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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01H
管理番号 1325422
審判番号 不服2015-10402  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2011-249128「精密騒音計」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日出願公開、特開2012- 37532、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成17年11月15日に出願された特願2005?330542号の一部を、平成23年11月14日に新たに出願したものであって、平成25年10月2日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月18日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同手続補正書でした補正に対して平成27年2月19日付けで補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたところ、同年6月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされた。
その後、当審において平成28年5月18日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年7月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、更に当審において同年9月29日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年12月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれの発明を「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成28年12月5日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願発明1及び2は以下のとおりである。

「 【請求項1】
マイクカートリッジと、
対象音を電気信号に変換してその自乗値を算出する自乗値算出手段と、
前記マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々前記対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズの測定値から、当該バックグラウンドノイズの自乗実効値を計算する自己雑音自乗実効値算出手段と、
前記自己雑音自乗実効値算出手段で計算されたバックグラウンドノイズの自乗実効値を補正値として記憶すると共に、当該補正値の更新手段で更新された補正値を記憶できるようにした記憶手段と、
対象音を入力したときに、前記自乗値算出手段の算出による前記対象音の自乗値から前記バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する減算手段と、
当該減算手段による減算結果を積分する演算手段と、
前記演算手段による前記積分値に基づいて前記対象音から前記バックグラウンドノイズの影響を除去した結果の信号レベルを出力する出力手段と、
を備えてなる精密騒音計。」

「 【請求項2】
マイクカートリッジによって対象音を電気信号に変換してその自乗実効値を算出する騒音計測方法において、
前記マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々前記対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズの測定値から、当該バックグラウンドノイズの自乗実効値を計算し、
前記算出されたバックグラウンドノイズの自乗実効値を補正値として記憶すると共に当該補正値を更新して記憶できるようにし、
対象音を入力したときに、算出される当該対象音の自乗値から前記バックグラウンドノイズの自乗実効値である前記補正値を減算し、当該減算結果を積分し、
前記積分値に基づいて前記対象音から前記バックグラウンドノイズの影響を除去した結果の信号レベルを出力する、騒音計測方法。」


第3 原査定の理由について

1 原査定の理由の概要

本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2004-219353号公報
引用文献2:特開平06-194219号公報

引用文献1記載のマイクロフォン及び電気回路から発生する自己雑音の信号を除去する手段を備えた騒音計及び方法において、引用文献2記載の雑音信号を除去する手段を備えた自乗差分法の技術を適用し、本願の請求項1,2に係る発明とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

2 原査定の理由についての判断

(1)引用文献の記載事項

ア 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(引1-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、計測器の自己雑音値を推定する方法及び自己雑音値を考慮した測定値を得る計測器に関する。」

(引1-イ)「【0010】
計測器の自己雑音の発生源は、主に計測器が備えるセンサと計測器内部の電気回路である。一般に電気回路が発生する自己雑音値はほぼ同じ値である。また、センサが発生する自己雑音値もほぼ同じ値である。しかし、センサの感度には一般にばらつきがある。
【0011】
そこで、図1に示すように、計測器には電気回路内にセンサA,Bの感度のばらつきを調整する感度調整器Cを設けているため、最終的に測定値に影響を及ぼす自己雑音値Nは、感度調整器Cの増幅度Gに比例して変化したセンサA,Bの自己雑音値NAs,NBsと電気回路内の自己雑音値Ncの和(NAs+Nc),(NBs+Nc)として表される。なお、図1では感度が異なる2つのセンサA,Bを示し、センサAの感度はセンサBの感度の4倍である。
【0012】
つまり、測定値に影響を及ぼす自己雑音値Nは、電気回路が発生する自己雑音値がほぼ同じ値(Nc)であり、またセンサが発生する自己雑音値もほぼ同じ値(Ns)であるので、センサ感度または感度調整器Cの増幅度Gが分かれば推定できる。
【0013】
本発明に係る計測器は、図2に示すように、センサ1、基準信号発生器2、増幅器(感度調整器)3、検波器4、自己雑音値推定器5、メモリ6、自己雑音補正器7及び表示器8などを備えている。なお、9,10は切換スイッチである。
【0014】
以上のように構成した本発明に係る計測器の自己雑音値の推定方法及び測定動作について説明する。
先ず、切換スイッチ9を操作してセンサ1と増幅器3を接続し、切換スイッチ10を操作して検波器4と表示器8を接続して、図3に示す構成とする。
【0015】
次いで、基準となる物理量をセンサ1に入力する。例えば、計測器が騒音計でセンサ1が騒音を計測するためのマイクロホンであれば、基準となる物理量として100dBの音圧レベル信号をマイクロホンに入力する。更に、表示器8が100dBを表示するように増幅器3の増幅度Gを調整する(増幅器の増幅度調整工程)。
【0016】
次に、切換スイッチ9を操作して基準信号発生器2と増幅器3を接続し、切換スイッチ10を操作して検波器4と自己雑音値推定器5を接続して、図4に示す構成とする。
【0017】
そして、基準信号発生器2により一定の電気信号(例えば、aVの電圧)を増幅器3に入力する。更に、自己雑音値推定器5において、検波器4の出力信号(例えば、bVの電圧)と増幅器3に入力された一定の電気信号(例えば、aVの電圧)から、先に調整された増幅器3の増幅度Gを算出する(G=b/a)。
【0018】
次いで、自己雑音値推定器5に予め格納されている増幅器3の増幅度Gと自己雑音値Nの関係を表すテーブルから、増幅度G(=b/a)の時の自己雑音値Nを推定し、その推定結果をメモリ6に保存する(自己雑音値推定工程)。
以上で自己雑音値の推定作業が終了する。これらの一連の作業は計測器の製造時、または計測器の毎起動時に自動的に実施することができる。」

