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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1325270
審判番号 不服2016-3989  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-15 
確定日 2017-02-15 
事件の表示 特願2011- 32414「スピーカーシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月10日出願公開、特開2012-175179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年2月17日の出願であって、平成26年9月3日付けで拒絶理由が通知され、同年11月10日付けで手続補正がなされたのに対して、平成27年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年6月22日付けで手続補正がなされたが、当該手続補正について同年12月8日付けで手続補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年3月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年11月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
カラオケ装置等の音響装置として提供される1個単位のスピーカーシステムであって、このスピーカーシステム内に、音声信号として入力される一対の入力端子に対して並列に接続された複数のスピーカーユニットと、
前記複数のスピーカーユニットの何れかの故障を検出すると、故障を示す表示を行い、前記入力端子及び前記スピーカーユニットと並列に接続された故障表示回路と、
を具備することを特徴とするスピーカーシステム。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平9-307988号公報(平成9年11月28日公開、以下、「引用例」という。)には、「スピーカ装置及びスピーカ断線検査装置」に関して図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「 【0043】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)本発明の第1実施形態におけるスピーカ装置とスピーカ断線検査装置について図1、図2、図3を用いて説明する。図1は本実施形態のスピーカ装置とスピーカ断線検査装置の構成を示す接続図である。従来例と同様に建物又は特定の地域に複数のスピーカ1a,1b,1c・・・1nが設置されているとする。そして管理部門に放送用のアンプ2が設けられ、アンプ2から送信線3を介して音声信号が各スピーカ1a?1nに一斉に出力されるようになっている。
【0044】
音声信号を増幅するアンプ2の出力側には、線路インピーダンスの影響を除くために第1のトランス4が設けられている。トランス4は1次側の信号電圧を昇圧してハイインピーダンスで音声信号を出力するものである。防災用のスピーカ装置は一般に広い範囲に渡って設けられることが多く、送信線3は必然的に長くなる。ローインピーダンス伝送では送信線の抵抗損失が多くなるので、第1のトランス4で信号を昇圧し、第2のトランス5で信号を降圧するようにしている。」
【0045】
トランス4の1次側はアンプ2の出力端に接続され、2次側はインピーダンス測定手段12aに接続されている。インピーダンス測定手段12aの一方の出力端には、例えば建物の各部屋又は通路の天井に配線された送信線3が接続される。又他方の出力端にはスピーカ判定手段12bを必要に応じて設ける。そして建物の各部屋に設置されたスピーカ1a?1nは第2のトランス5a?5nを介して夫々送信線3に接続される。以上のような構成のうち、インピーダンス測定手段12aとスピーカ判定手段12bとを除いたスピーカの接続網をスピーカ装置と呼ぶことにする。」

イ.「【0046】
本実施形態では従来例とは異なり、アンプ12の前段にミキシング回路11が設けられている。ミキシング回路11は音声信号又は検知用信号を入力して、これらを切り換えて出力するか、又は音声信号と検知用信号とを混合してアンプ2に出力するものである。この場合の検知用信号とは高い周波数の雑音が用いられる。」

ウ.「【0047】
図2はインピーダンス測定手段12aの概要を示す接続図である。本図においては、インピーダンス測定手段12aはフーリエアナライザー(以下、FFTと記す)13と、送信線3に挿入された電流検出用抵抗R1とから構成される。FET13にはAchの入力端子13aとBchの入力端子13bとが設けられ、これらの入力端子に入力された2チャンネルの信号の周波数分析を行うことができる。図示しないファンクション切換えにより、周波数分析を行う処理対象信号をA/Bにセットすると、インピーダンスの周波数特性の測定ができる。具体的には入力端子13aにトランス4の2次側の出力電圧を与え、入力端子13bに抵抗R1の端子間電圧を与える。ここで、前述したスピーカ装置にミキシング回路11及びインピーダンス測定手段12aを付加したシステムをスピーカ断線検査装置と呼ぶ。」

エ.「【0050】
FFT13において、入力端子13aには送信線3の線間電圧が入力され、入力端子13bには送信線3の電流値が抵抗R1を介して入力される。FFT13はAチャンネルの入力電圧をBチャンネルの入力電流で除算し、その除算結果をインピーダンスとして周波数分析を行う。FFT13は検査用信号の周波数帯域に応じた分析を行うことにより、負荷であるスピーカ1a?1nを含めた送信線3のインピーダンスの周波数特性を測定して表示又は記録する。そしてスピーカ判定手段12bは、FFT13の測定結果に基づいてスピーカ1の断線の有無を判定する。
【0051】
本実施形態ではインピーダンス測定手段12aとしてFFT13を用いたが、検査用信号に正弦波を用い、2台の電圧計を用いて送信線3の線間電圧と送信線3を電流を測定することによりインピーダンスを求めてもよい。又インピーダンスメーターを直接用いたりしてもよい。」

