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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1325408
審判番号 不服2014-26364  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-24 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2010-546354「骨関節疾患の治療及び/または予防において使用する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日国際公開、WO2009/101194、平成23年 4月21日国内公表、特表2011-512345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年 2月13日(優先権主張 外国庁受理 平成20年 2月15日 (EP)欧州特許庁 平成20年 6月13日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年 9月24日付で拒絶理由が通知され、同年12月25日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成26年 8月15日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年12月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
その後、平成27年 3月 4日付けで前置報告書が作成され、当審において平成28年 2月18日付で、拒絶理由を通知したところ、それに対し、同年 8月22日に意見書及び手続補正書が提出が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、平成28年 8月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、下記のとおりのものと認められる。

「関節内注射により、関節炎の治療及び/または予防において使用するための、
任意選択で適当な医薬担体または希釈剤と、
ヒアルロン酸またはその誘導体と、
クロニジン、p-アミノクロニジンまたは構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬の有効量と
を含む、医薬組成物であって、前記注射が、週に1回または2週間以上に1回行われる、医薬組成物。」

第3.当審の拒絶理由
当審において平成28年 2月18日付で通知した拒絶の理由は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができない、という理由を含むものである。

第4.当審の判断
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

1. 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。

(1-1)
「本発明は、医薬品分野に属し、急性及び/または慢性の骨関節疾患の治療及び/または予防において使用する、新規の医薬組成物に関する。」(段落【0001】)
(1-2)
「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、医薬品分野に属し、急性及び/または慢性の骨関節疾患の治療及び/または予防において使用する、新規の医薬組成物に関する。」(段落【0020】?【0021】)
(1-3)
「本発明の方法及び製剤によれば、ヒアルロン酸とα-2-アドレナリン受容体作動薬を組み合わせた形態の注射は、ヒトの症例及び動物の骨関節疼痛モデルの両方に、長期持続する疼痛緩和を誘発する。この方法は、安全で重大な薬物副作用がなく、過剰に侵襲的な技法を使用することなく急性ならびに慢性の治療及び/または予防を可能とする。」(段落【0054】)
(1-4)
「(実施例)
(実施例1)
膝に滲出のある膝関節炎に罹っている4名の患者に、傷害している膝へ約20mgのヒアルロン酸及び約150μgのクロニジンを関節内注射で1回投与した。2回目と3回目の関節内注射は、7日後と14日後に行った。各注射の前に、関節内の液体を除去し測定した。疼痛と可動性を、基準日(第0日)、関節内注射後48?72時間、次の注射(第7日と第14日)の前及び第21日に評価した。評価は、患者によって書き込まれ、疼痛強度(0=疼痛なし、100=耐えがたい疼痛)を記録する0?100mmの視覚的アナログ尺度、疼痛と可動性を記録するWOMACスコア(最大限の悪化スコア=96)、及び痛覚機能的スコア(Lequesne指標、悪化スコア=24)で行った。