(引1-ウ)「【0021】
次に、実際に測定作業を行う場合には、切換スイッチ9を操作してセンサ1と増幅器3を接続し、切換スイッチ10を操作して検波器4と自己雑音補正器7を接続して、図5に示す構成とする。
【0022】
センサ1により検出された物理量は、増幅器3、検波器4を経て自己雑音補正器7に検出値として送られる。そして、自己雑音補正器7で、検出値から予めメモリ6から読み込まれた自己雑音値Nを減算し、その減算結果を表示器8に表示する。すると、真値に限りなく近い測定値を得ることができる。」

(引1-エ)【図2】




イ (引1-ア)ないし(引1-エ)の記載から、引用文献1には、
「 マイクロホン、基準信号発生器、増幅器、検波器、自己雑音値推定器、メモリ、自己雑音補正器及び表示器を備え、
基準信号発生器は一定の電気信号を出力し、
自己雑音値推定器は、基準信号発生器から出力され増幅器により増幅された検波器の出力信号と増幅器に入力された一定の電気信号から、増幅器の増幅度Gを算出し、予め格納されている増幅器の増幅度Gと自己雑音値Nの関係を表すテーブルから、増幅度Gの時の自己雑音値Nを推定し、
メモリは、自己雑音値推定器の推定結果である自己雑音値Nを保存し、
自己雑音値の推定作業は毎起動時に自動的に実施することができ、
実際に測定作業を行う場合に、自己雑音補正器は、マイクロホンにより検出され、増幅器、検波器を経て送られた検出値から予めメモリから読み込まれた自己雑音値Nを減算し、
表示器は、自己雑音補正器の減算結果を表示するものであり、
それにより真値に限りなく近い測定値を得ることができる騒音計。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(引2-ア)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ホール椅子の人着席状態での吸音力を測定する方法およびこの吸音力測定方法に用いられるダミー吸音体に関し、高精度かつ容易に吸音力を測定できるようにしたものである。」

(引2-イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記実際に人間が椅子に着席して吸音特性を測定する方法では次のような不都合があった。
(1) 測定値の信頼性、再現性に劣る。つまり、人の着席姿勢がまちまちであり、また人が実験室内の温度、湿度に影響を与え、誤差要因となる。また、測定中に人が動くことや着衣の影響も大きい。
(2) 上記(1)により測定値の相互比較ができない。
(3) 被験者にとって苦痛であり、それが上記の要因にもなる。
(4) 10?20人の被験者を用意するのは大変である。
【0006】この発明は、前記従来の技術における問題点を解決して、高精度かつ容易にホール椅子の人着席状態の吸音特性の測定を行なうことができる吸音力測定方法およびこの吸音力測定方法に用いられるダミー吸音体を提供しようとするものである。」(当審注:上記の括弧付き数字「(1)」ないし「(4)」は、原文では丸囲い数字である。)