オ.「【0058】
図1に示すスピーカ断線検査装置において、スピーカが1つしかない場合は、以上のように断線、短絡(ショート)、正常の区別ができる。しかしn個のスピーカ装置が接続されている場合、短絡したスピーカがあるか否かと、又はその数はおおよその目安はつくが、断線したスピーカを特定することは難しい。いずれにしても本実施形態によれば、送信線3のインピーダンスを測定すれば何らかのスピーカの異常の有無を検出することができる。」

上記アないしオから、引用例には以下のことが記載されている。

・上記アによれば、音声信号を増幅するアンプ2の出力端に第1のトランス4の一次側が接続され、第1のトランス4の2次側にはインピーダンス測定手段が接続され、インピーダンス測定手段12aの一方の出力端には送信線3が接続され、他方の出力端にはスピーカ判定手段12bが接続されており、複数のスピーカ1a?1nが第2のトランス5を介して夫々送信線3に接続されているスピーカ断線検出装置であって、第1のトランス4で信号が昇圧され、第2のトランス5で信号が降圧され、アンプ2から送信線3を介して音声信号が複数のスピーカ1a?1nに一斉に出力されるものである。また、スピーカの接続網がスピーカ装置である。

・上記イによれば、音声信号をミキシング回路11に入力し検知用信号と混合してアンプ2に出力するスピーカ断線検査装置である。

・上記ウによれば、インピーダンス測定手段12aは、FFT13と、送信線3に挿入された電流検出用抵抗R1から構成されるものである。また、スピーカ装置にミキシング回路11及びインピーダンス測定手段12aを付加したシステムがスピーカ断線検査装置であり、上記アの段落【0045】の記載を参酌すれば、スピーカ判定手段12bを設けて良く、その場合にはスピーカ判定手段12bも含むものである。

・上記エによれば、FFT13により、複数のスピーカ1a?1nを含めた送信線3のインピーダンスの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいてスピーカ判定手段12bでスピーカの断線の有無を判定するスピーカ断線検査装置である。

・上記オによれば、送信線3のインピーダンスを測定することで、何らかのスピーカの異常の有無を検出できるスピーカ断線検査装置である。

以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「スピーカ装置、ミキシング回路11、インピーダンス測定手段12a、スピーカ判定手段12bからなるスピーカ断線検査装置であって、
音声信号をミキシング回路11に入力し検知用信号と混合してアンプ2に出力し、
アンプ2の出力端に第1のトランス4の一次側が接続され、第1のトランス4の2次側にはインピーダンス測定手段12aが接続され、インピーダンス測定手段12aの一方の出力端には送信線3が接続され、他方の出力端にはスピーカ判定手段12bが接続されており、複数のスピーカ1a?1nが第2のトランス5を介して夫々送信線3に接続され、
インピーダンス測定手段12aにより複数のスピーカ1a?1nを含めた送信線3のインピーダンスの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいてスピーカ判定手段12bで何らかのスピーカの異常の有無を検出するスピーカ断線検査装置」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「スピーカ装置」はスピーカを備えていることから、「音響装置」であることは明らかである。一方、本願発明は「カラオケ装置」以外にも様々な「音響装置」を含むものである。よって、引用発明の「スピーカ装置」は本願発明の「カラオケ装置等の音響装置」に相当する。
そして、引用発明の「スピーカ断線検査装置」は、スピーカ装置にミキシング回路11、インピーダンス測定手段12a及びスピーカ判定装置12bを付加した装置であって、1つのシステムといえるので、本願発明の「1個単位のスピーカーシステム」に相当する。
したがって、引用発明の「スピーカ装置、ミキシング回路11、インピーダンス測定手段12a、スピーカ判定手段12bからなるスピーカ断線検査装置」は、本願発明の「カラオケ装置等の音響装置として提供される1個単位のスピーカーシステム」に相当する。

