• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録(定型) G02C
管理番号 1325426
審判番号 不服2016-233  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-06 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2015- 40082「リング状角膜矯正用コンタクトレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 81028、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月2日(優先権主張平成26年10月10日)の出願であって、平成27年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月13日に手続補正がなされ、同年9月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年1月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年1月6日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1ないし4に係る発明は次のとおりである。

「 【請求項1】
患者の角膜に接触する側に、凹部からなるリリーフ領域と凸部からなる押圧領域とが形成されていて、少なくとも押圧領域を角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、遠視又は老眼の少なくとも一方を矯正するための角膜矯正用コンタクトレンズであって、
前記リリーフ領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央部に対応する位置で直径が5mmを超え8mm以下の貫通孔として形成されていて、角膜が前記貫通孔に突出して凸湾曲面を形成するようにされ、
前記押圧領域は、前記リリーフ領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凸円弧形状の環状凸部からなり、
前記押圧領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域、及び、このアンカー領域の外周を囲む周縁部のうち少なくともアンカー領域を有し、
断面において、前記押圧領域は、前記アンカー領域から連続する、角膜側に凸の円弧形状とされ、前記貫通孔の内周面は、前記押圧領域の凸円弧から滑らかに連続し、且つ、患者の角膜に接触しない側に連続する、貫通孔中心側に凸の円弧形状とされたことを特徴とするリング状角膜矯正用コンタクトレンズ。
【請求項2】
請求項1において、
前記押圧領域及びアンカー領域のうち、少なくとも前記押圧領域は不透明材料により形成されていることを特徴とするリング状角膜矯正用コンタクトレンズ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記押圧領域及びアンカー領域のうち、少なくとも前記押圧領域は紫外線を遮蔽するUV遮蔽材料により形成されていることを特徴とするリング状角膜矯正用コンタクトレンズ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記アンカー領域の外周を囲む周縁部を有し、この周縁部の外径D_(1)は、人間の角膜の外周縁の平均的外径D_(0)よりも3.0以上5.0mm以下大きくされ、且つ、該周縁部における直径がD_(0)-3.0mm以下D_(0)-5.0mm以上の位置から最も外周までの環状領域での角膜に接触する側に、紫外線を遮蔽するUV遮蔽膜を設けたことを特徴とするリング状角膜矯正用コンタクトレンズ。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、概ね、本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。



1.特表平7-500267号公報
2.特表平9-502542号公報
3.特開2000-298251号公報
4.国際公開第2009/090763号
5.特表2013-521988号公報
6.特表2004-517345号公報
7.米国特許出願公開第2009/0171305号明細書

第4 当審の判断
本件出願の優先権主張の基礎とされた先の出願(特願2014-209472号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、本願の請求項1に記載された「直径5mmを超え8mm以下の貫通孔」という事項に関する記載はないから、本件出願の請求項1に係る発明は、優先権主張の効果を享受できない。また、「直径5mmを超え8mm以下の貫通孔」という事項は、本件出願の請求項1の記載を引用する請求項2ないし4の各請求項に係る発明を特定するための事項でもあるから、当該請求項2ないし4に係る発明も、それぞれ、優先権主張の効果を享受できない。したがって、本件出願の請求項1ないし4の各請求項に係る発明についての新規性進歩性等の判断に関する出願の時は、先の出願の時ではなく、本件出願の出願の時である平成27年3月2日とする。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていた特許公表公報であって、原査定において引用文献1として引用された特表平7-500267号公報には、次のア及びイの事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア「D.遠視眼の酵素-角膜矯正法
遠視眼については、角膜の中心部分の湾曲面が急勾配の湾曲面60となるように変形しなくてはならない(第5B図参照)。眼に入射する光は、より大きく屈折しなくてはならない。というのは、この角膜を通過して投影される像は網膜の後ろで結実し(第5A図参照)するため、より大きく光を屈折させることによって網膜の前の方に焦点を合わせる、即ち角膜でより大きく曲げる必要があるからである。このコンタクトレンズの基底部分の湾曲面(50:第5C図及び第5D図参照)は、より平面に近くなっている非球面状の中間部分の湾曲面52及び周縁部分の湾曲面54における角膜の中心部分の曲率半径よりも急勾配になっている。このコンタクトレンズの中心に設けられた穴56は、角膜の中心部分51が急勾配になることができるように助長し、かつその中心部分51が急勾配になるためのスペースを提供することができる。また、別の方法では、第15図及び第16図に示されているタイプのコンタクトレンズを、遠視眼を矯正するために用いることができる。
酵素-角膜矯正法を用いて遠視眼を矯正するためには、次に説明する手法を採用することができる。本発明の好ましい実施例においては、コンタクトレンズの材質としてフルオロ-シリコン-アクリレートが用いられる(第5C図参照)。2.5mm?4.5mmの範囲の直径の穴が中心部分に設けられている。このコンタクトレンズの基底部分の湾曲面50は、角膜の中心部分よりも急勾配になっている。この基底部分の湾曲面は、5.5mm?8.0mmの範囲内で変化させることができ、その直径は、基底部分の湾曲面50(mm)+1.0?1.5mmである(全体では6.5?9.5mmの範囲)。コンタクトレンズの曲率半径が角膜の中心部分の曲率半径よりも急勾配になっているため、いくらか小さな直径のコンタクトレンズが用いられる。この中間部分の湾曲面52及び周縁部分の湾曲面54の曲率半径は、基底部分の湾曲面50の曲率半径よりも1.0ジオプトルから3ジオプトルだけ平面に近くなっている。これらの湾曲面の幅は、0.35mmから1.0mmの範囲内である。視覚ゾーン50、56は、5.5mmから8.0mmの範囲内にある。このコンタクトレンズの厚みは、矯正を行うのに必要な屈折力に基づいて変化する。遠視眼に用いられるコンタクトレンズの厚みは厚い。かりに屈折力がプラノ(0)の場合に厚み=0.20mmとして、1ジオプトル増加する毎に0.02mmずつ厚くなる。このコンタクトレンズの屈折力は、患者の屈折誤差と(基底部分の湾曲面/角膜の曲率半径)の比とに基づいて計算される。この遠視眼矯正用のコンタクトレンズは、すでに説明を行ったようにそのチャンバー11内に酵素あるいは薬剤を入れることもできるし、また、角膜が柔軟化された後で酵素を用いることなく用いることもできる。
酵素-角膜矯正法を用いて遠視眼を治療するこの他の実施例においては、本発明の方法にかかる前述した実施例において記載したのと同様に、初めに酵素や薬剤が、角膜に供給される。一旦角膜が柔軟になり始めると、その角膜はまず、ハードコンタクトレンズを使用することなく形状を変化させることができるようになる。眼の内部圧力の作用によって、角膜の曲率半径を急勾配にするようなコンタクトレンズを用いなくても、普通の形態では角膜の曲率半径は自然に急勾配になってくる。角膜の曲率半径がこのように自然に急勾配になることは、前述した遠視眼の角膜に対して達成されたような望ましい曲率半径になるまでのあいだ許容される。そしてこの時点で、角膜を柔軟にするのに用いられる酵素や薬剤が阻害され、その後、後側表面が望ましい曲率半径であるハードコンタクトレンズがリテーナーコンタクトレンズとして柔軟化された角膜に供給される。このハードコンタクトレンズの装着は、角膜が構造的な統合性及び「固さ」を回復するまでなされる。したがって、このような酵素-角膜矯正法においては、望ましい形状の角膜をハードコンタクトレンズを使用することなく生成させることができる。しかしながらこのようなコンタクトレンズは、望ましい形状に到達した後にその形状を保つ目的で用いられることが好ましい。」(16頁左下欄15行?17頁左上欄14行)