(引2-ウ)「【0007】
【課題を解決するための手段】この発明のホール椅子着席状態の吸音力特性測定方法は、測定環境に測定対象のホール椅子を配置し、このホール椅子に人体を模した椅子当接形状、吸音力、および椅子押圧力を有するダミー吸音体を配置し、人が着席した際のホール椅子状態変化および人体による吸音力状態変化と同等な変化を当該ホール椅子に生じさせて当該ホール椅子の吸音力を測定するようにしたことを特徴とするものである。」

(引2-エ)「【0013】図1(a)において、短音発生装置18からは、測定用の短音が発生され、残響室10内に配置されたスピーカ20から発音される。残響室10内にはマイク22が配置され、スピーカ20から発生されて残響室10内で反射された音が収音される。
【0014】マイク22で収音された音はアンプ24を介して演算装置26に送られて、周波数ごとの吸音力の測定が行なわれる。吸音力の測定結果や残響曲線は、表示および記録装置28に出力されて、CRT画面上での表示やプリントアウトが行なわれる。
【0015】演算装置26の具体例を図2に示す。これは残響室10が空室の場合と、ホール椅子14および反射性囲い12を配置した場合とにおいて、それぞれ音源を断とした時の残響の空間集合平均を求め、この残響波形と理論値とを比較することによって、残響波形の湾曲の度合を求め、さらにこの湾曲の度合から完全拡散音場における直線減衰の減衰率に対する残響時間T_(0) ,T_(1) を求め、これらT_(0) ,T_(1) に基づいてホール椅子14の吸音力を求めるようにしたものである。
【0016】図2において、インパルスの発生前にあっては残響室10のノイズn(x)がマイクロフォン22-1?22-nのいずれかによって収音され、A/D変換回路107によってディジタル信号に変換された後、自乗回路108によって自乗される。この自乗回路108の出力n_(2) (x)(当審注:「n_(2) (x)」は「n^(2) (x)」の誤記と認める。)は、アキュームレータ109によって順次累算され、
【0017】
【数1】

(当審注:【数1】中の「n_(2) (x)」は「n^(2) (x)」の誤記と認める。)を得る。この乗算結果は、除算回路125によって累算時間τで割られ、ノイズn(x)の自乗の平均、すなわち、ノイズn(x)の実効値の自乗n^(2) _(off) が求められる。
【0018】次に、第1のインパルスレスポンスがスピーカ20から発生する前に、切換スイッチ105の共通端子105-COMと接点105-1を接続し、またアキュームレータ109、RAM114およびレジスタ112をクリアする。単音発生装置18によるインパルスレスポンスr_(1) (x)がスピーカ20から発生されると、マイクロフォン22-1がこのインパルスr_(1) (x)とノイズn(x)の和R(x)=r_(1) (x)+n(x)を収音する。このR(x)は、A/D変換回路107によりディジタル信号に変換され、自乗回路108によって自乗されてR^(2 )(x)となる。そして、減算回路123によって前述のノイズn(x)の実効値の自乗n^(2) (x)から減算され、R^(2) (x)-n^(2) _(off) となる。この減算結果が、アキュームレータ109によって順次累算され、
【0019】
【数2】

が算出される。この累算結果は、所定のタイミングで順次レジスタ110に入力され、このレジスタ110の内容が加算回路111によってレジスタ112の内容と加算される。この加算結果は、RAM114の所定番地に記憶されるとともに、レジスタ113に入力される。
【0020】この場合、測定開始から所定時間が経過する毎にアキュームレータ109の内容はレジスタ110に入力されるようになっている。最初のタイミングでは、アキュームレータ109の内容(S_(1-1 ))がレジスタ110に入力される。そして、これと同時にRAM114の1番地の内容がレジスタ112に入力される。このとき、RAM114はクリアされているので、レジスタ112に入力される値も“0”である。そして、レジスタ112の内容とレジスタ110の内容S_(1-1)が加算回路111によって加算され〔S_(1-1) +0〕、RAM114の1番地に再び書き込まれるとともに、レジスタ113に入力される。そして、次のタイミングにおいて、アキュームレータ109の内容(S_(1-2) )がレジスタ110に入力されると、RAM114の2番地の内容(=“0”)がレジスタ112に入力され、加算回路111において〔S_(1-2) +0〕の加算がなされ、この加算結果(S_(1-2) )が再びRAM114の第2番地およびレジスタ113に書き込まれる。以下、同様にして、累算終了時点までRAM114およびレジスタ113への書込が行われる。すなわち、累算終了点の書込が終了した時点で、RAM114の各番地には各々番地→S_(1-1) 、2番地→S_(1-2) 、3番地→S_(1-3) 、……、m番地→S_(1-m) の各データが書き込まれ、レジスタ113にはS_(1-m) が書き込まれている。
【0021】このようにして、マイクロフォン22-1におけるインパルスレスポンスr_(1)(x)のデータ収集が終了すると、切換スイッチ105の共通端子105-COMと接点105-2が接続され、また、アキュームレータ109がクリアされる。そして、スピーカ20から第2のインパルスレスポンスr_(2) (x)が、上記と同様にして順次処理される。」