図1、2及び3に示すように、組合せの関節内投与は、予想に反して48時間以内に疼痛軽減(VASで86.5mmから14.5mmへの減少)を引き起こし、2回目の再投与は、さらに進んだ改善(VASスコア=第9日で11、第16日で12)を引き起こした。どちらか一方の製品の作用と比べたら予想外であるこの作用は、第21日のVASスコアが13であった3回目の注射後少なくとも1週間維持した。障害した膝の可動性をさらに評価するWOMACスコアを使って、同じ結果が得られた。WOMACスコアは、基準日の61から第7、14及び21日の44、41及び37に減少した。同様に、Lequesne指標を使って評価した痛覚機能的スコアは、劇的な改善を示し、スコアは、第7、14及び21日に、基準日の20からそれぞれ15、13、12へ減少した。ヒアルロン酸は、その有効性を再評価した展望研究では15mmを超える疼痛スコアの減少を示さず、ヒアルロン酸の作用は3?4週間後に生じるので、これらの結果は全く予想外であった。クロニジンの、変形性関節症における利用可能なデータはない。
(実施例2)
変形性股関節炎に罹っている2名の患者に、障害している腰へ約20mgのヒアルロン酸及び約150μgのクロニジンの関節内注射を単回投与した。疼痛及び可動性を、基準日(第0日)、第7日、第14日、第21日及び第28日に評価した。評価は、患者によって書き込まれ、疼痛強度(0=疼痛なし、100=耐えがたい疼痛)を記録する0?100mmの視覚的アナログ尺度、疼痛と可動性を記録するWOMACスコア(最大限の悪化スコア=96)、及び痛覚機能的スコア(Lequesne、悪化スコア=24)で行った。
図4、5及び6に示すように、この組合せで治療された変形性股関節炎の患者において、約20mgのヒアルロン酸及び約150μgのクロニジンの単回の関節内注射の作用により、即時で著しい、持続する作用を誘発した。VASは、基準日の52mmから第7、14、21及び28日に、10、11、42及び51に減少した。同様に、WOMACスコアは、基準日の69から第7、14、21及び28日にそれぞれ27、28、43及び72に減少し、痛覚機能的スコアは、13から第7日及び14日の8及び8に減少し、第21日と28日には、注射前の値(それぞれ13及び14)に戻った。
ヒアルロン酸投与後3週間におけるこのような改善の報告がないため、これらの結果は予想外であった。クロニジンの利用可能なデータはない。持続した鎮痛作用もまた、全く予想外であった。
要約すると、クロニジンとヒアルロン酸の関節内同時投与によって治療された患者は、疼痛スコア(80%)と関節機能スコア(60%)の劇的な改善(80%)を示した(これらの改善は、2?3週間維持された)。
同様な好ましい進展が、腫脹についても観察され、顕著な減少が見られた。この実現可能性試験においては、重大な副作用は報告されなかった。興味深いことに、治療回避が観察されたのは、一部のみであった。」(段落【0058】?【0064】)
(1-5)
「(実施例3)
関節内製品を使用した臨床経験
最も包括的な臨床データは、関節内の(i)コルチコステロイド、(ii)ヒアルロン酸及び(iii)TNFα阻害剤について報告されている。
最近の論文では、Uthmanら(Postgrad Med J. 2003年 8月;79(934):449?53)が、公開された関節内製品に関する全データを再検討した。コルチコステロイドとヒアルロン酸のほかには、オルゴテイン、放射線、滑膜切除術、デキストロース増殖療法、シリコーン、生理食塩水による洗浄、生理食塩水の注入(洗浄なし)、鎮痛剤、グロコサミン、ソマトスタチン、ペントサン多硫酸ナトリウム、クロロキン、ムコ多糖の多硫酸エステル、乳酸溶液及びチオテパ細胞分裂阻害剤のごとく多様な物質または手法についての、有効性の確証のないケーススタディ報告書が公開されているのみである。
(実施例4)
関節内の抗炎症治療に関するクロニジン/ヒアルロン酸の比較
クロニジン-ヒアルロン酸の組合せと、単関節炎の標準治療との(病歴/公開データ)比較では、単関節炎の症状に対する有効性に関し、この組合せが有利である傾向がある。
有効性は、疼痛スコアまたは機能スコアなどの、スコア値の減少(改善を示す)により測定された。
【表1】


