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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1325540
審判番号 不服2015-19224  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-26 
確定日 2017-02-24 
事件の表示 特願2012-527450「人間、動物およびバイオテクノロジー産業において、RNAウイルスと、それによって引き起こされる感染または疾患を、予防、除去、治療するための、ピクロリザ・クロア抽出物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日国際公開、WO2011/027364、平成25年 2月 4日国内公表、特表2013-503854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2010年9月2日(パリ条約による優先権主張 2009年9月4日、インド(IN))を国際出願日とする出願であって、平成26年8月1日付け拒絶理由通知に対し、平成27年2月4日受付けの手続補正書及び同日受付けの意見書が提出されたが、同年6月23日付け拒絶査定がなされた。これに対し、同年10月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月6日受付けの手続補正書によって審判請求書のうちの請求の理由を追加する手続補正がなされた。

2.本願発明

本願請求項1?37に係る発明は平成27年2月4日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?37に記載されたとおりのものであり、そのうち、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「人間および動物対象におけるウイルス、菌類、バクテリア、寄生生物および原虫による感染、障害および疾患の、予防、除去、治療および管理に使用するための、また、肝臓保護薬、抗高脂血症薬、抗糖尿病薬および腎臓保護薬のような他の用途に使用するための、ピクロリザ・クロア・ロイル種、ピクロリザ・スクロフラリフロラ・ペネル種およびネオピクロリザ・スクロフラリフロラ種の内の1つ、または、それらの任意の混合物の植物に存在する1つまたは複数のテルペンおよび前記植物に存在する1つまたは複数の脂肪酸を含む、医薬用または栄養補助用組成物。」

なお、以下、本願発明における「ピクロリザ・クロア・ロイル種、ピクロリザ・スクロフラリフロラ・ペネル種およびネオピクロリザ・スクロフラリフロラ種の内の1つ、または、それらの任意の混合物の植物に存在する1つまたは複数のテルペンおよび前記植物に存在する1つまたは複数の脂肪酸を含む」組成物を単に「本願発明の組成物」という。
また、本願発明における「人間および動物対象におけるウイルス、菌類、バクテリア、寄生生物および原虫による感染、障害および疾患の、予防、除去、治療および管理に使用するための、また、肝臓保護薬、抗高脂血症薬、抗糖尿病薬および腎臓保護薬のような他の用途に使用するため」との用途を単に「本願発明の用途」という。

3.当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について

ア 特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。そして、医薬の用途発明において、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を当該用途に使用することができないから、実施可能要件を満たすためには、本願明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができ、かつ、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。