イ 第5A図、第5B図、第5C図及び第5D図は、それぞれ次のとおりであり、特に第5C図及び第5D図から、中心部分に設けられた穴56の周囲に、穴側から順に、基底部分の湾曲面50、中間部分の湾曲面52、周縁部分の湾曲面54が同心円状に配置されたコンタクトレンズが見てとれる。

第5A図


第5B図


第5C図


第5D図


ウ 上記ア及びイの記載事項から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。

「遠視眼を酵素-角膜矯正法により矯正するために用いるコンタクトレンズであって、
2.5mm?4.5mmの範囲の直径の穴56が中心部分に設けられ、前記コンタクトレンズの中心に設けられた穴56は、角膜の中心部分51が急勾配になることができるように助長し、かつその中心部分51が急勾配になるためのスペースを提供し、
前記コンタクトレンズは、中心部分に設けられた穴56の周囲に、穴56側から順に、基底部分の湾曲面50、中間部分の湾曲面52、周縁部分の湾曲面54が同心円状に配置されており、
遠視眼の角膜の中心部分51の湾曲面が急勾配の湾曲面60となるように変形するために、前記コンタクトレンズの基底部分の湾曲面50は、より平面に近くなっている非球面状の中間部分の湾曲面52及び周縁部分の湾曲面54における角膜の中心部分の曲率半径よりも急勾配になっており、
前記コンタクトレンズの基底部分の湾曲面50は、角膜の中心部分51よりも急勾配になっており、コンタクトレンズの曲率半径が角膜の中心部分51の曲率半径よりも急勾配になっている、
コンタクトレンズ。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用文献4の記載事項
本件出願の時に頒布されていた又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていた国際公開公報であって、原査定において引用文献4として引用された国際公開第2009/090763号には、次のアないしウの事項が記載されている。

ア「[0039] 冷却流体注入孔4は、後述する近視用冷却流体注入器具20,30の先端形状に対応させて、ここでは把手部側の孔4aが保形部側の孔4bよりも大径となるように多段状に形成されている。また冷却流体注入孔4は、後述するように近視用視力矯正冶具1を被着者の眼球に被着した状態で、被着者(患者)が該冷却流体注入孔4を通して外部の風景や目標物を視認できる孔径を有している。また、治療医は把手部側の孔4aから覗いて近視用視力矯正冶具1が眼球(角膜)の所定位置に正確に装着されているかどうかを確認することができる。特に限定されるものではないが、ここでは保形部側の孔4bが5mm?8mm、把手部側の孔4aが12mm?20mmである。」

