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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1325301
審判番号 不服2016-7432  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-20 
確定日 2017-02-16 
事件の表示 特願2012-214466「情報コード読取システム及び情報コード読取装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月21日出願公開、特開2014- 71466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年9月27日を出願日とする出願であって,平成27年11月20日付けで拒絶理由通知され,平成28年1月28日に手続補正されたが,平成28年2月15日付けで拒絶査定され,平成28年5月20日に本件審判の請求と同時に手続補正(以下「本件補正」という。)されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

1 [補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

2 [理由]
(1) 本件補正の内容

本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。

ア <補正前>

「 光を透過する透明性のコード形成対象物を有すると共に、前記コード形成対象物の内部に情報コードが形成され、前記コード形成対象物に対して可視光が当てられているときに前記情報コードが表示されずに当該コード形成対象物が透明状態で維持され、前記コード形成対象物に対して可視光の波長帯とは異なる第1波長帯の照射光が当てられたときに所定色の可視光の波長帯で情報コードの像が生成される情報コード表示体と、
前記情報コード表示体に形成された前記情報コードを読み取る情報コード読取装置と、
を備え、
前記情報コード読取装置は、
前記第1波長帯の照明光を照射する照明光源と、
前記所定色の可視光の透過度合いが、前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなるように構成された波長選択フィルタと、
前記情報コード表示体に対して前記第1波長帯の照明光が照射されているときに、前記波長選択フィルタを透過した前記情報コードからの前記所定色の可視光を受光可能な受光センサと、
前記受光センサによる前記所定色の可視光の受光結果によって生成された撮像画像に基づいて当該撮像画像内の情報コードの解読を試みる解読手段と、
前記解読手段による解読結果に基づいて正規の情報コードが解読されたか否かを判定する判定手段と、
を有することを特徴とする情報コード読取システム。」

イ <補正後>

「 光を透過する透明性のコード形成対象物を有すると共に、前記コード形成対象物の内部に情報コードが形成され、前記コード形成対象物に対して可視光が当てられているときに前記情報コードが表示されずに当該コード形成対象物が透明状態で維持され、前記コード形成対象物に対して可視光の波長帯とは異なる第1波長帯の照射光が当てられたときに所定色の可視光の波長帯で情報コードの部分が発光する情報コード表示体と、
前記情報コード表示体に形成された前記情報コードを読み取る情報コード読取装置と、
を備え、
前記情報コード読取装置は、
前記第1波長帯の照明光を照射する照明光源と、
前記所定色の可視光の透過度合いが、前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなるように構成された波長選択フィルタと、
前記情報コード表示体に対して前記第1波長帯の照明光が照射されているときに、前記波長選択フィルタを透過した前記情報コードからの前記所定色の可視光を受光可能な受光センサと、
前記受光センサによる前記所定色の可視光の受光結果によって生成された撮像画像に基づいて当該撮像画像内の情報コードの解読を試みる解読手段と、
前記解読手段による解読結果に基づいて正規の情報コードが解読されたか否かを判定する判定手段と、
を有し、
前記照明光源は、前記受光センサを収容するケースとは別体の照明器具として構成されて、前記受光センサによる撮像範囲に対して前記第1波長帯の照明光を照射することを特徴とする情報コード読取システム。」

(2) 補正の目的

上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「情報コード表示体」について,「所定色の可視光の波長帯で情報コードの像が生成される」とあるのを,「所定色の可視光の波長帯で情報コードの部分が発光する」とし,単に情報コードが生成されるのではなく,それは発光によるものとする限定を付加するとともに,「照明光源」について,「前記受光センサを収容するケースとは別体の照明器具として構成されて、前記受光センサによる撮像範囲に対して前記第1波長帯の照明光を照射する」との限定を付加するものである。

上記補正は,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3) 引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,次の引用例1には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

引用例1:H.Kawashima他,"Invisible two-dimensional barcode fabrication inside a synthetic fused silica by femtosecond laser processing using a computer-generated hologram",Proc.of SPIE Vol. 7925,[online],平成23年1月25日,[検索日 平成27年11月19日],

