ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S |
---|---|
管理番号 | 1325545 |
審判番号 | 不服2016-10505 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-12 |
確定日 | 2017-03-14 |
事件の表示 | 特願2014-172809「光ファイバ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 7日出願公開,特開2016- 48717,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成26年8月27日の出願であって,平成27年9月28日付けで拒絶理由が通知され,平成28年4月19日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年7月12日に審判請求がされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1?10に係る発明は,願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。 「【請求項1】 光を導光する第1ファイバと, 第1端から光が入射又は出射されるとともに,第2端の端面が前記第1ファイバの側面に斜めに接合された第2ファイバと, 前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置され,熱伝導性が前記第1及び第2ファイバと同等又はより高くかつ前記第1ファイバ及び前記第2ファイバで導光される前記光に対して光透過性を有する放熱部材と, を備えた光ファイバ装置。」 また,請求項2?10は,請求項1を直接あるいは間接に引用するものであるから,請求項2?10に係る発明は,本願発明の発明特定事項を含むものである。 3 原査定の理由の概要 原査定(平成28年4月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 本願請求項1?10に係る発明は,以下の引用例1?4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 ここで,本願発明については,引用例1には,励起光を導入するための光ファイバが接続された箇所に冷却手段17を設けることが記載されているところ,レーザ装置の技術分野において発熱は周知の課題であって,その解決手段を周知の放熱手段の中から適宜選択することは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことであり,一方,引用例2には,レーザ媒質を透明熱伝導性部材により包囲した構造を開示しているところ,前記透明熱伝導性部材が放熱部材として用いられていることは,当業者にとって明らかであるから,引用例1に記載された発明において,励起光導入領域を前記透明熱伝導性部材により包囲して放熱をおこなうことは,当業者であれば容易に想到し得たことであって,これにより,漏れた励起光を吸収することによる発熱を防止できるという本願発明の効果は,当業者であれば容易に予測し得た範囲のものであり,顕著な効果であるとは言えないから,本願発明は,引用例1及び2に基づいて,当業者が容易に発明できた,というものである。 引用例1: 特開2009-212184号公報 引用例2: 特開平07-297467号公報 引用例3: 特開平01-260405号公報 引用例4: 特開2001-119084号公報 ここで,上記引用例1?4は,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である。 4 引用例に記載された発明 (1)引用例1に記載された発明 ア 引用例1には,図1?4とともに以下の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。 「【請求項1】 希土類元素がドープされたコアと,該コアの外側に設けられた第1クラッドと,該第1クラッドの外側に設けられた第2クラッドと,を備えたダブルクラッドファイバを含み,一端がビーム出射端に構成されると共に他端に共振器を構成する誘電体多層膜が設けられたファイバレーザ本体と, 上記ファイバレーザ本体の一端側に設けられた励起光源と, を備え, 上記励起光源からの励起光が,上記ファイバレーザ本体において,上記ダブルクラッドファイバの上記第1クラッドに入射して上記第2クラッドで囲われた領域を伝搬し,上記コアを通過する際に希土類元素を励起させ,そして,その誘導放出により発せられる光が,該コアを伝搬し,また,上記誘電体多層膜で反射して共振し,該ファイバレーザ本体のビーム出射端たる一端からレーザビームとして出射するように構成されたファイバレーザ装置。 ・・・(中略)・・・ 【請求項9】 請求項1乃至7のいずれかに記載されたファイバレーザ装置において, 上記励起光源は,各々,励起光を発する複数の光源本体と,該複数の光源本体のそれぞれに一端が接続され且つ他端が上記ファイバレーザ本体に接続された複数の光ファイバで構成され該複数の光源本体からの励起光を導光して該ファイバレーザ本体における上記ダブルクラッドファイバの上記第1クラッドに入射させる光コンバイナと,を有するファイバレーザ装置。」 「【0001】 本発明はファイバレーザ装置に関する。 【背景技術】 【0002】 高出力レーザでは,注入された励起光パワーのうち発振光に変換されなかった分が熱となって媒質中に蓄積される。この蓄積熱は,熱レンズ効果や熱複屈折によりレーザビーム品質を劣化させる他,過多な場合には,レーザ媒質を破壊へと至らしめる。このため高出力レーザでは,安定動作を行うために冷却を行うことが必要である。 ・・・(中略)・・・ 【0006】 ところで,ファイバレーザを励起させる方法としては,励起光をファイバに入射する箇所によって分類すれば,端面励起と側面励起とに分けることができる。また,励起光の入射方向の発振光であるレーザビームの出射方向との関係によって分類すれば,それらを同方向とする前方励起と逆方向とする後方励起と両方向ともに含める双方向励起とに分けることができる。上記のいずれの方法によってもレーザ発振させることは可能である。 【0007】 また,ファイバレーザによるレーザ発振には共振器が必要であり,かかる共振器を,コアに直接形成した回折格子,ファイバ外部に配置したミラー,端面に設けた誘電体多層膜等により構成することができる。これらのうち端面に誘電体多層膜を設ける構成は,レンズを必要としないため簡略であり,メンテナンスも容易である。 【0008】 しかしながら,ダブルクラッドファイバのファイバレーザは優れたレーザビーム品質を発現する高出力ファイバレーザとして適するものの,誘電体多層膜のレーザ損傷閾値は,10^(3)?10^(6)W/cm^(2)であって,ファイバレーザそのもののレーザ損傷閾値10^(9)W/cm^(2)よりも大幅に小さく,そのため,誘電体多層膜によりレーザ共振器を構成したダブルクラッドファイバのファイバレーザを高出力化する場合,誘電体多層膜がレーザ損傷を受けないようにする必要がある。 【0009】 本発明の目的は,レーザ共振器を構成する誘電体多層膜の損傷を抑制することである。 【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明者らは,前方励起及び後方励起のいずれの場合も,励起光が入射する部分での発熱量(熱負荷)が最大となることを見出して本発明に想到した。 【0011】 本発明のファイバレーザ装置は, 希土類元素がドープされたコアと,該コアの外側に設けられた第1クラッドと,該第1クラッドの外側に設けられた第2クラッドと,を備えたダブルクラッドファイバを含み,一端がビーム出射端に構成されると共に他端に共振器を構成する誘電体多層膜が設けられたファイバレーザ本体と, 上記ファイバレーザ本体の一端側に設けられた励起光源と, を備え, 上記励起光源からの励起光が,上記ファイバレーザ本体において,上記ダブルクラッドファイバの上記第1クラッドに入射して上記第2クラッドで囲われた領域を伝搬し,上記コアを通過する際に希土類元素を励起させ,そして,その誘導放出により発せられる光が,該コアを伝搬し,また,上記誘電体多層膜で反射して共振し,該ファイバレーザ本体のビーム出射端たる一端からレーザビームとして出射するように構成されている。 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば,ファイバレーザ本体の一端側に励起光源を設けた後方励起の構造を有し,共振器を構成する誘電体多層膜が相対的に発熱の小さいレーザファイバ本体の他端に設けられているので,従って,その損傷を抑制することができる。」 「【0014】 (実施形態1) 図1は,実施形態1に係るファイバレーザ装置Aを示す。この実施形態1に係るファイバレーザ装置Aは,出力0.1W?100kW,スロープ効率50?92%といったハイパワーのレーザビームにより溶接や切断などを行うレーザ加工等に使用されるものである。 