イ「[0083] 図11及び図12は、遠視用視力矯正冶具の別の実施態様である。この遠視用視力矯正冶具50は、上述の近視用視力(審決注:原文は「資力」であるが、明らかに誤りであるので訂正した。)矯正冶具1と同じように、全体が円盤形状となっており、吸盤状の保形部52と、該保形部52の外側の中央部に形成されたボタン形状の把手部53を有しており、これらは人体に無害なガラス、金属、合成樹脂等により一体成形されている。
[0084] 保形部52は、周端面部52bが内面側にR曲面に形成されるとともに、内面側中央部には円形の凹部52aが形成されている。この凹部52aは、把手部53方向に湾曲したR曲面形状となっている。また把手部53は、胴部53aがくびれており、これにより突縁部53bが形成されている。これら保形部52(審決注:原文は「2」であるが、明らかに誤りであるので訂正した。)と把手部53(審決注:原文は「3」であるが、明らかに誤りであるので訂正した。)の中央部には冷却流体注入孔54が貫通して形成されている。この冷却流体注入孔54の形状は、上述の近視用視力(審決注:原文は「資力」であるが、明らかに誤りであるので訂正した。)矯正冶具1と同じである。
[0085] この遠視用視力矯正冶具50も、保形部52の内面側の曲率、凹部52aの径,R曲率、冷却流体注入孔54の孔径等が異なったものを複数種類準備しておき、遠視の度合いにより、最適な視力矯正冶具50を選択する。
[0086] 遠視用視力矯正冶具50は、上述のような吸引処置を必要としない場合に使用できる。即ち、患者の角膜の硬さ、遠視の度合い、角膜形状等を検査し、角膜組織に柔軟性があり、遠視も軽度であり、角膜をわずかに変形するだけでよいと判断したときは、まず上述のように角膜を加温して充分軟化させた後、上述の視力矯正冶具1,10と同じ方法で遠視用視力矯正冶具50を眼球の正確な位置に装着する。その際、該矯正冶具50を角膜に少し強く押し付けるようにするとよい。
[0087] この状態を所定時間保持することにより、角膜形状は遠視用視力矯正冶具50の保形部52の内面形状に倣って矯正される。即ち、中心部分がわずかに窪んだ形状の角膜は、保形部52の凹部52aに倣うように窪んだ部分が外側に膨出する。
[0088] 角膜形状が矯正できたと判断したときは、加温軟化処置を中止し、その後、冷却流体注入孔54に図5?図8に示した冷却流体注入器具20,30を挿入し、角膜中心部に冷却流体を吹き付けて急冷硬化処置を行う。これにより、わずかに中心部が膨出した角膜は、細胞収縮して平常の形状となる。なお、急冷により角膜が元の形状に戻るおそれがあるときは、図4に示す角膜矯正冶具10を眼球に装着し、図9に示す冷却流体注入器具40を使用して、角膜の凸状中央部を除いた周縁部分の急冷硬化処置を行うこともできる。急冷硬化方法は上述と同じであるから説明を省略する。」

ウ 図11及び図12は、次のとおりである。
[図11]


[図12]


エ 上記アないしウの記載事項から、引用文献4には、次の事項が記載されていると認められる。

「全体が円盤形状となっており、吸盤状の保形部52と、該保形部52の外側の中央部に形成されたボタン形状の把手部53を有し、ガラス、金属、合成樹脂等により一体成形されている、遠視用視力矯正冶具50において、
前記保形部52は、周端面部52bが内面側にR曲面に形成されるとともに、内面側中央部には円形の凹部52aが形成され、この凹部52aは、把手部53方向に湾曲したR曲面形状となっていること、
前記把手部53は、胴部53aがくびれており、これにより突縁部53bが形成されていること、
前記保形部52と前記把手部53の中央部には冷却流体注入孔54が貫通して形成されており、前記冷却流体注入孔54の形状は、近視用視力矯正冶具1と同じであること、
近視用視力矯正冶具1の冷却流体注入孔4は、把手部側の孔4aが保形部側の孔4bよりも大径となるように多段状に形成され、前記冷却流体注入孔4は、近視用視力矯正冶具1を被着者の眼球に被着した状態で、被着者(患者)が該冷却流体注入孔4を通して外部の風景や目標物を視認できる孔径を有し、保形部側の孔4bが5mm?8mm、把手部側の孔4aが12mm?20mmであること、
前記遠視用視力矯正冶具50は、前記保形部52の内面側の曲率、前記凹部52aの径及びR曲率、前記冷却流体注入孔54の孔径等が異なったものを複数種類準備しておき、遠視の度合いにより、最適な視力矯正冶具50を選択するものであること、
角膜形状は遠視用視力矯正冶具50の保形部52の内面形状に倣って矯正され、中心部分がわずかに窪んだ形状の角膜は、保形部52の凹部52aに倣うように窪んだ部分が外側に膨出すること。」

(3)引用文献6の記載事項
本件出願の時に頒布されていた又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていた特許公表公報であって、原査定において引用文献6として引用された特表2004-517345号公報には、次のアないしウの事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方表面湾曲を有する中央ゾーンと、
後方表面を有し、前記中央ゾーンに隣接しかつ同一中心で設けられ、S字状曲線として画定される形状を有する接続ゾーンと、
後方表面を有し、前記接続ゾーンに隣接しかつ同一中心で設けられた少なくとも1つの周縁ゾーンとを具備する角膜コンタクト・レンズ。
【請求項2】
中央ゾーンの湾曲が球面である、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項3】
中央ゾーンの湾曲が円環面である、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項4】
中央ゾーンの湾曲が非球面である、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項5】
中央ゾーンの湾曲が、環状の球面ゾーンと非球面ゾーンの組合せを具備する、請求項4に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項6】
中央ゾーンの湾曲が、球面ゾーンと非球面ゾーンの組合せを具備する、請求項5に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項7】
中央ゾーンが、角膜に接触することなく老視を矯正するように設計されている、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項8】
中央ゾーンが、角膜を再整形することによって老視を矯正するように設計されている、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
【請求項9】
接続ゾーンの子午線プロフィルが、隣接する側で中央ゾーンおよび少なくとも1つの周縁ゾーンの勾配と実質的に合致するように形作られる、請求項1に記載の角膜コンタクト・レンズ。
・・・(以下略)・・・」

