(2)の凹凸変位と合ったパルス信号と、歯車(2)と回転数センサ(3)との間隔に応じた出力の振動検出器(17)の振動レベル信号」より、「振動レベルの最高のものを検出し、その位相角を位相角表示器(30)に表示する」ものである。そして、ここにおける「振動レベルの最高のもの」の「位相角」は、「軸振動」の「位相角」であるといえ、それは、「回転マーク(14)から得られた振動位相角の基準信号」を使用して求めているといえる。よって、引用発明Aの「回転マーク(14)から得られた振動位相角の基準信号」より「振動レベルの最高のものを検出し、その位相角」を求めることは、本願発明の「前記位相基準マーク(24)の前記検出に基づき位相基準信号(34)を発生し、前記位相基準信号(34)を使用して前記横振動の位相を測定するステップ」に相当する。

(エ) 本願発明のE)ないしG)の特定事項について
引用発明Aは、本願発明のE)ないしG)の特定事項を具備していない。

よって、本願発明と引用発明Aとは、以下の点で一致する。
<一致点>
「横振動を測定するための方法であって、
回転要素上の単一の位相基準マークが回転して、検出装置に関連した検出ゾーンを通るときに、前記位相基準マークの通過を検出するステップと、
前記位相基準マークと区別可能な回転要素上の複数の追加マークが回転して前記検出ゾーンを通るときに、前記追加マークの通過を検出するステップと、
前記位相基準マークの前記検出に基づき位相基準信号を発生し、前記位相基準信号を使用して前記横振動の位相を測定するステップとを含む、
方法。」

そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A>
本願発明は、横振動と、回転要素(52)を有するロータダイナミックシステムに関連した角振動との両方を測定するための方法であり、追加マーク(32)の検出に基づき振動基準信号(38)を発生し、前記振動基準信号(38)を使用して前記角振動を測定するステップと、測定された前記角振動の振幅部に補正係数を適用して、測定された前記角振動の振幅を補正するステップと、を含み、前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められるものであるのに対して、引用発明Aは、横振動は測定するものの、角振動の測定は行っていない点。

ウ 判断

上記相違点Aについて以下に検討する。
引用例Bには、上記「ア 引用例に記載された事項」「(イ) 引用例B」「(引B-4)」に記載された技術(以下、「引用例B記載技術」という。)が記載されており、引用例B記載技術における「凹凸」、「検出信号」、及び、「ねじり振動」は、それぞれ、本願発明における「追加マーク(32)」、「振動基準信号(38)」、及び、「角振動」に相当するから、引用例Bには、追加マークの検出に基づき振動基準信号を発生し、前記振動基準信号を使用して前記角振動を測定する点についての記載は存在する。
しかしながら、測定された角振動の振幅部に補正係数を適用して、測定された前記角振動の振幅を補正するステップを含み、前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められるものである点については、何ら記載されていない。

してみると、引用例Bには、上記相違点Aに係る構成が記載も示唆もされていない。
したがって、引用例A及びBに、接した当業者といえども、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項を想起することができない。

また、請求項2に係る発明は、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用例A及びBに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 小括

よって、請求項1に係る発明、及び、請求項2に係る発明は、引用例A、及び、引用例Bに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、当審拒絶理由1の(理由2)によっては、本願を拒絶することができない。

(2) 原査定の理由について

ア 引用例に記載された事項

(ア) 引用例1
引用例1は、上記引用例Bに相当し、上記「(1) 当審拒絶理由1の(理由2)について」「ア 引用例に記載された事項」「(イ) 引用例B」に摘記した事項が記載されている。
(イ) 引用例2
引用例2には、軸のまわりを回転するように構成された回転子を含む回転機械において、角位置及び半径方向位置を決定する技術が記載されている(段落【0001】、【0009】-【0014】参照。)。
(ウ) 引用例3
引用例3には、工作機械等の主軸の回転変位やラジアル変位等の変位を同時に検出する技術が記載されている(段落【0001】、【0009】参照。)。
(エ) 引用例4
引用例4には、凹凸部を有する回転体において、他の凹凸部よりも溝の深さが深くなる部位を設け、角度信号に加えて基準位置信号を1つのセンサで得ることを可能とした技術が記載されている(明細書第5頁第1行-第8頁第16行、第1-3図参照。)。

