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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1325411
審判番号 不服2015-19707  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2012-534406「流体充填レンズリザーバシステム及びリザーバシステムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日国際公開、WO2011/047308、平成25年 3月 7日国内公表、特表2013-508754〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2010年10月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年10月15日 米国、2010年10月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月15日及び平成27年1月28日に手続補正がなされ、平成27年6月29日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して平成27年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成27年1月28日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「眼鏡の流体充填レンズに供給するために流体を貯蔵する眼鏡リザーバシステムであって、
中空部を備えたテンプル部品を有し、
袋の形態をした第1の部分及び連結管の形態をした第2の部分を備えた単一の連続した管を有し、
前記袋の部分は、前記中空部内に配置されていて、繰り返し縮んだり弛緩したりすることができ、前記袋の部分は、軟質材料で作られ、
前記連結管の部分は、レンズモジュールの入口ポート及び前記袋に結合されていて、流体を前記袋の部分と前記レンズモジュールの流体充填レンズ中空部との間で運搬することができる、眼鏡リザーバシステム。」(以下「本願発明」という。)

3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由3及び4は、概略、次のとおりである。

理由3.本願発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由4.本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.特開平10-206609号公報
2.米国特許第02576581号明細書

4 刊行物の記載事項及び引用発明
本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由3及び4に引用文献1として引用された特開平10-206609号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【0029】
【実施例】以下、図面を参照して、本発明の流体焦点調節レンズ付老眼鏡の実施例を説明する。
【0030】本発明の焦点調節老眼鏡におけるレンズは一種の凸レンズで、その外形をつくる弾力性のある透明な前嚢60と後嚢61からなる嚢51と、蛇腹状になっているタンク52と、嚢51とタンク52の中を満たす透明な流体53と、嚢51とタンク52を連絡するチューブ54と、タンク52の中の流体53を嚢51の中に送り込んだり、タンク52の中にもどしたりするプレッサー55と、嚢51を外力から守るための硬い透明体56からなる。嚢51はその周辺にある支持体62を透明体56の溝64にはめ込むことにより固定されている。プレッサー55を前方に動かしタンクの中の流体53を嚢51の中に送り込むと、前嚢60の中央部が前方へ突出し、後嚢61の中央部が後方に突出することにより嚢51は前後に膨大し、レンズの屈折力が増大し、近くの物体に焦点を合わせることができる。プレッサー55を後方に動かすと嚢51の中の流体53はタンク52の中に流入し、嚢51は薄くなり屈折力の弱いレンズとなる。このようにプレッサー55を前後に動かすことにより、レンズの屈折力を自在に調節することができる。前嚢60と後嚢61は透明で弾力性があり、内圧により屈折度の強いレンズになるように、中央部にいくほどその壁は肉厚が薄く弾力に富むものになっている。嚢51は硬い材質でできている透明体56の腔65の中にあり、腔65は連絡路67を介して予備腔66と連絡している。腔65の中はいつも嚢外流体68で満たされており、嚢51が大きくなったとき、腔65の中の嚢外流体68の一部は連絡路67を介して予備腔66の中に入る。したがって嚢51はいつも嚢外流体68の中で浮いている形となり、適度な浮力がかかり嚢51が重力によりゆがむことがない。タンク52は眼鏡の箱状になっているテンプル13の中にあり、テンプル13は透明体56と接合している。透明体56は必要に応じて凸レンズ、凹レンズ、円柱レンズになっている。
【0031】図6は、本発明による流体焦点調節レンズ付老眼鏡(以下、単に焦点調節老眼鏡という)の概略図である。焦点調節老眼鏡におけるレンズは凸レンズで、その外形をつくる嚢51と、タンク52とそれらの中を満たす流体53と、嚢51とタンク52を連絡するチューブ54とタンク52の中の流体53を嚢51に送り込むプレッサー55と嚢51を外力から守るための透明体56からなる。
【0032】嚢51は透明なシリコーンゴム製で、この実施例ではタンク52もチューブ54もシリコーンゴムから成っている。また嚢51およびタンク52を満たす流体53はシリコーンオイル53である。プレッサー55は硬いシリコーン板からなる。透明体56はポリジエチレングリコールビスアリルカーボネートなどの硬く透明で傷つきにくく薬品に侵されないプラスチックよりなる。
【0033】次に焦点調節老眼鏡および各部材の形について述べる。図7および図8に示すように、嚢51は内腔をシリコーンオイル53で満たしたとき円形の両凸レンズまたは片凸レンズになる。図7および図8に示すように、円形の嚢51の中心にいくほど嚢51をつくる壁の厚さが薄くなり弾力性に富むものになっている。図8に示すように、プレッサー55を前方に移動してタンク52を圧縮することにより、タンク52内のシリコーンオイル53をチューブ54を介して嚢51の中に送り込み、嚢51を膨張させ、より強い凸レンズにすることができる。また図7および図8に示すように、タンクの遠位端57はプレッサー55の幅狭部71に接着されており、タンク52は蛇腹のように伸縮自在で、プレッサー55を動かすことにより、タンク52の中のシリコーンオイル53を嚢51の中に送り込んだりタンク52の中にもどしたりすることができる。図6および図9に示すように、プレッサー55は幅広部70、幅狭部71、突起部72、つまみ58からなり、つまみ58を少し持ち上げ前後に動かすことによりプレッサー55を自在に動かすことができるが、プレッサーの突起部72をテンプルの底にある穴74に挿入すると同時に、プレッサーの幅広部70をテンプル13の上縁にある凹み73の中にはめ込み、プレッサー55を固定することができる。以上のように、プレッサー55を前後に動かし固定することにより嚢51は膨大したり収縮したりして、いろいろな屈折力の凸レンズとなる。嚢51は外力に弱いので、硬い透明体56の中に入れられているが、透明体56の表面から見た大きさは通常の眼鏡のフレームの大きさの範囲内で、透明体56はテンプル13と接合している。透明体56の周辺には嚢51を固定するために突起63と溝64がある。嚢51はその周辺にある支持体62を透明体56の周辺の溝64にはめ込むことにより固定されている。また左右の透明体56はブリッジ15を介して接合している。嚢51の周囲には支持体62があり、それは透明体56の周辺の溝64にはまり込んでいる。透明体の腔65は透明な嚢外流体68で満たされており、腔65は連絡路67を介して予備腔66と連絡している。嚢51が膨大したとき、嚢外流体68は連絡路67を経て予備腔66の中に流れ込む。以上のように嚢51は透明体の腔65の流体68の中で浮いている形となり、適度な浮力がかかり嚢51が重力によってゆがむのが防止されている。嚢外流体68としては、透明なシリコーンオイルや他の透明な液体が適している。嚢内流体53と嚢外流体68が紫外線防止機能を有するようにするとさらによい。」

