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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1325360
審判番号 不服2016-4558  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-28 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2014-513404「電子機器用筐体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月 7日国際公開、WO2013/165007、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月30日(優先権主張2012年5月1日、日本(JP))を国際出願日とする出願であって、平成27年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月29日付けで手続補正がされたが、同年12月24日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年3月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年10月5日付けで上申書が提出され、その後、当審において同年11月21日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知されたのに対して、平成29年1月19日付けで手続補正がされたものである。

第2 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要

本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



・請求項 1、2、4-6
・備考
本願の請求項1には、「前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、UL94規格に準じる試験法にて5VA規格に適合する電子機器用筐体」なる記載があるが、「ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」が、「UL94規格に準じる試験法にて5VA規格に適合する」ことを可能にする構成が、どのようなものであるのか、請求項1には明確に記載されていない。(本願の【0042】段落を参酌すると、ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)と、熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)との質量比次第では、十分な難燃性及び耐衝撃性が得られず、5VA規格に適合するものが得られない。ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)と熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)の関係を明確にされたい。)。
また、請求項1を引用する請求項2、4-6も同様の理由である。

2.当審拒絶理由の判断
(1)平成29年1月29日付けの手続補正によって、本願の請求項1ないし5は、

「 【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、
変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)、
ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)、及び
熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)、
を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成され、
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、42.6質量部以上かつ120質量部以下であり、
前記ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)と、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)との質量比((C)/(D))が、4/6以上かつ6/4以下の範囲であり、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における、ISO-179に準じて測定したシャルピー衝撃値は、7kJ/m^(2)以上であり、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、UL94規格に準じる試験法にて5VA規格に適合する電子機器用筐体。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、前記変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)との合計を100質量%とした場合において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が50質量%より多く70質量%以下かつ変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)が30質量%以上50質量%未満を満たす請求項1に記載の電子機器用筐体。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)は、ポリエーテル-ポリエステル型エラストマー又はポリエステル-ポリエステル型エラストマーである請求項1又は2に記載の電子機器用筐体。
【請求項4】
前記電子機器用筐体は、OA機器、家電機器又は電気自動車からなる群のいずれかの電子機器の部品を収容する筐体である請求項1から3のいずれか記載の電子機器用筐体。
【請求項5】
前記電子機器の部品が、電源装置部品である請求項4に記載の電子機器用筐体。」

と補正された。なお、下線は審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。

補正後の請求項1に係る発明において、「ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」が、「UL94規格に準じる試験法にて5VA規格に適合する」ことを可能にする構成は、「前記ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)と、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)との質量比((C)/(D))が、4/6以上かつ6/4以下の範囲」であることが明確となり、本願の請求項1に係る発明は明確となった。
請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明も同様に明確となった。

よって、当審拒絶理由は解消した。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年1月19日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2.(1)」に示したとおりである。

第4 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
平成27年7月29日付けの手続補正で補正された本願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開2009-155449号公報
引用例2:特開2009-40808号公報

引用例1に、難燃剤を添加しても良い点、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂や他の強化用充填剤を含んでも良い点が記載されていることを勘案すれば、引用例2の耐衝撃改良剤としてのポリエステル系エラストマー及び難燃剤としてのアンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物を、引用例1のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に添加することは、耐衝撃の向上を目的として当業者が容易になし得たことである。

2.原査定の理由の判断
(1)引用例1の記載事項
引用例1には、「携帯端末部品」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の変性ポリブチレンテレフタレート樹脂と扁平な断面形状を有するガラス繊維とを組み合わせた樹脂組成物を成形することにより、上記目的を達成し得る携帯端末部品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は
(A)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、
(B)扁平な断面形状を有するガラス繊維40?140重量部
を配合してなるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる携帯端末部品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる携帯端末部品は、軽量化効果が高く、剛性および衝撃にも強いため破壊しにくい特徴を持つ。また、成形性に優れ後処理加工が簡略化できるため、製造コスト低減が可能である。本発明は、携帯端末部品の筐体(ハウジング)、補強板(シャーシ)、フレーム、ヒンジ又はこれらの周辺関連部品に好適である。」

