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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1325531
審判番号 不服2016-4661  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-30 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2014-8274「電流センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年2月26日出願公開、特開2015-38464、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月21日(優先権主張、平成25年7月16日(以下、「優先日」という。))の出願であって、平成27年8月27日付けの拒絶理由の通知に対し同年11月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月25日付けで拒絶査定(平成28年1月13日謄本送達)(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成28年3月30日に拒絶査定不服審判が請求され同時に手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正1」という。)が提出され、その後、当審において同年11月10日付けで本件補正1について補正の却下の決定をするとともに同日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、平成29年1月11日に意見書及び手続補正書(同手続補正書でした補正を、以下、「本件補正2」という。)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」等という。)は、本件補正2により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定された、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサにおいて、
磁気特性曲線が線対称形の4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路と、
前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段とで構成され、
前記4つの磁気センサ素子は、非磁性体よりなるセンサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて、その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向くとともに、前記円または楕円に内接する正方形または長方形の各頂点に位置するように配置され、
前記4つの磁気センサ素子のうちの隣り合う同士に印加されるバイアス磁界の向きは前記円または楕円の円周に沿って互いに逆向きであることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサにおいて、
磁気特性曲線が線対称形の4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路と、
前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段とで構成され、
前記4つの磁気センサ素子は、非磁性体よりなるセンサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的インピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて、その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向くとともに、前記円または楕円に内接する正方形または長方形の各頂点に位置するように配置され、
前記4つの磁気センサ素子のうちの隣り合う同士に印加されるバイアス磁界の向きは前記円または楕円の円周に沿って互いに逆向きであることを特徴とする電流センサ。
【請求項3】
前記バイアス磁界印加手段は、少なくとも永久磁石を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流センサ。」

第3 原査定の拒絶理由及び当審拒絶理由
1 原査定の理由の概要
(1)原査定の拒絶理由は、概略、本願の請求項1ないし3に係る発明は、優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、引用された文献は次のとおりである。
1.特開平11-237411号公報(以下、「引用文献1」という。)
2.特開平3-282368号公報(以下、「引用文献2」という。)
3.特開2000-55999号公報(以下、「引用文献3」という。)
4.実願平1-73017号(実開平3-14467号)の
マイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)
なお、引用文献1ないし3は、いずれも平成27年8月27日付け拒絶理由通知書において引用されたものであり(そのうち、引用文献2及び3は、いずれも周知技術を示す文献として引用されたものである。)、引用文献4は、周知技術を示す文献として平成27年12月25日付け拒絶査定において新たに引用されたものである。

(2)請求項1ないし3に係る発明についての、より具体的な拒絶理由は、次のとおりである。
引用文献1(段落[0009]、[0014]-[0016]、[0022]-[0023]、[図1]、[図2]等参照。)には、磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサにおいて、4つの磁気センサ素子(符号2が付された部材)により形成されたブリッジ回路([図2]参照。)と、前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段(永久磁石)とで構成され、前記磁気センサ素子は、被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記ブリッジ回路は、その内部に、被測定電流が流れるブスバーが配置されている電流センサが記載されている。
ここで、引用文献1には、磁気センサ素子の磁気特性曲線が線対称形のものであるか否かについて明記されていない。しかしながら、磁気特性曲線が線対称の磁気センサ素子は、例えば引用文献2(第1頁右欄13行-第2頁左上欄第4行、第5図、第6図等参照。)、引用文献3(段落[0034]、[0037]、[図5]等参照。)に記載されているように周知であって、引用文献1に記載される発明において、磁気センサ素子として磁気特性曲線が線対称形の磁気センサ素子を採用することは当業者が適宜なし得たことである。
また、磁気センサ素子を非磁性体よりなるセンサ基板上に配置する点、測定対象をブスバーに代えて電線とする点は当業者の設計的事項である(なお、基板上の被測定電流に対して直交する面内に磁気センサ素子を配置する構成は引用文献4の第1図等に開示されているように周知のものであるし、正確な測定を行うためには非磁性体を用いることが好ましいことは当業者にとって自明なことである。)。

2 当審拒絶理由の概要
(1)当審拒絶理由は、概略、本願の請求項1ないし3に係る発明は、優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであり、引用された文献は次のとおりである。
引用例1.実願平1-73017号(実開平3-14467号)の
マイクロフィルム(上記1(1)の引用文献4に同じ。
以下、「引用文献4」という。)
周知例2.三戸慎也、外2名,“超小型電流センサにおける低バイアス
磁界印加用構造体の開発”,2013年度精密工学会春季大会
学術講演会講演論文集,2013年3月,p.165-166
(以下、「引用文献5」という。)
周知例3.特開2002-131342号公報
(以下、「引用文献6」という。)
周知例4.特開昭63-253264号公報
(以下、「引用文献7」という。)
周知例5.特開2007-107972号公報
(以下、「引用文献8」という。)
なお、引用文献5ないし8(周知例2ないし5)は、いずれも周知技術を示す文献として引用されたものである。

(2)請求項1に係る発明についての、より具体的な拒絶理由は、次のとおりである。
引用文献4には、「所定方向の磁界に感応してその抵抗値が変化する4個の磁気抵抗効果素子を、ブリッジ接続にて絶縁性の基板上に配置し、かつブリッジ接続された磁気抵抗効果素子環内の基板上に、被検出電流導体が貫通可能な貫通孔を設けた構成からなる、電流センサ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
磁気抵抗効果素子の磁気特性曲線が線対称形となることは、一般に広く知られていることであり、そのような磁気特性を有する磁気抵抗効果素子を電流センサに用いる場合にあっては、磁気抵抗効果素子に対しバイアス磁界を印加して、磁気特性曲線上において感度が大きい点を動作点に設定することが、一般に広く行われているところである(例えば、引用文献5(p.165左欄第10ないし20行及び図2(b)等)を参照。)から、引用発明においても、磁気特性曲線が線対称形の磁気抵抗効果素子を用いるとともに、各磁気抵抗効果素子に対しバイアス磁界を印加する手段を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
電流センサにおいて、磁気センサを配置する基板を、シリコンやガラス等の非磁性体材料からなるものとすることは、一般的なことである(例えば、引用文献6(【0006】等)、引用文献7(第4ページ右上欄第19ないし20行等)、引用文献8(【0032】等)を参照。)から、引用発明においても、そのような基板を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
(1)引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は直流大電流計測用の直流電流センサ及び直流電流計測システムに関する。」