(実施例5)
関節内HAsに関するA2A/HAの比較
【表2】


文献で報告されているヒアルロン酸の最大作用は、疼痛で55%の改善、機能で23%の改善(Kolarzら、2003年)であるが、これらの効果は、再現されなかったようである(Arichら、2005年; Wangら、2004年; Loら、2003年)。
ヒアルロン酸のこれらの最大作用は、クロニジン-ヒアルロン酸の組合せで報告された作用より、著しく低い(それぞれ、疼痛に関しては、55%対85%ならびに機能に関しては、23%対55%)。ヒアルロン酸では腫脹、変形性関節症の主要な疼痛要素及び他の炎症性関節障害に対する有益性は報告されていないが、クロニジンとヒアルロン酸の組合せでは、腫脹の強力な減少が見られる。
慢性的な膝の疼痛におけるクロニジンの作用は、以前に研究されたことはなかった。
急性疼痛の研究においては、クロニジンの作用は、72時間を超えることはなく(Gentiliら、2001年)、最小効果持続時間でさえ4時間であったことが示されたが(Alagolら、2005年)、一方、クロニジンとヒアルロン酸の組合せでは、最大2週間の作用を示した。」(段落【0065】?【0075】)
(1-6)
「(実施例6)
上記のクロニジンの作用は、他のα-2-アドレナリン薬に外挿した。
LPSのTH1細胞刺激により誘発される、α-2-アドレナリン作動薬によるIL-1β放出の阻害は、対照(デキサメタゾン)を置いた条件で測定する。
図7に示した、本試験の結果は、
- デキサメタゾンの10-7Mは、LPSで刺激されたTH1細胞によるIL-1β分泌の約65%阻害した。
- ミバゼロール及びクロニジンは、10-7M及び10-5Mで、DEX(10-7M)の効果の80?90%を示す。
- グアンファシン及びモクソニジンは、DEXの効果の40?60%であり、他の薬剤は、僅かな効果しかない。
- グアナベンズ、ブリモニジン及びメチルドーパは、効果なし。
(実施例7)
クロニジンとヒアルロン酸の組合せの効果を、末梢血単核球モデルにおいて試験した。手短に言うと、健常志願者のヘパリン添加静脈血から、PBMC(末梢血単核球)をFicoll勾配遠心分離法により分離した。MNC(単核球)をPBS中で3回洗浄し、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン及び10%の加熱不活性化したFBSを添加した、RPMI-1640培地に再懸濁した。細胞を、全容量が200μL/ウェルになるように、96ウェルのプレート中100,000細胞で播種した。
100,000細胞/200μLのPBMCを、96ウェルの微量定量プレートで平板培養し、10μg/mLのフィトヘムアグルチニン(PHA)で刺激したまたは刺激しなかった。ヒアルロン酸「HA」(200μg/mL)及びp-アミノクロニジン「A2A」(5μM)の作用をPBMC上で試験した。
増殖試験。増殖を測定するために、培養物を、培地終了前に24時間、1μCi/mLの3H-チミジンと共にインキュベートした。次に、細胞を氷冷PBSで2回、5%の氷冷トリクロロ酢酸(TCA)で2回洗浄した。最後に、細胞を0.1NのNaOH-0.1%のトリトン-X100で溶解させた。上清を収集し、シンチレーション液の存在下でβ線-測定器において分析した。結果はcpm(「1分当たりのカウント数」=1分間の一連の連続カウントにおいて観察された放射性元素の崩壊数)で得られた。
IL-1β検出(ELISAによる)。PBMCまたは培養上清から得られたIL-1βのレベルを、Quantikine ELISAキット(RD Systems Inc., Mineapolis、米国)により、測定した。IL-1βの検出可能な最小濃度は、1.0pg/mLと予測した。
PHA刺激によって誘発された、PBMCによるIL-1βの放出及びPBMCの増殖を対照とし、HA及び/またはA2Aで処理したPBMCの測定値と比較した。
LPSのTH1細胞刺激によって誘発された、PBMCのIL-1β放出の阻害及びPBMCの増殖の阻害もまた測定し、PHA刺激細胞に関するものと同様な傾向が得られた。
【表3】


PHA刺激によって誘発されたIL-1βの分泌は、基本条件(IL-1βのレベルが検出不能な条件)と比べて顕著な増加を示すので、これを100とした。PMBC細胞の増殖もまた、約20倍まで顕著に増加した。驚くべきことに、HA単独の添加により、同様なサイトカインの増加(基本条件と比べて)が観察されたが、PBMCの増殖には影響がなかった。PHAにより刺激した場合、HAの添加は、この刺激条件と比べて、IL-1βの分泌を相乗的に3倍増加させるが、PBMCの増殖は1/2に減少させることができた。
【表4】


A2Aは、基本(刺激なし)条件には作用を有さない。興味深いことに、PHAで刺激した場合、A2Aの添加は、PHA刺激によるIL-1β分泌の増加を検出不能なレベルまで完全に抑制するが、PBMCの増殖を阻害することはできなかった。
【表5】