(2)図7及び8は、それぞれ次のとおりのものであり、これらの図面から、タンク52が管状であること、及び、タンク52とチューブ54とが部材として一体であることがみてとれる。
【図7】


【図8】


(3)上記(1)及び(2)の記載からみて、引用例には、実施例として、
「流体焦点調節レンズ付老眼鏡であって(【0029】)、
前記流体焦点調節レンズ付老眼鏡におけるレンズは一種の凸レンズで、その外形をつくる弾力性のある透明な前嚢60と後嚢61からなる嚢51と、蛇腹状になっているタンク52と、嚢51とタンク52の中を満たす透明な流体53と、嚢51とタンク52を連絡するチューブ54と、タンク52の中の流体53を嚢51の中に送り込んだり、タンク52の中にもどしたりするプレッサー55と、嚢51を外力から守るための硬い透明体56からなり(【0030】)、
前記プレッサー55を前方に動かしタンク52の中の流体53を嚢51の中に送り込むと、前嚢60の中央部が前方へ突出し、後嚢61の中央部が後方に突出することにより嚢51は前後に膨大し、レンズの屈折力が増大し、近くの物体に焦点を合わせることができ(【0030】)、
前記プレッサー55を後方に動かすと嚢51の中の流体53はタンク52の中に流入し、嚢51は薄くなり屈折力の弱いレンズとなり(【0030】)、
前記タンク52は前記老眼鏡の箱状になっているテンプル13の中にあり(【0030】)、
前記嚢51は透明なシリコーンゴム製で、前記タンク52もチューブ54もシリコーンゴムから成っており(【0032】)、
前記嚢51およびタンク52を満たす流体53はシリコーンオイル53であり(【0032】)、
前記嚢51は内腔をシリコーンオイル53で満たしたとき円形の両凸レンズまたは片凸レンズになり、円形の嚢51の中心にいくほど嚢51をつくる壁の厚さが薄くなり弾力性に富むものになっており(【0033】、【図7】、【図8】)、
前記プレッサー55を前方に移動してタンク52を圧縮することにより、タンク52内のシリコーンオイル53をチューブ54を介して嚢51の中に送り込み、嚢51を膨張させ、より強い凸レンズにすることができ(【0032】、【図8】)、
前記タンク52の遠位端57はプレッサー55の幅狭部71に接着されており、タンク52は蛇腹のように伸縮自在で、プレッサー55を動かすことにより、タンク52の中のシリコーンオイル53を嚢51の中に送り込んだりタンク52の中にもどしたりすることができる(【0033】、【図7】、【図8】)、
流体焦点調節レンズ付老眼鏡。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 眼鏡、流体、流体充填レンズ、眼鏡リザーバシステム
(ア)引用発明の「老眼鏡」は、本願発明の「眼鏡」に相当する。
(イ)引用発明の「流体53」及び「シリコーンオイル53」は、本願発明の「流体」に相当する。