イ 「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、大型の環状磁心導磁路を必要としない、軽量で取扱い容易な直流電流センサを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の課題は、被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に、局所的静止磁界の強さと向きを検出する偶数個の磁電変換器を、各磁電変換器の検出軸方向を同一周回方向に向けて等間隔に配置し、各磁電変換器の出力信号を加算器により加算して取り出すことを特徴とする本発明の直流電流センサ(以下、「本センサ」という)により達成することができる。
【0011】直流導体を一周する任意の閉じた経路を考える。経路上の各点で測定した磁界の強さをH、磁界ベクトルと経路接線方向との角をθとすると、経路を一巡して計算したHcosθdl(dlは微分経路)の周回積分値は当該経路と鎖交する電流の代数和Iに等しい。これが本センサの動作原理となるアンペアの周回積分法則である。ただし、この法則は経路上の各点でHcosθの値を逐次連続測定することが前提であるのに対して、本センサでは有限個の測定点で観測されるHcosθの値に基づいて鎖交電流Iを求める点が異なる。なお、Hcosθの値を測定する磁電変換器については後述する。
【0012】上記アンペアの法則と本センサの構成上の相違から、本センサにおける周回積分経路は任意の経路ではなく、その上で磁界Hの大きさが極力一定となる特定の経路を選択することにしている。その特定経路とは導体の中心軸から等距離にある円である。導体の断面形状が円である場合はその周囲を巡る磁力線の形も円になり、その円周上では磁界の強さHは一定で、かつθ=0である。したがってこの場合は、有限個の磁界測定値を用いる本センサによっても鎖交電流Iを正確に求めることができる。
【0013】円以外の異形断面を有する導体の場合は、その周囲を巡る磁力線の形が円になるとは限らない。例えば矩形断面の帯状ブスバーの場合は、その磁力線の形状は導体の近傍では楕円になる。この場合は本センサにおける周回積分経路としての円と磁力線の楕円とが交差することとなり、円周上でのHcosθの値が一定にならないから、測定点の中間では補間が必要である。本センサでは円周上に配置する磁電変換器の個数を可能な限り多くすると共に、各測定点における測定値の代数和をもって補間演算に代え、また、上記帯状ブスバーの場合であってもその表面から離れるに従って磁力線の形が円に近づくことを利用すべく、上記円の直径を極力大きくとるようにしている。
【0014】本センサでは、導体周囲の円形の磁力線に一致させて各磁電変換器を配置することが原則である。しかし、本センサの設置の際に設置誤差を生じ、本センサの中心軸と導体の中心軸とが一致しない場合が起こりうる。このような場合への対応として、本センサではセンサの中心軸を挟んで一対の磁電変換器を軸対称に配置し(よって本センサに用いる磁電変換器は偶数個になる)、かつこれら各対の磁電変換器(実際には全ての磁電変換器)の出力信号を加算演算して取り出すようにしている。これにより誤差を伴う個々の磁電変換器の検出値が平均化されて誤差が打ち消され、その結果、設置誤差の影響が軽減される。かくして本センサでは設置誤差に対する許容度を大きくすることができる。
【0015】またこの種の直流電流センサは、地磁気や、外部の大電流を取扱う機器や配線等を発生源とする外部磁気の影響を受けにくい構造であることを要する。これらの外部磁気は本センサにおける周回積分経路としての円の外側に存在する電流に起因するものであるから、上記アンペアの法則から周回積分値には影響しないと一応はいえる。しかし本センサでは、上述のように本来は周回積分経路に沿って連続測定すべき磁界の値を有限個の測定値で代用しているから、これに由来する外部磁気の影響を考慮する必要がある。
【0016】この場合にも、対処方法は磁電変換器を本センサの中心軸に関して軸対称の位置に配置することである。外部磁気の磁力線が本センサ中を貫通する場合は、ある磁電変換器が検出する外部磁界は、当該磁力線が直角に交わる上記の円の直径に関してこれとほぼ対称の位置にあるもう一個の磁電変換器に対しては、大きさがほぼ等しく逆向きに近い磁界として作用するから、これら一対の磁電変換器の出力信号を加算的に取り出すことにより両者は打消し合い、外部磁気の影響を除去ないし軽減することができる。そして、上記の打消し効果は円周上に配置される磁電変換器の個数が多いほど高いことが期待される。
【0017】なお、上記の設置誤差および外部磁気が本センサに対して360゜のどの方向のものであっても対処可能でなければならない。この要請に応えるため本センサでは各磁電変換器を上記円周上で等間隔に配置している。
【0018】以上説明したように、本センサでは導体の中心軸から等距離にある円周上に偶数個の磁電変換器を軸対称かつ等間隔に配置することにより、外部磁気の影響を実質的に軽減すると共に、設置誤差の影響をも軽減することができるので、そのような目的で従来の直流電流センサに用いられていた大型の環状磁心を省略することが可能になり、軽量かつ取扱い容易な直流電流センサを実現することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】(イ)本発明の好適な実施形態として、本センサに使用する磁電変換器について説明する。
【0020】本センサに使用する磁電変換器は、配置された場所の静止磁界の大きさHと、磁界ベクトルと軸方向(感度最大の方向)との角θとから、Hcosθを検出できるものであれば原理、形式を問わない。そのような特性を有する磁電変換器は数多くあり、例えば磁気抵抗効果素子、ホール効果素子、可飽和コア型磁界検出器その他を挙げることができる。
【0021】これらのうち可飽和コア型磁界検出器を用いた直流電流センサについては、本発明者らが発明者となって先に特許出願(平成9年特許願第118832号)をしたので、本明細書では説明を省略する。
【0022】磁気抵抗効果素子は、強磁性体中に電流を流し同時に磁界を印加すると強磁性体の電気抵抗が磁界とともに増加する現象(磁気抵抗効果)を利用する。磁気抵抗効果は電流と磁界が平行のとき最大で、直交するとき最小になる。強磁性体薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の応答性はコンピュータ用記憶装置の読取りヘッドに利用される程度に高速であるが、それ自体は磁界の極性を判別する機能を有しない。しかし図2(A)に示すように磁気抵抗効果素子を4辺a?dに配置してブリッジを構成し、図2(B)に示すように永久磁石によりブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与えることにより、ブリッジのもう一方の対角線方向に印加される被測定磁界の極性を判別できるようになる。
【0023】すなわち、被測定磁界1が図2(B)で上から下に向く場合は、バイアス磁界との合成磁界1は斜め右下方を指し、ブリッジのa、c辺と交わってこれら各辺の抵抗値を小さくする。逆に被測定磁界2が図で下から上に向く場合はバイアス磁界との合成磁界2は斜め右上方を指し、ブリッジのb、d辺と交わってこれら各辺の抵抗値を小さくする。したがって、ブリッジのa、b辺の中点とc、d辺の中点の間の電位差は、被測定磁界の向きによって逆転することがわかる。その結果、バイアス磁界の方向を基準とする被測定磁界の向きと磁電変換器の出力端子電圧は、図2(C)に示すような関係になる。なお本センサでは、バイアス磁界に対してブリッジの面に沿って90゜の方向を、磁電変換器の検出軸方向としている。
【0024】このようにブリッジを構成することにより被測定磁界の極性を判別できるようになるだけでなく、磁気抵抗効果素子の温度変化及びブリッジ用電源電圧変動の影響を軽減することができ、併せて磁界検出感度を増大させることができる。市場では現にそのような構成で商品化された磁電変換器を容易に入手できるので、これを用いて本センサを組立てることができる。」

ウ 「【0027】さらに、本発明の他の好適な実施形態として以下の(ロ)?(ヘ)を挙げる。
【0028】(ロ)本センサを構成する磁界検出器の個数が少なくとも4個、より好ましくは6個以上24個以下であること。
【0029】上述のように本センサの動作原理はアンペアの周回積分法則であるが、本センサでは有限個の測定値に基づいて鎖交電流Iを求める点がアンペアの法則とは異なる。この相違から、本来は影響を受けない筈の設置誤差(偏心)及び外部磁気の影響を無視することができない。この弱点をできるだけ小さくするには、本センサの周回積分経路である円周上に配置する磁電変換器を偶数個とし、しかもできるだけ多くする必要がある。その観点から最低でも4個、4個よりも6個の方が望ましい。他方磁電変換器は一定の大きさを有するので、上記の円周上に収容できる個数には限度がある。実際に本センサの上記円の直径が20?40cm程度であることを考慮すれば、上限はおよそ20?24個程度と考えられる。」