イ「【0001】
(技術分野)
本発明は、コンタクト・レンズと製造方法、ならびに目の角膜を再整形して視力不足を治療するための方法に関する。より詳細には、本発明は、角膜を再整形する非外科的方法に関する。この処理は、療法が単一のコンタクト・レンズを設計し、かつフィッティングして角膜を再整形することに関する場合に、角膜屈折療法(CRT)と呼ばれ、かつ/または、角膜を再整形するための一連のレンズの使用を指す場合には、角膜矯正(ortho K)と呼ばれることがある。さらに本発明は、コンタクト・レンズをフィッティングする、およびそのようなレンズを設計する方法、ならびにそのようなレンズを設計するためのソフトウェア製品に関する。」

ウ「【0015】
(発明の詳細な説明)
本発明の以下の説明で、コンタクト・レンズ、設計およびフィッティング方法ならびにコンピュータ・プログラム製品はCRTレンズ設計を指すが、本発明によるレンズはまた、ortho K用に、または単に典型的なコンタクト・レンズと同様な形で視覚矯正を実現するために設計することができることを理解されたい。本発明の原理に従って設計されるどのようなレンズでも、レンズは、より良好な心取り、快適性、または他の利点を提供する。次いで図1および2を参照すると、角膜を再整形して視力を改善するために患者の角膜上に位置決めするコンタクト・レンズの第1の実施形態が示されている。一般にレンズ10は、角膜コンタクト・レンズについて通常の範囲内で寸法決めされ、外径概ね7?13mm、また概ね約9.5?12ミリメートルの間の範囲を有する。より具体的には、直径は、できる限り大きくなるように選択されることになるが、水平の可視の虹彩直径(通常1mm未満)を超えず、周縁ゾーンによる最終的な接線接触の点を越えて(後述)、レンズの周縁部で縁部を持ち上げ、レンズ下で必要とされる涙流を可能にする。レンズの末端周縁部は、後述するように本発明に従って滑らかに輪郭付けされる。所望の縁部持上げは、典型的に100ミクロン未満、約150ミクロン以下で過度の離れを回避することが好ましい。典型的には、レンズの離れは、40?60ミクロンの範囲内にある。他の方法では、レンズ10は他の角膜コンタクト・レンズと似ており、概ね0.05?0.5ミリメートルの範囲内の横断面厚または他の適切な厚さを有するが、より詳細に後述するようにレンズの前面および裏面間の「調和」対応により厚さが一義的に可変であり、任意の他のゾーンに対して中央ゾーンおよび周縁ゾーン厚を独立して調整する能力を有する。レンズ10は、フルオロシリコンアクリレート、シリコンアクリレート、ポリメチルメタクリレートまたは他の適切な材料など、適切なコンタクト・レンズ材料から作製することができる。酸素透過性材料は、レンズを夜通し着用して日中の非着用を可能にするとき特に好ましい。
【0016】
一般にレンズ10は、視覚欠陥を矯正するために患者の角膜に与えるべき再整形によって決定される湾曲を備える中央ゾーン12を含む後方表面13を具備するレンズ本体を含む。後方表面13はまた、第1の環状ゾーン14および第2の環状または周縁ゾーン26を具備し、それぞれ中央ゾーン12と同一中心であることが好ましい。中央ゾーン12は図3でより詳細に示され、この実施形態では球面である。別法として、中央ゾーン12は、非球面、円環面とすること、または環状球面および/または非球面ゾーンの組合せから構成することができる。図示された例では、表面が球面であり、曲率半径R_(1)を有すると定義されている。曲率半径R_(1)は、レンズ10を設計する患者の目の特性に基づいて、特に必要とされる矯正量に関係して選択することができる。患者の目の屈折誤差を決定するために、典型的な屈折測定を使用することができ、かつ/またはケラトメトリ測定を使用することができる。ケラトメータを使用して、患者の角膜の頂点部における曲率半径について単一点値を測定することができる。したがって、レンズを設計するために、フォトケラトスコピまたはビデオケラトスコピ技法の使用によるなど、複雑な角膜トポグラフィ測定の必要がなくなる可能性がある。他のゾーンの設計は、一例として本発明のレンズを試装フィッティングすることによって、またはモデルの目と共に選択することができる。試装レンズ・フィッティングの目的は、角膜の矢状方向の奥行きを、その頂点から最終的な接線接触が起こるはずの直径にかけて識別すること、および治療レンズの直径に適した直径で接線接触を形成する角度を選択することである。さらに一部の患者の場合、角膜に関する他の起伏の知識が有用となることがある。したがって、望むなら、目の角膜トポグラフィを、一例としてフォトケラトスコピまたはビデオケラトスコピ技法を使用することによって決定し、視覚欠陥を矯正するために必要とされる再整形の決定を容易にすることができよう。一般に、大抵の患者の場合、レンズの第2周縁ゾーンによる角膜との接線接触の直径は、角膜トポグラファによって測定される直径を越えている。角膜の矢状方向の奥行きは、測定の範囲を越えて角膜トポグラフィからデータを外挿することによっておおまかに推定することができる。必要とされる矯正量を決定するための、または患者の角膜トポグラフィを決定するための任意の適した方法を使用することができる。中央ゾーン12はまた、図3に示すように、コード直径D_(1)を有すると定義される。中央ゾーン12の後方表面上に設けられるベース・カーブは、球面として示されているが、望むなら非球面とする、または乱視または老視など視覚欠陥を矯正するために所望の形状を角膜に与えることが当業者に知られている他の形状を有することができる。一般に、中央ゾーン12の後方表面13の曲率半径R_(1)は、再整形を受けている角膜について所望の治療後曲率半径に等しい。一般にCRTコンタクト・レンズは、レンズ着用中にレンズに対してかかる圧力が角膜に伝わり、圧力を加えているレンズの部分の下にある角膜組織が所望の形で効果的に再配分されるようにフィッティングするべきであるが、常にそうである必要はない。たとえば、中央ゾーン12は、この場合も患者の必要に基づいて、中央角膜に接触し、したがって中央角膜を再整形することによってレンズ着用の後で老視を矯正するように設計する、または角膜に接触することなくレンズ着用中だけ老視を矯正するように設計することができよう。角膜組織の再配分は、中央ゾーン12の後方表面13の曲率半径を一時的に角膜に帯びさせ、患者の角膜の現行トポグラフィに基づいて視覚欠陥の矯正を実現する。CRTレンズ10の意図された効果は、頂点の角膜キャップを球面化し、それについて新しい曲率半径を確立することである。図1?3に示す実施形態では、レンズ10の中央ゾーン12の後方表面13が球面であり、図3に示すようにベース・カーブと直径を示すことを必要とするだけである。フィッティングの観察結果は、周縁パラメータ選択範囲に計算で変換することができる。これらの選択範囲は、周縁設計要素(コネクタ・ゾーン奥行き、周縁ゾーン角度、全体直径)が、頂点角膜接触を可能にし、レンズの心取りを助け、過度の離れを回避し、かつ中央ゾーンによって角膜頂点に加えられる圧力に対抗することになる治療前の周縁角膜係合、およびおそらくは他の特性を回避することを実現する。」