(2)本願発明1について

ア 対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「マイクロホン」は、本願発明1の「マイクカートリッジ」に相当する。

(イ)引用発明の「増幅器」と、本願発明1の「対象音を電気信号に変換してその自乗値を算出する自乗値算出手段」とは、「入力信号処理手段」である点において共通する。


(ウ)引用発明の「基準信号発生器から出力され増幅器により増幅された検波器の出力信号と増幅器に入力された一定の電気信号から、増幅器の増幅度Gを算出し、予め格納されている増幅器の増幅度Gと自己雑音値Nの関係を表すテーブルから、増幅度Gの時の自己雑音値Nを推定」する「自己雑音値推定器」と、本願発明1の「マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々」「対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズの測定値から、当該バックグラウンドノイズの自乗実効値を計算する自己雑音自乗実効値算出手段」とは、「自己雑音に関する値を算出する手段」である点において共通する。

(エ)
a 引用発明の「自己雑音値推定器の推定結果である自己雑音値N」と、本願発明1の「自己雑音自乗実効値算出手段で計算されたバックグラウンドノイズの自乗実効値」である「補正値」とは、「自己雑音に係る補正値」である点において共通する。

b 引用発明は、「自己雑音値Nの推定作業は毎起動時に自動的に実施することができ」るものであるから、「自己雑音値推定器の推定結果である自己雑音値N」を更新する手段を備えているものといえる。

c 引用発明の「自己雑音値推定器の推定結果である自己雑音値Nを保存」する「メモリ」と、本願発明1の「自己雑音自乗実効値算出手段で計算されたバックグラウンドノイズの自乗実効値」である「補正値を記憶できるようにした記憶手段」とは、「自己雑音に係る補正値を記憶できるようにした記憶手段」である点において共通する。

d 上記aないしcを踏まえると、引用発明の「自己雑音値Nの推定作業は毎起動時に自動的に実施することができ」、「自己雑音値推定器の推定結果である自己雑音値Nを保存」する「メモリ」と、本願発明1の「自己雑音自乗実効値算出手段で計算されたバックグラウンドノイズの自乗実効値を補正値として記憶すると共に、当該補正値の更新手段で更新された補正値を記憶できるようにした記憶手段」とは、「自己雑音に関する値を算出する手段で算出された自己雑音に係る補正値を記憶すると共に、当該補正値の更新手段で更新された補正値を記憶できるようにした記憶手段」である点において共通する。

(オ)
a 引用発明において、「実際に測定作業を行う場合に」「マイクロホンにより検出」がされたときは、本願発明1において、「対象音を入力したとき」に相当する。

b 引用発明の「増幅器、検波器を経て送られた検出値」と、本願発明1の「自乗値算出手段の算出による」「対象音の自乗値」とは、「対象音に係る入力信号を処理した信号値」である点において共通する。

c 上記a及びbを踏まえると、引用発明の「実際に測定作業を行う場合に」、「マイクロホンにより検出され、増幅器、検波器を経て送られた検出値から予めメモリから読み込まれた自己雑音値Nを減算する自己雑音補正器」と、本願発明の「対象音を入力したときに」、「自乗値算出手段の算出による前記対象音の自乗値から」「バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する減算手段」及び「当該減算手段による減算結果を積分する演算手段」を併せたものとは、「対象音を入力したとき、入力信号処理手段の出力値から自己雑音に係る補正値を減算することを含む演算をする手段」である点において共通する。