(2)したがって、上記(1)アないしウの記載並びに図面の図1及び図2から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、特に関連する記載箇所を示す。以下同じ。)。
「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に、局所的静止磁界の強さと向きを検出する少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器を、各磁電変換器の検出軸方向を同一周回方向に向けて等間隔に配置し、各磁電変換器の出力信号を加算器により加算して取り出す、直流電流センサであって、(【0001】、【0010】、【0028】)
導体の断面形状が円である場合はその周囲を巡る磁力線の形も円になり、導体周囲の円形の磁力線に一致させて各磁電変換器を配置し、(【0012】、【0014】)
磁電変換器としては、強磁性体の電気抵抗が磁界とともに増加する現象(磁気抵抗効果)を利用する磁気抵抗効果素子を4辺に配置してブリッジを構成し、永久磁石によりブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与えることにより、ブリッジのもう一方の対角線方向に印加される被測定磁界の極性を判別でき、バイアス磁界に対してブリッジの面に沿って90゜の方向を、磁電変換器の検出軸方向とした構成のものを用いる、(【0022】、【0023】、【0024】)
直流電流センサ。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「【産業上の利用分野】
本発明は物体の変位量、速度などの検出に用いられるエンコーダに利用される磁気センサに関するものである。」(第1ページ左下欄第14ないし17行)

イ 「【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記センサに用いられているMR素子の抵抗変化率ΔRは、第5図に示すように磁界の強さがゼロの場合に最も大きくなるから、この抵抗変化率ΔRが最も大きい範囲を測定範囲として選択することが望ましい。しかしながら、センサは、スケールに書き込まれた磁気情報やその他の外部磁界の影響を受けることにより、ある程度の強さの磁界の下で使用されるから、必ずしも抵抗変化率最大の条件で使用することができるものではない。そこで、抵抗変化率が最大となる最適位置を設定すべく、例えばバイアス磁界-ΔHを与えることが行われている。
すなわち第4図に鎖線で示すように回路基板2上に永久磁石4を設けることにより、第6図に示すように、抵抗変化率ΔRが最大となる位置をシフトさせることが行われている。しかしながら、永久磁界4を回路基板2上の所定位置に正確に位置決めすることが難しいため、センサ毎にバイアス磁界がバラツキ、このバラツキに起因してセンサの出力に誤差が生じるという問題がある。」(第1ページ右下欄第12行ないし第2ページ左上欄12行)

ウ 図面の第5図から、磁界に対する抵抗変化率ΔRの特性が線対称形である点が、見て取れる。

(2)したがって、上記(1)アないしウの記載及び図面の第5図から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「磁気センサに用いられているMR素子の抵抗変化率ΔRは、磁界の強さがゼロの場合に最も大きくなり、磁界に対する抵抗変化率ΔRの特性が線対称形である」こと。

3 引用文献3
(1)引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「【発明の属する技術分野】本発明は、磁界を測定する磁気センサ装置、および電流によって発生する磁界を測定することで電流を測定する電流センサ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、産業界で広く利用されている磁気応用製品等において、磁界を測定する磁気センサ装置が広く用いられている。また、磁気センサ装置の応用として、電流によって発生する磁界を測定することで電流を非接触で測定する電流センサ装置も広く用いられている。また、今後、電流センサ装置の用途としては、電気自動車やソーラー電池のような直流大電流を扱う装置において直流大電流を非接触で測定するような用途も見込まれる。なお、被測定電流が交流電流の場合には、トランスを用いて簡単に非接触で測定できる。しかし、被測定電流が直流電流の場合には、電流を非接触で測定するには、直流磁界で動作する磁気センサが必要となる。
【0003】直流電流を測定するための電流センサ装置に利用する磁気センサ(磁気検出素子)としては、ホール素子、磁気抵抗効果素子、フラックスゲート型磁気センサ等がある。」

イ 「【0006】磁気抵抗効果素子としては、異方性磁気抵抗(以下、AMR(Anisotropic Magneto Resistive )と記す。)効果を用いたAMR素子と、巨大磁気抵抗(以下、GMR(Giant Magneto Resistive )と記す。)効果を用いたGMR素子とがある。GMR素子は、AMR素子に比べて出力が大きい。なお、一般に、AMR素子は、単にMR素子とも呼ばれる。
【0007】このような磁気抵抗効果素子は、出力が大きいという利点を有する。特に、GMR素子は、10mT当たりの抵抗変化量が5%程度となるので、例えば差動構成として、GMR素子を1mAで駆動し、磁界がゼロのときのGMR素子の抵抗値を10kΩとすると、磁束密度10mTにおいて、出力は1Vとなり、ホール素子の100倍程度の出力が得られる。従って、磁気抵抗効果素子を用いることにより、直流増幅の困難性を回避することが可能となり、安価な電流センサ装置を実現できる可能性がある。」

ウ 「【0033】次に、図2ないし図4を参照して、本実施の形態におけるバイアス磁界印加手段について説明する。本実施の形態において、GMR素子11は、図2に示したように、図における左右両端部で交互に複数回折り返すように配置された線状の導電部11aを有している。この導電部11aは、強磁性薄膜を含む磁気抵抗効果材料によって形成されている。導電部11aの両端部には、端子11b,11cが設けられている。また、導電部11aは、絶縁材によって覆われている。
【0034】図3に示したように、GMR素子11は、ガラス等の基板30の一方の面に、スパッタ技術等によって形成されている。基板30の他方の面には、バイアス磁界用の磁石31が接合されている。この磁石31は、図8に示したように、2つの部分31A,31Bを含んでいる。これらの2つの部分31A,31Bは、互いに左右方向の両端部が両磁極となるように着磁されている。ただし、2つの部分31A,31Bは、互いに磁化の大きさが異なり、その結果、GMR素子11に印加するバイアス磁界が異なるようになっている。なお、図4において、2つの部分31A,31Bに付された矢印の長さは、磁化の大きさを表している。このような磁石31を用いることにより、GMR素子11に印加される磁界は、2つの値となる。
【0035】次に、図5および図6を参照して、上述のようにGMR素子11に対して2つの値のバイアス磁界を印加することによる効果について説明する。
【0036】図5は、GMR素子の磁界-抵抗変化特性を示す特性図である。図5において、横軸は、磁界を表し、縦軸は抵抗値を表している。なお、図5における縦軸の抵抗値は、被測定磁界に応じて変化するGMR素子の抵抗値の最小値を基準としたときの、その最小値からの抵抗値の変化量で表している。図5に示したように、GMR素子における抵抗値の変化の特性は、磁界がゼロの位置を中心にして対称である。なお、磁界の値が正のときと負のときとでは、互いに磁界の方向が逆となる。GMR素子は、図5に示したような特性を有するので、抵抗値だけでは磁界の方向を判別することができない。
【0037】そこで従来は、一般に、例えば図5に示したようにバイアス磁界BをGMR素子に印加し、GMR素子の動作点を原点から離れたP点としてGMR素子を動作させるようにしていた。この場合には、被測定磁界の値が正のときにはGMR素子の抵抗値が増加し、被測定磁界の値が負のときにはGMR素子の抵抗値が減少するので、GMR素子の出力から、被測定磁界の大きさおよび方向を検出することが可能となる。しかしながら、図5に示したような磁界-抵抗変化特性において、動作点Pの近傍では磁界に対する抵抗値の変化が略直線的であるが、このように直線的である範囲は狭い。なお、バイアス磁界は、通常、永久磁石によって与えられる。」