エ 図1、図2及び図3は、次のとおりである。
【図1】


【図2】


【図3】


オ 上記アないしエの記載事項から、引用文献6には、次の事項が記載されていると認められる。

「後方表面湾曲を有する中央ゾーンと、後方表面を有し、前記中央ゾーンに隣接しかつ同一中心で設けられ、S字状曲線として画定される形状を有する接続ゾーンと、後方表面を有し、前記接続ゾーンに隣接しかつ同一中心で設けられた少なくとも1つの周縁ゾーンとを具備する角膜コンタクト・レンズにおいて、
前記中央ゾーンが、角膜に接触することなく老視を矯正するように設計されていること、
前記中央ゾーンが、角膜を再整形することによって老視を矯正するように設計されていること、
前記接続ゾーンの子午線プロフィルが、隣接する側で中央ゾーンおよび少なくとも1つの周縁ゾーンの勾配と実質的に合致するように形作られていること。」

さらに、引用文献6には、次の事項も記載されていると認められる。

「角膜矯正(ortho K)用に、視覚矯正を実現するために設計したレンズ、又は、角膜を再整形して視力を改善するために患者の角膜上に位置決めするコンタクト・レンズにおいて、
レンズ10は、外径概ね7?13mm、また概ね約9.5?12ミリメートルの間の範囲を有すること、
レンズ10は、フルオロシリコンアクリレート、シリコンアクリレート、ポリメチルメタクリレートまたは他の適切な材料など、適切なコンタクト・レンズ材料から作製することができること、
レンズ10は、視覚欠陥を矯正するために患者の角膜に与えるべき再整形によって決定される湾曲を備える中央ゾーン12を含む後方表面13を具備するレンズ本体を含み、前記後方表面13はまた、それぞれ中央ゾーン12と同一中心である、第1の環状ゾーン14及び第2の環状又は周縁ゾーン26を具備すること、
前記中央ゾーン12は球面であるか、あるいは、前記中央ゾーン12は、非球面、円環面とすること、又は環状球面及び/又は非球面ゾーンの組合せから構成することができ、表面が球面であるとき曲率半径R_(1)を有し、前記曲率半径R_(1)は、レンズ10を設計する患者の目の特性に基づいて、特に必要とされる矯正量に関係して選択することができ、前記中央ゾーン12はまた、コード直径D_(1)を有し、前記中央ゾーン12の後方表面13の曲率半径R_(1)は、再整形を受けている角膜について所望の治療後曲率半径に等しいこと、
前記中央ゾーン12は、中央角膜に接触し、したがって中央角膜を再整形することによってレンズ着用の後で老視を矯正するように設計する、又は角膜に接触することなくレンズ着用中だけ老視を矯正するように設計することができ、角膜組織の再配分は、中央ゾーン12の後方表面13の曲率半径を一時的に角膜に帯びさせ、患者の角膜の現行トポグラフィに基づいて視覚欠陥の矯正を実現すること。」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「コンタクトレンズ」及び「穴56」は、それぞれ、本願発明の「コンタクトレンズ」及び「貫通孔」に相当する。

