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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01H
管理番号 1325524
審判番号 不服2016-7099  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-16 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2012- 61455「回路保護素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月30日出願公開、特開2013-196871、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月19日の出願であって、平成27年9月25日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年3月25日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年4月5日)、これに対し、同年5月16日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、当審において同年12月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由という。)が通知され、その指定期間内の同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年12月27日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
絶縁基板と、この絶縁基板の両端部に設けられた一対の上面電極と、この一対の上面電極を橋絡するように形成され、かつ前記一対の上面電極と電気的に接続されたエレメント部と、このエレメント部と前記絶縁基板との間に設けられた下地層と、前記エレメント部に形成された複数のトリミング溝と、前記エレメント部を覆うように設けられた絶縁層とを備え、前記絶縁層を樹脂と内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質のシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成し、前記フィラーの混合割合を50?70体積%とした回路保護素子。
【請求項2】
絶縁基板と、この絶縁基板の両端部に設けられた一対の上面電極と、この一対の上面電極を橋絡するように形成され、かつ前記一対の上面電極と電気的に接続されたエレメント部と、このエレメント部と前記絶縁基板との間に設けられた下地層と、前記エレメント部に形成された複数のトリミング溝と、前記エレメント部を覆うように設けられた絶縁層とを備え、前記絶縁層を樹脂と内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質のシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成し、前記フィラーの粒径を5?15μmとし、前記フィラーの粒径をトリミング溝の溝幅より小さくした回路保護素子。
【請求項3】
前記複数のトリミング溝の溝内を樹脂とフィラーとの前記混合物で充填させた請求項1または請求項2に記載の回路保護素子。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
平成27年11月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2004-319168号公報
刊行物2:特開2010-80418号公報

(1)請求項1に対して
刊行物1には、
「絶縁基板12と、この絶縁基板12の両端部に設けられた一対の端面電極16と,この一対の端面電極16を橋絡するように形成され、かつ前記一対の端面電極16と電気的に接続されたヒューズ膜14と、このヒューズ膜14と前記絶縁基板12との間に設けられた接着層11と、前記ヒューズ膜14を覆うように設けられた保護層15とを備え、前記保護層15をフィラーとして珪酸を含有するエポキシ樹脂から形成したチップヒューズ10。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている(刊行物1の段落【0009】、【0010】、【図1】)。
本願の請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると両者は、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願の請求項1に係る発明のエレメント部は「トリミング溝」を有しているのに対し、引用発明にはかかる特定がない点。
[相違点2]
本願の請求項1に係る発明の絶縁層は「樹脂と内部が中空もしくは粗で非晶質のシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成」されているのに対し、引用発明の保護層15はフィラーとして珪酸を含有するエポキシ樹脂から形成されている点。
[相違点3]
本願の請求項1に係る発明は「フィラーの混合割合を50?70体積%」としているのに対し、引用発明にはかかる特定がない点。
以下、上記相違点について検討する。
相違点1についてであるが、刊行物2には、エレメント部にトリミング溝を設けた回路保護素子の発明(以下「刊行物2発明1」という。)が記載されている(刊行物2の段落【0035】、【図1】、【図2】)。そうすると、引用発明に、刊行物2発明1を適用して、本願の請求項1に係る発明における相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
相違点2についてであるが、刊行物2には、耐火性があり超多孔・超微細構造を持つ珪藻土と、シリコン樹脂を混合させた混合物で下地層を構成した発明(以下「刊行物2発明2」という。)が記載されている(刊行物2の段落【0039】)。一方、引用発明の保護層15は耐燃性、耐熱性を有するものである(刊行物1の段落【0010】)。そうすると、引用発明の保護層15と刊行物2発明2の下地層はともに、耐燃性(耐火性)を有している点で機能・作用が共通しているから、引用発明に刊行物2発明2を適用して、本願の請求項1に係る発明における相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
相違点3についてであるが、本願の請求項1に係る発明においてフィラーの混合割合を50?70%にする技術的意義は、「特に好ましい」(本願明細書の段落【0022】)ということである。してみれば、引用発明においてフィラーの混合割合をどの程度とするかは、当業者が適宜設定し得る事項である。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、刊行物2発明1及び刊行物2発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)請求項2に対して
本願の請求項2に係る発明は、本願の請求項1の発明特定事項である「フィラーの混合割合を50?70体積%とした」点を、「フィラーの粒径を5?15μmとした」と変更したものである。
そうすると、本願の請求項2に係る発明と引用発明とを対比すると両者は、上記(1)の相違点1、相違点2に加え,以下の相違点4で相違する。
[相違点4]
本願の請求項2に係る発明は「フィラーの粒径を5?15μmとした」としているのに対し、引用発明にはかかる特定がない点。
以下、上記相違点について検討する。
相違点1、相違点2については、上記(1)を参照されたい。
相違点4についてであるが、本願の請求項2には、トリミング溝の幅が特定されていない(トリミング溝の幅とフィラーの粒径との関係は、本願明細書の段落【0021】を参照されたい。)。そうすると、引用発明において、フィラーの粒径は、当業者が適宜設定し得る事項である。
したがって、本願の請求項2に係る発明は、引用発明、刊行物2発明1及び刊行物2発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(3)請求項3、4に対して
請求項3、4に記載された発明特定事項はいずれも、当業者が適宜なし得たことである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 刊行物1
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物1には、「チップヒューズ及びその製造方法」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。以下同様。