(2)したがって、上記(1)アないしウの記載及び図面の図5から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「直流電流を測定するための電流センサ装置に利用する磁気センサ(磁気検出素子)としては、磁気抵抗効果素子があり、磁気抵抗効果素子としては、巨大磁気抵抗効果を用いたGMR素子があるところ、GMR素子における抵抗値の変化の特性は、磁界がゼロの位置を中心にして対称である」こと。

4 引用文献4
(1)引用文献4には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「《産業上の利用分野》
この考案は、被検出回路から絶縁した状態にて電流の検出を応答性良く行うような電流センサに関するものである。」(明細書第1ページ第13ないし16行)

イ 「《実施例》
以下、この考案の実施例を添附図面を参照しながら説明する。
第1図は、本考案に係る電流センサの好適な一実施例を示す斜視図である。また、第2図はその回路図である。
この電流センサ1は基本的には、強磁性薄膜2aからなり所定方向の磁界に感応してその抵抗値が変化する磁気抵抗効果素子2を用い、その磁気抵抗効果素子2を複数用意し、各磁気抵抗効果素子2の磁界の感応方向を一致するようにブリッジ接続にて基板3上に配置し、かつブリッジ接続された磁気抵抗効果素子2環内の基板3上に、被検出電流導体4が貫通可能な貫通孔3aを設けた構成からなる。
磁気抵抗効果素子2は、絶縁性の基板3上に強磁性薄膜2aを所定のパターンに配したもので、作用した磁界の強さに応じてその抵抗値が低減するが、強磁性薄膜2aのパターンに対する磁界の作用方向に応じてその感度は変化し、指向性を有する。
基板3は、絶縁性の平板から成り、その中央には被検出電流導体4が貫通される貫通孔3aが設けられ、その貫通孔3aを中心に4個の磁性抵抗効果素子2が配置されてブリッジ接続される。なお、4個の磁性抵抗効果素子2は、磁界の感応方向が全て同一方向に揃った状態、すなわち強磁性薄膜2aのパターンを全て同一方向に揃えた状態で配置される。また、図中、5は各磁気抵抗効果素子2の接続点となる電極である。」(同第4ページ第15行ないし第6ページ第4行)

ウ 「被検出電流導体4の周囲には、当該導体4を流れる被検出電流Iによって同心円状に磁界Hが発生し、その磁界Hの強さは被検出電流Iの大きさに比例したものとなる。ここで、この被検出電流導体4は貫通孔3aを貫通しているので、上記磁界Hは、基板3上でブリッジ接続された磁気抵抗効果素子2環を周回することとなる。このとき、磁気抵抗効果素子2の感応方向が全て同一方向とされているので、当該磁気抵抗効果素子2環を周回することとなる上記磁界Hに感応する磁気抵抗効果素子2_(2),2_(4),と、逆に感応しない磁気抵抗効果素子2_(1),2_(3)とが出てくることになり、これに対応してブリッジの平衡が崩れるので磁界Hが検知され、被検出電流Iが間接的に検知(計測)される。
すなわち、被検出電流導体4を流れる被検出電流Iによる周回磁界Hが発生すると、その周回磁界Hが強磁性薄膜2aによるパターンを略直交してよぎることとなる磁気抵抗効果素子2_(2),2_(4)の抵抗値が下がり、その低下に応じてブリッジの平衡が崩れることから当該ブリッジの出力端となる電極5に接続された電圧計7に周回磁界Hの強さ(被検出電流I)に比例した電圧出力が得られる。
また、このような構成によれば、当該電流センサ1に外部磁界Hxが作用した場合、強磁性薄膜2aのパターン方向が全ての磁気抵抗効果素子2について同一方向に揃えられているので、外部磁界Hxは全ての磁気抵抗効果素子2に等しく影響を及ぼし、全てが等しく抵抗値の変化を来たすこととなる。しかし、ブリッジ構成なので、そうした抵抗値変化は相殺さてされ、電圧計7には何も影響が出ない。同様、周囲温度の変動などいわゆる外乱に対してもブリッジ構成であることから影響をキャンセルできる。」(同第6ページ第11行ないし第8ページ第5行)

エ 図面の第1図から、貫通孔3aを貫通する被検出電流導体4が、基板3上の4個の磁気抵抗効果素子2_(1)ないし2_(4)が配置された面に直交している点、及び、4個の磁気抵抗効果素子2_(1)ないし2_(4)がそれぞれ、磁界Hに沿った円に内接する正方形の各頂点に位置する点が、見て取れる。

(2)したがって、上記(1)アないしエの記載並びに図面の第1図及び第2図から、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「電流センサであって、(上記(1)ア)
所定方向の磁界に感応してその抵抗値が変化する4個の磁気抵抗効果素子を、各磁気抵抗効果素子の磁界の感応方向を一致するようにブリッジ接続にて基板上に配置し、かつブリッジ接続された磁気抵抗効果素子環内の基板上に貫通孔を設けた構成からなり、(上記(1)イ)
被検出電流導体を流れる被検出電流Iによって発生する同心円状の磁界Hは、基板上でブリッジ接続された磁気抵抗効果素子環を周回することとなり、ブリッジの出力端となる電極に接続された電圧計に周回磁界Hの強さ(被検出電流I)に比例した電圧出力が得られ、(上記(1)ウ)
貫通孔を貫通する被検出電流導体が、絶縁性の基板上の4個の磁気抵抗効果素子が配置された面に直交し、4個の磁気抵抗効果素子がそれぞれ、磁界Hに沿った円に内接する正方形の各頂点に位置する、(上記(1)イ、エ)
電流センサ。」

5 引用文献5
(1)引用文献5には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「1.研究目的
近年,オフィスやビル,工場などの大規模施設において,分散型電流センサネットワークシステムによって消費エネルギーの監視を行い,エネルギーの効率的な運用を行うための技術の開発が進んでいる.このようなセンサネットワークシステムに対して,既存の施設への導入が容易,メンテナンスフリー,測定精度の向上,低コスト化といった要求がある.これらの要求に応えるために,電流センサ端末の高感度化,小型化,低消費電力化が不可欠である.
巨大磁気抵抗効果(GMR)を有するセンサ素子は,電流センサの高感度化,小型化,低消費電力化を実現する.GMR素子は,軸対称なMR特性を示すため,ゼロ磁界付近における感度は非常に小さい.そのため,GMR素子を電流センサに利用するためには,バイアス磁界を印加することで,MR特性曲線上において磁界感度が大きい点に動作点を設定する必要がある.バイアス磁界を印加するものとして,バルク磁石がある.しかし,高感度な電流センサにおいて,動作点の設定に必要な磁界は10 Oe以下であり,バルク磁石から生じる磁界強度と比べて非常に小さい.そのため,バルク磁石のみでバイアス磁界強度を制御することは困難である.
バイアス磁界強度を制御する方法として,電鋳法で作製されたコイルによって磁界を印加する方法が報告されている[1].コイルの駆動電流によってバイアス磁界強度を制御することができる.しかし,コイルの駆動電流が必要であるので低消費電力化が困難である.他の方法として,薄膜磁石で磁気インピーダンスセンサに磁界を印加する方法が報告されている[2].この場合,磁石の膜厚を制御することでバイアス磁界を制御することができるが,薄膜磁石は,その信頼性や生産性の問題から普及していない.
われわれは,高感度なGMR 素子に低バイアス磁界を印加するために,磁石と軟磁性体からなる2種類の形状の構造体を作製した.本報では,本構造体によりGMR 素子に対して10 Oe以下のバイアス磁界を印加できることを示す.また,本構造体におけるバイアス磁界強度の形状依存性について述べる.
2.実験方法
バイアス磁界を印加する構造体として,図1に示すSmCo磁石(以下磁石)とパーマロイB(以下PB)からなるU字型と凹型の磁気回路(以下磁気回路A・磁気回路B)を作製した.磁石のサイズは,w0.8mm×h0.8mm×t0.5mmで,磁気回路Aを構成するPBのサイズは w1.5mm×h0.6-1.0mm×t1.0mmである.磁気回路Bを構成するPBのサイズは,外形がw1.0mm×h0.35-0.8mm× t1.65mmで,凹部がw0.55mm×h0.15-0.6mm×t1.25mmである.図2(a)は,GMR素子と磁気回路の構成図である.磁気回路AあるいはBから生じる漏れ磁界をバイアス磁界として利用する.図2(b)にバイアス磁界強度の測定方法の概念図を示す.バイアス磁界強度は,GMR素子のMR特性曲線におけるピークのシフト量より求める.」(第1ページ左欄第1行ないし右欄第4行)