イ テンプル部品
引用発明の「テンプル13」は、本願発明の「テンプル部品」に相当する。引用発明の「テンプル13」(「テンプル部品」。以下、引用発明の構成に相当する本願発明の構成を()内に記す。)は、箱状になっており、タンク52が当該箱状になっている「テンプル13」(「テンプル部品」)の中にあるから、引用発明の「テンプル13」(「テンプル部品」)は、内側に空のスペースを備えているといえる。したがって、引用発明は、「テンプル13」について、本願発明の「中空部を備えたテンプル部品」との構成を備えるといえる。

ウ 第1の部分、第2の部分
(ア)引用発明において、「タンク52を満たす流体53はシリコーンオイル53」であり、また、「タンク52の遠位端57はプレッサー55の幅狭部71に接着されており、タンク52は蛇腹のように伸縮自在で、プレッサー55を動かすことにより、タンク52の中のシリコーンオイル53を嚢51の中に送り込んだりタンク52の中にもどしたりすることができる」ものである。したがって、引用発明の「タンク52」は、本願発明の「袋の形態をした第1の部分」に相当する。
(イ)引用発明の「チューブ54」は、嚢51とタンク52を連絡しており、また、「チューブ」とは「管」の意味である。したがって、引用発明の「チューブ54」は、本願発明の「連結管の形態をした第2の部分」に相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、引用発明は、本願発明の「袋の形態をした第1の部分及び連結管の形態をした第2の部分を有し」との構成を備えるといえる。

エ 中空部内に配置、縮んだり弛緩したりする、軟質材料
(ア)引用発明の「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)は、箱状になっているテンプル13(「テンプル部品」)の中(すなわち、中空部内)にある(上記イ参照。)。また、「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)は、シリコーンゴムから成っているところ、シリコーンゴムとは、シリコーン樹脂(シリコーンを主成分とする合成樹脂)のうちゴム状弾性を示すものをいい、軟らかいものをいうのであるから、これが軟質の材料であることは明らかである。
(イ)引用発明の「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)は、蛇腹のように伸縮自在である。ここで、「伸縮自在」は、束縛も支障もなく、思いのままに伸縮できるという意味であるから、繰り返し縮んだり伸びたりできるという意味を含む。また、本願発明における袋の部分の「弛緩」とは、「繰り返し縮んだり弛緩したりする」との記載からみて、「縮」の反対の状態、すなわち、「伸」の状態を意味すると解される。
(ウ)上記(ア)及び(イ)からみて、引用発明は、「タンク52」について、本願発明の「前記袋の部分は、前記中空部内に配置されていて、繰り返し縮んだり弛緩したりすることができ、前記袋の部分は、軟質材料で作られ」との構成を備えるといえる。

