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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1325317
審判番号 不服2016-3220  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-02 
確定日 2017-03-13 
事件の表示 特願2013- 33562「予測及びリアルタイム支援型GPSシステムのための分散軌道モデル及び伝播方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開、特開2013-127481、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年11月19日を国際出願日とする出願(特願2010-534325号)の一部を平成25年2月22日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月28日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月7日付けで意見書が提出され、平成27年2月13日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月18日付けで手続補正がなされたが、平成27年10月28日付けで、平成27年2月13日付けで通知された拒絶理由の理由2によって、拒絶査定がなされ(送達日:平成27年11月2日)、これに対し、平成28年3月2日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年3月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
本件補正は、本件補正前の請求項4、13、21?37を削除し、これに伴って、請求項の項番を整理するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号(請求項の削除)に掲げる事項を目的とするものに相当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成28年3月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
モバイルデバイスであって、
衛星航法データを発生させるのに使用される予測軌道状態ベクトルをサーバから受信した初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを使用して発生させるためのプロセッサと、
前記プロセッサと通信する前記衛星航法データを受信するためのGNSS受信機と、
を含み、
前記衛星航法データは、ある一定の期間にわたって有効である、
ことを特徴とするモバイルデバイス。
【請求項2】
前記GNSS受信機は、GPSチップを含むことを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項3】
前記GNSS受信機は、「支援型GPS」チップを含むことを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項4】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、モバイルデバイスからの要求に続いて受信されることを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項5】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、前記要求の時点で最新であることを特徴とする請求項4に記載のモバイルデバイス。
【請求項6】
前記予測軌道状態ベクトルは、伝播モデルを使用して計算され、該伝播モデルは、性能基準に基づいて利用可能である複数の伝播モデルから選択されることを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項7】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、データ記録内に受信されることを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項8】
前記データ記録は、以前に受信したデータ記録に対する変更であることを特徴とする請求項6に記載のモバイルデバイス。
【請求項9】
前記衛星航法データは、GPSフォーマットで提供されることを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項10】
前記衛星航法データは、GLONASSフォーマット又はGalileoフォーマットで提供されることを特徴とする請求項1に記載のモバイルデバイス。
【請求項11】
モバイルデバイス上で衛星の軌道を予測する方法であって、
初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを、サーバからモバイルデバイスのプロセッサに受信する段階と、
初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを使用して予測軌道状態ベクトルを前記プロセッサにおいて発生させる段階と、
前記予測軌道状態ベクトルを使用してある一定の期間にわたって有効な衛星航法データを前記プロセッサにおいて発生させ、該プロセッサが、該衛星航法データを前記モバイルデバイスのGNSS受信機に送信する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、モバイルデバイスからの要求に続いて受信されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、前記要求の時点で最新であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記予測軌道状態ベクトルは、伝播モデルを使用して計算され、該伝播モデルは、性能基準に基づいて利用可能である複数の伝播モデルから選択されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとは、データ記録内に受信されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記データ記録は、以前に受信したデータ記録に対する変更であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記衛星航法データは、GPSフォーマットで提供されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記衛星航法データは、GLONASSフォーマット又はGalileoフォーマットで提供されることを特徴とする請求項11に記載の方法。」

第4 原査定の理由(理由2)の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1、12、21、27、33
引用文献1、2
文献1記載の発明に文献2に記載された技術を適用し、初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを使用して予測軌道状態ベクトルを発生させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、文献1において衛星軌道の予測をクライアントで行う場合には、リンクを介して予測計算を行うために必要な位置や速度のデータを受信しているのであるから、同じく予測計算を行うために必要となる力モデルパラメータについてもリンクを介して受信することも、当業者であれば容易に想到し得る設計変更の範囲である。
・請求項2-11、13-20、22-26、28-32、34-37
伝播モデルを複数の中から選択することは、例えば文献3に記載されているように周知技術である。

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第2006/031652号(パテントファミリー:特表2008-513738号公報)
2.国際公開第2007/054493号(パテントファミリー:特表2009-515156号公報)
3.特開2003-262668号公報

また、拒絶査定の備考欄において、力モデルパラメータをサーバから受信することが周知技術であることを示す文献として、特表2007-501417号公報が引用されている。