イ 「



(2)したがって、上記(1)ア及びイの記載から、引用文献5には、次の技術が記載されていると認められる。
「軸対称なMR特性を示すGMR素子を電流センサに利用するために、バイアス磁界を印加することで、MR特性曲線上において磁界感度が大きい点に動作点を設定する」技術。

6 引用文献6
(1)引用文献6には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、信号線に流れる電流からの磁界を磁気検出素子により検知して前記電流を検知する電流センサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電流を検知するセンサには、カレントトランス、ホール素子、MR素子(磁気抵抗効果素子)等が使われてきた。近年、省エネルギー要求の高まりで電流センサの市場は拡大しており、性能的には、よりきめこまかい電流監視に対応して、精度の高い電流センサが要求されてきている。しかし、従来の電流センサでは、限界が見えつつあり、新しい電流センサの登場が期待されている。
【0003】その要求に対して、信号線に流れる電流からの磁界を磁気検出素子により検知して前記電流を検知する電流センサにおいて、磁気検出素子に磁気インピーダンス素子(以下、MI素子と略す)を用いるという考えがある。MI素子は、磁性体からなる磁気検知部に高周波電流を印加すると、外部磁界に応じて磁気検知部の両端間のインピーダンスが変化するもので、そのインピーダンス変化を信号として取り出すものである。
【0004】特に、出願人がすでに提案した特開平8-330644号や特開平9-127218号等の公報に記載された後述の図8に示す素子のように、非磁性基板上に、直線を複数回平行に折り返した細長いつづら折り状パターンの磁性薄膜からなる磁気検知部を設けたMI素子は、チップ抵抗のような小型サイズでMR素子より2桁高い感度が得られる特長を持つ。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記の高感度のMI素子を検知すべき電流が流される信号線に近接して配置し、前記電流から発せられる磁界をMI素子により検知して前記電流を検知することになるが、1個のMI素子だけでは周囲の外乱磁気の影響を排除してS/N比の良い電流検知を行うことが困難である。
【0006】その対策として、2個のMI素子を用いて差動動作させる構成が知られている。その従来例を図8に示してある。図8において、8は検知すべき電流が流される信号線、10A,10BはMI素子、12a,12bはMI素子10A,10Bの非磁性基板、14a,14bは非磁性基板12a,12b上に設けられた磁気検知部であり、先述した細長いつづら折り状パターンの磁性薄膜からなり、その磁界検知方向はつづら折り状パターンの長手方向である。
【0007】ここでは、MI素子10A,10Bの配置を説明する便宜上、信号線8の中心軸をz軸とし、このz軸に対して直交する一軸をx軸とし、このx軸とz軸に直交する一軸をy軸として示してある。MI素子10A,10Bは、信号線8の近傍において、信号線8を中心とした同一円周上で180度離れて対向した位置に配置され、それぞれの磁界検知方向がx軸とy軸により形成されるxy平面内における前記円周の接線方向で互いに平行になるように配置されている。
【0008】電流検知時には、図9に示すように、MI素子10A,10Bに対してx軸方向に沿った一方向にバイアス磁界Hbがかけられる。そして、MI素子10A,10Bに対して、信号線8の電流Iから発せられる磁界Hiについては逆相、それ以外の外来の磁界に対しては同相の磁界が掛かり、差動動作させることで磁界Hi以外の外来の磁界が相殺されるので、S/N比の良い電流検知が可能となる。」

(2)したがって、上記(1)の記載並びに図面の図8及び図9から、引用文献6には、次の技術が記載されていると認められる。
「信号線に流れる電流からの磁界を磁気検出素子により検知して前記電流を検知する電流センサにおいて、磁気検出素子に磁気インピーダンス素子(以下、MI素子と略す)を用い、MI素子の非磁性基板上に磁気検知部が設けられており、2個のMI素子を、検知すべき電流が流される信号線を中心とした同一円周上で180度離れて対向した位置に配置し、それぞれの磁界検知方向がx軸とy軸により形成されるxy平面内における前記円周の接線方向で互いに平行になるように配置し、電流検知時には、2つのMI素子に対してx軸方向に沿った一方向にバイアス磁界がかけられるため、2つのMI素子に対して、信号線の電流から発せられる磁界Hiについては逆相、それ以外の外来の磁界に対しては同相の磁界が掛かり、差動動作させることで磁界Hi以外の外来の磁界が相殺される」技術。

7 引用文献7
(1)引用文献7には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「[産業上の利用分野]
本発明は電流が流れたとき発生する磁界の強さの変化により電流値を検出する検出器に関する。
従来の電流検出器としては直流用・交流用とそれぞれ専用のものを必要とすることが多く、また比較的大型であった。特に直流用のものは絶縁型で小型の電流検出器を開発することが要望された。」(第2ページ右下欄第14ないし20行)

