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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 E02D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E02D
管理番号 1325428
審判番号 不服2016-2624  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-22 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2011-240420「基礎構造」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月20日出願公開、特開2013- 96153、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成23年法改正前の特許法第30条第1項(新規性喪失の例外)の規定の適用を主張した平成23年11月1日の出願であって、平成27年6月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成27年7月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成28年2月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がされたものである。

第2 平成28年2月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年2月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 特許請求の範囲
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、平成27年7月24日付けの手続補正で補正された以下の特許請求の範囲
「 【請求項1】
取り除かれた建物を支持していた既存杭と、
新たに設ける新設杭と、
前記既存杭と前記新設杭とに支持される基礎スラブと、
を有し、
前記基礎スラブに対する前記新設杭の杭頭固定度は、前記基礎スラブに対する前記既存杭の杭頭固定度より低いことを特徴とする基礎構造。
【請求項2】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の外径は、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の外径より小さいことを特徴とする基礎構造。
【請求項3】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の埋め込み深さは、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の埋め込み深さより浅いことを特徴とする基礎構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の基礎構造であって、
前記既存杭と前記基礎スラブとの間には、前記既存杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋が埋設されており、
前記新設杭と前記基礎スラブとの間には、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたり前記鉄筋より浅く鉄筋が埋設されているか、または、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋は埋設されていないことを特徴とする基礎構造。
【請求項5】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記基礎スラブの下に地盤改良体が設けられており、前記既存杭の前記杭頭は前記基礎スラブ内に埋設されており、前記新設杭の前記杭頭は、前記地盤改良体内に埋設されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項6】
請求項5に記載の基礎構造であって、
前記杭頭固定度は、前記地盤改良体の強度、厚さ、及び、範囲により変更可能であることを特徴とする基礎構造。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の基礎構造であって、
前記地盤改良体内には引張補強材が混入されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項8】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記既存杭と前記新設杭とは、各々複数設けられており、
複数の前記新設杭の総断面積は、複数の前記既存杭の総断面積より小さいことを特徴とする基礎構造。」(以下、それぞれ「本件補正前の請求項1」ないし「本件補正前の請求項8」という。)
から、
「 【請求項1】
取り除かれた建物を支持していた既存杭と、
新たに設ける新設杭と、
前記既存杭と前記新設杭とに支持される基礎スラブと、
を有し、
前記基礎スラブに対する前記新設杭の杭頭固定度は、前記基礎スラブに対する前記既存杭の杭頭固定度より低い基礎構造であって、
前記基礎スラブの下に地盤改良体が設けられており、前記既存杭の前記杭頭は前記基礎スラブ内に埋設されており、前記新設杭の前記杭頭は、前記地盤改良体内に埋設されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項2】
取り除かれた建物を支持していた複数の既存杭と、
新たに設ける複数の新設杭と、
前記複数の既存杭と前記複数の新設杭とに支持される基礎スラブと、
を有し、
前記複数の既存杭と前記基礎スラブとの接合が、全体として剛接合に相当し、
前記基礎スラブに対する前記複数の新設杭の杭頭固定度は、全体として前記基礎スラブに対する前記複数の既存杭の杭頭固定度より低いことを特徴とする基礎構造。
【請求項3】
請求項2に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の外径は、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の外径より小さいことを特徴とする基礎構造。
【請求項4】
請求項2に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の埋め込み深さは、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の埋め込み深さより浅いことを特徴とする基礎構造。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の基礎構造であって、
前記既存杭と前記基礎スラブとの間には、前記既存杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋が埋設されており、
前記新設杭と前記基礎スラブとの間には、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたり前記鉄筋より浅く鉄筋が埋設されているか、または、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋は埋設されていないことを特徴とする基礎構造。
【請求項6】
請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の基礎構造であって、
前記新設杭は、地中に打ち込まれた鋼管と、前記鋼管の上端部に設けられ前記基礎スラブに対する前記新設杭の前記杭頭固定度を前記既存杭の前記杭頭固定度より小さくするための固定強度低減部材と、前記固定強度低減部材の下方に設けられたコンクリートを有する鋼管コンクリート杭であり、
前記固定強度低減部材は、前記基礎スラブに埋設されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項7】
請求項6に記載の基礎構造であって、
前記新設杭に設けられた前記固定強度低減部材の上端は、前記既存杭の上端とほぼ同じ高さに位置していることを特徴とする基礎構造。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の基礎構造であって、
前記既存杭及び前記新設杭の前記基礎スラブに対する埋め込み深さは、形成される基礎スラブの厚みの半分より深いことを特徴とする基礎構造。」(以下、それぞれ「本件補正後の請求項1」ないし「本件補正後の請求項8」という。)
へと補正するものである。

