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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1325613
審判番号 不服2014-19197  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-26 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2012-550443号「超音波センサ用の減衰材、および、減衰材の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成23年8月4日国際公開、WO2011/092245、平成25年5月20日国内公表、特表2013-518163号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成23年1月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年1月29日ドイツ連邦共和国(DE)、同2010年4月9日ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成25年12月3日付けの拒絶理由の通知に対して平成26年5月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成27年12月24日付けの当審による拒絶理由(1回目)に対して平成28年3月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年4月11日付けの当審による拒絶理由(2回目)に対して同年6月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである

II.本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年6月28日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
-30℃から+150℃までの温度範囲において軟性および安定性を有する減衰材であって、
該減衰材は、エポキシ樹脂および充填物質を含み、
前記エポキシ樹脂は0℃より低いガラス転移温度を有し、
前記充填物質として粒子状のアルミニウム酸化物もしくはチタン酸化物が用いられ、
前記充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在しており、これにより、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じることを特徴とする減衰材。」

III.当審による拒絶理由(2回目)の概要
平成28年4月11日付けの当審による拒絶理由(2回目)は、「本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2000-115892号公報に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」旨を理由の一つにするものである。

IV.特開2000-115892号公報に記載の事項
当審による拒絶理由(2回目)において引用された特開2000-115892号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0014】次に、図3に示すように前記背面空間部6に超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂に超音波を乱反射させる粒子として例えばアルミナ粉末を混入した液体状態のバッキング材7を流し込む。そして、このバッキング材7を背面空間部6に貯溜させた状態で、粘性が低下する60℃から70℃の温度下に1時間から2時間放置する。すると、この放置されている間に、前記背面空間部6内に貯溜されたエポキシ樹脂に混入していた粉末の粒子が徐々に沈降していく。
【0015】そして、図4に示すように前記バッキング材7は、枠部材5の底部側から順に、粉末粒子が沈降して充填量の多い高密度層7a、粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7b、粉末粒子がほとんど存在しないエポキシ樹脂だけで形成された上澄みである樹脂層7cとを形成する。
【0016】ここで、図5に示すように吸引具を構成する吸引部先端8を前記バッキング材7が流し込まれている背面空間部6内に静かに配置し、前記バッキング材7の樹脂層7c、粒子密度変化層7bの順に静かに吸引していく。そして、さらに吸引して、図6に示すように前記切欠部5bよりやや高い位置に前記粒子密度変化層7bの上面が位置したところで、前記吸引部先端8を引き上げてバッキング材7の吸引を停止する。
【0017】次いで、図7に示すように枠部材5を切欠部5bから切断する。このことにより、枠部材5が所定の高さに形成される。そして、図8に示すように枠部材5の切欠部5bから上側が切断されたことによって、切欠部5bより高い位置に溜まっていた粒子密度変化層7bが枠部材5の外部に溢れ出て高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部とが背面空間部6内に残って超音波吸収層7dとなる。前記枠部材5を切断した際、溢れ出て枠部材5の外表面や整合層3の表面に付着したバッキング材7を、例えばアルコールを染み込ませた図示しない掃除具等で除去した後、背面空間部6に残ったバッキング材7を十分に硬化させるため、70℃から80℃の温度下に放置する。このことによって、所定の厚み寸法のバッキング層7eが得られる。」