イ.「【0011】
本発明に用いられる(A)変性ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、(1)テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と、1,4 -ブタンジオールまたはそのエステル形成誘導体を重縮合反応して得られるポリブチレンテレフタレートを主成分とし、これに5?30モル%のイソフタル酸をコモノマーユニットとして導入した共重合体、あるいは該共重合体を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂、また(2)テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と、エチレングリコールまたはそのエステル形成誘導体を重縮合反応して得られるポリエチレンテレフタレートを主成分とし、これに5?30モル%のイソフタル酸をコモノマーユニットとして導入した変性ポリエチレンテレフタレート共重合体を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂であり、更に(1)、(2)を合わせたイソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの3種を組み合わせたものでもよい。」

ウ.「【0030】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール、ポリアリーレンオキシド、ポリアリーレンサルファイド、フッ素樹脂等が例示される。また、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、エチレン-エチルアクリレート樹脂等の共重合体も例示される。これら他の樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0031】
また、本発明の樹脂組成物には、種々の添加剤(安定剤、成形性改善剤等)を添加してもよい。添加剤としては、例えば、各種安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)核剤(結晶化核剤)、難燃剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、染・顔料等の着色剤、分散等が挙げられる。
【0032】
特に、ポリブチレンテレフタレートと、ポリカーボネートや、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするアルキレングリコール成分が異なるポリエステルを併用する場合は、エステル交換抑制のためにリン系安定剤を添加することが好ましい。用いられるリン系安定剤としては、例えば有機ホスファイト系、ホスフォナイト系化合物およびリン酸金属塩等である。具体例を示すと、ビス(2,4-ジ-t-4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスフォナイト、またリン酸金属塩としては、第一リン酸カルシウム、第一リン酸ナトリウムの水和物等が挙げられる。
【0033】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の強化用充填剤を添加することができる。他の強化用充填剤としては、本発明で規定した以外のガラス繊維、ミルドガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、シリカ、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、黒鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー等の珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナ等の金属酸化物、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の金属の炭酸塩や硫酸塩、さらには炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等が例示され、有機充填剤としては、高融点の芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊維等が例示される。」

エ.「【0036】
また、使用した成分の詳細、物性評価の測定法は以下の通りである。
(1)使用成分
(A)成分
(A-1)イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.65dL/g)
テレフタル酸と1,4 -ブタンジオールとの反応において、テレフタル酸の一部(12.5モル%)に代えて、共重合成分としてのジメチルイソフタル酸12.5モル%を用いた変性ポリブチレンテレフタレート
(A-2)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.69dL/g、ウィンテックポリマー(株)製)
(A-3)イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸12.0モル%変性、固有粘度IV=0.80dL/g、(株)ベルポリエステルプロダクツ製)
(B)ガラス繊維
(B-1) ;扁平な断面形状を有するガラス繊維(長径・短径比:4、平均断面積196μm^(2)、日東紡(株)製)
(B'-1) ;一般的な円形断面形状を有するガラス繊維(長径・短径比:1、平均断面積133μm^(2)、日本電気ガラス(株)製)
(C)白色顔料
(C-1)硫化亜鉛 モース硬度4
(C'-1)ルチル型酸化チタン モース硬度7
尚、実施例6、7、8および比較例5については、表中の組成に更に第一リン酸カルシウムを0.15重量部添加している。
(2)物性評価
<引張強さ>
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、成形機シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、射出成形により引張試験片を作製し、ISO-527(試験片厚み4mm)に準じて測定した。
<シャルピー衝撃強さ>
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、成形機シリンダー温度260℃、金型温度80℃で、射出成形によりシャルピー衝撃試験片を作製し、ISO-179(試験片厚み4mm)に準じて測定した。
(3)そり変形の評価
下記基準で平板の平面度を測定した。
評価成形品;50mm×50mm×厚さ1mmの平板
成形機;FANUC ROBOSHOTα-100Ia
シリンダー温度;260-260-240-220℃
金型温度;80℃
射出圧力;69MPa
平面度測定機;CNC画像測定機クイックビジョンQVH404(ミツトヨ社製)
平面度測定法は平板上の9点(縦横3×3点)にて測定した。
(4)携帯電話ハウジングでの評価
図1に示す携帯電話ハウジングを成形し、(4-1)?(4-3)の評価を行った。
成形機;住友重機工業SE100D
シリンダー温度;270-270-260-230℃
金型温度;100℃
(4-1)携帯電話ハウジングのヒンジ部の曲げ強度
図1のヒンジ部を押し曲げて、破壊強度を測定した。」

・上記アによれば、携帯端末部品は、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるものである。

・上記イによれば、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂は、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを含むものである。

・上記ウによれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂、難燃剤、強化用充填剤を添加することができる。

・上記エ及び表1によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリブチレンテレフタレートを含むものである。また、表1(実施例6-8 参照)によれば、樹脂組成物は、ISO-179に準じて測定したシャルピー衝撃強さが18.3から19.0kJ/m^(2)である。

以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ポリブチレンテレフタレートとイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレートを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に難燃剤、強化用充填剤が添加され、
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ISO-179に準じて測定したシャルピー衝撃強さが、18.3から19.0kJ/m^(2)である
携帯端末部品。」

(2)引用例2の記載事項
引用例2には、「レーザー溶着用熱可塑性樹脂組成物、成形品及び成形品の製造方法」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

オ.「【0002】
自動車、電子・電気機器分野の構造部品は、近年、金属製に代わって軽量化可能な熱可塑性樹脂製品が使われるようになってきた。これら構造部品に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられ、これらの中でも、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂やポリアミド樹脂は、機械的物性、電気特性、耐熱性、寸法安定性、その他の物理的・化学的特性に優れているため、車両部品、電気・電子機器部品、精密機器部品等に幅広く使用されている。近年、その多様な用途の中で、特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂が車両電装部品(コントロールユニット等)、各種センサー部品、コネクター部品等の電気回路部分を密封する製品に、ポリアミド樹脂が、例えば、インテークマニホールドのような中空部を有する製品等に展開されてきている。
これらの電気回路部分を密閉する製品や中空部を有する製品では、複数の部材を溶着又は密封することが必要な場合があり、各種溶着・密封技術、例えば、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術等が使用されている。」

カ.「【請求項1】
少なくとも1種のポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、繊維長さ方向に垂直な断面が下記式による扁平率1.5以上の扁平形状であるガラス繊維(B)10?150重量部を配合してなることを特徴とする、レーザー溶着用熱可塑性樹脂組成物。
扁平率=ガラス繊維断面の長径(D2)/ガラス繊維断面の短径(D1)」

キ.「【0023】
ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」と略記することがある)がより好ましく、テレフタル酸を唯一のジカルボン酸単位とし、1,4-ブタンジオールを唯一のジオール単位とするポリブチレンテレフタレート単独重合体が、成形性や耐熱性の観点から好ましい。本発明において、PBT樹脂とは、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4-ブタンジオールが全ジオールの50モル%以上を占めることをいう。PBT樹脂は、さらに、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸の割合が70モル%以上のものが好ましく、90モル%以上のものがより好ましい。また、ジオール単位中の1,4-ブタンジオールの割合は、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。このようなPBT樹脂を用いることにより、機械的特性及び耐熱性がより向上する傾向にあり好ましい。」

ク.「【0083】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、使用するそれぞれの熱可塑性樹脂(A)の重合途中又は重合後に添加することができる。さらに、熱可塑性樹脂(A)に所望の性能を付与するため、耐衝撃性改良剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤等を配合してもよい。」

ケ.「【0092】
本発明における耐衝撃改良剤としては、オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系及びウレタン系等の熱可塑性エラストマーならびにコアシェルポリマーが挙げられる。
【0093】
・・・(中略)・・・
【0099】
耐衝撃性改良剤は、機械的強度、熱安定性、流動性の観点から、重合体中の好ましくは0.05?5重量%、より好ましくは0.2?4重量%程度が、酸変性又はエポキシ変性されたものが好ましい。
耐衝撃性改良剤の配合量は、少なくとも1種のポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは0.5?40重量部であり、より好ましくは2?35重量部、さらに好ましくは5?30重量部である。配合量を0.5重量部以上とすることにより、耐衝撃性をより優れたものとすることができ、40重量部以下とすることにより、耐熱性、耐紫外線老化性、透過率の低下を抑制することができる。」

コ.「【0100】
難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤が挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リンや、リン原子と窒素原子の結合を主鎖に有するフェノキシホスファゼン、アミノホスファゼン等のホスファゼン化合物等が挙げられる。窒素系化合物としては、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン等が挙げられる。無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。
【0101】
難燃剤の配合量は、少なくとも1種のポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、好ましくは0.1?80重量部、より好ましくは1?60重量部、さらに好ましくは1?50重量部である。配合量を0.1重量部以上とすることにより、難燃性をより効果的に発現することができ、80重量部以下にすることにより、物性、特に機械的強度をより高く保つことができる。」

・上記オによれば、電子・電気機器分野の構造部品は、金属製に代わって軽量化可能な熱可塑性樹脂製品が使われるようになっており、ポリブチレンテレフタレート樹脂に代表されるポリエステル樹脂は、電気・電子機器部品に使用されるものである。

・上記カによれば、熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂を含むものである。

・上記キによれば、ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂である。

・上記クによれば、熱可塑性樹脂組成物に難燃剤、耐衝撃性改良剤等を配合できる。

・上記ケによれば、耐衝撃改良剤としては、ポリエステル系の熱可塑性エラストマーであり、耐衝撃性改良剤の配合量は、少なくとも1種のポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5?40重量部であり、配合量を0.5重量部以上とすることにより、耐衝撃性をより優れたものとすることができ、40重量部以下とすることにより、耐熱性、耐紫外線老化性、透過率の低下を抑制することができる。

・上記コによれば、難燃剤としては、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤が挙げられる。

以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。

「ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む熱可塑性樹脂において、
難燃剤として、アンチモン化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤を配合し、
耐衝撃改良剤として、ポリエステル系の熱可塑性エラストマーをポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5?40重量部配合する」こと。

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「ポリブチレンテレフタレートを含む熱可塑性樹脂」、「イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート」は、それぞれ、本願発明の「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)」、「変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)」に相当する。

b.引用発明の「難燃剤」は、樹脂組成物に配合されるが、本願発明の「ハロゲン原子を含まない難燃剤(C)」のように、ハロゲン原子を含まないとは言及されていない。

c.引用発明の「樹脂組成物をISO-179に準じて測定したシャルピー衝撃強さが、18.3から19.0kJ/m^(2)」であることは、本願発明の「前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における、ISO-179に準じて測定したシャルピー衝撃値は、7kJ/m^(2)以上」であることに相当する。

d.引用発明の「携帯端末部品」は、携帯電話の筐体(ハウジング)であるので、本願発明の「電子機器用筐体」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、
変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)、
難燃剤、
を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から構成され、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における、ISO-179に準じて測定し
たシャルピー衝撃値は、7kJ/m^(2)以上である、
電子機器用筐体。」

<相違点1>
「難燃剤」について、本願発明は「ハロゲン原子を含まない」ものであるのに対して、引用発明にはその旨の特定がされていない。

<相違点2>
「熱可塑性ポリエステルエストロマー(D)」について、本願発明は「前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、42.6質量部以上かつ120質量部以下」であるのに対して、引用発明には「熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)」を含むことが特定されていない。

<相違点3>
「難燃剤(C)と、熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)との質量比((C)/(D))」について、本願発明は、「4/6以上かつ6/4以下の範囲」であるのに対して、引用発明には質量比((C)/(D))の特定がされていない。

<相違点4>
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、本願発明は、「UL94規格に準じる試験法にて5VA規格に適合する」ものであるのに対して、引用発明にはその旨の特定がされていない。

(3)判断
上記相違点2について検討する。
引用発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のシャルピー衝撃強さの値は18.3から19.0kJ/m^(2)であって、7.0kJ/m^(2)をはるかに上回る耐衝撃性を有しているから、引用発明に引用例2に記載の技術を組み合せる動機付けがない。
また、引用発明が、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関するもの、引用例2に記載のものもポリブチレンテレフタレート樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂である点で共通しており、さらに、引用発明では、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂、添加剤、強化用充填剤を含んでもよいことから、仮に、引用発明に引用例2の技術事項を適用し、ポリエステル系の熱可塑性エラストマーを配合するようにすることが容易であるとしても、引用例2の段落【0099】の「配合量を0.5重量部以上とすることにより、耐衝撃性をより優れたものとすることができ、40重量部以下とすることにより、耐熱性、耐紫外線老化性、透過率の低下を抑制することができる」との記載を鑑みれば、本願発明の「熱可塑性ポリエステルエラストマー(D)の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、42.6質量部以上かつ120質量部以下」の数値限定である相違点2の構成とすることまで容易であるとはいえない。
してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2-5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、当審で通知した拒絶理由及び原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2014-513404(P2014-513404)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H05K)
P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
安藤 一道
発明の名称 電子機器用筐体  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  

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