(カ)
a 引用発明の「自己雑音補正器の減算結果」と、本願発明1の「演算手段による」「積分値に基づいて」「対象音から」「バックグラウンドノイズの影響を除去した結果の信号レベル」とは、「対象音に係る入力信号から自己雑音の影響を除去した結果の信号レベル」である点において共通する。

b 引用発明の「表示器」は、測定結果を出力するものである点において、本願発明1の「出力手段」に相当する。

c 上記a及びbを踏まえると、引用発明の「自己雑音補正器の減算結果を表示する」「表示器」と、本願発明1の「演算手段による」「積分値に基づいて」「対象音から」「バックグラウンドノイズの影響を除去した結果の信号レベルを出力する出力手段」とは、「演算をする手段の演算結果に基づいて対象音に係る入力信号から自己雑音の影響を除去した結果の信号レベルを出力する出力手段」である点において共通する。

(キ)引用発明の「騒音計」は、「真値に限りなく近い測定値を得ることができる」ものであることから、精密騒音計であるということができる。
よって引用発明の「騒音計」は、本願発明1の「精密騒音計」に相当する。

イ 一致点及び相違点

よって、本願発明1と引用発明とは、

「 マイクカートリッジと、
入力信号処理手段と、
自己雑音に関する値を算出する手段と、
前記自己雑音に関する値を算出する手段で算出された自己雑音に係る補正値を記憶すると共に、当該補正値の更新手段で更新された補正値を記憶できるようにした記憶手段と、
対象音を入力したとき、前記入力信号処理手段の出力値から前記自己雑音に係る補正値を減算することを含む演算をする手段と、
前記演算をする手段の演算結果に基づいて対象音に係る入力信号から自己雑音の影響を除去した結果の信号レベルを出力する出力手段と、
を備えてなる精密騒音計。」

の発明である点で一致し、次の5点で相違する。

(相違点1)
入力信号処理手段が、本願発明1においては、「対象音を電気信号に変換してその自乗値を算出する自乗値算出手段」であるのに対し、引用発明においては、「増幅器」である点。

(相違点2)
自己雑音に関する値を算出する手段が、本願発明1においては、「マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々」「対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズの測定値から、当該バックグラウンドノイズの自乗実効値を計算する自己雑音自乗実効値算出手段」であるのに対し、引用発明においては、「基準信号発生器から出力され増幅器により増幅された検波器の出力信号と増幅器に入力された一定の電気信号から、増幅器の増幅度Gを算出し、予め格納されている増幅器の増幅度Gと自己雑音値Nの関係を表すテーブルから、増幅度Gの時の自己雑音値Nを推定」する「自己雑音値推定器」である点。

(相違点3)
記憶手段が記憶する対象である自己雑音に係る補正値が、本願発明1においては、「自己雑音自乗実効値算出手段で計算されたバックグラウンドノイズの自乗実効値」であるのに対し、引用発明においては、「自己雑音値推定器の推定結果である」「増幅度Gの時の自己雑音値N」である点。

(相違点4)
対象音を入力したとき、前記入力信号処理手段の出力値から前記自己雑音に係る補正値を減算することを含む演算をする手段が、本願発明1においては、「対象音を入力したときに」、「自乗値算出手段の算出による前記対象音の自乗値から」「バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する減算手段」と、「当該減算手段による減算結果を積分する演算手段」であるのに対し、引用発明においては、「実際に測定作業を行う場合に」、「マイクロホンにより検出され、増幅器、検波器を経て送られた検出値から予めメモリから読み込まれた自己雑音値Nを減算」する「自己雑音補正器」である点。

(相違点5)
出力手段が出力する、演算をする手段の演算結果に基づいて対象音に係る入力信号から自己雑音の影響を除去した結果の信号レベルが、本願発明1においては、「演算手段による」「積分値に基づいて」「対象音から」「バックグラウンドノイズの影響を除去した結果の信号レベル」であるのに対し、引用発明においては、「自己雑音補正器の減算結果」である点。