(2) 明細書
本件補正における明細書についての補正は、明細書の段落【0006】及び【0007】の記載を、上記(1)の特許請求の範囲の補正に整合させるものである。

2 補正の適否
(1) 本件補正前後の請求項の対応関係
本件補正後の請求項のいずれも本件補正前の請求項6、7、8の発明特定事項を有しないので、本件補正前の請求項6、7、8は削除されたと考えられる。
しかし、3項削除され、かつ本件補正には、n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更する補正や、発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項についてその択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正は含まれていないにもかかわらず、本件補正前後で請求項数は同じ8項である。なお、審判請求書には、下記アで摘記する本件補正後の請求項1について以外、本件補正前後の請求項の対応関係の記載はない。また、補正の目的についての記載もない。
そこで、本件補正後の各請求項について、本件補正前の請求項との対応関係等を、以下確認する。

ア 本件補正後の請求項1について
審判請求書に「補正後の請求項1に係る発明は、拒絶理由の発見されていない請求項5の発明特定事項を含むものである」と記載されているとおり、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項5を、従属形式から独立形式へ形式的に補正したものである。
すなわち、本件補正後の請求項1が本件補正前の請求項5に対応することは明らかである。

イ 本件補正後の請求項2について
本件補正後の請求項2の内容は、本件補正前の請求項1を限定する内容である。具体的には、本件補正前の請求項1の「複数の既存杭」と「基礎スラブ」という発明特定事項について「複数の既存杭と基礎スラブとの接合が、全体として剛接合に相当」すると限定し、また「基礎スラブに対する新設杭の杭頭固定度は、基礎スラブに対する既存杭の杭頭固定度より低い」という発明特定事項について、「全体として」低いと限定するものになっている。
また、本件補正後の請求項2は、本件補正前の請求項2ないし8の発明特定事項を有さないので、それらに対応するものではない。
よって、本件補正後の請求項2は、本件補正前の請求項1に対応すると考えられる。
また、本件補正後の請求項2への補正は、上述の内容からして、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正、同第4号の明瞭でない記載の釈明のいずれでもないので(また当然、同第1号の請求項の削除でもないので)、同第2号の限定的減縮を目的としていると考えられる。

ウ 本件補正後の請求項3、4、5について
本件補正後の請求項3が従属先の請求項2に対し付加する発明特定事項は、本件補正前の請求項2が従属先の請求項1に対し付加する発明特定事項と同じである。
また、本件補正後の請求項3は、本件補正前の請求項3ないし8の発明特定事項を有さないので、それらに対応するものではない。加えて、上記イで確認したように、本件補正後の請求項2が本件補正前の請求項1に対応していると考えられる。
よって、本件補正後の請求項3は、本件補正前の請求項2に対応すると考えられる。
同様に、本件補正後の請求項4、5は、それぞれ本件補正前の請求項3、4に対応すると考えられる。
また、上記イで確認したように、本件補正後の請求項3、4、5が直接または間接的に引用する本件補正後の請求項2への補正は、特許法第17条の2第5項第2号の限定的減縮を目的としていると考えられるので、本件補正後の請求項3、4、5への各補正も、それぞれ限定的減縮を目的とするものと考えられる。

エ 本件補正後の請求項6、7、8と増項補正
本件補正後の請求項6は、本件補正後の請求項6が引用する本件補正後の請求項2ないし4に対し、「新設杭」について、「地中に打ち込まれた鋼管と、前記鋼管の上端部に設けられ前記基礎スラブに対する前記新設杭の前記杭頭固定度を前記既存杭の前記杭頭固定度より小さくするための固定強度低減部材と、前記固定強度低減部材の下方に設けられたコンクリートを有する鋼管コンクリート杭であり、前記固定強度低減部材は、前記基礎スラブに埋設されている」と限定するもので、かつ本件補正前のいずれの請求項も該限定を有していないものである。
そして本件補正後の請求項7は、本件補正後の請求項7が引用する本件補正後の請求項6に対し、「新設杭に設けられた固定強度低減部材」について、その「上端は、既存杭の上端とほぼ同じ高さに位置している」と限定するもので、かつ本件補正前のいずれの請求項も該限定を有していないものである。
また本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項8が引用する本件補正後の請求項6又は7に対し、「既存杭及び新設杭」について、「基礎スラブに対する埋め込み深さは、形成される基礎スラブの厚みの半分より深い」と限定するもので、かつ本件補正前のいずれの請求項も該限定を有していないものである。
これら本件補正後の請求項6、7、8への補正が、本件補正前のどの請求項を限定しているのか、対応関係を検討すると、まず、本件補正前の請求項5ないし8については、本件補正後の請求項6、7、8はそれら本件補正前の請求項5ないし8の発明特定事項を有さないので、対応するものではない。よって、本件補正後の請求項6、7、8のそれぞれは、本件補正前の請求項1ないし4のいずれかに対応するものと考えられる。
しかし上記イ、ウで検討したように、本件補正後の請求項2ないし5はそれぞれ本件補正前の請求項1ないし4を限定しているものと考えられるので、補正後の請求項6、7、8もまた本件補正前の請求項1ないし4のいずれかを限定するものであるならば、本件補正前の一つの請求項が本件補正後の複数の請求項に対応していることになる。
このように、本件補正は、補正前後に於いて一対一の対応関係を維持しつつその対応関係にある一つの補正前請求項の発明特定事項を限定的に補正するものとはいえず、請求項数を実質的に増加させる、いわゆる増項補正を包含している。
よって、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の限定的減縮を目的とするものとはいえない。また、同第1号の請求項の削除、同第3号の誤記の訂正、同第4号の明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(2) まとめ
以上のように、本件補正は特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年2月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-8に係る発明は、平成27年7月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)。

「 【請求項1】
取り除かれた建物を支持していた既存杭と、
新たに設ける新設杭と、
前記既存杭と前記新設杭とに支持される基礎スラブと、
を有し、
前記基礎スラブに対する前記新設杭の杭頭固定度は、前記基礎スラブに対する前記既存杭の杭頭固定度より低いことを特徴とする基礎構造。
【請求項2】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の外径は、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の外径より小さいことを特徴とする基礎構造。
【請求項3】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記新設杭の杭頭と前記既存杭の杭頭とは、前記基礎スラブ内に埋設されており、
前記基礎スラブ内に埋設されている前記新設杭の前記杭頭の埋め込み深さは、前記基礎スラブ内に埋設されている前記既存杭の前記杭頭の埋め込み深さより浅いことを特徴とする基礎構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の基礎構造であって、
前記既存杭と前記基礎スラブとの間には、前記既存杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋が埋設されており、
前記新設杭と前記基礎スラブとの間には、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたり前記鉄筋より浅く鉄筋が埋設されているか、または、前記新設杭と前記基礎スラブとにわたる鉄筋は埋設されていないことを特徴とする基礎構造。
【請求項5】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記基礎スラブの下に地盤改良体が設けられており、前記既存杭の前記杭頭は前記基礎スラブ内に埋設されており、前記新設杭の前記杭頭は、前記地盤改良体内に埋設されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項6】
請求項5に記載の基礎構造であって、
前記杭頭固定度は、前記地盤改良体の強度、厚さ、及び、範囲により変更可能であることを特徴とする基礎構造。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の基礎構造であって、
前記地盤改良体内には引張補強材が混入されていることを特徴とする基礎構造。
【請求項8】
請求項1に記載の基礎構造であって、
前記既存杭と前記新設杭とは、各々複数設けられており、
複数の前記新設杭の総断面積は、複数の前記既存杭の総断面積より小さいことを特徴とする基礎構造。」

2 原査定の概要
平成27年6月25日付け拒絶理由通知及び拒絶査定に記載された理由は、概略、本願発明1ないし4、8は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

[刊行物]
1.特開2003-82688号公報
2.特開2006-45854号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2003-27500号公報(周知技術を示す文献)

3 当審の判断
(1) 刊行物1ないし3の記載事項
ア 刊行物1(特開2003-82688号公報)
本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1には、次の事項が記載されている(審決で下線を付した。)。

(ア) 「【請求項1】 既存杭を残して既設建物を撤去し、これにより残された既存杭を利用した新設建物の基礎構造であって、
前記既存杭と前記既存杭を避けて打設された新設杭との上に新設された基礎を含み、前記既存杭の頭部には前記基礎が半剛接合され前記新設杭には前記基礎が剛接合又は半剛接合されており、これにより前記既存杭と前記新設杭とは前記基礎から受ける鉛直力を分担し、前記既存杭と前記新設杭とが地震時に前記基礎から受ける水平力を前記既存杭が前記新設杭よりも小さくなるように分担することを特徴とする既存杭を利用した新設建物の基礎構造。」

(イ) 「【0013】ここで、既設建物を支持していた既存杭は、既設建物の施工当時の設計基準に基づいて構築されているため、鉛直力に対しては現在の設計基準と照らし合わせても十分な支持力を有しているが、水平力に対しては著しく劣ったものとなっている。そのため、12本の既存利用杭11?22は、本発明の基礎構造により、鉛直力と共に、調査結果に基づいて判断された各既存利用杭11?22が有している水平抵抗力に応じて新設杭との水平力の分担を変えることにより、地震時に水平力の一部を負担するようにして用いられている。」

(ウ) 「【0019】新設基礎3は地盤G内に設置されている既存利用杭11の上に新設された基礎であり、マット基礎として構成されている。既存利用杭11の上端部11Aは加工又は増し打ちすることによってテーパー状の形状に形成され、既存利用杭11上に構築される新設基礎3との接触面積を小さくするようにして構築されている。また、図4においては2本のみ見えている複数本の杭主筋11a、11bを新設基礎3内まで伸ばして挿入し既存利用杭11と新設基礎3とを堅固に結合する剛接合とせず、既存利用杭11内で杭主筋11a、11bの端部を納めた状態で既存利用杭11上に新設基礎3の型枠、コンクリート打設を行い、既存利用杭11と新設基礎3との接合部を半剛接合としている。ここで、半剛接合とは、接合部へのモーメントの負担のさせ方において、剛接合とピン接合との間の接合方法であって接合部にモーメントを減ずるようにして負担させる接合状態となるように2つの部材を接合することをいう。
【0020】上述の如き半剛接合により、既存利用杭11と新設基礎3との接触面積を絞って小さくし、既存利用杭11の主筋11a、11bを新設基礎3に対して非定着とさせて既存利用杭11の新設基礎3への固定度を落とし、曲げ剛性を減じて水平力分担を減少させているため、既存利用杭11が保有している支持力、及び曲げ、せん断耐力等の性能に応じて地震時に新設杭よりも小さい水平力を負担させることができるようになっている。なお、既存利用杭11の新設基礎3への固定度を落とすため、本実施の形態では、主筋11a、11bを新設基礎3に非定着としているが、これに限定されることなく、主筋のうちの何本かを伸延し新設基礎3に定着させ、杭の保有している性能に応じて既存杭に水平力を負担させるようにしてもよいことは勿論である。また、主筋とは別の軸方向筋を基礎に定着させ、引張軸力に抵抗させることもある。」

(エ) 「【0022】新設杭31?33については、各杭内に配設される杭主筋を新設基礎3内に挿入して各新設杭と新設基礎3とを堅固に結合して剛接合とすることにより、既存利用杭11?22を利用することにより不足している水平抵抗力も補いつつ鉛直力と水平力とを負担させるようにしているが、剛接合は一般的に行われていることであるため、ここでの詳しい説明は省略する。また、新設杭31?33を新設基礎3と接触面積を小さくする等の方法により半剛接合し、新設杭31?33と新設基礎3との接合状態の剛性を調整することもできる。」

(オ) 上記(ア)ないし(エ)からみて、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認める。

「既存杭を残して既設建物を撤去し、これにより残された既存杭を利用した新設建物の基礎構造であって、
前記既存杭と前記既存杭を避けて打設された新設杭との上に新設された、マット基礎として構成されている基礎を含み、
前記既存杭の頭部には前記基礎が半剛接合され前記新設杭には前記基礎が剛接合又は半剛接合されており、これにより前記既存杭と前記新設杭とは前記基礎から受ける鉛直力を分担し、水平力に対して劣ったものとなっている前記既存杭の基礎への固定度を落とし、前記既存杭と前記新設杭とが地震時に前記基礎から受ける水平力を前記既存杭が前記新設杭よりも小さくなるように分担するものであり、
杭の保有している性能に応じて既存杭に水平力を負担させるようにしてもよいものであり、新設杭を基礎3と半剛接合し、新設杭と基礎との接合状態の剛性を調整することもできる、
既存杭を利用した新設建物の基礎構造。」

イ 刊行物2(特開2006-45854号公報)
本願出願前に頒布された刊行物である刊行物2には、次の事項が記載されている(審決で下線を付した。)。

(ア) 「【要約】
【課題】杭頭半剛接合構法を実現する上において容易に施工可能で施工時の管理も容易な杭頭支持構造を提供する。
【解決手段】 杭と構造物が、杭本体よりも小さい断面積で接合又は接触している杭頭支持構造において、当該接合又は接触部の周囲に形成された杭頭と構造物との間の空隙に、面積が異なる同心状の開口を有する複数の緩衝層が挟持されている杭頭支持構造を提案する。好ましくは、前記複数の緩衝層の内、最上層の剛性・強度・耐熱性は、他の層の剛性・強度・耐熱性以上である杭頭支持構造である。前記緩衝層は、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタンまたはポリ塩化ビニルの発泡体、スタイロフォーム、石膏ボード、発泡コンクリート、木質材、厚紙、布、不織布の何れかからなる層を含むことができる。」

(イ) 「【0027】 本発明において、芯鉄筋135が杭頭と構造物の基礎を貫通することは必ずしも必要ではなく、図10?11に示したように、杭頭部と基礎がコンクリートのみで結合されている構造、基礎が杭頭上に単に載置されているのみの構造等であっても同様に適用することができる。さらに、接合部又は接触部へ向けて断面積が次第に減少している部分は、図10(c)に示すように四角錐台等の角錐状であっても良く、図11に示すように肩部があって、その後次第に面積が減少するものであっても良い。図7?8、10?11では何れも断面積が階段状に減少する部位を斜面で図示した。」

ウ 刊行物3(特開2003-27500号公報)
本願出願前に頒布された刊行物である刊行物3には、次の事項が記載されている(審決で下線を付した。)。

(ア) 「【要約】
【課題】 地震時の安全性の向上が図れかつ基礎スラブ、杭のコストダウンが図れ、しかも地震時の引き抜き力や地下水による浮力にも対処し得る。
【解決手段】 杭頭部がその上側に配置される基礎スラブ4に対してピン結合されて、相対回転を許容しつつ軸力及び剪断力を伝達される頭部ピン結合杭3aと、杭頭部がその上側に配置される基礎スラブ4に対して剛結合されて、回転モーメント、軸力及び剪断力を伝達される頭部剛結合杭3bとの2種類の杭を併用する。頭部剛接合杭3bを、地震時に引き抜き力が作用する箇所、つまり建物の外周柱1aの下方位置に配置し、他の箇所に頭部ピン結合杭3aを配置する。」

(イ) 「【0026】図6は本発明にかかる基礎構造の他の実施の形態を示すものである。ここで示す建物は、既設杭100を残したまま、上方の既存の建物本体101のみを解体し、既設杭100の上方に新たに新設建物本体102を構築したものである。この建物の基礎構造においても、頭部ピン結合杭3aと頭部剛結合杭3bとの2種類の杭が用いられている。頭部ピン結合杭3aには、既設杭100が再利用される他、必要に応じて新たに設置される新設杭103も利用される。また、頭部剛結合杭3bは既設杭100よりも外方に設置された新設杭104が利用される。
【0027】この基礎構造によれば、既設杭100を再利用できることから、既設杭100をすべて撤去する場合に比べて、杭の撤去費用が不要になり、工期が短縮でき、しかも産業廃棄物が削減できる利点が得られる。なお、既設杭は地震時等の水平抵抗性能に劣ることが懸念されるが、既設杭100は頭部ピン結合杭3aとしてしか利用されないため、頭部に過度の回転モーメントが加わることがなく、既設杭100が回転モーメントによって損傷されることはない。
【0028】図7は本発明にかかる基礎構造のさらに他の実施の形態を示す。ここで示す建物は、前記図6で示したものと同様に、既設杭100を残したまま、上方の既存の建物本体101のみを解体し、既設杭100の上方に、新たに既設の建物本体と略同じ敷地内に新設建物本体102を構築したものである。この建物の基礎構造においても、頭部ピン結合杭3aと頭部剛結合杭3bとの2種類の杭が用いられている。頭部ピン結合杭3aには、既設杭100が再利用される他、必要に応じて新たに設置される新設杭も利用される。また、頭部剛結合杭3bは既設杭100の間に設置された新設杭104が利用される。
【0029】この基礎構造によっても既設杭100が再利用できる。また、このように既設杭100の再利用を図りながらも、必要に応じて新設杭104を増すことによって、高さ制限のない比較的高い新設建物本体102を構築することができる。」

(ウ) 「【0032】このことから、新設の場合、頭部ピン結合杭3aと頭部剛結合杭3bの2種類の杭を併用したときには、頭部ピン結合杭3aの杭本体6及び基礎スラブ4(基礎梁)はそれほど強い強度を求められず、結果的にコストを削減できることがわかる。また、杭頭の水平抵抗による曲げモーメントを考慮していない既設杭を再利用するときでも、頭部ピン結合杭3aと頭部剛結合杭3bの2種類の杭を併用する場合であって、既設杭を頭部ピン結合杭として用いる場合には、その既設杭を充分再利用できることがわかる。・・・
【0034】なお、上述した実施の形態はあくまで本発明の例示であり、実施の際には必要に応じて発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。例えば、前述した実施の形態では、杭の上側に配置する上部構造体として基礎スラブ4を例に挙げて説明しているが、基礎スラブに変えてフーチングであっても勿論本発明は適用可能である。また、上記した図6、図7で示す実施の形態では、既設杭を主に頭部ピン結合杭として用いているが、これに限られることなく、既設杭が大きい耐力を有する場合、該既設杭を頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭との双方の杭として用い、新設杭を頭部剛結合杭として用いるようにしてもよい。また、既設杭と新設杭ともに、頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭との双方の杭として用いるようにしてもよい。」

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)からみて、刊行物3には、次の事項(以下「刊行物3記載事項」という。)が記載されているものと認める。

「既設杭を残したまま、上方の既存の建物本体のみを解体し、既設杭の上方に、新たに既設の建物本体と略同じ敷地内に新設建物本体を構築する、建物の基礎構造において、
杭頭部がその上側に配置される基礎スラブに対してピン結合されて、相対回転を許容しつつ軸力及び剪断力を伝達される頭部ピン結合杭と、杭頭部がその上側に配置される基礎スラブ4に対して剛結合されて、回転モーメント、軸力及び剪断力を伝達される頭部剛結合杭との2種類の杭が併用され、
地震時等の水平抵抗性能に劣ることが懸念される既設杭は頭部ピン結合杭として利用され、新設杭は頭部剛結合杭として利用されるが、これに限られることなく、既設杭が大きい耐力を有する場合、該既設杭を頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭との双方の杭として用い、新設杭を頭部剛結合杭として用いる、また、既設杭と新設杭ともに、頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭との双方の杭として用いる、建物の基礎構造。」

(2) 本願発明1について
ア 対比
本願発明1と刊行物1発明を対比する。

(ア) 刊行物1発明の「新設建物の基礎構造」は、本願発明1の「基礎構造」に相当する。

(イ) 刊行物1発明の、「既存杭を残して既設建物を撤去し、これにより残された既存杭」は、本願発明1の「新たに設ける新設杭」に相当する。

(ウ) 刊行物1発明の、「新設杭」は、本願発明1の「取り除かれた建物を支持していた既存杭」に相当する。

(エ) 刊行物1発明の、「既存杭に」「半剛接合され」、「新設杭に」「半剛接合されて」いる「マット基礎として構成されている基礎」と、本願発明1の「既存杭と新設杭とに支持される基礎スラブ」とは、「既存杭と新設杭とに支持される基礎」である点で一致する。

(オ) 刊行物1発明で、「頭部」が「基礎」に接合される杭において「基礎への固定度を落とす」ということはすなわち杭頭固定度を落とすということであるから、刊行物1発明の、「前記既存杭の頭部には前記基礎が半剛接合され前記新設杭には前記基礎が剛接合又は半剛接合されており、これにより前記既存杭と前記新設杭とは前記基礎から受ける鉛直力を分担し、水平力に対して劣ったものとなっている前記既存杭の基礎への固定度を落とし、前記既存杭と前記新設杭とが地震時に前記基礎から受ける水平力を前記既存杭が前記新設杭よりも小さくなるように分担するものであり、杭の保有している性能に応じて既存杭に水平力を負担させるようにしてもよいものであり、新設杭を基礎3と半剛接合し、新設杭と基礎との接合状態の剛性を調整することもできる」ことと、本願発明1の「前記基礎スラブに対する前記新設杭の杭頭固定度は、前記基礎スラブに対する前記既存杭の杭頭固定度より低いこと」は、「前記基礎に対する前記新設杭の杭頭固定度と、前記基礎に対する前記既存杭の杭頭固定度とを調整する」点で共通する。

(カ) 前記(ア)ないし(オ)から、本願発明1と刊行物1発明とは、

「取り除かれた建物を支持していた既存杭と、
新たに設ける新設杭と、
前記既存杭と前記新設杭とに支持される基礎と、
を有し、
前記基礎に対する前記新設杭の杭頭固定度と、前記基礎に対する前記既存杭の杭頭固定度とを調整する基礎構造。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明1では基礎は「スラブ基礎」であるのに対し、刊行物1発明では基礎は「マット基礎」である点。

<相違点2>
本願発明1では、「基礎スラブに対する新設杭の杭頭固定度は、基礎スラブに対する既存杭の杭頭固定度より低い」のに対し、刊行物1発明では「低い」という特定がない点。

イ 判断
相違点1、2について検討する。

(ア) 相違点1について
「マット」基礎も「スラブ」基礎もどちらも面状の基礎であり、実質的な相違ではない。

(イ) 相違点2について
相違点2に係る本願発明1の構成は、「新設杭の杭頭固定度」は「既存杭の杭頭固定度」より「低い」と特定するものである。
これに対して刊行物1発明では、「杭の保有している性能に応じて既存杭に水平力を負担させるようにしてもよいものであり、新設杭を基礎3と半剛接合し、新設杭と基礎との接合状態の剛性を調整することもできる」が、そのように調整したとしても、「既存杭」「新設杭」ともに同じ「半剛接合」とされるまでであり、「新設杭」の杭頭固定度を「既存杭」より低くすることは示唆されていない。また、「杭の保有している性能に応じて既存杭に水平力を負担させる」という点における「杭の保有している性能」についても、「水平力に対して劣ったものとなっている既存杭」という記載はあっても、言わばその逆の、「新設杭」が「既存杭」より「保有している性能」が低いとの事項は示唆されていない。
さらに刊行物3をみても、刊行物3には上記(1)ウ(カ)に記載した刊行物3記載事項のとおり、既設建物を撤去して新設する建物の基礎構造であって、既存杭の性能に応じ、既存杭と新設杭の基礎への杭頭固定度が調節される基礎構既設建物を撤去して新設する建物の基礎構造という点で刊行物1発明と共通する技術分野において、「既設杭が大きい耐力を有する場合」、「既設杭と新設杭ともに、頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭双方の杭として用いる」ことが記載されているが、やはり「既設杭と新設杭ともに、頭部ピン結合杭と頭部剛結合杭双方の杭として用いる」とされるまでであり、「新設杭」の杭頭固定度を「既存杭」より低くすることは示唆されていない。また、「既設杭が大きい耐力を有する場合」という点における「大きい耐力」についても、「地震時等の水平抵抗性能に劣ることが懸念される既設杭」という記載はあっても、言わばその逆の、「新設杭」がその「大きい耐力を有する」「既存杭」より「耐力」が低いとの事項は示唆されていない。
また、刊行物2には、新設杭と既存杭の上記関係に関する記載あるいは示唆はない。
よって、刊行物1発明に刊行物2、3記載事項を適用したとしても、相違点2に係る本願発明1の構成である、「新設杭の杭頭固定度」は「既存杭の杭頭固定度」より「低い」とすることは、当業者が容易に想到できることではない。
そして、本願発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、「このような基礎構造によれば、基礎スラブを支持する新設杭の基礎スラブに対する杭頭固定度は、基礎スラブに対する既存杭の杭頭固定度より低いので、例えば地震等による曲げモーメントや水平剪断力は、新設杭よりも既存杭の応力負担が大きくなる。すなわち、曲げモーメントや水平剪断力は、より既存杭に負担されるので、既存杭の性能を十分に活用させることが可能である」(本件明細書段落【0007】)との本願発明1特有の効果を奏するものである。

ウ 本願発明1のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者が刊行物1に記載の発明及び刊行物2、3に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(3) 本願発明2ないし4、8について
本願発明2ないし4、8は、それぞれ、本願発明1の構成をすべて含み、さらに構成を付加するものである。
そうすると、本願発明1が、上記(2)で説示したとおり、当業者が刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないので、本願発明2ないし4、8も同様に、当業者が刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

なお、本願発明5ないし7は拒絶査定の対象とはなっていない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1-8に係る発明は、当業者が刊行物1に記載の発明及び刊行物2、3に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2011-240420(P2011-240420)
審決分類 P 1 8・ 572- WY (E02D)
P 1 8・ 121- WY (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石井 哲  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
前川 慎喜
発明の名称 基礎構造  
代理人 一色国際特許業務法人  

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