(ア)「【0009】
【実施例】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
図1は本発明のチップヒューズ10の断面図である。
チップヒューズ10は、絶縁基板12の上に接着層11を介してヒューズ膜の電極部14a,14cが設けられ、ヒューズ膜のヒューズ要素部14bが重なる接着層11の部分に切欠き部11aが形成され、この切欠き部11aには所定の耐熱性及び柔軟性を備えた樹脂13が充填され、ヒューズ膜の電極部14a,14cとヒューズ要素部14bは保護層15により覆われている。また絶縁基板12の裏面には裏面電極17が形成され、この裏面電極17とヒューズ膜の電極部14a,14cとに通電するように端面電極16が形成され、さらに、端面電極16と裏面電極17と電極部14a,14cの各露出部にメッキ膜18が形成されている。
【0010】
ここで、前記絶縁基板12としてはアルミナセラミック基板を使用するが、絶縁性や耐熱性が良好であれば、ガラス基板や樹脂基板を用いることも可能である。
また前記接着層11としてはエポキシ系樹脂シートを使用することが好ましく、その他にも、アクリル系樹脂シート、シリコーン系樹脂シートを使用することができる。接着層11の切欠き部11aはヒューズ要素部14bよりも大きい形状が好ましく、主に円形穴とし、円形穴以外に矩形穴、多角形穴またはスリット状に形成することができる。
前記切欠き部11aに充填される樹脂13としては、難燃性で、耐熱性に優れ、適切な熱伝導性を有するシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂が使用され、接着層11と略平坦になるように充填される。前記切欠き部11aにシリコーン系樹脂を充填する場合は、上記特性に加え消弧性が高いため、例えば、定格5Aまで、またはそれ以上の定格に適用できる。前記切欠き部11aにエポキシ系樹脂を充填する場合は、上記特性により、例えば、定格3A程度までの定格に適用できる。
前記ヒューズ膜は、所望の溶断特性に合わせた材料や厚さが確保された金属箔から成り、この金属箔をエッチングすることで、所要のパターンを形成し、ヒューズ膜の電極部14a,14cとヒューズ要素部14bを形成する。この金属箔としては、例えば、厚さ5?35μmから適宜選択される銅箔やアルミ二ウム箔、さらには、銅と他の金属との合金なども使用することができる。なお、ヒューズ膜として銅箔を使用する場合には、より速断性を得るためにヒューズ要素部14b上に錫膜を形成し、銅と錫との拡散を防止するために、錫膜の形成前にニッケル膜を形成し、これにより、溶断特性の調整を行なっても良い。
前記保護層15は、アンダーコート15aの上にオーバーコート15bを積層して形成され、アンダーコート15aは耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れた少なくともフィラーとして珪酸を含有するエポキシ系樹脂から形成される一方で、オーバーコート15bは機械的強度及び耐熱性に優れた少なくともフィラーとしてアルミナを含有するエポキシ系樹脂から形成される。このアンダーコート15aは、実質的にヒューズ膜の電極部14a,14cを除いたヒューズ要素部14bと、接着層11の切欠き部11aとを覆うように設けられる。(以下略)」