【0015】 このファイバレーザ装置Aは,ファイバレーザ本体10を構成するダブルクラッドファイバ11と,その一端側に設けられた励起光源20と,を備える。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 このダブルクラッドファイバ11は,励起光源20から直線状に延びた直線状一端部13と,その直線状一端部13に連続してコイル状に巻回されたコイル状本体部14と,そのコイル状本体部14に連続して直線状に延びた直線状他端部15と,を有する。 【0025】 直線状一端部13は,長さが例えば10?1000mmであり,端面がファイバ軸に対 して垂直に劈開され且つ第2クラッド113の空孔115が封止されていることが好ましい。空孔115が封止されていれば,空孔115への埃等の異物の侵入を防止することができ,発振光の伝送特性が損なわれるのを防ぐことができる。空孔115の封止態様としては,例えば,加熱してコラプスしたもの,充填部材を充填したもの等が挙げられる。そして,この直線状一端部13には水冷式冷却手段17が設けられている。かかる水冷式冷却手段17としては,例えば水冷式ヒートシンクが挙げられる。 【0026】 コイル状本体部14は,例えば,長さが0.3?300m,コイル半径が10?100cmである。このコイル状本体部14には空冷式冷却手段18が設けられている。かかる空冷式冷却手段18としては,例えば,銅やアルミニウムなどの高熱伝導材料で形成された放熱板等の空冷式ヒートシンクが挙げられる。 【0027】 ファイバレーザ装置Aが高出力化すると,ダブルクラッドファイバ11のファイバ径を大きくする必要があるが,例えばファイバ径が1mm程度となると,コイル状本体部14を曲率半径10cmとすることが機械的に困難となる。また,ダブルクラッドファイバ11全体を水冷冷却しようとすれば,高コストな水冷式冷却手段が必要であり,装置自体も大型化してしまう。しかしながら,上記のように,励起光の入射及び発振光(レーザビーム)の出射を行う最も冷却の必要な直線状一端部13に水冷式冷却手段17を設け,コイル状本体部14に空冷式冷却手段18を設けることによりかかる不都合を縮小することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0037】 以上の構成のファイバレーザ装置Aによれば,ファイバレーザ本体10を構成するダブルクラッドファイバ11の一端側に励起光源20を設けた後方励起の構造を有し,共振器を構成する誘電体多層膜16が相対的に発熱の小さいダブルクラッドファイバ11の他端に設けられているので,従って,その損傷を抑制することができる。」 「【0038】 (実施形態2) 図4は,実施形態2に係るファイバレーザ装置Aを示す。なお,実施形態1と同一名称の部分は実施形態1と同一符号で示す。この実施形態2に係るファイバレーザ装置Aも実施形態1のものと同様の用途に使用されるものである。 【0039】 このファイバレーザ装置Aでは,励起光源20は,複数の光源本体21と光コンバイナ25とで構成されている。 【0040】 複数の光源本体21のそれぞれは,例えば半導体レーザで構成されている。各光源本体21が発するレーザビームの波長は,ダブルクラッドファイバ11のコア111にドープされた希土類元素の種類によって異なるが,例えば,希土類元素がイッテルビウム(Yb)の場合には1.08μm,エルビウム(Er)の場合には1.55μm,ネオジム(Nd)の場合には1.06μmである。 【0041】 光コンバイナ25は,複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続された複数のマルチモード光ファイバで構成されている。そして,ダブルクラッドファイバ11の直線状一端部13は,その中間部分の一部が第2クラッド113及びサポート層114並びに被覆層12が除去されて第1クラッド112の側面が露出しており,複数のマルチモード光ファイバのそれぞれの他端は,その露出した第1クラッド112の側面に融着接続されている。水冷式冷却手段17は,直線状一端部13の光コンバイナ25の接続部分を含むように設けられている。 【0042】 その他の構成は実施形態1と同一である。」 イ 図4は次のものである。 ここで,上記段落【0038】?【0042】の記載とともに図4を見ると,光源本体21と光コンバイナ25とを接続するマルチモード光ファイバは,ダブルクラッドファイバ11に対して斜めに接続されていることが見て取れる。 