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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1325559
審判番号 不服2016-5702  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-18 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2012- 3470「赤外線目標検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月22日出願公開、特開2013-142636、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月11日の出願であって、平成27年6月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年8月10日付けで手続補正がなされたが、平成28年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年4月18日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年4月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に、
「【請求項1】
互いの視野を組み合わせて全方位方向を撮像可能に配置され、集光した赤外線を検出して赤外線画像を撮像する複数の赤外線撮像器と、
前記赤外線撮像器の変位による前記赤外線画像の動きを補正する空間安定化処理を実施する空間安定化処理部と、
前記空間安定化処理部での前記空間安定化処理を経た前記赤外線画像に対し、画素ごとの輝度値の二値化処理を実施し、前記赤外線画像から目標を検出する目標検出処理部と、
前記目標検出処理部での前記二値化処理により取得された二値画像を基に、前記目標の特徴量を算出する特徴量演算部と、を有し、
前記空間安定化処理部および前記目標検出処理部には、前記赤外線画像のフレームレートに同期させたフレームタイミング信号が供給され、
前記空間安定化処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記空間安定化処理を実施し、
前記目標検出処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記二値化処理を実施することを特徴とする赤外線目標検出装置。」
とあったところを、

「【請求項1】
互いの視野を組み合わせて全方位方向を撮像可能に配置され、集光した赤外線を検出して赤外線画像を撮像する複数の赤外線撮像器と、
前記赤外線撮像器の変位による前記赤外線画像の動きを補正する空間安定化処理を実施する空間安定化処理部と、
前記空間安定化処理部での前記空間安定化処理を経た前記赤外線画像に対し、画素ごとの輝度値の二値化処理を実施し、前記赤外線画像から目標を検出する目標検出処理部と、
前記目標検出処理部での前記二値化処理により取得された二値画像を基に、前記目標の特徴量を算出する特徴量演算部と、を有し、
前記空間安定化処理部、前記目標検出処理部および前記特徴量演算部には、前記赤外線画像のフレームレートに同期させたフレームタイミング信号が供給され、
前記空間安定化処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記空間安定化処理を実施し、
前記目標検出処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記二値化処理を実施し、
前記特徴量演算部は、前記フレームレートに同期して前記特徴量を算出することを特徴とする赤外線目標検出装置。」
とするものである(下線は、補正箇所を示す。)。

2 補正の適否
本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「特徴量演算部」について、「前記特徴量演算部には、前記赤外線画像のフレームレートに同期させたフレームタイミング信号が供給され」と限定し、「前記特徴量演算部は、前記フレームレートに同期して前記特徴量を算出する」と限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

(1)引用文献の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2010-521879号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

a「【0017】
これより図1を参照すると、図1は、撮像システム100の上位ブロック図を示し、一実施形態では、撮像システム100は、低レイテンシ、高分解能、連続運動パノラマ・ビデオ撮像システムに対応する。図1に示すように、システム100は、センサ・ポッド110を含む。センサ・ポッド110は、更に、図3の平面図においてセンサ300として示されている。一実施形態では、センサ・ポッド110は、耐圧エンクロージャ即ち筐体を含む。別の実施形態によれば、センサ・ポッド110は、複数の撮像出力を備えており、これらをマルチプレクサ120によってファイバ(またはRF)チャネル125上に多重化して画像プロセッサ150に送信することができる。画像プロセッサ150は、デマルチプレクサ130によって多重分離された後に、特定用途集積回路(ASIC)またはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)回路またはボード1601?160nのような2又は3以上の適したディジタル信号プロセッサを備えることができる。ある種の実施形態では、センサ・ポッド110は、複数の高分解能ビデオ・カメラを備えることができる。このような高分解能ビデオ・カメラは、それぞれのカメラの視野における画像を表す、少なくともカメラ当たり500キロ画素の、ほぼリアル・タイムのビデオ・カメラ画像信号を発生するように構成することができる。また、高分解能カメラは、他の画素値によって特徴付けることができる高分解能撮像データも発生することができることは認められてしかるべきである。例えば、一実施形態では、高分解能は、少なくとも500キロ画素の画像信号データに関するとすればよい。本明細書において用いる場合、ほぼリアル・タイムとは、60から100msec以下のレイテンシに関するとすればよい。しかしながら、他のレイテンシ値を用いてもよいことは認められよう。」

b「【0019】
図1には示されていないが、センサ・ポッド110はセンサ(例えば、複数のカメラ)を所定の角度位置に位置付けて、複数のカメラが共同で、当該複数のカメラの周囲の360度視野全体を包含するビデオ・カメラ画像信号を発生することを可能にするように、支持部に結合する、またはこれと一体化することもできる。
【0020】
一実施形態では、図1に示すように、FPGAボード(群)1601?160nを高速画像プロセッサs150内に統合することもできる。更に、プロセッサ150をディスプレイ175に電気的に接続して、得られる画像データを表示することもできる。一例として、画像プロセッサ150は、センサ・ポッド110から受信するビデオ・カメラ画像を一斉に並列処理して、ビデオ・カメラが取り込んだ継ぎ目のないパノラマ画像を表すビデオ信号を発生する。別の実施形態によれば、センサ・ポッド110から受信した画像データをシリアルに処理することもできる。次いで、これらの信号をディスプレイ175に送信し、複数のカメラ周囲の視野におけるシームレスのパノラマ画像のほぼリアル・タイム画像を得ることができる。一実施形態では、CPU165は、グラフィクス・カード170に供給する撮像データを受信し扱うことができる。CPU165は、更に、オペレータ・インターフェース145からの制御情報を受信するように構成することもできる。別の実施形態では、センサ・ポッド110によって収集された撮像データは、視覚撮像データ、非視覚撮像データ、赤外線データ、熱撮像データ、マイクロ波撮像データ、磁気撮像データ等の少なくとも1つに関するとよい。」

c「【0023】
一実施形態では、動き補償アルゴリズムは、追加のビデオ・カメラから発生したビデオ・カメラ画像信号を調整するために、ビデオ・カメラの1つの視野内において概ね固定されている物体を利用することができる。要するに、基準線を確立するためには、他のビデオ・カメラからのビデオ・カメラ画像信号に関して、少なくとも1つのビデオ・カメラの視野における固定物体から得られるビデオ信号を用いて、ビデオ・データ減算プロセスを用いることができる。別の実施形態によれば、システム100は、ビデオ・データ減算を実行するように構成した回路を含むこともできる。
【0024】
一例として、IMU115はレベル・センサの形態とするとよく、機械式ジャイロおよび光ファイバ・ジャイロの1つを含むがこれに限定されるのではない。レベル・センサは、センサ・ポッド110の内部またはその近傍に配置し、センサ・ポッド110の方位および動きを検知するように構成することができる。一実施形態では、センサ・ポッド110は、慣性空間における方位および動きを検知し、対応するデータを高速画像プロセッサ150に送信することができる。ある種の実施形態では、画像プロセッサ150(および/またはその上にあるFPGA(群)160_(1)?160_(n))が着信ビデオを処理し、以下の内1又は2以上を実行することができる。
・方位を補正し、プラットフォームの動きを補償するための画像の安定化。
・連続(縫合)表示を生成するための画像の平行移動および位置合わせ。
・真の方位座標で画像を表示するように、方位角軸を中心とする回転を補償するための、方位角面における画像位置の補正。」

d「【0043】
これより図4を参照すると、本発明の一実施形態にしたがって、画像プロセッサ(例えば、画像プロセッサ150)のFPRA(群)(例えば、FPGA(群)1601?160n)が実行する画像処理シーケンス400のブロック図が示されている。図4に示すように、IMUセンサ420(例えば、IMUセンサ115)からの入力を用いて、4台のカメラからの画像データを最初に回転させて、2つの次元におけるセンサ(例えば、センサ・ポッド110)の傾きを補正するとよい。尚、本発明の原理にしたがって構成した耐圧センサ(例えば、センサ・ポッド110および/またはセンサ・ポッド200)に、4台のカメラを一体化してもよいことは認められてしかるべきである。別の実施形態によれば、カメラ410a?410dによって供給される撮像データは、ブロック415a?415cにおいて補正することもできる。これについては以下で図5に関して更に詳細に説明する。
【0044】
一旦傾きに対して調整したならば、ブロック430a?430bにおいて、4台のカメラの既知の相対位置を用いて、受信データを変換することができる。次に、ブロック440において、本質的に連続なパノラマを作成するように、画像データを混合することができる。混合の後、ビンナー(binner)450において、画素を組み合わせるとよい。何故なら、多くのディスプレイは、最大の解像度を表示するのに十分な解像度を有していない場合もあるからである。ブロック420において受信したユーザ入力は、受信画像データの拡大および/または操作を含む、所望の絵図 (view)を示すことができる。その後、ブロック460において画像のトリミングを行って、選択した垂直サイズとした後に、データを表示できるように、画像データを2又は3以上の区間に分割する。」

e「【0046】
他の実施形態では、FPGA(群)(例えば、FPGA(群)1601?160n)は、自動目標現出を遂行するために、画像データの処理を実行することができる。一般的な用語では、検出アルゴリズムは、局在的コントラスト、動き等のような、ある種の画像特徴が検出された領域を探し求める。このために、目標認識を同様に実行することができ、これによって、認識した画像の固有性に基づいて、物体を自動的に特徴付ける。一実施形態によれば、目標認識は、センサ(例えば、センサ・ポッド110)によって検出した物体に基づくことができる。代わりに、ユーザ入力を通じて目標を特定してもよく、またはこれを組み合わせてもよい。更に、ユーザは、ズーム機構480が発生する表示ウィンドウの拡大または操作のために地理的座標を規定することもできる。」

f「【0048】
最後に、目標追跡アルゴリズムをFPGA(群)(例えば、FPGA(群)1601?160n)にプログラミングすることができることも認められてしかるべきである。目標追跡アルゴリズムの例には、質量中心(centroid)、相関、エッジ(edge)等を含むことができる。そのようにすると、追跡項目を360度パノラマ・ディスプレイ上で表すことができる。」

(ア)段落【0017】の記載から、引用文献1には、「センサ・ポッド110と、画像プロセッサ150のFPGAと、を有する撮像システム100」が記載されているといえる。

(イ)段落【0019】及び【0020】の記載から、引用文献1には、「複数のカメラを所定の角度位置に位置付けて、複数のカメラが共同で、当該複数のカメラの周囲の360度視野全体を包含するビデオ・カメラ画像信号を発生することを可能にするように、支持部に結合し、赤外線データを収集するセンサ・ポッド110」が記載されているといえる。

(ウ)段落【0023】及び【0024】の記載から、引用文献1には、「画像プロセッサ150のFPGA(群)」が、「動き補償アルゴリズムにより、着信ビデオを処理し、方位を補正し、プラットフォームの動きを補償するための画像の安定化、連続(縫合)表示を生成するための画像の平行移動および位置合わせ及び真の方位座標で画像を表示するように、方位角軸を中心とする回転を補償するための、方位角面における画像位置の補正を実行する」ことが記載されているといえる。

(エ)段落【0043】及び【0044】の記載から、引用文献1には、「画像プロセッサ150のFPGA(群)」が、「連続なパノラマを作成するように、画像データを混合する」ことが記載されているといえる。

(オ)段落【0046】の記載から、引用文献1には、「画像プロセッサ150のFPGA(群)」が、「検出アルゴリズムにより、局在的コントラスト、動き等のような、ある種の画像特徴が検出された領域を探し求めて目標認識を実行する」ことが記載されているといえる。

(カ)段落【0048】の記載から、引用文献1には、「画像プロセッサ150のFPGA(群)」が、「目標追跡アルゴリズムにより、質量中心(centroid)、相関、エッジ(edge)等を含む追跡項目を360度パノラマ・ディスプレイ上で表すことができる」ことが記載されているといえる。

上記(ア)?(カ)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「複数のカメラを所定の角度位置に位置付けて、複数のカメラが共同で、当該複数のカメラの周囲の360度視野全体を包含するビデオ・カメラ画像信号を発生することを可能にするように、支持部に結合し、赤外線データを収集するセンサ・ポッド110と、
動き補償アルゴリズムにより、着信ビデオを処理し、方位を補正し、プラットフォームの動きを補償するための画像の安定化、連続(縫合)表示を生成するための画像の平行移動および位置合わせ及び真の方位座標で画像を表示するように、方位角軸を中心とする回転を補償するための、方位角面における画像位置の補正を実行し、
連続なパノラマを作成するように、画像データを混合し、
検出アルゴリズムにより、局在的コントラスト、動き等のような、ある種の画像特徴が検出された領域を探し求めて目標認識を実行し、
目標追跡アルゴリズムにより、質量中心(centroid)、相関、エッジ(edge)等を含む追跡項目を360度パノラマ・ディスプレイ上で表すことができる画像プロセッサ150のFPGA(群)と、を有する撮像システム100。」

イ 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開平07-209402号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

a「【0002】
【従来の技術】図9は従来の目標探知追尾装置の構成の一例を示す図であり、1は外界からの入力光、2は入力光1を光電変換する撮像装置、3は撮像装置2により電気信号に変換されたアナログ画像信号、4はアナログ画像信号3をデジタル変換するA/D変換回路、5は変換されたデジタル画像信号、6はデジタル画像信号5から微小領域を強調するコントラストフィルタ、7は微小領域を強調したコントラスト画像、8はコントラスト画像7を二値化するコントラスト画像二値化回路、9はコントラスト画像二値化回路8で二値化された二値化コントラスト画像、10は二値化コントラスト画像9の連結された領域毎にラベルを付与するラベル付け回路、11はラベル付け回路10で付与されたラベル情報、12はラベル付け回路10で判定された連結情報、13はラベル付けされた領域毎に特徴量を計測する領域特徴量計測回路、14は領域特徴量計測回路13で計測された領域毎特徴量、15は計測された領域毎特徴量14から目標を判定する目標判定追尾回路である。」

b「【0007】コントラスト画像二値化回路8はコントラスト画像7を二値化し、二値化コントラスト画像9を生成する。」

c「【0008】ラベル付け回路10は二値化コントラスト画像9から有意画素の連結を判定し、連結した画素の集合を領域として領域毎にラベル付けを行い、ラベル情報11、連結情報12を出力する。」

d「【0009】領域特徴量計測回路13はラベル情報11、連結情報12、およびコントラスト画像7から領域毎に重心(Xi,Yi)(i:ラベル)、最大輝度(Bi)(i:ラベル)、面積(Si)(i:ラベル)等の領域毎特徴量14を計測する。目標判定追尾回路15は“数3”に従って領域の特徴量からを評価値Ii(i:ラベル)を演算し、評価値が最も高い領域を目標と判定する。」

上記段落【0002】、【0007】、【0008】及び【0009】の記載から、引用文献2には、次の事項が記載されている。
「撮像装置と、A/D変換回路と、コントラストフィルタと、コントラスト画像二値化回路と、ラベル付け回路と、領域特徴量計測回路と、目標判定追尾回路とを有し、
コントラスト画像二値化回路8は、コントラスト画像7を二値化し、二値化コントラスト画像9を生成し、
領域特徴量計測回路13は、二値化コントラスト画像9から作成したラベル情報11、連結情報12、およびコントラスト画像7から領域毎に重心、最大輝度、面積等の領域毎特徴量14を計測する目標探知追尾装置。」

ウ 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2001-183460号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

「【0058】走査変換部4では、アドレス変換部6からの画素値と対応したXとYの値を蓄積し、図2(B)の赤外線画像61に相当する画像信号を作成する。一方、信号処理部2からの目標物体に対する座標(x1 ,y1 )より式(3)と(4)により該目標物体に相当する座標(X1 ,Y1 )を算出して該赤外線画像61に相当する画像の該座標(X1 ,Y1 )と同じ座標位置にシンボルマークを重畳して赤外線画像信号を作成する。」

エ 原査定の備考欄で周知技術を示す文献として引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2011-235021号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

a「【0020】
アナログ信号処理回路10は、入力される信号に対してサンプルホールド処理やノイズ除去などの種々の処理を行い、輝度信号Y及び色差信号Cb,Crからなる画像信号に変換し、デジタル信号に変換した後、前段信号処理回路11に送る。前段信号処理回路11では、輝度信号Y及び色差信号Cb,Crを、マトリクス回路(図示せず)によって原色信号R,G,Bに変換する。変換されたR,G,Bの各信号は、それぞれVCA(Voltage Controlled Amplifier)回路(図示せず)に送られて増幅度が制御される。また、前段信号処理回路11では、受信した画像信号に含まれる反射信号成分を除去する処理を行う。前段信号処理回路11における当該処理の詳細については後述する。R,G,Bの各信号は画像メモリ12に格納される。画像メモリ12からは1フレーム分の信号が読み出され、タイミングコントローラ15から出力される水平同期信号及び垂直同期信号が付加されて、後段信号処理回路13に送られる。タイミングコントローラ15は、駆動回路14による撮像素子6の走査タイミングを制御する。また、タイミングコントローラ15は、撮像素子6のフレームレートに同期して、アナログ信号処理回路10、前段信号処理回路11、画像メモリ12、後段信号処理回路13の各動作タイミングを制御する。」

b 図1から、ビデオプロセッサ2は、アナログ信号処理回路10、前段信号処理回路11、画像メモリ12、後段信号処理回路13及びタイミングコントローラ15を有することが見て取れる。

オ 原査定の備考欄で周知技術を示す文献として引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2001-189925号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

「【0031】A/Dコンバータ6がCCDカメラ1から入力されるアナログ方式の輝度分布情報をサンプリングしてデジタル方式の輝度分布情報に変換している状態で、当該CCDカメラ1のフレームレートに同期した最初の同期信号が入力画像バッファ7に入力されると、この入力画像バッファ7はこのデジタル方式に変換された輝度分布情報を一時的に記憶する。
【0032】2つ目の同期信号が入力されると、上述した各構成部は次の輝度分布情報に対して同様の処理を実行する。他方で、画像圧縮部8は入力画像バッファ7に記憶されている画像に対して静止画圧縮処理を行って、この圧縮された輝度分布情報は圧縮画像バッファ9に一時的に記憶される。また、検知情報切出部11は、検知位置バッファ10に記憶されている検知線30,35および補助検知線31,32,36,37の輝度分布情報における検知位置情報に基づいて、当該検知位置情報の位置の画素の輝度情報を抽出して検知位置輝度情報を出力し、色相変換部12はこの検知位置輝度情報の色相を変換し、この色相変換された検知位置輝度情報が現在切出画像バッファ13に記憶される。また、前回切出画像バッファ14は現在切出画像バッファ13に記憶されていた検知位置輝度情報を記憶する。
【0033】3つ目の同期信号が入力されると、上述した各構成部は次の輝度分布情報に対して同様の処理を実行する。他方で、線別判定部15は、現在切出画像バッファ13に記憶された現在画像の検知位置輝度情報と前回切出画像バッファ14に記憶された前回の画像の検知位置輝度情報とを各補助検知線31,32,36,37および検知線30,35毎に且つ各画素毎に比較し、各線を構成する任意の画素の輝度差が所定の値以上となったら各線毎に移動物体を検出したと判定し、この線別判定部15から出力される各線毎の判定結果が判定結果バッファ16に記憶される。
【0034】4つ目の同期信号が入力されると、上述した各構成部は次の輝度分布情報に対して同様の処理を実行する。他方で、総合判定部17は判定結果バッファ16の記憶内容に基づいてトータルの移動物体の検知判定を行い、移動物体を検知したと判断した場合には検知信号を出力し、誤検知と判断した場合には誤検知信号を出力する。」

カ 原査定の備考欄で周知技術を示す文献として引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2006-157151号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

「【0032】
同期系ブロック31は、図4に示すように、同期信号発生部311,312およびPLL回路313で構成されている。同期信号発生部311は、クロック信号TS-ck1と表示フレームレートや記録フレームレートの画像信号の生成および処理を行うための基準となる同期信号TS-mを発生させる。同期信号発生部312は、クロック信号TS-ck2と撮像フレームレートの画像信号の生成および処理を行うための基準となる同期信号TS-cを発生させる。PLL回路313は、クロック信号TS-ck1や同期信号TS-cをクロック信号-ck2や同期信号TS-mに同期させるためのものである。同期系ブロック31は、同期信号発生部311で生成したクロック信号TSckや同期信号TS-mを、メモリ制御部15およびメモリ制御部15の後段に設けられたブロック等に供給する。また、同期信号発生部312で生成したクロック信号TS-ck2や同期信号TS-cを、メモリ制御部15と駆動信号生成部32およびメモリ制御部15の前段の前段処理部13やA/D変換処理部14に供給する。」

キ 原査定の備考欄で周知技術を示す文献として引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2008-181364号公報(以下、「引用文献7」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。

「【0045】
処理部1a7は、RAM1a4に記憶されたコンピュータプログラムPGを実行することにより、以下の処理を行う。すなわち、処理部1a7は、インタフェース部1a1を介して撮像装置1bから入力された撮像画像を画像データとして、撮像装置1bのフレームレート(撮像時点の間隔、例えば、1秒間に30フレーム)と同期して、1フレーム単位(例えば、480×640画素)で画像メモリ1a3に記憶する。また、処理部1a7は後述する車両の認識処理を行い、車両の認識結果に基づいて、各車線における交通量、平均走行速度などを算出する。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「複数のカメラを所定の角度位置に位置付けて、複数のカメラが共同で、当該複数のカメラの周囲の360度視野全体を包含するビデオ・カメラ画像信号を発生することを可能にするように、支持部に結合し、赤外線データを収集するセンサ・ポッド110」の「複数のカメラ」は、本願補正発明の「互いの視野を組み合わせて全方位方向を撮像可能に配置され、集光した赤外線を検出して赤外線画像を撮像する複数の赤外線撮像器」に相当する。

イ 引用発明は「動き補償アルゴリズム」により、「プラットフォームの動きを補償」しているので、引用発明の「動き補償アルゴリズムにより、着信ビデオを処理し、方位を補正し、プラットフォームの動きを補償するための画像の安定化」を行う「画像プロセッサ150のFPGA(群)」と、本願補正発明の「前記赤外線撮像器の変位による前記赤外線画像の動きを補正する空間安定化処理を実施する空間安定化処理部」とは、「前記赤外線撮像器の変位による前記赤外線画像の動きを補正する処理を実施する処理部」である点で共通する。

ウ 引用発明の「ある種の画像特徴が検出された領域を探し求めて目標認識を実行」することは、「目標」を「検出」しているといえるので、
引用発明の「検出アルゴリズムにより、局在的コントラスト、動き等のような、ある種の画像特徴が検出された領域を探し求めて目標認識を実行」する「画像プロセッサ150のFPGA(群)」と、本願補正発明の「前記空間安定化処理部での前記空間安定化処理を経た前記赤外線画像に対し、画素ごとの輝度値の二値化処理を実施し、前記赤外線画像から目標を検出する目標検出処理部」とは、「前記赤外線画像から目標を検出する処理部」である点で共通する。

エ 引用発明は「質量中心(centroid)」を「360度パノラマ・ディスプレイ上で表」しているので、引用発明の「画像プロセッサ150のFPGA(群)」は、「目標追跡アルゴリズムにより」「質量中心(centroid)」を算出しているといえるので、
引用発明の「目標追跡アルゴリズムにより、質量中心(centroid)、相関、エッジ(edge)等を含む追跡項目を360度パノラマ・ディスプレイ上で表すことができる画像プロセッサ150のFPGA(群)」と、本願補正発明の「前記目標検出処理部での前記二値化処理により取得された二値画像を基に、前記目標の特徴量を算出する特徴量演算部」とは、本願補正発明における「目標の特徴量」が、「目標の重心位置座標、目標が占める領域の座標、面積等」を含むものであることを考慮すれば(段落【0039】)、「前記目標の特徴量を算出する処理部」である点で共通する。

オ 引用発明の「撮像システム100」は、「複数のカメラ」で「赤外線データを収集」して「ある種の画像特徴が検出された領域を探し求め」るので、本願補正発明の「赤外線目標検出装置」に相当する。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「互いの視野を組み合わせて全方位方向を撮像可能に配置され、集光した赤外線を検出して赤外線画像を撮像する複数の赤外線撮像器と、
前記赤外線撮像器の変位による前記赤外線画像の動きを補正する処理を実施し、前記赤外線画像から目標を検出し、前記目標の特徴量を算出する処理部と、を有する赤外線目標検出装置。」

(相違点1)
赤外線撮像器の変位による赤外線画像の動きを補正する処理を実施する処理部が、本願補正発明は、「空間安定化処理を実施する空間安定化処理部」であるのに対して、引用発明の「動きを補償するための画像の安定化」を行うのは「画像プロセッサ150のFPGA(群)」であり、「空間安定化処理」については特定されていない点。
(相違点2)
赤外線画像から目標を検出する処理部が、本願補正発明は、「前記空間安定化処理部での前記空間安定化処理を経た前記赤外線画像に対し、画素ごとの輝度値の二値化処理を実施し、前記赤外線画像から目標を検出する目標検出処理部」であるのに対して、引用発明の「画像特徴が検出された領域を探し求め」るのは「画像プロセッサ150のFPGA(群)」であり、「画素ごとの輝度値の二値化処理」については特定されていない点。
(相違点3)
目標の特徴量を算出する処理部が、本願補正発明は、「前記目標検出処理部での前記二値化処理により取得された二値画像を基に、前記目標の特徴量を算出する特徴量演算部」であるのに対して、引用発明は、「質量中心(centroid)」を算出するのは「画像プロセッサ150のFPGA(群)」であり、「二値化処理により取得された二値画像を基に」「目標の特徴量を算出する」ことについては特定されていない点。
(相違点4)
処理部が、本願補正発明は、「空間安定化処理部」、「目標検出処理部」及び「特徴量演算部」からなり、「前記空間安定化処理部、前記目標検出処理部および前記特徴量演算部には、前記赤外線画像のフレームレートに同期させたフレームタイミング信号が供給され、前記空間安定化処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記空間安定化処理を実施し、前記目標検出処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記二値化処理を実施し、前記特徴量演算部は、前記フレームレートに同期して前記特徴量を算出する」のに対して、引用発明は、「動き補償アルゴリズム」、「検出アルゴリズム」及び「目標追跡アルゴリズム」を実行するのは「画像プロセッサ150のFPGA(群)」であるところ、「画像プロセッサのFPGA(群)」がどのような構成であるか、具体的に示されていない点。