(イ)「【0011】
次に、チップヒューズ10の製造方法について説明する。
図2(a)?(g)は本発明のチップヒューズの製造工程を説明するために、一つのチップ単位で示した斜視図である。これらの工程は、実際には複数のチップに分割される以前の一枚の絶縁基板上で展開される工程を示すものであるが、理解を容易にするために一つのチップ単位で図示した。
最初に、図2(b)に示したように、接着シート11をラミネート方式により貼り付けて接着層を形成する。ここで、絶縁基板12は、多数の単位領域に切断されて各チップに分割される予定のアルミナセラミック、ガラスまたは樹脂等からなる集合基板が使用される。また接着シート11は多数の単位領域の面積を有するエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂等からなるシートに、それぞれ単位領域分のヒューズ素子の溶断部にあたる部分に図2(a)のような切欠き部11aが形成されたシートが使用される。接着シート11の切欠き部11aは、切欠き部11aを予め形成した接着シート11を絶縁基板12に貼り付けるが、接着シート11を絶縁基板12に貼り付けた後に、接着シート11に切欠き部11aを形成しても良い。
接着シート11が絶縁基板12に貼り付けられたら、スクリーン印刷またはポッティングにより、図2(c)に示したシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂を切欠き部11aに充填する。
次いで、銅やアルミニウム等からなる金属箔を接着層11の上にラミネート方式で貼り付けて、図2(d)に示したように、ヒューズ膜を仮固定し、その後、熱圧着形成する。そして、ヒューズ膜を所望の溶断特性に合わせてエッチングによりパターニングし、図2(e)に示したように、電極部14a,14cとヒューズ要素部14bとを形成し、このとき、ヒューズ要素部14bは接着層11の切欠き部11aの範囲内に形成する。ヒューズ要素部14bには、適宜前述したように、錫めっきまたはニッケルめっきと錫めっきを施しても良い。
さらに、ヒューズ膜の電極部14a,14cとヒューズ要素部14bとを形成した後に、ヒューズ要素部14bを完全に覆うアンダーコート15aとオーバーコート15bとからなる保護層15を形成する。すなわち、図2(f)に示したように、最初にヒューズ要素部14bの上に耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れた少なくともフィラーとして珪酸を含有するエポキシ系樹脂をスクリーン印刷してアンダーコート15aを形成し、次いで、図2(g)に示したように、このアンダーコート15aの上に、機械的強度及び耐熱性に優れた少なくともフィラーとしてアルミナを含有するエポキシ系樹脂をスクリーン印刷することによりオーバーコート15bを形成し、これら二つの層により保護層15を形成する。(以下略)」

(ウ)「【0014】
本発明では、接着層の切欠き部に充填されたシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂により、溶断時の消弧機能が確保される。特に、シリコーン系樹脂により、高定格ヒューズの溶断時の消弧機能が確保される。
また本発明では、更にヒューズ要素部を覆う耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れたエポキシ系樹脂からアンダーコートを形成し、機械的強度及び耐熱性に優れたエポキシ系樹脂からオーバーコートを形成し、これらを積層構造とすることにより、溶断時の熱膨張や遮断時の外部への圧力を吸収すると共に、良好な放熱性を備え、外面の機械的強度と平坦さが確保される。アンダーコートは、実質的に前記表電極部を除いた前記ヒューズ要素部と、前記接着層の切欠き部とを覆うように設けられるため、保護層の密着性、ヒューズ要素部の密閉性を確保しながら、アンダーコートを通じた電極部への過剰な熱放散を抑制し、適切な溶断特性が得られる。」