b.引用発明の「ミキシング回路11に入力」される端子は、音声信号が2つの端子を用いて入力されていることから、本願発明の「音声信号として入力される一対の入力端子」に相当する。
そして、引用発明の「第2のトランス5を介して夫々送信線3に接続され」た「複数のスピーカ1a?1n」は、ミキシング回路11に音声信号が入力される端子と送信線3の間はアンプ2及び第1のトランス4を介し、また、送信線3と複数のスピーカ1a?1nの間は第2のトランス5を介しているが、音声信号を増幅、昇圧(降圧)しているにすぎず、音声信号が伝送される送信線3に第2のトランス5を介して複数のスピーカ1a?1nが夫々接続されていることを鑑みれば、音声信号の入力端子に対して並列に接続されているといえる。
したがって、引用発明の「音声信号をミキシング回路11に入力・・・(中略)・・・、複数のスピーカ1a?1nが・・・(中略)・・・夫々送信線3に接続され」る「複数のスピーカ1a?1n」は、本願発明の「音声信号として入力される一対の入力端子に対して並列に接続された複数のスピーカーユニット」に相当する。

c.引用発明の「インピーダンス測定手段12aにより複数のスピーカ1a?1nを含めた送信線3のインピーダンスの周波数特性を測定し、その測定結果に基づいてスピーカ判定手段12bで何らかのスピーカの異常の有無を検出する」ことは、「異常」が短絡、断線であることを鑑みれば、本願発明の「複数のスピーカーユニットのいずれかの故障を検出する」ことに相当する。
そして、引用発明の「インピーダンス測定手段12a」及び「スピーカ判定手段12b」は、音声信号が送信される送信線3からFFT13の入力端子へ配線を引き出して接続していることを考慮すれば、音声信号が入力されるミキシング回路11への入力端子、及び、送信線3に第2のトランス5を介して接続された複数のスピーカ1a?1nに対して並列に接続されているといえることから、本願発明の「複数のスピーカーユニットの何れかの故障を検出し、前記入力端子及び前記スピーカーユニットと並列に接続された回路」に相当する。
ただし、本願発明は、「故障を示す表示を行う故障表示」回路を備えるのに対して、引用発明は故障を示す表示を行うか否かは特定されていない。

そうすると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「カラオケ装置等の音響装置として提供される1個単位のスピーカーシステムであって、このスピーカーシステム内に、音声信号として入力される一対の入力端子に対して並列に接続された複数のスピーカーユニットと、
前記複数のスピーカーユニットの何れかの故障を検出し、前記入力端子及び前記スピーカーユニットと並列に接続された回路と、
を具備することを特徴とするスピーカーシステム。」

<相違点>
回路について、本願発明は、「複数のスピーカユニットの何れかの故障を検出すると、故障を示す表示を行」うものであるのに対して、引用発明において、「故障を示す表示」を行うことは特定されていない。

5.判断
上記相違点について検討する。
異常を検出した際にその旨の表示を行うことは、例えば、特開2007-37024号公報(段落【0018】、【0020】参照)、特開平10-136493号公報(段落【0041】参照)、国際公開第2009/087772号(段落【0027】、【0029】、【図4】参照)に記載されているように周知技術であり、異常を検出している引用発明の「スピーカ判定手段」に周知技術を採用し、相違点の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項により当業者が容易になし得たものである。
そして、本願発明の作用効果も引用発明及び周知の技術事項により当業者が予測できる範囲のものである。

なお、請求人は審判請求書において、「引用文献1(特開平9-307988号公報)に記載された発明は、建物又は特定の地域に分散して設置された複数のスピーカーの故障を遠隔で検知する技術であります。すなわち個々の部屋に設置されたスピーカーの音が出ていないかどうかが、遠隔で(例えば発信元で判断)発見できるというものであり、本発明の如くカラオケ装置のスピーカーシステム(スピーカーボックス)内の故障を検出するものとの用途が全く異なっております。
したがって、引用文献1の技術は、遠隔でどこかに設置されているスピーカーが故障しているかを発信元で検出できるものの、本願発明のように音が出ているスピーカーシステム(スピーカーボックス)についての故障を判断するというものではありません。 」と主張されている。
しかしながら、上記「4.対比 a」に記載したとおり、請求項1は「カラオケ装置」に限定されているものではなく(「カラオケ装置等の音響装置」である点に注目。)、カラオケ装置のスピーカシステム(スピーカーボックス)内の故障を検出するものとは特定されておらず、上記請求人が主張されるような用途、構成が請求項1には明確に記載されていない。
また、請求項1は「複数のスピーカユニットのいずれかの故障を検出」するものであって、「音が出ているスピーカシステム(スピーカボックス)についての故障を判断する」ものとまでは特定されておらず、上記請求人が主張されるような構成が請求項1には明確に記載されていない。
したがって、請求人の上記主張は認められない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-14 
結審通知日 2016-11-22 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2011-32414(P2011-32414)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 圭一郎千本 潤介北原 昂  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 安藤 一道
國分 直樹
発明の名称 スピーカーシステム  

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