オ レンズモジュール、流体充填レンズ中空部
(ア)引用発明の「流体焦点調節レンズ付老眼鏡」における「レンズ」は、その外形をつくる弾力性のある透明な前嚢60と後嚢61からなる嚢51という機能的にまとまった一つの部分、すなわち、モジュールであるから、本願発明の「レンズモジュール」に相当する。
(イ)引用発明の「嚢51」は、「流体焦点調節レンズ」(「流体充填レンズ」)の中にある「ふくろ」、すなわち、中空の部分であるから、本願発明の「流体充填レンズ中空部」に相当する。
(ウ)引用発明の「チューブ54」(「連結管の形態をした第2の部分」)は、「嚢51」(「流体充填レンズ中空部」)と「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)を連絡し、プレッサー55を前方に移動して「タンク52」を圧縮することにより、「タンク52」内の「シリコーンオイル53」(「流体」)を「チューブ54」を介して「嚢51」の中に送り込むことができるから、「チューブ54」が「シリコーンオイル53」を運搬していることは明らかである。また、「チューブ54」が「嚢51」に接続される部分が、「レンズ」(「レンズモジュール」)の入口ポートに当たることも明らかである。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、引用発明は、本願発明の「前記連結管の部分は、レンズモジュールの入口ポート及び前記袋に結合されていて、流体を前記袋の部分と前記レンズモジュールの流体充填レンズ中空部との間で運搬することができる」との構成を備えるといえる。

カ 上記アないしオからみて、引用発明の「流体焦点調節レンズ付老眼鏡」の「レンズ」は、その「嚢51」の中に「流体53」が満たされたものであり、また、引用発明の「テンプル13」、「タンク52」、「チューブ54」及び「プレッサー55」を併せた構成(以下「テンプル等」という。)は、全体として、「タンク52」中の「流体53」を「嚢51」へ供給するための仕組みといえるから、引用発明は、テンプル等について、本願発明の「眼鏡の流体充填レンズに供給するために流体を貯蔵する眼鏡リザーバシステム」との構成を備えるといえる。

キ 上記アないしカからみて、本願発明と引用発明とは、
「眼鏡の流体充填レンズに供給するために流体を貯蔵する眼鏡リザーバシステムであって、
中空部を備えたテンプル部品を有し、
袋の形態をした第1の部分及び連結管の形態をした第2の部分を有し、
前記袋の部分は、前記中空部内に配置されていて、繰り返し縮んだり弛緩したりすることができ、前記袋の部分は、軟質材料で作られ、
前記連結管の部分は、レンズモジュールの入口ポート及び前記袋に結合されていて、流体を前記袋の部分と前記レンズモジュールの流体充填レンズ中空部との間で運搬することができる、眼鏡リザーバシステム。」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点:
前記「袋の形態をした第1の部分」及び「連結管の形態をした第2の部分」が、
本願発明では、「単一の連続した管」であるのに対し、
引用発明では、単一の連続した管であるかどうか明らかでない点。

(2)一応の相違点についての判断
ア 引用発明の「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)及び「チューブ54」(「連結管の形態をした第2の部分」)は、ともにシリコーンゴムから成っているところ、シリコーンゴムは難接着性の材料であるから、シリコーンゴムから成る両者は、一体成形されたものと解するのが自然である(両者が一体成形されたものであることは、図7及び図8からも見てとれる事項である。)。したがって、前記一応の相違点は、引用例に文言上明記されていないだけの事項であって、引用例に接した当業者にとっては記載されているに等しい事項である。
したがって、本願発明と引用発明との間に相違点はないから、両者は同一の発明である。
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

