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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F |
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管理番号 | 1325607 |
審判番号 | 不服2016-1300 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-01-29 |
確定日 | 2017-03-02 |
事件の表示 | 特願2012-229215「グラビア印刷用製版ロールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 81489〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成24年10月16日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成27年 5月22日付け:拒絶理由通知書(同年同月27日発送) 平成27年 7月21日提出:意見書 平成27年 7月21日提出:手続補正書 平成27年11月 4日付け:拒絶査定(同年同月6日送達) 平成28年 1月29日提出:審判請求書 平成28年 1月29日提出:手続補正書 第2 平成28年1月29日提出の手続補正書による補正(この手続補正書による補正を、以下、「本件補正」という。)の適否 1 補正の内容 本件補正は、平成27年7月21日提出の手続補正書による補正後(以下、「本件補正前」という。)の特許請求の範囲及び明細書についてするものであって、そのうち特許請求の範囲についての補正は、本件補正前の特許請求の範囲の記載が次の(1)のとおりであったものを、次の(2)のとおりに補正するものであり、特許請求の範囲についての本件補正は、(1)の請求項1?7を削除し、請求項8?14を新たな請求項1?7とし、引用関係を整理したものであるから、当該補正は、特許法第17の2第5項1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである(下線は、当合議体が付したものである。)。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 「 【請求項1】 メッキ可能な円筒状金属基材の表面にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成し、前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成し、前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成し、前記メッキ部と、前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆されてなることを特徴とするグラビア印刷用製版ロール。 【請求項2】 前記フォトレジストが塗布される円筒状金属基材が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、金、銀、白金、鉄、銅、アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成されることを特徴とする請求項1記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項3】 前記メッキ部の厚さが、前記レジストパターン部の厚さ以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項4】 前記被覆したDLC被覆膜の厚さが、0.1μm?10μmであることを特徴とする請求項1?3いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項5】 前記円筒状金属基材が、CFRP材の上に設けられていることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項6】 前記円筒状金属基材が、ゴム又はクッション性を有する樹脂からなるクッション層の上に設けられていることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項7】 前記フォトレジストが、ネガ型フォトレジストであることを特徴とする1?6いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロール。 【請求項8】 円筒状金属基材を準備する工程と、前記金属基材の表面にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成する工程と、前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成する工程と、前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成する工程と、前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程と、を含むことを特徴とするグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項9】 前記フォトレジストが塗布される円筒状金属基材が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、金、銀、白金、鉄、銅、アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成されることを特徴とする請求項8記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項10】 前記メッキ部の厚さが、前記レジストパターン部の厚さ以下であることを特徴とする請求項8又は9記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項11】 前記被覆したDLC被覆膜の厚さが、0.1μm?10μmであることを特徴とする請求項8?10いずれか1項項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項12】 前記円筒状金属基材が、CFRP材の上に設けられていることを特徴とする請求項8?11いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項13】 前記円筒状金属基材が、ゴム又はクッション性を有する樹脂からなるクッション層の上に設けられていることを特徴とする請求項8?11いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項14】 前記フォトレジストが、ネガ型フォトレジストであることを特徴とする8?13いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 「 【請求項1】 円筒状金属基材を準備する工程と、前記金属基材の表面にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成する工程と、前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成する工程と、前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成する工程と、前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程と、を含むことを特徴とするグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項2】 前記フォトレジストが塗布される円筒状金属基材が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、金、銀、白金、鉄、銅、アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成されることを特徴とする請求項1記載のグラビア印刷用製版ロールの製造 方法。 