イ 対比

本願発明と引用例1に記載された発明とは、少なくとも以下の相違点1において相違する。

<相違点1>
本願発明は、測定された角振動の振幅部に補正係数を適用して、測定された前記角振動の振幅を補正するステップを含み、前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められるものであるのに対して、引用例1に記載された発明は、そのような構成を有さない点。

ウ 判断

上記相違点1について検討する。
引用例1ないし引用例4のいずれにも、測定された角振動の振幅部に補正係数を適用して、測定された前記角振動の振幅を補正するステップを含み、前記補正係数は、既知の周波数および振幅を有する角振動を使用したシミュレーションにより求められるものである点については、記載も示唆もされておらず、また、上記相違点1に係る構成が、本願優先日前周知であることを示す証拠もない。

してみると、引用例1ないし4に接した当業者といえども、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を想起することができない。

よって、その余の相違点についての検討をするまでもなく、本願発明は、引用例1ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、請求項2に係る発明は、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用例1ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 小括

よって、請求項1に係る発明、及び、請求項2に係る発明は、引用例1ないし4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。

(3) 当審拒絶理由2の理由3について

平成28年11月11日付け誤訳訂正書による補正によって、補正前の請求項3ないし6の記載は削除された。
よって、当審拒絶理由2の理由3は解消した。

2 新規事項(当審拒絶理由2の理由1)について

平成28年11月11日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、補正後の請求項1における「・・・補正係数を適用して、」の記載、及び、「前記補正係数は、既知の周波数および振幅・・」の記載が本願の外国語書面に存在することが主張され、該外国語書面の記載に基づき、請求項1の記載が誤訳訂正された。
また、補正前の請求項3の記載は、上記誤訳訂正書による補正によって削除された。
よって、当審拒絶理由2の理由1は解消した。

3 記載不備について

(1) 当審拒絶理由1の理由1について

平成28年5月26日付け意見書において、請求人より、追加マークの検出に基づく角振動の測定は離散的な測定となり、振動のピークが測定点となるとは限らず、振動のピークに測定点がない場合には、振幅の測定値は実際の振幅よりも小さく見積もられることになることから、どの程度小さく見積もられるかは、既知の周波数・振幅の振動を入力して、測定された振幅と比較するシミュレーションにより予め把握することができ、このときの入力値と測定値との比を補正係数Cとして求め、実際の測定振幅値に適用することにより、振幅の補正を行うことができる旨が主張された。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとまではいえなくなり、当審拒絶理由1の理由1によっては、本願を拒絶することができない。

(2) 当審拒絶理由2の理由2(1)及び当審拒絶理由3について

平成29年1月20日付け手続補正書による補正によって、補正前の「核振動」の記載が「角振動」に補正された。
よって、補正後の請求項1に係る発明は明確になり、当審拒絶理由2の理由2(1)及び当審拒絶理由3は解消した。

(3) 当審拒絶理由2の理由2(2)について

平成28年11月11日付け誤訳訂正書による補正によって、補正前の請求項3ないし6の記載は削除された。
よって、当審拒絶理由2の理由3は解消した。

第6 むすび

以上のとおり、原査定、当審拒絶理由1、当審拒絶理由2、及び、当審拒絶理由3におけるいずれの拒絶理由によっても、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2010-121503(P2010-121503)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (G01H)
P 1 8・ 537- WY (G01H)
P 1 8・ 121- WY (G01H)
P 1 8・ 536- WY (G01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 亮
▲高▼橋 祐介
発明の名称 ロータダイナミックシステムの横振動、角振動およびねじり振動監視  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  

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