ウ 判断

上記相違点4について検討する。

(ア)(引2-ア)ないし(引2-ウ)から、引用文献2には、
「 ホール椅子の人着席状態での吸音力を測定する方法において、インパルスの発生前に、残響室のノイズをマイクロフォンで収音し、A/D変換回路によってディジタル信号に変換された後、自乗回路によって自乗し、この自乗回路の出力をアキュームレータによって順次累算して積分値を得、この積分値を除算回路125によって累算時間τで割り、ノイズの実効値の自乗値を求め、インパルスの測定時には、マイクロフォンがインパルスとノイズの和を収音し、A/D変換回路によりディジタル信号に変換され、自乗回路によって自乗され、減算回路によって前述のノイズの実効値の自乗値が減算され、この減算結果をアキュームレータによって順次累算して積分値を得ることにより、測定値から測定場のノイズの影響を除去すること。」(以下「引用文献2技術」という。)
が記載されている。

(イ)次に、上記相違点4に係る本願発明1の特定事項である減算手段及び演算手段と引用文献2技術における減算回路及びアキュームレータとを対比する。

a 引用文献2技術の「インパルスとノイズの和」は、本願発明1の「対象音」に相当する。

b 引用文献2技術の「測定時」は、本願発明1の「入力したとき」に相当する。

c 引用文献2技術において、「マイクロフォンがインパルスとノイズの和を収音し、A/D変換回路によりディジタル信号に変換され」た信号が、「自乗回路」に入力されることは明らかであるから、引用文献2技術の「自乗回路によって自乗され」た値は、本願発明1の「自乗値算出手段の算出による」「対象音の自乗値」に相当する。

d 引用文献2技術の「残響室のノイズ」と、本願発明1の「マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々」「対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズ」とは、「測定におけるノイズ」である点において共通する。

e 引用文献2技術の「残響室の」「ノイズの実効値の自乗値」と、本願発明1の「バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値」とは、「測定におけるノイズに関する自乗実効値である補正値」である点において共通する。

f 上記aないしeを踏まえると、引用文献2技術における、「インパルスの測定時に」、「マイクロフォンがインパルスとノイズの和を収音し」、「A/D変換回路によりディジタル信号に変換され、自乗回路によって自乗され」た値から、「ノイズの実効値の自乗値」を「減算」する「減算回路」と、本願発明1の、「対象音を入力したときに」、「自乗値算出手段の算出による前記対象音の自乗値から」「バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する減算手段」とは、「対象音を入力したときに、自乗値算出手段の算出による前記測定音の自乗値からノイズに関する自乗実効値である補正値を減算する減算手段」である点において共通する。

g 引用文献2技術の「減算回路」の「減算結果を」「順次累算して積分値を得る」「アキュームレータ」は、本願発明1の「減算手段による減算結果を積分する演算手段」に相当する。

よって、上記相違点4に係る本願発明1の特定事項である減算手段及び演算手段と引用文献2技術における減算回路及びアキュームレータとは、
「対象音を入力したときに、自乗値算出手段の算出による前記測定音の自乗値から測定におけるノイズに関する自乗実効値である補正値を減算する減算手段」及び「減算手段による減算結果を積分する演算手段」
である点において一致し、
「測定におけるノイズ」が、本願発明1においては、「マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々」「対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含むバックグラウンドノイズ」であるのに対し、引用文献2技術においては、「残響室のノイズ」である点において相違する。

してみると、引用発明に引用文献2技術を適用したとしても、本願発明1の「バックグラウンドノイズ」が「マイクカートリッジの自己雑音と暗騒音とを夫々」「対象音とは独立した定常雑音として、形成された無音状態での前記マイクカートリッジの自己雑音及び前記暗騒音を含む」ものである点を導き出すことはできない。

(ウ)加えて、(引1-イ)の「【0010】計測器の自己雑音の発生源は、主に計測器が備えるセンサと計測器内部の電気回路である。一般に電気回路が発生する自己雑音値はほぼ同じ値である。また、センサが発生する自己雑音値もほぼ同じ値である。しかし、センサの感度には一般にばらつきがある。【0011】そこで、図1に示すように、計測器には電気回路内にセンサA,Bの感度のばらつきを調整する感度調整器Cを設けているため、最終的に測定値に影響を及ぼす自己雑音値Nは、感度調整器Cの増幅度Gに比例して変化したセンサA,Bの自己雑音値NAs,NBsと電気回路内の自己雑音値Ncの和(NAs+Nc),(NBs+Nc)として表される。・・・【0012】つまり、測定値に影響を及ぼす自己雑音値Nは、電気回路が発生する自己雑音値がほぼ同じ値(Nc)であり、またセンサが発生する自己雑音値もほぼ同じ値(Ns)であるので、センサ感度または感度調整器Cの増幅度Gが分かれば推定できる。」との記載によれば、引用発明が解決しようとする課題は、センサ感度の差に起因する自己雑音値の差を補正することであると認められる。
してみると、センサ感度の差に起因する自己雑音値の差を補正しようとする引用発明において、そもそも測定値から測定場のノイズの影響を除去することに関する引用文献2技術を適用する動機があるとはいえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、引用文献1及び2に接した当業者といえども、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想起することはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本願発明2について