第5 当審の判断
1 刊行物の記載事項
(引用例1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の国際出願日前に頒布された、国際公開第2006/031652号刊行物1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。また、翻訳は、パテントファミリーである特表2008-513738号公報の記載に基づくものである。)。
ア 「Field of Invention
The disclosed embodiments relate to satellite based positioning systems and methods. More particularly, the disclosed embodiments relate to determining position without the use of ephemeris information in its broadcast form.」(第1頁第2?5行)(当審訳:技術分野 開示される実施形態は、衛星測位システム及び方法に関する。より詳細には、放送形態の軌道暦(ephemeris)情報を使用しない位置の決定に関する。)

イ 「The client devices 110 of an embodiment include but are not limited to portable communication devices, portable position tracking devices, cellular telephones, cellular telephones coupled to and/or integrated with position tracking devices, mobile electronic devices, mobile communication devices, personal computers (PCs), personal digital assistants (PDAs), and other processor-based devices. 」(第7頁第4?8行)(当審訳:一実施形態のクライアントデバイス110は、ポータブル通信デバイス、ポータブル位置追跡デバイス、携帯電話、位置追跡デバイスに接続された及び/又は一体化された携帯電話、モバイル電子デバイス、モバイル通信デバイス、パーソナルコンピュータ(PC)、携帯情報端末(PDA)、及び他のプロセッサベースのデバイスを含むが、これらに制限されるものではない。)

ウ 「It will be appreciated by those of ordinary skill in the arts that the term "ephemeris" is then being used in its strict sense. Although it is conventional in the GPS arts to refer to the transmission of Kepler parameters by the GPS satellites as "broadcast ephemeris", Kepler parameters are not "true" satellite ephemeris but instead are parameters derived from satellite ephemeris. Because the reference to the conventional transmission of Kepler parameters from GPS satellites as "broadcast ephemeris" is a firmly entrenched practice in the GPS arts, the results from the numerical integration by server 120 will be referred to as "predicted satellite states" to avoid confusion with parameters such as Kepler parameters that are merely derived from satellite ephemeris. In that regard, the prediction of satellite state information by client device 110 is also a prediction of "true" ephemeris. However, to distinguish this predicted information from parameters such as Kepler parameters, the predictions from client device 110 will be denoted as "reconstructed satellite state" information. As will be explained further herein, this distinction becomes important because server 120 may compress or compact the predicted satellite state information into parameters such as Kepler parameters that are then transmitted over link 122 to client device 110.」(第7頁第24行?第8頁第4行)(当審訳:当業者には、用語「軌道暦(ephemeris)」が厳密な意味で使用されていることが理解されよう。GPS技術においては、GPS衛星によるケプラーパラメータの送信を「放送軌道暦(broadcast ephemeris)」と呼ぶことが慣例であるが、ケプラーパラメータは、「真の」衛星の軌道暦ではなく、衛星の軌道暦から導き出されたパラメータである。GPS衛星からのケプラーパラメータの従来の送信を「放送軌道暦」と呼ぶことは、GPS技術において確固として定着した慣行であり、単に衛星の軌道暦から導き出されたケプラーパラメータなどのパラメータとの混乱を回避するよう、サーバ120による数値積分法の結果を「予測された衛星状態」と呼ぶ。この点において、クライアントデバイス110による衛星状態情報の予測もまた、「真の」軌道暦の予測である。しかし、この予測情報をケプラーパラメータなどのパラメータと区別するために、クライアントデバイス110からの予測を「再構築された衛星状態」情報と表す。
本明細書にさらに説明するように、サーバ120が、予測された衛星状態情報をケプラーパラメータなどのパラメータに圧縮又は短縮し、次いで、これがリンク122を通じてクライアントデバイス110に送信されるので、この区別は、重要なものとなる。)

エ 「Referring again to database 130, the historical trajectory or state data of the database 130 includes mainly historical position state vectors of satellite trajectories and clock biases of satellites but can include other information. More specifically, the historical state data includes at least one of or some combination of satellite position state vectors, satellite velocity state vectors, satellite clock biases, and satellite clock rate errors. The database 130 can be a component of the server system 120, or can be a standalone server or system. Further, the database 130 can be that of an appropriate provider of such historical information. One example of a provider from which the historical satellite information is received is the International GPS Service (IGS). Alternatively, the historical satellite data is generated and provided by components of the server 120.」(第8頁第19?23行)(再びデータベース130について言及すると、データベース130の履歴軌道又は状態データは、主に、衛星軌道の履歴位置状態ベクトルと衛星クロックバイアスとを含むが、他の情報も含み得る。より具体的には、履歴状態データは、衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル、衛星クロックバイアス、及び衛星クロック速度誤差の、少なくとも1つ又はいくつかの組合せを含む。データベース130は、サーバシステム120の1構成要素でもよく、独立のサーバ又はシステムでもよい。さらに、データベース130は、このような履歴情報の適切なプロバイダのデータベースでもよい。履歴衛星情報が受信されるプロバイダの一例に、国際GPS機構(IGS)がある。代替形態として、履歴衛星データは、サーバ120の構成要素によって作成され、提供される。)