【請求項3】 前記メッキ部の厚さが、前記レジストパターン部の厚さ以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項4】 前記被覆したDLC被覆膜の厚さが、0.1μm?10μmであることを特徴とする請求項1?3いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項5】 前記円筒状金属基材が、CFRP材の上に設けられていることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 【請求項6】 前記円筒状金属基材が、ゴム又はクッション性を有する樹脂からなるクッション層の上に設けられていることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷用製版 ロールの製造方法。 【請求項7】 前記フォトレジストが、ネガ型フォトレジストであることを特徴とする1?6いずれか1項記載のグラビア印刷用製版ロールの製造方法。 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、概略、「この出願の請求項1?3,5?14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特開昭50-13101号公報 引用文献2.特開2010-105217号公報 引用文献3.特開2009-93170号公報 引用文献4.国際公開第2007/132734号 引用文献5.米国特許第6048446号明細書 引用文献6.特開平4-282296号公報 」である。 第4 本件発明 本件補正によって補正された本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のものである。 「円筒状金属基材を準備する工程と、前記金属基材の表面にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成する工程と、前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成する工程と、前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成する工程と、前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程と、を含むことを特徴とするグラビア印刷用製版ロールの製造方法。」 第5 引用例及びその記載事項 本件出願の出願前に外国において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用された刊行物である、米国特許第6048446号明細書(公開日:2000年4月11日、発明の名称「METHODS AND APPARATUSES FOR ENGRAVING GRAVURE CYLINDERS」、以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付したものである。)。 ア 第1欄11行?第1欄17行 「FIELD OF THE INVENTION The present invention is related to engraving gravure cylinders, more specifically, the present invention uses a novel combination of imaging and plating to create the desired patterns of text and/or images on gravure cylinders for use in gravure cylinder printing. 」 (日本語訳) 「発明の属する技術分野 本発明はグラビアシリンダーを彫刻することに関係しており、より具体的には、本発明は、グラビアシリンダー印刷で使うグラビアシリンダーに望ましいパターンのテキスト及び/又は画像を創造するための、イメージングとめっきの新規な組み合わせを使用する。」 イ 第2欄第1行-第2欄第60行 「SUMMARY OF THE INVENTION The present invention overcomes the described limitations of mechanically engraved gravure cylinders by employing methods and apparatuses for engraving gravure cylinders much more rapidly and at a higher resolution while, at the same time, reducing the engraving cost. The embodiments described herein employ a resist that is deposited onto the surface of a gravure cylinder. The resist is capable of being physically and/or chemically changed in response to being exposed to a form of actinic energy, such as a laser beam. The exposed areas of resist allow a material, such as chromium, to be plated onto the surface of the gravure cylinder to form walls that define cells therebetween. In use, the cells contain ink for printing the desired patterns of text and/or images. ・・・ Another embodiment of the present invention uses an electroform plate-up apparatus and method. In this embodiment, the gravure cylinder substrate is coated with a thick layer of thermally-sensitive, electrically-insulating, resist. The thickness of the resist is sufficient to remain in contact with the chromium walls as they are plated up from the gravure cylinder. In one embodiment, a conical laser beam is used to create substantially trapezoidal-shaped areas in the resist coating. As in the previously recited method, the resist layer is exposed to a laser which forms the patterns in the resist corresponding to the text and/or images ultimately desired. The exposed portions of the resist are removed, revealing the outer nickel surface of the gravure cylinder. The cylinder is then placed into the electroplating bath. An electrical current is passed between an electrode containing chromium and the gravure cylinder, causing the chromium to be plated onto the exposed portions of the gravure cylinder. The chromium plated onto the gravure cylinder is plated up to the desired thickness to form the chromium walls. The remaining resist is then removed to expose the desired pattern of cells.」 (日本語訳) 「本発明は、上述された機械的に彫刻されたグラビアシリンダーの制限を、更に速く、そしてより高解像度であり、そして同時に彫刻費用を下げることができるグラビアシリンダー彫刻の方法と装置を用いることにより克服する。ここに記載の実施形態は、グラビアシリンダーの表面に置かれたレジストを使用する。そのレジストはレーザービームのような化学作用のエネルギー形状に露光させることで反応して、物理的及び/又は化学的に変化させることが可能である。レジストの露光された範囲は、クロムのような材料がグラビアシリンダーの表面上にめっきされ、それらの間のセルを明確にする壁を形成する。使用において、セルは所望のパターンのテキスト及び/又は画像を印刷するインクを含む。 ・・・ 本発明の他の実施形態では電鋳めっき装置と方法を使う。この実施形態では、感熱性を持ち電気絶縁性を持つレジストの厚い層でグラビアシリンダー基板が上塗りされている。レジストの厚さは、クロム壁がグラビアシリンダーからめっきされている時に、クロム壁と接触が保たれる十分な厚みである。1つの実施形態では、コニカルレーザー光線がレジストコーティング中に実質的に台形形状の領域を作るために使用される。前に詳しく説明された方法のように、レジストの層は、最終的に求められるテキスト及び/又は画像に対応するレジスト中のパターンを形成するレーザに露光される。露光された部分のレジストの一部は除去され、グラビアシリンダーの外側のニッケル表面が現れる。そしてシリンダーは電気めっき浴に置かれる。電流はクロムを含む電極とグラビアシリンダーの間を通り、クロムがグラビアシリンダーの露出された部分上にめっきされることを引き起こす。グラビアシリンダー上にめっきされたクロムは、クロム壁を形成するために所望の厚さまでめっきされる。残ったレジストは、セルの望ましいパターンを露出させるために除去される。」 ウ 第3欄第55行?第4欄第10行 「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS Other objects and advantages of the invention will become apparent upon reading the following detailed description in conjunction with the drawings. ・・・ FIG. 3 is a two-dimensional side view of a portion of a gravure cylinder showing the patterned resist having some areas of the resist removed in accordance with the electroform plate-up method and apparatus. FIG. 4 is a two-dimensional side view of a portion of the gravure cylinder of FIG. 3 showing the chromium plated-up to the top of the resist prior to removal of the resist. FIG. 5 is a two-dimensional side view of a portion of the gravure cylinder of FIG. 3 showing the chromium walls subsequent to the removal of the resist. 」 (日本語訳) 「図面の簡単な説明 本発明の他の目的や利点は、図面と共に以下の詳細な説明を読むことで、明らかになる。 ・・・ 図3は、電鋳めっき方法と装置に従って除去されたレジストのいくつかの領域を備えたパターン化されたレジストを示すグラビアシリンダーの一部分の二次元側面図である。 図4は、レジスト除去前のレジストのトップまでめっきされたクロムを示す図3のグラビアシリンダーの一部分の二次元側面図である。 図5は、レジスト除去期のクロム壁を示す図3のグラビアシリンダーの一部分の二次元側面図である。」 エ 第5欄第43行?第6欄第24行 「Referring now to FIGS. 3, 4 and 5, the electroform plate-up apparatus and method are described. More specifically, FIG. 3 illustrates a portion of a partially patterned or developed gravure cylinder 30. Only a portion of the outer surface 12 of a gravure cylinder 30 is shown. In one embodiment, the portion of the outer surface 12 of the gravure cylinder 30 is made of nickel, although other materials such as copper can be used. The surface of the gravure cylinder 30 is coated with a thick layer of thermally-sensitive, electrically-insulating resist 34. The resist 34 is coated to a thickness greater than or equal to the desired height of the chromium walls to be formed. Of course, one will recognize that even thicker layers of resist will achieve essentially the same effect of constraining the shape of plated chromium. The resist 34 is patterned (imaged) at high resolution, for example, 2540 dpi with, for example, the beam of a laser, such as the 830 nm conical infrared laser (thermal laser), described above. This is accomplished by exposing predetermined areas of the resist 34 to, for example, the beam of a laser. A defocused (conical) laser beam will produce exposed areas 36, each having a substantially trapezoidal-shaped profile, as illustrated in FIG. 3. FIG. 3 shows the exposed areas of the resist 36 as being removed while the unexposed areas of the resist 34 remain attached to the outer surface 12 of the gravure cylinder 30. Referring now to FIG. 4, the gravure cylinder 30, as shown in FIG. 3, is placed into an electroplating chromium bath, such as the one described above. In the electroplating bath, an electrical current is passed between an electrode containing chromium and the uncovered electrically conductive areas 42 of the gravure cylinder 40 corresponding to the exposed areas 36 of the resist 34 in FIG. 3, to form chromium walls 44. By accurately controlling the amount and duration of the electrical current passed through the chromium containing electrode, the amount of chromium plated onto the gravure cylinder 12 may be precisely controlled. The constraints imposed by the thick resist produces the substantially trapezoidal-shaped chromium walls 44 shown in FIG. 4. Chromium is plated-up using the resist as a guide to form a wide stable base. Depending on the particular printing application desired, the possibility of a possible physical weakness between the chromium base portion 42 of the chromium walls 44 and the nickel substrate 12 of the gravure cylinder 40 is reduced by the electroform plate-up method. The remaining resist is chemically, mechanically or otherwise removed to form the open cells 52, as illustrated in FIG. 5. FIG. 5 shows the finished gravure cylinder 50 produced according to the electroform plate-up method of the present invention.」 (日本語訳) 「次に、図3,4と5について言及すると、電鋳めっき装置と方法が説明されている。さらに具体的に、図3は、部分的にパターン化、もしくは現像されたグラビアシリンダー30の一部分を示す。グラビアシリンダー30の外側表面12の一部分のみが示されている。一つの具体例では、グラビアシリンダー30の外側表面12の部分はニッケル製であるが、他の銅などの材料も使うことができる。グラビアシリンダー30の表面は、熱反応性の、電気絶縁性のレジスト34の厚い層で上塗りされている。レジスト34は形成されるクロム壁の要求された高さと同等もしくはそれよりも厚く上塗りされている。もちろん、より厚いレジストの層であっても、本質的に同じメッキクロムの形状の強制効果を成し遂げるであろうことが分かる。レジスト34は、例えば、上記に説明された、830nmのコニカル赤外レーザー(熱レーザー)のような、レーザービームで、高解像度、例えば2540dpiで、パターン化(画像化)されている。これは、レジスト34のあらかじめ決められた範囲を、例えば、レーザービームにて露光することで成し遂げられる。図3に示されているように、デフォーカス(コニカル)レーザービームは、それぞれ実質的に台形形状のプロファイルを持っている露光領域を作る。図3は、レジスト36の露光された領域が除去され、同時に、レジスト34の未露光の領域がグラビアシリンダー30の外側表面に付着したままである状態を示す。 次に、図4を言及すると、図3に示されているように、グラビアシリンダー30は、前述のような電気めっきクロム浴に入れられる。電気めっき浴中、電流は、クロム壁44を形成するために、クロムを含む電極と図3のレジスト34の露光領域36に対応するグラビアシリンダー40の覆われていない導電性の領域42との間を流れる。クロム含有電極を通じて流れる電流の量及び時間を正確に制御することで、グラビアシリンダー12上にめっきされるクロムの量が精密にコントロールされる。厚膜レジストにより加えられた制限が、図4に示されているように、実質的に台形状のクロム壁44を形成する。クロムは、レジストをガイドとして使ってめっきされ、広く安定した底部を形成する。希望する特定の印刷応用に応じて、電鋳めっき法を用いて、クロム壁44のクロム底部42とグラビアシリンダー40のニッケル基板12間の起こりえる物理的な弱さの可能性を減らす。図5に示されているように、化学的、機械的、又は別の方法で残りのレジストを除去して開いたセル52を形成する。図5は、本発明の電鋳めっき法に従って製造された、完成したグラビアシリンダー50を示す。」 オ 第7欄第34行-第7欄第44行 「Materials other than chromium and/or nickel may be used to form the outer surface and/or the walls. Additionally, more than one material may be used to form the walls. For example, the walls may be comprised of chromium, chromium-nickel and/or nickel. Alternatively, a nickel or copper wall may be finished (coated) with, for example, a chromium or chromium-alloy layer to provide a hard and durable surface. Also, alternative methods to plating may be used to deposit and remove the layers of material, including vacuum deposition, CVSD, plasma etching and grinding.」 (日本語訳) 「クロム及び/又はニッケル以外の物質を使用して、外側の表面及び/又は壁を形成することができる。また、複数の物質を使用して壁を形成することもできる。例えば、壁をクロム、クロム-ニッケル及び/又はニッケルで構成することができる。或いは、ニッケル又は銅の壁は、硬く、耐久性のある表面を提供するために、例えばクロムやクロム合金層で仕上げ(上塗り)される。また、物質の層を堆積及び除去するために、めっきの代替手法を使用することができ、これには真空蒸着、CVSD、プラズマエッチング及び研磨が含まれる。」 カ 「FIG.3 」 キ 「FIG.4 」 ク 「FIG.5 」 第6 引用発明 上記記載事項(特に、ア、エ及びカ?クのFIG.3?5)からみて、引用例1には、電鋳めっき法に従ってグラビアシリンダー印刷で使うグラビアシリンダーを製造する方法として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「グラビアシリンダーの外側表面の部分はニッケル製であり、 グラビアシリンダーの表面は、熱反応性の、電気絶縁性のレジストの厚い層で上塗りされ、 レジストは、レジストのあらかじめ決められた範囲を、赤外レーザー(熱レーザー)ビームにて露光することで、パターン化(画像化)され、 レジストの露光された領域が除去され、同時に、レジストの未露光の領域がグラビアシリンダーの外側表面に付着したままであり、 グラビアシリンダーは、電気めっきクロム浴に入れられ、 グラビアシリンダー上にクロムがめっきされ、台形状のクロム壁を形成し、 残りのレジストを除去して開いたセルを形成する、 電鋳めっき法に従ってグラビアシリンダー印刷で使うグラビアシリンダーを製造する方法。」が記載されている。 第7 対比・判断 1 本件発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。 (1)「シリンダー」は「円筒」を意味するから、引用発明の「グラビアシリンダー」は、円筒形状を有する。 引用発明の「グラビアシリンダー」は「ニッケル製」であるから、引用発明の「グラビアシリンダー」は金属からなるものである。 また、引用発明の「グラビアシリンダー」は、機能的にみて、「基材」ということができる。 そうすると、引用発明の「グラビアシリンダー」は、円筒形状を有し、金属からなる基材であるから、本件発明の「円筒状金属基材」に相当する。 また、引用発明においては、まず「グラビアシリンダー」を準備することが必要なことは自明のことであるから、引用発明は、本件発明の「円筒状金属基材を準備する工程」を備えている。 (2)引用発明の「熱反応性の、電気絶縁性のレジスト」は、「レジストのあらかじめ決められた範囲を、赤外レーザー(熱レーザー)ビームにて露光することで、パターン化(画像化)され、レジストの露光された領域が除去され、同時に、レジストの未露光の領域がグラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」となるものである。 そうすると、引用発明の「熱反応性の、電気絶縁性のレジスト」は、赤外線レーザー(熱レーザー)ビームにより露光された部分が熱反応により変化し、レジストの加熱部分と非加熱部分とに現像液による溶解度に差が生じ、現像時にレジストの露光領域が除去され、レジスト未露光の領域が残され、レジストがパターン化(画像化)されるものであることが把握でき、技術的には、「サーマルレジスト」であることが分かる。 本件出願の願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明(段落【0041】,【0045】)によれば、実施例1,2において、塗布・乾燥、レーザー露光・現像され、所定のパターンが形成される「感光膜」として、「サーマルレジスト:TSER-NS(シンク・ラボラトリー製)」を用いていることから、本件発明における「フォトレジスト」には、「サーマルレジスト」が含まれることが分かる。 してみると、引用発明の「熱反応性の、電気絶縁性のレジスト」は、本件発明の「フォトレジスト」に相当する。 (3)引用発明において、「グラビアシリンダーの表面は、熱反応性の、電気絶縁性のレジストの厚い層で上塗りされ」る。 そうすると、上記(1)と(2)より、引用発明の「グラビアシリンダーの表面は、熱反応性の、電気絶縁性のレジストの厚い層で上塗りされ」の構成は、本件発明の「前記金属基材の表面にフォトレジストを塗布し」の構成に相当する。 (4)引用発明において、「レジストは、レジストのあらかじめ決められた範囲を、赤外レーザー(熱レーザー)ビームにて露光することで、パターン化(画像化)され、レジストの露光された領域が除去され、同時に、レジストの未露光の領域がグラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」となる。 ア 上記より、引用発明においては、「レジスト」を、「赤外レーザー(熱レーザー)ビームにて」「露光」していることが把握される。 イ また、上記の「レジスト」が「パターン化(画像化)され」、「レジストの露光された領域が除去され、同時に、レジストの未露光の領域がグラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」とすることは、技術的には、「レジスト」を「現像」しているといえる。 ウ 引用発明においては、「レジスト」が「パターン化(画像化)され」、「レジストの露光された領域が除去され、同時に、レジストの未露光の領域がグラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」となることから、「グラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」の「レジストの未露光の領域」には、「レジスト」の「パターン」が作製されていることが把握できる。 さらに、「レジスト」は、「グラビアシリンダーの表面」に「上塗りされ」たものであるから、「除去され」た「レジストの露光された領域」は、「グラビアシリンダーの表面」が露出した領域となることが把握できる(図3からも、除去されたレジストの露光された領域において、グラビアシリンダー12の表面が露出していることが把握できる。)。 エ 上記(2)と上記ウとからみて、引用発明の「グラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」の「レジストの未露光の領域」は、本件発明における「レジストパターン部」に相当する。 オ 上記(2)と上記ウ,エとからみて、引用発明における、「レジストの未露光の領域」以外の、「除去され」た「レジストの露光された領域」は、本件発明の「非レジストパターン部」に相当する。 カ 上記ア?オ及び上記(1)からみて、引用発明は、本件発明の「前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成する工程」を備えている。 (5)引用発明において、「グラビアシリンダーは、電気めっきクロム浴に入れられ、グラビアシリンダー上にクロムがめっきされ、台形状のクロム壁を形成」されている。 ア 引用発明の「クロム」は、本件発明の「メッキ可能な金属」に相当する。 イ 引用発明の「台形状のクロム壁」は、本件発明の「メッキ部」に相当する。 ウ 引用発明においては、「グラビアシリンダー上にクロムがめっきされ」るところ、クロムがめっきされるのは、グラビアシリンダーが露出した部分であるから、上記(4)オから、「前記非レジストパターン部」である。 エ 上記(5)ア?ウから、引用発明の「グラビアシリンダー上にクロムがめっきされ、台形状のクロム壁を形成」することは、本件発明の「前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成する工程」に相当する。 (6)引用発明は、「残りのレジストを除去して開いたセルを形成する」。 ア 引用発明の「開いたセル」は、本件発明の「凹部」に相当する。 イ 引用発明の「残りのレジスト」は、「グラビアシリンダーの外側表面に付着したまま」の「レジストの未露光の領域」であり、上記(4)オから、本件発明の「レジストパターン部」に相当する。 ウ 上記(6)ア?イから、引用発明の「残りのレジストを除去して開いたセルを形成する」ことは、本件発明の「前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成する工程」に相当する。 (7)上記(1)?(6)から、引用発明の「グラビアシリンダー印刷で使うグラビアシリンダー」は、本件発明の「グラビア印刷用製版ロール」に相当し、引用発明の「電鋳めっき法に従ってグラビアシリンダー印刷で使うグラビアシリンダーを製造する方法」は、本件発明の「グラビア印刷用製版ロールの製造方法」に相当する。 2 一致点・相違点 上記1(1)?(7)から、本件発明と引用発明とは、 「円筒状金属基材を準備する工程と、前記金属基材の表面にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンが作製されたレジストパターン部と前記金属基材が露出した非レジストパターン部とを前記金属基材の表面に形成する工程と、前記非レジストパターン部にメッキ可能な金属をメッキせしめてメッキ部を形成する工程と、前記レジストパターン部を除去せしめて凹部を形成する工程と、を含むことを特徴とするグラビア印刷用製版ロールの製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点) 本件発明は、「前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程」を含むのに対して、 引用発明は、「前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程」を含んでいない点。 3 判断 上記相違点について検討する。 (1)上記「第5オ」によれば、引用例1には、引用発明のグラビア印刷用製版ロールの製造方法において、(a)クロム及び/又はニッケル以外の物質を使用して、外側の表面及び/又は壁を形成することができること、壁をニッケルや銅とした場合に、硬く、耐久性のある表面を提供するために、例えばクロムやクロム合金層で仕上げ(上塗り)することや、(b)物質の層を堆積するために、めっきの代替手法として、真空蒸着、CVSD(化学蒸気合成(CVS)・化学蒸着(CVD))等を使用できることが記載されている。 また、グラビア印刷におけるグラビア製版ロールの製造に係る技術分野において、六価クロムは毒性を有し、作業の安全性維持にコストがかかることや、メッキ液の廃液処理や、土壌・河川の汚染等公害発生の問題があるため、クロム層の使用は好ましくなく、世界的に禁止される方向にあることは、例えば、下記エ?カ(特に、下線部を参照。)のとおり、本件出願前に当業者が有している技術常識である。 そして、本件出願前に、表面にグラビアセル(凹部)を形成したグラビア印刷用製版ロールにおいて、グラビアセル(凹部)を含めて、製版ロールの表面全体をダイヤモンドライクカーボン層、二酸化珪素膜又はクロムめっき層からなる強化被覆層で被覆することは、例えば、下記ア?ウ(特に、下線部を参照。)のとおり周知技術である。 してみると、引用発明において、上記「第5オ」に記載の上記示唆(a)及び(b)や、上記六価クロムに関する当業者の技術常識に基づき、壁(メッキ部)を、クロムに変えて、ニッケル又は銅からなる構成とし、かつ、硬く、耐久性のある表面を得るために、グラビアセル(凹部)を含めて、グラビア版の表面全体を被覆する強化被覆層として上記周知のダイヤモンドライクカーボン層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層の内から、ダイヤモンドライクカーボン層を採用して、ニッケル又は銅のメッキ部からなる壁とレジストパターン部の除去された部分を被覆するようにダイヤモンドライクカーボン(DLC)で被覆する工程を備えた構成とすることは、クロムメッキ層に付随する上記の作業の安全性維持コストや廃液処理・公害発生の問題、各種の強化被覆層の採用に付随する製造・成膜工程の変更(例えば、ダイヤモンドライクカーボン層に付随する中間(下地)層形成工程の増加による成膜工程の変更)等、そのコスト及び公害発生などの考慮すべき技術的事項を総合的に勘案した上で、当業者が容易に想到し得ることである。 また、本件発明が奏する作用・効果(本件明細書の段落【0002】,【0004】,【0007】,【0028】等)については、引用発明も、セルの形成に際し、メッキを使用していることから、引用発明も、本件発明と同様エッチングを使用しておらず、サイドエッチング・オーバーエッチングの問題が生じないという本件発明の作用・効果を当然に奏するものと認められ、また、毒性の高い六価クロムを用いないため、作業の安全維持のためのコスト、公害発生の点で優れているという本件発明の作用・効果についても、上記の当業者の技術常識から自明なことであるから、本件発明が奏する作用・効果は格別のものとは認められない。 <周知技術を示す引用例> ア 特開2009-93170号公報(原査定において周知技術を示すために引用された引用文献3。以下、「引用例2」という。) 「【0028】 本発明のクッション性を有するグラビア版の第1及び第2の態様は、前記グラビアセルを形成した該ネガ型感光性組成物層の表面に形成された強化被覆層をさらに含むのが好ましい。前記強化被覆層としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層を用いることができる。前記二酸化珪素被膜はペルヒドロポリシラザン溶液を用いて形成するのが好適である。」 「【0117】 ついで、図1(e)に示すように、ネガ型感光性組成物層12のセル14が形成された表面に強化被覆層18を形成する(図2のステップ106)。これによって、グラビア製版ロール(グラビア版)が完成する。 【0118】 前記強化被覆層18としてはDLC層、二酸化珪素被膜又はクロムめっき層を適用することができる。 前記DLC層はCVD法又はスパッタ法によって好適に形成される。前記DLC層の厚さは0.1?10μmを適用することができる。 また、前記クロムメッキ層は常法により形成することができる。前記クロムメッキ層の厚さは0.1?10μm程度が好適である。」 「【0155】 このグラビアセルを形成した被製版ロールのクッション層の上面にスパッタリング法によってタングステン層を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。 タングステン試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:200?300℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。 【0156】 次に、タングステン層の上面に炭化タングステン層を形成した。スパッタリング条件は次の通りである。 タングステン試料:固体タングステンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気で炭化水素ガスを徐々に増加、成膜温度:200?300℃、成膜時間:60分、成膜厚さ:0.1μm。 【0157】 さらに、炭化タングステン層の上面にスパッタリング法によってダイヤモンドライクカーボン(DLC)被膜を被覆形成した。スパッタリング条件は次の通りである。 DLC試料:固体カーボンターゲット、雰囲気:アルゴンガス雰囲気、成膜温度:200?300℃、成膜時間:150分、成膜厚さ:1μm。 このようにして、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)を完成した。」 「【0161】 (実施例10) 実施例1と同様の手順で被製版ロールのクッション層表面にグラビアセルを形成した。次に、グラビアセルが形成されたクッション層の表面に二酸化珪素被膜の形成を以下のように行った。