(ア)1ページ20行目から25行目まで
「In this paper, we report an invisible marking method embedded into a synthetic fused silica by femtosecond laser deepdirect-writing (DDW) with a CGH with long-focal-depth (LFD-CGH8). When we illuminate the invisible marked area with a 254 nm ultraviolet light (UV), a strong red photoluminescence (PL) is observed, and we can evidently see it. The PL band peaking at 650 nm (1.9 eV) is appeared with the excitation wavelength, around 250 nm (4.8 eV). The PL band and PL excitation spectra are measured by means of a fluorescence spectrometer. Fig. 1 is an example of invisible marking embedded into a synthetic fused silica by the DDW with LFD-CGH.」

<上記記載の当審による訳>
「本論文では,長焦点深度のCGH(LFD-CGH8)を用いたフェムト秒レーザディープダイレクトライティング(DDW)による合成石英ガラスに埋め込まれた目に見えないマーキング方法を報告する。 目に見えないマーク部分に254nmの紫外光(UV)を照射すると,強い赤色の光ルミネッセンス(PL)が観測され,明らかに目で見ることができる。 650nm(1.9eV)でピーキングするPLバンドは,約250nm(4.8eV)の励起波長で現れる。 PLバンドおよびPL励起スペクトルは,蛍光分光計によって測定される。 図1は,LFD-CGHを有するDDWによって合成石英ガラスに埋め込まれた目に見えないマーキングの一例である。」

(イ)2ページ7行目から11行目まで
「As an application of invisible marking, we show an invisible two-dimensional (2D) barcode inside a synthetic fused silica. We can extract the 2D barcode information from the observed PL emission by using a complementary metal oxide semiconductor (CMOS) camera and image processing technology. The invisible 2D barcodes are useful for security tools of certification and anti-counterfeit, data storages with resistance to water, fire and electromagnetic interference, and photonic ID tags of glass wafers.」

<上記記載の当審による訳>
「目に見えないマーキングの応用として,合成石英ガラスの中に目に見えない二次元(2D)バーコードを示す。相補型金属酸化物半導体(CMOS)カメラおよび画像処理技術を用いて,観察されたPL発光から2Dバーコード情報を抽出することができる。不可視の2次元バーコードは,認証及び偽造防止,水,火災及び電磁気の干渉に対する耐性を持つデータストレージ並びにガラスウェーハのフォトニックIDタグなどのセキュリティツールに役立つ。」

(ウ)6ページ6行目から7ページ6行目まで
「As an application of invisible marking, we show an invisible 2D barcode inside an ES silica glass. In this experiment, we focus on the QR Code19 which is a kind of 2D barcode and the industrial standard, JIS-X-0510 and ISO/IEC18004 (QR Code is registered trademark of DENSO WAVE INCORPORATED.). QR Code consists of black modules arranged in a square pattern on white background. Fig. 9(a) shows an actual QR Code pattern stored “NEW GLASS FORUM”. The QR Code can be read by the existing QR Code readers such as smartphones and mobile phones with a camera as it is.

We fabricated an invisible QR Code by DDW with LFD-CGH inside an ES silica glass based on the pattern in Fig. 9(a). Fig. 9(b) shows that the QR Code evidently appeared under the 254 nm UV light. On the other hand, under the white light shown in Fig. 9(c), the sample was kept transparent, and we could not see QR Code pattern. Thus that is the invisible QR Code.

Although the sharp square pattern was displayed by the strong red PL emission, the red QR Code on black background cannot be read by the existing QR Code readers. So we had to extend the QR Code reader software to read the red and black code.