V.引用例に記載の発明
(イ)上記「IV.」の(ア)における「超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂に超音波を乱反射させる粒子として例えばアルミナ粉末を混入した液体状態のバッキング材7を流し込む。そして、このバッキング材7を背面空間部6に貯溜させた状態で、粘性が低下する60℃から70℃の温度下に1時間から2時間放置する。すると、この放置されている間に、前記背面空間部6内に貯溜されたエポキシ樹脂に混入していた粉末の粒子が徐々に沈降していく」(【0014】)、同「バッキング材7は、枠部材5の底部側から順に、粉末粒子が沈降して充填量の多い高密度層7a、粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7b、粉末粒子がほとんど存在しないエポキシ樹脂だけで形成された上澄みである樹脂層7cとを形成する。」(【0015】)および同「粒子密度変化層7bが枠部材5の外部に溢れ出て高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部とが背面空間部6内に残って超音波吸収層7dとなる。」(【0017】)からして、引用例には、「アルミナ粉末粒子が底部に沈降して充填量の多い高密度層7aと、アルミナ粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを硬化させた『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』」および「『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』には、アルミナ粉末粒子が混入している」ことが記載されているということができる。
(ウ)上記「IV.」の(ア)における「アルミナ粉末を混入した液体状態のバッキング材7を流し込む。そして、このバッキング材7を背面空間部6に貯溜させた状態で、粘性が低下する60℃から70℃の温度下に1時間から2時間放置する。すると、この放置されている間に、前記背面空間部6内に貯溜されたエポキシ樹脂に混入していた粉末の粒子が徐々に沈降していく」(【0014】)および同「【0016】ここで、図5に示すように吸引具を構成する吸引部先端8を前記バッキング材7が流し込まれている背面空間部6内に静かに配置し、前記バッキング材7の樹脂層7c、粒子密度変化層7bの順に静かに吸引していく。そして、さらに吸引して、図6に示すように前記切欠部5bよりやや高い位置に前記粒子密度変化層7bの上面が位置したところで、前記吸引部先端8を引き上げてバッキング材7の吸引を停止する。
【0017】次いで、図7に示すように枠部材5を切欠部5bから切断する。このことにより、枠部材5が所定の高さに形成される。そして、図8に示すように枠部材5の切欠部5bから上側が切断されたことによって、切欠部5bより高い位置に溜まっていた粒子密度変化層7bが枠部材5の外部に溢れ出て高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部とが背面空間部6内に残って超音波吸収層7dとなる。前記枠部材5を切断した際、溢れ出て枠部材5の外表面や整合層3の表面に付着したバッキング材7を、例えばアルコールを染み込ませた図示しない掃除具等で除去した後、背面空間部6に残ったバッキング材7を十分に硬化させるため、70℃から80℃の温度下に放置する。このことによって、所定の厚み寸法のバッキング層7eが得られる。」からして、粘性が低下する60℃から70℃の温度下に1時間から2時間放置された、アルミナ粉末を混入させた液体状態のエポキシ樹脂(硬化前)は、吸引できる程度に粘性が低下したものであるとしても、幾らかでも形態を保持し得る粘ちょう体であるといえることからして、上記放置後のエポキシ樹脂(硬化前)吸引と枠部材5の切断により形成された高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを、70℃から80℃の温度下で硬化させたエポキシ樹脂を得る際、高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部が積層した状態で硬化させられるというべきであり、そして、硬化したエポキシ樹脂において、高密度層7aと粒子密度変化層7bの一部が積層した状態で存在する、ということは、硬化したエポキシ樹脂において、高密度層7aから粒子密度変化層7bにかけて所定の粒子密度勾配が生じる、といえるので、引用例には、「硬化したエポキシ樹脂において、所定の粒子密度勾配が生じる」ことが記載されているということができる。

上記「IV.」の記載事項(ア)および上記「V.」の検討事項(イ)(ウ)より、
引用例には、「アルミナ粉末粒子が底部に沈降して充填量の多い高密度層7aと、アルミナ粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを硬化させた『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』であって、『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』には、アルミナ粉末粒子が混入しており、硬化したエポキシ樹脂において、所定の粒子密度勾配が生じる、アルミナ粉末粒子が底部に沈降して充填量の多い高密度層7aと、アルミナ粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを硬化させた『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているということができる。

VI.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「アルミナ粉末粒子が底部に沈降して充填量の多い高密度層7aと、アルミナ粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを硬化させた『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』」は、本願発明の「減衰材」に相当し、そして、引用例記載の発明の「アルミナ粉末粒子」は、本願発明の「粒子状のアルミニウム酸化物」および「充填物質」に相当し、さらに、引用例記載の発明の「硬化したエポキシ樹脂」は、本願発明の「樹脂母材」に相当する。