イ 仮に、「タンク52」(「袋の形態をした第1の部分」)と「チューブ54」(「連結管の形態をした第2の部分」)とが一体成形されたものであることが引用例に記載されているに等しい事項であるとまではいえないとしても(すなわち、前記一応の相違点が実質的な相違点であるとしても)、引用発明の「タンク52」と「チューブ54」がシリコーンゴムという同一の材料から成っていることは間違いがない。
「タンク52」と「チューブ54」とが同一の材料から成るがそれぞれ個別の部材であるということは、両者は接合されているということを意味するが、個別に部材を作って接合することに替えて、両者を一体に成形するようなすことは、当業者であれば適宜なし得る程度の設計的事項である。
よって、この場合でも、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6 請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書(4)d.ないしg.において、概略、次のアないしエのように主張している。
ア 本願請求項1記載の発明における「袋の形態をした第1の部分」は、引用例記載の発明の「タンク52」に相当する構成ではない。すなわち、引用例には、「タンク52は蛇腹のように伸縮自在で、プレッサー55を動かすことにより、タンク52の中のシリコーンオイル53を嚢51の中に送り込んだりタンク52の中にもどしたりすることができる。」との記載がある(引用例の段落【0033】)。しかしながら、引用例の図7、8等に記載されているように、タンク52は伸縮されても依然として蛇腹状の形状が維持されており、相当の剛性を有するものと考えられる。
イ これに対して、本願請求項1記載の「袋の形態をした第1の部分」は、「軟質材料」で作られており、引用例記載の「タンク52」のような剛性を有するものではない。すなわち、本願段落【0026】には、「これら実施形態の各々に関し、リザーバ組立体に適した材料を選択することが重要である。或る1つの実施形態では、この材料は、化学的に不活性であり、用いられる流体(例えば、シリコーン油)に対する浸透性が最小限であり、したがって、2?3年の使用期間中に流体が失われないようになっている。或る1つの実施形態では、この材料は、加工可能であると共に高い柔軟性を有する。というのは、この材料は、特にヒンジが閉じられるときにその長さに沿ってきついカーブ曲がり又は曲がりを生じる場合があるからである。一実施例では、曲率半径は、3.0mmという小さい長さ又は連結管の外径の2.5倍という短い長さであるのが良い。」との記載がある。
ウ ここに記載されているように、本願請求項1記載の「袋の形態をした第1の部分」は、「ヒンジが閉じられるときにその長さに沿ってきついカーブ曲がり又は曲がりを生じる」ことができるほどに「高い柔軟性」を有するものである。これに対して、引用例記載の「タンク52」は、変形された後でも蛇腹の形状を維持しており、本願発明における「袋の形態をした第1の部分」ほどの「高い柔軟性」を有していないことは明らかである。
エ さらに、引用例の図6及び9に示されているように、引用例においては、上縁に「凹み73」が形成された「テンプル13」の内部に「タンク52」が収容されている。「チューブ54」は、この「テンプル13」を形成する前端部の部材から延びている。すなわち、「テンプル13」の内部に収容された「タンク52」と、「テンプル13」の前端部から延びる「チューブ54」の間には、「テンプル13」の前端部を形成する部材が間に介在しており、この前端部を形成する部材の後方に「タンク52」が取り付けられていることは明らかである。従って、引用例に開示されている構造は、本願請求項1記載の発明に備えられている「袋の形態をした第1の部分及び連結管の形態をした第2の部分を備えた単一の連続した管」ではあり得ない。

(2)請求人の主張について検討する。
ア 引用発明における「タンク52」は、シリコーンゴムから成っており(上記4(1)に摘記した【0032】参照。)、上記5のエ(ア)に記載したとおり、シリコーンゴムは軟質材料といえるのであるから、「タンク52は伸縮されても依然として蛇腹状の形状が維持されており、相当の剛性を有するものと考えられる」という請求人の主張が正しいか否かに関わりなく、引用発明は、本願発明の「袋の部分は、軟質材料で作られ」という構成を備えるものである。
イ 本願の特許請求の範囲には、「ヒンジ」又は具体的な「柔軟性」の程度に関する事項は何ら記載されておらず、したがって、本願請求項1記載の「袋の形態をした第1の部分」は、「ヒンジが閉じられるときにその長さに沿ってきついカーブ曲がり又は曲がりを生じる」ことができるほどに「高い柔軟性」を有するものであり、これに対して、引用例記載の「タンク52」は本願発明における「袋の形態をした第1の部分」ほどの「高い柔軟性」を有していない、との請求人の主張は、何ら特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
ウ 引用発明の「チューブ54」は、「嚢51とタンク52を連絡」している。また、引用例の図7及び図8からみても、引用発明の「チューブ54」が「テンプル13」を形成する前端部の部材に設けられた孔を貫通していることは明らかであり、「テンプル13」の内部に収容された「タンク52」と「テンプル13」の前端部から延びる「チューブ54」の間に「テンプル13」の前端部を形成する部材が介在しているとは認められない。また、引用例の図6や図9から、「タンク52」と「チューブ54」の間に「テンプル13」の前端部を形成する部材が介在していることが見てとれるともいえない。
エ 上記ア及びイから、上記(1)アないしウの請求人の主張は採用できない。また、上記ウから、上記(1)エの請求人の主張は採用できない。

7 むすび
本願発明は、以上のとおり、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-23 
結審通知日 2016-09-26 
審決日 2016-10-07 
出願番号 特願2012-534406(P2012-534406)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02C)
P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本田 博幸居島 一仁  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 多田 達也
西村 仁志
発明の名称 流体充填レンズリザーバシステム及びリザーバシステムの製造方法  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 渡邊 誠  
代理人 井野 砂里  
代理人 弟子丸 健  
代理人 松下 満  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  

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