(3)判断
ア 上記相違点1ないし4については、技術的つながりからまとめて検討する。
引用文献2には「撮像装置と、A/D変換回路と、コントラストフィルタと、コントラスト画像二値化回路と、ラベル付け回路と、領域特徴量計測回路と、目標判定追尾回路とを有し、コントラスト画像二値化回路8は、コントラスト画像7を二値化し、二値化コントラスト画像9を生成し、領域特徴量計測回路13は、二値化コントラスト画像9から作成したラベル情報11、連結情報12、およびコントラスト画像7から領域毎に重心、最大輝度、面積等の領域毎特徴量14を計測する目標探知追尾装置。」が記載されており(上記「(1)イ」)、
「二値化回路8」は、コントラスト画像7を二値化し、二値化コントラスト画像9を生成するので、本願補正発明の「目標検出処理部」に相当し、
「領域特徴量計測回路13」は、二値化コントラスト画像9から重心、最大輝度、面積等の領域毎特徴量14を計測するので、本願補正発明の「特徴量演算部」に相当するといえる。
してみると、引用文献2には、「目標探知追尾装置」において、目標検出処理部に相当する「二値化回路8」と、特徴量演算部に相当する「領域特徴量計測回路13」を設ける技術が記載されている。
ここで、上記技術を、引用発明に適用した場合、上記相違点2及び3に係る本願補正発明の構成に対応する「目標検出処理部」及び「特徴量演算部」を、「画像プロセッサのFPGA(群)」に設けることは導き出せるが、
上記相違点1の係る本願補正発明の構成に対応する「空間安定化処理部」を設けること、また、引用発明は「画像プロセッサのFPGA(群)」で「画像データを混合」していることを鑑みると、引用発明の「画像プロセッサのFPGA(群)」を3つの処理部、すなわち「空間安定化処理部」、「目標検出処理部」及び「特徴量演算部」に対応するものに分けることまでは導き出すこことはできない。

また、ビデオプロセッサにおいて、撮像素子のフレームレートに同期して、各種処理回路及び画像メモリの各動作タイミングを制御する技術は周知技術である(上記「(1)エ」)。
しかしながら、引用発明に、上記引用文献2に記載された技術及び上記周知技術を適用しても、「複数の赤外線撮像器」を「組み合わせて全方位方向を撮像可能」とした「赤外線目標検出装置」において、
上記相違点4に係る「空間安定化処理部、目標検出処理部および特徴量演算部には、赤外線画像のフレームレートに同期させたフレームタイミング信号が供給され、前記空間安定化処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記空間安定化処理を実施し、前記目標検出処理部は、前記フレームタイミング信号の周期内において1フレーム当たりの前記二値化処理を実施し、前記特徴量演算部は、前記フレームレートに同期して前記特徴量を算出する」本願補正発明の構成を得ることは、当業者といえども容易であるということはできない。
さらに、引用文献2ないし7には、上記相違点4に係る本願補正発明の構成は記載されていない。
したがって、上記相違点4に係る本願補正発明の構成は、引用発明、引用文献2ないし7に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

そうすると、本願補正発明は、引用発明、引用文献2ないし7に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ また、本願補正発明を直接又は間接的に引用する請求項2及び3に係る発明は、本願補正発明をさらに限定した発明であるから、引用発明、引用文献2ないし7に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

よって、本願補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願補正発明は、上記「第2 2(3)ア」のとおり、引用発明、引用文献2ないし7に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、請求項2及び3に係る発明は、上記「第2 2(3)イ」のとおり、引用発明、引用文献2ないし7に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって、本願については、原査定の拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2012-3470(P2012-3470)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G01S)
P 1 8・ 572- WY (G01S)
P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三田村 陽平  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
大和田 有軌
発明の名称 赤外線目標検出装置  
代理人 高村 順  

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