(2)引用文献1の、「本発明の更にもう一つの目的としては、検体の哺乳動物の眼の屈折誤差を修正する方法を提供することであり、その方法は、検体の眼の角膜を柔軟にすることのできる角膜柔軟剤を所定量検体に投与して、角膜を第1の外形から望ましい第2の外形に新成形できるようにする初めのステップを含んでいる。そして角膜が柔軟になった後、望ましい第2の外形の凹状曲面が形成されたハードコンタクトレンズを角膜に装着する。このコンタクトレンズの作用のもとで望ましい第2の外形への新成形が許容される。」(6頁右上欄21行?同頁左下欄1行)との記載や、「更に本発明の酵素-角膜矯正法(Enzyme-Orthokeratology)にかかる他の実施例において用いられる角膜柔軟剤は、エンドジーニアスな酵素のインヒビターを不活性化するイナクチベーターである。」(6頁左下欄15行?18行)との記載からみて、引用発明の「遠視眼を酵素-角膜矯正法により矯正するためのコンタクトレンズ」とは、角膜柔軟剤である酵素が投与された角膜を、装着したコンタクトレンズの凹状曲面に沿わせて望ましい外形に成形して、遠視を矯正するためのコンタクトレンズであると解されるから、本願発明と、「角膜に押し付けて角膜の形状を変えることにより、遠視を矯正するための角膜矯正用コンタクトレンズ」である点で一致する。
また、引用発明のコンタクトレンズは、上掲した引用文献1の記載からみて、角膜に装着される側が凹状曲面である(これは同文献の第5D図からも見てとれる。)から、本願発明と、「患者の角膜に接触する側に凹部からなる領域が形成され」ている点で一致する。

(3)引用発明の「穴56」(本願発明の「貫通孔」に相当。)は、コンタクトレンズの中心部分に設けられているから、コンタクトレンズが角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央部に対応する位置に形成されていることは明らかである。また、「穴56」は、角膜の中心部分51が急勾配になることができるように助長し、かつその中心部分51が急勾配になるためのスペースを提供するから、引用文献1の第5B図も参照すると、角膜の中心部分51の少なくとも一部が、「穴56」に突出して、凸湾曲面を形成することも明らかである。したがって、引用発明の「コンタクトレンズ」と、本願発明の「コンタクトレンズ」とは、「角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央部に対応する位置に貫通孔が形成されていて、角膜が前記貫通孔に突出して凸湾曲面を形成するようにされ」ている点で一致する。

(4)引用発明の「コンタクトレンズ」は、上記(2)のとおり、角膜矯正用コンタクトレンズであり、穴56が中心部分に設けられ、全体としてリング状である(これは、引用文献1の第5C図からも見てとれる。)から、本願発明の「コンタクトレンズ」と、「リング状角膜矯正用コンタクトレンズ」である点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「患者の角膜に接触する側に、凹部からなる領域が形成されていて、角膜の形状を変えることにより、遠視を矯正するための角膜矯正用コンタクトレンズであって、
前記凹部からなる領域は、角膜に装着されたときに、角膜ドームの中央部に対応する位置での貫通孔として形成されていて、角膜が前記貫通孔に突出して凸湾曲面を形成するようにされた、
リング状角膜矯正用コンタクトレンズ。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
「角膜矯正用コンタクトレンズ」の「患者の角膜に接触する側」に、
本願発明では、「凹部からなる領域」(リリーフ領域)に加えて、「凸部からなる押圧領域」が形成されていて、少なくとも当該「押圧領域を角膜に押し付けて角膜の形状を変え」るとともに、前記「押圧領域」は、「前記リリーフ領域の外周を囲む位置に形成された、断面が凸円弧形状の環状凸部からな」るのに対し、
引用発明では、「凸部からなる押圧領域」が形成されているか否か不明である点。

相違点2:
前記「貫通孔」の「直径」が、
本願発明では、「5mmを超え8mm以下」であるのに対し、
引用発明では、2.5mm?4.5mmの範囲である点。

相違点3:
本願発明は、「前記押圧領域の外周を囲む位置に設けられ、角膜に装着されたときに、角膜の輪郭に沿うような形状のアンカー領域」、及び、「このアンカー領域の外周を囲む周縁部」のうち少なくとも「アンカー領域」を有するのに対し、
引用発明は、穴56の周囲に、穴56側から順に、基底部分の湾曲面50、中間部分の湾曲面52、周縁部分の湾曲面54が同心円状に配置されているが、前記基底部分の湾曲面50、中間部分の湾曲面52又は周縁部分の湾曲面54のいずれかが「アンカー領域」に相当するか否か不明である点。

相違点4:
本願発明は、断面において、前記「押圧領域」は、前記「アンカー領域」から連続する、「角膜側に凸の円弧形状」とされているのに対し、
引用発明は、「押圧領域」が形成されているか否か不明である点。

相違点5:
前記「貫通孔」の「内周面」が、
本願発明では、「前記押圧領域の凸円弧から滑らかに連続し、且つ、患者の角膜に接触しない側に連続する、貫通孔中心側に凸の円弧形状とされ」ているのに対し、
引用発明では、「貫通孔中心側に凸の円弧形状」か否か不明である点。