イ そこで、本願明細書の発明の詳細な説明が本願発明の医薬としての有用性、すなわち本願発明の組成物を投与することによって本願発明の用途の有用性を当業者が理解できるように記載されているか、を検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】?【0028】には、以下のような記載がある。
「【0014】
実験観察により、本発明者は、前記LC(S.科の親油性化合物)の薬理活性が非常に高いレベルにあることを、明らかにした。本発明者によって最初に観察されたのであるが、前記LCの薬効の程度および範囲は、前記配糖体と比べて、かなり、驚くほどに高く広い。本発明は、前記LCについて考慮し、例えば抗ウイルス化合物としての、その並外れた医学的重要性を確認した、最初の発明である。本発明は、また、NLCの存在がLCの薬効を損ない減じる傾向があり、このため、NLCを実質的に含まないか、極少量しか含まないLC含有PK抽出物の製造が重要であることを明らかにした、最初の発明である。本発明者は、この目的のため、新規の工程を提供し、また、前記LCを選択的に抽出して前記NLCを実質的に除外するか、抽出物へのNLCの抽出を最小にするような抽出特性を持つ、適切な溶媒を特定するものである。
【0015】
本発明者は、NLCがLCの薬効を隠してしまうことに気づいた。前記LCを含有する抽出物に存在するどのNLCにも、LCの薬効を減じる効果がある。S.科のNLCの一部は、LCと反対の作用を有するのではないかと考えられる。メカニズムはともあれ、本発明は、LCが顕著な薬効を有すること、LC抽出物の薬効を完全に実現するためには、好ましくは、LC抽出物が、実質的にNLCを含まないようにするべきであることを実験的に明らかにした。
【0016】
以上のように、本発明における新規のPK抽出物と従来技術のPK抽出物は、前者の薬効成分が後者とは異なる点で、全く根本的に異なっている。前者の薬効成分は実質的に後者には存在せず、後者の薬効成分は、本明細書で以下に詳述する理由で、前者から実質的に除かれている。前者の薬効成分はS.科植物のLCであり、後者のようにS.科の配糖体ではない。
【0017】
前者の主要な薬効成分は、S.科の植物に含まれる脂肪酸、テルペン、そして、S.科植物配糖体に由来するアグリコンである。本工程で抽出物に抽出される前記脂肪酸、テルペン、およびアグリコンは、後者にはない。PK植物の配糖体には、ピクロシドI、II、III等があることが知られている。つまり、後者は、主に前記ピクロシドと、アポシニンと呼ばれる化合物からなり、一方で、前者には、実質的に、前記ピクロシドも他の配糖体も、またアポシニンも含まれていない。元の植物物質には前記ピクロシドが存在するが、本発明の抽出物に含まれているのは、それらに由来するアグリコンの方である。
【0018】
つまり、本発明の工程は、単なる物理的な抽出工程ではなく、化学変化をも含んでいると言える。本発明者は、抽出工程中で加水分解とエステル化反応が起き、その結果、抽出物中に前記アグリコンが現われるものと考えている。なんらの義務を負うものではないが、実験調査により、より高い薬効が既に実証されていることから、このような仮説を提示するものである。本発明には、抽出中に化学反応が起きることの実験的証拠があり、従って、本発明の抽出工程は、物理変化と化学変化の組合せである。本発明では、ヘキサン抽出物と、第1溶媒をエタノール、第2溶媒をヘキサンとする抽出物とを作成した。前者の方法では、LCの収率が35%高いことがわかった。HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析により、アグリコン、ステロイドテルペンおよび長鎖の脂肪酸構造が、抽出物中に存在することが示された。収率の多い分は、ヘキサン抽出物中に存在する、これらアグリコン、ステロイドテルペンおよび長鎖の脂肪酸に相当すると考えられる。これらの化合物は(元々S.科の植物物質に存在している化合物も、該元々存在している化合物の一部の反応生成物も)、エタノール-ヘキサン溶媒システムで得られた抽出物には、実質的に存在しない。エタノール-ヘキサン溶媒システムでは、抽出中にこれら成分が排除される。
【0019】
本発明の抽出物は、さらに、S.科植物に存在する脂肪酸を含んでいる。S.科配糖体は、非常に苦い化合物であり、従来技術のPK抽出物を非常に不味くしている。これとは対照的に、本発明のPK抽出物は、苦味成分が全くないため、非常に味が良い。水およびアルコール抽出物には、多くの臭い成分が抽出され、その結果、従来技術のPK抽出物は強烈な不快臭があり、人間および動物が消費するための受容性を低下させている。S.科植物に含まれる、前記したピクロシドおよび他の配糖体は、非常に苦い化合物である。より少量ではあるが、PK植物には、他の苦味成分も存在する。他方、本発明の抽出物は、実質的に無臭である。全てにおいて、本発明の抽出物は、従来技術の抽出物とは異なる枠組みに入るものである。
【0020】
本発明の抽出物におけるテルペンおよび他の成分の薬理作用のメカニズムは解明されておらず、従来技術の抽出物成分に対するそれら成分の薬理作用の優位性に関する説明も得られていない。しかし、本発明者は、やはり、前記の一層優れた薬理活性が、実験により、実験的に明らかにされていると考えている。
【0021】
つまり、従来技術の抽出物の短所は、S.科植物の前記テルペンおよび他のLCよりもかなり薬効の少ない配糖体成分の存在である。配糖体の薬効の範囲も、前記したテルペンおよびその他のLCより、かなり狭い。該配糖体には、肝臓保護作用があることが報告されているが、抗ウイルス作用はない。(インドにおける肝疾患用植物薬、SP Thyagarajan, S Jayaram,V Gopalarkrishnan, R Hari,P Jeyakumar, MS Sripathi,Journal of Gastroenterology and Hepatology Volume 17,pages S370-S376, December 2002)他方、前記LCは、DNAウイルスとRNAウイルスのいずれに対しても強力な抗ウイルス作用があり、従って、前記LCは、限られた肝臓保護、再生作用が報告されている前記NLCよりも、広範囲に作用する。従来技術の抽出物は、非常に苦く、ほとんど受け入れ難い程であり、またさらに、強烈な不快感のある臭い成分による受け入れ難さも加わっている。
【0022】
従来技術の抽出過程の短所は、水と、エタノールおよびメタノールの2種類のアルコールに溶媒を限定し、S.科植物のLCを含む、新規の、より良く、医学的に、より有益で効果的な抽出物を生じさせる、全ての溶媒に範囲を広げていないことである。
【0023】
本発明者は、主に前記親油性成分を含むPK抽出物の使用が、肝炎ウイルスおよび他のDNAおよびRNA型のウイルスの作用を積極的に妨げることを、細胞株によって、実験的に明らかにした。さらに、これによりウイルス構造が破壊されることから、非常に効果的な抗ウイルス組成物であることが確かである。
【0024】
よく知られているように、細胞膜の構造に関係のあるリン脂質には、2つの親油性の高いアルキル鎖と、他端にあるコリンリン酸を代表とする非常に親水性の高いイオン基が含まれている。本発明者は、これにより、PK抽出物の親油性部分および他の構造が、ウイルス性疾患の治療において薬理学的により高い活性を呈するものと考えている。本発明者によるインビトロ調査は、複数の独立の研究所によって確認された。それによれば、PKの親油性化合物は、B型肝炎、インフルエンザ、HIVのようなレトロウイルス、および他のウイルスを含む、DNAおよびRNAウイルスに対する非常に高い抗ウイルス特性を有することが確認された。
【0025】
本発明者によれば、前記S.科植物に存在するテルペンの1つまたは複数と前記科の植物に存在する1つまたは複数の脂肪酸との組合せ(混合物)は、多くのウイルス、菌類、バクテリア、寄生生物、原虫による感染、障害および疾患に対して非常に効果的な、新規で強力な抗ウイルス組成物である。該新規な組成物は、DNAウイルスおよびRNAウイルスの何れに対しても効果がある。このため、該組成物は、研究および産業、特に工業的発酵醸造産業における生化学的および生物工学的工程に適用可能である。本発明の新規な組成物は、さらに、前記科の植物に存在する配糖体のアグリコンの1つまたは複数を含んでもよい。本発明の組成物の成分は、植物由来でもよく、合成起源または部分合成起源でもよい。前記組成物は、前記成分の混合工程によって作ることもでき、部分的にまたは全て植物物質から得ることもできる。
【0026】
本発明では、一般的にはS.科の植物物質、特にはP.属の植物物質に対し、抽出を行なった。これらの抽出物に対し、いくつかの分取物を得るため、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって分取を行なった。該分取物は、それぞれがS.科植物の前記テルペンと脂肪酸を含むため、本発明の組成物を構成することができる。該分取物に関しては、本明細書で、後で詳述する。
【0027】
本発明者は、人間または動物対象に対して本発明の前記抽出物または組成物を投与すると、体の免疫過程により、抗原と抗体が作り出されることを発見した。この過程のメカニズムは完全には解明されていないが、本発明者は、抗体および、抗原、免疫原、免疫血清、抗血清、血清、免疫グロブリンなど抗体と類似の種および物質が前記対象において作り出され、使用された人間、動物、鳥または水性動物対象、つまり本発明の抽出物または組成物を投与された対象の血清中から単離可能であることを明らかにした。このように単離された抗体および類似種は、予防または治療を必要とする対象に投与するためのワクチン、アジュバントおよびその他製剤を製剤するために使用することができる。前記抗体、類似の種および物質を、本明細書中では、まとめて「免疫系関連種(immune system related species)」と呼ぶことにする。
【0028】
従って、本発明の目的は、ゴマノハグサ科(目)植物の植物物質に存在するテルペンおよび脂肪酸の混合物を含む組成物を提供することである。」