○引用例記載の発明の「『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』には、アルミナ粉末粒子が混入しており」と、本願発明の「減衰材は、エポキシ樹脂および充填物質を含み、
エポキシ樹脂は0℃より低いガラス転移温度を有し、
充填物質として粒子状のアルミニウム酸化物もしくはチタン酸化物が用いられ」とは、「減衰材は、エポキシ樹脂および充填物質を含み、充填物質として粒子状のアルミニウム酸化物が用いられ」という点で一致している。

○引用例記載の発明の「硬化したエポキシ樹脂において、所定の粒子密度勾配が生じるアルミナ粉末粒子」と、本願発明の「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在しており、これにより、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる」とは、「充填物質は、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる」という点で一致している。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「減衰材であって、該減衰材は、エポキシ樹脂および充填物質を含み、前記充填物質として粒子状のアルミニウム酸化物が用いられ、充填物質は、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる、減衰材。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願発明では、「-30℃から+150℃までの温度範囲において軟性および安定性を有する」減衰材であるのに対して、引用例記載の発明では、「-30℃から+150℃までの温度範囲において軟性および安定性を有する」減衰材であるか明らかでない点。

<相違点2>
本願発明では、「エポキシ樹脂は0℃より低いガラス転移温度を有」するのに対して、引用例記載の発明では、「エポキシ樹脂は0℃より低いガラス転移温度を有」するか明らかでない点。

<相違点3>
本願発明では、「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在しており、これにより、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる」のに対して、引用例記載の発明では、「硬化したエポキシ樹脂において、所定の粒子密度勾配が生じる」点。