(エ)上記(イ)の「図2(d)に示したように、ヒューズ膜を仮固定し、その後、熱圧着形成する。そして、ヒューズ膜を所望の溶断特性に合わせてエッチングによりパターニングし、図2(e)に示したように、電極部14a,14cとヒューズ要素部14bとを形成」するとの記載を踏まえると、図2(e)から、ヒューズ膜をエッチングすることにより取り除いた部分は、ヒューズ要素部14bに対して2つの凹部を形成していることが理解できる。

この記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「絶縁基板12と、この絶縁基板12の両端部に設けられた電極部14a,14cと、この電極部14a,14cを橋絡するように形成され、かつ前記電極部14a,14cと電気的に接続されたヒューズ要素部14bと、このヒューズ要素部14bと前記絶縁基板12との間に設けられた接着層11及び切欠き部11aに充填される樹脂13と、前記ヒューズ要素部14bに形成された2つの凹部と、前記ヒューズ要素部14bを覆うように設けられたアンダーコート15aとを備え、前記アンダーコート15aをエポキシ樹脂と硅酸を主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成したチップヒューズ10。」

イ 刊行物2
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物2には、「回路保護素子およびその製造方法」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の回路保護素子の構成では、下地層3が耐熱性の低いエポキシ樹脂で形成されているため、レーザでエレメント部4にトリミング溝を形成しようとすると、レーザの熱で下地層3の形状が不安定となり、これにより、エレメント部4の形状も安定しない場合があるため、溶断特性がばらつくという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、溶断特性を安定化させることができる回路保護素子を提供することを目的とするものである。」

(イ)「【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁基板と、この絶縁基板の両端部に設けられた一対の上面電極と、この一対の上面電極を橋絡するように形成され、かつ前記一対の上面電極と電気的に接続されたエレメント部と、このエレメント部と前記絶縁基板との間に設けられた下地層と、前記エレメント部を覆うように設けられた絶縁層とを備え、前記下地層を珪藻土とシリコン樹脂の混合物で構成したもので、この構成によれば、下地層を構成する珪藻土およびシリコン樹脂が耐熱性に優れているため、レーザでエレメント部にトリミング溝を形成してもレーザの熱で下地層の形状が不安定になるということはなく、これにより、エレメント部の形状が安定するため、溶断特性を安定化させることができるという作用効果が得られるものである。」

(ウ)「【0039】
さらに、この下地層14は、珪藻土とシリコン樹脂を混合させた混合物で構成しているもので、この珪藻土およびシリコン樹脂の熱伝導率は0.2W/m・K以下となっているため、エレメント部13の熱が絶縁基板11内へ拡散するのを抑制することができ、これにより、応答性に優れた回路保護素子を得ることができる。また、この下地層14は、珪藻土の混合割合を50?90体積%としている。なお、珪藻土の混合割合を特に55?70体積%とするのが好ましい。
【0040】
そして、この珪藻土は、壁材や断熱レンガ等の原料となるもので、耐火性があり超多孔・超微細構造を持つ軽い土である。珪藻土に耐火性があるため、過電流が流れるとエレメント部13が高温となっても溶断特性を安定化させることができる。さらに、過電流が流れるとエレメント部13が高温となることから珪藻土に混合させる樹脂にも耐火性が必要であるため、シリコン樹脂が最適であり、耐火性の劣るエポキシ樹脂等は適切ではない。そしてまた、珪藻土、シリコン樹脂ともに安価で大量に入手することができるため、生産性を向上させることができる。」

(エ)「【0043】
前記絶縁層15は、エレメント部13を覆うように設けられているもので、溶断部18を覆うシリコン等の樹脂からなる第1の絶縁層15aと、この第1の絶縁層15aの上面に設けられたエポキシ等の樹脂からなる第2の絶縁層15bとにより構成されているものである。」

(オ)「【0083】
この結果、下地層14を構成する珪藻土とシリコン樹脂の混合物における珪藻土の混合割合が90体積%以下の場合は、下地層14が絶縁基板11から剥がれることはなかったが、90体積%より大きい場合は、下地層14が絶縁基板11から剥がれてしまうものがあった。
【0084】
また、珪藻土の混合割合が50体積%以上の場合は、第1のエレメント部13aにクラックが生ずるものはなかったが、50体積%未満の場合は、第1のエレメント部13aにクラックが生じたものがあった。」