ウ 以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「希土類元素がドープされたコアと,該コアの外側に設けられた第1クラッド112と,該第1クラッド112の外側に設けられた第2クラッド113と,を備えたダブルクラッドファイバ11を含み,一端がビーム出射端に構成されると共に他端に共振器を構成する誘電体多層膜が設けられたファイバレーザ本体と, 上記ファイバレーザ本体の一端側に設けられた励起光源20と, を備え, 励起光源20からの励起光が,上記ファイバレーザ本体において,ダブルクラッドファイバ11の第1クラッド112に入射して第2クラッド113で囲われた領域を伝搬し,上記コアを通過する際に希土類元素を励起させ,そして,その誘導放出により発せられる光が,該コアを伝搬し,また,上記誘電体多層膜で反射して共振し,該ファイバレーザ本体のビーム出射端たる一端からレーザビームとして出射するように構成されたファイバレーザ装置であって, 励起光源20は,各々,励起光を発する複数の光源本体21と,該複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続され且つ他端が上記ファイバレーザ本体に接続された複数の光ファイバで構成され該複数の光源本体からの励起光を導光して該ファイバレーザ本体におけるダブルクラッドファイバ11の第1クラッド112に入射させる光コンバイナ25と,を有し, 光コンバイナ25は,複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続された複数のマルチモード光ファイバで構成され,ダブルクラッドファイバ11の直線状一端部13は,その中間部分の一部が第2クラッド113及びサポート層114並びに被覆層12が除去されて第1クラッド112の側面が露出しており,複数のマルチモード光ファイバのそれぞれの他端は,ダブルクラッドファイバ11に対して斜めに,その露出した第1クラッド112の側面に融着接続されており,例えば水冷式ヒートシンクである水冷式冷却手段17が,直線状一端部13の光コンバイナ25の接続部分を含むように設けられている, ファイバレーザ装置。」 (2)引用例2に記載された事項 ア 引用例2には,図1及び図2とともに以下の記載がある。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,レーザ装置に係わり,より具体的には,増幅された誘導放出(ASE)を抑制し,熱放散が改良されたレーザ反射キャビティを備えたレーザ装置に関する。 ・・・(中略)・・・ 【0003】 【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の課題は,レーザ装置において,レーザ反射性キャビティを提供して増幅された誘導放出(ASE)を抑制し,熱の除去を改善することにある。 【0004】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,本発明は,レーザキャビティに使用するための熱伝導性反射性エンベロープ,およびこれを有するレーザ装置を提供する。本発明の基本装置は,レーザ媒質(ロッド,スラブ,その他の媒質形状)を囲包する,サファイアのような透明熱伝導性部材により構成されたエンベロープである。この透明熱伝導性部材は,ダイオードポンピング光源により提供されるダイオード光ポンピングエネルギー(ポンピング光)をレーザ媒質中へ透過させる光透過性コーティングをその上に有する。このコーティングは,ダイオードポンピング光(典型的なダイオードアレーにとっては800nm)を反射し,レーザ光(Nd:YAGレーザー媒質では1.06μm)を透過させて,所望のレベルよりも低いレベルでレーザ出力のクランピングを通常生じさせるところの増幅された誘導放出を抑制する。このコーティングは,スペキュラーもしくはデフューズ(defuse)反射鏡と組み合わせたときに,上記米国特許で使用されているサマリウムガラスチューブまたはスラブと作用は同じであるが,より高い作用効果を示す。 ・・・(中略)・・・ 【0010】本発明の基本の熱伝導性反射性エンベロープ11は,レーザ媒質12(ロッド,スラブまたは他の媒質形状)の回りに配置された透明熱伝導性部材17例えばサファイアを有する。レーザ媒質12と透明熱伝導性部材17の間に,比較的狭いエアギャップ14,または弾性材料の層14を設けることができる。エアギャップ14または弾性材料14は,熱伝達のために設けられ,レーザ媒質12にいかなる応力を負荷するものではない。透明熱伝導性部材17は,その周囲に形成された光透過性コーティング13を有する。