以下、各相違点について検討する。
<相違点1>について
(i)本願発明は、「軟性および安定性を有する減衰材」を発明特定事項にするものであり、この「軟性および安定性」について、本願明細書には、「【0040】
本発明によれば、機関内で支配的な温度のもとで温度耐性を有し、温度領域の全体にわたって必要な軟性および安定性(すなわち減衰能力)を示す減衰材が提供される。また、広い温度範囲において利用可能であり、約150℃の温度のもとで継続使用でき、同時に、低温できわめて良好な超音波減衰率を有する減衰材が提供される。」(上記下線は、当審において付与した。)との記載があることからして、上記「軟性および安定性」は、「必要な軟性および安定性(減衰能力)」を意味するものであるとみるのが妥当である。
(ii)一般的に、減衰材において、(必要な)柔軟性(軟性)が求められると共に、柔軟性(軟性)を有するエポキシ樹脂を樹脂母材として用いることは、本願出願時の周知技術(例えば、特開平4-138143号公報の特に2頁左下欄10?14行参照)(以下、「周知技術α」という。)であり、また、引用例記載の発明の「エポキシ樹脂(樹脂母材)およびアルミナ粉末粒子(充填物質)を含む(超音波)減衰材」と上記周知技術αとは、エポキシ樹脂を樹脂母材とする減衰材という点で軌を一にすることからして、引用例記載の発明の「エポキシ樹脂(樹脂母材)およびアルミナ粉末粒子(充填物質)を含む(超音波)減衰材」は、上記周知技術αと同じく、(必要な)柔軟性(軟性)が求められると共に、柔軟性(軟性)を有するエポキシ樹脂を樹脂母材として用いたものであるというべきである。
さらに、一般的に、軟性を有する樹脂(樹脂母材)と粉体(充填物質)を含む(超音波)減衰材において、超音波のエネルギが、軟性を有する樹脂(樹脂母材)の振動により生じる熱[軟性を有する樹脂(樹脂母材)と粉体(充填物質)との摩擦により生じる熱]に変換されることで、(必要な)減衰が達成される(減衰能力を有する)ことも、本願出願時の周知技術(例えば、特開昭62-118700号公報の、特に、1頁右下欄の[概要]の欄および2頁左下欄の[作用]の欄参照)(以下、「周知技術β」という。)であり、また、引用例記載の発明の「エポキシ樹脂(樹脂母材)およびアルミナ粉末粒子(充填物質)を含む(超音波)減衰材」と上記周知技術βとは、軟性を有する樹脂(樹脂母材)と充填物質を含む(超音波)減衰材という点で軌を一にすることからして、引用例記載の発明の「軟性を有するエポキシ樹脂(樹脂母材)およびアルミナ粉末粒子(充填物質)を含む(超音波)減衰材」は、上記周知技術βと同じく、エポキシ樹脂(樹脂母材)が必要な軟性を有することにより、超音波のエネルギが、軟性を有する樹脂(樹脂母材)の振動により生じる熱[軟性を有するエポキシ樹脂(樹脂母材)とアルミナ粉末粒子(充填物質)との摩擦により生じる熱]に変換されることで、(必要な)減衰が達成される(減衰能力を有する)ものであるというべきである。
(iii)一般的に、極低温から高温度(-50℃?150℃)の温度範囲において優れた制振性を有する[捩れ自由減衰型粘弾性測定装置を使用して得た力学的損失係数(tanδ)が優れた]「エポキシ樹脂を主成分とし、充填物質(例えばコロイダルシリカ)を含む樹脂組成物」を制振材(減衰材)とすること、つまり、極低温から高温度(-50℃?150℃)の温度範囲において必要な減衰能力を有する「エポキシ樹脂(樹脂母材)と充填物質を含む減衰材」を用いることも、本願出願時の周知技術(例えば、特開平3-294329号公報の1頁左下欄3?14行(特許請求の範囲の記載)、同右下欄8?15行、同6頁右上欄3?5行、同左下欄の第1表、同右下欄1行?同7頁左上欄の(丸和バイオケミカル(株)製との記載まで、同7頁左下欄5?8行、同右下欄第1図および同8頁上欄第2図参照)(以下、「周知技術γ」という。)であり、また、上記「減衰材」は、上記(ii)で示した周知技術βからして、必要な軟性も有するものであるというべきである。
(iv)上記(ii)からして、引用例記載の発明の減衰材は、「必要な軟性および安定性(減衰能力)を有する」「エポキシ樹脂(樹脂母材)およびアルミナ粉末粒子(充填物質)を含む減衰材」であるということができる。
ここで、引用例記載の発明の減衰材について、使用時の温度を、例えば上記(iii)で示した-50℃?150℃の範囲内の-30℃?150℃としたとき、この温度範囲において、必要な軟性および安定性(減衰能力)を有せしめる「エポキシ樹脂(樹脂母材)と充填物質を含む減衰材」(例えば、上記(iii)で示した減衰材)を選択する、つまり、この温度範囲において、軟性が安定的に維持されるエポキシ樹脂(安定的に維持される軟性と、この軟性に基く減衰能力を有するエポキシ樹脂)を選択することは、当業者であれば普通に想起し得ることである。
(v)上記(i)ないし(iv)より、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、引用例記載の発明および周知技術αないしγに基いて当業者であれば容易に想到できることである。

<相違点2>について
一般に、軟性が呈される樹脂について、ガラス転移温度より低い温度においてはガラス状態(軟性が呈されていない状態)であり、同温度より高い温度においてはゴム状態(軟性が呈されている状態)であることは、先行技術文献を示すまでもなく、本願出願時の周知技術(以下、「周知技術δ」という。)であることからして、上記「<相違点1>について」で示したように、引用例記載の発明の減衰材について、-30℃?150℃の温度範囲において軟性が安定的に維持されるエポキシ樹脂(樹脂母材)を選択する際、このエポキシ樹脂(樹脂母材)のガラス転移温度は、-30℃において該エポキシ樹脂(樹脂母材)に軟性が呈される必要があることからして、-30℃よりも低い温度であるというべきである。
したがって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を構成することは、引用例記載の発明および周知技術αないしδに基いて当業者であれば容易に想到できることである。

<相違点3>について
一般に、μmレベルの粒度を有する粒子(μmレベルの粒径分布を有する粒子)が充填された減衰材は、従前の技術常識(例えば、特開平2-21850号公報の特に第1表、第3表ないし第5表、特開平8-105870号公報の特に【図2】参照)であることからして、引用例記載の発明の「アルミナ粉末粒子が底部に沈降して充填量の多い高密度層7aと、アルミナ粉末粒子の密度が底部から離れるにしたがって減少する粒子密度変化層7bの一部とからなる超音波吸収層7dを硬化させた『超音波減衰効果の高いエポキシ樹脂』」(超音波減衰材)についても、μmレベルの粒径分布を有する粒子(充填物質)が充填された減衰材であるとみるのが妥当である。
まず、本願発明の「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在」することについて検討する。
なお、上記「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在」することについて、平成28年6月28日付けで提出された意見書の「4.拒絶理由に対する意見」の「(理由1)」には、「請求項1において、充填物質が、超音波の1波長(一般に、16.5mm以下)のオーダーの粒径分布で存在していることを明らかにしました。」とあり、また、上記意見書における「充填物質が、超音波の1波長(一般に、16.5mm以下)のオーダーの粒径分布で存在している」ことの意味は、「粒径(粒径分布)は超音波の1波長(一般に、16.5mm以下)のオーダーである」旨の回答(平成28年8月1日に作成の応対記録参照)が請求人よりなされたことからして、上記「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在」することは、「粒径(粒径分布)は超音波の1波長(一般に、16.5mm以下)のオーダーである」ことを意味するものとして、以下の検討を行う。
ここで、本願発明の「超音波の1波長のオーダーの粒径分布」における粒径の最大値が16.5mmであるとき、粒径の最大値がmmレベルであるとしても、この粒子は、本願明細書の【0032】【表1】に記載された「Al_(2)O_(3) F320(392μm)」、「Al_(2)O_(3) F332(80μm)」および「Al_(2)O_(3) F316(2.6μm)」の内の「Al_(2)O_(3) F320(392μm)」からみて、長さで10倍(体積では10^(3)倍)という大きな粒子であり、これ程の違いがある大きな粒子が「Al_(2)O_(3) F320(392μm)」と併存することは、非現実的である、つまり、本願発明の充填物質(粒子状のアルミニウム酸化物)の粒径分布は、粒径の最大値のmmレベルが大きいという点で非現実的である以上、実際上はこれより小さいμmレベルであるとみるのが妥当である。
そうすると、本願発明の「充填物質は、超音波の1波長のオーダーの粒径分布で存在」することは、「充填物質は、μmレベルの粒径分布で存在」することに当たるというべきであり、これと、引用例記載の発明の「充填物質は、μmレベルの粒径分布を有」することの間に差異はない。
次に、「これ(充填物質がμmレベルの粒径分布で存在すること)により、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる」ことについて検討する。
引用例記載の発明は、上記で示したように、充填物質がμmレベルの粒径分布を有し(粒径分布で存在し)、また、上記「V.」の(ウ)で示したように、硬化したエポキシ樹脂において、所定の粒子密度勾配が生じるアルミナ粉末粒子、つまり、充填物質は、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じるものであり、両方の点で、本願発明と一致していることからして、「これ(充填物質がμmレベルの粒径分布で存在すること)により、樹脂母材における所定の粒子密度勾配が生じる」という点においても、本願発明と引用例記載の発明の間に差異はないとみるのが妥当である。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

そして、本願発明の「-30℃から+150℃までの温度範囲で超音波センサの減衰を達成する」(本願明細書の【0009】)との作用効果は、上記各相違点の検討からして、引用例記載の発明および周知技術αないしδに基いて当業者であれば十分に予測し得るものである。
よって、本願発明は、引用例記載の発明および周知技術αないしδに基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.むすび
上記のとおり、本願発明は、引用例記載の発明および本願出願時の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-30 
結審通知日 2016-10-03 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2012-550443(P2012-550443)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
発明の名称 超音波センサ用の減衰材、および、減衰材の使用  
代理人 久野 琢也  
代理人 星 公弘  
代理人 大谷 令子  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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