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その機能からみて、後者の「絶縁基板12」は前者の「絶縁基板」に相当し、以下同様に、「電極部14a,14c」は「一対の上面電極」に、「ヒューズ要素部14b」は「エレメント部」に、「接着層11及び切欠き部11aに充填される樹脂13」は「下地層」に、「2つの凹部」は「複数のトリミング溝」に、「アンダーコート15a」は「絶縁層」に、「エポキシ樹脂」は「樹脂」に、「硅酸」は「シリカ」に、「チップヒューズ10」は「回路保護素子」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「絶縁基板と、この絶縁基板の両端部に設けられた一対の上面電極と、この一対の上面電極を橋絡するように形成され、かつ前記一対の上面電極と電気的に接続されたエレメント部と、このエレメント部と前記絶縁基板との間に設けられた下地層と、前記エレメント部に形成された複数のトリミング溝と、前記エレメント部を覆うように設けられた絶縁層とを備え、前記絶縁層を樹脂とシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成した回路保護素子。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
シリカについて、本願発明1は、「内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質の」シリカであるのに対し、
引用発明は、かかる構成を備えているか不明である点。

〔相違点2〕
本願発明1は、「前記フィラーの混合割合を50?70体積%」とするのに対し、
引用発明は、かかる構成を備えているか不明である点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
本願明細書には、「上記した従来の回路保護素子の構成では、絶縁層5を樹脂で構成しているため、過電流でエレメント部4が溶断した際に発生したアークが、絶縁層5の外に飛び出してしまう場合があり、これにより、アークが周囲の製品に影響を及ぼす可能性があるという課題を有していた」(段落【0005】)との記載、及び「以上のように本発明の回路保護素子は、絶縁層を樹脂と内部が中空もしくは粗で非晶質のシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成しているため、過電流でエレメント部が溶断した際に絶縁層側に飛散したエレメント部を構成する金属を、内部が中空もしくは粗で非晶質のシリカを主成分とするフィラーの内部に吸収させることができ、これにより、アークが絶縁層から飛び出すことを阻止でき、かつエレメント部溶断後の電流の遮断を確実にすることができるという優れた効果を奏するものである」(段落【0011】)との記載がある。

これらの記載によれば、本願発明1の「内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質のシリカ」は、溶断した際に絶縁層側に飛散したエレメント部を構成する金属を、内部が中空もしくは粗で非晶質のシリカを主成分とするフィラーの内部に吸収し、これにより、アークが絶縁層から飛び出すことを阻止でき、かつ溶断後の電流の遮断を確実にするものである。

他方、刊行物1には「ヒューズ要素部14bを完全に覆うアンダーコート15aとオーバーコート15bとからなる保護層15を形成する。すなわち、図2(f)に示したように、最初にヒューズ要素部14bの上に耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れた少なくともフィラーとして珪酸を含有するエポキシ系樹脂をスクリーン印刷してアンダーコート15aを形成し、次いで、図2(g)に示したように、このアンダーコート15aの上に、機械的強度及び耐熱性に優れた少なくともフィラーとしてアルミナを含有するエポキシ系樹脂をスクリーン印刷することによりオーバーコート15bを形成し、これら二つの層により保護層15を形成する」(段落【0011】)との記載、及び「ヒューズ要素部を覆う耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れたエポキシ系樹脂からアンダーコートを形成し、機械的強度及び耐熱性に優れたエポキシ系樹脂からオーバーコートを形成し、これらを積層構造とすることにより、溶断時の熱膨張や遮断時の外部への圧力を吸収すると共に、良好な放熱性を備え、外面の機械的強度と平坦さが確保される。アンダーコートは、実質的に前記表電極部を除いた前記ヒューズ要素部と、前記接着層の切欠き部とを覆うように設けられるため、保護層の密着性、ヒューズ要素部の密閉性を確保しながら、アンダーコートを通じた電極部への過剰な熱放散を抑制し、適切な溶断特性が得られる」(段落【0014】)との記載がある。