イ 「[問題点を解決するための手段]
第1図は本発明の原理構成を示す図である。第1図において、11は直線状導線、12は導線に流れる電流、13は導線11に電流12が流れた際に該導線11を中心として導線周囲に同心円状に発生する磁界を示す磁気ループ、14,15は磁電変換素子、16は合成部、17は外部から与えられる外乱磁界を示す。
本発明は前述の目的を達成するため、被測定電流12の流れる導線11と、該導線11に被測定電流12が流れた際に該導線11の周囲に発生する磁界13を、該導線の周囲対向領域において磁電変換する磁電変換素子14,15と、それぞれの磁電変化素子14,15の磁電変換出力を合成する合成部16とで構成されている。
[作用]
第1図に示す磁電変換素子14,15は同一特性であって、導線11に電流12が流れたとき発生する磁気ループ13に対し互いに同一で異なる方向の磁界を受けている。そのため素子14,15から取り出した出力は逆位相であるから、合成部16において差動合成したとき、合成部16の出力は素子単独出力の略2倍となる。一方、電流検出器全体に外部磁界17が影響しているとき、外部磁界17に対し磁電変換素子14,15の出力は同相である。したがって合成部16において差動合成した出力には外部磁界17に基づく出力信号は打ち消される。
このとき、磁電変換素子14,15を共通パターンで形成した1個の素子によっても外部磁界を打ち消す効果は同様に得られる。
[実施例]
本発明において使用する磁電変換素子として、ホール効果素子或いは磁気抵抗素子を使用することができる。特にバーバーポール型磁気抵抗素子を基板上に設けた検出器は動作上有効である。
○第1実施例
本発明の実施例として第2図に示す説明図のように構成し、更に具体的には磁気抵抗素子を基板上に第3図のようにバーバーポール型パターンとして設ける。第4図は第3図の横断面図、第5図は第3図A部の拡大図、第6図は同B部の拡大図を示す。第7図は第3図に示すパターンの変形例を示す図である。そして導線を含めた検出器としての全体が第8図のように構成される。以下図面の順序に従って、本発明の第1実施例およびその変形例について説明する。
第2図に示す説明図において、磁気抵抗素子14-1,14-2と15-1,15-2はそれぞれ対をなす磁気抵抗素子の例である。磁気抵抗素子としてバーバーポール型が好適で、各素子はブリッジ接続され、その詳細は後述する。また18はガラスまたはシリコンの基板、19はスルーホールで各磁気抵抗素子の中央部に穿孔され、導線11が貫通する。20は定電流源で磁気抵抗素子のブリッジの一方の対角頂点から定電流を流すもの、21は演算増幅器でブリッジの他方の対角頂点から取り出した出力を差動合成する回路である。また14-3,15-3はトリミングパターンで磁気抵抗素子を蒸着などで基板18上に形成したとき、4個の素子14-1?15-2に生じた若干のばらつきを補正するものを示す。第2図において導線11に電流が矢印12のように流れるとき、発生した磁界は磁気抵抗素子14-1と14-2,15-1と15-2に対しそれぞれ逆方向に影響し抵抗値変化を与える。そのためブリッジ接続された素子の一方の対角頂点間に印加された定電流源20からの定電流が変化し、他方の対角頂点間から取り出した出力は演算増幅器21で差動合成される。そのため磁界の強さの変化と演算増幅器21の出力電圧について予め較正しておけば、演算増幅器21の出力電圧値から電流値を直ぐ求めることができる。
なお導線11に交流が流れるときは、交流ピーク値に対応する磁界の強さ変化をブリッジの他方の対角頂点間から取り出すことができる。」(第3ページ右下欄第8行ないし第4ページ右下欄第2行)

(2)したがって、上記(1)ア及びイの記載並びに図面の第2図から、引用文献7には、次の技術が記載されていると認められる。
「電流が流れたとき発生する磁界の強さの変化により電流値を検出する検出器において、ガラスまたはシリコンの基板上に形成した4個の磁気抵抗素子がブリッジ接続され、スルーホールが各磁気抵抗素子の中央部に穿孔されて導線が貫通し、導線に電流が流れるとき、発生した磁界は磁気抵抗素子に対しそれぞれ逆方向に影響し抵抗値変化を与えるため、ブリッジ接続された素子の一方の対角頂点間に印加された定電流源からの定電流が変化し、他方の対角頂点間から取り出した出力は演算増幅器で差動合成されて、演算増幅器の出力電圧値から電流値を求める」技術。

8 引用文献8
(1)引用文献8には、図面とともに、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車のブレーキ等の電源系を検出対象として、この検出対象に流れる電流を検出する電流センサに関し、特に磁気検出素子(磁電変換素子)による磁気検出のもとに、該検出対象に流れる電流(詳しくはその電流量や方向等)を検出する電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電流センサとしては、ホール素子や磁気抵抗素子を用いた電流センサがよく知られている。はじめに、ホール素子を用いた電流センサによる電流検出の原理について説明する。
【0003】
周知のように、ホール素子に磁気(磁束)が付与されるとき、このホール素子には、付与される磁気の強度に比例するホール電圧が発生する。一方、電流線(電流路)に電流が流れるとき、この電流線の周辺には流れる電流の大きさ(電流量)に比例する磁気(磁界)が発生する。一般に、ホール素子を用いた電流センサでは、このような現象のもと、電流線に流れる電流とこの電流に起因して発生する磁気との比例関係、並びにホール素子に付与される磁気とこの磁気に伴って発生するホール電圧との比例関係を各々利用して、検出対象とする上記電流線に流れる電流(詳しくはその電流量や方向等)を検出するようにしている。すなわち、このような電流センサでは、被検出電流線に流れる電流に起因して発生する磁気を上記ホール電圧として検出することによって、この検出される磁気から同被検出電流線に流れる電流の検出を行っている。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1の実施の形態)
以下、図1および図2を参照して、この発明に係る電流センサを具体化した第1の実施の形態について説明する。
【0032】
図1は、この電流センサの概要(概略構造)を模式的に示す斜視図である。
同図1に示されるように、この電流センサは、基本的には、例えばシリコンからなる半導体基板10を備えて構成されている。そして、この半導体基板10の検出位置A(同基板10の中央)には、例えば自動車のブレーキ等の電源系に設けられた配線等からなる被検出電流線12が、同基板10に対して垂直に(直交するように)配設(固定)されている。また、半導体基板10上には、複数(ここでは7つ)の縦型ホール素子11が環状に、詳しくは上記電流線12を中心にして円状の軌跡を描くように配設されている。そして、検出対象とする電流線12を上記検出位置Aへ導くような切り込みCTが、該検出位置Aまでの切り込みとして、半導体基板10に対して設けられることによって、上記電流線12の高い組付け性が確保されている。
【0033】
なお、上記複数(7つ)の縦型ホール素子11の各出力端子は、互いに電気的に直列に接続されている。また、便宜上図示については割愛しているものの、上記半導体基板10には、こうした縦型ホール素子11のほかにも、これら縦型ホール素子11から出力される信号に対して所定の信号処理を施す回路(例えば増幅回路、あるいはオフセットや温度特性を補正する補正回路等)がさらに集積化されている。」

(2)したがって、上記(1)ア及びイの記載並びに図面の図1から、引用文献8には、次の技術が記載されていると認められる。
「ホール素子を用いた電流センサにおいて、例えばシリコンからなる半導体基板の検出位置(同基板の中央)に、被検出電流線が同基板に対して垂直に(直交するように)配設(固定)されるとともに、半導体基板上には、複数(ここでは7つ)の縦型ホール素子が環状に、上記電流線を中心にして円状の軌跡を描くように配設される」技術。