このコーティング13の複数部分に,入射窓13aが設けられ,透明熱伝導性部材17の比較的平坦な部分に形成されている。入射窓13aは,ダイオードポンピング光源20またはダイオードアレー20により提供されるダイオード光ポンピングエネルギー(またはポンピング光)をレーザ媒質12中へと透過させる。 【0011】ダイオードアレー20は,複数の発光レーザダイオード22を固定するハウジング21からなる。コーティング13は,ダイオードのポンピング光(典型的なダイオードアレー20では800nm)を反射し,レーザ光(Nd:YAGレーザ媒質12では1.06μm)を透過させる。コーティング13は,所望のレベルよりも低いレベルでレーザ装置10の出力のクランピングを通常生じさせるところの増幅された誘導放出(ASE)を抑制するように作用する。このコーティング13は,スペキュラーもしくはデフューズ(defuse)反射鏡と組み合わせたときに,上記米国特許で使用されているサマリウムガラスチューブまたはスラブと作用は同じであるが,より高い作用効果を示す。 【0012】エンベロープ11の外表面上には,吸収性弾性材料15が設けられ,例えばNd:YAGレーザ媒質12とともに使用された場合,1.06μmの波長のエネルギーを吸収する。この吸収性弾性材料15と,従って透明熱伝導性部材17と接触してヒートシンク16(典型的には,アルミニウムまたは他の伝熱性材料)が設けられ,熱をレーザ媒質12からハウジング(図示せず)へ伝導放熱させる。」 「【0017】 【発明の効果】本発明は,主に,固体レーザに適用されるものであり,特に,ダイオードポンピング固体レーザに使用される改善されたキャビティを提供する。本発明の装置10は,レーザヘッドのエネルギーおよびパルス繰り返し特性を延長するための誘電体コーティング14を有する高い熱伝導性透明サファイアエンベロープ11を用いた新規なレーザヘッド設計を提供する。伝導性透明エンベロープ11は,ダイオードポンピング光の入射窓13でのダイオードポンピング光の透過とエンベロープ11内でのダイオードポンピング光の高い反射を提供する誘電体コーティング13,14を備え,レーザ波長(1.06μm)のエンベロープ11の残りの領域のための比較的良好な(50?95%)透過を提供する。」 イ 以上の記載から,引用例2には,以下の事項が示されているといえる。 「レーザ媒質12を囲包する,透明熱伝導性部材17により構成されたエンベロープ11であって, エンベロープ11は,レーザ媒質12の回りに配置された透明熱伝導性部材17例えばサファイアを有し,レーザ媒質12と透明熱伝導性部材17の間に,比較的狭いエアギャップ14,または弾性材料の層14を設けることができるものであり,透明熱伝導性部材17は,その周囲に形成された光透過性コーティング13を有し,このコーティング13の複数部分に,入射窓13aが設けられ,透明熱伝導性部材17の比較的平坦な部分に形成された入射窓13aは,ダイオードポンピング光源20またはダイオードアレー20により提供されるダイオード光ポンピングエネルギー(またはポンピング光)をレーザ媒質12中へと透過させ, コーティング13は,ダイオードのポンピング光(典型的なダイオードアレー20では800nm)を反射し,レーザ光(Nd:YAGレーザ媒質12では1.06μm)を透過させるものであり, エンベロープ11の外表面上には,吸収性弾性材料15が設けられ,例えばNd:YAGレーザ媒質12とともに使用された場合,1.06μmの波長のエネルギーを吸収する。この吸収性弾性材料15と,従って透明熱伝導性部材17と接触してヒートシンク16が設けられ,熱をレーザ媒質12からハウジングへ伝導放熱させるものである, エンベロープ11。」 5 当審の判断 (1)対比 引用発明と本願発明とを対比する。 ア 引用発明の「ダブルクラッドファイバ11」は,本願発明の「光を導光する第1ファイバ」に相当する。 イ 引用発明においては,「複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続された複数のマルチモード光ファイバ」を備えるところ,「ダブルクラッドファイバ11の直線状一端部13は,その中間部分の一部が第2クラッド113及びサポート層114並びに被覆層12が除去されて第1クラッド112の側面が露出しており,複数のマルチモード光ファイバのそれぞれの他端は,ダブルクラッドファイバ11に対して斜めに,その露出した第1クラッド112の側面に融着接続されて」いるから,当該「マルチモード光ファイバ」は,本願発明の「第1端から光が入射又は出射されるとともに,第2端の端面が前記第1ファイバの側面に斜めに接合された第2ファイバ」に相当する。 