興味深いことに、HA/A2Aの組合せは、PHA/HA条件より、強力な抗炎症作用を示す。実のところ、A2Aの添加は、PHA/HA刺激によるIL-1β分泌の増加を、顕著に(50%以上)元に戻し、PHA単独条件の1つのレベルまで下げることができた。驚くべきことに、A2Aは、さらにPBMCの増殖をさらに35%阻害することができた。
炎症の間、ヒアルロナンの低分子量の断片は、IL-6及び単球走化性タンパク質(MCP-1)などのサイトカインの分泌を誘発することにより、炎症性及び免疫刺激物質となることが知られている。HAはまた、リンパ球及び単球の細胞外基質への付着を促進する特性を有している(Yamawakiら、2009年)。これらの実験は、ヒアルロン酸が、PBMCを増殖させることなく、サイトカイン(例えば、IL-1β)産生に対して強力な刺激作用を有することを示している。
クロニジンは、Th1/Th2サイトカインの産生に変化をもたらすことが証明されている(Xuら、2007年;Cook-Millsら、1998年)。これらの試験は、α-2-アドレナリン受容体作動薬の添加は、PHA刺激によるサイトカイン(例えば、IL-1β)分泌の増加を完全に抑制するが、PBMCの増殖は阻害できないことを示している。
驚くべきことに、HA/A2Aの組合せは、サイトカインの産生及び炎症性細胞の増殖の両方に対して、強力な抗炎症作用を実証している。実際、A2AのHAへの添加は、IL-1βの分泌増加を著しく阻害することができ、さらにPBMCの増殖を阻害することができた。」(段落【0076】?【0093】)

2. 本件発明1が解決しようとする課題
本件発明1は、「関節内注射により、関節炎の治療及び/または予防において使用するための、 任意選択で適当な医薬担体または希釈剤と、 ヒアルロン酸またはその誘導体と、 クロニジン、p-アミノクロニジンまたは構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬の有効量とを含む、医薬組成物であって、前記注射が、週に1回または2週間以上に1回行われる、医薬組成物」の発明であり、その解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の記載(特に、摘示(1-1)-(1-3))も総合すると、骨関節内注射により、関節炎の治療及び/または予防において使用するための医薬組成物であって、注射の頻度が、週に1回または2週間以上に1回である医薬組成物を提供することであると認められる。

3. 判断
(1)
本件発明1の「医薬組成物」は、その組成に関し、「任意選択で適当な医薬担体または希釈剤と、ヒアルロン酸またはその誘導体と、 クロニジン、p-アミノクロニジンまたは構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬の有効量とを含む」と特定されている組成物である。
このような組成を備える本件発明1の「医薬組成物」が上記課題を解決することができることに関して、発明の詳細な説明には、作用機序の説明などの一般的な説明が何も記載されていない。
そして、「誘導体」や「アナログ」がどのような化合物まで包含するかについて説明等が発明の詳細な説明にも何も記載されていない。

次に、実施例の記載について、検討する。
発明の詳細な説明には、以下の実施例が記載されている(摘示(1-4)-(1-6))。
膝関節炎に罹っている4名の患者に、約20mgのヒアルロン酸及び約150μgのクロニジンを関節内注射で1回投与した。2回目と3回目の関節内注射は、7日後と14日後に行うとともに、疼痛と可動性を、基準日(第0日)?第21日の期間に評価した例(実施例1)
変形性股関節炎に罹っている2名の患者に、約20mgのヒアルロン酸及び約150μgのクロニジンを関節内注射で単回投与し、疼痛及び可動性を、基準日(第0日)、第7日、第14日、第21日及び第28日に評価した例(実施例2)
関節内の(i)コルチコステロイド、(ii)ヒアルロン酸及び(iii)TNFα阻害剤に関する報告(実施例3)
クロニジン-ヒアルロン酸の組合せと、単関節炎の標準治療との(病歴/公開データ)比較(実施例4)
関節内HAsに関するA2A/HAの比較(実施例5)
LPSのTH1細胞刺激により誘発される、α-2-アドレナリン作動薬によるIL-1β放出の阻害(実施例6)
クロニジンとヒアルロン酸の組合せの効果に関する、末梢血単核球モデルにおける試験(実施例7)