第5 当審の判断
1 原査定の理由についての判断
(1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「直流電流センサ」は、「局所的静止磁界の強さと向きを検出する少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器」から「の出力信号を加算器により加算して取り出す」ものであるから、本願発明1の「磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサ」に相当する。

b 引用発明1の「磁電変換器」において「強磁性体の電気抵抗が磁界とともに増加する現象(磁気抵抗効果)を利用する磁気抵抗効果素子を4辺に配置して」「構成」された「ブリッジ」と、本願発明1の「磁気特性曲線が線対称形の4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路」とは、「4つの磁気センサ素子により形成されたブリッジ回路」である点で共通する。

c 引用発明1の「磁電変換器」において「ブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与える」「永久磁石」は、本願発明1の「前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段」に相当する。

d 引用発明1の「強磁性体の電気抵抗が磁界とともに増加する現象(磁気抵抗効果)を利用する磁気抵抗効果素子」は、本願発明1の「磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子」に相当する。また、引用発明1の「被測定磁界」は、「被測定電流が流れる導体」「の断面形状が円である場合はその周囲を巡る磁力線の形も円にな」るものであって、その「導体周囲の円形の磁力線」の示す磁界であることから、本願発明1の「前記被測定電流により発生される磁界」に相当する。したがって、引用発明1において、「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に、局所的静止磁界の強さと向きを検出する少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器を、各磁電変換器の検出軸方向を同一周回方向に向けて等間隔に配置」するとともに、「導体の断面形状が円である場合はその周囲を巡る磁力線の形も円になり、導体周囲の円形の磁力線に一致させて各磁電変換器を配置し、磁電変換器としては、強磁性体の電気抵抗が磁界とともに増加する現象(磁気抵抗効果)を利用する磁気抵抗効果素子を4辺に配置してブリッジを構成し、永久磁石によりブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与えることにより、ブリッジのもう一方の対角線方向に印加される被測定磁界の極性を判別でき、バイアス磁界に対してブリッジの面に沿って90゜の方向を、磁電変換器の検出軸方向とした構成のものを用いる」ことと、本願発明1において、「前記4つの磁気センサ素子は、非磁性体よりなるセンサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて、その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向くとともに、前記円または楕円に内接する正方形または長方形の各頂点に位置するように配置され」ていることとは、「前記4つの磁気センサ素子は、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて配置され」ている点で共通する。

e 引用発明1において、「永久磁石によりブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与える」ことと、本願発明1において、「前記4つの磁気センサ素子のうちの隣り合う同士に印加されるバイアス磁界の向きは前記円または楕円の円周に沿って互いに逆向きであること」とは、「前記4つの磁気センサ素子にバイアス磁界が印加される」点で共通する。

(イ)したがって、上記(ア)aないしeから、本願発明1と引用発明1とは、
「磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサにおいて、
4つの磁気センサ素子により形成されたブリッジ回路と、
前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段とで構成され、
前記4つの磁気センサ素子は、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて配置され、
前記4つの磁気センサ素子にバイアス磁界が印加される、電流センサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1では、「4つの磁気センサ素子」の「磁気特性曲線が線対称形」であるのに対し、引用発明1では、「磁電変換器」における「磁気抵抗効果素子」の磁気特性曲線について特定がない点。

(相違点2)
本願発明1では、「4つの磁気センサ素子により形成され」た「ブリッジ回路」「の内部に、被測定電流が流れる電線が配置されている」のに対し、引用発明1では、「磁気抵抗効果素子を4辺に配置してブリッジを構成し」ているものの、そのような「ブリッジ」の「構成」とされた「磁電変換器」を「少なくとも4個かつ偶数個」、「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に」「配置し」ている点。

(相違点3)
本願発明1では、「前記4つの磁気センサ素子は、非磁性体よりなるセンサ基板上の」「面内に配置されてい」るのに対し、引用発明1では、「非磁性体よりなるセンサ基板」について特定がない点。

(相違点4)
本願発明1では、「前記4つの磁気センサ素子は、」「被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、」「その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向くとともに、前記円または楕円に内接する正方形または長方形の各頂点に位置するように配置され」ているのに対し、引用発明1では、「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に」「少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器を、各磁電変換器の検出軸方向を同一周回方向に向けて等間隔に配置し、」「導体の断面形状が円である場合はその周囲を巡る磁力線の形も円になり、導体周囲の円形の磁力線に一致させて各磁電変換器を配置し」ているものの、「バイアス磁界に対してブリッジの面に沿って90゜の方向を、磁電変換器の検出軸方向とし」ているほか、「磁電変換器」において「ブリッジ」の「4辺に配置」される各「磁気抵抗効果素子」と、「被測定電流」との位置関係については特定がない点。

(相違点5)
本願発明1では、「前記4つの磁気センサ素子のうちの隣り合う同士に印加されるバイアス磁界の向きは前記円または楕円の円周に沿って互いに逆向きである」のに対し、引用発明1では、「永久磁石によりブリッジの対角線方向にバイアス磁界を与え」られており、隣り合う「磁気抵抗効果素子」同士の「バイアス磁界」が逆向きとはされていない点。

イ 判断
(ア)まず、上記相違点1について検討するに、磁気抵抗効果素子の磁気特性曲線が線対称形となることは、一般に広く知られていることである(例えば、引用文献2(上記「第4」2(2))、引用文献3(上記「第4」3(2))を参照。)から、上記相違点1は実質的な相違点ではなく、また、仮に上記相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明1における「磁気抵抗効果素子」を、磁気特性曲線が線対称形のものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)次に、上記相違点2について検討する。
引用発明4は、上記「第4」4(2)に記載したとおりのものであるところ、一般に、電流センサにおいて、4個の磁気抵抗効果素子が接続されてなるブリッジの内部に、被測定電流が流れる電線を配置することは、周知技術と認められる。
しかしながら、引用発明1は、「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に、」「少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器を」「配置し、各磁電変換器の出力信号を加算器により加算して取り出す」構成を前提とし、それにより、「有限個の磁界測定値を用いる本センサによっても鎖交電流Iを正確に求めることができる。」(上記「第4」1(1)イ【0012】)及び「誤差を伴う個々の磁電変換器の検出値が平均化されて誤差が打ち消され、その結果、設置誤差の影響が軽減される。」(上記「第4」1(1)イ【0014】)との作用効果を奏するものであって、その際に用いる「磁電変換器としては、」「磁気抵抗効果素子を4辺に配置してブリッジを構成し」たものを採用したものであるから、引用発明1において、「磁気抵抗効果素子」からなる「ブリッジ」の内部、すなわち「磁電変換器」の内部に「被測定電流が流れる導体」を配置することは、当業者にとって動機づけられないことである。
また、引用文献1には、「本センサに使用する磁電変換器は、配置された場所の静止磁界の大きさHと、磁界ベクトルと軸方向(感度最大の方向)との角θとから、Hcosθを検出できるものであれば原理、形式を問わない。そのような特性を有する磁電変換器は数多くあり、例えば磁気抵抗効果素子、ホール効果素子、可飽和コア型磁界検出器その他を挙げることができる。」(上記「第4」1(1)イ【0020】)と記載されていることから、引用発明1における「磁電変換器」それぞれに、単体の「磁気抵抗効果素子」を採用することが示唆されているものといえる。しかしながら、引用発明1がそもそも「各磁電変換器の出力信号を加算器により加算して取り出す」構成を前提とする以上は、引用発明1において、仮に「被測定電流が流れる導体の中心軸から等距離にある円周上の空間に」「配置し」た「少なくとも4個かつ偶数個の磁電変換器」に、それぞれ単体の「磁気抵抗効果素子」を採用したとしても、それらの「磁気抵抗効果素子」を接続して「ブリッジ」とすることは、当業者にとって動機づけられないことである。
してみると、引用発明1において、前述の周知技術を考慮したとしても、本願発明1の上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。

(ウ)したがって、上記相違点3ないし5については検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、及び、引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「前記4つの磁気センサ素子は、」「磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であ」るとの構成を、本願発明2の「前記4つの磁気センサ素子は、」「磁界の印加に対して電気的インピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子であ」るとの構成に置き換えたものであり、この点を除けば、引用発明1に対し本願発明1の上記相違点2と同様の相違点を有するものといえる。
してみると、本願発明2は、本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用発明1、及び、引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願発明3について
本願発明3は、本願発明1又は本願発明2を更に限定したものであるから、本願発明1又は2について述べたのと同様の理由により、引用発明1、及び、引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえず、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