3 判断
(1)相違点1?5のうち、少なくとも相違点1、3?5については、アンカー領域から貫通孔まで連続して形成されるコンタクトレンズの形状を規定するものであり、その形状及び機能からみて、ひとまとまりの構成と解するのが妥当である。そこで、相違点1、3?5について、まとめて検討する。
ア 引用文献4には、上記2(2)に示したとおり、遠視用視力矯正「冶具」50に関する事項が記載されているが、「コンタクトレンズ」に関する事項は記載されていない。
ただし、前記遠視用視力矯正冶具50は、全体が円盤形状となっており、吸盤状の保形部52と、該保形部52の外側の中央部に形成されたボタン形状の把手部53を有し、前記保形部52は、周端面部52bが内面側にR曲面に形成されるとともに、内面側中央部には円形の凹部52aが形成され、この凹部52aは、把手部53方向に湾曲したR曲面形状となっており、被着者(患者)の眼球に被着し、角膜形状は遠視用視力矯正冶具50の保形部52の内面形状に倣って矯正され、中心部分がわずかに窪んだ形状の角膜は、保形部52の凹部52aに倣うように窪んだ部分が外側に膨出するものであり、また、当該遠視用視力矯正冶具50は、被着者(患者)の角膜に接触(コンタクト)して、角膜の形状を矯正するものであるから、引用発明のコンタクトレンズと、その構成及び機能の一部において共通性が認められる。
しかしながら、前記遠視用視力矯正冶具50において、冷却流体注入孔54は貫通孔ではあるものの、角膜形状が遠視用視力矯正冶具50の保形部52の内面形状に倣って矯正されるものであるから、当該保形部52の内面形状は、矯正後の角膜の形状となるように予め形成されているべきものであり、また、角膜の一部が冷却流体注入孔54に突出することもない。
これに対して、引用発明の基底部分の湾曲面50は、角膜の中心部分51の湾曲面が急勾配の湾曲面60(上記1(1)イに掲げた第5B図参照。)となるように変形するために、より平面に近くなっている非球面状の中間部分の湾曲面52及び周縁部分の湾曲面54における角膜の中心部分の曲率半径よりも急勾配になっているとともに穴56が設けられているものであるから、引用発明と引用文献4の遠視用視力矯正冶具50とは、角膜に接する内面形状の設計思想が異なることは明らかである。
そうすると、当業者が、前記遠視用視力矯正冶具50の内面形状に係る構成を引用発明のコンタクトレンズに適用しようとする動機付けがあるとはいえない。
仮に、当業者が、前記遠視用視力矯正冶具50の内面形状に係る構成を引用発明のコンタクトレンズに適用しようとする動機付けがあるとしても、上記2(2)に示したとおり、引用文献4に、前記遠視用視力矯正冶具50の前記保形部52の内面側において、凸部からなる領域であって、当該領域が角膜へ押圧される領域についての記載又は示唆があると認めることはできない。なお、引用文献4の図12において、円形の凹部52aの周縁部が若干内面側に膨らんでいるように見えなくもないが、図面のみからではその機能は不明であるから、これを「押圧領域」と認定することはできない。したがって、引用発明に対して引用文献4の記載事項を適用したとしても、「前記アンカー領域から連続する、角膜側に凸の円弧形状とされ、前記貫通孔の内周面は、前記押圧領域の凸円弧から滑らかに連続し、且つ、患者の角膜に接触しない側に連続する、貫通孔中心側に凸部の円弧形状とされた」押圧領域の構成を具備するには至らない。
イ また、引用文献6には、貫通孔を有さない角膜矯正用コンタクト・レンズが記載されている。そして、引用文献の角膜矯正用コンタクト・レンズ(レンズ10)は、視覚欠陥を矯正するために患者の角膜に与えるべき再整形によって決定される湾曲を備える中央ゾーン12を具備し、当該中央ゾーン12の後方表面13の曲率半径R_(1)(上記1(3)エに掲げた図3参照。)は、再整形を受けている角膜について所望の治療後曲率半径に等しいものであるから、引用発明と引用文献6のレンズ10とは、角膜に接する内面形状の設計思想が異なることは明らかである。
そうすると、当業者が、前記レンズ10の内面形状に係る構成を引用発明のコンタクトレンズに適用しようとする動機付けがあるとはいえない。
また、上記1(3)に示したとおり、引用文献6にも、レンズ10の後方表面13にある凸部からなる領域であって、当該領域が角膜へ押圧される領域についての記載又は示唆があると認めることはできないから、仮に、当業者が、前記レンズ10の内面形状に係る構成を引用発明のコンタクトレンズに適用しようとする動機付けがあり、かつ、引用発明に引用文献6の記載事項を適用したとしても、「前記アンカー領域から連続する、角膜側に凸の円弧形状とされ、前記貫通孔の内周面は、前記押圧領域の凸円弧から滑らかに連続し、且つ、患者の角膜に接触しない側に連続する、貫通孔中心側に凸部の円弧形状とされた」押圧領域を具備するには至らない。
ウ 上記ア及びイのとおり、当業者が、引用文献4又は6の記載事項を引用発明に適用しようとする動機づけがあるとはいえず、また、引用文献4又は6には、角膜矯正用コンタクトレンズ又は角膜矯正用コンタクトレンズと機能的に共通する部材において、装着時に角膜と接触する面に凸部からなる押圧領域を設けるという事項が記載されておらず、したがって、引用発明は、引用文献4又は6の記載事項を適用したとしても、相違点1に係る本願発明の構成を具備するには至らない。