これらの記載によれば、引用発明の「アンダーコート15a」は、耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に優れたエポキシ系樹脂に珪酸を含有させたもので、保護層の密着性やヒューズ要素部の密閉性を確保し、電極部への過剰な熱放散を抑制することで、適切な溶断特性を得るものであり、硅酸は、あくまで耐燃性、耐熱性及び熱伝導性に着目して採用したものである。

また、刊行物2には、「前記下地層を珪藻土とシリコン樹脂の混合物で構成したもので、この構成によれば、下地層を構成する珪藻土およびシリコン樹脂が耐熱性に優れているため、レーザでエレメント部にトリミング溝を形成してもレーザの熱で下地層の形状が不安定になるということはなく、これにより、エレメント部の形状が安定するため、溶断特性を安定化させる」(段落【0007】)との記載、「珪藻土およびシリコン樹脂の熱伝導率は0.2W/m・K以下となっているため、エレメント部13の熱が絶縁基板11内へ拡散するのを抑制することができ、これにより、応答性に優れた回路保護素子を得ることができる」(段落【0039】)との記載、及び「珪藻土は、壁材や断熱レンガ等の原料となるもので、耐火性があり超多孔・超微細構造を持つ軽い土である。珪藻土に耐火性があるため、過電流が流れるとエレメント部13が高温となっても溶断特性を安定化させることができる。さらに、過電流が流れるとエレメント部13が高温となることから珪藻土に混合させる樹脂にも耐火性が必要であるため、シリコン樹脂が最適であり、耐火性の劣るエポキシ樹脂等は適切ではない。」(段落【0040】)との記載がある。

これらの記載からみて、刊行物2の珪藻土及びシリコン樹脂から構成される下地層は、珪藻土及びシリコン樹脂が耐熱性及び耐火性に優れているため、熱が絶縁基板11内へ拡散するのを抑制し、溶断特性を安定化させるもの(以下「刊行物2の技術事項」という。)であり、珪藻土は、あくまで耐熱性及び耐火性に着目して採用したものである。

そうすると、引用発明の「珪酸」及び刊行物2の「珪藻土」は、シリカの一種ではあるものの、刊行物1及び2には、本願発明1が着目した、アークが絶縁層から飛び出しを抑制するとの性状について何ら記載や示唆はないし、また、仮に、引用発明の「珪酸」として刊行物2の「珪藻土」を用いたとしても、本願発明1の「内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質のシリカ」が奏する、飛散した金属を内部に吸収することが生じるとも認められない。そして、刊行物1の「アンダーコート15a」と刊行物2の「下地層」とは、要請される機能においても一部相違するところもあるから、引用発明において、刊行物2の技術事項から、当業者が上記相違点1に係る本願発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、当業者が引用発明及び刊行物2の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1と同様に、「前記絶縁層を樹脂と内部が中空もしくは内部の密度が粗で非晶質のシリカを主成分とする複数のフィラーとの混合物で構成」することを発明特定事項とするものである。

そうすると、本願発明2も、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明3について
本願発明3は、本願発明1又は2をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2の技術事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)まとめ
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(1)請求項1の5行目及び請求項2の5行目の「内部が中空もしくは粗で」という記載は、「内部が」が何を修飾するのか曖昧なため、明確でない。

(2)請求項3の1行に「複数のトリミング溝」、「混合物」と記載されているが、請求項1、2における当該特定事項との関係が明確でないため、請求項3に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由の判断
(1)請求項1、2の「内部が中空もしくは粗」との記載は、「内部が中空もしくは内部の密度が粗」と補正されたので、明確となった。

(2)請求項3の「複数のトリミング溝」、「混合物」が「前記複数のトリミング溝」、「前記混合物」と補正されたので、請求項1、2との関係が明確となった。
よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2012-61455(P2012-61455)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01H)
P 1 8・ 121- WY (H01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 内田 博之
冨岡 和人
発明の名称 回路保護素子  
代理人 鎌田 健司  
代理人 前田 浩夫  

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