Fig. 10 shows our invisible QR Code decoding system. We could extract the QR Code information from the observed red PL emission by using a CMOS web camera (UCAM DLY300TA, ELECOM) and QR Code reader software (QRCodeReader, Spark project20) extended for the contrast of red and black. The decode window in Fig. 10 expresses “NEW GLASS FORUM” stored in the QR code. Since we required no expensive detectors, optical microscopes and software, the system was very simple. In the experiment, we provided a novel invisible 2D barcode and the reading method by red PL emission.」

<上記記載の当審による訳>
「目に見えないマーキングの応用として,ES石英ガラス内部の不可視2Dバーコードを示す。今回の実験では,2Dバーコードの一種であるQRコード19,JIS-X-0510,ISO / IEC18004(QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標)にフォーカスする。QRコードは,白い背景に四角いパターンで配置された黒いモジュールで構成されている。 図9(a)は,「NEW GLASS FORUM」が格納された実際のQRコードパターンを示す。 QRコードは,スマートフォンや携帯電話などの既存のQRコードリーダーが,そのままカメラで読み取ることができる。

図9(a)に示すパターンに基づいて,ES石英ガラスの中にLFD-CGHを含むDDWにより不可視のQRコードを作製した。 図9(b)は,QRコードが254nmの紫外線光の下に明らかに現れたことを示している。 一方,図9(c)に示すように,白色光の下では,サンプルは透明に保たれ,QRコードパターンを見ることができなかった。したがって,それは目に見えないQRコードである。

しかしながら,鮮明な正方形のパターンは,強い赤色のPL放射によって表示されたが,黒色の背景にある赤色のQRコードは,既存のQRコードリーダーによって読み取ることはできない。そこで,赤と黒のコードを読み取るためにQRコードリーダーソフトウェアを拡張しなければならなかった。

図10は,我々の不可視QRコード復号システムを示す。 CMOSウェブカメラ(UCAM DLY300TA,ELECOM)と,赤色と黒色のコントラストのために拡張されたQRコードリーダーソフトウェア(QRCodeReader,Spark project20)を使用して,観察された赤色のPL発光からQRコード情報を抽出することができた。図10のデコードウィンドウは,QRコードに格納されている「NEW GLASS FORUM」を表示している。我々は,高価な検出器,光学顕微鏡,及びソフトウェアを必要としないため,システムは非常にシンプルであった。実験では,新しい非可視2Dバーコードと赤色のPL発光による読み取り方法を提供した。」

(エ)図10

図10の右図からは,下から,紫外線ライト,不可視2Dバーコードが付された合成石英ガラス,紫外線カットフィルタ,CMOSウェブカメラの順に配置された不可視QRコードシステムの構成が見てとれる。前記構成は,紫外線ライトは,合成石英ガラスに対して紫外線を照射すること,紫外線カットフィルタは,合成石英ガラスを通過した紫外線及び不可視2Dバーコードが発光した光がCMOSウェブカメラにより撮像される光路上に配置されていることもみてとれる。
また,図10の中央図からは,CMOSウェブカメラが,不可視2Dバーコードの付された合成石英ガラスを含む領域を撮像したものが表示されていることが見てとれる。

(オ)上記(ア)?(エ)によれば,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「内部に不可視2Dバーコードを埋め込んだ合成石英ガラスであって,前記合成石英ガラスは,白色光の下では,透明に保たれることで2Dバーコードは見ることができず,254nmの紫外線光の下では,2Dバーコードの正方形のパターンが赤色に発光する合成石英ガラスと,
CMOSウェブカメラ,紫外線ライト,紫外線カットフィルタ及び2Dバーコードリーダーソフトウェアを備える不可視2Dバーコード復号システムとを備えたシステムであって,
前記不可視2Dバーコード復号システムは,下から,紫外線ライト,前記不可視2Dバーコードが付された合成石英ガラス,紫外線カットフィルタ,CMOSウェブカメラの順に配置され,
前記紫外線ライトは,前記合成石英ガラスに紫外線を照射し,
前記紫外線カットフィルタは,前記合成石英ガラスを通過した紫外線及び前記不可視2Dバーコードが発光した光が前記CMOSウェブカメラにより撮像される光路上に配置され,
前記CMOSカメラは,前記合成石英ガラスを含む領域を撮像し,
前記2Dバーコードリーダーソフトウェアは,観察された赤色のPL発光から,2Dバーコードに格納した情報をデコードし,
デコードウィンドウは,前記デコードした2Dバーコードに格納されている「NEW GLASS FORUM」を表示することを特徴とするシステム。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用された,米国特許出願公開第2005/178841号明細書(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

(ア)[0010]
The present invention relates to both a system and method for product authentication. The system used herein comprises (1) one or more dyes or pigments, at least one of which is either invisible to the naked eye or is fluorescent or luminescent, (2) an optical component capable of detecting the signals emitted by all of said inks, and (3) an information technology component for analyzing said signals. There are a large number of combinations of (1) dyes or pigments, (2) sizes and shapes of the markings made with said dyes, (3) the ability to change the type, size and shape for the marking for a given product, and (4) the ability to keep track of the dyes and markings used for a given product. With these features the system allows a nearly foolproof method for product authentication. The method employs the above scanning and information technology components, along with the above dyes or other combinations of dyes, for authenticating a given product.

<上記記載の当審による訳>
本発明は,製品認証のためのシステムおよび方法の両方に関する。 本明細書で使用されるシステムは,(1)少なくとも1つが肉眼では見えないかまたは蛍光または発光性である1つ以上の染料または顔料,(2)すべてのインクによって発せられた信号を検出することができる光学部品(3)前記信号を分析するための情報技術コンポーネントとを含む。 (1)染料または顔料,(2)前記染料で作られたマーキングのサイズおよび形状,(3)所定の製品のマーキングのタイプ,サイズおよび形状を変更する能力,(4)所与の製品に使用される染料およびマーキングを追跡する能力は,多くの組み合わせがある。これらの機能により,システムはほぼ確実に製品認証を行うことができる。この方法は,所与の製品を認証するために,上記の走査および情報技術の構成要素と,上記の染料または他の色素の組合せとを用いる。

(イ)[0067]
The Emission Filter 6 shapes the optical emission spectrum of the excited Mark. It can consist of a grating, a dielectric filter or stack, a short-pass filter, a band-pass filter, a line filter to filter out ambient light, a glass filter, or any other optical spectrum-shaping element. The Emission Filter may incorporate several of these filters, for example in a filter wheel. The Emission Filter must pass spectral power in the emission wavelength bands of the Mark luminescence. The Emission Filter may pass wavelengths in some subset(s) of the UV, visible, and infrared portions of the spectrum.

<上記記載の当審による訳>
発光フィルタ6は ,励起されたマークの光学発光スペクトルを整形する。前記フィルタは,グレーティング,誘電体のフィルタまたはスタック,ショートパスフィルタ,バンドパスフィルタ,周囲光をフィルタリングするためのラインフィルタ,ガラスフィルタ,または他の任意の光スペクトル整形要素から構成することができる。発光フィルタは,例えばフィルタホイール内にこれらのフィルタのいくつかを組み込んでもよい。発光フィルタは,マーク発光の放射波長帯域でスペクトルパワーを通過させなければならない。発光フィルタは,スペクトルの紫外,可視および赤外線部分のいくつかのサブセットの波長を通過させてもよい。

(ウ)Figure 7

Figure7からは,光源からの光により不可視バーコードが発光し,その光が発光フィルタ6を通過してフォトダイオード検出器により検出するシステムの構成がみてとれる。

(エ)上記(ア)?(ウ)によれば,引用例2には以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「商品認証のために肉眼では見えないバーコードを読み取るシステムであって,光源からの光により励起された前記バーコードの発光を,その発光の放射波長帯域でスペクトルパワーを通過させるバンドパスフィルタや周囲光をフィルタリングするためのラインフィルタを介して,フォトダイオード検出器により前記発光を検出するシステム。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用された,特開平10-320499号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(なお,下線は当審において付加したものである。)

(ア)【0007】?【0008】
「【0007】透明蛍光バーコードとは、可視光に対して実質的に透明であり、ある波長の紫外光を照射することにより可視光を発光する材料を使用したインキなどで印刷したバーコードであり、可視光を発光する部分と発光しない部分との差を利用したものである。
【0008】セキュリティ性を向上したバーコードとしては、偽造品や模造品対策として、製品に一部に透明バーコードを極秘に印刷しておき、市場に出た際、本物には透明バーコードが印刷されており、模造品には透明バーコードが印刷されていないことにより真偽判定をする方法がなされている。」

(イ)【0086】?【0091】
「【0086】実施例2
図5は本実施例による蛍光画像読み取り装置を模式的に表した斜視図である。以下に、本装置の動作について説明する。実施例1において作成したクレジットカード10aの蛍光発光バーコード領域Aに、紫外線ランプ20が365nmの波長の紫外線を照射する。
【0087】紫外線が蛍光発光バーコード領域Aに照射されると、蛍光発光バーコード領域A中の蛍光体が紫外線を吸収して蛍光を発光し、バーコード状の蛍光画像が形成される。
【0088】上記のバーコード状の蛍光画像を、カラーフィルタを取り付けたモノクロームタイプCCDセンサ30a、30bが感知し、読み取り信号S30a、S30bに変換する。ここで、モノクロームCCDセンサ30a、30bは図6(a)に示すようにCCD画素がn個並べられた構成となっており、その分光感度特性は図6(b)に示すように、可視光領域に広く感度を有している。このモノクロームCCDセンサの画素表面に、赤フィルタを取り付けて赤色の光に感度を有する赤センサ30a、緑フィルタを取り付けて緑色の光に感度を有する緑センサ30bとする。
【0089】読み取り信号S30a、S30bをデコーダ40が受け取り、解析、情報化などの演算処理を行い、読み取り情報S40に変換し、結果表示部60に出力して、表示する。
【0090】上記の方法により得られたデコーダ入力波形を図7に示す。図7(a)は赤センサの出力波形を、(b)は緑センサの出力波形をそれぞれ示す。カラーフィルタを取り付けたモノクロームCCDセンサの分光感度によって異なる波形が得られ、従来よりも多くの情報を得ることができた。
【0091】また、上記のデコーダ40に標準情報を予め格納しておき、上記の2種の出力波形と標準情報とを比較する機能をデコーダ40に付与することにより、読み取った蛍光発光バーコードが付されたクレジットカードが予め登録されたクレジットカードであると識別することができた。」

(ウ)上記(ア)?(イ)によれば,引用例3には以下の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「偽造品や模造品の対策として印刷された透明蛍光バーコードを読み取る蛍光画像読み取り装置であって,
蛍光発光バーコード領域に、紫外線を照射する紫外線ランプと,
蛍光発光バーコード領域中の蛍光体が紫外線を吸収して蛍光を発光し、バーコード状の蛍光画像が形成された前記蛍光画像を感知するカラーフィルタを取り付けたCCDセンサと,
読み取った蛍光発光バーコードの波形と予め格納された標準情報とを比較することにより予め登録されたクレジットカードであると識別するデコーダとを有する蛍光画像読み取り装置。」

(4) 対比
そこで,補正発明と引用発明1とを比較する。

ア 引用発明1の「合成石英ガラス」は,「白色光の下では,透明に保たれる」ものであるから,補正発明の「光を透過する透明性のコード形成対象物」に相当する。

引用発明1の「不可視2Dバーコード」は,「NEW GLASS FORUM」を格納しているから,補正発明の「情報コード」に相当する。

前記「不可視2Dバーコード」は,「254nmの紫外線光の下では」,「正方形のパターンが赤色に発光する」ものであり,紫外線光は,可視光の波長とは異なる光である。よって,引用発明1の「紫外線光」は,補正発明の「可視光の波長帯とは異なる第1波長帯の照射光」に相当し,引用発明1の「正方形のパターンが赤色に発光する」ことは,補正発明の「所定色の可視光の波長で情報コードの部分が発光する」ことに相当する。

そして,引用発明1の「内部に不可視2Dバーコードを埋め込んだ合成石英ガラス」は,補正発明の「情報コード表示体」に相当する。

そうすると,補正発明と引用発明1は,後記する点で相違するものの,
「光を透過する透明性のコード形成対象物を有すると共に,前記コード形成対象物の内部に情報コードが形成され,前記コード形成対象物に対して可視光が当てられているときに前記情報コードが表示されずに当該コード形成対象物が透明状態で維持され,前記コード形成対象物に対して可視光の波長帯とは異なる第1波長帯の照射光が当てられたときに所定色の可視光の波長帯で情報コードの部分が発光する情報コード表示体」
を備える点で共通する。

イ 引用発明1の「不可視2Dバーコード復号システム」は,「CMOSウェブカメラ,紫外線ライト,紫外線カットフィルタ及び2Dバーコードリーダーソフトウェアを備える」ものであって,2Dバーコードリーダーソフトウェアは,「合成石英ガラスに埋め込まれた2Dバーコードによる赤色のPL発光からCMOSウェブカメラで取得した情報から,2Dバーコードに格納した情報をデコード」するものである。

したがって,引用発明1の「不可視2Dバーコード復号システム」は,補正発明の「情報コード読取装置」に相当し,本願発明と引用発明1は,後記する点で相違するものの,「前記情報コード表示体に形成された前記情報コードを読み取る情報コード読取装置」を備える点で共通する。

ウ 引用発明1の「紫外線ライト」は,上記イで述べたとおり,「不可視2Dバーコード復号システム」の構成要素であって,「CMOSカメラが撮像する石英ガラスに紫外線を照射する」ものであり,上記アで述べたとおり,紫外線は,補正発明の「第1波長帯」に相当する。

よって,引用発明1の「紫外線ライト」は,補正発明の「第1波長帯の照明光を照射する照明光源」に相当する。

エ 引用発明1の「紫外線カットフィルタ」は,上記イで述べたとおり,「不可視2Dバーコード復号システム」の構成要素であって,「前記合成石英ガラスを通過した紫外線及び前記不可視2Dバーコードが発光した光が前記CMOSウェブカメラにより撮像される光路上に配置され」ているから,不可視2Dバーコードの赤色のPL発光を透過し,紫外線領域の光を遮断あるいは減衰するものである。

一方,補正発明は,「前記所定色の可視光の透過度合いが、前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなるように構成された波長選択フィルタ」を備え,このフィルタを透過した可視光を「受光センサ」は受光する。

補正発明の「波長選択フィルタ」と引用発明1の「紫外線カットフィルタ」とは,発光する情報コードと受光センサの間に配置された情報コードからの所定光を透過するフィルタである限りにおいて共通する。しかしながら,補正発明の「波長選択フィルタ」が「所定色の可視光の透過度合いが、前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなる」のに対し,引用発明1の「紫外線カットフィルタ」は,紫外線を減衰するものの,赤色以外の可視光との透過度合いを変化させるかは不明である。

よって,引用発明1の「紫外線カットフィルタ」は,補正発明の「波長選択フィルタ」に,所定色の可視光を透過する「フィルタ」である限りにおいて相当する。

オ 引用発明1の「CMOSカメラ」は,「前記合成石英ガラスを含む領域を撮像」し,「2Dバーコードリーダーソフトウェア」に「観察された赤色のPL発光」を供給するものである。なお,上記ウで述べたとおり,紫外線ライトがCMOSカメラが撮像する石英ガラスに紫外線(第1波長帯)を照射しており,上記「観測された赤色のPL発光」は,上記アで述べたとおり,補正発明における,情報コードの「所定色の可視光の波長」での発光である。

よって,引用発明1の「CMOSカメラ」は,補正発明の「前記情報コード表示体に対して前記第1波長帯の照明光が照射されているときに,前記フィルタを透過した前記情報コードからの前記所定色の可視光を受光可能な受光センサ」に相当する。

カ 引用発明1の「2Dバーコードリーダーソフトウェア」は,「観察された赤色のPL発光から,2Dバーコードに格納した情報をデコードする」ものである。

よって,「2Dバーコードリーダーソフトウェア」は,補正発明の「前記受光センサによる前記所定色の可視光の受光結果によって生成された撮像画像に基づいて当該撮像画像内の情報コードの解読を試みる解読手段」に相当する。

キ 引用発明1の「デコードウィンドウ」は,「デコードした2Dバーコードに格納されている「NEW GLASS FORUM」を表示」し,実験により不可視2Dバーコードに格納した情報が復元可能であることを確認している。

補正発明は,「前記解読手段による解読結果に基づいて正規の情報コードが解読されたか否かを判定する判定手段」を備えており,引用発明1は,上述のとおり,デコード結果を表示するのみで,正規の情報コードが解読されたかはその表示を見た者が行うことは可能であっても,システムが補正発明の「判定手段」に相当する手段を有していない。

ク 引用発明1は,「前記不可視2Dバーコード復号システムは,下から,紫外線ライト,前記不可視2Dバーコードが付された合成石英ガラス,紫外線カットフィルタ,CMOSウェブカメラの順に配置され」ているから,「紫外線ライト」と「CMOSウェブカメラ」とは異なる装置として,別々の位置に構成されている。また,上記ウで述べたとおり,「CMOSカメラが撮像する石英ガラスに紫外線を照射する」ものである。

そうすると,補正発明と引用発明1は,後記する点で相違するものの,
「前記受光センサを収容するケースとは別体の照明器具として構成されて,前記受光センサによる撮像範囲に対して前記第1波長帯の照明光を照射する」「前記照明光源」を備える点で共通する。

ケ 以上ア?クから,補正発明と引用発明1との一致点,相違点は以下のとおりである。

(ア) 一致点
「 光を透過する透明性のコード形成対象物を有すると共に,前記コード形成対象物の内部に情報コードが形成され,前記コード形成対象物に対して可視光が当てられているときに前記情報コードが表示されずに当該コード形成対象物が透明状態で維持され,前記コード形成対象物に対して可視光の波長帯とは異なる第1波長帯の照射光が当てられたときに所定色の可視光の波長帯で情報コードの部分が発光する情報コード表示体と,
前記情報コード表示体に形成された前記情報コードを読み取る情報コード読取装置と,
を備え,
前記情報コード読取装置は,
前記第1波長帯の照明光を照射する照明光源と,
フィルタと,
前記情報コード表示体に対して前記第1波長帯の照明光が照射されているときに,前記フィルタを透過した前記情報コードからの前記所定色の可視光を受光可能な受光センサと,
前記受光センサによる前記所定色の可視光の受光結果によって生成された撮像画像に基づいて当該撮像画像内の情報コードの解読を試みる解読手段とを有し,
前記照明光源は,前記受光センサを収容するケースとは別体の照明器具として構成されて,前記受光センサによる撮像範囲に対して前記第1波長帯の照明光を照射することを特徴とする情報コード読取システム。」

(イ) 相違点
a 相違点1
補正発明は,「前記所定色の可視光の透過度合いが、前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなるように構成された波長選択フィルタ」を備えているのに対し,引用発明1は,紫外線カットフィルタを備えており,紫外線カットフィルタは,所定色の可視光(赤色)の透過の度合いは紫外線波長よりは大きくなるものの,「前記所定色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなる」ものであるかは不明である点。

b 相違点2
補正発明は,「前記解読手段による解読結果に基づいて正規の情報コードが解読されたか否かを判定する判定手段」を備えるのに対し,引用発明1は,解読結果を表示する「デコードウィンドウ」を備える点

(5) 判断
ア 相違点1について

引用発明1は,前述の「第2.2.(3)ア.(ウ)」で引用したとおり,合成石英ガラスの応用例を実験において示した文献に記載されたものである。一方,当業者が実験室のような理想的な環境における使用ではなく,商品化等のために,さまざまな環境で利用することを想定して,外部環境に備えることは一般的な課題である。

ここで,引用発明2は,「商品認証のために肉眼では見えないバーコードを読み取るシステムであって,光源からの光による前記バーコードの発光を,その発光の放射波長帯域でスペクトルパワーを通過させるバンドパスフィルタや周囲光をフィルタリングするためのラインフィルタを介して,フォトダイオード検出器により前記発光を検出する」ものである。

引用発明2の「バンドパスフィルタや周囲光をフィルタリングするためのラインフィルタ」は,バーコードの発光の放射波長帯域を通過させ,「バンドパスフィルタ」は,通過帯域以外を減衰し,「周囲光をフィルタリングするためのラインフィルタ」は,周囲光を減衰することから,バーコードの発光色の可視光の透過度合いが、前記発光色とは波長帯の異なる他色の可視光の透過度合いよりも大きくなるように構成された波長選択フィルタであるといえる。

また,引用発明1と引用発明2とは,ともに,不可視2Dバーコードが光源からの光によって発光した光を検出し,バーコードに格納された情報をデコードする技術である点で共通し,また,商品の偽造防止や認証に用いるという用途も共通するものである。

してみれば,当業者が,引用発明1を,より一般的な環境においてできるよう,引用発明2を適用することは動機があるといえるから,相違点1に係る構成は,引用発明1に引用発明2を適用することにより容易になし得るものである。また,相違点1に係る効果は,引用発明2により推測可能なものである。

イ 相違点2について

引用発明1は,アで述べたとおり,合成石英ガラスの応用例を実験において示した文献に記載されたものである。一方,当業者が実験のように試験的な使用ではなく,商品化等のために,確認作業の自動化などによって,ユーザの利便性を向上させることは一般的な課題である。

ここで,引用発明3は,「読み取った蛍光発光バーコードの波形と予め格納された標準情報とを比較することにより予め登録されたクレジットカードであると識別する」ものである。これは,補正発明の「前記解読手段による解読結果に基づいて正規の情報コードが解読されたか否かを判定する判定手段」が行うことに相当する。

また,引用発明1と引用発明3とは,ともに,不可視2Dバーコードが光源からの光によって発光した光を検出し,バーコードに格納された情報をデコードする技術である点で共通し,また,商品の偽造防止や認証に用いるという用途も共通するものである。

してみれば,当業者が,引用発明1に,ユーザの利便性を向上させるため,引用発明3を適用することは動機があるといえるから,相違点2に係る構成は,引用発明1に引用発明3を適用することにより容易になし得るものである。また,相違点2に係る効果は,引用発明3により推測可能なものである。

ウ 小括

各相違点について総合勘案しても,格別な技術的意義が生じるとは認められない。

以上のことから、補正発明は、引用発明1?3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(6) 請求人の主張について

請求人は,審判請求書において,補正発明が特許される理由は,概ね,以下のような主張である。

受光センサを収容するケースとは別体の照明器具として構成することによる効果があり,補正発明が受光センサと照明器具が別体にすることができるのは,情報コードの部分が自発光することによるものであるものである。通常は,情報コードに当てた光の反射光を利用しているものであって,通常の情報コード読取装置の構成を前提とする各引用文献を引用した拒絶は不適切である。

しかしながら,上記「第2.2.(3) 引用例」のとおり,情報コードにあたる,引用発明1の「不可視2Dバーコード」,引用発明2の「バーコード」及び引用発明3の「蛍光発光バーコード」は,いずれも自発光するものであり,引用発明1?3は,請求人の主張とは異なり,情報コードの部分が自発光することを前提とするものであって,上記主張は失当である。

(7) 小括

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2.2.(1)ア.<補正前>」に記載したとおりである。

第4 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は,上記「第2.2.(3) 引用例」に記載したとおりである。

第5 対比・判断

本願発明は,上記「第2」で検討した補正発明から,上記「第2.2.(2)補正の目的」で述べた限定の付加を省いたものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2.2.(5)判断」に記載したとおり,引用発明1?3に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明1?3に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明1?3に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-19 
結審通知日 2016-12-20 
審決日 2017-01-05 
出願番号 特願2012-214466(P2012-214466)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 正悟  
特許庁審判長 手島 聖治
特許庁審判官 星野 昌幸
石川 正二
発明の名称 情報コード読取システム及び情報コード読取装置  
代理人 田下 明人  

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