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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1325254
審判番号 不服2015-7177  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-16 
確定日 2017-02-15 
事件の表示 特願2011-532624「鉱質コルチコイドレセプターの活性化のバイオマーカー」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月29日国際公開、WO2010/046411、平成24年 3月15日国内公表、特表2012-506245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成21年10月21日(パリ条約による優先権主張 平成20年10月24日 欧州特許庁(EP),平成21年5月28日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成26年12月11付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成27年4月16日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年4月18日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年8月19日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年8月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
心血管疾患を患う患者から得られた生物学的試料中の、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルを決定すること、および
該一つまたは二つのバイオマーカータンパク質の発現レベルを一般集団または健康被験者から得られた予備決定されたしきい値と比較することであって、該患者における、NGAL遺伝子及びSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが該予備決定された値よりも高いとき、該患者は、レスポンダーであると予測される
を含む、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する該患者の反応性を予測するためのデータの提供方法。」

第2 平成28年4月18日付け拒絶理由
平成28年4月18日付け拒絶理由は、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという理由を含むものである。

第3 当審の判断
本願発明は、心血管疾患を患う患者の反応性を予測するためのデータの提供方法に関するものであり、本願の請求項9には、該方法で予備決定された(識別された)患者用の『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』が特定されていることから、「反応性を予測するための」とは、該方法で提供されるデータによって、心血管疾患を患う患者が『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』に対して反応性を有する(レスポンダーである)か否かを予測できることを特定するものであると認められる。
そこで、本願発明が発明の詳細な説明に記載されているといえるかどうかについて検討する。
まず、発明の詳細な説明には、心血管疾患を患う患者について、特定の2つのバイオマーカータンパク質の発現レベルデータを用いて、MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置に対する該患者の反応性を予測するためのデータの提供方法を実際に実施したことや、そのようにして提供されるデータによって、心血管疾患を患う患者がレスポンダーであるか否かを予測できたことは具体的には記載されていない。
次に、発明の詳細な説明の記載から、本願発明が実質的に記載されていると合理的に理解できるかどうかについて検討する。
本願発明は、「反応性」や「レスポンダーである」ことを予測するものであるから、発明の詳細な説明のこれらに関する記載について検討する。
発明の詳細な説明には、
「【0009】
さらに、患者におけるMRアンタゴニストの投与は、高カリウム血症などの重篤な有害副作用を併発するおそれがある。実際に、RALES試験の公表後に、重篤な高カリウム血症の報告がいくつもあった。そのような一報告で、緊急治療室で処置しなければならなかったスピロノラクトン関連高カリウム血症の患者のエピソードが25件以上記載された(Schepkens H. et al. 2001)。25人の患者のうち4人は、心血管蘇生術を必要とし、25人の患者のうち2人は死亡した。臨床的に有意な高カリウム血症の発生率がこのMRアンタゴニストを投与されている患者の約10%にのぼることを、数人の著者が評価している。
【0010】
したがって、そのような処置の有害副作用を予防または限定するために、MRアンタゴニストを用いた処置に対する心不全の患者の反応性を予測するための正確かつ特異的な方法を開発する目下の必要性も、当技術分野において存在する。」、および、
「【0025】
MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いた処置への「レスポンダー」または処置に「反応性の」患者または患者群は、それぞれMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤を用いて処置した場合に、心血管疾患に臨床的に有意な軽減を示すかまたは示すであろう患者または患者群を表す。本発明の方法によると、患者における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現が、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値と有意に異なるならば、その患者は処置へのレスポンダーとして分類される。好ましくは、患者における好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)遺伝子およびSERPINA3遺伝子から成る群より選択される一つまたは二つのバイオマーカーの発現レベルが、一般集団または健康被験者から得られた予備決定値よりも高いならば、その患者はレスポンダーである。」と記載されている。
上記の記載から、「反応性」とは、『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』処置に対する患者の臨床的な有効性であり、「レスポンダーである」とは、『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』を用いた処置に対して、患者が高い「反応性」を示すことであると認められる。
そして、該処置に高い反応性を示す(レスポンダーである)患者と低い反応性を示す(レスポンダーでない)患者とを予測して、両者を識別できれば、高い反応性を示す(レスポンダーである)患者のみを『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』を用いて治療する一方、低い反応性を示す(レスポンダーでない)患者には『RMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』を用いた処置を行わないか、あるいは『RMRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』の使用を減らすなどして、低い反応性を示す(レスポンダーでない)患者において、『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』の処置により心血管疾患が有意に軽減されないばかりか有害な副作用を引き起こしてしまうような事態を予防できることが理解され、このような有害な副作用を予防できることは、本願発明のめざす効果であると認められる。
なお、審判請求人も、平成26年6月10日付け意見書において「本発明の解決課題は、患者にとって全く有益ではないたくさんの治療を避け、その治療が有益である患者のみをMRアンタゴニストで治療することを可能にするバイオマーカーを提供することである。」、平成27年6月4日付け手続補正書により補正された審判請求書において「本発明は、MRアンタゴニスト又はアルドステロンシンターゼ阻害剤での処置によって恩恵を受けそうな患者のみを処置し、それによって、良好なレスポンダーにはならない患者における無用かつおそらくは有害な処置を避けるという意味での個別化医療を可能にするという、格別の効果を奏するのである。」と主張している。
ところで、本願発明で提供されるデータによって、心血管疾患を患う患者がレスポンダーである否かを予測できる(識別できる)ためには、心血管疾患の患者の中に、『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』を用いた処置に対して高い反応性を示す(レスポンダーである)患者と低い反応性を示す(レスポンダーでない)患者の両者が存在することが前提となる。そして、本願発明はこの前提のもと、特定の2つのバイオマーカーで両者が識別できることを特定していると認められる。しかし、上記以外の記載をみても、発明の詳細な説明には上記の前提に関して記載されているとは認められず、また、上記の前提が技術常識であるとも認められない。
さらに、発明の詳細な説明の実施例および図面の記載をみても、以下のとおり、上記の前提や両者を識別できることを理解することはできない。
すなわち、実施例1?3および図面には、ヒトMRトランスジェニックマウス(DT)の心臓や大動脈内皮で、NGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子が過剰発現されること(図1AB、図2、図3A?D、図7)、ラットMR発現ラット心筋細胞(H9C2)にアルドステロンやコルチコステロンを投与するとNGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子が強く発現されるが、MRアンタゴニスト(RU28318)によってこれらの発現が抑制されること(図4AB、図8、図9AB)、II型糖尿病マウスモデルの血漿ではNGAL遺伝子が過剰発現されるがMRアンタゴニスト(カンレノ酸塩)によって発現が抑制されること(図5AB)、心不全ラットモデル(HF)の心臓ではNGAL遺伝子が過剰発現されるがMRアンタゴニスト(スピロノラクトン)によって抑制されること(図10)、健康被験者のNGALの血漿中濃度に比べて心血管疾患患者のNGALの血漿中濃度が高いことなどが記載されていると認められる。
そして、上記実施例および図面の記載から、MRの発現とNGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子の発現に関係があること、心血管疾患とNGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子の発現に関係があること、心血管疾患の治療薬として従来から用いられているMRアンタゴニストによってNGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子の過剰発現が抑制されることなどは理解されるが、心血管疾患患者におけるNGAL遺伝子やSERPINA3遺伝子の発現の違いがMRアンタゴニストによる治療効果と関係があるなどの技術常識は存在しないから、これらの記載から、心血管疾患の患者の中に『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』を用いた処置に対して高い反応性を示す(レスポンダーである)患者と低い反応性を示す(レスポンダーでない)患者とが存在するという前提も、両者を識別できることも理解することはできない。
したがって、発明の詳細な説明に本願発明が実質的に記載されていると合理的に理解することはできず、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない

第4 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成28年8月19日付け意見書において、概ね以下の点を主張をしている。
1.『患者の反応性』とは、心血管疾患の患者の中に“MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤”に対して特異的に治療効果を示す患者と示さない患者(異なる「反応性」を有する患者)がいることを前提とし、そのような患者の識別について示すことや予測することを意味する。

2.先行技術文献であるWang et al.は、心血管疾患患者の全てが同レベルのNGAL/リポカリン2を発現しているわけではないことを示している。たとえば、Wang et al.の表3は、NGAL/リポカリン2の血清レベルが痩せた患者と比べて肥満患者において有意に高いことを示している(全てが心血管疾患患者である。)。
このように、その一部が高レベルのNGALを発現しており、他方が低レベルのNGALを発現している、心血管疾患患者の亜集団の存在が示されている。

3.本願明細書の段落0009には、患者の亜集団における悪い副作用の存在もまた示されている。

主張1について
上記第3 で述べたとおり、心血管疾患の患者がレスポンダーであるか否かを予測できるためには、審判請求人のいう「前提」が必要であるが、心血管疾患の患者の中に“MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤”に対して反応性(臨床的に有意な軽減)を示す患者と示さない患者がいることは、発明の詳細な説明に記載されておらず、また、そのようなことが技術常識であるとも認められないから、審判請求人のいう「前提」をおくことができる根拠はない。

主張2について
Wang et al.の文献は、高レベルのNGALを発現する「患者の亜集団」と低レベルのNGALを発現する他の「患者の亜集団」が存在することを示しているに過ぎない。該文献には、異なる「患者の亜集団」の間で、『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』に対して有効性に差異があること、つまり、心血管疾患の患者の中に『MRアンタゴニストまたはアルドステロンシンターゼ阻害剤』に対してレスポンダー患者とレスポンダーでない患者が存在することは記載されていない。

主張3について
本願明細書の段落【0009】には、MRアンタゴニストの投与には副作用があることが記載されているに過ぎず、患者の亜集団、すなわち、レスポンダー患者とレスポンダーでない患者とを識別した上で、それぞれの副作用について記載されている訳ではない。

したがって、審判請求人の主張は、採用することができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてないので、本願は、その余の理由について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-06 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-29 
出願番号 特願2011-532624(P2011-532624)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 山崎 利直
長井 啓子
発明の名称 鉱質コルチコイドレセプターの活性化のバイオマーカー  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  

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