そうすると、注射の頻度に関する知見を得られる実施例は、実施例1、及び、実施例2のみであるが、実施例1、2は、いずれも、ヒアルロン酸及びクロニジンを関節内注射するものであるから、ヒアルロン酸以外のヒアルロン酸の誘導体を注射した場合や、クロニジン以外のクロニジンと構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬を注射した場合について、「注射の頻度が、週に1回または2週間以上に1回である医薬組成物を提供すること」ができることを具体的に確認することができる実施例ではない。
また、実施例1、2の記載に基づいて、ヒアルロン酸を、ヒアルロン酸またはその誘導体の範囲にまで拡張・一般化したり、クロニジンを、クロニジン、p-アミノクロニジンまたは構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬の範囲にまで拡張・一般化した場合であっても、「注射の頻度が、週に1回または2週間以上に1回である医薬組成物を提供すること」ができることを、当業者が理解できるとは言えない。

(2)審判請求人の主張の検討
(2-1)
本件発明1の「ヒアルロン酸またはその誘導体」について、
「ここで、「ヒアルロン酸の誘導体」について説明いたします。
ヒアルロン酸と化学構造が極めて類似した多くのヒアルロン酸誘導体は、ヒアルロンと同じ物理的粘弾特性を有することが知られています。
・・・
よって、当業者ならば、ヒアルロン酸と同等の特性を有する「ヒアルロン酸の誘導体」を具体的に想定することができると思量します。」(平成28年 8月22日提出の意見書の2頁下から6行-3頁7行)と釈明している。
しかしながら、この釈明は、単に単独の有効成分として用いた場合に「ヒアルロン酸と同等の特性を有する「ヒアルロン酸の誘導体」を具体的に想定することができる」旨主張するに止まるものである。また、仮に主張のとおりであるとしても、ヒアルロン酸とクロニジン併用時の作用機序が説明されていないのであるから、ヒアルロン酸と化学構造が極めて類似しており、ヒアルロンと同じ物理的粘弾特性を有する多くのヒアルロン酸誘導体が、ヒアルロン酸を使用する場合と同様に、クロニジンと併用した場合に「注射の頻度が、週に1回または2週間以上に1回である医薬組成物を提供すること」ができるとはいえない。
(2-2)
本件発明1の「クロニジン、p-アミノクロニジンまたは構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬」について、
「ここで、「構造的に類似の化合物(アナログ)」について説明いたします。
最初に、慢性骨関節疾患における痛みとα-2-アドレナリン受容体作動薬の使用について説明いたします。
慢性骨関節疾患の痛みは、神経系の抹消(関節)および中枢(脊柱および脊柱上部)レベルの両方での多くの異常な細胞メカニズムを含む、感覚的、感情的および認知過程が統合されたものであります。そして、α-2-アドレナリン受容体作動薬については、本願明細書の段落[0017]から[0019]において、以下のように記されています。
・・・
このように、α-2-アドレナリン受容体作動薬であるクロニジンと、構造的に類似するアナログとは、同じファーマコフォアを共有し、更には、両者は、内因性α-2-アドレナリン受容体作動薬であるアドレナリンを模倣した作用機構も共有しています。
よって、当業者ならば、α-2-アドレナリン受容体に対する作動薬活性についてクロニジンと同じファーマコフォアを共有する「構造的に類似の化合物(アナログ)」を具体的に想定することができると思量します。このような化合物の例を以下に示します。」(平成28年 8月22日提出の意見書の3頁12行-5頁7行)と釈明している。
しかしながら、この釈明は、単に単独の有効成分として用いた場合に「クロニジンと同じファーマコフォアを共有する「構造的に類似の化合物(アナログ)」を具体的に想定することができる」旨主張するに止まるものである。また、仮に主張のとおりであるとしても、ヒアルロン酸とクロニジン併用時の作用機序が説明されていないのであるから、クロニジンと構造的に類似するアナログ、すなわち、同じファーマコフォアを共有し、更には、内因性α-2-アドレナリン受容体作動薬であるアドレナリンを模倣した作用機構も共有する、「構造的に類似の化合物(アナログ)であるα-2-アドレナリン受容体作動薬」が、クロニジンを使用する場合と同様に、ヒアルロン酸と併用した場合に「注射の頻度が、週に1回または2週間以上に1回である医薬組成物を提供すること」ができるとはいえない。

4. まとめ
したがって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

第5. むすび
以上のとおりであるので、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-21 
結審通知日 2016-09-26 
審決日 2016-10-07 
出願番号 特願2010-546354(P2010-546354)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 横山 敏志
前田 佳与子
発明の名称 骨関節疾患の治療及び/または予防において使用する医薬組成物  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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