ペルヒドロポリシラザンの20%ジブチルエーテル溶液(製品名:アクアミカ(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)の登録商標)NL120A、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)を、上記感光性組成物層の表面に対してHVLPスプレー塗布を行った。当該感光性組成物層の表面に均一に塗布された塗布膜厚は0.8μmであった。このペルヒドロポリシラザンが塗布されたシリンダーに対して過熱水蒸気を用いて二段階の加熱処理(140℃5分+170℃5分)を施して二酸化珪素被膜を形成した。この被膜はカッターナイフで傷が付かない程度の極めて高い被膜硬度を有していた。このようにして、クッション性を有するグラビアシリンダーを完成した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。 「【0162】 (実施例11) DLC膜(タングステン層及び炭化タングステン層を含めて)をスパッタリングで形成した替わりにプラズマCVD法によって0.1μmのAl層及び1μmのDLC層を形成した以外は、実施例1と同様にしてグラビアシリンダーを製造して、実施例1と同様の結果が得られることを確認した。 【0163】 (実施例12) 強化被覆層としてDLC層(タングステン層及び炭化タングステン層を含めて)の替わりに常法によってクロムメッキ層を形成した以外は実施例1と同様の手順でグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーを用いて印刷テストを行ったところ、実施例1と同様に良好な印刷性能を示した。」 イ 国際公開第2007/132734号(原査定において周知技術を示すために引用された引用文献4。以下、「引用例3」という。) 「[0002] グラビア印刷では、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。一般的なグラビア製版ロールにおいては、版母材としてのアルミニウムや鉄など金属で形成された重量のある金属製中空ロールの表面に版面形成用の銅メッキ層(版材)を設け、該銅メッキ層にエッチングによって製版情報に応じ多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビア製版ロールの耐刷力を増すためのクロムメッキによって硬質のクロム層を形成して表面強化被覆層とし、製版(版面の製作)が完了する。」 「[0012] 本発明におけるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)とは、炭素繊維強化樹脂(カーボンFRP)のことを指す。前記表面強化被覆層としては、クロムメッキ被覆層などの従来の表面強化被覆層が適用できる。また、クロムメッキ被覆層の他にも、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)被覆層やペルヒドロポリシラザンを原料として形成した二酸化珪素被覆層などが適用可能である。」 「[0043] 表面強化被覆層20としては、DLC被覆層やペルヒドロポリシラザン溶液を原料として形成した二酸化珪素被覆層などを適用することが可能であり、また、グラビア製版ロールの表面強化被覆層として従来周知のクロムメッキ被覆層を適用することもできる。クロムメッキ被覆層の形成には常用のクロムメッキ法を適用すればよい。」 「[0065] (実施例3) 表面強化被覆層として二酸化珪素被覆層の代わりに下記の手順によりCVD法によりDLC被覆層を形成した以外は実施例1と同様にして本発明のグラビア製版ロールを作製した。・・・なお、実施例1の二酸化珪素被覆層の代わりにクロムメッキ被覆層を常法により形成した以外は実施例1と同様にして本発明のグラビア製版ロールを作製し、同様の印刷テストを行ったところ実施例 1と同様の良好な印刷結果を得ることができることを確認した。」 ウ 特開平4-282296号公報(原査定において周知技術を示すために引用された引用文献6。以下、「引用例4」という。) 「【0007】画像形成の後、耐刷力を向上するため、銅層表面に硬質クロム層を形成する。クロム層は、硫酸と無水クロム酸の溶液を使用し、電鋳により形成し、十分な耐刷力を得るため、、およそ5?6μmの厚さに設ける必要がある。画像形成工程で形成された凹部をそのまま維持するため、クロム層は均一かつ正確に5?6μmの厚さに形成する必要がある。」 「【0021】本発明にかかる硬質炭素状薄膜2とは、炭素原子から構成される無定形ダイヤモンド状で、sp^(3)軌道を有するダイヤモンドと類似のC-C結合を有し、ビッカス硬度が700kg/mm^(2)以上のものをいう。炭化水素と水素の混合ガスをプラズマ活性化させ、このプラズマから製膜して得ることができる。厚さは、耐刷力を向上するため、1μm以上であることが好ましい。また画像を構成する凹部を埋めず、画像の再現性を維持するため、6μm以下であることが望ましい。」 エ 特開2007-118593号公報 「【0018】 また、グラビア印刷では、グラビア製版ロール(グラビアシリンダー)に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。一般的なグラビア製版ロールにおいては、アルミニウムや鉄などの金属製又は炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の強化樹脂製中空ロールの表面に版面形成用の銅メッキ層(版材)を設け、該銅メッキ層にエッチングによって製版情報に応じ多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビア製版ロールの耐刷力を増すためのクロムメッキによって硬質のクロム層を形成して表面強化被覆層とし、製版(版面の製作)が完了する。しかし、クロムメッキ工程においては毒性の高い六価クロムを用いているために、作業の安全維持を図るために余分なコストがかかる他、公害発生の問題もあり、クロム層に替わる表面強化被覆層の出現が待望されているのが現状である。」 オ 特開2004-202888号公報 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】 クロムメッキは六価クロムという有害な化合物になるので、グラビア製版工場における作業環境への悪影響を与える原因になっている。クロムメッキ液の廃液処理は容易でなく、回収業者に高コストで引き取ってもらっていた。クロムメッキ液の廃液処理装置の故障事故等により中水に濃厚なクロム廃液が入り込み、土壌や架線の汚染等の惧れがある。 【0004】 クロムメッキを行なうことは好ましくなく、世界的に禁止される方向にあり、従って、グラビア製版ラインからクロムメッキ工程、リーユースロールのクロム剥離もしくはクロムメッキを含む落版工程を排除したい。」 カ 特開2010-137540号公報 「【0006】 さて、印刷用ロールのうち、最も一般的なグラビア製版ロールの場合、アルミニウム合金や鋼鉄製の中空ロールの表面に対して、版面形成用の銅めっき層を設けた後、さらにその表面に硬質クロムめっきを施すことにより、エッチングされた銅めっき層の印刷力を向上させている。但し、硬質クロムは通常、6価クロムを含むめっき浴を使用することから、作業の安全性とともに、環境汚染源となることが指摘されており、好ましいものではない。 【0007】 この対策として従来、特許文献1?4では、基本上の画像形成面(印刷パターン溝)であるエッチングされた銅めっき層の表面に対して、クロムめっきを施工するのに代えて、ダイモンドカーボン膜(以下、「DLC膜」という)を被覆する方法が提案されている。また、特許文献5?7では、中空ロールの表面にゴムや樹脂層を形成した後、これを印版としてその面に彫刻を施し、その上にDLC膜を形成したり、また、特許文献8では、エッチングされた銅めっき層へのDLC膜の密着性を向上させるため、銅めっき層の表面にW、Si、Ti、Crなどの金属とその炭化物などをスッパタリング法によって、1μm未満の層を形成した後、DLC膜を被覆する技術などの提案がある。」 (2) 請求人の主張について ア 審判請求書において、請求人は、進歩性に関し、「(2-1-8)」「(ii)」において、「上記した引用文献3(ネガ型感光性組成物層12のセル14を強化するために強化被覆層(DLC層、二酸化珪素被膜、クロムめっき層)で被覆するもの)、引用文献4(グラビアセル18を形成した銅メッキ層の表面を強化するために強化被覆層(DLC層、二酸化珪素被膜、クロムめっき層)で被覆するもの)及び引用文献6(シリンダー状金属基体11表面に画像形成用金属層、例えば銅層、を形成し、その上に画像(グラビアセル)をエッチング法等によって形成し、さらに強化被覆層(硬質炭素状薄膜2、即ちDLC層)を形成するもの)の記載内容からは、DLC層を利用したグラビア版における一般的な強化被覆層の形成はあるいは周知技術と言えるかもしれませんが、本願請求項1記載の発明の構成要素(E)「前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程」においてはその被覆対象が引用文献3、4及び6の被覆対象とは全く別異であり、被覆目的も明らかに区別可能であって、構成要素(E)の創出には発明的行為があったものといえるもので、想到容易であるとは言えないものと思料します。」、「しかしながら、構成要素(E)を採用することによって従来にない本願発明特有の効果が達成されている以上、構成要素(E)自体が想到容易とは言えないし、また構成要素(E)を必須の構成要素とした本願請求項1記載の発明が特許性(進歩性)を有することは明らかであると思料します。」、「上記した議論から明らかなように、本願請求項1記載の発明の構成要素(E)「前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程」は想到容易とは言えず、また引用文献1?6をどのように組み合わせてみても構成要素(E)はどの文献にも記載されておりませんので、当業者といえども引用文献1?6の記載から本願請求項1記載の発明を想到することは容易にはなしえないものと思料します。」旨主張している。 しかしながら、「第7 3(1)」において上述したように、引用例1には、引用発明のグラビア印刷用製版ロールの製造方法において、クロム及び/又はニッケル以外の物質を使用して、外側の表面及び/又は壁を形成することができること、壁をニッケル又は銅とした場合に、硬く、耐久性のある表面を提供するために、物質を上塗り・堆積することが示唆されているのであり、引用例1に記載の上記示唆や上記六価クロムに関する当業者の技術常識に基づき、引用発明において、壁(メッキ部)を、ニッケル又は銅からなる構成とし、かつ、硬く、耐久性のある表面を提供するために、強化被覆層として周知のものの中から、ダイヤモンドライクカーボンを選択して、「前記メッキ部と前記レジストパターン部の除去された部分を被覆するようにDLCで被覆する工程」を備えた構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることであり、また、「従来にない本願発明特有の効果」も、上述のとおり格別なものではない。 イ また、請求人は、「2-1-9」の「(iv-ii)」において、 「上述したように、引用文献3は3種の強化被覆層を教示しているもので、本願発明においてはDLC層を被覆層として採用することにより、引用文献1(昭和48年(1973年)出願、昭和50年(1975年)公開)及び引用文献5(1998年出願、2000年特許)に開示された構成では、メッキ層部分が強度に欠けるために実用化が困難であったところ、本願発明によって初めて実現されたように、DLC層によってメッキ層とレジストパターンの除去された部分を被覆することによってその実用化が可能となったもので、このような著大な効果が達成されたことを考慮すれば、引用文献3に開示された3種の強化被覆層のうちの一つであるDLC層を選択し限定すること自体が十分発明に値するものであると思料します。また本願発明の出願日(2012年)からみて、引用文献1の出願日から39年経過しかつ公開日から37年経過し、引用文献5の出願日から14年経過しかつ特許日から12年経過していることを考慮すると、引用文献1や引用文献5の技術が考案されたにしてもその改良実用化については長期間進展がなく放置されていたもので、本願発明におけるようなDLC層の適用が行われることによって初めてその実用化が図られたものであってこの点からも本願発明は十分なる進歩性を備えているものと思料します。 また上述したように、引用文献4は3種の強化被覆層を教示しているもので、本願発明においてはDLC層を被覆層として採用することにより、引用文献1(昭和48年(1973年)出願、昭和50年(1975年)公開)及び引用文献5(1998年出願、2000年特許)に開示された構成では、メッキ層部分が強度に欠けるために実用化が困難であったところ、本願発明によって初めて実現されたように、DLC層によってメッキ層とレジストパターンの除去された部分を被覆することによってその実用化が可能となったもので、このような著大な効果が達成されたことを考慮すれば、引用文献4に開示された3種の強化被覆層のうちの一つであるDLC層を選択し限定すること自体が発明十分発明に値するものであると思料します。また本願発明の出願日(2012年)からみて、引用文献1の出願日から39年経過しかつ公開日から37年経過し、引用文献5の出願日から14年経過しかつ特許日から12年経過していることを考慮すると、引用文献1や引用文献5の技術が考案されたにしてもその改良実用化については長期間進展がなく放置されていたもので、本願発明におけるようなDLC層の適用が行われることによって初めてその実用化が図られたものであってこの点からも本願発明は十分なる進歩性を備えているものと思料します。 なお、出願人は、審査基準における「審査官は、商業的成功、長い間その実現が望まれていたこと等の事情を、進歩性が肯定される方向に働く事情があることを推認するに役立つ二次的な指標として参酌することができる。(以下省略)」という記述を基として、本願発明が長い間その実現が望まれていた技術でありかつ製品として好評をえていることから、原審審査官が主たる引用文献として挙げた引用文献1及び5の技術の完成から長期間が経過している点を主張したものであります。」旨主張している。 しかしながら、「第7 3(1)」において上述したように、引用例1には、壁(メッキ部)に対して、硬く、耐久性のある表面とするために、物質の層を上塗り・堆積するということが既に開示され、六価クロムの使用に伴う安全性維持コスト、公害対策等の問題点も当業者にとって技術常識であり、本件発明の構成とすることが、当業者であれば容易になし得ると認められることから、仮に、請求人が主張する「本願発明が長い間その実現が望まれていた技術でありかつ製品として好評をえている」という事情が参酌できたとしても、進歩性が肯定されるものではない。 ウ 上記ア及びイより、請求人の主張を採用することができない。 (3) まとめ したがって、本件発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2?4に例として記載された周知技術に基づいて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-28 |
結審通知日 | 2017-01-05 |
審決日 | 2017-01-19 |
出願番号 | 特願2012-229215(P2012-229215) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石附 直弥 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
河原 正 鉄 豊郎 |
発明の名称 | グラビア印刷用製版ロールの製造方法 |
代理人 | 石原 進介 |
代理人 | 石原 詔二 |