ウ 引用発明においては,「光コンバイナ25は,複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続された複数のマルチモード光ファイバで構成され,ダブルクラッドファイバ11の直線状一端部13は,その中間部分の一部が第2クラッド113及びサポート層114並びに被覆層12が除去されて第1クラッド112の側面が露出しており,複数のマルチモード光ファイバのそれぞれの他端は,ダブルクラッドファイバ11に対して斜めに,その露出した第1クラッド112の側面に融着接続されており」であるから,本願発明における「前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部」を含むものであることは明らかである。 そして,引用発明の「例えば水冷式ヒートシンクである水冷式冷却手段17」が放熱する作用を有することは明らかなところ,「水冷式冷却手段17」は「直線状一端部13の光コンバイナ25の接続部分を含むように設けられている」から,当該「水冷式冷却手段17」と,本願発明の「前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置され,熱伝導性が前記第1及び第2ファイバと同等又はより高くかつ前記第1ファイバ及び前記第2ファイバで導光される前記光に対して光透過性を有する放熱部材」とは,「前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置された放熱部材」である点で一致する。 エ 引用発明の「ファイバレーザ装置」は,本願発明の「光ファイバ装置」に相当する。 オ よって,両者は以下の点で一致する。 「光を導光する第1ファイバと, 第1端から光が入射又は出射されるとともに,第2端の端面が前記第1ファイバの側面に斜めに接合された第2ファイバと, 前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置された放熱部材と, を備えた光ファイバ装置。」 カ 一方,両者は,以下の点で相違する。 《相違点》 本願発明は,「前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置され,熱伝導性が前記第1及び第2ファイバと同等又はより高くかつ前記第1ファイバ及び前記第2ファイバで導光される前記光に対して光透過性を有する放熱部材」を備えるのに対して,引用発明は,「前記第1ファイバと前記第2ファイバとの接合部の全周を覆うように配置された放熱部材」に対応する構成を備えるものの,当該放熱部材が,「熱伝導性が前記第1及び第2ファイバと同等又はより高くかつ前記第1ファイバ及び前記第2ファイバで導光される前記光に対して光透過性を有する」ものであることまでは特定されていない点。 (2)判断 上記相違点について検討する。 ア 前記4(2)イに記載したとおり,引用例2には,エンベロープ11が,例えばサファイアで構成された透明熱伝導性部材17を有して,吸収性弾性材料15及びヒートシンク16とともに,熱をレーザ媒質12からハウジングへ伝導放熱させることが示されている。 ここで,透明熱伝導性部材17は,「その周囲に形成された光透過性コーティング13を有し,このコーティング13の複数部分に,入射窓13aが設けられ,透明熱伝導性部材17の比較的平坦な部分に形成された入射窓13aは,ダイオードポンピング光源20またはダイオードアレー20により提供されるダイオード光ポンピングエネルギー(またはポンピング光)をレーザ媒質12中へと透過させ」るものであり,また,「コーティング13は,ダイオードのポンピング光(典型的なダイオードアレー20では800nm)を反射し,レーザ光(Nd:YAGレーザ媒質12では1.06μm)を透過させるものであ」ることから,透明熱伝導性部材17自体は,ポンピング光及びレーザ光のいずれに対しても透明であるといえる。 イ しかしながら,透明熱伝導性部材17がポンピング光に対して透明であることは,入射窓13aからダイオード光ポンピングエネルギー(またはポンピング光)をレーザ媒質12中へと伝達させるためであり,いったん透明熱伝導性部材17に入射されたダイオード光ポンピングエネルギー(またはポンピング光)及びレーザ光による発熱を防ぐために透明にされたものではない。このことは入射窓13a以外に設けられたコーティング13が,「ダイオードのポンピング光(典型的なダイオードアレー20では800nm)を反射」するもの,すなわち,ポンピング光を透明熱伝導性部材17内にとどめるように構成されていることからも明らかである。