(2)本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び引用文献4又は6の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

4 引用文献2、3、5及び7について
原査定の引用文献2、3、5及び7の記載事項についても検討しておく。
(1)引用文献2(特に、第10頁からの発明の概要の記載、第16頁からの実施例の説明の記載、及び図1参照。)には、ピンホール開口を有する環状マスクを有するコンタクトレンズについての記載があり、当該コンタクトレンズがピンホール結像素子として作用することにより、着用者により視認される物体に対する焦点深度が増大し、視野の単一物体から発生し、ピンホール開口から入射する光線はコンタクトレンズがない場合よりも一層鮮明に結像し、これにより網膜上の像のボケが減少し着用者の視認精度が増大するものである。さらに、引用文献2には、上記ピンホール開口が、約0.5mmと3mmの間の直径を有すること(11頁10行)、及び約4mm以下とすること(17頁6行)も記載されている。
しかしながら、引用文献2には、角膜矯正用コンタクトレンズは記載されておらず、当然に、角膜矯正用コンタクトレンズの患者の角膜に接する側に押圧領域が形成されることについても記載されていない。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用したとしても、引用発明が相違点1及び3ないし5に係る本願発明の構成を具備するには至らない。

(2)引用文献3(特に、段落【0001】、【0004】、【0014】、【0015】及び全図面参照。)には、コンタクトレンズの上面に被着される装飾用の化粧リングについての記載があり、コンタクトレンズに当該化粧リングを被着することによって、コンタクトレンズの装飾性を容易にかつ多種多様にしかも経済的に高めること、化粧リングには所望の色彩が与えられた着色部や、放射線状の模様やリング状の模様等を施した模様部が形成されること、化粧リングは、ソフトコンタクトレンズの上面に瞳孔相当部分に化粧リングの円形切欠が位置するように被着されること等が記載されている。
しかしながら、引用文献3には、角膜矯正用コンタクトレンズは記載されておらず、当然に、角膜矯正用コンタクトレンズの患者の角膜に接する側に押圧領域が形成されることについても記載されていない。
したがって、引用発明に引用文献3に記載された事項を適用したとしても、引用発明が相違点1及び3ないし5に係る本願発明の構成を具備するには至らない。

(3)引用文献5(特に、段落【0002】、【0003】、【0169】ないし【0173】及び図10参照。)には、角膜組織に架橋(クロスリンキング)剤を適用・活性化し、架橋剤をモニター・活性化するためのシステム及び方法についての記載があり、従来技術であるレーザー光線による近視手術(LASIK)の概要、架橋活動が角膜の選択エリアに限定されることを確実にするためにマスクを適用すること、マスクは、光源から紫外線が適用される前に、角膜表面上に位置付けられること、マスクは直径が約5mmの環状パターンを有するコンタクトレンズに似た装置であること、マスクは、光源からの紫外線だけを角膜まで通過させ、架橋剤は、パターンに従って治療ゾーンの外側のエリアで活性化されること等が記載されている。
しかしながら、引用文献5には、角膜矯正用コンタクトレンズは記載されておらず、当然に、角膜矯正用コンタクトレンズの患者の角膜に接する側に押圧領域が形成されることについても記載されていない。
したがって、引用発明に引用文献5に記載された事項を適用したとしても、引用発明が相違点1及び3ないし5に係る本願発明の構成を具備するには至らない。

(4)引用文献7(特に、[0015]、 [0053]、[0064]ないし[0077]及びFIG.1参照。)には、リバースジオメトリーレンズ及びその構造についての記載があり、当該リバースジオメトリーレンズは、患者の角膜の特定の輪郭に対応して細工され、望ましい眼の湾曲の再整形又は矯正に作用すること、CKR(商標)リバースジオメトリーレンズは、4つの曲線、すなわち(1)背面光学ゾーン半径(BOZR)、(2)リバース曲線(RC)、(3)アラインメント曲線(AC)及び(4)周辺曲線(PC)を有すること、角膜の堅さを増大させるために多種類のクロスリンキング(架橋)剤が使用可能であること、有用なクロスリンキング剤はリボフラビンのような光増感剤と角膜内のコラーゲンの架橋を誘発するのに十分な紫外線との組み合わせを含むこと、光増感剤の溶液は、例えば、デクストランとリボフラビンの溶液であり得ること、リボフラビン処置をしながら角膜を、例えば、約360?370nm、約3mW/cm^(2)の紫外光に曝すこと等が記載されている。
引用文献7のリバースジオメトリーレンズは、オルソケラトロジー、すなわち、角膜矯正用のコンタクトレンズであると認められるが、同文献に、角膜矯正用コンタクトレンズに貫通孔が形成されていることや、角膜矯正用コンタクトレンズの患者の角膜に接する側に押圧領域が形成されることについての記載又は示唆を認めることはできない。
したがって、引用発明に引用文献7に記載された事項を適用したとしても、引用発明が相違点1及び3ないし5に係る本願発明の構成を具備するには至らない。

(5)以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2、3、5又は7に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたともいえない。
本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2、3、5又は7の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明及び引用文献2ないし7の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2015-40082(P2015-40082)
審決分類 P 1 8・ 121- WYF (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
西村 仁志
発明の名称 リング状角膜矯正用コンタクトレンズ  
代理人 高矢 諭  
代理人 松山 圭佑  
代理人 牧野 剛博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