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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01J |
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管理番号 | 1325380 |
審判番号 | 不服2015-15773 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-08-26 |
確定日 | 2017-03-16 |
事件の表示 | 特願2013-547668「イオン注入の改善された静電トラップ質量分析計」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月 5日国際公開、WO2012/092457、平成26年 1月20日国内公表、特表2014-501439、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の概要 本願は、2011年12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月29日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成26年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年12月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年4月23日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。 本件は、これに対して、平成27年8月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 その後、当審において、平成28年4月4日付けで拒絶理由(以下、「当審拒理(1)」という。)が通知され、同年10月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒理(2)」という。)が通知され、平成29年1月25日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 第2 本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年1月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1?9に係る発明、(以下、「本願発明1」?「本願発明9」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 静的で傾斜化されていない電位を有するトラップ電極を含む分析静電トラップ(14)での質量スペクトル分析の方法において、 無電界領域によって離間されている反射性電界領域を有する静電トラッピング電界であって、第1のX方向の等時性イオン振動と第2の横断するY方向の空間的集束による移動イオンの不定トラッピングとを提供していて、実質的に第3のZ方向に延ばされている、静電トラッピング電界、を形成する段階と、 少なくとも100イオン振動サイクルに亘って提供されたイオンビームを前記トラッピング電界の中へ前記第1のX方向に対して所定の傾斜角度で注入する段階と、 トラップされたイオンの運動を起こさせる段階と、 振動する前記イオンによって生じる画像電流信号を検出する段階と、 前記信号を、振動周波数のスペクトルへ変換し、それに続けて(m/z)スペクトルへ変換する段階とを備え、 前記第3のZ方向が、周回方向である、方法。 【請求項2】 イオンビームの注入の期間と期間の間に、イオンを高周波(RF)電界に中間的に蓄積する段階を更に備えている、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記反射性静電界領域は、(i)イオンミラーの電界、(ii)静電セクタの電界、及び(iii)イオンミラーと静電セクタの両方の特徴を有するハイブリッド電界、から成る群より選択された少なくとも1つの電界領域を備えている、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記Z方向に延ばされている静電界は、中空円柱形電界を備えている、請求項1から請求項3の何れかに記載の方法。 【請求項5】 前記イオンビーム注入の段階は、オンとオフに切り替えることができる操舵手段を有する無電界空間を介して注入する段階を備えている、請求項1から請求項4の何れかに記載の方法。 【請求項6】 前記画像電流信号を周波数スペクトルへ変換する段階は、フーリエ分析か又はフィルタ対角化法(FDM)のどちらかを備えている、請求項1から請求項5の何れかに記載の方法。 【請求項7】 静電トラップ質量分析計において、 イオンビームを形成するためのイオン源(12)と、 無電界領域によって離間されているイオン反射領域を有する静電トラップ(14)であって、当該静電トラップの電極の形状及び電位が、第1のX方向の等時性イオン振動と第2のY方向の空間的イオン閉じ込めを提供しており、前記トラップは実質的に第3のZ方向に延ばされている、静電トラップ(14)と、 静電トラップ電位を傾斜させることなしに、前記静電トラップの中へ前記イオンビームを導入するための手段と、 トラップされたイオンの少なくとも一部の運動を起こさせるための手段(18)と、 移動するイオン雲によって生じる画像電流信号を測定するための検出器と、 検出器信号波形から質量スペクトルを再構築するための手段とを備え、 前記第3のZ方向が、周回方向である、静電トラップ質量分析計。 【請求項8】 イオン蓄積のため、及び前記イオンビームの周期的放出を提供するための、高周波イオンガイド(13)を更に備えている、請求項7に記載の静電トラップ質量分析計。 【請求項9】 前記静電トラップ(14)は、(i)少なくとも2つの静電イオンミラー、(ii)少なくとも2つの静電偏向セクタ、及び(iii)少なくとも1つの静電イオンミラーと少なくとも1つの静電偏向セクタ、から成る群より選択された電極を備えている、請求項7又は請求項8に記載の静電トラップ質量分析計。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特表2005-538346号公報 引用文献2:特表2009-512162号公報 引用文献3:特表2010-509732号公報 引用文献4:特表2010-531038号公報 引用文献5:特表2007-526596号公報 引用文献1(特に、【0117】?【0120】及び図16を参照)には、円筒162、163によって形成される自由飛行チャネルと、集束円筒164及び反射円筒165を含む2つの静電ミラーを有するマルチパスセパレータ161に、イオンビームを注入する段階を備え、イオンがミラー間で複数の跳ね返りを生じつつ、円筒(162,163)間の空間を周回する、質量スペクトル分析方法が記載されている。 引用文献2(特に、【0024】、【0027】、【0056】を参照)には、静電トラップによる多重反射を用いた質量スペクトル分析方法において、静電トラップに注入するイオンビームを連続イオンビームとする技術が記載されている。 引用文献3(特に、【0044】を参照)には、静電トラップによる多重反射を用いた質量スペクトル分析方法において、振動RFポテンシャルを印加する技術が記載されている。 引用文献4(特に、【0029】を参照)には、静電トラップによる多重反射を用いた質量スペクトル分析方法において、静電トラップ内のイオンの振動による誘導電流信号をフーリエ変換して質量スペクトルに変換する技術が記載されている。 例えば、引用文献5(特に、図16を参照)にも記載されているとおり、静電トラップを多重化し、両者を独立に使用することは、周知の技術である。 そして、引用文献1に記載された発明に、引用文献2?3に記載された技術及び周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。 2 原査定の理由の判断 (1)各引用文献の記載事項 ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (ア)「【発明を実施するための最良の形態】 【0028】 発明の詳細な説明 方法 この発明のタンデム質量分析の方法は、 1.異なる検体イオンの混合物を含むイオン供給源でイオンパルスを生成するステップと、 2.低エネルギで動作する第1の飛行時間型質量分析計内で検体イオンを時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成するステップと、 3.前記分離されたイオンパケットを混合することなく、検体イオンを順番に断片化するステップと、 4.第1の分離のステップのタイムスケールよりもずっと短いタイムスケールで第2の飛行時間型質量分析計内で断片イオンを急速に質量分析するステップと、 5.イオン供給源からの単一のイオンパルスで複数の検体イオンの質量対電荷比に対して断片質量スペクトルを取得するステップと、 6.任意で複数の供給源のパルスにわたって検体イオンの各々に対して断片スペクトルを合計するステップとを含む。 【0029】 7.この方法の鍵は、同じ質量対電荷比に対する断片化時間および断片質量分析の時間よりもはるかに長い第1のTOFでの分離時間を配置している点である。タイムスケールにおける実質的な差は、イオン供給源からの単一のイオン注入当り複数の親イオンに対して、分離し、断片化し、断片を質量分析するために使用される。タイムスケールにおける実質的な差は、第1のTOFでより長い飛行経路、および/または低いイオンのエネルギを選択することにより実現される。 【0030】 ブロック図 図1を参照すると、この方法が主なタンデムMS-MSの構成要素のブロック図により示される。タイムネストされた取得(11)を用いた一般的なTOF-TOF機器は、順番に通信するパルスイオン供給源(12)、第1の飛行時間型質量分析計-TOF1(13)、断片化セル-CID/SID(14)、第2の飛行時間型質量分析計TOF2(15)、およびタイムネストされた取得のためのデータシステム(16)を含む。パルスイオン供給源は、TOF1分析計と比較して電圧源(17)により小さな電位差でバイアスされ、TOF1は、CIDセルと比較して電圧源(18)により電位差でバイアスされる。TOF1の分離を向上するため、任意の時限式ゲート(19)をTOF1(13)とCIDセル(14)との間に挿入してもよい。 【0031】 動作 簡単に言うと、動作において、パルスイオン供給源は検体(親)イオンのイオンパルスを生成し、電圧源(17)により制御される、1から10eVの間の小さなエネルギでイオンをTOF1に注入する。これがこの発明と先行技術との鍵となる差である。TOF分析計は通常3から30keVの間のエネルギで動作するためである。TOF1での分離は数ミリ秒で行なわれる。案内となる例として、TOF1=8mの有効長、イオンエネルギE=3eVおよびイオン質量m=1000a.uを考える。そのような例では、イオン速度はV=800m/sであり、飛行時間は10msである。時間分離された親イオンは、TOF1とセルとの間のDCバイアスにより制御される、増加されたエネルギでTOF1からCIDセルに順番に排出される。ガス分子とのエネルギ衝突が親イオンを断片に変える。後続のガス衝突により断片イオンの衝突減衰が生じる。断片はセルを通って急速に移動し、TOF2分析計に注入される。TOF2は、10から100usの間のはるかに短いタイムスケールで断片イオンを分離する。TOF1とTOF2とのタイムスケールにおける劇的な差により、供給源パルス間の異なる親イオンに対応する複数の断片スペクトルのデータ取得が可能となる。特別なデータ取得システム(16)は、タイムネストされた態様で複数の断片スペクトルを取得し、個々のスペクトルはともに混合されない。各親イオンに対する断片スペクトルはいくつかのイオン供給源パルスにわたって統合される。イオン供給源で生成されたイオンパルスは、すべてのステージでイオンを拒否することなく、複数の親に対するMS-MSデータの完全なセットを取得するために使用される。 【0032】 時間図 図2を参照すると、典型的な時間図が、この発明の方法、個々の装置の同期、およびタイムネストされたデータ取得の原則を示す。上部のグラフ(21)は取得サイクルを示し、イオンの注入は10msごと、すなわち、1秒に100回行なわれる。親イオンは10msの時間内でTOF1で分離され、CIDセルは、親イオンの質量に従って整列されたイオンパケットの列を受取る、グラフ(22)。親イオンはセル内で部分的に断片化され、セル内での短い伝達時間のため、断片はそれらの親とほぼ同時にTOF2に到達する、グラフ(23)。イオンの各新しい系統(すなわち、親および娘)は、10usごとに高エネルギのTOF2へと直交パルスされ、各親の質量に対するTOF2スペクトルを生成する、グラフ(24)。各TOF2スペクトルは、供給源パルスに関するTOF2のパルスのタイムタグ、すなわち、TOF1タイムタグ獲得する。同じTOF1タイムタグを備えたスペクトルは、2つのTOF2スペクトルを同じTOF1タイムタグと接続する破線によって示されるように、複数のイオン供給源パルスにわたって合計される。 【0033】 頑強モード 上述の動作モードでは、タイムネストされた取得は直接的に行なわれる。機器の動作パラメータは、イオン供給源からのイオンビームの構成にかかわらず同じであり、データはずっと取得される。親イオンスペクトルおよびさまざまな親に対する断片スペクトルのようなすべての情報は、後続のデータ分析で抽出される。 【0034】 データ依存取得-DDA 「データ依存取得」と呼ばれるべき別の動作モードでは、MS-MS分析は2つのステップで行なわれる。第1のステップでは、親の質量スペクトルがTOF2で取得され、TOF1およびCIDセルは、断片化なしに連続してイオンを通過させる。第2のステップでは、機器はMS-MSとして動作され、すなわち、TOF1は親イオンを分離し、断片化セルは断片を形成し、TOF2はタイムネストされたデータの態様で断片質量スペクトルを取得する。タイムネストされた取得は、親イオンの質量についての情報を利用し、かつ親イオンが来ない空白時間でのデータの取得を回避することにより向上される。任意の時限式ゲート(19)を使用して、TOF1の分離および化学的な雑音の抑制を向上してもよい。当然、TOF1から来るイオンパケットは、CIDセルの出口の同じイオンパケットよりも短いことが予想される。時限式ゲートは、親イオンの到達に対応する複数の狭い時間窓でのみイオンを入れる。そのようなゲーティングは化学的な背景から来るイオン信号を抑圧し、検出の限界を改善する。ゲートの操作を使用して、感度を犠牲にすることにより近い質量の親イオンの対の分離を向上してもよい。MS-MSデータのいくつかのセットが取得され、時限式ゲートは一度に対の1つの親の質量のみを入れる。」 (イ)「【0112】 マルチパスTOF1 図15を参照すると、さらに「静電マルチパスセパレータ」と呼ばれる、この発明の第1(すなわちTO1)の飛行時間型セパレータ(151)の別の好ましい実施例は、自由飛行チャネル(152)、および集束電極(154)ならびに反射電極(155)を含む2つの静電ミラー(153)を含む。自由飛行チャネル152は入口および出口の窓(156)を有する。すべての電極はY軸に沿って延在し、静電場はイオンの経路の区域で2次元である。パルスイオンビームは空間的な集束レンズ(157)およびステアリングプレート(158)のセットを介してマルチターン静電TOF151に導入される。イオンのイオン経路は線(159)によって示される。典型的な軸方向の電位分布U(x)はグラフ160によって示される。 【0113】 動作において、イオンパルスはレンズ158により平行なビームに集束され、プレート(159)によってステアリングされる。ビームはX軸に対して小さな角度で入口の窓156を介してセパレータ151に導入される。イオンはX軸に沿って複数の反射を生じつつ、Y軸に沿って低速で漂流する。複数のフルターンの後(各フルターンは反射の対によって形成される)、イオンは出口の窓157を通ってセパレータを出て、それらのm/z比に従って時間分離される。フルターンの数は注入角度によって異なり、両方ともステアリングプレートの電位によって調節可能である。 【0114】 静電ミラーは、当該技術分野で周知である、グリドルTOFのミラーと同様に設計される。ミラー電極に印加される静電電位は、空間的な集束および飛行時間集束の条件を満たすように調節される。グラフ160は、それら要件を満たす軸方向の電位分布U(x)の種類を示す。Z方向に沿った空間的な集束を提供するため、静電ミラー153の各々は、自由飛行領域(破線によって示される)の中央面の近くにある焦点を備えたレンズを形成する。イオンビーム(線159)は入口の窓156で平行なビームとして開始する。右側のミラーでの第1の反射の後、ビームは中間面にある点に集束される。なお、すべてのイオンの集束は、軸に交差する単一のイオンの軌道によって図面では示される。左手のミラーでの反射の後、ビームは再び平行なビームに変換される。 【0115】 SIMIONプログラムを使用した発明者のイオン光学機器のシミュレーションによると、特定のTOF1 151での空間的な集束は、少なくとも1次での飛行時間集束と互換性があり、すなわち、当初のエネルギおよび直交する変位での飛行時間の第1の導関数はゼロに等しい。イオンビームは、当初の空間的な拡散がTOF1の幅の5%より少なく、かつ角度の拡散が2度より小さい場合のみ閉じ込められる。3%より下のエネルギの拡散では、TOF1の飛行時間分解能は10,000を超える。そのような当初の条件は、線形の蓄積四重極からのパルス排出の後に約30電子ボルトに加速されるイオンビームに対して現実的である。 【0116】 他の実施例と比較して比較的高いエネルギ(30から100eV)での動作は、TOF1でのミリ秒のタイムスケールの分離を実現するためにTOF1での長いイオン経路(30から100m)を必要とする。イオン経路は、TOF1の設計の複雑さが少ないこと、およびその静的な動作のため、容易に延長可能である。約20のフルイオンターンを用いた1mの長さの機器は、少なくとも50mの有効な飛行経路に対応する。 【0117】 円筒形のマルチパスTOF1 図16を参照すると、この発明の別の好ましい実施例は、2次元の場を円筒形の場へと折畳むことにより形成された、変形された静電マルチパスセパレータを示す。この実施例では、小型の設計のために円筒形のマルチパスセパレータ(161)と呼ばれ、各細長い電極は、同軸の円筒の対、すなわち、内部および外部の円筒の対に変換される。セパレータ161は、円筒(162,163)によって形成される自由飛行チャネル、および集束円筒(164)ならびに反射円筒(165)を含む2つの静電ミラーを含む。自由飛行チャネル162の外部の円筒は入口および出口の窓(166)を有し、ビームデフレクタ(170)を備える。パルスイオンビームは、空間的な集束レンズ(167)を介し、ステアリングプレート(168)の対を介し、入口の窓166およびデフレクタ170を通じて、セパレータ161に導入される。イオン経路は線(169)によって示される。 【0118】 動作において、円筒形のセパレータは上述の2次元の静電マルチパスセパレータに非常に類似している。イオンはミラー間で複数の跳ね返りを生じさせられつつ、レンズの電極によって空間的に集束される。イオンを同じ半径の軌道の近くに保持するため、付加的な電位が外部および内部の円筒162ならびに163の間に印加される。半径方向の偏向電位を電極164および165の外部および内部の円筒の間に印加してもよい。 【0119】 イオンの入口および出口は複数の態様で組織することができる。図16Bは、X軸に沿ってイオンビームを整列する後続の水平な偏向を用いたスリット型の窓166Bを通じたイオンの導入の例を示す。フリンジ場を低減するため、デフレクタ170Bはメッシュによって囲まれる。図16Cは、円筒形の分析器の全体のセグメントのカットアウトを通じたX軸に沿ったイオンの導入の例を示す。ビームはプレート170Cによる水平な偏向の後に分析器に注入される。場の歪みは、カットアウト内で両面PCB、等電位を使用することにより最小化され、円筒形の分析器に向かって配向された側の分散された電位を備える。上述の低速の静電マルチパスセパレータは、上述のパルスイオン供給源、断片化セル、および高速の第2のTOFとのさまざまな組合せでこの発明の包括的なタンデムTOF分析計で使用するために提案される。」 (ウ)「【図1】 【図2】 【図15】 【図16】 」 段落【0112】?【0116】及び図15に記載された「マルチパスTOF1」と段落【0117】?【0119】及び図16に記載された「円筒形のマルチパスTOF1」とは、2次元の場か円筒形の場かの違いがあるが、他の基本的な構成が共通することは明らかである。 すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「円筒(162,163)によって形成される自由飛行チャネル、および集束円筒(164)ならびに反射円筒(165)を含む2つの静電ミラーを含み、自由飛行チャネル(162)の外部の円筒は入口および出口の窓(166)を有し、ビームデフレクタ(170)を備える円筒形のマルチパスセパレータ(161)内で親イオンを時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成する方法であって、 パルスイオンビームは、空間的な集束レンズ(167)を介し、ステアリングプレート(168)の対を介し、入口の窓(166)およびデフレクタ(170)を通じて、X軸に対して小さな角度で、セパレータ(161)に導入され、 ビームはプレート(170C)による水平な偏向の後に分析器に注入されて、場の歪みは、カットアウト内で両面PCB、等電位を使用することにより最小化され、 イオンはミラー間で複数の跳ね返りを生じさせられつつ、レンズの電極によって空間的に集束され、イオンを同じ半径の軌道の近くに保持するため、付加的な電位が外部および内部の円筒(162ならびに163)の間に印加され、 複数のフルターンの後(各フルターンは反射の対によって形成される)、イオンは出口の窓(166)およびデフレクタ(170)を通ってセパレータ(161)を出て、それらのm/z比に従って時間分離され、フルターンの数は注入角度によって異なり、両方ともステアリングプレート(168)の電位によって調節可能である、方法。」 イ 引用文献2には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には、多重反射型飛行時間質量分析計(MR‐TOF MS)を含む装置及び方法、並びに低い繰り返し速度での直交注入のデューティーサイクルを改善する装置及び方法に関する。」 (イ)「【0029】 図1を参照すると、直交イオン加速器を備えたMR-TOF MS11の第一の実施形態のX-Z平面における上面図が示されている。図示のように、MR-TOF MSは、一組のグリッド無しイオンミラー12、ドリフト空間13、直交イオン加速器14、偏向器15(任意)、イオン検出器16、一組の周期的レンズ17、及びエッジ偏向器18を有する。各イオンミラー12は、平面状且つ平行な電極12C、12E及び12Lを有する。ドリフト空間13は構成要素14?18を収容する。更に、図1は、図の略X-Z平面に沿って方向付けられた中央イオン軌道19を示す。 【0030】 更に、X-Y平面における側面図21を示す図2も参照すると、MR-TOFの第一の実施形態は、イオンビーム 23を発生する一般的なイオン源22を有する。更に図2はX軸25及びY軸26を規定しており、Y軸はイオン軌道面に対して垂直である。更に図2は、24で示す小さな角度αだけY軸に対して傾斜しているイオンビームを示す。角度αは、好ましくは10度未満、より好ましくは5度未満、更に好ましくは3度未満である。換言すると、初期ビームは、イオン軌道面に対して略直角(即ち、垂直)にMR-TOF分析計に導入される。イオンビームの方向を以下詳細に検討する。 【0031】 上のように平面グリッド無しイオンミラー12を周期的レンズ17と組み合わせると、同時係属出願中のPCT特許出願WO2005/001878 A2に記載の多重反射型TOF質量分析計が形成される。この特許出願の全体を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。この分析計は、イオンミラー12によるイオンパケットの多重反射(ここではX軸方向)とゆっくりとしたドリフト(ここではZ軸方向)とによって特徴付けられており、これらによりX-Z平面に平行なのこ刃状のイオン軌道が形成される。中央軌道19に沿ったイオンドリフト及び閉じ込めは、一組の周期的レンズ17によって強制される。エッジ偏向器はイオン経路を2倍にできる。この分析計は、高次の空間及び飛行時間収束が可能であり、全質量範囲を維持しながら飛行経路を大幅に延ばす。MR-TOF MSへのイオンの導入の細部は本発明の一主題である。 【0032】 動作においては、イオン源22は、連続、準連続又はパルス状のイオンビーム23を形成する。イオンビームは、実質的にY軸に沿って、例えばX-Z平面(軌道面ともいう)を実質的に横切って角度αで導入される。角度αは、10度未満、好ましくは5度未満、より好ましくは3度未満である。イオンビームは、直交加速器14において周期的電気パルスによってイオンパケット19に変換され、直交加速器14は実質的にX軸に沿ってイオンパケットを放出する。他の箇所に記載の直交加速器の動作原理によれば、形成されたイオンパケットは、Y軸に沿って延びており、特定の実施形態によってはY軸に対して若干傾斜している。偏向器15は、イオンをX-Z平面に平行となるように旋回する。イオンは、Z軸方向にゆっくりドリフトしながらX軸方向に多重反射し、X-Z平面においてのこ刃状のイオン軌道を形成する。イオンパケットは、周期的レンズ17によって収束され偏向器18により偏向された後、飛行時間スペクトルを記録するための検出器16に到達する。」 (ウ)「【図1】 【図2】 」 すると、上記引用文献2には、以下の技術事項(以下「引用文献2の技術事項」という。)が記載されている。 「多重反射型飛行時間質量分析計(MR‐TOF MS)のMR-TOF分析計に、連続、準連続又はパルス状のイオンビーム23を形成するイオン源22から初期ビームは、イオン軌道面に対して略直角(即ち、垂直)に導入されること。」 ウ 引用文献3には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (ア)「【0041】 自己共鳴による放出 先の章で説明したように、図2Bで示したような非調和ポテンシャルを有する静電型トラップにおけるイオンエネルギーの自己共鳴励起は、純粋な静電型トラップからイオンを質量選択的に放出させるのに利用することができる。自己共鳴状態は、数多くある様々な手段によって達成することができる。静電型トラップからのイオンの自己共鳴放出に用いることができる2つの基本的な動作態様を、図3に示された好ましい実施形態を扱う本章で説明する。この好ましい実施形態は、図1に示されたトラップの好ましい実施形態に基づいたものであり、図2Bの実線の曲線で実質的に表すことが可能な、Z軸心沿いのトラッピングポテンシャルを特徴とする。 【0042】 図3に示された、質量分析計の好ましい一実施形態において、静電型イオントラップは円筒対称なカップ状の電極1,2を備えており、これら電極1,2はそれぞれ、イオントラップの円筒の直線状軸心の中央に位置し、電極1,2の中ほどに開口を有する平面状のトラップ用の電極3に対して開いている。中央の電極3は、半径r_(m)の軸方向に開いた開口を有する。電極1,2は内径rを有する。電極1,2により、z方向におけるトラップの側方全長2×Z_(1)が形成されている。電極1,2はそれぞれ、半径r_(i),r_(o)の軸方向に開いた開口4,5を有しており、これら開口4,5は、半透過性の導電(conducting)メッシュで充填されている。電極1における開口4内のメッシュにより、高温のフィラメント16からの電子をトラップ内に送り込むことができる。フィラメント16から発せられる電子は電子軌道18に沿ってトラップ内に進入し、電極1,3間に達した後、トラップから脱出する。最大の電子エネルギーは、フィラメント用のバイアス電源10によって設定される。電子発生電流は、フィラメント電源19を調整することにより制御される。トラップ内の気体種に電子が衝突することにより、この気体種の一部がイオン化される。これによって生じる正イオンは、トラップ内の電極1,2,3間にまず閉じ込められる。これらのイオンは、非調和ポテンシャル場内をz軸心に沿って移動する。トラップ内のポテンシャルは、オフセット源22によって小さい直流バイアスU_(i)が電極1に印加されていることにより、中央の電極3に関して若干の非対称になっている。この実施形態において電極2は接地されている。電極3における強力な負の直流トラッピングポテンシャルU_(m)は、静電バイアス電源であるトラップバイアス電源24によって印加されている。直流電圧ポテンシャルに加えて、プログラム可能な周波数のRF電源21から、小さいRFポテンシャルV_(RF)(ピーク・トゥ・ピーク値)が外側の電極1に印加されている。このトラップ構造は中央の電極3に関して対称であり、電極1,3間の容量結合は電極3,2間の容量結合にほぼ等しい。電極3におけるRFポテンシャルは、抵抗R23によって、トラップバイアス電源24から抵抗分割(resistively decoupled)されている。すなわち、電極1に印加されたRFポテンシャルの半分が中央の電極3で拾われ、且つ、RF場の振幅は、開口4に位置する電子送入メッシュから開口5に位置するイオン放出メッシュにかけて、中央軸心に沿ってスムーズかつ対称的に変化する。 ・・・中略・・・ 【0044】 第1の好ましい動作態様において、捕捉されたイオンの固有振動数とほぼ同一の周波数を有する、交流励起源としてのRF電源21の小さい振動RFポテンシャルを、側方のトラップ用の一方の電極1に印加することにより、その印加されたAC(交流)/RFポテンシャルV_(AC/RF)と全く同一の振動数f_(d)でイオンが振動するまで、イオンエネルギーが増強(または減衰)される。この印加された周波数を減少掃引させると、この印加された周波数で位相ロック状態に留まったまま、イオンの振動の振幅は非調和場(図2B)によって増加の一途を辿ることになる。つまり、駆動RF周波数f_(d)を単に減少掃引させることにより、同一の質量電荷比(M/q)を有する全てのイオンが、イオン化領域内で最初に生成された際の時間または場所に関係なく、同時にトラップを脱出することができる。質量と振動数との間には、一対一の写像の関係が成り立つ。すなわち、各々の質量電荷比M/qは、それぞれ固有振動数f_(M)を有する。イオンは、トラップを脱出すると、質量スペクトルを生成するのに必要な電子増倍装置などの適切な検出器17によって検出されたり、または必要に応じてパルスイオンビーム源から所望の箇所に向けて単純に発射されたりできる。典型的な質量スペクトルには、多くの質量電荷比M/q数値が貢献する。所与の中央電極のポテンシャルU_(m)に対する、発生するイオンの固有振動数f_(M)に相当するRF周波数は、f_(M)α(M/q)^(1/2)の関係を有し、(M/q)^(1/2)に比例する。典型的な動作条件下では、単一の質量電荷比M/qである構成単位の放出に用いるRFサイクルの数を均一化するために、駆動周波数が経時的に非線形掃引される。さらに、RF周波数は、掃引サイクル毎に全てのM/qイオンをトラップから放出できるような十分に幅広い範囲にわたって、高い周波数から低い周波数に常に減少掃引される。交流駆動振動数f_(d)を掃引してイオンを放出するのに必要な制御システムは、図3およびこれ以降の各実施形態において符号100で概略的に示されている。このような走査制御部100が必要であることは、当業者には明らかであろう。」 (イ)「【図1】 【図2B】 【図3】 」 すると、上記引用文献3には、以下の技術事項(以下「引用文献3の技術事項」という。)が記載されている。 「円筒対称なカップ状の電極1,2を備えた静電型イオントラップにおいて、捕捉されたイオンの固有振動数とほぼ同一の周波数を有する、交流励起源としてのRF電源21の小さい振動RFポテンシャルを、側方のトラップ用の一方の電極1に印加すること。」 エ 引用文献4には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、多重反射イオン光学装置に関する。本発明は特に、限定されるわけではないが、多重反射飛行時間型(multi-reflecting time-of-flight(TOF))質量分析器に関する。すなわち、多重反射によって飛行経路の距離が伸張された飛行時間型質量分析器に関するものであり、また、そのような飛行時間型質量分析器を含む飛行時間型質量分析装置に関する。本発明はまた、例えば、イメージ電流検出法を採用した静電イオントラップ、質量選択を行ってイオンを放出するように構成されたイオントラップ、イオン蓄積器として用いられるイオントラップのような、イオントラップ型の多重反射イオン光学装置に関する。」 (イ)「【0028】 提案されるシステムのアクセプタンスはX軸及びY軸の横方向において非対称である。この特性は、イオン雲がイオントラップ軸に沿って伸張される線形イオントラップ(linear ion traps: LIT)に基づくいくつかの先進的なイオン源に適している。そのような源においては、エミッタンスを減少させるために衝突冷却を利用することができる。LIT源は三次元イオントラップ源やMALDIと比較してずっと大きな電荷容量を有している。このことを念頭において、本発明の他の実施形態では、本イオン光学装置をイオントラップとして動作させる。すなわちイオントラップ内でのイオン運動に応じてマススペクトルを生成するイメージ電流検出を利用するイオントラップの形態を有する。 【0029】 Z軸(飛行)方向における理想的なエネルギー収束の故に、m/zが類似するイオンパケットは、多数回の(実際、何百万回という)振動があったとしても、軌跡に沿って広がることがない。荷電粒子は近くの電極上に表面電荷を誘導することが知られている。イオントラップ内におけるイオン雲の振動により、この誘導電荷は飛行領域を囲む一対の電極に接続された回路内に交流電流を生成する。この電流は感度の高い検流計によって測定し、記録することができる。時間領域信号をフーリエ変換(Fourier transform: FT)することによって試料のマススペクトルが得られる。これは、二次のポテンシャルにおけるイオン振動の振動数は、m/zの平方根に反比例するという事実に基づく。従って、本発明に係るイオン光学装置はイメージ電流検出及びフーリエ変換処理を利用する静電イオントラップとして用いることが可能である。」 すると、上記引用文献4には、以下の技術事項(以下「引用文献4の技術事項」という。)が記載されている。 「多重反射イオン光学装置(特に、限定されるわけではないが、多重反射飛行時間型(multi-reflecting time-of-flight(TOF))質量分析器を、イオントラップ内におけるイオン雲の振動により、飛行領域を囲む一対の電極に接続された回路内に生成される交流電流を感度の高い検流計によって測定、記録して、時間領域信号をフーリエ変換(Fourier transform: FT)することによって試料のマススペクトルを得る、イメージ電流検出及びフーリエ変換処理を利用する静電イオントラップとして用いること。」 オ 引用文献5には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、詳細には多重反射飛行時間型質量分析計(MR-TOF MS)及びその使用方法に関する。」 (イ)「【0106】 図16は、高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171の好ましい実施形態を示す。タンデム171は、第1のMR-TOFにおいて時限イオン選択を使用しまたフラグメント分析のために第2の多重反射分析装置31Bを使用すること以外、前述のタンデムTOF-TOF151と類似している。第2のMR-TOF分析装置31Bは、第1のMR-TOFとある程度類似している。これは、無電界領域14B、2つの平面グリッドレスミラー15B、1組の周期的レンズ17B、検出器34B、及び1対のエッジ偏向器32Bと33Bから成る。また、第2の分析装置31Bは、飛行経路調整用に、第2の周期的レンズセット17Bに組み込まれた追加のレンズ偏向器173を含む。 【0107】 タンデムMS171の他の要素は、前述の要素と類似している。パルスイオン源51は、連続イオン源、二重蓄積イオンガイド、及び加速器から成る。前述の第1のMR-TOF MS31Aは、無電界領域14A、2つの平面グリッドレスミラー15A、1組の周期的レンズ17A、1対のエッジ偏向器32Aと33A、オフライン検出器34A、及び時限イオンセレクタ172(第2のMR-TOF 31Bには使用されていない)から成る。前述の高速フラグメンテーションセル152は、ポート157を介してガスが比較的高いガス圧(0.1?1Torr)で充填された短い(5?30mm)RF四重極158を含む。この四重極は、両端に集束レンズ154を有する状態で内側セル156によって取り囲まれている。セルは、例えば、軸方向DC電界を変調することによってセル内を通過するイオンを減速し加速する手段159と160を有することが好ましい。 【0108】 動作において、イオンは、パルスイオン源51に蓄積され、飛行時間分離のために第1のMR-TOF分析装置31A内に放出される。分離されたイオン又はそのようなイオンの一部は、時限イオンゲート172によってフラグメンテーションセル152に入れられ、そこでイオンはフラグメント化される。フラグメントイオンは、周期的に、質量分析のためにセル152から第2のMR-TOF分析装置31Bにパルス式に送られる。以下では、2つのタンデム動作モード、即ち並行MS-MS分析の高スループットモードと、順次MS-MS分析の高分解能モードについて説明する。 【0109】 最初の高スループットモードにおいて、第1の分析装置は、約-50Vに調整された浮遊可能な無電解領域14Aの電位によって制御された低いイオンエネルギーで動作する。分離には約10ミリ秒時間かかり、全ての親イオンがフラグメンテーションセル152に入る。時限イオンゲート172は、親イオンを入れている間オフのままであるが、溶媒イオンと化学バックグラウンドイオンの大部分を含む低質量範囲の抑制に使用されることがある。第2の分析装置は、約-5kVに保持される無電解領域14Bの電位によって制御される高イオンエネルギーに調整され、即ちイオン速度は、第1の分析装置よりも1桁大きい。第2の分析装置内の飛行経路は、イオンドリフト方向を戻す追加の偏向器173を使用することによって実質的に短縮される。イオンは、イオンミラー15Bで2回だけ反射され、検出器34Bに導かれる。フラグメントイオンの代表的な飛行経路は、約0.5mになり、即ち、第1のMR-TOF31Aよりもほぼ2桁短くなる。時間スケールは、およそ3桁異なり、これにより、時間入れ子データ収集による複数の親イオンの前述の並行MS-MS分析が可能になる。この分析によって、一連の所望のフラグメントを有する親イオンの迅速な割り当てが可能になる(例えば、いわゆるイミニウムイオン(immonium ion)の存在によって、アミノ酸で構成されたペプチドが決定される)。親イオン質量に関する情報は、より高い分解能とより高い特定性を有する第2の分析モードにおける詳細なMS-MS分析の促進に使用することができる。 【0110】 第2の高分解能測定モードにおいて、両方のMR-TOF分析装置は、高いエネルギーと分解能で動作する。エネルギーは、無電解領域14Aと14Bの両方に負の高電位(例えば、-5kV)を印加することによって調整される。代表的な30mの飛行経路において、飛行時間は約1ミリ秒であると思われる。その結果、パルスイオン源の周波数を1kHzに調整する必要がある。第2の蓄積装置の抽出パルスは、高分解能MR-TOF MS内で使用されているものと類似のより強い電界を提供するように調整される。より高い電圧(例えば-5kV)パルスが射出孔92に印加され、対応する正の高電圧パルス(+5kV)が補助電極84に印加される。より強い電界に比例して、サイズ0.5mmのイオン雲の場合、ターンアラウンドタイム(5?10ナノ秒)が減少し、イオンエネルギーの広がり(100?200eV)が拡大すると推定される。第1のMR-TOF分析装置の予想分解能は、約50,000?100,000であると予想される。 【0111】 そのような分解能で単一のイオン種を選択するためには、ブラッドベリー=ニールセンゲート、即ち、1つの平面内に配置された交互の2列のワイヤで構成された装置で達成可能な0.3mmの空間分解能の時限イオンセレクタを必要とする。2つの列の間に短い10?30ナノ秒のパルスを印加することによって、短いパルスのイオンがゲート内に入り、同時に、他のイオン種は操縦され、次に止まったときに失われる。例として、第1のレンズの近くの中間飛行時間集束平面内に時限イオンゲートが配置される。ワイヤに印加される1000Vのパルスによって、10kVイオンが3度(1/20)ずれ、これは、CIDセルの1mmの入口アパーチャ153を外すのに十分である。親イオン選択の分解能は、更に、第1のMR-TOF内の飛行経路と飛行時間の同時拡張により複数のエッジ反射を使用することによって改善することができる。いずれにしてもゲートが1m/zの親イオンを入れるので、関連した質量範囲の縮小は重要ではなくなる。また、この場合、ターンアラウンドタイムが長くなることを犠牲にして親イオンのエネルギーの広がりを50eV以下に小さくすることが望ましく、この長いターンアラウンドタイムは、第1の分析装置内で飛行経路を長くし、加速エネルギーを低くし、飛行時間を長くすることによって補うことができる。 【0112】 質量選択された親イオンは、約50?100eVまで減速され、フラグメンテーションセル152の入口アパーチャに集中する。そのようなエネルギーの注入によって、選択された親イオンのフラグメント化が起こる。フラグメントは、RFトラップ157内のRF閉じ込めと、補助電極と出射孔のDC電位によって形成される軸方向DCウェルを配列することによってフラグメンテーションセル152内に蓄積される。これらの電極に電気パルスを印加することによって、フラグメントイオンは、質量分析のために第2のMR-TOF内にパルス式に放出される。イオンパルスと第2の分析装置のパラメータは、第1のMR-TOFのものと類似している。CIDセルは、前述のパルスイオン源の様々な要素と機構を含むことができる。従って、フラグメントの質量分析は、50,000?100,000の高い解像力(分解能)が期待される。説明したタンデムは、分析時間の完全な使用を可能にする。第2のMR-TOF31Bにおいてフラグメントセル152が空になりフラグメントイオンが質量分離されている間、第1の分析装置31Aは、親イオンの選択とフラグメンテーションセル内への注入を同時に行うために使用されてもよい。」 (ウ)「【図16】 」 すると、上記引用文献5には、以下の技術事項(以下「引用文献5の技術事項」という。)が記載されている。 「高分解能タンデム型飛行時間質量分析計171は、第1のMR-TOF31Aにおいて時限イオン選択を使用し、また、フラグメント分析のために第2の多重反射分析装置31Bを使用すること。」 (2)対比 本願発明1と引用発明1を対比する。 ・引用発明1の 「円筒(162,163)によって形成される自由飛行チャネル、および集束円筒(164)ならびに反射円筒(165)を含む2つの静電ミラーを含み、」 「イオンはミラー間で複数の跳ね返りを生じさせられつつ、レンズの電極によって空間的に集束され、イオンを同じ半径の軌道の近くに保持するため、付加的な電位が外部および内部の円筒(162ならびに163)の間に印加され」ることが、 本願発明1の「無電界領域によって離間されている反射性電界領域を有する静電トラッピング電界であって、第1のX方向の等時性イオン振動と第2の横断するY方向の空間的集束による移動イオンの不定トラッピングとを提供していて、実質的に第3のZ方向に延ばされている、静電トラッピング電界、を形成する段階と、」 「を備え、」 「前記第3のZ方向が、周回方向である」ことに相当する。 ・引用発明1の「パルスイオンビームは、空間的な集束レンズ(167)を介し、ステアリングプレート(168)の対を介し、入口の窓(166)およびデフレクタ(170)を通じて、X軸に対して小さな角度で、セパレータ(161)に導入され」ることと、 本願発明1の「少なくとも100イオン振動サイクルに亘って提供されたイオンビームを前記トラッピング電界の中へ前記第1のX方向に対して所定の傾斜角度で注入する段階」とは、 「イオンビームを前記トラッピング電界の中へ前記第1のX方向に対して所定の傾斜角度で注入する段階」で一致する。 ・引用発明1では、「ビームはプレート(170C)による水平な偏向の後に分析器に注入されて、場の歪みは、カットアウト内で両面PCB、等電位を使用することにより最小化され」るのであるから、「イオンを同じ半径の軌道の近くに保持するため、」「外部および内部の円筒(162ならびに163)の間に印加され」る「付加的な電位」を、「イオンビーム」を注入する際に、傾斜化する必要がないことは明らかであるから、引用発明1の「ビームデフレクタ(170)を備える円筒形のマルチパスセパレータ(161)」は、 本願発明1の「静的で傾斜化されていない電位を有するトラップ電極を含む分析静電トラップ(14)」に相当する。 ・引用発明1の「複数のフルターンの後(各フルターンは反射の対によって形成される)、イオンは出口の窓(166)およびデフレクタ(170)を通ってセパレータ(161)を出」る際に、「イオン」が「デフレクタ(170)」から力を受けて、運動方向を変えることは明らかであるから、 引用発明1の「複数のフルターンの後(各フルターンは反射の対によって形成される)、イオンは出口の窓(166)およびデフレクタ(170)を通ってセパレータ(161)を出」ることは、本願発明1の「トラップされたイオンの運動を起こさせる段階とを備え」ることに相当する。 ・本願発明1の「質量スペクトル分析の方法」に、「分析静電トラップ(14)で、」イオンを時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成する方法が含まれることは、技術常識からみて明らかであるから、 本願発明1の「分析静電トラップ(14)での質量スペクトル分析の方法」が、引用発明1の「円筒形のマルチパスセパレータ(161)内で親イオンを時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成する方法」を含むといえる。 すると、本願発明1と引用発明1は、 「静的で傾斜化されていない電位を有するトラップ電極を含む分析静電トラップ(14)で、時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成する方法において、 無電界領域によって離間されている反射性電界領域を有する静電トラッピング電界であって、第1のX方向の等時性イオン振動と第2の横断するY方向の空間的集束による移動イオンの不定トラッピングとを提供していて、実質的に第3のZ方向に延ばされている、静電トラッピング電界、を形成する段階と、 イオンビームを前記トラッピング電界の中へ前記第1のX方向に対して所定の傾斜角度で注入する段階と、 トラップされたイオンの運動を起こさせる段階とを備え、 前記第3のZ方向が、周回方向である、方法。」 で一致し、次の各点で相違する。 ・本願発明1は、「質量スペクトル分析の方法において、」 「振動する前記イオンによって生じる画像電流信号を検出する段階と、 前記信号を、振動周波数のスペクトルへ変換し、それに続けて(m/z)スペクトルへ変換する段階とを備え」るのに対して、 引用発明1は、振動するイオンによって生じる信号を(m/z)スペクトルへ変換する段階を備えた、質量スペクトルを分析する方法ではない点。(以下、「相違点ア」という。) ・本願発明1は、「少なくとも100イオン振動サイクルに亘って提供されたイオンビーム」であるのに対して、引用発明1は、「パルスイオンビーム」であって、「フルターンの数は注入角度によって異なり、両方ともステアリングプレート(168)の電位によって調節可能である」とのみ特定され、どの程度の「フルターンの数」に亘って供給されるパルスイオンビームであるかが明らかでない点。(以下、「相違点イ」という。) (3)判断 上記相違点アについて検討する。 上記相違点アに係る本願発明1の構成と同様の事項が、引用文献4の技術事項として、引用文献4により公知であると認められる。 一方、引用発明1は、引用文献1の記載から、 順番に通信するパルスイオン供給源(12)、第1の飛行時間型質量分析計-TOF1(13)、断片化セル-CID/SID(14)、第2の飛行時間型質量分析計TOF2(15)、およびタイムネストされた取得のためのデータシステム(16)を含む、タイムネストされた取得(11)を用いた一般的なTOF-TOF機器による、 1.異なる検体イオンの混合物を含むイオン供給源でイオンパルスを生成するステップと、 2.