オ 「Figure 2 is a block diagram of a system 200 comprising client devices 210 that provide position information without using current ephemeris data, under an alternative embodiment. The system 200 includes client devices 210 that receive information from GPS satellites 190 via GPS signals 192. The client devices 210 also communicate with one or more databases 130 to request and/or receive data on past GPS satellite trajectories via at least one link 232. The link 232 between the client devices 210 and the databases 130 includes at least one of wireless and/or wired couplings. The link 232 of alternative embodiments can include one or more networks (not shown) having one or more network types.

The client devices 210 of an embodiment comprises a number of systems including at least one of a GPS system 203, communication system 204, processor 205, memory 206, and prediction generator 207, all of which run either autonomously or under control of the processor. The GPS system 203 includes a receiver that receives information from GPS satellites 190 in view via the GPS signals 192, as described above. The communication system 204 includes components that interface with any number of wired/wireless communication channels to support communication between the client device 210 and the database 130 as well as other communication devices. As an example, the communication system 204 includes components that provide at least one of cellular telephone communications, radio frequency (RF) communications, analog communications, and digital communications, among others.

Components of the prediction generator 207 continuously predict states of all GPS satellites 190 over a future time period using the historical information received from the database 130. The prediction generator 207 generates the predictions by fitting parameters to a satellite's force model from the past trajectory data of the satellites 190 and then using these fitted parameters in numerical integration of the equations of satellite dynamical motion, but is not so limited. In an alternate embodiment, the client device 210 can locally compress the satellite predictions into a set of compact parameters. These parameters are locally stored. The satellite state vector will be later reconstructed from these locally stored parameters.

The client device 210 automatically determines its position without use of broadcast ephemeris data for extended periods of time. In operation, the communication system 204 receives the historical information from the database 130 via communication link 232. The historical information is received in response to an appropriate request from the client device 210, from data broadcast by the database 130, and/or via a network connection with the database 130, but is not so limited. The prediction generator 207 continuously predicts states of all GPS satellites 190 over a future time period using the historical information. In an alternate embodiment, at predetermined times the prediction generator 207 can predict future states of all satellites, and stores the results as parameters. In another embodiment the parameters can be stored in a compact form. Various components of the client device 210 subsequently use the predicted satellite trajectories or the parameters to generate satellite state at appropriate time as required in a navigation solution. The predicted satellite trajectories are valid for a period of approximately one calendar week. 」(第15頁第6行?第16頁第15行)」(図2は、代替実施形態における、現在の軌道暦データを使用せずに位置情報を提供するクライアントデバイス210を備えたシステム200を示すブロック図である。システム200は、GPS衛星190からGPS信号192を介して情報を受信するクライアントデバイス210を含む。クライアントデバイス210はまた、少なくとも1つのリンク232を介して、過去のGPS衛星軌道に関するデータを要求及び/又は受信するよう、1つまたはそれ以上のデータベース130と通信する。クライアントデバイス210とデータベース130との間のリンク232は、無線接続及び/又は有線接続の少なくとも1つを含む。代替実施形態のリンク232は、1つまたはそれ以上のネットワークタイプを有する1つまたはそれ以上のネットワーク(図示せず)を含み得る。
一実施形態のクライアントデバイス210は、GPSシステム203と、通信システム204と、プロセッサ205と、メモリ206と、予測ジェネレータ207の少なくとも1つを含むいくつかのシステムを備え、これらのすべてが、自律的に又はプロセッサの制御によって動作する。GPSシステム203は、上述したように、GPS信号192を介して見える視野内のGPS衛星190から情報を受信する受信機を含む。通信システム204は、クライアントデバイス210とデータベース130との間の通信をサポートするために、任意の数の有線/無線通信チャネルと同調する構成要素と、他の通信デバイスとを含む。一例として、通信システム204は、とりわけ、携帯電話通信と、無線周波数(RF)通信と、アナログ通信と、ディジタル通信との少なくとも1つを提供する構成要素を含む。
予測ジェネレータ207の構成要素は、データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測する。予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成するが、これに制限されるものではない。代替実施形態においては、クライアントデバイス210は、衛星の予測を一組の短縮パラメータに局所的に圧縮し得る。これらのパラメータは、局所的に格納される。衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築される。
クライアントデバイス210は、長い時間帯に亘って放送軌道暦データを使用せずに、その位置を自動的に決定する。動作中、通信システム204は、データベース130から通信リンク232を介して履歴情報を受信する。履歴情報は、クライアントデバイス210から、データベース130によるデータ送信から、及び/又はデータベース130とのネットワーク接続を介して、適切な要求に応答して受信されるが、これらに制限されるものではない。予測ジェネレータ207は、履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測する。代替実施形態においては、所定の時間に、予測ジェネレータ207が、すべての衛星の将来の状態を予測し、その結果をパラメータとして格納し得る。別の実施形態においては、パラメータは圧縮形式で格納され得る。クライアントデバイス210の様々な構成要素は、その後、予測された衛星軌道又はパラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成する。予測された衛星軌道は、約1暦週の期間に亘って有効である。)