なお,当該ポンピング光を透明熱伝導性部材17内にとどめるのは,最終的にレーザ媒質12に吸収させるためであることは明らかである。 ウ 本願発明において,「前記第1ファイバ及び前記第2ファイバで導光される前記光に対して光透過性を有する放熱部材」を備えることは,本願明細書の段落【0006】に記載された「接合部の界面において,光が漏れたり,乱反射によって光が散乱したりすることによって,接合部の近辺が高温になる場合がある」との課題に対応して,同段落【0012】に記載されたとおり,「この放熱部材は,熱伝導性が良好で,しかも励起光に対して光透過性を有する。このため,2つのファイバの接合部近辺で発生した熱を放出することができ,しかも放熱部材が励起光を吸収して発熱するのを抑えることができる」ようにするためである。 エ これに対して,引用例1には,その段落【0010】に「励起光が入射する部分での発熱量(熱負荷)が最大となることを見出し」たとの記載があるものの,本願発明に係る「接合部の界面において,光が漏れたり,乱反射によって光が散乱したりすることによって,接合部の近辺が高温になる」旨の課題の認識はない。しかも,前記イのとおり,引用例2に示された透明熱伝導性部材17は,ポンピング光を透明熱伝導性部材17内にとどめ,レーザ媒質12に吸収させるように構成されているものである。 それゆえ,透明熱伝導性部材17自体のポンピング及びレーザ光の吸収に直接起因する温度上昇がないことは,光が吸収されなければ当該部分の光吸収に伴う温度上昇はないという技術常識から明らかであるとしても,仮に,引用発明の「水冷式冷却手段17」の具体的構成部材として,引用例2に係る「透明熱伝導性部材17」を採用した際に,前記ウの,本願発明に係る課題に対応する作用効果が得られることを当業者が予測できたとはいえない。 オ また,引用発明においては,「複数の光源本体21のそれぞれに一端が接続された複数のマルチモード光ファイバで構成され, ・・・(中略)・・・ 第1クラッド112の側面が露出しており,複数のマルチモード光ファイバのそれぞれの他端は,ダブルクラッドファイバ11に対して斜めに,その露出した第1クラッド112の側面に融着接続されて」いるものであるから,光源本体21からの励起光を伝送するマルチモード光ファイバと,直接融着されたダブルクラッドファイバ11との間に,引用例2に係る,入射窓13aを備える透明熱伝導性部材17を介在させるような動機は,そもそも存在しないといえる。 カ 従って,相違点のうち,「当該放熱部材が,『熱伝導性が前記第1及び第2ファイバと同等又はより高く』」される点について検討するまでもなく,引用発明において相違点に係る構成を備えることは,引用例2に記載された事項及び技術常識を勘案しても,当業者が容易になし得たこととはいえない。 (3)まとめ よって,本願発明は,引用例2に記載された事項及び技術常識を勘案しても,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本願の請求項2?10について 本願の請求項2?10は,請求項1を直接あるいは間接に引用するものであるから,本願の請求項2?10に係る発明は請求項1に係る発明の発明特定事項を含むものである。 そして,前記(1)?(3)で検討したとおり,請求項1に係る発明は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本願の請求項2?10に係る発明については,引用例1?4に記載された事項及び技術常識を勘案しても,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6 むすび 以上のとおり,本願の請求項1?10に係る発明は,引用例1?4に記載された事項及び技術常識を勘案しても,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-02-28 |
出願番号 | 特願2014-172809(P2014-172809) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01S)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀樹 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 光ファイバ装置 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |