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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1325609
審判番号 不服2016-2609  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-22 
確定日 2017-03-02 
事件の表示 特願2011-109818「固体触媒の充填状況の確認方法および固体触媒の充填方法と抜き取り方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月10日出願公開、特開2012-239943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年5月16日の出願であって、平成27年4月16日付けで拒絶理由が通知され、同年6月18日付けで意見書が提出され、同年11月19日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年2月22日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年2月22日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年2月22日に特許請求の範囲についてなされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.補正の内容

本件補正により、特許請求の範囲の請求項3について、本件補正前は「ア」であったものを、本件補正後は以下の「イ」とする補正を含むものであり、以下の補正事項1、及び、補正事項2よりなるものである(下線部は補正箇所である。)。

ア 本件補正前

「【請求項3】
固定床多管式反応器を構成する複数本の反応管から、固体触媒を抜き取る方法であって、
前記反応管から固体触媒を抜き取る作業を行った後、
前記反応管の一方の端部側に配置された照明により、前記一方の端部の照度を50ルクス以上に維持しながら、他方の端部側から前記反応管内を視認し、前記反応管内の固体触媒の抜き取り状況を確認する、固体触媒の抜き取り方法。」

イ 本件補正後

「【請求項3】
固定床多管式反応器を構成する複数本の反応管から、固体触媒を抜き取る方法であって、
前記反応管の長さは6mであり、
前記反応管から固体触媒を抜き取る作業を行った後、
前記反応管の一方の端部側に配置された照明により、前記一方の端部の照度を50ルクス以上、200ルクス以下に維持しながら、他方の端部側から前記反応管内を視認し、前記反応管内の固体触媒の抜き取り状況を確認する、固体触媒の抜き取り方法。」

<補正事項1>
本件補正前の請求項3の「反応管」に関し、「前記反応管の長さは6mであり、」と追加する補正。

<補正事項2>
本件補正前の請求項3の「一方の端部の照度を50ルクス以上に維持」との記載を、「一方の端部の照度を50ルクス以上、200ルクス以下に維持」とする補正。

2.補正の適否

補正事項2は、照度の下限に加えて上限を特定するものであるから、請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものであるといえ、この補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としている。
しかしながら、補正事項1については、反応管の長さを限定するものであるが、補正前の請求項3に係る発明には、「反応管の長さ」に関する事項が規定されていないため、この補正は、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定したものではない。
したがって、補正事項1は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものではない。
また、補正事項1は、明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものとも認められないし、誤記の訂正又は請求項の削除を目的とするものでもないことは明らかである。
よって、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、仮に補正事項1が特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであると仮定して、本件補正後の請求項3に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)の独立特許要件について以下検討する。

3.独立特許要件について

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記1.イに記載されたとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である国際公開第2011/051102号(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、原文は英語であるので当審にて翻訳した訳文を記載する。また、下線は当審にて付与したものである。以下同様である。

(a)「A process for the production of phthalic anhydride comprising contacting a gaseous mixture of ortho-xylene or naphthalene and an oxygen-containing gas with an oxidation catalyst comprised in vertical tubes of a tubular reactor, the process comprising after using the catalyst taking the tubular reactor out of production service, removing the used catalyst and loading more active catalyst into the reactor tubes, whereby used catalyst is removed from the reactor tubes by vacuum hosing through a vacuum hose or tube that is introduced into the reactor tube from the top and characterised in that the tip of the vacuum hose or tube comprises a material that has (i) a notched Izod impact strength, according to ASTM D256, of at least 55 J/m, or a U-notched Charpy impact strength at 23°C, according to ISO 179, of more than 5 kJ/m^(2), and (ii) a Shore D hardness, according to ISO 868, of at most 90.」(CLAIM 1)
<訳文>
「o-キシレン又はナフタレンと酸素含有ガスとのガス混合物を垂直な複数本の反応管に装填された酸化触媒と接触させることを含む無水フタル酸の製造方法であって、触媒の使用後、反応管を生産サービスから外し、使用済み触媒を取り除いて、より活性な触媒を反応管に充填する際において、先端部分が(i)ASTMD256におけるノッチ付きアイゾット衝撃強度が少なくとも55J/m、あるいは、ISO179における23℃のUノッチシャルピー衝撃強さが5kJ/m^(2)以上、かつ、(ii)ISO868におけるショアD硬度が90以下である材料からなる真空ホースまたはチューブを反応管内へ頂部から導入し、真空ホースまたはチューブを介して、使用済み触媒を反応管から取り除くことを特徴とする方法。 」

(b)「The process according to any preceding claim further comprising, after removing the used catalyst from a reactor tube, cleaning the inside of the reactor tube by mechanical action from one end of the reactor tube to remove any remaining catalyst or other solid material.」(CLAIM 7)
<訳文>「反応管から使用済み触媒を取り除いた後、反応管の内部にある残存触媒または他の固体材料を取り除くために、反応管の一端から機械的手段によって反応管の内部を洗浄することをさらに含む、先行するいずれかの請求項に記載の方法。」

(c)「The process according to any preceding claim further comprising a visual inspection of the reactor tube to verify for presence of remaining catalyst or other solid material or a pla.」(CLAIM 10)
<訳文>
「残存触媒、他の固体材料、または、詰まりの存在を確認するために、反応管を視覚的に検査することをさらに含む、先行するいずれかの請求項に記載の方法。」

(d)「The oxidation reaction is highly exothermic. The process typically operates with reaction mixtures of the vaporised organic material in air, at temperatures higher than 300°C, and the mixtures have compositions that are typically inside the explosive range, and this generally all through from reactor feed to effluent. The reaction conditions need to be controlled very tightly in order to minimize the occurrence of local excessive exotherms, which can cause the reaction mixture to detonate. The reaction is most commonly performed in a tubular reactor, i.e. a reactor designed as a tube-and-shell heat exchanger, with the catalyst located as a fixed bed of particles inside the tubes, and a molten salt bath circulating on the shell side for removal of the reaction heat. The reactor tubes typically have a length of at least 3 meters, and a typical internal diameter of about 25.4 mm (1 inch). The reactor feed typically enters the reactor tube at the top and flows down towards the bottom.」(段落[0005])
<訳文>「酸化反応は発熱性が非常に高い。このプロセスは、典型的には、300℃より高い温度において、空気中の気化した有機材料が混合されることで反応が進む。この混合物は、典型的には、反応器への流入から流出にいたるまで、爆発し得る範囲の組成を有している。反応混合物に爆発を引き起こし得る局所的に過剰な発熱の発生を最小にするために、反応条件は非常に厳格に制御する必要がある。この反応は、例えば、複数本の反応管の内部に固定床として配置された触媒、および、反応熱を除去するためのシェル側を循環する溶融塩浴、とを備えたチューブアンドシェル型熱交換器のような、管形反応器によって実施されることが最も一般的である。反応管は、典型的には、少なくとも3メートルの長さを有し、典型的な内径は約25.4mm(1インチ)である。反応原料は、典型的には、反応管の上部から入り、反応管の底部に向かって流下する。」

(e)「Before starting the loading of the new catalyst into the reactor tubes, we usually add an inspection step to assure that all the tubes are actually and successfully empty, reducing the risk that a tube has been overlooked by any of the treatment steps described, or that a plug or other solid material has remained inside a tube. The inspection may be a visual inspection, typically using light coming in from one end of the tube, typically from the bottom, and a person inspecting the reactor tube from the other end, typically from the top. A suitable inspection method is described in WO 2006/131557, whereby one or more light sources are introduced into the reactor bottom.」(段落[0069])
<訳文>
「複数の反応管に新しい触媒の装填を開始する前に、既述のいずれかの処理ステップの際に見落とされる反応管があるという危険性、すなわち、詰まりまたは他の固体材料が反応管の内部に残っているという危険性を減少させるため、本発明者らは、通常、全ての反応管が実際にうまく空になっていることを保証する検査工程を追加する。その検査は、典型的には目視検査であって、反応管の一方の端部側、典型的には底部から入射した光を用いて、人間によって、他方の端部側、典型的には頂部から反応管を検査する。適切な検査方法は、国際公開第2006/131557号に、1つまたはそれ以上の光源が、反応器の底部に導入される旨記載されている。」

(3)引用例に記載された発明(引用発明)

上記記載事項(a)?(e)の記載(特に下線部)によれば、引用例には以下の発明が記載されているといえる。

「チューブアンドシェル型熱交換器を構成する複数本の反応管から、固定床として配置された触媒を取り除く方法であって、
前記反応管の長さは少なくとも3mであり、
前記反応管から固定床として配置された触媒を取り除く作業を行った後、
前記反応管の一方の端部側から入射した光により、他方の端部側から前記反応管内を視覚的に検査し、前記反応管内の固定床として配置された触媒の取り除き状況を確認する、固定床として配置された触媒を取り除く方法。」

(4)引用発明との対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「固定床として配置された触媒」、「取り除く」、「反応管の一方の端部側から入射した光」、「他方の端部側から前記反応管内を視覚的に検査し」、「取り除き状況」は、それぞれ、本件補正発明における「固体触媒」、「抜き取る」、「反応管の一方の端部側に配置された照明」、「他方の端部側から前記反応管内を視認し」、「抜き取り状況」に相当しているといえる。
また、本願明細書の【0002】段落に、「固体触媒存在下での接触気相反応には、固体触媒が充填された反応管を多数本備えた固定床多管式反応器が用いられることが多い。固定床多管式反応器としては、例えばシェルアンドチューブ型反応器があり、この反応器は、シェル(胴体)内に多数のチューブ(反応管)を収めた構造を有する。」と記載されていることもあり、引用発明における「チューブアンドシェル型熱交換器」は、本件補正発明における「固定床多管式反応器」に相当しているといえる。
以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「固定床多管式反応器を構成する複数本の反応管から、固体触媒を抜き取る方法であって、
前記反応管から固体触媒を抜き取る作業を行った後、
前記反応管の一方の端部側に配置された照明により、他方の端部側から前記反応管内を視認し、前記反応管内の固体触媒の抜き取り状況を確認する、固体触媒の抜き取り方法。」

【相違点】
・「反応管」の長さについて、本件補正発明は、「6m」であるのに対して、引用発明は、「少なくとも3m」である点(以下「相違点1」という。)。

・「一方の端部側に配置された照明」について、本件補正発明は、「一方の端部の照度を50ルクス以上、200ルクス以下に維持しながら」と特定しているのに対して、引用発明では当該特定がなされていない点(以下「相違点2」という。)

(5)判断

(ア)相違点1について検討する。

反応管の長さに関して、引用発明は「少なくとも3m」であり、本件補正発明の「6m」に対して、「6m」の点において一致する。
仮に、本件補正発明において「6m」という数値に特定したことを重視し、実質的に相違するとしても、化学反応プラントを設計するにあたり、被処理物やプロセスに応じて様々な長さを設定することは、当業者にとって技術常識の範囲内であって、固定床多管式反応器の具体的な反応管の長さについてみても、それを6m程度とすることは、例えば以下の刊行物A?Eに記載されているとおり周知技術である。
・刊行物A:特開2010-132584号公報(【0035】段落、前置 報告書における引用文献5)
・刊行物B:特開2009-84167号公報(【0033】段落、前置報 告書における引用文献6)
・刊行物C:特開2001-139499号公報(【0072】段落、前置 報告書における引用文献7)
・刊行物D:特開2001-129384号公報(【0052】段落、前置 報告書における引用文献8)
・刊行物E:特開2004-944号公報(下記意見書における参考 文献1)
さらに、請求人は、平成27年6月18日付の意見書第3頁において、「固定床多管式反応器の分野においては、下記参考文献1?5や、引用文献1(当審注:「引用例」と同一)に記載されていますように、反応管として、一般的に長さ6m以下の管を用います。」と主張しており、請求人自ら、反応管の長さは、6m(参考文献1)の場合も含めて一般的であると認めているといえる。
したがって、相違点1は実質的なものではないか、仮にそうでないとしても、引用発明における反応管の長さを6mに特定することは、上記技術常識、及び、上記周知技術に基づけば、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について検討する。

確かに、引用発明においては、反応管の一方の端部側に配置された照明の照度を特定していないが、反応管内の固体触媒の抜き取り状況を確認する際に、照度が低ければ、それだけ確認が行いにくくなることは技術常識であり、反応管の触媒の抜き取り状況の視認には、ある一定以上の照度が必要であることは至極当然であるといえる。また、照度が高くなれば、固体触媒の抜き取り状況の視認がそれだけ行い易くなることは当業者にとって明らかである。他方、視認に必要な照度が得られれば、それ以上の照度は必要がないことも当業者にとって明らかである。
さらにいえば、一般に、光学的な手段を用いて、製品等の対象物の欠陥等を目視により観察あるいは検査することは、様々な技術分野において、当業者が通常行い得ることである(必要であれば、以下の刊行物F?Iを参照)。
・刊行物F:特開平8-200794号公報(特許請求の範囲等には、フィルター等に用いる集塵紙の汚れ具合を集塵紙の裏面から光を当てることによって検知する方法が記載されている。)
・刊行物G:実開平6-72045号公報(実用新案登録請求の範囲等には、X線撮影フィルムに写った像などを検査する目視検査用の照明付の検査装置において、照度センサーを用いて、検査や観察に必要な照度を確保する方法が記載されている。)
・刊行物H:実開昭63-165562号公報(実用新案登録請求の範囲等には、偏平底の皿上に散布された殻粒を検視する際に、光を利用して、未成熟米を識別する方法が記載されている。)
・刊行物I:特開2009-85691号公報(特許請求の範囲等には、レンズシート等の光透過性の被検査物を検査する際に、光を照射して高精度に検査する方法が記載されている。)
したがって、引用発明において、当業者が発明を実施する上で通常行う条件の最適化によって、反応管の一方の端部に配置された照明の照度を、本件補正発明において特定される「50ルクス以上、200ルクス以下」の範囲に重複する照度とする程度のことは、当業者が適宜なし得ることであるといえる。

(ウ)請求人の主張について

請求人は、平成28年2月22日付の審判請求書において、次のとおり主張している。
「固定床多管式反応器の分野においては、平成27年6月18日提出の意見書中で示した参考文献1?5や、引用文献1に記載されていますように、反応管として、一般的に長さ6m以下の管を用います。
本願の各実施例には、長さ6mの反応管を用いた場合であっても、上記照度を50ルクス以上とすれば、確認ミスを一切起こすことなく、かつ短時間で、触媒が充填されていない反応管や、触媒が一部残存している反応管を見つけられることが示されています。
具体的には、10名の作業員により、照度を50ルクスに維持しながら固定床多管式反応器を構成する反応管内の視認作業を行った実施例3および6では、本願明細書の[表1]および[表2]に記載のとおり、確認ミスを一切起こすことなく、かつ短時間で、触媒が充填されていない反応管や、触媒が一部残存している反応管を見つけることができています。
これに対して、長さ6mの反応管を用いた場合に上記照度が50ルクス未満であると(比較例1および2、比較例5および6)、本願明細書の[表1]および[表2]に記載のとおり、確認ミスが多く生じたり、視認自体が不可能となったりしています。具体的には、上記照度が40ルクスの比較例1の場合には、実際には触媒が充填されていない反応管の本数が58本有るところ、47本しか目視で確認できず、確認ミスが11本生じています。同じく、上記照度が40ルクスの比較例5の場合には、実際には触媒が一部残存している反応管の本数が46本有るところ、目視確認では14本多い60本とカウントしており、確認ミスが14本生じています。
このように長さ6mの反応管を用いた場合であっても照度が50ルクスである場合には、触媒が充填されていない反応管や、触媒の抜き取りが不完全な反応管の本数を、正確に確認できるのに対して、照度が40ルクスでは、正確な確認が困難です。
したがいまして、本願各発明において、長さ6mの反応管を用いた場合において、照度を50ルクス以上と規定していることには、臨界的な意義があります。
もちろん、照度は必要以上に明るくする必要はないものであり、200ルクス以下が現実的な範囲であり、その場合の効果についても実施例により、確認されているので上限は200ルクス以下としました。
以上のことから、本願の実施例において、長さが6mの反応管を用いて評価した結果に基づいて得られた50ルクス以上という照度の値は、固定床多管式反応器の分野においては、特別な意味を持っています。」

しかしながら、既述したように、固定床多管式反応器の反応管として、長さ6mの管を用いることは、例えば、刊行物A?Eに記載されているように、ごく一般的な事項であって、反応管の一方の端部に配置された照明に関して、その照度が低ければ、反応管内の状況の確認がしにくく、逆に、照度が高ければ、反応管内の状況を確認し易いことは、当業者にとって明らかである。
そして、50ルクス以上、200ルクス以下という照度の具体的な範囲に関していえば、照度が40ルクスでも、比較例1では、実際には触媒が充填されていない反応管の本数が58本有るとはいえ、47本は目視で確認できており、また、比較例5では、実際には触媒が一部残存している反応管の本数が46本有るとはいえ、確認ミスの14本を除けば残りの本数は確認できていることからすると、照度が高くなれば、それだけ確認がしやすくなるという相関的な関係があるといえるから、50ルクスの前後で、結果が劇的に変化するといった臨界的な意義があるものとは認められない。
さらに、長さが6mの反応管を用いていることと、照度の関係についてみても、反応管の長さが長くなれば、それだけ照明との距離が遠くなるから、照度を高くする必要があるであろうことは、当業者にしてみれば容易に予想がつくことであるといえる。
してみると、引用発明においても、触媒が充填されていない反応管や触媒の抜き取りが不完全な反応管の本数を確認する作業に支障のない照度を設定しようとすることは、当業者が通常行い得る、条件の最適化に過ぎないのであって、引用発明において、照度を50ルクス以上、200ルクス以下の範囲の値とすることは、当業者ならば試行錯誤を通じて適宜なし得る設計事項でもあるといえる。

(エ)小括

したがって、上記審判請求書における請求人の主張は採用できず、本件補正発明は、引用発明、技術常識、及び、周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反しているから、本件補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

(6)まとめ

以上のとおりであるから、補正事項1が限定的減縮を目的とするものであると解釈した場合でも、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成28年2月22日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、本件補正前の請求項1?3に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである(再掲)。

「【請求項3】
固定床多管式反応器を構成する複数本の反応管から、固体触媒を抜き取る方法であって、
前記反応管から固体触媒を抜き取る作業を行った後、
前記反応管の一方の端部側に配置された照明により、前記一方の端部の照度を50ルクス以上に維持しながら、他方の端部側から前記反応管内を視認し、前記反応管内の固体触媒の抜き取り状況を確認する、固体触媒の抜き取り方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要

これに対して、原査定の拒絶の理由である理由2は、要するに、
「請求項3に係る発明は、国際公開第2011/051102号に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2号の規定に違反し、特許を受けることができない。」
というものを含む。

3.引用刊行物

原査定の拒絶の理由2で引用された引用例(国際公開第2011/051102号)及びその記載事項は、前記第2の[理由]の3.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断

本願発明は、前記第2の[理由]3.で検討した本件補正発明において、「反応管の長さは6m」との特定事項を削除し、また、照明の照度の範囲「50ルクス以上、200ルクス以下」についての上限を削除し、単に「50ルクス以上」としたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「反応管の長さは6m」と限定し、その上、照明の照度の範囲「50ルクス以上、200ルクス以下」したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3.(5)に記載したとおり、引用発明、技術常識、及び、周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、技術常識、及び、周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができた発明といえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項1、2に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-28 
結審通知日 2017-01-04 
審決日 2017-01-17 
出願番号 特願2011-109818(P2011-109818)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
P 1 8・ 575- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 賢一  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 井上 能宏
豊永 茂弘
発明の名称 固体触媒の充填状況の確認方法および固体触媒の充填方法と抜き取り方法  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  

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