以上より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「現在の軌道暦データを使用せずに位置情報を提供するクライアントデバイス210を備えたシステム200であって(上記オより。以下、同様)、
クライアントデバイス110は、モバイル通信デバイス及び他のプロセッサベースのデバイスであり(イ)、GPSシステム203と、通信システム204と、プロセッサ205と、メモリ206と、予測ジェネレータ207の少なくとも1つを含み(オ)、
クライアントデバイス210は過去のGPS衛星軌道に関するデータを要求及び/又は受信するよう、データベース130と通信し、通信システム204は、データベース130から通信リンク232を介して履歴情報を受信し(オ)、
データベース130は、独立のサーバでもよく(エ)、
データベース130の履歴状態データは、衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトルを含み(エ)、
予測ジェネレータ207の構成要素は、データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測するが、予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成し(オ)、
クライアントデバイス210は、衛星の予測を一組の短縮パラメータに局所的に圧縮し、これらのパラメータは、局所的に格納され、衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築され、クライアントデバイス210は、長い時間帯に亘って放送軌道暦データを使用せずに、その位置を自動的に決定し(オ)、
クライアントデバイス210の様々な構成要素は、その後、パラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成し、予測された衛星軌道は、約1暦週の期間に亘って有効である(オ)、
システム200。」

(引用例2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の原出願の国際出願日前に頒布された、国際公開第2007/054493号(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。また、翻訳は、パテントファミリーである特表2009-515156号公報の記載に基づくものである。)
「[0024] Additionally, the server 24 keeps a history of the position and velocity of a given satellite as long as it receives ephemeris data from this satellite by means of the reference receiver 26. These data are used as input for extrapolating the orbit of the satellite by means of a mechanical model, taking into account the forces acting on the satellite. The orbit prediction concept bases on integration of the fundamental law of mechanics, with the known satellites positions and velocities as starting values. Orbit prediction may take into account gravitation of earth, moon and sun, earth's pole rotation, earth's sideral rotation, precession and nutation, solar pressure, tides, etc. Satellite orbits are predicted for a period that substantially exceeds the period of validity of the broadcast ephemeris data used as input. Depending on the orbit prediction algorithm that is used, orbits can be predicted for 24 hours or even more. The predicted orbits serve to derive current long-term ephemeris data.」(当審訳:更に、サーバ24は所定の衛星の位置と速度の事暦を、この衛星からの暦表データを、基準受信機26を介して受信している間は、保つ。これ等のデータは、衛星に作用する力を考慮した機械的モデルによる衛星の軌道を外挿するための入力として用いられる。軌道予測概念は、既知の衛星位置及び速度を初期値とする力学の基本法則に基礎をもつ。軌道予測は、地球、月及び太陽の重力、地球の極回転、地球の恒星回転、歳差運動及び章動、太陽圧、潮汐等を考慮してなされる。衛星軌道は、入力として用いられる放送暦表の有効期間を実質的に超える期間に対して予測される。用いられる軌道予測アルゴリズムに応じて、24時間、又はそれ以上の期間に対してでも予測されるようにしても良い。予測軌道は長期間暦表データを得るためのものである。)