2 当審拒絶理由についての判断
(1)本願発明1について
ア 対比
(ア)本願発明1と引用発明4とを対比する。
a 引用発明4の「電流センサ」は、「所定方向の磁界に感応してその抵抗値が変化する4個の磁気抵抗効果素子を」「ブリッジ接続」し、「ブリッジの出力端となる電極に接続された電圧計に周回磁界Hの強さ(被検出電流I)に比例した電圧出力が得られ」るものであるから、本願発明1の「磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサ」に相当する。

b 引用発明4においては、「ブリッジ接続された磁気抵抗効果素子環内の基板上に」「被検出電流導体が」「貫通する」「貫通孔」が「設け」られているから、引用発明4における、「4個の磁気抵抗効果素子」が「ブリッジ接続」されてなる「磁気抵抗効果素子環」と、本願発明1の「磁気特性曲線が線対称形の4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路」とは、「4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路」である点で共通する。

c 引用発明4の「所定方向の磁界に感応してその抵抗値が変化する」「磁気抵抗効果素子」は、本願発明1の「磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子」に相当する。また、引用発明4の「被検出電流導体を流れる被検出電流Iによって発生する同心円状の磁界H」は、本願発明1の「前記被測定電流により発生される磁界」に相当する。したがって、引用発明4において、「4個の磁気抵抗効果素子」が、「各磁気抵抗効果素子の磁界の感応方向を一致するように」「基板上に配置」され、「貫通孔を貫通する被検出電流導体が、絶縁性の基板上の4個の磁気抵抗効果素子が配置された面に直交し、4個の磁気抵抗効果素子がそれぞれ、磁界Hに沿った円に内接する正方形の各頂点に位置する」ことと、本願発明1において、「前記4つの磁気センサ素子は、非磁性体よりなるセンサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて、その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向くとともに、前記円または楕円に内接する正方形または長方形の各頂点に位置するように配置され」ることとは、「前記4つの磁気センサ素子は、センサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向を示す円に内接する正方形の各頂点に位置するように配置される」点で共通する。

(イ)したがって、上記(ア)aないしcから、本願発明1と引用発明4とは、
「磁界の大きさを電気的信号に変換して出力する磁気センサ素子を用いた電流センサにおいて、
4つの磁気センサ素子により形成され、その内部に、被測定電流が流れる電線が配置されているブリッジ回路と、
前記4つの磁気センサ素子は、センサ基板上の被測定電流に対して直交する面内に配置されていて、磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であり、前記被測定電流により発生される磁界の発生方向を示す円に内接する正方形の各頂点に位置するように配置される、電流センサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1では、「4つの磁気センサ素子」の「磁気特性曲線が線対称形」であるのに対し、引用発明4では、「4個の磁気抵抗効果素子」の磁気特性曲線について特定がない点。

(相違点2)
本願発明1では、「センサ基板」が「非磁性体よりなる」のに対し、引用発明4では、「基板」が「絶縁性」ではあるものの「非磁性体よりなる」か否かについては特定がない点。

(相違点3)
本願発明1では、「4つの磁気センサ素子」が、「前記被測定電流により発生される磁界の発生方向に応じて、その最大感度を示す感磁方向が前記磁界の発生方向を示す円または楕円の接線方向を向く」のに対し、引用発明4では、「4個の磁気抵抗効果素子」が、「各磁気抵抗効果素子の磁界の感応方向を一致するように」「配置」されている点。

(相違点4)
本願発明1では、「前記各磁気センサ素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段」を有し、「前記4つの磁気センサ素子のうちの隣り合う同士に印加されるバイアス磁界の向きは前記円または楕円の円周に沿って互いに逆向きである」のに対し、引用発明4では、そのような「バイアス磁界」の印加について特定がない点。

イ 判断
(ア)まず、上記相違点1について検討するに、磁気抵抗効果素子の磁気特性曲線が線対称形となることは、一般に広く知られていることである(例えば、引用文献5(上記「第4」5(2))を参照。)から、上記相違点1は実質的な相違点ではなく、また、仮に上記相違点1が実質的な相違点であったとしても、引用発明4における「磁気抵抗効果素子」を、磁気特性曲線が線対称形のものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)次に、上記相違点2について検討するに、電流センサにおいて、磁気センサを配置する基板を、シリコンやガラス等の非磁性体材料からなるものとすることは、一般的なことである(例えば、引用文献6(上記「第4」6(2))、引用文献7(上記「第4」7(2))、引用文献8(上記「第4」8(2))を参照。)から、引用発明4において、そのような基板を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(ウ)続いて、上記相違点3について検討する。
引用文献6に記載された技術は、上記「第4」6(2)に記載したとおりのものであるところ、一般に、電流センサにおいて、被測定電流を中心とする円周上に、磁界検出方向を前記円周の接線方向に向けて複数の磁界検出手段を配置することは、周知技術と認められる。
しかしながら、引用発明4は、「4個の磁気抵抗効果素子を、各磁気抵抗効果素子の磁界の感応方向を一致するようにブリッジ接続」することを前提とし、それにより、「当該磁気抵抗効果素子2環を周回することとなる上記磁界Hに感応する磁気抵抗効果素子2_(2),2_(4),と、逆に感応しない磁気抵抗効果素子2_(1),2_(3)とが出てくることになり、これに対応してブリッジの平衡が崩れるので磁界Hが検知され、被検出電流Iが間接的に検知(計測)される。」(上記「第4」4(1)ウ)及び「当該電流センサ1に外部磁界Hxが作用した場合、強磁性薄膜2aのパターン方向が全ての磁気抵抗効果素子2について同一方向に揃えられているので、外部磁界Hxは全ての磁気抵抗効果素子2に等しく影響を及ぼし、全てが等しく抵抗値の変化を来たすこととなる。しかし、ブリッジ構成なので、そうした抵抗値変化は相殺さてされ、電圧計7には何も影響が出ない。」(上記「第4」4(1)ウ)との作用効果を奏するものであるから、引用発明4において、「4個の磁気抵抗効果素子」それぞれの「磁界の感応方向」を、「被検出電流導体を流れる被検出電流Iによって発生する同心円状の磁界H」の接線方向に向けるように変更することは、当業者にとって動機づけられないことである。
してみると、引用発明4において、前述の周知技術を考慮したとしても、本願発明1の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になしえたことであるとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点4については検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明4、及び、引用文献5ないし8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「前記4つの磁気センサ素子は、」「磁界の印加に対して電気的抵抗が変化する磁気抵抗素子であ」るとの構成を、本願発明2の「前記4つの磁気センサ素子は、」「磁界の印加に対して電気的インピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子であ」るとの構成に置き換えたものであり、この点を除けば、引用発明4に対し本願発明1の上記相違点3と同様の相違点を有するものといえる。
してみると、本願発明2は、本願発明1について述べたのと同様の理由により、引用発明4、及び、引用文献5ないし8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願発明3について
本願発明3は、本願発明1又は本願発明2を更に限定したものであるから、本願発明1又は2について述べたのと同様の理由により、引用発明4、及び、引用文献5ないし8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえず、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2014-8274(P2014-8274)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 浩史下村 一石  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 大和田 有軌
関根 洋之
発明の名称 電流センサ  

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