また、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0038】?【0047】には、以下のような記載がある。
「【0038】
上記目的を達成するため、本発明によれば、人間および動物対象におけるウイルス、菌類、バクテリア、寄生生物および原虫による感染、障害および疾患の、予防、除去、治療および管理に使用するための、また、肝臓保護薬、抗高脂血症薬、抗糖尿病薬、腎臓保護薬として他の用途に使用するための、ゴマノハグサ科植物に存在する1つまたは複数のテルペンおよび前記科の植物に存在する1つまたは複数の脂肪酸を含む、医薬用、栄養補助用または食品用の組成物が、提供される。
(中略)
【0044】
従って、本発明の組成物および本発明のPK抽出物は、基本的に、S.科植物のテルペン成分を含有している。文脈と矛盾しない限り、以後、本明細書中で、本発明の組成物に対する言及は、本発明の抽出物に対しても当てはまると考えることができ、逆もまた同様である。それらは、S.科植物の1つの前記テルペンまたは前記テルペンの任意の混合物を含むことができる。それらは、さらに、基本的に、S.科植物の1つまたは複数の脂肪酸を含む。前記テルペンと脂肪酸の組合せにより、治療上の相乗作用が現われる。そのような相乗作用は、3成分系、つまり、前記テルペン、脂肪酸、アグリコンによっても現われる。好ましくは、テルペンは主要LC成分であり、テルペンと脂肪酸がともに、組成物/抽出物中の親油性成分の主要部分を形成する。前記抽出物および組成物はまた、S.科植物中に存在する配糖体由来のアグリコンを含有することが好ましい。これら配糖体は、抽出条件の下で反応(加水分解など)および/または分解を起こして、それぞれ対応するアグリコンを生成し、それらアグリコンが、次に、本発明の溶媒によって、抽出物中に抽出される。前記テルペン、脂肪酸およびアグリコンの合計量、つまりLC全体の合計量が、80重量%以上であることが好ましい。本発明の抽出物は、前記苦味のある配糖体を含まず、抽出物中の他のNLCの量が、抽出物全体の0.01重量%?20重量%であることが好ましい。前記配糖体、クツキシド(kutkiside)、ピクロシド、アポシニン、およびドロジンの合計量が、抽出物の20重量%を超えないことが好ましい。抽出物の10%未満が水溶性であることが好ましい。上記したパラメータは、文脈に基づいて異なった解釈をする必要が無い限り、本発明の組成物と抽出物の両方に適用できる。
(中略)
【0047】
本発明の範囲内で、本発明の前記PK抽出物は、前記S.科植物の如何なる種の抽出物であってもよい。本発明の抽出工程は、如何なる前記植物種または他の植物物質に対しても、簡単かつ単純に拡張可能であることに気づくだろう。同様に簡単かつ単純に、前記工程は、前記種の任意の混合物に対しても適用可能である。抽出物は、明細書中で先に述べた三つの種、つまり、ピクロリザ・クロア・ロイル、ピクロリザ・スクロフラリフロラ・ペネルおよびネオピクロリザ・スクロフラリフロラの混合物から抽出されることが好ましい。これら3種は、毒性の観点から好ましい。」