低エネルギで動作する第1の飛行時間型質量分析計内で検体イオンを時間で分離して、それらの質量の順番にイオンパケットの列を生成するステップと、 3.前記分離されたイオンパケットを混合することなく、検体イオンを順番に断片化するステップと、 4.第1の分離のステップのタイムスケールよりもずっと短いタイムスケールで第2の飛行時間型質量分析計内で断片イオンを急速に質量分析するステップと、 5.イオン供給源からの単一のイオンパルスで複数の検体イオンの質量対電荷比に対して断片質量スペクトルを取得するステップと、 6.任意で複数の供給源のパルスにわたって検体イオンの各々に対して断片スペクトルを合計するステップとを含む、 タンデム質量分析の方法の一部に使用される、 異なる検体イオンの混合物を含むイオン供給源でイオンパルスを生成するための第1の飛行時間型質量分析計-TOF1(13)に相当するものであって(特に、引用文献1の段落【0028】?【0030】参照)、スペクトルを得るための構成はタイムネストされた取得のためのデータシステム(16)であり、引用発明1の「円筒形のマルチパスセパレータ(161)」内でスペクトルを得るためのデータを取得することが想定されないものであることは、当業者には明らかである。 すると、引用文献4の技術事項のように、引用発明1の「円筒形のマルチパスセパレータ(161)」と類似する、多重反射飛行時間型質量分析器を、イオントラップ内におけるイオン雲の振動により、飛行領域を囲む一対の電極に接続された回路内に生成される交流電流を感度の高い検流計によって測定、記録して、時間領域信号をフーリエ変換することによって試料のマススペクトルを得る、イメージ電流検出及びフーリエ変換処理を利用する静電イオントラップとして用いることが公知であるとしても、引用発明1は、そもそも、スペクトルを得るためのデータを取得することが想定されないものであるから、引用発明1に引用文献4の技術事項を採用する動機付けは存在しない。 また、引用文献2の技術事項、引用文献3の技術事項、引用文献5の技術事項は、いずれも、多重反射飛行時間型質量分析器をイメージ電流検出及びフーリエ変換処理を利用する静電イオントラップとして用いるという技術事項ではない。 したがって、上記相違点アは、引用発明1に、引用文献2の技術事項、引用文献3の技術事項、引用文献4の技術事項及び引用文献5の技術事項を参酌しても、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 そして、本願発明1は、上記相違点アに係る構成を備えることにより、本願の明細書に記載された効果を奏する。 よって、本願発明1は、上記相違点イについて検討するまでもなく、当業者が引用発明1、引用文献2の技術事項、引用文献3の技術事項、引用文献4の技術事項及び引用文献5の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)小括 以上のとおり、本願発明1は、当業者が引用発明1、引用文献2の技術事項、引用文献3の技術事項、引用文献4の技術事項及び引用文献5の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 また、本願発明2?6は、本願発明1をさらに限定したものであり、本願発明7は、上記相違点アに係る構成と同様の 「移動するイオン雲によって生じる画像電流信号を測定するための検出器と、 検出器信号波形から質量スペクトルを再構築するための手段とを備え」た「静電トラップ質量分析計」に係る発明であり、本願発明8?9は、本願発明7を更に限定したものであるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明、引用文献2の技術事項、引用文献3の技術事項、引用文献4の技術事項及び引用文献5の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒理(1)について (1)当審拒理(1)の概要 ア 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、 また、そうではないとしても、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特表2005-538346号公報 イ 本願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ウ 本願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 エ 本願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)当審拒理(1)の判断 ア 理由アについて 上記「第3」で検討したとおり、本願発明1?9は、当業者が引用発明1であるということもできないし、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということもできない。 イ 理由イ、ウ、エについて 理由イ、ウ、エは、平成28年10月5日付け手続補正書でした手続補正により、該当する請求項が削除され、また、適切に補正されたことにより、解消された。 (3)小括 したがって、当審拒理(1)で通知した拒絶理由は解消した。 そうすると、もはや、当審拒理(1)で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 2 当審拒理(2)について (1)当審拒理(2)の概要 ア 本願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 イ 本願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)当審拒理(2)の判断 理由ア、イは、平成29年1月25日付け手続補正書でした手続補正により、該当する請求項が削除され、また、適切に補正されたことにより、解消された。 (3)小括 したがって、当審拒理(2)で通知した拒絶理由は解消した。 そうすると、もはや、当審拒理(2)で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-03-06 |
出願番号 | 特願2013-547668(P2013-547668) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01J)
P 1 8・ 121- WY (H01J) P 1 8・ 536- WY (H01J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 祐、桐畑 幸▲廣▼ |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
伊藤 昌哉 森 竜介 |
発明の名称 | イオン注入の改善された静電トラップ質量分析計 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 竹内 茂雄 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 北来 亘 |