騒音計測方法に係る発明である本願発明2は、精密騒音計に係る物の発明である本願発明1のカテゴリーを方法の発明に変更した発明に相当するから、本願発明1と同様に、本願発明2は、引用発明及び引用文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 原査定の理由についてのむすび

以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について

1 当審拒絶理由1の概要

(1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)理由(1)(特許法第36条第6項第1号)について
請求項1及び2において、「マイクカートリッジの自己雑音」を「対象音とは独立した定常雑音」とすることは特定されているが、「暗騒音」の内容及び「対象音」との関係は何ら特定されていない。
一方、発明の詳細な説明の段落【0055】の【数5】の記載によれば、対象音の自乗実効値からバックグラウンドノイズの自乗実効値を減算した結果の積分値に基づいて対象音からバックグラウンドノイズの影響を除去した結果を得るためには、暗騒音が対象音とは独立した定常雑音であることが必要であると認められる。
してみると、暗騒音の内容や対象音との関係を特定せず、暗騒音が対象音と独立した非定常雑音である場合や、暗騒音が対象音と関連した非独立な雑音である場合をを包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠も見いだせない。
したがって、請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)理由(2)(特許法第36条第6項第2号)について
ア 請求項1に記載された「記憶するすると共に」の意味する内容が不明瞭である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
イ 請求項2に「前記バックグランドノイズの影響」とあるが、これ以前に「バックグランドノイズ」は記載されていない。
よって、請求項2に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由2の概要

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に「対象音を入力したときに前記自乗実効値算出手段の算出による前記対象音の自乗実効値から前記バックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する減算手段」とあり、減算手段が対象音の自乗実効値からバックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算するものであることが特定されている。
ここで、自乗実効値とは、一般に自乗値の時間平均値として認識されているものである。
一方、減算手段に関連する記載である、発明の詳細な説明の段落【0011】、【0015】、【0024】、【0026】、【0043】、【0049】及び【0055】、並びに、図面【図4】及び【図8】の記載を総合すると、減算手段においてバックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する対象は、時間平均値としての対象音の自乗実効値ではなく、対象音を入力したときの自乗値そのものであると認められる。
してみると、請求項1で特定される、減算手段においてバックグラウンドノイズの自乗実効値である補正値を減算する対象である「対象音の自乗実効値」が、一般的な意味における時間平均値としての自乗実効値であるのか、時間平均を施していない自乗値であるのかが不明瞭である。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。

(2)請求項2に記載された「対象音を入力したときに算出される対象音の自乗実効値から前記バックグラウンドノイズの自乗実効値である前記補正値を減算し」における「対象音の自乗実効値」についても、上記1で指摘した請求項1の「対象音の自乗実効値」と同様に、一般的な意味における時間平均値としての自乗実効値であるのか、時間平均を施していない自乗値であるのかが不明瞭である。
よって、請求項2に係る発明は明確でない。

(3)請求項2の冒頭に記載された「マイクカートリッジによって対象音を電気信号に変換してその自乗実効値を算出し、」と、他の工程との関連が不明瞭である。
よって、請求項2に係る発明は明確でない。

3 当審拒絶理由1及び2についての判断

平成28年7月25日になされた手続補正により、本願発明1及び2は発明の詳細な説明に記載したものとなった。
また、平成28年7月25日になされた手続補正及び同年12月5日になされた手続補正により、本願発明1及び2は明確となった。
よって、当審拒絶理由1及び2はいずれも解消した。


第5 むすび

以上のとおりであるから、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2011-249128(P2011-249128)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01H)
P 1 8・ 121- WY (G01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 剛▲高▼見 重雄  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 田中 洋介
渡戸 正義
発明の名称 精密騒音計  
代理人 百本 宏之  
代理人 大賀 眞司  
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