ウ 上記イによれば、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】において、本願発明がゴマノハグサ科(S.科)の親油性成分(LC)の抗ウイルス化合物等を確認した最初の発明であり、本願発明がS.科の非親油性成分(NLC)を実質的に含まないか、極少量しか含まないLC含有ピクロリザ・クロア(PK)抽出物の製造が重要であることを明らかにした最初の発明である旨記載されている。そして、本願発明の詳細な説明の段落【0015】には本願発明はLCが顕著な薬効を有することを実験的に明らかにしたこと、段落【0020】には本願発明者が従来の抽出物と比べて本願発明の組成物の一層優れた薬理活性を実験的に明らかにしたこと、段落【0024】には本願発明者によるインビトロ調査が複数の独立の研究所によって確認され、PKの親油性成分がB型肝炎、インフルエンザ、HIVのようなレトロウイルス、及び他のウイルスを含む、DNA及びRNAウイルスに対する非常に高い抗ウイルス特性を有することが確認されたことも記載されている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例において本願発明の組成物の抽出方法が示されているものの、何ら本願発明の用途に関連した薬理試験結果は開示されていない。また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載全体を見ても、薬理試験結果に等しい記載も何らなされていない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が最初に確認したとされる、本願発明の組成物の本願発明の用途への有用性が当業者が理解できるように具体的に開示されているとはいえない。