よって、引用例2には、次の技術(以下、「引用例2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「サーバ24は所定の衛星の位置と速度の事暦(history )を保ち、これ等のデータは、衛星に作用する力を考慮した機械的モデルによる衛星の軌道を外挿するための入力として用いられ、軌道予測概念は、既知の衛星位置及び速度を初期値とする力学の基本法則に基礎をもち、軌道予測は、地球、月及び太陽の重力、地球の極回転、地球の恒星回転、歳差運動及び章動、太陽圧、潮汐等を考慮してなされる。」技術。

(引用例3)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の国際出願日前に頒布された刊行物である、特開2003-262668号公報(以下、「引用例3」という。)には、表1とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0023】表1は、本発明の様々なプロトタイプSPVモデルのインプリメンテーションA?Fの一連のテストで得た結果をまとめたものである。」

「【0025】モデルE及びモデルFについてさらに細かく研究した。モデルEは、2つのp、2つのv、2次多項式、デルタt=32秒からなり、モデルFはそれぞれ独立の2次位置多項式と2次速度多項式を用いている。両モデルとも、区間の始まりに相対した時刻を使用している。モデルEでは、t0+Δtに第2の位置及び速度をとる。ここでは、Δt=32秒。マトリックス形式で、係数の計算のための方程式は次のようになる。」

よって、「SPVモデルとして複数のインプリメンテーションが可能であること」は、周知技術であると認められる。

2 対比・判断
(請求項1に係る発明について)
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「クライアントデバイス110」は「モバイル通信デバイス」であるから、本願発明における「モバイルデバイス」に相当する。
イ 引用発明1における「データベース130」は、「独立のサーバでもよく」、「データベース130の履歴状態データは、衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトルを含」んでいる。よって、引用発明1における「クライアントデバイス210」が「過去のGPS衛星軌道に関するデータを要求及び/又は受信するよう、データベース130と通信」し、「通信システム204」が「データベース130から通信リンク232を介し」て「受信」した「履歴情報」、つまり「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」の履歴のうちの何れか一つが、本願発明1における「サーバから受信した初期衛星位置及び速度」に相当する。
ウ 引用発明1における「一組の短縮パラメータ」は、「衛星の予測」を「圧縮」したものであって、これらのパラメータは、「後に」、「衛星状態ベクトル」を「再構築」するものである。そして、引用例1には「予測された衛星状態情報をケプラーパラメータなどのパラメータに圧縮」(上記「3」「(引用例1)」「ウ」)と記載されている。よって、引用発明1における「一組の短縮パラメータ」はケプラーパラメータなどの「放送軌道暦(broadcast ephemeris)」(上記「3」「(引用例1)」「ウ」)であって、本願発明における「衛星航法データ」に相当するといえる。
よって、引用発明1における「衛星の予測」は、「クライアントデバイス210」が、「一組の短縮パラメータ」(つまり、ケプラーパラメータなどの放送軌道暦(broadcast ephemeris))に「圧縮」するために用いられるから、本願発明における「衛星航法データを発生させるのに使用される予測軌道状態ベクトル」に相当するといえる。
エ 引用発明1における「クライアントデバイス110」は、「モバイル通信デバイス及び他のプロセッサベースのデバイスであ」るから、その「プロセッサ」(さらには、「予測ジェネレータ207」の構成要素として処理を実行するプロセッサが別にあれば、そのプロセッサを含む。以下、同様)が、本願発明における「プロセッサ」に相当する。また、引用発明1における該「プロセッサ」が、「クライアントデバイス110」における「予測ジェネレータ207」における「GPS衛星190の状態を連続的に予測する」処理を実行していることは明らかである。
オ 引用発明1において、「独立のサーバでもよ」い「データベース130から受信された履歴情報」、つまり「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」を使用して、「将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測するが、予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成」することと、本願発明における「予測軌道状態ベクトルをサーバから受信した初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを使用して発生させることとは、「予測軌道状態ベクトルをサーバから受信した初期衛星位置及び速度とを使用して発生させる」点で共通する。
カ 引用発明1の「クライアントデバイス210」が含む「GPSシステム203」が、本願発明における「GNSS受信機」に相当する。
キ 引用発明1では「プロセッサ」が「一組の短縮パラメータ」を「圧縮し、 これらのパラメータは、局所的に格納され、衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築され、クライアントデバイス210の様々な構成要素は、その後、パラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成し」ているが、「パラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成」する構成要素が引用発明1における「GPSシステム203」であることは、明らかである。
よって、引用発明1では「GPSシステム203」は、「プロセッサ」が「局所的に格納」した「一組の短縮パラメータ」を用いて、「パラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成し」ているから、本願発明における「前記プロセッサと通信する前記衛星航法データを受信するためのGNSS受信機」に相当するといえる。
ク 引用発明1の「一組の短縮パラメータ」を使用して「予測された衛星軌道」が、「約1暦週の期間に亘って有効である」ことが、本願発明における「前記衛星航法データは、ある一定の期間にわたって有効である」ことに相当する。

よって、本願発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「モバイルデバイスであって、
衛星航法データを発生させるのに使用される予測軌道状態ベクトルをサーバから受信した初期衛星位置及び速度とを使用して発生させるためのプロセッサと、
前記プロセッサと通信する前記衛星航法データを受信するためのGNSS受信機と、
を含み、
前記衛星航法データは、ある一定の期間にわたって有効である、
ことを特徴とするモバイルデバイス。」

(相違点)
本願発明では、予測軌道状態ベクトルを、サーバから受信した初期衛星位置及び速度と力モデルパラメータとを使用して発生させるのに対し、引用発明1では、「衛星の予測」(つまり、「将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測」したもの)は、「独立のサーバでもよ」い「データベース130から受信された履歴情報」、つまり「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」の履歴を使用し、「パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用すること」により、「作成」しているが、衛星に対する力のモデルのパラメータを、「独立のサーバでもよ」い「データベース130」から受信することは示されていない点。

そこで、上記相違点について検討すると、引用例2に記載された技術には、「軌道予測概念は、既知の衛星位置及び速度を初期値とする力学の基本法則に基礎をもつ。軌道予測は、地球、月及び太陽の重力、地球の極回転、地球の恒星回転、歳差運動及び章動、太陽圧、潮汐等を考慮してなされる。」と、衛星に作用する力が列挙されているものの、それらの力のモデルのパラメータを、サーバから受信することは記載も示唆もされていない。
また、周知技術であることを示す文献として引用された引用例3にも、拒絶査定の備考欄で周知技術を示す文献として引用された特表2007-501417号公報(以下、「引用例4」という。)にも、衛星に対する力のモデルのパラメータを、サーバから受信することは、記載も示唆もされていない。
よって、上記相違点は、引用例2に記載されておらず、また、周知技術(引用例3、引用例4)であるともいえないから、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
また、引用発明1では「独立のサーバでもよ」い「データベース130から受信された履歴情報」、つまり「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」の履歴を使用し、「パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ」ているのであるから、「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」の履歴を受信することと、衛星に対する力のモデルのパラメータを受信しないこと、とは表裏一体の関係にあるといえる。よって、引用発明1において、「独立のサーバでもよ」い「データベース130」から「衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル」の履歴を受信しつつ、さらに加えて、衛星に対する力のモデルのパラメータをも受信することは、当業者にとって動機付けられないことである。
よって、本願発明は、引用発明1、引用例2に記載された技術、及び周知技術(引用例3,引用例4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(請求項2ないし10に係る発明について)
本願の請求項2ないし10に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用発明1、引用例2に記載された技術、及び周知技術(引用例3、引用例4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(請求項11ないし18に記載された発明について)
本願の請求項11に係る発明は、本願発明を「方法」として表現した発明であるから、本願発明について述べたのと同様の理由により、引用発明1、引用例2に記載された技術、及び周知技術(引用例3、引用例4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項11ないし18に係る発明は、請求項11に係る発明をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明1、引用例2に記載された技術、及び周知技術(引用例3,引用例4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし18に係る発明は、当業者が引用発明1、引用例2に記載された技術、及び周知技術(引用例3,引用例4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-28 
出願番号 特願2013-33562(P2013-33562)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 清水 稔
須原 宏光
発明の名称 予測及びリアルタイム支援型GPSシステムのための分散軌道モデル及び伝播方法  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 大塚 文昭  
代理人 近藤 直樹  

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