エ また、本願出願当時、Zhang,Yanjun et al, Cyclooxygenase-2 enzyme inhibitory triterpenoids from Picrorhiza kurroa seeds,Life Sciences ,2005年,77(25),pp.3222-3230(平成26年8月1日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献1)にはピクロリザ・クロアの種子のヘキサン・酢酸エチル・メタノール抽出物からトリテルペノイド化合物1?6が得られたことが記載されている(アブストラクト参照)。また、STUPPNER H et al,NEW CUCURBITACIN GLYCOSIDES FROM PICRORHIZA-KURROOA,Planta Medica,1989年,Vol.55,No.6,pp.559-563(平成26年8月1日付け拒絶理由通知書で引用された引用文献2)には、ピクロリザ・クロアの根のヘキサン・酢酸エチル・メタノール抽出物から新しいククルビタシン配糖体が得られたことが記載されている(アブストラクト参照)。さらに、PHYTOCHEMISTRY,1991年,30(1),pp.305-310(拒絶査定時に新たに引用された周知技術を示す文献6)にはピクロリザ・クロアの根の酢酸エチル及びクロロホルム抽出物から新規な7つのククルビタシンが単離されたことが記載されている(アブストラクト、305頁右欄最終段落参照)。そして、J NAT PROD,2000年,63(9),pp.1300-1302(拒絶査定時に新たに引用された周知技術を示す文献7)にはピクロリザ・スクロフラリフロラの根茎から軽油、ジエチルエーテル、酢酸エチル、メタノール及び水を用いた抽出により2つのククルビタシン・アグリコンが単離されたことが記載されている(アブストラクト、1301頁右欄の「Isolation Procedure.」の項参照)。
これらの記載から、ピクロリザ属の植物から、ヘキサン、酢酸エチル、軽油、ジエチルエーテル等の溶媒を用いてトリテルペノイド化合物、ククルビタシン配糖体、ククルビタシン・アグリコン等を抽出することは広く当業者に知られていたといえる。しかしながら、ピクロリザ属植物由来のテルペン及び脂肪酸を含有する組成物に着目して本願発明の用途に適用することまでは、本願出願時の技術常識であったとは認められない。
そうすると、本願出願当時の技術常識を参酌しても、本願発明の組成物が本願発明の用途において有効性を示すことが本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるとまではいえない。

オ 審判請求人は同年12月6日受付けの手続補正書における請求の理由において、以下のように主張する。
「5.理由5,6(特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号)について
出願当初明細書、請求の範囲で実施可能性要件、サポート要件を満たしております。また、平成27年2月4日提出の意見書で提出した詳細データにより、出願当初明細書に記載されていた効果が、定量的なデータに裏付けられたものであることは明らかです。
従って、本出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、かつ、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであることは明らかです。」
しかしながら、上記ウで検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、何ら薬理試験結果が具体的に示されておらず、しかも上記エで検討したとおり、本願発明の組成物が本願発明の用途において有効性を示すことが本願出願時の技術常識であったとはいえない。そうすると、上記意見書で示された薬理試験結果は本願明細書の発明の詳細な説明の記載を補充するものとは認められず、参酌できない。
また、仮に上記意見書で示された薬理試験結果を検討しても、添付資料1?7にはAEV01またはAGKTのコード名でしか表されない薬剤が使用されているところ、それらの薬剤に関しては単にある会社で調製された医療用植物からの原葉抽出物(意見書9頁下から2段落目)とのみ記載されているに過ぎず、これらの薬剤がいかなる成分で構成されているかが明示されていない。そうすると、本願発明の組成物が添付資料1?7で示された薬剤であるとは認められない。そして、添付資料1?7の薬理試験結果が本願発明の各種用途のうちのいかなる用途に有用であるかが示されていないことから、本願発明の用途と添付資料1?7に示される薬理試験結果との関係が明らかでない。
そうすると、意見書で示された薬理試験結果を参酌しても、本願発明の組成物が本願発明の用途に有用であることを当業者が理解できるとまではいえない。

カ 以上より、本願明細書の発明の詳細な説明には本願発明の組成物が本願発明の用途に有用であることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明が当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとは認められない。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

ア 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ そこで、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
本願発明の詳細な説明の段落【0024】及び【0028】には以下のように記載されている。
「【0024】
よく知られているように、細胞膜の構造に関係のあるリン脂質には、2つの親油性の高いアルキル鎖と、他端にあるコリンリン酸を代表とする非常に親水性の高いイオン基が含まれている。本発明者は、これにより、PK抽出物の親油性部分および他の構造が、ウイルス性疾患の治療において薬理学的により高い活性を呈するものと考えている。本発明者によるインビトロ調査は、複数の独立の研究所によって確認された。それによれば、PKの親油性化合物は、B型肝炎、インフルエンザ、HIVのようなレトロウイルス、および他のウイルスを含む、DNAおよびRNAウイルスに対する非常に高い抗ウイルス特性を有することが確認された。」
「【0028】
従って、本発明の目的は、ゴマノハグサ科(目)植物の植物物質に存在するテルペンおよび脂肪酸の混合物を含む組成物を提供することである。」

これらの記載と本願請求項1の記載を併せると、本願発明の解決すべき課題(以下、「本願発明の課題」という。)は、人間及び動物対象におけるウイルス、菌類、バクテリア、寄生生物及び原虫による感染、障害及び疾患の、予防、除去、治療及び管理に使用するための、また、肝臓保護薬、抗高脂血症薬、抗糖尿病薬及び腎臓保護薬のような他の用途に使用するための、ピクロリザ・クロア・ロイル種、ピクロリザ・スクロフラリフロラ・ペネル種及びネオピクロリザ・スクロフラリフロラ種の内の1つ、または、それらの任意の混合物の植物に存在する1つまたは複数のテルペン及び前記植物に存在する1つまたは複数の脂肪酸を含む、医薬用または栄養補助用組成物を提供することであると認められる。

ウ 一方、上記(1)イ及びウで既述のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、実際に本願発明の組成物が本発明の用途に有用であることを示す薬理試験結果は何ら記載されていない。また、上記(1)エで既述のとおり、ピクロリザ属植物由来のテルペン及び脂肪酸を含有する組成物が本願発明の用途に有用であることが本願出願時の技術常識であったとは認められない。さらに、上記(1)オで述べたとおり、上記意見書で示された薬理試験結果は本願明細書の発明の詳細な説明の記載を補充するものとは認められず、参酌できず、仮に参酌したとしても本願発明の抽出物が本願発明の用途に有用であることを当業者が理解できるとまではいえない。

エ そうすると、本願出願時の技術常識を勘案しても、本願発明が発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。

4.むすび

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号の規定を満たさず、かつ本願特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号の規定を満たさないことから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-28 
結審通知日 2016-09-29 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2012-527450(P2012-527450)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 横山 敏志
穴吹 智子
発明の名称 人間、動物およびバイオテクノロジー産業において、RNAウイルスと、それによって引き起こされる感染または疾患を、予防、除去、治療するための、ピクロリザ・クロア抽出物  
代理人 尾崎 隆弘  

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